マンスリーレポート
2013年4月号 薬局との賢い付き合い方(前編)
私は以前から、セルフメディケーションをもっと促進すべき、という考えであり、このサイトのコラムでも何度か意見を述べています。この理由として、我々医療者からみたときには「医師不足の対策になる」というものがありますが、もちろん医療者の勝手な都合からセルフメディケーションをすすめたいわけではありません。
セルフメディケーションは、患者さんからみても多くの利点があります。まず、医療機関を受診し待合室で長時間待たされる、という苦痛から解放されます。次に、自分の健康や医学に興味を持つことにより日頃から体調管理に気をつけるようになります。上手くいけば、それが禁煙につながり、バランスのとれた食事、適度な運動などを促すことになるでしょう。そして、他人に頼らず自立した状態で長生きできるようになります。盲目的に医師の言うことに従っている状態では本当の健康を維持できない、と私は思っています。
そもそも現在のような医師不足の社会では、医師は患者さんと充分なコミュニケーションをとる時間が確保できません。どうしても説明や助言は必要最低限のものとなってしまいます。看護師や栄養士の指導や助言は有用ですが、やはり時間が無限にあるわけではありませんし、そもそも医療者と話をするためには医療機関まで足を運ばなければなりません。
セルフメディケーションを効率よく実践するには「薬局の利用」が有用なはず、です。有用な「はず」としたのには理由があります。私が提案したいのは、自分にあった薬局と薬剤師をみつけてセルフメディケーションを促進しましょう、ということですが、その前に、これを読んだ薬剤師の方々に非難されることを承知した上で、現在の薬局の悪口を言いたいと思います。
先日、ある患者さん(Aさんとします)から驚く話を聞きました。Aさんは頭痛があり太融寺町谷口医院にかかっているのですが、あるとき関東地方のある県に出張に行く時に、私が処方した常備薬のロキソニン(正確に言えばその後発品)を忘れたそうです。ロキソニンは薬局で買えるもの(ロキソニンS)もあることを知っていたAさんは、駅前の薬局に入り「ロキソニンSをください」と言ったそうです。すると、その薬局の店員(薬剤師だと思います)は、「飲んだことはありますか」と聞き、Aさんが「はい」と答えると、それ以上何も聞かれずに買えてしまったそうなのです。
あまりにもすぐに買えたことにAさんは驚いたそうですが、私も驚きました。ロキソニンが危険な薬、とまでは言いませんが、副作用が少ないとは言えません。ロキソニンの副作用では胃痛が有名ですが、これだけではありません。稀ではありますが、重症化する薬疹を起こすこともありますし、長期使用で心臓や腎臓に影響を及ぼすこともあります。私が日々の診療で最も注意しているのはロキソニンによる「薬物乱用頭痛」です。別名「ロキソニン中毒」とも呼ばれるもので、ロキソニンを大量に使用したために、ロキソニンがなければほんの少しの痛みにも耐えられなくなり、ますますロキソニンに依存するようになっていく頭痛のことをいいます。
通常医療機関では、ロキソニンを含めて鎮痛剤の処方には慎重になります。薬局でも初めての患者さんにロキソニンSを販売するときは、「現在他に飲んでいる薬はないか」「ロキソニンはどのような症状に対して必要なのか」「今その症状はどの程度のものなのか」「どれくらいの頻度で飲んでいるのか」などは尋ねなければならないはずです。
こういったことはどこかで問題提起しなければいけない、と感じていたところ、偶然にも2013年4月4日の日経新聞の一面に「薬ネット販売、抵抗は誰のため」というタイトルで、この問題が取り上げられていました。
この記事を書いた記者は、実際にロキソニンSを買おうとして東京都千代田の神保町駅付近のドラッグストアを訪ねて薬剤師に話したそうです。以下、記事を引用します。
薬剤師「初めてですか」
記者「そうですが、代わりに買いに来ました」
薬剤師「では、この注意書きをお渡しください」
記者「これでいいの」。あっけなさに拍子抜けした。
本人でなくてもこんなに簡単に買えてしまったというのです。注意書きを渡すだけなら薬剤師は要りません。その注意書きをロキソニンSの箱に書いておけば事足りるからです。
2009年、厚生労働省は、薬局で販売されている薬の第1類とそれに準じた第2類をインターネットで販売することを禁じました。この禁止令は違法であるとしてドラッグストアなどが訴訟を起こし、2013年1月、最高裁で、厚労省の禁止令は違法との判決がでました。これを受けてドラッグストアは販売を再開しているようです。
厚労省のなかでは、インターネットでの販売に反対する声が依然根強く残っているそうですが、上に紹介した2つの例のように薬局でこれほど簡単に買えてしまうなら、そもそも薬剤師など必要ありませんし、インターネットでの購入と差はありません。インターネットでの販売に反対する関係者らは、薬局では薬剤師が丁寧に説明していると信じているのでしょう。
ここで私の意見を述べておくと、「ロキソニンは薬局で売るのも禁止、インターネットでも禁止すべき」、というものではありません。忙しくて医療機関を受診できない人もいれば、身体にハンディキャップがあり薬局にさえも一人では行けない、という人もいるわけです。そういった人たちには、薬局での購入やインターネットの利用は大変ありがたいものになります。
しかしながら、あまりにも気軽にこのような薬が買えるということには問題があります。今の状態が放置されるとすると、「ロキソニン中毒」となる人が後を絶たなくなるかもしれません。また、過去に一度も飲んだことのない人が、自分の判断でロキソニンを内服するのは危険です。やはり一度は医師の診察を受けるべきです。
ではどうすればいいか。まず、ロキソニンを一度も飲んだことのない人が薬局やインターネットで購入するのは避けるべきです。ロキソニンを処方されたことのある患者さんは、かかりつけ医に、今後薬局でロキソニンSを購入することが可能かどうか確認し、医師が許可すればそれ以降は薬局での購入が可能、とすればいいのです。薬局で、過去に医療機関で処方されたことがあるかを証明すべき、というのであれば、医療機関で発行している「薬剤情報提供書」や「処方せん」のコピーを薬局で提示すれば解決します。そして、その薬局を「かかりつけ薬局」とするのです。
インターネットについては、その「かかりつけ薬局」のホームページからのみ購入できる、とすればいいと思います。こうすれば、複数のインターネットショップからロキソニンを大量に購入することが防げます。もちろん、この程度の対策であれば、例えば、他の薬局は利用していない、と嘘を言って、複数の「かかりつけ薬局」をつくれば、ある程度多量のロキソニンを手に入れることはできます。しかし、完全に自由にインターネットで購入できる状態とは大きく異なります。
というわけで、私は今後「かかりつけ薬局」という概念が普及していくべきだと考えているのですが、先に2つの例でみたような薬剤師しかいないのであれば、この考えを取り下げなければなりません。
実際のところはどうなのでしょう。2つの例のように患者さんを大切にしているとはとても思えないような薬局や薬剤師ばかりなのでしょうか。あるいは、この2つの例が例外であり、大半の薬局には患者さんが頼りにできる薬剤師がいるのでしょうか。
次回はそのあたりを考えてみたいと思います。
参考:
はやりの病気第96回(2011年8月)「放っておいてはいけない頭痛」
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」
マンスリーレポート2012年4月号「セルフ・メディケーションのすすめ~花粉症編~」
マンスリーレポート2012年5月号「セルフ・メディケーションのすすめ~薬を減らす~」
メディカルエッセイ第120回(2013年1月)「セルフ・メディケーションのすすめ~抗ヒスタミン薬~」
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