マンスリーレポート
2026年3月8日 日曜日
2026年3月 不幸せなお金の使い方
前回に引き続き今回も「幸せ」を取り上げましょう。本サイトでは度々「幸せ」を取り上げていて、このテーマでコラムを書くと、それなりに感想メールが増えます。これまで述べてきたことを簡単にまとめてみたいと思います。
・2017年のコラム「なぜ『幸せ』はこんなにも分かりにくいのか」で取り上げた「タイの農夫と日本のビジネスマン」の逸話が幸せの本質をついている
・しかし、2023年のコラム「『幸せはお金で買える』という衝撃の結末」で紹介したように、「幸せはお金で買える」という説が現在世界の通説となっている
・2023年のコラム「幸せになりたければ自尊心を捨てればよい」で紹介したように「幸せ度は年齢でかわる。世界では「最も不幸せな年齢は48.3歳でそれ以降は幸せに向かっていく」とされているが、「日本人は例外的に年をとればとるほど不幸になる」ことを内閣府が発表している
・2024年のコラム「自分が幸せかどうか気にすれば不幸になる」で述べたように、自身が幸せかどうかを気にし過ぎると幸せになれない
今回は再び「お金」を取り上げたいと思います。上述したコラムで述べたように、この話には「歴史」があります。その歴史を振り返っておきましょう。
・ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは科学誌2010年の「PNAS」に論文「高収入で人生の評価が改善しても感情的な幸福は改善しない(High income improves evaluation of life but not emotional well-being)」を発表。年収が75,000ドルを超えると、それ以上収入が増えても「感情的な幸福」が変わらないとした
・2021年、マシュー・キリングスワースが「PNAS」に論文「年収75,000ドルを超えたとしても幸せは収入に連れて上昇する (Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year)」を発表し、カーネマンの主張を否定し、幸せの年収の”上限”はないとした
・2023年、カーネマンとキリングワースの”対決”に決着がついた。二人が共同で「PNAS」に論文「収入と精神的幸福: 対立が解決(Income and emotional well-being: A conflict resolved)」を発表。カーネマンは自身の「75,000ドル説」を取り下げ、幸せを感じる年収に上限がないことを認めた
私自身は彼らの主張を正しいとは思えず、実際、金銭を目的に行動を決めたことは(少なくとも医師になってからは)一度もなく、これからもカネを求めた行為をとるとは思えません。過去のコラム「故・ムカヒ元大統領の名言から考える『人は何のために生きるのか』」で述べたように、「カネで買えないものを追求する」が私のポリシーです。そのときにも言及したように、私には「カネを求める人生はものすごく格好悪い」と感じられるのです。
しかしながら、カネがまったくなければ生きていけませんし、「幸せになるお金の使い方」があることも知っています。
例えば、お世話になった人にプレゼントを贈るためには少しくらいのお金は必要です。気の置けない仲間と食事を楽しんだり、一緒に旅行に行ったりするときにもお金が要ります。私が宿に求めるのはホットシャワーと窓くらいなのですが、旅行を共にするメンバーによっては私だけがそのようなところに泊まることを快く思いませんから、そういうときにはお金を使います。私は(正直に言うと)高級料理よりもジャンクフードが好きなのですが、例えば初めて共に食事をする人にそのようなところに行こうとは言えません。よって、家族や友人、知人と楽しく過ごすにはそれなりのお金が必要なのは間違いありません。
では、その逆に「無駄なお金の使い方」とはどのようなものでしょうか。ギャンブルと答える人がいるかもしれませんが、私はそうは思いません。私自身はギャンブルをしませんが、ギャンブルに大金をつぎ込んで非日常の感動を覚えるという使い方は、私自身は否定しません。いつかどこかで述べたような気がしますが、ホストに大金をつぎ込むとか、ブランド物の服を借金して買いまくる、といった行動も人間らしくて素敵だと思います。
しかしながら、例えば「他人に自慢したいから高級品を買う」とか「同僚が3000万円の家を買ったから自分はなんとしても3500万円の家を手に入れる」とか、あるいは「出世したいから教授にお金を包む」とか、もっと極端な例を出せば「違法な賄賂」などはすごくバカらしいものに感じられます。
こういう私の考え、というか感性に対し、「バカじゃないの? お金をどのように使おうが人の勝手でしょ。なんであんたにごちゃごちゃ言われなきゃならないの?」と感じる人もいるでしょう。たしかに、自分のお金をどのように使おうが、その人の勝手です(他人を陥れるような行為でなければ)。しかし「幸せになるお金の使い方」となれば、それが余計なお世話だとは分かっていても、ちょっと口出ししてみたくなるのです。そして、私が考えることと同じことを考える学者がいるようで、興味深い論文があります。
2014年に科学誌「Journal of Personality and Social Psychology」に掲載された「物質主義と個人の幸福感の関係:メタ分析(The Relationship Between Materialism and Personal Well-Being: A Meta-Analysis)」です。
この論文は小規模なものでなく、これまでに発表された259の研究を総合的に分析(メタ解析)したもので、それなりにエビデンスレベルは高いと言えます。この研究結果は「物質至上主義(Materialism)の人は、人生の満足度が低く、また自己評価も低く、身体及び精神の健康状態も良くない」ことを示しています。さらに、物質至上主義は抑うつ感や不安感をもたらすとも結論づけています。
興味深いことに、この論文では、どのようなお金の使い方が「主観的な幸せ(subjective well-being=SWB)を妨げるか」、つまり「不幸せなお金の使い方」を4つに分類しています。その4つは次の通りです。
#1 to overcome self-doubt(=自己不信の克服):自己不信を克服するためのカネ(例:自分にやましいところがあるから、高級な衣服をまとってごまかす)
#2 to seek power over others(=権力の追求):他者よりも上の立場に立つためのカネ(例:同僚よりも高級車を買ってマウントをとろうとする)
#3 to engage in social comparison(=他人との比較):他者よりもよく見られるためのカネ(例:同級生の〇〇さんよりもきれいに見られたいからという理由で美容外科手術を受ける)
#4 to show off(=誇示):目立つためのカネ(例:別に興味があるわけではないのに、高級レストレンに行って写真を撮りSNSで公開する)
「例」は私が考えたものです。このように「不幸せなお金の使い方」が4つに分けられていますが、これらは結局「根」は同じようなものだと思います。
ではこれら4つの視点からみた私が考える「幸せなお金の使い方」を紹介しましょう。
#1 大切なパートナーと晴れの場に参加するために二人で高級な衣服を買う
#2 他人に理解されることを求めない趣味にお金を使う
#3 コンプレックスだった顔面のほくろを除去するために美容外科の施術を受ける
#4 大切なひととちょっと贅沢な食事や旅行にお金を使う。写真は撮るがSNSには上げない
「自分のカネをどのように使おうが他人からごちゃごちゃ言われる筋合いはない」、はまったくその通りではありますが、お金はあればあるほど幸せと考えている人は、一度上記4つの「不幸せなお金の使い方」をしていないかどうかを省みてもいいのではないでしょうか。
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