マンスリーレポート
2019年7月8日 月曜日
2019年7月 医師にメール相談をしよう
過去にも述べたように、13年前に太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)をオープンさせるとき、「ウェブサイトはつくらない方がいいよ」と助言してくれた医師が何人かいました。その理由は「ネットで医療機関を探す患者は、ドクターショッピングを繰り返していることが多く診察に時間がかかるから」というものでした。そして、私の答えは「だからこそつくるんです!」でした。これまで医療機関でイヤな思いをしたという人にこそ受診してもらいたいと考えていたのです。
大学(大阪市立大学)の総合診療科の医師たちはこの私の考えに賛成してくれて、私のやろうとしている総合診療をウェブサイトで社会に知ってもらうべきだ、と励ましてくれました。ですが、「メール相談を無料でおこなう」という私の意見に賛成してくれた医師は(ほぼ)ゼロでした。そして、今も私は「メール無料相談を始めようよ」と他の医師に促すのですが、同意してくれる医師は少数です。つい最近開業した大学の総合診療科の若い先生もウェブサイトはつくっていますが、そのサイトからメール相談はできません。
メール無料相談は患者側だけでなく医師側からみてもとても有用なものであることを私は確信しています。ですから、残りの医師としての人生をかけてでも、私と同じようなメール無料相談をする医師を増やしていきたいと考えています。
今回はメール相談にはどのようなものが多いかについて紹介していきたいと思います。しかしその前に、このようなメール無料相談をしている医師は私だけではないということを紹介しておきたいと思います。
過去のコラムで報告したように、私は自身が患者として2014年に脊椎の手術を受けました。その病院を受診する前、私はその病院のウェブサイトから医師に直接メールを書きました。驚いたのは同日に返事をいただいたことです。そして、その返事が励みとなり疾患に向き合う気持ちになり、その医師に手術をしていただきました。その後、私は医師として、自分が診ている患者さんが重度の脊椎疾患があればその医師に相談させてもらっていますが、翌日には返信メールが届きます。かなり多忙な医師なのにもかかわらず、です。
もうひとつ、私の身内の話をします。あるがんの末期で、大学病院で「手術不能で余命数ヶ月」と言われたのですが、ある病院の医師にその病院のウェブサイトからメールをしたところ同日に返答がとどき、とんとん拍子に話が進み、手術を受けられることになりました。それから数年が経ちますが、今も元気で再発がありません。この話はまさに”奇跡”で、もちろんその医師の技術が極めて高度だったからでありますが、メールがきっかけで手術が受けられるようになったのは事実です。
このようにメール相談を受け付けているのは決して私だけではないのですが「メール無料相談などやるべきでない」と考えている医師の方がずっと多いのが実情です。その理由として、「メールだと不正確な情報しか分からないからきちんとしたことが言えない」「誤ったことを伝えて後で訴えられたらどうするのだ」「長文メールが何通も届くと対応できない」などとよく言われて、それはそれで正しくはあるのですが、私からすれば「どこに行っていいか分からず苦しんでいる人はどうするんだ!」となるわけです。今、紹介した二人の医師は(私とは異なり)全国的に有名で多忙な医師です。その医師たちが患者からのメール相談を受けて、実際救われている患者(私も含めて)がいるのですから、他の医師にもやってもらいたいと私は言い続けているのです。
過去12年半の間に谷口医院に寄せられたメール相談は約9千です。メールが1通もこない日はほとんどなくて、多い日は10通近くが届くこともあります。そのひとつひとつに回答しているわけですから平均すると毎日1時間程度はメールの返信に費やしていることになります。メールを分類してみましょう。
〇当院を受診したことのある患者さん
「予想より早くよくなったから薬を中止してもいいか」「薬疹が出たかもしれない」「いったんよくなったけど再発したみたい」といった内容が多く、皮膚疾患の場合は写真を添付されることもあります。診察中は私は電話に出られませんし、夜間も(現在は)電話に出ませんから、このようなメールでの質問は非常に効果的です。患者さんは受診しなくてすみますし、私からみても受診不要な患者さんの見極めができれば、その分の時間を他の患者さんにあてることができるからです。
家族のことで相談される人も少なくありません。その家族は未受診であっても、メールをされている患者さんのことは分かっていますから(顔を思い浮かべて返信できますから)、ある程度詳しいことまで伝えることができます。受診してもらうこともありますが、「受診する必要はありません。悪化すればまた教えてください」で済ませられることも多々あります。
このように再診の方であれば、本人のことはもちろん、家族でも、あるいは友達のことでもメール相談はたいていスムーズにうまくいきます。
〇当院未受診の患者さん(どこも受診していない場合)
「健診で異常が出たが受診すべきか」「1か月前から〇〇の症状がある」「(私がメディアに書いた記事などを読んで)△△という病気が怖くなった」など、質問の種類は多岐に渡ります。顔を見たことのない人からの相談の場合、その人のキャラクターが分かりませんから、あまりつっこんだことまでは言えず、どうしても一般的なことのみの説明に限定されてしまいます。これでは答えになってないな、という場合も多いのですが、意外なことに「ようやく受診する決心がつきました。ありがとうございます」といったお礼のメールをいただくこともしばしばあります。このタイプのメールは遠方からも届きます。
〇当院未受診の患者さん(他院でイヤな思いをした場合)
長文メールが多いと言えます。医師やその病院の悪口を延々と書いてあるものもあります。ですが、たいていの場合よく読むと、その医師の人格を否定しているのではなく、「きちんと診てもらえなくて不安が強い」というのが本音であることが分かります。こういうケースでは、そのように思われたのも無理はないということを伝え、そして同時に「医療不信にならないで」ということを訴えます。その後も何度もメールが届くことが多いのですが、根気よく対応していると(途中で無視することはありません)、たいていは最終的には受診できる医療機関が見つかったとの連絡が来ます。このタイプは過半数が他府県(文字通り北海道から沖縄まで)です。
〇その他メール
私は受験や勉強の本を出版していることもあり「医学部受験や看護学校の受験を考えている」「資格を取ろうと思っている」というメールがときどき来ます。私が書いたり取材を受けたりしたメディアの記事を読んで感想を送ってくれる人もいます。また、「医師の彼氏に二股をかけられていた。復讐したい」とか「主治医に恋してしまった」というような相談(?)もときどきあります(なんで私に相談されるのか不明ですが…)。
過去のコラム(マンスリーレポート2019年5月「教科書を読めない人」はそんなに多いのか)で述べたように、2019年1月31日で谷口医院のスマホサイトを閉鎖したところ、メール相談が一気に減りました。そのコラムで述べたように、PCでなくスマホしか見ない人にも再びメールを活用してもらおうと考え結局スマホサイトを復活させることになりました。ウェブサイト作成会社からは「いったん閉鎖すると再びアクセス数が増えるまでに時間がかかる」と聞いていますが、メール相談の数は少しずつ再び増加してきています。
以前にも述べたように、当院未受診でメール相談をされる人が実際に谷口医院を受診するのは5%未満ですから、医療機関を運営(経営)の観点からみると「費用対効果が悪すぎる」と指摘されるのですが、そもそも医療機関は営利団体ではありませんし、メールだけで済ませることができれば他の患者さんに時間を取れますから双方にとって有益なわけです。「メール相談は医師のノブレス・オブリージュ」というのが私の考えです。
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