マンスリーレポート
2020年4月6日 月曜日
2020年4月 新型コロナ騒動で偶然発見できた長年探していた名言
前回のマンスリーレポートで、新型コロナが流行しだしてから他人を罵ったり蹴落としたりする行為が目立つが、人間とはそもそもそういうものであり、人生は辛いことの方がずっと多く他人から優しさを期待すべきでない。そして、だからこそあなたが「優しさ」を作り続ければいいのだ、という話をしました。
私がこのような考えに到達するようになったのは、知人が、タイや日本で診てきた患者さんが、そして私自身が幾たびの裏切り行為を経験しているからではありますが、こういった考えが「真実」であることを確信している理由は他にもあります。それは2004年にタイで聞いた「名言」です。その名言は私の心の中にずっと残っていて、私自身を長年”支配”しているといってもいいかもしれません。
ですが、不思議なことに、それだけ説得力のある名言をきちんと文字で確認しようと書籍やインターネットを探してみてもどこにも見つからないのです。2004年当時のメモも残していないため長年の間うろ覚えのままの状態です。
その言葉を初めて聞いたのはタイのあるエイズ施設で複数の外国人と昼食を摂っているときでした。スウェーデン人の女性がメモを取り出し「とても感動する言葉」と話し始めました。その名言はマザー・テレサのもので、「人間は合理的でなく自分勝手なもの。だからこそ人に優しくしなさい」といったような内容でした。ちなみにこの女性、専業主婦で10代の娘と息子がいるという立場ながら半年の予定でタイのエイズ施設にボランティアに来ており、その二人の子供たちが休暇を利用して母親にタイまで会いに来ていました。
その約2週間後、今度はタイにボランティアに来ていた日本人の女性から同じ話を聞いてその偶然に驚きました。後から思えばこの女性にこの言葉を詳しく教えてもらえばよかったのですが、それほどの名言ならマザー・テレサ関連の書籍に当たればすぐに見つかるだろうと考えました。短期間に何の接点もないスウェーデン人と日本人から同じ名言を聞いたわけですから、すぐに見つかるだろうと考えたのは無理もないでしょう。
ところが、です。この言葉がどこを探しても見つからないのです。そのスウェーデン人にも日本人女性にも連絡先を聞いていません。その後は誰からもこの言葉の話を聞くことはなく、本当にその言葉がマザー・テレサのものかどうかも疑わしいと思うようになり月日が過ぎていきました。なにしろマザー・テレサ関連の書籍を日本語、英語の双方であたってみても出てこないのですから。
およそ16年後の2020年3月、この名言を少し思い出しながら先月のマンスリーレポートを書きました。人間は優しくなくて人生は辛いことばかり、だからこそあなたが優しくならねばならない……。私が長年言い続けていることです。
そして、”奇跡”が起こりました。私が探していたまさにこの名言をミュージシャンの宮沢和史氏が3月29日に公開された自身のコラムで紹介されていたのです。これには本当に驚きました。16年間探し続けていたその名言を少しずつ思い出しながらコラムを書きあげたところ、1カ月もたたないタイミングでその「完成版」に巡り合えたのですから。
宮沢氏によると、この名言のタイトルは「あなたの中の最良のものを」といい、かなり有名なものだそうです。ということは私の探し方が下手だったということなのでしょう。しかし、探しても見つからなかった理由があったのです。この言葉はマザー・テレサ関連の書籍にはなく、氏によると「人から人に口頭や手紙、インターネットなどを介してつたわり、ゆっくりと、じんわりと世界中に広まっていった」名言なのだそうです。ここでその冒頭の言葉を紹介しましょう(注1)。私が16年間うろ覚えながらずっと胸に秘めていた言葉です。
人は不合理、非論理、利己的です
気にすることなく 人を愛しなさい
あなたが善を行なうと 利己的な目的でそれをしたと言われるでしょう
気にすることなく 善を行いなさい
目的を達しようとするとき 邪魔立てする人に出会うでしょう
気にすることなく やり遂げなさい
改めて読んでみるとひとつひとつの言葉が胸に染み入るような感覚を覚えます。この6行だけで心が救われるような気がします。過去のコラム(例えばメディカルエッセイ第14回(2005年8月)「習慣としての奉仕」)で何度か述べたように、ボランティアの話になると「それは自己満足でないのか」と言い出す人が必ずいます。ですが、マザー・テレサが言うように「気にすることなく」行動すればそれでいいのです。
この言葉の後半には「助けた相手から恩知らずの仕打ちを受けるでしょう。気にすることなく、助け続けなさい」という一節が出てきます。これは、前回のコラムで私が述べた「自分が裏切られるのはかまいませんが、裏切ってはいけないのです」とほとんど同じことです。16年前にタイで聞いた言葉が私の身体に染みわたっているのかもしれません。
宮沢氏がこの言葉を自身のコラムで紹介されたのは、新型コロナが原因であらわになった人間の醜い姿を嘆いてのことです。氏の言葉を引用します。
************
マスクやトイレットペーパーを必要以上に買い占めている「世の中のものを自分にしか与え続けていない」人間を見ると、この上ない失望感に苛まれる。しかし、いざとなれば人間とはそういうものだ、ということをも、新型コロナウイルスの蔓延によって世界中の人々は同時に学んだわけだ。
************
これは私が前回のコラムで言いたかったこととほぼ同じです。そのコラムで私は「それよりも(差別を嘆くよりも)、これが人間の実態であることを認識し、その上で”幸せ”を探す方が現実的です」と述べました。
太融寺町谷口医院には、新型コロナを疑って問い合わせをしてきたり受診したりする人が少なくありません。できるだけ電話もしくはメールで症状を確認し、受診してもらうときは午前診もしくは午後診の最後の時間に来てもらっています。受診してもらわずに電話とメールのみのやり取りをして、検査を希望されれば谷口医院から相談センター(保健所)に交渉して検査を受け入れてもらうこともあります。
患者さんのなかには検査を拒否する人もいます。2週間隔離され強制入院になることを避けたいというのです。軽症で一人暮らしの場合はそれでもOKです。そういう場合は谷口医院から毎日電話で様子を伺って助言をしています。新型コロナにかかったかもしれないということは気軽に他人に話せるものではありません。差別の対象となる可能性があるからです。ですから、感染を疑い自宅待機というのはともすれば一日中誰とも話さず、外出もできず、という事態となります。強制入院も辛いですが、その場合は日に何度も医療者と話をすることになりますし三度の食事は出てきます。一方、自宅療養の場合は完全な孤独と戦わねばなりませんし食事の調達も自分でしなくてはなりません。
もし身近に新型コロナに感染した人が出たら、まず声をかけることが大切です。現時点では診断がつけば直ちに強制入院ですから、できることは励ましのメールを送るくらいしかないかもしれませんが、これからは「重症でなければ自宅で安静」という方針に転換されます。患者数増加に伴い、新型コロナ陽性者用のベッド(病床)がもうすぐ底をつくからです。
そういう知人がいたとすればあなたの出番です。電話やメールで様子を伺い、食品や日用品を届けてあげることを考えてみてはどうでしょうか。直接会うのは避けた方がいいですから、荷物を持って行っても玄関に置いてすぐに帰らなければなりませんが、その知人もあなた自身も本来の人間のあるべき姿を実感できるはずです。「不合理、非論理、利己的」な人間が多い世界の中で、あなたとあなたの知人は”真実”に触れることができるのです。
************
注1:ネット上に出回っていたこの言葉の日本語版と英語版を下記に転記します。いくつものサイトがみつかりましたが、ほぼすべてが個人のブログでした。つまり、やはり現在でも出版はされていないようです。尚、宮沢氏によれば、この言葉はマザー・テレサのオリジナルではなく、米国のケント・M・キースの『逆説の10カ条』を読んだマザー・テレサが広めたものだそうです。
人は不合理、非論理、利己的です
気にすることなく、人を愛しなさい
あなたが善を行うと、利己的な思いでそれをしたと思われるでしょう
気にすることなく、善を行いなさい
目的を達しようとするとき、邪魔立てする人に会うでしょう
気にすることなく、やり遂げなさい
善い行いをしても、おそらく次の日には忘れられるでしょう
気にすることなく、し続けなさい
あなたの正直さと誠実さとが、あなたを傷つけるでしょう
気にすることなく、正直であり誠実であり続けなさい
あなたが作り上げたものが、壊されるでしょう
気にすることなく、作り続けなさい
助けた相手から恩知らずの仕打ちを受けるでしょう
気にすることなく、助け続けなさい
あなたの中の最良のものを、この世界に与えなさい
たとえそれが十分でなくても
気にすることなく、最良のものをこの世界に与え続けなさい
最後に振り返ると、あなたにもわかるはずです
結局は、全てあなたと内なる神との間のことで
あなたと他の人との間であったことは一度も無かったのです
People are often unreasonable, illogical, and self-centered;
love them anyway
If you are kind, people may accuse you of selfish ulterior motives;
Be kind anyway
If you are successful, you will win some false friends and some true enemies;
Succeed anyway
If you are honest and frank, people may cheat you;
Be honest and frank anyway
What you spend years building, someone could destroy overnight;
Build anyway
The good you do today, people will often forget tomorrow;
Do good anyway
Give the world the best you have, and it may never be enough;
Give the best you’ve got anyway
You see, in the final analysis it is between you and God;
it was never between you and them anyway
投稿者 記事URL
|最近のブログ記事
- 2024年11月 自分が幸せかどうか気にすれば不幸になる
- 2024年10月 コロナワクチンは感染後の認知機能低下を予防できるか
- 2024年9月 「反ワクチン派」の考えを受けとめよう
- 2024年8月 谷口医院が「不平等キャンペーン」を手伝うことになった経緯
- 2024年8月 谷口医院が「不平等キャンペーン」を手伝うことになった経緯
- 2024年7月 お世話になったあの先生がまさか反ワクチンの代表だったとは……
- 2024年6月 人間の本質は「憎しみ合う」ことにある
- 2024年5月 小池百合子氏のカイロ大学”卒業”が真実と言える理由
- 2024年4月 サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか~続編~
- 2024年3月 「谷口医院がすてらめいとビルを”不法占拠”していた」裁判の判決
月別アーカイブ
- 2024年11月 (1)
- 2024年10月 (1)
- 2024年9月 (2)
- 2024年8月 (1)
- 2024年7月 (1)
- 2024年6月 (1)
- 2024年5月 (1)
- 2024年4月 (1)
- 2024年3月 (1)
- 2024年2月 (1)
- 2024年1月 (1)
- 2023年12月 (1)
- 2023年11月 (1)
- 2023年10月 (1)
- 2023年8月 (1)
- 2023年7月 (1)
- 2023年6月 (1)
- 2023年5月 (1)
- 2023年4月 (1)
- 2023年3月 (1)
- 2023年2月 (1)
- 2023年1月 (1)
- 2022年12月 (1)
- 2022年11月 (1)
- 2022年9月 (1)
- 2022年8月 (1)
- 2022年7月 (1)
- 2022年6月 (1)
- 2022年5月 (1)
- 2022年4月 (1)
- 2022年3月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2022年1月 (1)
- 2021年12月 (1)
- 2021年11月 (1)
- 2021年10月 (1)
- 2021年9月 (1)
- 2021年8月 (1)
- 2021年7月 (1)
- 2021年6月 (1)
- 2021年5月 (1)
- 2021年4月 (1)
- 2021年3月 (1)
- 2021年2月 (1)
- 2021年1月 (1)
- 2020年12月 (1)
- 2020年11月 (1)
- 2020年10月 (1)
- 2020年9月 (1)
- 2020年8月 (1)
- 2020年7月 (1)
- 2020年6月 (1)
- 2020年5月 (1)
- 2020年4月 (1)
- 2020年3月 (1)
- 2020年2月 (1)
- 2020年1月 (1)
- 2019年12月 (1)
- 2019年11月 (1)
- 2019年10月 (1)
- 2019年9月 (1)
- 2019年8月 (1)
- 2019年7月 (1)
- 2019年6月 (1)
- 2019年5月 (1)
- 2019年4月 (1)
- 2019年3月 (1)
- 2019年2月 (1)
- 2019年1月 (1)
- 2018年12月 (1)
- 2018年11月 (1)
- 2018年10月 (1)
- 2018年9月 (1)
- 2018年8月 (1)
- 2018年7月 (1)
- 2018年6月 (1)
- 2018年5月 (1)
- 2018年4月 (1)
- 2018年3月 (1)
- 2018年2月 (1)
- 2018年1月 (1)
- 2017年10月 (1)
- 2017年9月 (1)
- 2017年8月 (1)
- 2017年7月 (1)
- 2017年6月 (1)
- 2017年5月 (1)
- 2017年4月 (1)
- 2017年3月 (1)
- 2017年2月 (1)
- 2017年1月 (1)
- 2016年12月 (1)
- 2016年11月 (1)
- 2016年10月 (1)
- 2016年9月 (1)
- 2016年7月 (1)
- 2016年6月 (1)
- 2016年5月 (1)
- 2016年4月 (1)
- 2016年3月 (1)
- 2016年2月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年12月 (1)
- 2015年11月 (1)
- 2015年10月 (1)
- 2015年9月 (1)
- 2015年8月 (1)
- 2015年7月 (1)
- 2015年6月 (1)
- 2015年5月 (1)
- 2015年4月 (1)
- 2015年3月 (1)
- 2015年2月 (1)
- 2015年1月 (1)
- 2014年12月 (1)
- 2014年11月 (1)
- 2014年10月 (1)
- 2014年9月 (1)
- 2014年8月 (1)
- 2014年7月 (1)
- 2014年6月 (1)
- 2014年5月 (1)
- 2014年4月 (1)
- 2014年3月 (1)
- 2014年2月 (1)
- 2014年1月 (1)
- 2013年12月 (1)
- 2013年11月 (1)
- 2013年10月 (1)
- 2013年9月 (1)
- 2013年8月 (1)
- 2013年7月 (1)
- 2013年6月 (103)