マンスリーレポート
2015年7月10日 金曜日
2015年7月 お金に困らない生き方~4つの秘訣~(前編)
以前このサイトの「医療ニュース」で、最大のストレスは「お金がないこと」とする米国心理学会(American Psychological Association, APA)の研究結果を紹介したことがあります(注1)。
3千人以上の米国人を調査した結果、ストレス源の第1位が「金銭上の悩み」であったというのがその研究の最大のポイントです。私はその「医療ニュース」で、以前タイで知り合った日本人男性のことを述べました。
その日本人男性は私が知り合った当時は40代半ばで、リストラで職を失い、就職活動がうまくいかないことから不眠と抑うつ感が強くなり、知人のすすめで精神科を受診したそうです。いくつもの薬を試したけれど不眠が多少改善されるだけで抑うつ感や不安感は払拭できなかった、とその男性は話していました。
住み込みで働けるタイのあるエイズ施設にやってきて、抑うつ感はかなり解消されたけれど将来のことを考えると絶望的な不安感を感じる・・・、と話していました。この男性の言った次の言葉を私は忘れることができません。
「一生食べていける大金をもらえるか、安定した仕事に就けるなら、僕のうつ病はすぐに治ります。世の中のうつ病の大半は単にお金がないことが原因なんですよ・・・」
うつ病の原因は医学的にもよく分かっていないところもありますが、様々な要因があり、これは極端な考えです。しかし、私はこの男性のこのコメントに反論できませんでした。日頃みているうつ病を発症した患者さんのことを思い出してみると、職場のストレスがきっかけ(この男性と異なり昇進したことがきっかけでうつ病を発症する人も少なくありません)、離婚がきっかけ、病気(特に悪性腫瘍)がきっかけ、ペットの他界がきっかけ、というケースもありますし、まったく要因が分からないということも少なくありません。
しかし、どのような境遇のうつ状態であれ、どのようなことがきっかけであれ、もしも一生食べていけるだけの大金が与えられればうつ状態が改善する人は多いかもしれない、と私はこの男性の言葉を聞いて感じたのです。
現在の私はタイに渡航できるのはせいぜい年に一度で、それほどタイに詳しいわけではありません。しかし、いろんな方面から情報が入ってきて、日本ではあまりお目にかかれないような変わったタイ在住の日本人の話をしばしば聞きます。
今からお話するのは、60歳前後の落ちぶれた日本人男性の話です。私はこの男性の名前や出身地、日本で過去に何をしていたかなどの正確な情報を持っていません。この男性についての情報は多数あり、バンコクの食堂の屋根裏に住まわせてもらっていた、とか、イサーン地方(東北地方)で野宿をして暮らしていた、とか、そういう話がいくつかあり、つくり話なのかもしれませんし、あるいは同じような境遇の人が複数いるのかもしれません。
まったくの一文無しだとビザが更新できないという問題もありますから、この話は架空の「都市伝説」みたいなものかと考えたこともあるのですが、タイ在住の日本人が読む新聞や雑誌にも、「タイ人に食事を恵んでもらい生き延びる哀れな日本人」のような感じでこの男性のことが取り上げられたことがあるという情報もあり、結論を言えば、私はこの話は実話だと思っています。
それはこの話の結末が、さもありなん、と思えるものだからです。この男性の転帰はとてもドラマティックで、一文無しから一気に金持ちになります。この理由が分かるでしょうか。宝くじに当たったわけでもありませんし、金持ちの奥さんを見つけたわけでもありません。もったいぶらずにその理由をお伝えしましょう。
それは「年金が支給されだした」というものです。この男性はタイで放浪する前には日本でまともな暮らしをしており年金を払っていたのです。年金が支給されだしてからは金回りがよくなり、イサーン地方で家を建てた、という情報もあります。
いくら何でも年金だけで家が立つはずがない、と感じる人もいるでしょうが、私はまんざら嘘でもないのでは、と思っています。バンコクでは到底無理ですが、以前私の知人のタイ人がイサーン地方のある県で、1ライ(ライとはタイの土地の単位で1ライで40メートル四方です)を5万バーツ(約15万円)で買って家を建てると言っていました。
家屋を建てるのにお金がいるのでは?と尋ねると、1万バーツ(約3万円)で建てられると言っていました。村の若者がみんなで手伝ってくれるので、タイルや木材、セメントなどの材料費と彼らにふるまう料理と酒代だけで済むというのです。
タイでは日本人を含めて外国人は土地を買うことはできません。しかし土地を買って家を建てる方法がないわけではありません。どうするかというと、タイ人と結婚するのです。「少し前までホームレスだった60代の日本人男性と誰が結婚してくれるの?」と思う人もいるでしょうが、60代であろうが70代であろうが日本人の高齢の男性がタイ人の若い女性と結婚したという話はいくらでもあります。
そのなかの多くは、若い女性がお金目的であることに気付かず、いつのまにか全財産をタイ人の若い奥さんと親戚にむしり取られて一文無しとなり日本に帰国せざるをえない、という人たちです。しかし「真実の愛」を育み仲睦まじく過ごしているカップルがいるのも事実です。この男性が今も幸せに暮らしていることを祈りたいと思います。(土地を買ったというのも噂の域を超えませんし、タイ人の奥さんがいるというのは私の勝手な憶測に過ぎませんが・・・)
話を戻しましょう。実は私はこの「タイで突然金持ちになった日本人男性」の話を最近日本で起こったある事件を聞いて思い出しました。
2015年6月30日、東京都杉並区在住の71歳の男性が新幹線の中で焼身自殺を図りました。他人も死に至らしめたこの事件を許すわけにはいきませんが、私が一連の報道をみていて最も気になったのが、7月1日の日経新聞夕刊で報じられた「35年間払っているのに(年金を)24万円しかもらえない。税金や光熱費を引くとほとんど残らない」という容疑者が話していたという言葉です。年金は2ヶ月毎に支払われますから1月あたり12万円ということになります。
おそらくタイで突然金持ちになった日本人男性も月あたりの収入は同じくらいだったと思われます。同程度の年金による収入だったのにもかかわらず、ひとりは悲観して新幹線で焼身自殺、ひとりは若い奥さん(私の想像ですが)と一戸建てのマイホーム暮らし(これも勝手な想像ですが)ではあまりにも違いすぎます。
紙面が尽きてきたので、そろそろ今回のまとめに入ります。お金がないことが大きなストレスになることはほぼ間違いなく、抑うつ状態の人の何割かはもしも大金が手元にあれば苦しみから解放される可能性があります。
人生の価値はお金で決まらない、は真実ですが、お金がないと精神衛生上よくなくて抑うつ状態、さらには自殺につながることもある、というのも事実です。
ではお金に困らないように生きるにはどうすればいいのでしょうか。私はこのコラムで4つの秘訣を提案したいと思います。その1つは、タイで突然金持ちになった日本人のエピソードからわかるように「年金」です。
しかし、同じように年金をもらっていた杉並区の男性は自殺を選んでいます。この差はどこにあるのでしょうか。次回はそこから述べていきます。
注1:下記を参照ください。
医療ニュース2015年3月13日「最大のストレスは「お金がないこと」」
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