マンスリーレポート
2006年7月号 邂逅 2006/07/10
GINAの活動を本格的に開始してからおよそ4ヶ月が経過いたしました。
この4ヶ月間で、多くの施設訪問、患者さん宅への訪問、研究者との対談、ボランティアとの話し合い、オリジナルの研究開始、など様々なプロジェクトをおこなうことができました。
GINAはNPOですから、活動を活発にすればするほど経費がかさみ、金銭的にはしんどくなります。そのため、現在も医師としての仕事は以前と変わりなく続けています。医師の仕事として、1週間に100時間程度はとられ、さらに空き時間には医学の勉強を続けなければならず、その上語学の勉強がありますから、GINAのための時間を捻出するのは相当大変です。
にもかかわらず、GINAの活動が予定通り、あるいは予定以上に順調に進んでいるのは、もちろん周囲の方々の支えのおかげです。
例えば、私はGINAの事務的な仕事は、GINA副代表の浅居氏に全面的に任せています。websiteの管理についても、浅居氏及び浅居婦人にすべておこなってもらっており、私は、ただレポートや記事の下書きをしているだけで、その校正も浅居夫妻に任せています。彼らの活躍、さらに他のGINA正会員の働きがなければ、これほどまでにGINAは順調に進んでいないはずです。
もちろん、GINAの順調な進行は、GINAスタッフの力だけによるものではありません。GINAの趣旨に賛同してくださり、アドバイスや寄付金をくださる方々がおられるからこそ、我々は活動を続けることができるのです。
もちろん、タイで我々の活動に賛同してくださり、多くのアドバイスを授与してくださる方々や、実際に本音をお聞かせくださるエイズ患者さんの存在も、我々が活動を続けていく上で大変貴重なものであります。
私は6月30日から7月8日にかけて今年4度目の訪タイをしてまいりました。今回はやや強行的なスケジュールを実行しましたが、7月から航空料金が大幅に上昇するので、できるだけ経費を抑制するために6月中の出発にしたというわけです。
GINAのタイをベースとした初期の活動が、今回の出張でとりあえずは落ち着きましたから、これから当分の間GINAの活動は国内が中心となります。次回の訪タイは、11月中旬にバンコクで開催されるプライマリ・ケア関係の国際学会に合わせてとなる予定です。
さて、今回の訪タイでお会いし、その献身的な生き方に大きな感動を教えてくれた方々がおられますので、ここで簡単にご紹介させていただきたいと思います。
まずは、パヤオで「21世紀農場」を運営されている谷口巳三郎先生です。巳三郎先生のことは、「マンスリーレポート4月号」でもご紹介いたしましたが、この方の生涯を通しての献身的な態度は、ただただ敬愛するばかりです。
巳三郎先生は、60歳を過ぎてから単身タイに渡り、20年以上にわたり現地の農業指導に従事されています。21世紀農場はタイ北部のパヤオ県にありますが、この地域では90年代初頭からエイズが蔓延し、その結果行き場を失った人々が、巳三郎先生を頼って21世紀農場を訪問したのです。
巳三郎先生は、そんな彼(女)らに対して農業指導やミシンの使用を学ばせ生活を支援し、適切な医療が受けられるように現地の行政や病院に対する計らいをされました。
また、パヤオ県さらには隣県のチェンライ県にも、巳三郎先生の農業指導のおかげで自立され、さらに農業を学びたい人に対する指導をされているタイ人の方が大勢おられます。
巳三郎先生は、タイの歴史に残るタイに貢献した日本人、として今後も大勢の方に語られることでしょう。
パヤオ県では、依然エイズで困窮されている方々が大勢おられます。そんな方々のために日々尽力されているトムさんというタイ人がおられます。この方の夫は日本人の赤塚さんという方で、ご夫婦でエイズにまつわる諸問題に取り組んでおられます。
このご夫婦の献身的な行動にも私は深い感銘を受けました。おそらくこういった方々がおられなければ、パヤオ県のエイズ問題は依然進展を見ていないのではないかと思われます。
タイ北部の高地民族の出身でおられる、パンさん、ヨハンさん、ダイエさんには、彼らが運営する高地民族のための学生寮を拝見させていただきました。
高地民族とは、タイ北部の山岳に住まわれている少数民族で、アカ族、カレン族、リス族、ラフ族、モン族など、11の民族があります。彼(女)らの地域では、学校がほとんどなく充分な教育を受けることができません。そこで、パヤオ県やチェンライ県の学校に通うことになるのですが、通うと言っても、とても山岳部からは通うことができません。
そのため、子供たちが安心して勉強や寝泊りができる施設(寮)が必要となり、彼らが私財を投げ打って寮を設立されたというわけです。運営費の一部は日本からの寄附金にも頼っています。
寮を設立し、子供たちが安心して生活するためには、どうしてもある程度の費用がかかり、どの寮もけっして裕福ではありません。そのため、彼らは、私生活をかなり犠牲にして子供たちのために献身されています。
高地民族のために寮を設立されているのはタイ人だけではありません。チェンライ県の外れに、「ルンアルンプロジェクト」という高地民族の生徒寮があるのですが、この寮を設立したのは、中野穂積さんという日本人女性です。
中野さんは、高地民族の子供たちのために日々尽力なさっています。彼女のおかげで多くの高地民族の子供たちが安心して勉強を続けることができるのです。
高地民族のなかには、すでに両親を亡くしている子供たちが少なくありません。その最たる原因はエイズです。こういった子供たちは、いわゆる「エイズ孤児」となり、そのままでは勉強どころか生活することもできなくなるため、高地民族の寮を運営されている方がいなければ路頭に彷徨うことになってしまうのです。
エイズ孤児のみを収容している施設もあります。チェンマイ県のドイサケートには「希望の家」と呼ばれる施設があり、両親をエイズで亡くしたおよそ20人の子供たちが生活しています。現在はタイ人のご夫妻が中心となって運営されていますが、寮の名前からも分かるように、この施設はある日本人女性が設立に大きな役割を果たしています。
その方は、大森絹子さんという女性で、私と同じ大阪市立大学出身です。大森さんは看護師及び助産師の免許を所得され、現在の私と同じ大阪市立大学医学部附属病院でも勤務されていました。タイに渡られ少数民族の医療に従事され、その後訪米し医療人類学を学ばれた後、再びタイに渡航し、高地民族のために尽力され、「希望の家」を設立されるに至ったのです。
不幸なことに、大森さんは48歳という若さで他界されました。しかし、その後も生前から大森さんと懇意にされていたプラセン&タッサニーさんご夫妻の活躍のおかげで「希望の家」は現在も子供たちにとってはなくてはならない存在であり続けています。
日本に帰国する機内で、私は今回お世話になった方々のことを考えているうちに深い眠りに落ちていました。毎度のことなのですが、訪タイ時には強引なスケジュールを組んでいるためにかなり疲労が蓄積します。今回は極端に疲れており、機内サービスで出された食事にも気づかない程でした。
機内でひとつの夢を見ました。私の中学時代の授業の再現シーンです。なぜか科目は「道徳」。中学の授業などほとんど何も覚えていないのに、よりによって道徳の授業が夢に出てくるとは不思議なものです。
教壇に立つ先生は、黒板にある文字を書きました。
邂逅・・・
漢字の読めない私は、先生が振り仮名を振ってくれて初めて、それが「かいこう」と読むんだ、ということが分かりました。「思いがけなく巡り合う」という意味だそうです。
考えてみれば、私がGINAを通してめぐり合った人たちは、以前から希望してお会いしたというよりは、いくつもの偶然が重なってお会いしています。私は元々、この3月から新しいクリニックを設立する計画を立てていましたから、それが実現していればこういった方々にお会いしていない可能性が高いのです。
こういった人たちとの巡りあいは、まさに「邂逅」ではないでしょうか。
夢のなかで先生は続けました。
「邂逅に始まって一生のお付き合いをすることになる人もいるのですよ・・・」
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