はやりの病気
2019年6月13日 木曜日
第190回(2019年6月) 誤解だらけの膀胱炎の治療
太融寺町谷口医院はオープンした2007年から「どのような症状やどのような悩みでもお話ください」と言い続けています。もちろんどんな治療でもできるわけではなく、診断がつかなかったケースや入院や手術などが必要な症例は病院や専門クリニックに紹介しています。どれくらいの患者さんを紹介しているかというと、2018年を例にとると、1年間での総受診者数が15,080人、入院・手術・専門医の診察が必要で紹介したのがそのうち137人、「紹介率」は0.9%となります。
では99.1%の患者さんにどのような治療をしているのかというと、原則として、どの疾患もガイドラインに従った治療をおこなっています。ガイドラインが存在しない疾患も多々ありますが、その場合も「エビデンスのある標準的な治療」を基本としています。つまり「独自の検査・治療」は原則としておこなっていません。
ただし「膀胱炎」は例外になると言えるかもしれません。といっても、私は膀胱炎に対して奇をてらった治療をおこなっているわけではなく、私の診断法及び治療法を感染症科の専門医、もしくは感染症に詳しい医師に話すと、ほぼ全員が同意してくれます。あえて喧嘩をふっかけるようなことはしたくありませんが、膀胱炎の治療についてはガイドラインの方が”過剰”なのです。
実は、このことは毎日新聞の「医療プレミア」で指摘したこと(注1)があり、読者の方からの反響もそれなりにありました。その頃はまだ「医療プレミア」はまだ月に5本までは無料で読めていたのですが、現在は1本読むのも有料化されてしまっています。そこで、今回はそのときに述べたことを簡単にまとめてみたいと思います。
まず、膀胱炎の前提として、原因のほとんどは細菌感染です。そして、次の2つが細菌感染の治療の原則です。
#1 細菌の種類を特定(または推定)し、重症度を判定する
#2 細菌の種類と重症度から抗菌薬の種類と投与量を決める
ときどき「膀胱炎になったから抗生剤をください」とか、もっとひどい場合は「膀胱炎です。クラビットを5日分ください」という患者さんがいますが、そもそも膀胱炎かどうかは少なくとも尿を調べないと分かりませんし、細菌性膀胱炎が確定した場合も、上記の原則に従って抗菌薬を検討しなければなりません。
今私は、「もっとひどい場合」とあえて失礼な言葉を使いましたが、このようなことを言い出す患者さんだけがおかしいのかといえば実はそうではありません。この患者さんの要望は、感染症の原理原則から完全に逸脱していますが、実はガイドラインに似たようなことが書いてあるのです。
膀胱炎について書かれた日本のガイドラインとしてはいくつかあり、ここでは「医療プレミア」でも引き合いに出した日本化学療法学会のガイドラインと標準医療情報センターのガイドライン、さらに日本産科婦人科学会のガイドラインを見てみたいと思います。
どのガイドラインにも共通しているのは、抗菌薬にニューキノロン系と第3世代セフェム系(注2)が推奨されていることです。これらの2つには共に小さくない問題があります。ここではニューキノロンの問題をみていきます。
まず、ニューキノロンというのは極めて強力な抗菌薬で安易に使ってはいけないものです。海外では、これらを使い過ぎた結果、薬剤耐性菌が多量に出現したことを反省し、現在はニューキノロンの使用は最重症例に限る方向にあります。英国ではニューキノロンの使用を控えることで耐性菌が減少したという報告もあります。
米国泌尿器学会の提言では「合併症のない女性の膀胱炎に、安易にニューキノロンを使ってはいけない」とされています。「合併症」というのは、悪性腫瘍や未治療のHIV、重症の糖尿病といった「重症の病気」です。つまり、そういった重症の病気がない日ごろは健康な女性にニューキノロンは簡単に使ってはいけません、と警告しているわけです。
これを受けて(かどうかは分かりませんが)日本化学療法学会のガイドラインにも「ニューキノロンは安易に使わない」と確かに書かれています。ですが、推奨する具体的な抗菌薬としてニューキノロンが書かれているのです! 問題はまだあります。ニューキノロンはそれだけ”強力な”抗菌薬(注3)ですから費用も高いのです。なかには1日あたり400円以上するものもあります。
太融寺町谷口医院の診断と治療の話をしましょう。治療の話で言えば1日あたり数十円ですみます。これはペニシリン系、もしくは第一世代セフェム系を中心としているからです。もちろん安いという理由だけでこれらを処方しているわけではありません。先述した#1のように正確に診断することが不可欠です。
そして、正確に診断するにはグラム染色をおこなえばいいのです。これにより細菌が大腸菌を代表とするグラム陰性桿菌なのか、ブドウ球菌などのグラム陽性球菌かが分かります。グラム染色の費用は3割負担で660円ほどです。しかも10分程度で結果が出ますし(当院を受診されたことのある方はお分かりだと思いますが)細菌と炎症細胞の様子をモニタで見てもらうことができます。
つまり、単純な膀胱炎なら、グラム染色で原因の細菌と炎症の程度が簡単に分かり、そこから適切な抗菌薬の種類と量が簡単に推測できるわけです。これでほぼ100%治ります。発熱や背部痛などがあり重症化している場合はニューキノロンや点滴の抗菌薬を用いることもありますが、基本的には下腹部痛や残尿感だけならニューキノロンは不要です。要するに、日本のガイドラインが”過剰”なのです。私が考える膀胱炎の治療の1つめの「誤解」が「日本のガイドラインに従わねばならない」です。
ちなみに、このグラム染色という方法は風邪(急性上気道炎)のときの抗菌薬の必要性を検討するときにも極めて有用ですし、怪我で皮膚に傷ができたときにもどのような細菌が感染したかを知る上で極めて便利です。私は医師になってから、このグラム染色の有用性を主張し続けています。ほとんどすべての医師が「それは有用だ」と同意はしてくれますが、残念ながらどこの医療機関でも実施しているわけではありません。その最大の理由はちょっと手間がかかる(といっても10分程度ですが)割に、保険点数が少ない(だから安い)からではないかと疑いたくなってきます。
2つめの膀胱炎の治療に対する「誤解」は「薬局に相談する」です。私は常々、困ったことがあればいつでも相談してくださいと言っていますが、それと同時に、セルフメディケーションも勧めています。つまり、病院でなく薬局で相談するということも推奨しているのです。しかし、こと膀胱炎に関してはそのせいで重症化してしまうことがよくあります。巷には「ボーコ・・・」といったいかにも膀胱炎に効きそうな市販薬がありますが、これらは抗菌薬ではありません。こういった薬を飲んで医療機関受診が遅れて膀胱炎が重症化してしまうケースは決して少なくありません。この点は薬剤師に対し文句を言いたいところです。
では今回のまとめです。
・膀胱炎のほとんどは細菌感染であり抗菌薬で治療する。したがって、薬局でなくかかりつけ医に相談する。(これを読んでいるあなたが薬局勤務の薬剤師なら、よほどの自信をもって細菌性が否定できなければ直ちに医療機関受診を勧めてください)
・膀胱炎が疑われれば、まずは細菌の種類と量を調べなければならない。
・細菌の種類と量を調べるには尿のグラム染色が最も有用。すぐに分かり、費用も安い。
・細菌の種類と量が分かれば適切な抗菌薬の種類と量が決められる。発熱や背部痛がなければほぼ100%安い抗菌薬で治療することができる。
・単純な膀胱炎で、日本のガイドラインで推奨されているニューキノロン(及び第3世代セフェム)が必要になることはほとんどない。
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注1:3週連続で下記のコラムを書いています。
2017年9月10日「日米でこんなに違う 膀胱炎の治療方針」
2017年9月17日「膀胱炎は”研修医レベル”の治療でOK?!」
2017年9月24日「膀胱炎治療にサプリや漢方がNGの理由」
注2:以前から「なぜ海外ではほとんど用いられない第3世代セフェムの内服抗菌薬が日本では多用されるのか」は多くの識者が指摘しています。私は「医療プレミア」(「第3世代セフェムはなぜ「乱発」されるのか」)で書いたことがあります。はっきり言うと、第3世代セフェムの内服抗菌薬はほとんど用がなくて、最近では一切の処方をやめる医療機関が増えてきています。
注3:ニューキノロン系の抗菌薬の代表が、クラビット、タリビット、シプロキサン、オゼックス、グレースビット、スオード、アベロックス、ジェニナックなど(すべて先発の商品名)です。
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|2019年5月22日 水曜日
第189回(2019年5月) 麻薬中毒者が急増する!
ここ数年、私はことあるごとに「日本で麻薬中毒患者が急増する」と言い続けています。今のところ、私に賛同してくれる人は(医療者も含めて)ほとんどいませんし、私自身も自分の予想が外れてほしいと思っていますが、年々不安の程度が強くなってきています。
まずは症例を紹介しましょう。初診の患者さんと私の会話で、最近こういう展開になることが増えてきています(似たような症例が多数あります)。
医師(私):他の医療機関でかかっていますか?
患者さん:はい。腰痛(首の痛み、膝の痛み、関節痛、頭痛なども)で近所のクリニック(病院)にかかっています。
医師(私):そちらで処方されている薬はありますか?
患者さん:あります。トラマール(ワントラム/トラムセット)です。
医師(私):どれくらい長いこと飲んでいるのですか?
患者さん:もうすぐ半年になります。
医師(私):そんなに長いこと飲んでもいいと言われているんですか?
患者さん:はい。特に期間についての説明は受けていません。
医師(私):副作用やその他注意点については何か聞いていますか。
患者さん:「よく効く薬だ」とは効いていますが、特に注意することは聞いていなかったと思います。
トラマール・ワントラム・トラムセットという商品名の鎮痛薬はオピオイド系の麻薬であり、ヘロインやモルヒネと同じようなものです。副作用のみならず、依存性があることはしっかりと理解しなければならないのですが、その説明をきちんと聞かれていない患者さんが非常に多いのです。
先に誤解を避けるために言っておくと、私は麻薬の鎮痛薬を全否定しているわけではありません。がんの末期にはなくてはならない薬剤であり、私自身も在宅医療の研修を受けているときには麻薬の高い効果を実感し、適切に使えば副作用や依存性を恐れる必要がないことがよく分かりました。しかし、末期がんの患者さんはそう遠くない時期に亡くなられます。
一方、「症例」の患者さんのように腰痛や関節痛、頭痛の患者さんはそういうわけではなく、最近は20代の患者さんが飲んでいることも珍しくなくなってきました。こういう若い患者さんたちはいつまでこれらを飲み続けるのでしょう。
ここで添付文書を見てみましょう。これら3つの薬(トラマール・ワントラム・トラムセット)の添付文書をみると、ほとんど一字一句違いなく次の文言が記載されています。順番にみていきましょう。
連用により薬物依存を生じることがあるので、観察を十分に行い、慎重に投与すること。
長期使用時に、耐性、精神的依存及び身体的依存が生じることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には本剤の投与を中止すること。
驚くべきことに、最も重要なこの「依存性」について、きちんと説明を受けてから処方されたという患者さんを私はほとんど知りません。添付文書を続けます。
薬物乱用又は薬物依存傾向のある患者では、厳重な医師の管理下に、短期間に限って投与すること。
「薬物依存傾向のある患者」はどうやって判断するのでしょう。例えば喫煙者はこれに該当するのでしょうか。私の知る限りで言うと、喫煙がやめられないと言いながらこれら麻薬を内服し続けている患者さんは少なくありません。
では「長期使用時」の「長期」とはどれくらいを指すのでしょうか。添付文書には次のように書かれています。
慢性疼痛患者において、本剤投与開始後4週間を経過してもなお期待する効果が得られない場合は、他の適切な治療への変更を検討すること。また、定期的に症状及び効果を確認し、投与の継続の必要性について検討すること。
ようするに、4週間で効果判定をおこない、効果がある場合も「定期的に必要性について検討すること」を添付文書は命じているわけです。これにより、依存性が生じて問題が起こった時、製薬会社としては「そういうことがあるかもしれないから、ちゃんと添付文書で注意してるでしょ。我々の責任じゃないですよ」という「言い訳」ができます。ただ、ここで私が言いたいのは、製薬会社が医師に責任を押し付けているということではなく、処方が必要ならこの点を処方前に患者さんに理解してもらう義務が医師にあるということです(注2)。
では麻薬依存になってしまうとどうなるのでしょうか。麻薬には「耐性」があります。つまり、次第に多くの量が必要になってくるのです。その結果何が起こるか。実は10年ほど前から米国ではこういった医薬品としての麻薬の消費量が急激に増え、そして実際に様々な問題が生じています。それも国を挙げて取り組まなければならないような大きな問題です。「犯罪」「静脈注射」「HIV感染」「C型肝炎」「平均寿命の低下」などです。
「犯罪」とは麻薬の違法入手です。日本でも米国でも薬の処方量には制限があり、希望しただけの量を処方してもらえるわけではありません。そこで闇ルートで入手することを考える患者さんが出てくるのです。そして麻薬は内服よりも静脈注射の方が強い効果が得られます。麻薬の入手は違法ですが、針もそう簡単には手に入りません。すると、針の使いまわしが始まります。これによりHIV感染やC型肝炎ウイルスへの感染が起こるのです。そして命が失われていきます。
CDC(米国疾病管理局)の報告によれば、2017年の一年間で薬物の過剰摂取で死亡した米国人は72,000人以上で、2016年から10%も上昇しています。そのうち68%(約48,000人)はオピオイドが原因です。2002年から比較するとオピオイドによる死亡者はおよそ4倍にもなっています。米国の平均寿命は3年連続で減少しており、その原因がオピオイドであることが指摘されています(注1)。
現在「薬物」の世界的な流れは”合法化”です。ウルグアイに続き、カナダで大麻が合法化されたことが昨年話題になりましたし、ついに日本でも大麻解禁か、という声も一部には出てきています。一部の疾患に向けて開発された医療大麻は日本でも異例の速さで事実上使用可能になりつつあります。
元号が変わったばかりで浮かれている日本では(私の知る限り)どこのメディアも報じていませんが、2019年5月8日、米国デンバーではなんとマジックマッシュルームが合法化されることが決まりました。Reuterは前日まで住民投票の結果は反対派が勝利すると報道していましたから私はこの結果に心底驚きました。もはや米国の薬物合法化の動きを止めることはできないようです。
日本の未来がどうなるかは我々ひとりひとりが考えなければなりません。ちなみに、私自身は慢性疼痛(末期がんを除く)で困っている患者さんに麻薬を処方することはありません。一方で、他院でこれまで麻薬を処方してもらっていたが中止したい(依存を断ち切りたい)という患者さんに協力することはしばしばあります。ですが、減薬がむつかしいのも麻薬のやっかいな点です。添付文書には次のように記載されています。
本剤の中止又は減量時において、激越、不安、神経過敏、不眠症、運動過多、振戦、胃腸症状、パニック発作、幻覚、錯感覚、耳鳴等の退薬症候が生じることがあるので、適切な処置を行うこと。
「適切な処置を行うこと」で済ませないでほしい!というのがこの文章を初めて読んだときに私が感じたことです。麻薬を断ち切ることを決意したものの、この添付文書にあるようなパニック発作や幻覚で苦しんだ人を診てきた私の経験から言えば、薬を売ったり処方したりする前に危険性を充分に周知させるべきなのです。
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注1:詳しくはNPO法人GINAウェブサイト「GINAと共に」(第151回(2019年1月)本当に危険な麻薬(オピオイド))を参照ください。
注2:本文で述べたようにこれら麻薬の添付文書には「4週間で効果判定」としていますが、医学誌『New England Journal of Medicine』に掲載された論文「Prevention of Opioid Overdose」によれば、使用歴のない人が高用量の麻薬を摂取するとわずか5日で依存症になります。
参考:医療ニュース2019年1月31日「慢性の痛みへのオピオイドの効果はわずか」
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|2019年4月21日 日曜日
第188回(2019年4月) ビタミンDが混乱を招く2つの理由
2007年の開院以来、太融寺町谷口医院に寄せられる質問で最も多いもののひとつが「サプリメントの相談」です。これは、診察室で尋ねられるだけでなく、一度も受診したことがない人からメールで相談を受けることもあります。コンスタントに届くサプリメントの相談にも時代と共に”傾向”があります。
2007年から数年間の間は「抗酸化」がひとつのキーワードであったようで、具体的にはビタミンCやビタミンE、あるいはβカロテン(カロチン)に関する質問が多かったのですが、2010年代に入ってからはビタミンDに関するものが増加し、ここ2~3年で言えば、サプリメントに関する質問の7割以上がビタミンD関連です。
患者さんによって言うことは様々で、「長生きホルモン」「最強の抗がん剤」「うつ病が治る」「花粉症に有効」などという言葉を聞くこともあります。特に最近は、複数の人から「ビタミンDは栄養素というよりもホルモンなんですよね」と言われて、いつからそのように”格上げ”されたのかが不思議です。
科学的に実証されていない治療をやっていけないわけではありません。エビデンス(科学的確証)は重要ですが、エビデンスに縛られすぎるのもまた問題です。ですが、ビタミンDについてはこれまで何度も大規模調査がおこなわれてきており、世間一般の人が期待するような結果は得られていません。
ですが、その一方で、ビタミンDは毎日必要量を摂取することはとても重要であり、不足するといくつもの疾患のリスクが上昇します。では、果たして日本人は食品から適正量のビタミンDを摂取できているのでしょうか。このあたりの議論が最近”脆く”なってきています。今回は、適切なビタミンD確保を確証するにはどうすればいいか。そして、場合によっては一時的にでもビタミンDのサプリメントを摂取すべきかどうかについて考えていきたいと思います。
私が医師国家試験の勉強をしていた頃、日本人の栄養素の摂取については、カルシウム以外はほとんどが基準量を摂取できているとされていました。改めてこの頃のデータをみてみてもその通りで、ビタミンDについては2001年のデータで次のようになっています。
基準値(必要な摂取量):男女とも5.5ug
実際の摂取量(男性):7.5ug
実際の摂取量(女性):6.9ug
これをみると、サプリメントでの補強が不要なのは言うまでもなく、特に食事の内容に気を付ける必要もなさそうです。
ところが、です。2019年3月22日、厚生労働省が公表した「日本人の食事摂取基準(2020版)」には非常に複雑なことが書かれています。同書の180から10ページに渡りビタミンDの必要量が長々と考察されているのですが、結論から言えば、いったいどれくらいのビタミンDが必要で、日本人がどれだけ摂取しているのかがよく分からないのです。
同書が引き合いに出している日本内分泌学会・日本骨代謝学会が発表した「ビタミンD不足・欠乏の判定指針(案)」では、30ng/ml(上記のugとは単位が異なることに注意)以上でビタミンD充足としています。しかし、厚労省によると、この数値を採用すると、最近の疫学調査結果では欠乏/不足者の割合が男性72.5%、女性88.0%にも達することになり、現実を反映しているとは思えません。男性の7割以上、女性の9割近くがビタミンD欠乏で身体症状を発症しているはずがないからです。
この報告書では同省は全国4地域での食事記録法の調査などから8.5ugというのを暫定的な基準としています。上記2001年のデータからは3ugも基準があげられたことになりますし、こうなると男女とも基準を満たしていない、つまりビタミンD不足ということになります。
ビタミンDが語られるときに複雑になる理由はいくつもあります。ここでは私が考える「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」を紹介したいと思います。
ひとつめは「ビタミンDは紫外線からもつくられる」ということです。皮膚が紫外線を吸収すると体内でビタミンDが合成されるのです。ですから、例えば北欧やカナダのような冬にはほとんど日があたらない国であればサプリメントなどでの摂取も検討すべきという意見がでてきます。
一方、日本では真冬でもそれなりに日照時間が長いですから、そういった高緯度の地域と同じように考える必要はありません。しかし、日本は南北に長い国であり、当然地域差があります。同書には興味深いデータが掲載されています。5.5ugのビタミンDを産生するために必要な日照曝露時間(分)が地域と月で算出されています。このデータによれば、「顔と両手を露出した状況」で7月の12時の那覇であればわずか2.9分で基準に達するのに対し、12月の15時の札幌では2741.7分も必要となります。これでは日本の統一した基準をつくることができません。
それに、データの出し方が「顔と両手を露出した状況」としている点も気になります。光線過敏症などのない男性であればいいですが、女性に対しては現実的ではありません。太融寺町谷口医院では皮膚疾患を有する患者さんが多く、私は多くの人に「(少なくとも顔や首には)紫外線は一生浴びないくらいのつもりでいてください」と助言することもあります。紫外線には決して小さくない有害性があるのです。
もうひとつのビタミンDが混乱を招く理由は、摂取できる食事が非常に限られている、ということです。つまり「バランスよく食べましょう」だけでは不十分な場合があるのです。具体的に、そして端的に言えば、ビタミンDを摂取できる食品は魚介類とキノコくらいしかありません。牛乳や肉のレバーなどにも含まれていますが、効率よく摂取しようと思えば魚介類とキノコを積極的に食べるしかないのです。ただ、この点は日本人には有利であり、魚介類もキノコも和食を中心とするならば十分な量がとれます。
患者さんから「どんな魚介類を摂ればいいですか」と尋ねられたとき、私は「ひとつ挙げるなら鮭(サーモン)がいい」と勧めています。もちろん他にもビタミンDが豊富な魚介類はたくさんありますが、サーモンは比較的ビタミンDの含有量が多い上に、刺身、塩焼き、ホイル焼き、ムニエル、クリーム煮、シチュー、フライといろんな調理法があり(最近では)比較的安い(私が子供の頃はめったに食べられず鮭の代わりに鱒(マス)が食卓に上がっていました)という長所もあります。
さて、冒頭で述べたサプリメントの是非の話をしましょう。結論から言えば、特別な病気(副甲状腺の異常や骨粗しょう症)を有している人やビーガン(最も厳しい食事制限をするベジタリアン)の人以外には私がビタミンDのサプリメントを勧めることはありません。ビーガンについては過去のコラム(「サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか」)でも述べました。
そのコラムでも述べたようにビタミンDの質問をする人は、健康のことに詳しく、積極的に情報を得ている傾向があります。ですが、そのような人たちもエビデンスという観点からはあまり検討されていません。医学誌『Lancet Diabetes & Endocrinology』2014年1月24日号(オンライン版)に掲載された論文(下記「医療ニュース」参照)でビタミンDのサプリメントの大規模調査がまとめられています。サプリメントの有益性がほとんどないことがこの調査から明らかです。
ビタミンDのサプリメントを購入するのはもうやめにして、そのお金でサーモンとキノコを食べませんか……。どうしても気になるという人は25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度を測定してみてください。
参考:医療ニュース
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2019年1月31日「ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない」
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
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|2019年3月24日 日曜日
第187回(2019年3月) 誤解に満ちた花粉症情報
過去の「はやりの病気」で最後に花粉症を取り上げたのは第53回の2008年1月ですから、それからはや11年が経過したことになります。改めて当時の文章を読んでみると、自分が書いたものなのに、今患者さんに伝えていることと比べて大きな差があることに気づきます。
2008年当時、私が書いた要点をまとめてみたいと思います。
・予防は重要だが限度がある。「帰宅後すぐにシャワー」は実際には困難
・免疫療法はいい方法だが危険性があり安易に勧められない
・中心となる薬は抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻薬
現在の私が患者さんに説明していることを上記と対比して述べてみます。
・予防が一番重要。面倒くさくても「帰宅後すぐにシャワー」を勧める
・免疫療法は最強の治療法。舌下免疫療法は危険性が極めて少ない
・抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイドに加え、抗ロイコトリエン拮抗薬を積極的に使用
花粉症に限らず、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では開院以来治療方針を変えたことはなく、どのような疾患も「予防」が重要であることを繰り返し述べてきています。花粉症に対しても方針は同じなのですが、年々予防の重要性を強調するようになってきました。
その最大の理由は「多くの重症例に遭遇してきたから」です。前回コラムを書いてからの11年間で多くの重症の患者さんが受診されました。ガイドラインに従い治療をおこなっても限度があり、次は内服ステロイドを使うしかない…、というところまで進んだ患者さんも過去に何人かいました。
ですが、ここで内服ステロイドを用いるのではなく、もう一度原点に戻って「花粉対策」をしてもらうと劇的に改善することが何度もあったのです。特に、「帰宅後すぐにシャワー」は、11年前には「現実的でない」と書きましたが、やはりこの効果は絶大です。少し外出しただけで髪を湯で洗うというのは、特に髪の長い女性だと本当に大変です。もっと困るのが、例えば4人家族で自分だけが花粉症という場合です。他の3人が花粉を部屋に持ち込むことを避けねばなりませんから、3人にも「帰宅後すぐにシャワー」をお願いせねばなりません。ですが、これを実践できれば症状が劇的に改善することもよくあるのです。
シャワーの際には「鼻うがい」も勧めています。専用の器材を買ったり生理食塩水をその都度用意したりするのは大変ですから、私は「シリンジでぬるま湯」を勧めています。シリンジとはプラスティック製の注射筒のことで、薬局には売っていないようですが、Amazonなどネット通販で購入できます。これでシャワーのお湯を吸い取って、片方の鼻を指でおさえてもう一方の鼻腔に一気に注入するのです。鼻腔に侵入した花粉を洗い流せるだけでなく、風邪の予防にもなります(ちなみに、私はこの鼻うがいを2012年の12月に始めてから一度も風邪を引いていません)。
シャワーや鼻うがい以前に空気清浄機は必需品ですが、意外なことに、それなりに重症の人でも「置いていない」と言われることがあります。そして、実際、「どんな薬でもよくならない」と言っていた人が「空気清浄機を置いただけで激変しました!」と報告しに来られたことも何度かあります。
次に「免疫療法」の話をしましょう。2008年の時点では「舌下免疫療法」はまだ研究レベルでしたが、2014年から保険診療が開始されました。注射に比べて安全性が高いことは論を待たないのですが、「本当に効くのか」という声がありました。しかし、谷口医院の患者さんでいえば開始してから3年以上経過した半数以上の人が「今年は症状がほぼゼロ」と言っています。当初の予想よりもかなり成績がよさそうです(一方、ダニの舌下免疫療法では「劇的に改善した」と言う人は現時点では少数です)。
免疫療法は注射でも可能ですが、少なくともスギに関しては舌下でこれだけ効果が出ているわけですから、注射による免疫療法はますます下火になっていくでしょう。
注射と言えば、今年は「注射で花粉症を治したい」という声が、例年の数倍はあります。なかでも、「ステロイドを打ってほしい」という声が次から次へと寄せられます。ケナコルトなどのステロイドを1回注射すると1ヶ月程度は花粉症の症状がほぼ消失することから90年代にはしばしばおこなわれていましたが、危険性が高すぎてこれは「絶対にやってはいけない治療」と認識すべきです。過去には強い副作用で生活に支障をきたし、裁判になった例もあります。この場合、患者さんが注射した医師を訴えればほぼ確実に医師が敗訴します。にもかかわらず、これだけ要望が多いのはなぜなのでしょう。しかも、例年このリクエストをされるのは、水商売の仕事をしている人が多いのですが、今年は、一般企業で働く人や学生、専業主婦などからの要望が目立ちます。これはおそらくSNSでそういった情報が広がっているからなのでしょう。
花粉症の注射で年々リクエストが増えているのが「ヒスタグロビン+ノイロトロピン」の皮下注射です。これは、たしかに危険性はほとんどなく、保険診療が認められ費用も安く(1回300円程度)、やはりSNSなどで評判がいいようで、谷口医院にも頻繁に問い合わせがあります。保険診療が認められている安全性の高い治療ですから、要望があればそれに応えるようにはしていますが、この治療はガイドラインに掲載されていないものです。つまり安全性が高いのは事実ですが、有効であるとする高いエビデンス(科学的確証)がないのです。ですから、谷口医院ではこの注射を実施するにしても、ガイドラインどおりの治療と並行しておこなうよう助言しています。
ガイドラインで推奨されている内服薬の抗ロイコトリエン拮抗薬は非常にすぐれた薬剤ですが、2008年当時は花粉症に対してまだ保険適用がなく使えませんでした。当時から気管支喘息には適用があったために、喘息と花粉症の双方がある人にはとてもいい薬剤でした。この薬が花粉症にも使えるようになってからは治療がぐっとおこないやすくなりました。特に1日1回寝る前に飲むタイプの「モンテルカスト」は、眠気などの副作用もほとんどなく(ただし一部の薬とは飲み合わせが悪く注意が必要)、即効性はありませんが、継続して使用すると安定した効果が期待できます。
最後に谷口医院を受診されている患者さんの特徴を紹介しておきます。もともと谷口医院でアレルギー疾患を積極的に診ようと思ったのは、開院前の私の経験がきっかけです。まだ「総合診療」という言葉が一般的でなかった頃から、私は多くの病院・診療所、そして多くの「科」で研修を受けていました。そこで感じたのが「縦割り医療」(「科」ごとの医療)の欠点です。例えば、耳鼻科に花粉症で受診した人は、鼻症状(と結膜炎症状くらい)は診てもらえますが、皮膚は診てもらえない(花粉で顔面に湿疹が起こることは珍しくない)のです。一方、花粉で湿疹が起こる人が皮膚科を受診すると、もちろん皮膚は診てもらえますが同時に生じている咳は相談できないのです(花粉が原因で咳や咽頭痛が生じることはよくある)。
忙しい患者さんがいろんな診療科を受診しなければならないのは現実的ではありません。特に花粉症は多彩な症状を呈しますから、もしも臓器別に診療科を受診するとなると、眼科、耳鼻科、皮膚科、呼吸器内科のそれぞれに行かなければならなくなります。花粉が原因で微熱、倦怠感が生じることもあります。花粉が原因と断定できないけど不眠で悩まされる、といったこともあるでしょう。これらをすべて相談できる医療機関が絶対に必要と考えたために、開院前からアレルギーを総合的に捉える癖をつけていたのです。
谷口医院に研修・見学に来る研修医や医学生に「GP(総合診療医)はアレルギーをトータルで診なければならない」と口うるさく言っているのはこのような理由からなのです。
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|2019年2月24日 日曜日
第186回(2019年2月)子供を襲う重症感染症エンテロウイルスD68の謎
前回の「はやりの病気」ではWHOが「2019年の世界の10の脅威」(Ten threats to global health in 2019)を発表したという話をしました。その10項目を簡単に振り返っておくと次のようになります。
#1 大気汚染と地球温暖化
#2 非感染性疾患(主に生活習慣病)
#3 インフルエンザ
#4 脆弱な環境(干ばつ、食糧不足など)
#5 薬剤耐性
#6 エボラウイルスなど高致死性の感染症
#7 脆弱な公衆衛生
#8 ワクチンへの抵抗
#9 デング熱
#10 HIV
今回は、まずCDC(米国疾病対策センター)が発表した「2018年の健康上の脅威」について紹介したいと思います。
#1 麻薬などの薬物過剰摂取
#2 食中毒(2018年、米国ではロメインレタスの大腸菌感染が注目されました)
#3 AFM(急性弛緩性脊髄炎)
#4 エボラ出血熱
#5 C型肝炎ウイルス
#6 性感染症
#7 自殺
#8 生活習慣病
#9 他国の公衆衛生
#10 薬剤耐性
#11 結核
WHO、CDCの両者を比べると、まず感染症の多さが目立ちます。WHOでは10項目のうち6項目が、CDCでは11項目のうち7項目が感染症です。興味深いことに、両者に共通して挙げられているのはエボラウイルスと薬剤耐性の2つだけです。
そろそろ本題に入りましょう。今回お話するのはCDCが3番目に挙げているAFM(急性弛緩性脊髄炎)です(ここからは単に「AFM」とします)。
この疾患、メディアではあまり取り上げられませんし、頻度としてはさほど多いわけでもないのですが、いまだに原因もはっきりとわかっておらず治療法もないために非状に厄介な疾患です。そして、これについては過去の「はやりの病気」第150回(2016年2月)「エンテロウイルスの脅威」で一度紹介しています。
まず、簡単にこの疾患をまとめておきます。
2014年夏、米国で突然エンテロウイルスD68(以下「EV-D68」)による重症呼吸器疾患の報告が相次ぎました。その後手足が動かなくなるような神経症状が生じる例が多く、これらはAFM、または急性弛緩性麻痺(AFP、以下「AFP」とします)と診断されました。2015年1月15日までに、呼吸器疾患を発症してEV-D68が検出された患者は49州で1,153人(AFM/AFPを発症していない患者も含めて)となり、うち14人が死亡しました。
米国での流行開始からおよそ1年後の2015年8月、日本でも麻痺症状(手足が動かなくなるなどの神経症状)を有するEV-D68の報告が突然急増しだしました。厚生労働省は、2015年10月21日、「急性弛緩性麻痺(AFP)を認める症例の実態把握について(協力依頼)」という事務連絡を発令し、全国の小児科医療機関に依頼をおこないました。
日米とも突然患者数が増えだし、しかも治療法がない重症化する疾患です。これ以上増加するようなことがあれば両国とも国中がパニックになることが予想されました。ところが、その後感染者の報告は減少していきました。
ところが、です。いったんおさまりかけていたEV-D68によるAMFが2018年に日米両国で再び増加しだしたのです。
ここでいったん言葉を整理しておきます。AFMのMは「脊髄炎(myelitis)」で脊髄の炎症を指しますが、麻痺症状も呈します。つまりAFMはAFPの一部(AFM<AFP)です。AFMはEV-D68によるものだけでなくポリオウイルスやD68でないエンテロウイルス(例えばエンテロウイルスA71)なども含みます。AFPに含まれるがAFMでない疾患にはボツリヌス症やギラン・バレー症候群があります。この時点ですでにかなりややこしいですが、さらに話は複雑になります。一応診断基準はあるのですが、「脊髄の炎症」を証明するのは簡単ではなく、AFMに入れていいかどうか判断に困るAFPもあります。それから、これは私の印象ですが、米国の方が日本よりも積極的にAFMの診断をつけているように思えます。もっとややこしい話をすると、EV-D68による麻痺症状は通常の麻痺のように左右対称とならないケースが多いことが報告されています。片側の麻痺だと乳幼児の場合は診断が困難になり、重症例もありますが軽症もありますから、診断がついていないケースも日米ともそれなりにあるのではないかと私はみています。そして、症状と状況からEV-D68感染が疑われるのに、いくら調べてもこのウイルスが検出されないケースもそれなりにあります。
複雑すぎて書いている私が混乱しそうになるほどです……。こういうときは思い切って簡略化しましょう。重要なのは、1)EV-D68が原因の可能性のある麻痺症状を呈する重篤な感染症が小児の間で3~4年ぶりに流行した、2)治療法はなく重症化する例がある、という2つです。
どれくらい増えているかを確認しておきましょう。CDCのサイトによると、2018年1年間で215例のAFMが確定されています。症状から疑われた例は合計371例あったようです。それまでのAFM確定例は、2014年120例、2015年17例、2016年39例、2016年16例です。つまり、大きく話題になった2014年の3倍以上のケースが2018年に報告されているのです。
日本はどうでしょうか。日本では届出がAFMではなくAFPとなっているために、単純に米国とは比較できないのですが、流行が始まった2015年が115例で、2018年はそれを上回る136例(12月16日まで)が報告されています。
では、CDCが2018年の健康上の「脅威」として取り上げたこの疾患を防ぐ方法はないのでしょうか。すべての症例でEV-D68が検出されたわけではありませんから、依然原因も”不明”と言わざるをえません。ということは、当然ワクチンはありません。ではどうすればいいのでしょうか。
CDCが公表している一般向けの案内から抜粋してポイントを紹介しておきます。
まず、AMFを発症した患者の90%は麻痺症状が起こる前に風邪の症状を呈しています。ということは、一般的な「風邪の予防」が大切ということになります。実際CDCは、通常の風邪と同様、手洗い、不潔な手で顔を触らない、風邪症状を有している他人に近づかない、といった一般の対処法を推薦しています。
次に神経症状が出現すれば直ちに医療機関を受診することが必要です。具体的には、手足を動かしにくい(片側でも)、眼球が動かない、まぶたが落ちてくる、飲み込みにくい、声を出しにくい、などです。治療のガイドラインはなく画一した治療法はありませんが、(小児)神経内科専門医により個別に対応した治療をおこなうことになります。理学療法や作業療法といったリハビリが有効なこともあります。
日米ともAMFが流行りだすのは夏です。インフルエンザの流行が去った後も、手洗いが重症なことは変わりません。
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参考:毎日新聞「医療プレミア」実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-
手足口病のウイルスが世界の脅威へ エンテロウイルスの謎【前編】(2016年2月28日)
日本でも次第に増大するリスク エンテロウイルスの謎【後編】(2016年3月6日)
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|2019年1月19日 土曜日
第185回(2019年1月) 避けられない大気汚染
四日市ぜんそくを代表とする大気汚染が社会問題となったのはもはや遠い昔の話で、今や日本は「世界で最も空気のきれいな国」と呼ばれることすらあります。私の知人の外国人は、口をそろえて「東京は空気がきれい」と語ります。東京に限らず日本国内では工場のせいで空気が汚染されていると感じることなどほぼ皆無です。
一方、海外に行くと空気の汚さに辟易としてしまうことが多々あります。そして、「海外」とは中国や東南アジアだけではありません。欧米諸国であっても東京と比べると空気は汚れていて、それを裏付けるデータもあります。
医学誌『The Lancet』2018年11月14日号(オンライン版)に「ロンドンの低排気ガス地域における空気の質と子供の呼吸の研究(Impact of London’s low emission zone on air quality and children’s respiratory health: a sequential annual cross-sectional study)」というタイトルの論文が掲載されました。
この研究の対象はロンドン在住の小学生2,164人です。ロンドンでは2008年に一部の地域が「低排気ガス地域」(low emission zone)に指定されており、そこに住所がある小学生に対し、2009年から2014年に肺の機能と排気ガスの関係が調べられています。
結果、5年間で肺活量が5%も低下していたことが分かりました。ここで言う肺活量は正確には「努力性肺活量(forced vital capacity)」 で、医療者がFVCと呼んでいるものです。喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)があり、息を吸ったり吐いたりする検査を受けたことがある人はこのFVCという単語を聞いたことがあるかもしれません。簡単にいうと、胸いっぱい空気を吸い込んだところから思いっきり一気に吐き出したときの空気の量のことです。これが5%も低下したというのはとても大きな問題です。老人が長年の喫煙のせいで低下したのなら仕方ありませんが、これは小学生の話です。スポーツで不利になるのは明らかですし、この時期にこれだけの低下があるということは将来、肺の病気のリスクが増加するに違いありません。
そして、この研究は「低排気ガス地域」でのものです。この地域における微粒子の測定では5年間でわずかではありますが改善しています。つまり空気が少しはきれいになっているということです。にもかかわらず小学生の呼吸機能は低下しているのです。ということは、依然規制がないところではさらに悪化していることが予想されます。
私はロンドンには90年代後半に一度行ったことがあるだけですが、そのときの記憶では、空気はきれいとは言えないにしても不快極まるとまでは感じませんでした。少なくとも、現在のバンコクやホーチミン、上海などよりははるかにましです。
太融寺町谷口医院の患者さんは若い人が多いため、出張や観光などで海外に行く人が多数います。そして、喘息や慢性気管支炎がある患者さんのなかに「渡航すると必ず悪化する」という人が少なくありません。実際、世界で最も大気汚染がひどいと言われているインドと中国では、それぞれ年間161万人、158万人が大気汚染により死亡しているという報告もあります。
IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)の報告によれば、世界では毎年550万人が大気汚染により死亡しています。
そして、偶然にもこのコラムを書いているとき、WHOが「2019年の世界の10の脅威」(Ten threats to global health in 2019)を発表しました。その筆頭に挙げられているのが「大気汚染と温暖化」(Air pollution and climate change )です。ちなみに残りの9つは、非感染性疾患(Noncommunicable diseases)、インフルエンザの世界的流行(Global influenza pandemic)、脆弱で心許ない環境(Fragile and vulnerable settings)、 薬剤耐性(Antimicrobial resistance)、エボラウイルスなどの高致死率の感染症(Ebola and other high-threat pathogens)、脆弱な公衆衛生(Weak primary health care)、ワクチンへの抵抗(Vaccine hesitancy)、デング熱(Dengue)、HIVです。
大気汚染と温暖化についてのWHOのコメントをまとめてみます。
・世界の10人に9人が汚染された空気を毎日吸っている
・大気汚染は2019年の最大の環境リスクである
・汚染された大気に含まれる微粒子は肺から吸収され全身に及び、肺疾患の他、心疾患、脳疾患を発症させる。がん、脳卒中などの原因にもなり年間700万人の命を奪っている
・死亡者の9割は低所得もしくは中所得の国に住む人たちである。こういった国の大気汚染は、工業、輸送、農業のみならず、家庭で用いる不衛生なコンロや燃料も原因となっている
・大気汚染は地球温暖化の主たる原因でもある。2030年から2050年の間に、毎年25万人が地球温暖化により生じる疾患、すなわち、低栄養、マラリア、下痢、熱中症などで死亡する
・パリ協定がすべて遵守されたとしても今世紀に3度の気温上昇が生じる
これを読むと「パリ協定を離脱する」と宣言している”かの大国”に「もう一度考え直してください」と訴えたくなります。
日本はどうでしょうか。今のところ、冒頭でも述べたように、日本は世界で最も優秀な国とみられています。ですが、毎年春になると黄砂とPM2.5が大陸からやってきます。残念ながら自然にやってくるものに対してはなす術がありません。PM2.5は中国の工業化が主な原因とされていますが、同国に厳しい規制を求めるのは政治マターですから簡単には進まないでしょう。黄砂については砂漠などから自然発生するものですから、政治的に解決できる問題ではありません。
では我々日本人は大陸からやってくる黄砂やPM2.5に対してどのような対策をとればいいのでしょうか。できるかどうか別にして、リスクが高いのは北・東日本より西日本、太平洋側より日本海側ですから、これらを考慮して居住地を選ぶという考えもでてきます。実際、喘息の患者さんから「福岡に住んでいるときは辛かった」と聞いたことがあります。福岡県の病院を対象とした研究で、黄砂で脳梗塞のリスクが1.5倍にもなるというものもあり、これは過去の記事で紹介しました。
私は以前から福岡県が好きなので、幾分ひいき目に見てしまうのかもしれませんが、福岡滞在時に大気汚染が気になったことはありません。しかしながら、私の経験で言えば、福岡同様に魅力的な鹿児島で、早朝ランニングをしているときに息苦しくなり、ハードコンタクトレンズをしている目に激痛が走ったことがあります。この原因は黄砂でもPM2.5でもなく「火山灰」です。
となると、気になるのは鹿児島県での実際の健康被害の報告です。調べてみると、因果関係は分かりませんが、鹿児島県は人口あたりの喘息罹患率が全国2位、脳梗塞は全国7位とするものがあります。脳梗塞については、あの濃い味(でも美味しい!)が主要な原因かもしれませんが、火山灰が原因の微粒子(PM2.5)も関与している可能性があるのではないでしょうか。ただ、個人的には鹿児島はそういったことを差し引いても魅力のある土地だと思っています。ちなみに、どうでもいい話ですが、鹿児島ファンの私は「与論島慕情」を今もフルコーラスで歌えます…。
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|2018年12月27日 木曜日
第184回(2018年12月)急増する「魚アレルギー」、寿司屋のバイトが原因?
「サバアレルギーだと思います」と言って受診する人を診察すると、実際にサバアレルギーであることは稀であり、他の原因であることが多い、という話を以前書きました(はやりの病気第166回(2017年6月)「5種類の「サバを食べてアレルギー」」)。
そのコラムで述べたように、サバアレルギー疑いの「真犯人」で多いのは、①アニサキスアレルギー(当院ではこれが最多)、②ヒスタミン中毒、③パルブアルブミンなどによるアレルギー(ここからは「魚アレルギー」とします)です。①②は昔から多くあり、珍しいものではないのですが、③については(私の印象では)ここ数年で急激に増えています。
特に根拠があったわけではないものの、「赤魚の煮つけを食べて蕁麻疹」というエピソードを持つ小学生を立て続けに診た経験があり、魚アレルギーは小学生に多いのではないかと以前の私は思っていました。しかし、実際にはそういうわけではなさそうで、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では20代の男女に増えているような印象があります。
魚アレルギーの原因となるタンパク質で最も有名なのはパルブアルブミン、次いでコラーゲンです。パルブパルブミンは多くの魚に含まれていますが、魚の種類で含有量に「差」があり、多いことで最も有名なのが赤魚です。「赤魚を食べて蕁麻疹」とくれば真っ先にパルブアルブミンを疑うことになります。
パルブアルブミンの含有量に差があるなら、少ないものならいいのか、という疑問が出てきます。たしかにある程度はその通りなのですが、では「少ない魚はどれか」「どの程度少なければ食べられるのか」ということを考えなければならずこれが大変です。経験的にもデータ上でもマグロが原因のパルブアルブミンアレルギーはほとんどないとされていて(ちなみにアニサキスアレルギーもマグロには起こりにくい)、これはいいのですが、じゃあ他の魚は、となると信頼できるリストのようなものが(私の知る限り現時点では)ありません。
それに、アレルギーの基本として、アレルギーの程度が強くなればわずかなアレルゲンにも反応するようになってきます。そして、アレルゲンを摂取すればするほどアレルギーの程度が強くなってきます。ならば、それを防ぐために早い段階ですべての魚を禁止すべきか、という議論がでてきます。ですから、パルブアルブミンアレルギーの患者さんにどの程度魚を禁止してもらうかについてはいつも悩まされます。問題はまだあります。パルブミンは白あんにも含まれているのです。つまり、パルブアルブミンアレルギーになってしまえば、白あんを含む食べ物も食べられなくなってしまうのです。
パルブアルブミン以外の魚アレルギーの原因としてコラーゲンが有名です。コラーゲンは多くの魚に含まれていて、「どの魚を食べてもじんましんがでる」という人はコラーゲンが原因であることが多いと言えます。
さて、問題は、「なぜ最近になって魚アレルギーが急増しているのか」ということと「魚アレルギーの発症を予防する方法はないのか」ということです。ここからは私見を述べます。
先述したように、私は自分が診た症例から魚アレルギーは小児に多いと思っていて、その原因として、回転寿司や廉価の寿司屋の普及で子供も寿司を食べる機会が増えたからではないかと考えていました。ところが、最近は20代の男女に多いのです。これは、以前からアレルギーがあって医療機関を始めて受診したのが20代になってから、という意味ではありません。つい最近まで問題なく魚を食べていたのに、ある日突然魚を食べると全身にじんましんが出た、というエピソードなのです。
そして、実はこういう20代の男女にはある「共通点」があります。その共通点とは、「寿司屋でのアルバイト」です。
以前のコラム(はやりの病気第157回(2016年9月)「最近増えてる奇妙な食物アレルギー」)で、ビールアレルギーは過去に居酒屋やビアガーデンでアルバイトをしていた人に多いという話をしました。そのアルバイトで、ビールがこぼれて皮膚に触れた、そしてその皮膚には「炎症」があった、という経験をしているのです。
このサイトを以前から読まれている方にはお馴染みだと思いますが、これは「二重アレルゲン暴露仮説(Dual allergen exposure hypothesis)」で説明できます。詳しくは過去のコラム(たとえば「はやりの病気」第167回(2017年7月)「卵アレルギーを防ぐためのコペルニクス的転回」)の注3をご覧いただきたいのですが、食物は口から入る(食べる)と問題ないが、皮膚から入るとアレルゲンになってしまうというものです。
つまり、ビールが皮膚の炎症を通して皮下に吸収されるとビールアレルギーになるように、魚の成分(パルブアルブミンやコラーゲン)が皮下に侵入すると魚アレルギーとなってしまうというストーリーが考えられるのです。慣れないビアガーデンでアルバイトをすると、誰もが一度はビールをこぼしてしまうという経験をするでしょう。ですが全員がビールアレルギーになるわけではありません。ビールアレルギーになるのは、初めから皮膚に炎症のある人だけであり、一番多いのはアトピー性皮膚炎など慢性の炎症性疾患を持っている人です。
魚アレルギーも同様で、やはりアトピーなどで皮膚に炎症があると、そこからパルブミンやコラーゲンが侵入するのです。炎症があると皮膚の「バリア機能」が損なわれ、そこから「招かれざる客」としてアレルゲンが侵入してしまうというわけです。ということは、アトピーがあると寿司屋(や魚屋)でアルバイトをしない方がいいということになります。しかし、このことをあまり強調すると、アトピーや手湿疹のある寿司屋のアルバイトが一斉に辞めてしまい、店舗が回らなくなるかもしれません。また、アルバイトでなく寿司職人のなかにもアトピー性皮膚炎の人はいるでしょうし、冷たい水を常に使うわけですから手指に湿疹があるという人も大勢いるに違いありません。
最近は寿司屋の店舗数が随分と増えているように思います。私が子供の頃は、寿司というのは「超」が付くほどの高級品であり、めったに食べられるものではありませんでした。何かの祝い事のときに親戚が集まって食べるものというイメージです。18歳になって大阪に出てきたとき、大阪にはこんなにも寿司屋が多く、しかも値段が安いことに驚きました。何しろおなかいっぱい食べても一人2千円くらいで済むのです。しかし、昭和の終わりのこの頃も、現在のような大型の回転寿司はほとんどなかったはずです。それから、以前は寿司を握るのは熟練の寿司職人であり、何年もの間下積みの修行を重ねねばならず、お客さんの前で寿司を握れるようになるのは十年近くたってからだという話を聞いたことがあります。
すし屋の店舗数が増え、誰もが気軽に食べられるようになり、さらに寿司屋での仕事が「熟練」を求めなくなった結果、何が起こったか。それは「気軽に始められるアルバイトとしての寿司屋勤務」で、その結果生じたのが「魚アレルギー患者の急増」というわけです。
もしもあなたが慢性の皮膚疾患をもっているなら、魚を触る仕事やアルバイトは控えた方がいいかもしれません。すでに仕事をしているという人は、しっかりと治療をしてバリア機能を万全の状態にしておく必要があるでしょう。
「二重アレルゲン暴露仮説」はもはや「仮説」ではなく「真実」ではないのか、というのが私の考えです。ビール、魚以外では、ココナッツアレルギーが増えているという報告もあります。おそらく、ココナッツを含むボディオイルや化粧品を使った結果ではないでしょうか。
我々は「茶のしずく石鹸」から学んだ経験を忘れてはいけません。
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|2018年11月26日 月曜日
第183回(2018年11月) 誤解だらけのインフルエンザ~ゾフルーザは時期尚早~
私が早く開業をしたいと思った理由のひとつが「正しいことを伝えたい」ということです。これだけ情報化社会が発達しても、医学部で習う基本的なことが世間では誤解されていて、しかもテレビのパーソナリティや近所のおばちゃんの言っていることが正しいと信じ、医療者が言うことを信用しないひとが今も多数います。勤務医時代にこのことを不思議に感じた私は「医師の伝え方がまずいのではないか」と思うようになり、「ならば自分が今までにないやり方で正しい事を伝えようではないか」と考えたのです。
もちろん現代の医学は万能からは程遠く、分からないことがたくさんあり、また有効な治療法がない疾患もあります。基礎的な理論ですら、後になって間違っていたことが判った、ということもあります。ですから、医師の言っていることがいつも正しいということはありません。ただ、我々医師は分からないことが多数ある、という前提でいつも医学を考えています。
前置きが長くなりましたが、今回はインフルエンザの話です。太融寺町谷口医院がオープンしたのは2007年1月で、ちょうどインフルエンザが流行している時期でした。開業した最初の3ヶ月くらいはまだ今のように混雑しておらず、ある程度時間をとって話すことができました。そのため、罹患した患者さんにはそれなりに時間を確保して、インフルエンザの正しい知識を伝えることに努めました。
先に「医学は万能ではなく分からないことが多数ある」と述べましたが、インフルエンザについては、現在分かっていることもたくさんあります。その後新たに登場した薬のことも含めて、私が12年間言い続けていることでいまだに誤解が多いものをいくつか紹介したいと思います。
・抗インフルエンザ薬にはタミフル(一般名はオセルタミビル)などがある。服薬することにより少し(具体的には1日からせいぜい2日)治癒するまでの期間が短くなる。
・インフルエンザに罹患したからといって必ずしも抗インフルエンザ薬は必要ない。健常な成人であれば高熱と倦怠感で苦しめられていても数日間寝ていれば治る。
・インフルエンザに最も有効な対処法はワクチンであり、原則としてすべての人に推薦される(ただし妊娠中の女性には慎重に、という意見は2009年までは確かにありました)。
・インフルエンザのワクチンは接種しても感染する。目的は、①感染の可能性が低下する、に加え、②感染しても重症化が防げる、と、③他人へ感染させるリスクを下げる、であり、③が最も重要。
他には、インフルエンザの検査は必ずしも勧められない、インフルエンザの可能性があればアスピリンやボルタレンなどの鎮痛剤はNG(飲んでいいのはアセトアミノフェンのみ)、学生の場合は学校保健安全法により出席ができない(が、会社員は会社が決める)、飛行機には乗れない場合がある(航空会社が決める)、治癒証明書は不要(厚労省も指針を表明しています)、予防薬は例外を除けば使うべきでない、といったことも多くの患者さんに説明してきました。
それらをここですべて説明する余裕はありませんが、インフルエンザという疾患は他の病気に比べて「誤解」が非常に多いのは間違いありません。そして、今年は新薬の「ゾフルーザ」(一般名はバロキサビルマルボキシル)に伴う「新たな誤解」が早くも流布しています。実際、すでに診察室でも患者さんから誤った意見を聞いています。その誤解を解いていきましょう。
まず、そもそもなぜ人は誤解をするかというと、間違った情報が流れているからです。悪意のあるフェイクニュースでなくとも、きちんと検証されたわけではない情報が飛び交っている結果、誤解が誤解を生んでいるのです。ゾフルーザに伴う具体的な「誤解」を紹介しましょう。
【誤解1】ゾフルーザは従来の抗インフルエンザ薬(タミフル、イナビル、リレンザ、ラピアクタ)よりも、よく効いて早く治る
【誤解2】ゾフルーザの副作用は抗インフルエンザ薬のなかで最も少ない。他の薬より早く効いて副作用が最小なのだから、近いうちに他の抗インフルエンザ薬はなくなる。
【誤解3】ワクチンをうつよりも、インフルエンザが流行りだせばゾフルーザを1回飲む方がいい。
順にみていきましょう。【誤解1】については大手メディアでさえもそのように報じています。たしかに作用機序から考えて、従来の抗インフルエンザ薬に比べるとゾフルーザが早く効く可能性があり、そのような研究もあります。ですが、研究にはエビデンス(科学的確証)がなければなりません。ゾフルーザが市場に登場したのは2018年3月で、このときには信頼できるデータがありませんでした。他の抗インフルエンザ薬との比較に関する信ぴょう性の高い論文はようやく2018年9月に登場しました。
医学誌『New England Journal of Medicine』2018年9月6日号に「成人患者と10代患者を対象とした合併症のないインフルエンザに対するゾフルーザ」というタイトルの論文が掲載されました。『New England Journal of Medicine』は世界で最も信頼できる医学誌のひとつであり、エビデンスレベルの高いものしか掲載されません。この論文によれば、ゾフルーザにより症状を1日短くしますが、これはタミフルと同様です。
つまり、きちんと検証した結果、「ゾフルーザでもタミフルなど他の抗インフルエンザ薬でも治るまでの期間は変わらない」ことが判ったのです。ゾフルーザは1回飲むだけだから簡単という声もありますが、それならば1回吸うだけのイナビルと差がありません。ただし、同論文によれば、ウイルスが検出される期間はタミフルよりも2~3日短くなっています。これは他人への感染リスクを下げますからゾフルーザの大きな利点となります(しかし、この点を強調した一般のメディアによる報道を私はいまだに見ていません)。
次いで【誤解2】をみていきましょう。安全性については、たしかにこの論文で「有意差をもってタミフルよりも副作用が少なかった」とされています。ですが、安全性についてこの時点で断言するのは時期尚早です。なぜなら、基本的にこの研究も含めてこれまでゾフルーザは健常人を対象にした調査しかされていないからです。我々が知りたいのは、例えば抗がん剤を服用しているとか、腎機能が低下しているとか、ステロイドを飲んでいるとか、そういった人たちに対する副作用です。ですから、この時点でゾフルーザが安全と断言するのは危険です。
【誤解3】は論外です。このような飲み方を勧める医師は(おそらく)世界中に一人もいません。抗インフルエンザ薬の予防投与は例外的に認められていますが(参照:インフルエンザの薬の予防投与はできますか。)、ゾフルーザの予防投与は有効性・安全性が確立されていません。
予防にゾフルーザを用いるべきでないはっきりとした理由があります。そしてこの理由が、我々がゾフルーザを治療にも積極的に使用しない最大の理由のひとつであり、先述の論文が明らかにしました。それは「約1割にウイルスの遺伝子変異がみつかり、ウイルス排出期間が長引き治癒が遷延した」ということです。分かりやすく言えば「使用者の1割はゾフルーザを飲むことでゾフルーザが効かなくなり治るのに時間がかかる。さらに、その効きにくくなったウイルスが周囲にばらまかれることになり、いずれゾフルーザが無効なインフルエンザが蔓延する可能性がある」ということです。
つまり、我々医療者はゾフルーザに期待はしていますが、どうしても必要な症例に適応を絞ることを考えているのです。むやみに使うと、いざというときに効かないウイルスだらけになってしまっている可能性があるからです。
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|2018年10月22日 月曜日
第182回(2018年10月) 糖質制限食の行方 その3
久しぶりに糖質制限の話をしたいと思います。「糖質制限食の行方 その1」「 糖質制限食の行方 その2」を公開したのがそれぞれ2012年7月、2013年2月ですから、マンスリーのコラムというかたちでは5年8か月ぶりということになります。
その後世界中でいろんな議論がおこなわれ、今も糖質制限は医学界で最も物議をかもしているトピックスのひとつです。医師のなかにも賛成派、反対派がいて、ときに激しい論争となることもあります。以前、私はある学会で賛成派と反対派の非常に激しい応戦を見て辟易としたことがあります。
さて、5年8か月の流れをざっと(私見を入れながら)振り返ってみたいと思います。
まず、日本糖尿病学会の見解としては、実は「その2」を公開した2013年2月からほとんど変わっていません。「その2」では、2013年1月に開催された第16回日本病態栄養学会年次学術集会で日本糖尿病学会が「糖質制限を勧めない。今後の検討課題とする」というようなコメントをしたことを紹介しました。
実際、2013年3月に同学会は「炭水化物を極端に制限して減量を図ることは、効果そのものや、長期的な食事療法としての遵守性や安全性などを担保するエビデンスが不足しており、現段階では勧められない」と発表しました。つまり、「糖質制限を推奨しない」ことを明言したのです。その後、同学会の会員のなかにも糖質制限を患者に勧めるという医師が増えてきていますが、学会全体としては依然従来の方針を変えていません。
一方、推奨派の医師たちは日本を含め世界中の研究で糖質制限の有効性は証明されてきていると主張します。最もよく引き合いに出される研究のひとつに「DIRECT試験(Dietary Intervention Randomized Controlled Trial)」というものがあります。この研究は一流の医学誌「New England Journal of Medicine」に2008年掲載された非常に有名なものなので簡単に振り返っておきましょう。
・研究の対象者:肥満か糖尿病のある合計322人。正確には「40~65歳でBMI27kg/m2以上」または「2型糖尿病または冠動脈疾患を有する」に当てはまる男女。
・研究期間:2005年7月~2007年6月の2年間
・方法:対象者を「低脂肪食」「低炭水化物食」「地中海食」のいずれかに無作為に割り付けてそれらの食事を摂ってもらう
・結果
#1 体重変化
低脂肪食群:-2.9kg (男性:-3.4kg、女性:-0.1 kg)
低炭水化物食群:-4.7kg (男性:-4.9kg、女性:-2.4kg)
地中海食群:-4.4kg (男性:-4.0kg、女性:-6.2kg)
#2 中性脂肪(TG)
低脂肪食群:-2.8mg/dL
低炭水化物食群:-23.7mg/dL
地中海食群:-21.8mg/dL
#3 空腹時血糖及びHbA1C:全群で低下。群の間に有意差なし。
糖質制限推奨派の多くの医師は、この研究を引き合いに出して糖質制限の有効性を主張します。体重も中性脂肪も明らかな有意差を持って、低炭水化物(と地中海食)が低脂肪食よりも有効だからです。
最近発表された糖質制限を危険とする研究を紹介します。2018年8月16日、著名な医学誌「The Lancet Public Health」に掲載された論文です。実は、糖質制限の危険性を指摘する研究は過去に何度も発表されているのですが(先述の「糖質制限食の行方 その1」「 糖質制限食の行方 その2」参照)、この論文は大規模であることに加え、結果がクリアカットに糖質制限を否定するものであったことから、(おそらく日本も含めて)世界中の医療系メディアが報道し話題となりました。この研究を簡単にまとめてみましょう。
・研究の対象者:15,428人(45~64歳の米国人の男女)
・研究期間:約25年間。その間に6,283人が死亡
結果は、興味深いことに、炭水化物の摂取量と平均余命の間に「U字形の関連性」を認めました。つまり、炭水化物(≒糖質)摂取量が少ない人(炭水化物からの摂取カロリーが全体の40%未満)と、多い人(炭水化物から70%以上)は、中程度の摂取の人(50~55%)の人と比較して、死亡リスクが高かったのです。
これまでの糖質制限を否定する研究でも大規模のものはありましたが、この研究が注目されているのは、これほどまでにはっきりと糖質制限の危険性を示したものはおそらく他にはないからです。
ただし、この研究をそのまま受け止めるには少し問題があります。たしかに、先に述べた糖質制限を肯定する2008年の研究は対象者が”わずか”322人で、この糖質制限をはっきりと否定した研究の対象者は15,428人と約50倍もの差があります。ですが、統計学を勉強したことがある人には自明だと思いますが、前者の研究は「前向き研究」で後者は「後向き研究」です。つまり、統計学的な信ぴょう性は前者の研究の方が遥かに高いのです。
どういうことかと言えば、後者の、つまり糖質制限を否定する研究では、対象者がそれまでに食べてきたものを思い出して記録します。そこにはいくらかの「恣意性」が介入してしまいます。研究者にもいくらかの恣意が入っている可能性を否定できないでしょうし、例えば対象者が糖質制限否定派だったとしたら「自分は健康で長生きしているから糖質を適度に摂取しているに違いない」と思い込んでいる可能性があります。この可能性が過去に食べたものを思い出すのに影響するのです。
それから、この研究の「欠点」を挙げるとすれば、糖質の分類がおこなわれていないことです。例えば、ケーキ、ドーナツ、ポテトチップス、ラーメン、ハンバーガーとフレンチフライ、などは誰が見ても健康に良くない糖質ですが、リンゴやオレンジなどのフルーツ、あるいはヤマイモやニンジンはどうでしょう。やはり、これらはきちんと分類して検討すべきです。
一方、糖質制限賛成派がよく言う「糖質以外なら何を食べてもいい」という考えも危険です。私がきちんと調べたわけではありませんが、糖質制限賛成派で自らも糖質制限で大きく減量に成功したジャーナリストの桐山秀樹が心筋梗塞で亡くなったのは、糖質制限のおかげで血糖値は正常だったものの、LDLコレステロールが高値だったという噂があります。LDLは心筋梗塞の最大のリスク要因のひとつです。
実は、糖質制限を開始し体重と血糖値は改善したもののLDLがかえって上昇したという人は太融寺町谷口医院の患者さんにも少なくありません。LDLは薬で下げればいい、と簡単に考えている人もいますが、やはり食事のバランスは大切です。糖質制限を含め、食事療法を実践する場合、日々の血圧測定や定期的な血液検査なども不可欠となります。監督する者がいない状況での糖質制限はやはり危険と考えるべきでしょう。
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|2018年9月21日 金曜日
第181回(2018年9月) 混乱する肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌ワクチンについていろんな噂や情報が飛び交っています。「2種類のワクチンはどちらがいいの?」「なんで64歳はうてないんだ?」「強い方のワクチンは子供と高齢者はうてるのに成人は未認可とはどういうことだ!」「追加接種をすべきかについて医師によって言うことが違う!」…、などなど。今回はこれらをすっきりとまとめてみましょう。
まずは、肺炎球菌とはどのような細菌なのかについて簡単にまとめておきましょう。この細菌は、例えばコレラ、赤痢、腸チフスといった高い病原性を持ち健常者をも死に至らしめるようなタイプの細菌ではなく、小児も含めて多くの人が鼻腔や咽頭に持っているものです。人に利益をもたらすわけではなく、これから述べるように時に”殺人細菌”と化すわけですが普段はある意味でヒトと「共生」していると言えるかもしれません。
肺炎球菌には多数の種類があり現在90以上のサブタイプがあることが分かっています。イメージとしては、このサイトで何度も紹介しているHPVと似ています。細かいことを言えばHPVと肺炎球菌はまったく異なるもので同列で考えるべきではないのですが、「多くのタイプがありその番号によって病原性が違う」のは同じだと思っていいでしょう。肺炎球菌は顕微鏡で観察することができます。「ここにうつっているのが肺炎球菌で間違いない!」と断定することは困難なのですが、グラム陽性(グラム染色で濃い青に染まる)の球菌(丸い菌、ただし私の印象では楕円形に近い)が2つペアになってみえます。これを「グラム陽性双球菌」と呼びます。
肺炎球菌が牙を向くのは免疫が弱っているときです。どんなときかというと、ひとつは、まだ免疫システムが確立していない時期、つまり小児期です。もうひとつは加齢で免疫が低下する時期、すなわち高齢期です。また、成人であったとしても何らかの理由で免疫力が低下した場合も要注意です。具体的には心臓や肺、肝臓、腎臓などに重症の病気がある人、重症の糖尿病の人、HIV陽性の人などです。交通事故などで脾臓を摘出している人も要注意です。脾臓はあまり目立たない臓器ですが、免疫系に重要な臓器で、脾臓のない人が肺炎球菌に感染すると数日間で命を失うこともあります。また、稀ではありますが生まれつき脾臓がない人もいます。
日本で肺炎球菌のワクチンが導入されたのは高齢者よりも小児が先でした。2010年に7価肺炎球菌結合型ワクチン(「PCV7」、商品名は「プレベナー7」です)が任意接種として導入されました。肺炎球菌は小児を死に至らしめることもある重要な細菌感染症ですが、小児の細菌感染症にはもうひとつ重要なものがあります。それは「インフルエンザ桿菌(Hib)」(インフルエンザウイルスとはまったく別の病原体。参照:はやりの病気第76回(2009年12月)「インフルエンザ菌とそのワクチン」)です。小児の細菌性髄膜炎の代表的な起炎菌の2つが肺炎球菌とインフルエンザ桿菌です。名前から考えて多そうな「髄膜炎菌」(参照:はやりの病気第145回(2015年9月)「髄膜炎菌による髄膜炎」)は非常に重症化しやすい細菌ですが頻度はこれら2つほど多くありません。また髄膜炎は細菌性よりもウイルス性の方が多く、ムンプス(おたふく風邪)によるものが有名です。
インフルエンザ桿菌のワクチンが任意接種として導入されたのが2008年で、定期接種となったのが2013年4月です。そしてこのときに肺炎球菌ワクチン(PCV7)も同時に定期接種となりました(ちなみに、この時もうひとつ定期接種になったワクチンがHPVワクチンで、こちらはその2カ月後に「積極的に勧奨しない」とされ接種率が激減しました)。
先述したように肺炎球菌には90種類以上のサブタイプがあります。そのすべてが病原性を持っているわけではありませんが、できるだけ多くのサブタイプをカバーできるワクチンが望まれます。7つでは心許ない、というわけです。そこで、2013年11月より13価(この「価」というのがサブタイプの数に相当すると考えてOKです)のワクチン(「PCV13」、商品名は「プレベナー13」)が登場し、PCV7と入れ替わりました。こうなるとPCV7を済ませた子供(の保護者)は、「PCV13を打ち直してよ」と思いたくなりますが、これは認められていません(自費でなら可能です)。また、後述するPPSV23を追加接種することも任意でなら可能です。
先述したように、肺炎球菌は高齢者にとっても脅威の感染症です。ですから高齢者への定期接種も長年望まれていました。そして、2014年、ついに23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(「PPSV23」、商品名は「ニューモバックスNP」)が65歳以上を対象とした定期接種となりました。ただし、定期接種の対象者は65歳以上全員ではなく、その年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳(及び100歳以上)になる人(及び先述した免疫が低下している人で60~64歳の人、ただし脾摘者は2歳以上なら保険診療で接種可能)に限定されています。ややこしいのは、小児は13価、高齢者は23価と同じ病原体に対するワクチンなのに異なるものが定期接種になったことです。
これら2種のワクチンの違いを解説していきましょう。PCV13(及びPCV7)は「結合型ワクチン」で、PPSV23は「ポリサッカライドワクチン」です。ワクチンについて勉強したことがある人なら「生ワクチン」「不活化ワクチン」という言葉を聞いたことがあると思います。概して言うと「生ワクチン」が強力で「不活化ワクチン」は弱いワクチンと考えてOKです。だから一般に「不活化ワクチン」は3回、4回と回数を増やして打つことが多いのです。「結合型ワクチン」「ポリサッカライドワクチン」はいずれも不活化ワクチンです。これらの違いの説明は専門的になるので省略しますが、結論は「結合型ワクチン」の方が”強力”です。つまり、小児が対象のPCV13の方が、高齢者対象のPPSV23よりも強力なのです。では、なぜ高齢者にはPCV13でなくPPSV23が選ばれたかというと、カバーできる肺炎球菌の種類が多いから、という単純な理由だと思われます。
高齢者用のPPSV23はカバーできる肺炎球菌の種類が多いが、効果はPCV13より弱い。では「弱い」なら追加のワクチン接種は必要ないのか、という疑問がでてきます。それに、例えば現在66歳の人は70歳まで待たねばならず、その間に感染したらどうするのだ、という問題もあります。後者については、行政の立場からすると「予算を考えるとこれが限界。うちたいなら自費でうちなさい」ということなのかもしれません。
追加のワクチンについて考えてみましょう。費用のことはさておき、効果を追求するなら、まず初めからPPSV23単独でなく、PCV13も併用した方がいいんじゃないの?という意見がでてきます。たしかに理論的にはその通りで、日本感染症学会と日本呼吸器学会のメンバーから構成される合同委員会はガイドラインを出しています。
そのガイドラインによると、65歳、70歳、…、などの定期接種該当者は、まずPPSV23を公費で(無料で)接種し、その後1年以上たってからPCV13を任意で接種するか、5年以上経過してからPPSV23をやはり任意で接種するかを推奨しています。66~69歳、71~74歳、…、などの定期接種に該当しない人は、任意でPPSV23を打つ(その後は定期接種者と同じ方法)という方法でもいいし、PPSV23ではなくPCV13を先にうち、6カ月以上たってからPPSV23を任意で打つか4年以内にやってくる定期接種のときに無料で打つかのいずれかを推奨しています。すでにPPSV23を接種している人は、1年以上あけてからPCV13を任意でうつかPPSV23をやはり任意で接種するかが望ましいとしています。これらは2018年までの方法とし、2019年以降は追加接種も定期接種にすべきかを検討します、ということになっています。
2018年9月10日、第11回厚生科学審議会予防接種基本方針部会という会議が開かれました。結論としては「高齢者に対しPPSV23の再接種を推奨しない。またPCV13を(65歳以上の)定期接種にしない」となりました。つまり、行政としては、これまで通り、65歳、70歳、…、になると定期接種でPPSV23をうってください。追加接種はうちたい人だけどうぞ、と言っているわけです。
今回の話は非常にややこしいので最後にまとめておきます。これだけややこしいワクチンを理解するのは相当困難だと思います。かかりつけ医に相談するのが最適でしょう。
・肺炎球菌には90種以上のサブタイプがある。
・肺炎球菌ワクチンにはPCV13とPPSV23の2種類がある(注2)。
・PCV13の方が強力。だが13種しかカバーできない。
・PPSV23はパワーは弱いがカバーできるサブタイプの数が多い(23>13)。
・小児の定期接種はPCV13のみ。2カ月から1歳3カ月までの間に4回接種。
・高齢者の定期接種はPPSV23のみ。対象は65歳、70歳、…、100歳以上。
・高齢者の追加接種には様々な方法がある(本文参照)。
・高齢者以外でも60~64歳の免疫が低下している人は定期接種(無料)可能。
・脾臓摘出者は保険診療で接種可能(3割負担で約1,460円。診察代別途要)。
・60歳未満でも免疫が低下している人(本文参照)はワクチンを検討すべき。
・小児へのPPSV23の追加接種は任意でなら可能。
・PCV13が「認可」されているのは2カ月から6歳未満と65歳以上のみ(注1)。
・PPSVは2歳以上なら何歳でも任意接種可能。
注1:2020年5月29日より、小児・高齢者に限らずリスクのある全年齢が対象となりました
注2:2022年9月26日、15価の結合型ワクチン「バクニュバンス」が承認されました
注3:2024年10月1日、20価の結合型ワクチン「プレベナー20」が発売されました
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