はやりの病気
2019年3月24日 日曜日
第187回(2019年3月) 誤解に満ちた花粉症情報
過去の「はやりの病気」で最後に花粉症を取り上げたのは第53回の2008年1月ですから、それからはや11年が経過したことになります。改めて当時の文章を読んでみると、自分が書いたものなのに、今患者さんに伝えていることと比べて大きな差があることに気づきます。
2008年当時、私が書いた要点をまとめてみたいと思います。
・予防は重要だが限度がある。「帰宅後すぐにシャワー」は実際には困難
・免疫療法はいい方法だが危険性があり安易に勧められない
・中心となる薬は抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻薬
現在の私が患者さんに説明していることを上記と対比して述べてみます。
・予防が一番重要。面倒くさくても「帰宅後すぐにシャワー」を勧める
・免疫療法は最強の治療法。舌下免疫療法は危険性が極めて少ない
・抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイドに加え、抗ロイコトリエン拮抗薬を積極的に使用
花粉症に限らず、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では開院以来治療方針を変えたことはなく、どのような疾患も「予防」が重要であることを繰り返し述べてきています。花粉症に対しても方針は同じなのですが、年々予防の重要性を強調するようになってきました。
その最大の理由は「多くの重症例に遭遇してきたから」です。前回コラムを書いてからの11年間で多くの重症の患者さんが受診されました。ガイドラインに従い治療をおこなっても限度があり、次は内服ステロイドを使うしかない…、というところまで進んだ患者さんも過去に何人かいました。
ですが、ここで内服ステロイドを用いるのではなく、もう一度原点に戻って「花粉対策」をしてもらうと劇的に改善することが何度もあったのです。特に、「帰宅後すぐにシャワー」は、11年前には「現実的でない」と書きましたが、やはりこの効果は絶大です。少し外出しただけで髪を湯で洗うというのは、特に髪の長い女性だと本当に大変です。もっと困るのが、例えば4人家族で自分だけが花粉症という場合です。他の3人が花粉を部屋に持ち込むことを避けねばなりませんから、3人にも「帰宅後すぐにシャワー」をお願いせねばなりません。ですが、これを実践できれば症状が劇的に改善することもよくあるのです。
シャワーの際には「鼻うがい」も勧めています。専用の器材を買ったり生理食塩水をその都度用意したりするのは大変ですから、私は「シリンジでぬるま湯」を勧めています。シリンジとはプラスティック製の注射筒のことで、薬局には売っていないようですが、Amazonなどネット通販で購入できます。これでシャワーのお湯を吸い取って、片方の鼻を指でおさえてもう一方の鼻腔に一気に注入するのです。鼻腔に侵入した花粉を洗い流せるだけでなく、風邪の予防にもなります(ちなみに、私はこの鼻うがいを2012年の12月に始めてから一度も風邪を引いていません)。
シャワーや鼻うがい以前に空気清浄機は必需品ですが、意外なことに、それなりに重症の人でも「置いていない」と言われることがあります。そして、実際、「どんな薬でもよくならない」と言っていた人が「空気清浄機を置いただけで激変しました!」と報告しに来られたことも何度かあります。
次に「免疫療法」の話をしましょう。2008年の時点では「舌下免疫療法」はまだ研究レベルでしたが、2014年から保険診療が開始されました。注射に比べて安全性が高いことは論を待たないのですが、「本当に効くのか」という声がありました。しかし、谷口医院の患者さんでいえば開始してから3年以上経過した半数以上の人が「今年は症状がほぼゼロ」と言っています。当初の予想よりもかなり成績がよさそうです(一方、ダニの舌下免疫療法では「劇的に改善した」と言う人は現時点では少数です)。
免疫療法は注射でも可能ですが、少なくともスギに関しては舌下でこれだけ効果が出ているわけですから、注射による免疫療法はますます下火になっていくでしょう。
注射と言えば、今年は「注射で花粉症を治したい」という声が、例年の数倍はあります。なかでも、「ステロイドを打ってほしい」という声が次から次へと寄せられます。ケナコルトなどのステロイドを1回注射すると1ヶ月程度は花粉症の症状がほぼ消失することから90年代にはしばしばおこなわれていましたが、危険性が高すぎてこれは「絶対にやってはいけない治療」と認識すべきです。過去には強い副作用で生活に支障をきたし、裁判になった例もあります。この場合、患者さんが注射した医師を訴えればほぼ確実に医師が敗訴します。にもかかわらず、これだけ要望が多いのはなぜなのでしょう。しかも、例年このリクエストをされるのは、水商売の仕事をしている人が多いのですが、今年は、一般企業で働く人や学生、専業主婦などからの要望が目立ちます。これはおそらくSNSでそういった情報が広がっているからなのでしょう。
花粉症の注射で年々リクエストが増えているのが「ヒスタグロビン+ノイロトロピン」の皮下注射です。これは、たしかに危険性はほとんどなく、保険診療が認められ費用も安く(1回300円程度)、やはりSNSなどで評判がいいようで、谷口医院にも頻繁に問い合わせがあります。保険診療が認められている安全性の高い治療ですから、要望があればそれに応えるようにはしていますが、この治療はガイドラインに掲載されていないものです。つまり安全性が高いのは事実ですが、有効であるとする高いエビデンス(科学的確証)がないのです。ですから、谷口医院ではこの注射を実施するにしても、ガイドラインどおりの治療と並行しておこなうよう助言しています。
ガイドラインで推奨されている内服薬の抗ロイコトリエン拮抗薬は非常にすぐれた薬剤ですが、2008年当時は花粉症に対してまだ保険適用がなく使えませんでした。当時から気管支喘息には適用があったために、喘息と花粉症の双方がある人にはとてもいい薬剤でした。この薬が花粉症にも使えるようになってからは治療がぐっとおこないやすくなりました。特に1日1回寝る前に飲むタイプの「モンテルカスト」は、眠気などの副作用もほとんどなく(ただし一部の薬とは飲み合わせが悪く注意が必要)、即効性はありませんが、継続して使用すると安定した効果が期待できます。
最後に谷口医院を受診されている患者さんの特徴を紹介しておきます。もともと谷口医院でアレルギー疾患を積極的に診ようと思ったのは、開院前の私の経験がきっかけです。まだ「総合診療」という言葉が一般的でなかった頃から、私は多くの病院・診療所、そして多くの「科」で研修を受けていました。そこで感じたのが「縦割り医療」(「科」ごとの医療)の欠点です。例えば、耳鼻科に花粉症で受診した人は、鼻症状(と結膜炎症状くらい)は診てもらえますが、皮膚は診てもらえない(花粉で顔面に湿疹が起こることは珍しくない)のです。一方、花粉で湿疹が起こる人が皮膚科を受診すると、もちろん皮膚は診てもらえますが同時に生じている咳は相談できないのです(花粉が原因で咳や咽頭痛が生じることはよくある)。
忙しい患者さんがいろんな診療科を受診しなければならないのは現実的ではありません。特に花粉症は多彩な症状を呈しますから、もしも臓器別に診療科を受診するとなると、眼科、耳鼻科、皮膚科、呼吸器内科のそれぞれに行かなければならなくなります。花粉が原因で微熱、倦怠感が生じることもあります。花粉が原因と断定できないけど不眠で悩まされる、といったこともあるでしょう。これらをすべて相談できる医療機関が絶対に必要と考えたために、開院前からアレルギーを総合的に捉える癖をつけていたのです。
谷口医院に研修・見学に来る研修医や医学生に「GP(総合診療医)はアレルギーをトータルで診なければならない」と口うるさく言っているのはこのような理由からなのです。
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|2019年2月24日 日曜日
第186回(2019年2月)子供を襲う重症感染症エンテロウイルスD68の謎
前回の「はやりの病気」ではWHOが「2019年の世界の10の脅威」(Ten threats to global health in 2019)を発表したという話をしました。その10項目を簡単に振り返っておくと次のようになります。
#1 大気汚染と地球温暖化
#2 非感染性疾患(主に生活習慣病)
#3 インフルエンザ
#4 脆弱な環境(干ばつ、食糧不足など)
#5 薬剤耐性
#6 エボラウイルスなど高致死性の感染症
#7 脆弱な公衆衛生
#8 ワクチンへの抵抗
#9 デング熱
#10 HIV
今回は、まずCDC(米国疾病対策センター)が発表した「2018年の健康上の脅威」について紹介したいと思います。
#1 麻薬などの薬物過剰摂取
#2 食中毒(2018年、米国ではロメインレタスの大腸菌感染が注目されました)
#3 AFM(急性弛緩性脊髄炎)
#4 エボラ出血熱
#5 C型肝炎ウイルス
#6 性感染症
#7 自殺
#8 生活習慣病
#9 他国の公衆衛生
#10 薬剤耐性
#11 結核
WHO、CDCの両者を比べると、まず感染症の多さが目立ちます。WHOでは10項目のうち6項目が、CDCでは11項目のうち7項目が感染症です。興味深いことに、両者に共通して挙げられているのはエボラウイルスと薬剤耐性の2つだけです。
そろそろ本題に入りましょう。今回お話するのはCDCが3番目に挙げているAFM(急性弛緩性脊髄炎)です(ここからは単に「AFM」とします)。
この疾患、メディアではあまり取り上げられませんし、頻度としてはさほど多いわけでもないのですが、いまだに原因もはっきりとわかっておらず治療法もないために非状に厄介な疾患です。そして、これについては過去の「はやりの病気」第150回(2016年2月)「エンテロウイルスの脅威」で一度紹介しています。
まず、簡単にこの疾患をまとめておきます。
2014年夏、米国で突然エンテロウイルスD68(以下「EV-D68」)による重症呼吸器疾患の報告が相次ぎました。その後手足が動かなくなるような神経症状が生じる例が多く、これらはAFM、または急性弛緩性麻痺(AFP、以下「AFP」とします)と診断されました。2015年1月15日までに、呼吸器疾患を発症してEV-D68が検出された患者は49州で1,153人(AFM/AFPを発症していない患者も含めて)となり、うち14人が死亡しました。
米国での流行開始からおよそ1年後の2015年8月、日本でも麻痺症状(手足が動かなくなるなどの神経症状)を有するEV-D68の報告が突然急増しだしました。厚生労働省は、2015年10月21日、「急性弛緩性麻痺(AFP)を認める症例の実態把握について(協力依頼)」という事務連絡を発令し、全国の小児科医療機関に依頼をおこないました。
日米とも突然患者数が増えだし、しかも治療法がない重症化する疾患です。これ以上増加するようなことがあれば両国とも国中がパニックになることが予想されました。ところが、その後感染者の報告は減少していきました。
ところが、です。いったんおさまりかけていたEV-D68によるAMFが2018年に日米両国で再び増加しだしたのです。
ここでいったん言葉を整理しておきます。AFMのMは「脊髄炎(myelitis)」で脊髄の炎症を指しますが、麻痺症状も呈します。つまりAFMはAFPの一部(AFM<AFP)です。AFMはEV-D68によるものだけでなくポリオウイルスやD68でないエンテロウイルス(例えばエンテロウイルスA71)なども含みます。AFPに含まれるがAFMでない疾患にはボツリヌス症やギラン・バレー症候群があります。この時点ですでにかなりややこしいですが、さらに話は複雑になります。一応診断基準はあるのですが、「脊髄の炎症」を証明するのは簡単ではなく、AFMに入れていいかどうか判断に困るAFPもあります。それから、これは私の印象ですが、米国の方が日本よりも積極的にAFMの診断をつけているように思えます。もっとややこしい話をすると、EV-D68による麻痺症状は通常の麻痺のように左右対称とならないケースが多いことが報告されています。片側の麻痺だと乳幼児の場合は診断が困難になり、重症例もありますが軽症もありますから、診断がついていないケースも日米ともそれなりにあるのではないかと私はみています。そして、症状と状況からEV-D68感染が疑われるのに、いくら調べてもこのウイルスが検出されないケースもそれなりにあります。
複雑すぎて書いている私が混乱しそうになるほどです……。こういうときは思い切って簡略化しましょう。重要なのは、1)EV-D68が原因の可能性のある麻痺症状を呈する重篤な感染症が小児の間で3~4年ぶりに流行した、2)治療法はなく重症化する例がある、という2つです。
どれくらい増えているかを確認しておきましょう。CDCのサイトによると、2018年1年間で215例のAFMが確定されています。症状から疑われた例は合計371例あったようです。それまでのAFM確定例は、2014年120例、2015年17例、2016年39例、2016年16例です。つまり、大きく話題になった2014年の3倍以上のケースが2018年に報告されているのです。
日本はどうでしょうか。日本では届出がAFMではなくAFPとなっているために、単純に米国とは比較できないのですが、流行が始まった2015年が115例で、2018年はそれを上回る136例(12月16日まで)が報告されています。
では、CDCが2018年の健康上の「脅威」として取り上げたこの疾患を防ぐ方法はないのでしょうか。すべての症例でEV-D68が検出されたわけではありませんから、依然原因も”不明”と言わざるをえません。ということは、当然ワクチンはありません。ではどうすればいいのでしょうか。
CDCが公表している一般向けの案内から抜粋してポイントを紹介しておきます。
まず、AMFを発症した患者の90%は麻痺症状が起こる前に風邪の症状を呈しています。ということは、一般的な「風邪の予防」が大切ということになります。実際CDCは、通常の風邪と同様、手洗い、不潔な手で顔を触らない、風邪症状を有している他人に近づかない、といった一般の対処法を推薦しています。
次に神経症状が出現すれば直ちに医療機関を受診することが必要です。具体的には、手足を動かしにくい(片側でも)、眼球が動かない、まぶたが落ちてくる、飲み込みにくい、声を出しにくい、などです。治療のガイドラインはなく画一した治療法はありませんが、(小児)神経内科専門医により個別に対応した治療をおこなうことになります。理学療法や作業療法といったリハビリが有効なこともあります。
日米ともAMFが流行りだすのは夏です。インフルエンザの流行が去った後も、手洗いが重症なことは変わりません。
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参考:毎日新聞「医療プレミア」実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-
手足口病のウイルスが世界の脅威へ エンテロウイルスの謎【前編】(2016年2月28日)
日本でも次第に増大するリスク エンテロウイルスの謎【後編】(2016年3月6日)
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|2019年1月19日 土曜日
第185回(2019年1月) 避けられない大気汚染
四日市ぜんそくを代表とする大気汚染が社会問題となったのはもはや遠い昔の話で、今や日本は「世界で最も空気のきれいな国」と呼ばれることすらあります。私の知人の外国人は、口をそろえて「東京は空気がきれい」と語ります。東京に限らず日本国内では工場のせいで空気が汚染されていると感じることなどほぼ皆無です。
一方、海外に行くと空気の汚さに辟易としてしまうことが多々あります。そして、「海外」とは中国や東南アジアだけではありません。欧米諸国であっても東京と比べると空気は汚れていて、それを裏付けるデータもあります。
医学誌『The Lancet』2018年11月14日号(オンライン版)に「ロンドンの低排気ガス地域における空気の質と子供の呼吸の研究(Impact of London’s low emission zone on air quality and children’s respiratory health: a sequential annual cross-sectional study)」というタイトルの論文が掲載されました。
この研究の対象はロンドン在住の小学生2,164人です。ロンドンでは2008年に一部の地域が「低排気ガス地域」(low emission zone)に指定されており、そこに住所がある小学生に対し、2009年から2014年に肺の機能と排気ガスの関係が調べられています。
結果、5年間で肺活量が5%も低下していたことが分かりました。ここで言う肺活量は正確には「努力性肺活量(forced vital capacity)」 で、医療者がFVCと呼んでいるものです。喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)があり、息を吸ったり吐いたりする検査を受けたことがある人はこのFVCという単語を聞いたことがあるかもしれません。簡単にいうと、胸いっぱい空気を吸い込んだところから思いっきり一気に吐き出したときの空気の量のことです。これが5%も低下したというのはとても大きな問題です。老人が長年の喫煙のせいで低下したのなら仕方ありませんが、これは小学生の話です。スポーツで不利になるのは明らかですし、この時期にこれだけの低下があるということは将来、肺の病気のリスクが増加するに違いありません。
そして、この研究は「低排気ガス地域」でのものです。この地域における微粒子の測定では5年間でわずかではありますが改善しています。つまり空気が少しはきれいになっているということです。にもかかわらず小学生の呼吸機能は低下しているのです。ということは、依然規制がないところではさらに悪化していることが予想されます。
私はロンドンには90年代後半に一度行ったことがあるだけですが、そのときの記憶では、空気はきれいとは言えないにしても不快極まるとまでは感じませんでした。少なくとも、現在のバンコクやホーチミン、上海などよりははるかにましです。
太融寺町谷口医院の患者さんは若い人が多いため、出張や観光などで海外に行く人が多数います。そして、喘息や慢性気管支炎がある患者さんのなかに「渡航すると必ず悪化する」という人が少なくありません。実際、世界で最も大気汚染がひどいと言われているインドと中国では、それぞれ年間161万人、158万人が大気汚染により死亡しているという報告もあります。
IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)の報告によれば、世界では毎年550万人が大気汚染により死亡しています。
そして、偶然にもこのコラムを書いているとき、WHOが「2019年の世界の10の脅威」(Ten threats to global health in 2019)を発表しました。その筆頭に挙げられているのが「大気汚染と温暖化」(Air pollution and climate change )です。ちなみに残りの9つは、非感染性疾患(Noncommunicable diseases)、インフルエンザの世界的流行(Global influenza pandemic)、脆弱で心許ない環境(Fragile and vulnerable settings)、 薬剤耐性(Antimicrobial resistance)、エボラウイルスなどの高致死率の感染症(Ebola and other high-threat pathogens)、脆弱な公衆衛生(Weak primary health care)、ワクチンへの抵抗(Vaccine hesitancy)、デング熱(Dengue)、HIVです。
大気汚染と温暖化についてのWHOのコメントをまとめてみます。
・世界の10人に9人が汚染された空気を毎日吸っている
・大気汚染は2019年の最大の環境リスクである
・汚染された大気に含まれる微粒子は肺から吸収され全身に及び、肺疾患の他、心疾患、脳疾患を発症させる。がん、脳卒中などの原因にもなり年間700万人の命を奪っている
・死亡者の9割は低所得もしくは中所得の国に住む人たちである。こういった国の大気汚染は、工業、輸送、農業のみならず、家庭で用いる不衛生なコンロや燃料も原因となっている
・大気汚染は地球温暖化の主たる原因でもある。2030年から2050年の間に、毎年25万人が地球温暖化により生じる疾患、すなわち、低栄養、マラリア、下痢、熱中症などで死亡する
・パリ協定がすべて遵守されたとしても今世紀に3度の気温上昇が生じる
これを読むと「パリ協定を離脱する」と宣言している”かの大国”に「もう一度考え直してください」と訴えたくなります。
日本はどうでしょうか。今のところ、冒頭でも述べたように、日本は世界で最も優秀な国とみられています。ですが、毎年春になると黄砂とPM2.5が大陸からやってきます。残念ながら自然にやってくるものに対してはなす術がありません。PM2.5は中国の工業化が主な原因とされていますが、同国に厳しい規制を求めるのは政治マターですから簡単には進まないでしょう。黄砂については砂漠などから自然発生するものですから、政治的に解決できる問題ではありません。
では我々日本人は大陸からやってくる黄砂やPM2.5に対してどのような対策をとればいいのでしょうか。できるかどうか別にして、リスクが高いのは北・東日本より西日本、太平洋側より日本海側ですから、これらを考慮して居住地を選ぶという考えもでてきます。実際、喘息の患者さんから「福岡に住んでいるときは辛かった」と聞いたことがあります。福岡県の病院を対象とした研究で、黄砂で脳梗塞のリスクが1.5倍にもなるというものもあり、これは過去の記事で紹介しました。
私は以前から福岡県が好きなので、幾分ひいき目に見てしまうのかもしれませんが、福岡滞在時に大気汚染が気になったことはありません。しかしながら、私の経験で言えば、福岡同様に魅力的な鹿児島で、早朝ランニングをしているときに息苦しくなり、ハードコンタクトレンズをしている目に激痛が走ったことがあります。この原因は黄砂でもPM2.5でもなく「火山灰」です。
となると、気になるのは鹿児島県での実際の健康被害の報告です。調べてみると、因果関係は分かりませんが、鹿児島県は人口あたりの喘息罹患率が全国2位、脳梗塞は全国7位とするものがあります。脳梗塞については、あの濃い味(でも美味しい!)が主要な原因かもしれませんが、火山灰が原因の微粒子(PM2.5)も関与している可能性があるのではないでしょうか。ただ、個人的には鹿児島はそういったことを差し引いても魅力のある土地だと思っています。ちなみに、どうでもいい話ですが、鹿児島ファンの私は「与論島慕情」を今もフルコーラスで歌えます…。
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|2018年12月27日 木曜日
第184回(2018年12月)急増する「魚アレルギー」、寿司屋のバイトが原因?
「サバアレルギーだと思います」と言って受診する人を診察すると、実際にサバアレルギーであることは稀であり、他の原因であることが多い、という話を以前書きました(はやりの病気第166回(2017年6月)「5種類の「サバを食べてアレルギー」」)。
そのコラムで述べたように、サバアレルギー疑いの「真犯人」で多いのは、①アニサキスアレルギー(当院ではこれが最多)、②ヒスタミン中毒、③パルブアルブミンなどによるアレルギー(ここからは「魚アレルギー」とします)です。①②は昔から多くあり、珍しいものではないのですが、③については(私の印象では)ここ数年で急激に増えています。
特に根拠があったわけではないものの、「赤魚の煮つけを食べて蕁麻疹」というエピソードを持つ小学生を立て続けに診た経験があり、魚アレルギーは小学生に多いのではないかと以前の私は思っていました。しかし、実際にはそういうわけではなさそうで、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では20代の男女に増えているような印象があります。
魚アレルギーの原因となるタンパク質で最も有名なのはパルブアルブミン、次いでコラーゲンです。パルブパルブミンは多くの魚に含まれていますが、魚の種類で含有量に「差」があり、多いことで最も有名なのが赤魚です。「赤魚を食べて蕁麻疹」とくれば真っ先にパルブアルブミンを疑うことになります。
パルブアルブミンの含有量に差があるなら、少ないものならいいのか、という疑問が出てきます。たしかにある程度はその通りなのですが、では「少ない魚はどれか」「どの程度少なければ食べられるのか」ということを考えなければならずこれが大変です。経験的にもデータ上でもマグロが原因のパルブアルブミンアレルギーはほとんどないとされていて(ちなみにアニサキスアレルギーもマグロには起こりにくい)、これはいいのですが、じゃあ他の魚は、となると信頼できるリストのようなものが(私の知る限り現時点では)ありません。
それに、アレルギーの基本として、アレルギーの程度が強くなればわずかなアレルゲンにも反応するようになってきます。そして、アレルゲンを摂取すればするほどアレルギーの程度が強くなってきます。ならば、それを防ぐために早い段階ですべての魚を禁止すべきか、という議論がでてきます。ですから、パルブアルブミンアレルギーの患者さんにどの程度魚を禁止してもらうかについてはいつも悩まされます。問題はまだあります。パルブミンは白あんにも含まれているのです。つまり、パルブアルブミンアレルギーになってしまえば、白あんを含む食べ物も食べられなくなってしまうのです。
パルブアルブミン以外の魚アレルギーの原因としてコラーゲンが有名です。コラーゲンは多くの魚に含まれていて、「どの魚を食べてもじんましんがでる」という人はコラーゲンが原因であることが多いと言えます。
さて、問題は、「なぜ最近になって魚アレルギーが急増しているのか」ということと「魚アレルギーの発症を予防する方法はないのか」ということです。ここからは私見を述べます。
先述したように、私は自分が診た症例から魚アレルギーは小児に多いと思っていて、その原因として、回転寿司や廉価の寿司屋の普及で子供も寿司を食べる機会が増えたからではないかと考えていました。ところが、最近は20代の男女に多いのです。これは、以前からアレルギーがあって医療機関を始めて受診したのが20代になってから、という意味ではありません。つい最近まで問題なく魚を食べていたのに、ある日突然魚を食べると全身にじんましんが出た、というエピソードなのです。
そして、実はこういう20代の男女にはある「共通点」があります。その共通点とは、「寿司屋でのアルバイト」です。
以前のコラム(はやりの病気第157回(2016年9月)「最近増えてる奇妙な食物アレルギー」)で、ビールアレルギーは過去に居酒屋やビアガーデンでアルバイトをしていた人に多いという話をしました。そのアルバイトで、ビールがこぼれて皮膚に触れた、そしてその皮膚には「炎症」があった、という経験をしているのです。
このサイトを以前から読まれている方にはお馴染みだと思いますが、これは「二重アレルゲン暴露仮説(Dual allergen exposure hypothesis)」で説明できます。詳しくは過去のコラム(たとえば「はやりの病気」第167回(2017年7月)「卵アレルギーを防ぐためのコペルニクス的転回」)の注3をご覧いただきたいのですが、食物は口から入る(食べる)と問題ないが、皮膚から入るとアレルゲンになってしまうというものです。
つまり、ビールが皮膚の炎症を通して皮下に吸収されるとビールアレルギーになるように、魚の成分(パルブアルブミンやコラーゲン)が皮下に侵入すると魚アレルギーとなってしまうというストーリーが考えられるのです。慣れないビアガーデンでアルバイトをすると、誰もが一度はビールをこぼしてしまうという経験をするでしょう。ですが全員がビールアレルギーになるわけではありません。ビールアレルギーになるのは、初めから皮膚に炎症のある人だけであり、一番多いのはアトピー性皮膚炎など慢性の炎症性疾患を持っている人です。
魚アレルギーも同様で、やはりアトピーなどで皮膚に炎症があると、そこからパルブミンやコラーゲンが侵入するのです。炎症があると皮膚の「バリア機能」が損なわれ、そこから「招かれざる客」としてアレルゲンが侵入してしまうというわけです。ということは、アトピーがあると寿司屋(や魚屋)でアルバイトをしない方がいいということになります。しかし、このことをあまり強調すると、アトピーや手湿疹のある寿司屋のアルバイトが一斉に辞めてしまい、店舗が回らなくなるかもしれません。また、アルバイトでなく寿司職人のなかにもアトピー性皮膚炎の人はいるでしょうし、冷たい水を常に使うわけですから手指に湿疹があるという人も大勢いるに違いありません。
最近は寿司屋の店舗数が随分と増えているように思います。私が子供の頃は、寿司というのは「超」が付くほどの高級品であり、めったに食べられるものではありませんでした。何かの祝い事のときに親戚が集まって食べるものというイメージです。18歳になって大阪に出てきたとき、大阪にはこんなにも寿司屋が多く、しかも値段が安いことに驚きました。何しろおなかいっぱい食べても一人2千円くらいで済むのです。しかし、昭和の終わりのこの頃も、現在のような大型の回転寿司はほとんどなかったはずです。それから、以前は寿司を握るのは熟練の寿司職人であり、何年もの間下積みの修行を重ねねばならず、お客さんの前で寿司を握れるようになるのは十年近くたってからだという話を聞いたことがあります。
すし屋の店舗数が増え、誰もが気軽に食べられるようになり、さらに寿司屋での仕事が「熟練」を求めなくなった結果、何が起こったか。それは「気軽に始められるアルバイトとしての寿司屋勤務」で、その結果生じたのが「魚アレルギー患者の急増」というわけです。
もしもあなたが慢性の皮膚疾患をもっているなら、魚を触る仕事やアルバイトは控えた方がいいかもしれません。すでに仕事をしているという人は、しっかりと治療をしてバリア機能を万全の状態にしておく必要があるでしょう。
「二重アレルゲン暴露仮説」はもはや「仮説」ではなく「真実」ではないのか、というのが私の考えです。ビール、魚以外では、ココナッツアレルギーが増えているという報告もあります。おそらく、ココナッツを含むボディオイルや化粧品を使った結果ではないでしょうか。
我々は「茶のしずく石鹸」から学んだ経験を忘れてはいけません。
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|2018年11月26日 月曜日
第183回(2018年11月) 誤解だらけのインフルエンザ~ゾフルーザは時期尚早~
私が早く開業をしたいと思った理由のひとつが「正しいことを伝えたい」ということです。これだけ情報化社会が発達しても、医学部で習う基本的なことが世間では誤解されていて、しかもテレビのパーソナリティや近所のおばちゃんの言っていることが正しいと信じ、医療者が言うことを信用しないひとが今も多数います。勤務医時代にこのことを不思議に感じた私は「医師の伝え方がまずいのではないか」と思うようになり、「ならば自分が今までにないやり方で正しい事を伝えようではないか」と考えたのです。
もちろん現代の医学は万能からは程遠く、分からないことがたくさんあり、また有効な治療法がない疾患もあります。基礎的な理論ですら、後になって間違っていたことが判った、ということもあります。ですから、医師の言っていることがいつも正しいということはありません。ただ、我々医師は分からないことが多数ある、という前提でいつも医学を考えています。
前置きが長くなりましたが、今回はインフルエンザの話です。太融寺町谷口医院がオープンしたのは2007年1月で、ちょうどインフルエンザが流行している時期でした。開業した最初の3ヶ月くらいはまだ今のように混雑しておらず、ある程度時間をとって話すことができました。そのため、罹患した患者さんにはそれなりに時間を確保して、インフルエンザの正しい知識を伝えることに努めました。
先に「医学は万能ではなく分からないことが多数ある」と述べましたが、インフルエンザについては、現在分かっていることもたくさんあります。その後新たに登場した薬のことも含めて、私が12年間言い続けていることでいまだに誤解が多いものをいくつか紹介したいと思います。
・抗インフルエンザ薬にはタミフル(一般名はオセルタミビル)などがある。服薬することにより少し(具体的には1日からせいぜい2日)治癒するまでの期間が短くなる。
・インフルエンザに罹患したからといって必ずしも抗インフルエンザ薬は必要ない。健常な成人であれば高熱と倦怠感で苦しめられていても数日間寝ていれば治る。
・インフルエンザに最も有効な対処法はワクチンであり、原則としてすべての人に推薦される(ただし妊娠中の女性には慎重に、という意見は2009年までは確かにありました)。
・インフルエンザのワクチンは接種しても感染する。目的は、①感染の可能性が低下する、に加え、②感染しても重症化が防げる、と、③他人へ感染させるリスクを下げる、であり、③が最も重要。
他には、インフルエンザの検査は必ずしも勧められない、インフルエンザの可能性があればアスピリンやボルタレンなどの鎮痛剤はNG(飲んでいいのはアセトアミノフェンのみ)、学生の場合は学校保健安全法により出席ができない(が、会社員は会社が決める)、飛行機には乗れない場合がある(航空会社が決める)、治癒証明書は不要(厚労省も指針を表明しています)、予防薬は例外を除けば使うべきでない、といったことも多くの患者さんに説明してきました。
それらをここですべて説明する余裕はありませんが、インフルエンザという疾患は他の病気に比べて「誤解」が非常に多いのは間違いありません。そして、今年は新薬の「ゾフルーザ」(一般名はバロキサビルマルボキシル)に伴う「新たな誤解」が早くも流布しています。実際、すでに診察室でも患者さんから誤った意見を聞いています。その誤解を解いていきましょう。
まず、そもそもなぜ人は誤解をするかというと、間違った情報が流れているからです。悪意のあるフェイクニュースでなくとも、きちんと検証されたわけではない情報が飛び交っている結果、誤解が誤解を生んでいるのです。ゾフルーザに伴う具体的な「誤解」を紹介しましょう。
【誤解1】ゾフルーザは従来の抗インフルエンザ薬(タミフル、イナビル、リレンザ、ラピアクタ)よりも、よく効いて早く治る
【誤解2】ゾフルーザの副作用は抗インフルエンザ薬のなかで最も少ない。他の薬より早く効いて副作用が最小なのだから、近いうちに他の抗インフルエンザ薬はなくなる。
【誤解3】ワクチンをうつよりも、インフルエンザが流行りだせばゾフルーザを1回飲む方がいい。
順にみていきましょう。【誤解1】については大手メディアでさえもそのように報じています。たしかに作用機序から考えて、従来の抗インフルエンザ薬に比べるとゾフルーザが早く効く可能性があり、そのような研究もあります。ですが、研究にはエビデンス(科学的確証)がなければなりません。ゾフルーザが市場に登場したのは2018年3月で、このときには信頼できるデータがありませんでした。他の抗インフルエンザ薬との比較に関する信ぴょう性の高い論文はようやく2018年9月に登場しました。
医学誌『New England Journal of Medicine』2018年9月6日号に「成人患者と10代患者を対象とした合併症のないインフルエンザに対するゾフルーザ」というタイトルの論文が掲載されました。『New England Journal of Medicine』は世界で最も信頼できる医学誌のひとつであり、エビデンスレベルの高いものしか掲載されません。この論文によれば、ゾフルーザにより症状を1日短くしますが、これはタミフルと同様です。
つまり、きちんと検証した結果、「ゾフルーザでもタミフルなど他の抗インフルエンザ薬でも治るまでの期間は変わらない」ことが判ったのです。ゾフルーザは1回飲むだけだから簡単という声もありますが、それならば1回吸うだけのイナビルと差がありません。ただし、同論文によれば、ウイルスが検出される期間はタミフルよりも2~3日短くなっています。これは他人への感染リスクを下げますからゾフルーザの大きな利点となります(しかし、この点を強調した一般のメディアによる報道を私はいまだに見ていません)。
次いで【誤解2】をみていきましょう。安全性については、たしかにこの論文で「有意差をもってタミフルよりも副作用が少なかった」とされています。ですが、安全性についてこの時点で断言するのは時期尚早です。なぜなら、基本的にこの研究も含めてこれまでゾフルーザは健常人を対象にした調査しかされていないからです。我々が知りたいのは、例えば抗がん剤を服用しているとか、腎機能が低下しているとか、ステロイドを飲んでいるとか、そういった人たちに対する副作用です。ですから、この時点でゾフルーザが安全と断言するのは危険です。
【誤解3】は論外です。このような飲み方を勧める医師は(おそらく)世界中に一人もいません。抗インフルエンザ薬の予防投与は例外的に認められていますが(参照:インフルエンザの薬の予防投与はできますか。)、ゾフルーザの予防投与は有効性・安全性が確立されていません。
予防にゾフルーザを用いるべきでないはっきりとした理由があります。そしてこの理由が、我々がゾフルーザを治療にも積極的に使用しない最大の理由のひとつであり、先述の論文が明らかにしました。それは「約1割にウイルスの遺伝子変異がみつかり、ウイルス排出期間が長引き治癒が遷延した」ということです。分かりやすく言えば「使用者の1割はゾフルーザを飲むことでゾフルーザが効かなくなり治るのに時間がかかる。さらに、その効きにくくなったウイルスが周囲にばらまかれることになり、いずれゾフルーザが無効なインフルエンザが蔓延する可能性がある」ということです。
つまり、我々医療者はゾフルーザに期待はしていますが、どうしても必要な症例に適応を絞ることを考えているのです。むやみに使うと、いざというときに効かないウイルスだらけになってしまっている可能性があるからです。
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|2018年10月22日 月曜日
第182回(2018年10月) 糖質制限食の行方 その3
久しぶりに糖質制限の話をしたいと思います。「糖質制限食の行方 その1」「 糖質制限食の行方 その2」を公開したのがそれぞれ2012年7月、2013年2月ですから、マンスリーのコラムというかたちでは5年8か月ぶりということになります。
その後世界中でいろんな議論がおこなわれ、今も糖質制限は医学界で最も物議をかもしているトピックスのひとつです。医師のなかにも賛成派、反対派がいて、ときに激しい論争となることもあります。以前、私はある学会で賛成派と反対派の非常に激しい応戦を見て辟易としたことがあります。
さて、5年8か月の流れをざっと(私見を入れながら)振り返ってみたいと思います。
まず、日本糖尿病学会の見解としては、実は「その2」を公開した2013年2月からほとんど変わっていません。「その2」では、2013年1月に開催された第16回日本病態栄養学会年次学術集会で日本糖尿病学会が「糖質制限を勧めない。今後の検討課題とする」というようなコメントをしたことを紹介しました。
実際、2013年3月に同学会は「炭水化物を極端に制限して減量を図ることは、効果そのものや、長期的な食事療法としての遵守性や安全性などを担保するエビデンスが不足しており、現段階では勧められない」と発表しました。つまり、「糖質制限を推奨しない」ことを明言したのです。その後、同学会の会員のなかにも糖質制限を患者に勧めるという医師が増えてきていますが、学会全体としては依然従来の方針を変えていません。
一方、推奨派の医師たちは日本を含め世界中の研究で糖質制限の有効性は証明されてきていると主張します。最もよく引き合いに出される研究のひとつに「DIRECT試験(Dietary Intervention Randomized Controlled Trial)」というものがあります。この研究は一流の医学誌「New England Journal of Medicine」に2008年掲載された非常に有名なものなので簡単に振り返っておきましょう。
・研究の対象者:肥満か糖尿病のある合計322人。正確には「40~65歳でBMI27kg/m2以上」または「2型糖尿病または冠動脈疾患を有する」に当てはまる男女。
・研究期間:2005年7月~2007年6月の2年間
・方法:対象者を「低脂肪食」「低炭水化物食」「地中海食」のいずれかに無作為に割り付けてそれらの食事を摂ってもらう
・結果
#1 体重変化
低脂肪食群:-2.9kg (男性:-3.4kg、女性:-0.1 kg)
低炭水化物食群:-4.7kg (男性:-4.9kg、女性:-2.4kg)
地中海食群:-4.4kg (男性:-4.0kg、女性:-6.2kg)
#2 中性脂肪(TG)
低脂肪食群:-2.8mg/dL
低炭水化物食群:-23.7mg/dL
地中海食群:-21.8mg/dL
#3 空腹時血糖及びHbA1C:全群で低下。群の間に有意差なし。
糖質制限推奨派の多くの医師は、この研究を引き合いに出して糖質制限の有効性を主張します。体重も中性脂肪も明らかな有意差を持って、低炭水化物(と地中海食)が低脂肪食よりも有効だからです。
最近発表された糖質制限を危険とする研究を紹介します。2018年8月16日、著名な医学誌「The Lancet Public Health」に掲載された論文です。実は、糖質制限の危険性を指摘する研究は過去に何度も発表されているのですが(先述の「糖質制限食の行方 その1」「 糖質制限食の行方 その2」参照)、この論文は大規模であることに加え、結果がクリアカットに糖質制限を否定するものであったことから、(おそらく日本も含めて)世界中の医療系メディアが報道し話題となりました。この研究を簡単にまとめてみましょう。
・研究の対象者:15,428人(45~64歳の米国人の男女)
・研究期間:約25年間。その間に6,283人が死亡
結果は、興味深いことに、炭水化物の摂取量と平均余命の間に「U字形の関連性」を認めました。つまり、炭水化物(≒糖質)摂取量が少ない人(炭水化物からの摂取カロリーが全体の40%未満)と、多い人(炭水化物から70%以上)は、中程度の摂取の人(50~55%)の人と比較して、死亡リスクが高かったのです。
これまでの糖質制限を否定する研究でも大規模のものはありましたが、この研究が注目されているのは、これほどまでにはっきりと糖質制限の危険性を示したものはおそらく他にはないからです。
ただし、この研究をそのまま受け止めるには少し問題があります。たしかに、先に述べた糖質制限を肯定する2008年の研究は対象者が”わずか”322人で、この糖質制限をはっきりと否定した研究の対象者は15,428人と約50倍もの差があります。ですが、統計学を勉強したことがある人には自明だと思いますが、前者の研究は「前向き研究」で後者は「後向き研究」です。つまり、統計学的な信ぴょう性は前者の研究の方が遥かに高いのです。
どういうことかと言えば、後者の、つまり糖質制限を否定する研究では、対象者がそれまでに食べてきたものを思い出して記録します。そこにはいくらかの「恣意性」が介入してしまいます。研究者にもいくらかの恣意が入っている可能性を否定できないでしょうし、例えば対象者が糖質制限否定派だったとしたら「自分は健康で長生きしているから糖質を適度に摂取しているに違いない」と思い込んでいる可能性があります。この可能性が過去に食べたものを思い出すのに影響するのです。
それから、この研究の「欠点」を挙げるとすれば、糖質の分類がおこなわれていないことです。例えば、ケーキ、ドーナツ、ポテトチップス、ラーメン、ハンバーガーとフレンチフライ、などは誰が見ても健康に良くない糖質ですが、リンゴやオレンジなどのフルーツ、あるいはヤマイモやニンジンはどうでしょう。やはり、これらはきちんと分類して検討すべきです。
一方、糖質制限賛成派がよく言う「糖質以外なら何を食べてもいい」という考えも危険です。私がきちんと調べたわけではありませんが、糖質制限賛成派で自らも糖質制限で大きく減量に成功したジャーナリストの桐山秀樹が心筋梗塞で亡くなったのは、糖質制限のおかげで血糖値は正常だったものの、LDLコレステロールが高値だったという噂があります。LDLは心筋梗塞の最大のリスク要因のひとつです。
実は、糖質制限を開始し体重と血糖値は改善したもののLDLがかえって上昇したという人は太融寺町谷口医院の患者さんにも少なくありません。LDLは薬で下げればいい、と簡単に考えている人もいますが、やはり食事のバランスは大切です。糖質制限を含め、食事療法を実践する場合、日々の血圧測定や定期的な血液検査なども不可欠となります。監督する者がいない状況での糖質制限はやはり危険と考えるべきでしょう。
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|2018年9月21日 金曜日
第181回(2018年9月) 混乱する肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌ワクチンについていろんな噂や情報が飛び交っています。「2種類のワクチンはどちらがいいの?」「なんで64歳はうてないんだ?」「強い方のワクチンは子供と高齢者はうてるのに成人は未認可とはどういうことだ!」「追加接種をすべきかについて医師によって言うことが違う!」…、などなど。今回はこれらをすっきりとまとめてみましょう。
まずは、肺炎球菌とはどのような細菌なのかについて簡単にまとめておきましょう。この細菌は、例えばコレラ、赤痢、腸チフスといった高い病原性を持ち健常者をも死に至らしめるようなタイプの細菌ではなく、小児も含めて多くの人が鼻腔や咽頭に持っているものです。人に利益をもたらすわけではなく、これから述べるように時に”殺人細菌”と化すわけですが普段はある意味でヒトと「共生」していると言えるかもしれません。
肺炎球菌には多数の種類があり現在90以上のサブタイプがあることが分かっています。イメージとしては、このサイトで何度も紹介しているHPVと似ています。細かいことを言えばHPVと肺炎球菌はまったく異なるもので同列で考えるべきではないのですが、「多くのタイプがありその番号によって病原性が違う」のは同じだと思っていいでしょう。肺炎球菌は顕微鏡で観察することができます。「ここにうつっているのが肺炎球菌で間違いない!」と断定することは困難なのですが、グラム陽性(グラム染色で濃い青に染まる)の球菌(丸い菌、ただし私の印象では楕円形に近い)が2つペアになってみえます。これを「グラム陽性双球菌」と呼びます。
肺炎球菌が牙を向くのは免疫が弱っているときです。どんなときかというと、ひとつは、まだ免疫システムが確立していない時期、つまり小児期です。もうひとつは加齢で免疫が低下する時期、すなわち高齢期です。また、成人であったとしても何らかの理由で免疫力が低下した場合も要注意です。具体的には心臓や肺、肝臓、腎臓などに重症の病気がある人、重症の糖尿病の人、HIV陽性の人などです。交通事故などで脾臓を摘出している人も要注意です。脾臓はあまり目立たない臓器ですが、免疫系に重要な臓器で、脾臓のない人が肺炎球菌に感染すると数日間で命を失うこともあります。また、稀ではありますが生まれつき脾臓がない人もいます。
日本で肺炎球菌のワクチンが導入されたのは高齢者よりも小児が先でした。2010年に7価肺炎球菌結合型ワクチン(「PCV7」、商品名は「プレベナー7」です)が任意接種として導入されました。肺炎球菌は小児を死に至らしめることもある重要な細菌感染症ですが、小児の細菌感染症にはもうひとつ重要なものがあります。それは「インフルエンザ桿菌(Hib)」(インフルエンザウイルスとはまったく別の病原体。参照:はやりの病気第76回(2009年12月)「インフルエンザ菌とそのワクチン」)です。小児の細菌性髄膜炎の代表的な起炎菌の2つが肺炎球菌とインフルエンザ桿菌です。名前から考えて多そうな「髄膜炎菌」(参照:はやりの病気第145回(2015年9月)「髄膜炎菌による髄膜炎」)は非常に重症化しやすい細菌ですが頻度はこれら2つほど多くありません。また髄膜炎は細菌性よりもウイルス性の方が多く、ムンプス(おたふく風邪)によるものが有名です。
インフルエンザ桿菌のワクチンが任意接種として導入されたのが2008年で、定期接種となったのが2013年4月です。そしてこのときに肺炎球菌ワクチン(PCV7)も同時に定期接種となりました(ちなみに、この時もうひとつ定期接種になったワクチンがHPVワクチンで、こちらはその2カ月後に「積極的に勧奨しない」とされ接種率が激減しました)。
先述したように肺炎球菌には90種類以上のサブタイプがあります。そのすべてが病原性を持っているわけではありませんが、できるだけ多くのサブタイプをカバーできるワクチンが望まれます。7つでは心許ない、というわけです。そこで、2013年11月より13価(この「価」というのがサブタイプの数に相当すると考えてOKです)のワクチン(「PCV13」、商品名は「プレベナー13」)が登場し、PCV7と入れ替わりました。こうなるとPCV7を済ませた子供(の保護者)は、「PCV13を打ち直してよ」と思いたくなりますが、これは認められていません(自費でなら可能です)。また、後述するPPSV23を追加接種することも任意でなら可能です。
先述したように、肺炎球菌は高齢者にとっても脅威の感染症です。ですから高齢者への定期接種も長年望まれていました。そして、2014年、ついに23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(「PPSV23」、商品名は「ニューモバックスNP」)が65歳以上を対象とした定期接種となりました。ただし、定期接種の対象者は65歳以上全員ではなく、その年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳(及び100歳以上)になる人(及び先述した免疫が低下している人で60~64歳の人、ただし脾摘者は2歳以上なら保険診療で接種可能)に限定されています。ややこしいのは、小児は13価、高齢者は23価と同じ病原体に対するワクチンなのに異なるものが定期接種になったことです。
これら2種のワクチンの違いを解説していきましょう。PCV13(及びPCV7)は「結合型ワクチン」で、PPSV23は「ポリサッカライドワクチン」です。ワクチンについて勉強したことがある人なら「生ワクチン」「不活化ワクチン」という言葉を聞いたことがあると思います。概して言うと「生ワクチン」が強力で「不活化ワクチン」は弱いワクチンと考えてOKです。だから一般に「不活化ワクチン」は3回、4回と回数を増やして打つことが多いのです。「結合型ワクチン」「ポリサッカライドワクチン」はいずれも不活化ワクチンです。これらの違いの説明は専門的になるので省略しますが、結論は「結合型ワクチン」の方が”強力”です。つまり、小児が対象のPCV13の方が、高齢者対象のPPSV23よりも強力なのです。では、なぜ高齢者にはPCV13でなくPPSV23が選ばれたかというと、カバーできる肺炎球菌の種類が多いから、という単純な理由だと思われます。
高齢者用のPPSV23はカバーできる肺炎球菌の種類が多いが、効果はPCV13より弱い。では「弱い」なら追加のワクチン接種は必要ないのか、という疑問がでてきます。それに、例えば現在66歳の人は70歳まで待たねばならず、その間に感染したらどうするのだ、という問題もあります。後者については、行政の立場からすると「予算を考えるとこれが限界。うちたいなら自費でうちなさい」ということなのかもしれません。
追加のワクチンについて考えてみましょう。費用のことはさておき、効果を追求するなら、まず初めからPPSV23単独でなく、PCV13も併用した方がいいんじゃないの?という意見がでてきます。たしかに理論的にはその通りで、日本感染症学会と日本呼吸器学会のメンバーから構成される合同委員会はガイドラインを出しています。
そのガイドラインによると、65歳、70歳、…、などの定期接種該当者は、まずPPSV23を公費で(無料で)接種し、その後1年以上たってからPCV13を任意で接種するか、5年以上経過してからPPSV23をやはり任意で接種するかを推奨しています。66~69歳、71~74歳、…、などの定期接種に該当しない人は、任意でPPSV23を打つ(その後は定期接種者と同じ方法)という方法でもいいし、PPSV23ではなくPCV13を先にうち、6カ月以上たってからPPSV23を任意で打つか4年以内にやってくる定期接種のときに無料で打つかのいずれかを推奨しています。すでにPPSV23を接種している人は、1年以上あけてからPCV13を任意でうつかPPSV23をやはり任意で接種するかが望ましいとしています。これらは2018年までの方法とし、2019年以降は追加接種も定期接種にすべきかを検討します、ということになっています。
2018年9月10日、第11回厚生科学審議会予防接種基本方針部会という会議が開かれました。結論としては「高齢者に対しPPSV23の再接種を推奨しない。またPCV13を(65歳以上の)定期接種にしない」となりました。つまり、行政としては、これまで通り、65歳、70歳、…、になると定期接種でPPSV23をうってください。追加接種はうちたい人だけどうぞ、と言っているわけです。
今回の話は非常にややこしいので最後にまとめておきます。これだけややこしいワクチンを理解するのは相当困難だと思います。かかりつけ医に相談するのが最適でしょう。
・肺炎球菌には90種以上のサブタイプがある。
・肺炎球菌ワクチンにはPCV13とPPSV23の2種類がある(注2)。
・PCV13の方が強力。だが13種しかカバーできない。
・PPSV23はパワーは弱いがカバーできるサブタイプの数が多い(23>13)。
・小児の定期接種はPCV13のみ。2カ月から1歳3カ月までの間に4回接種。
・高齢者の定期接種はPPSV23のみ。対象は65歳、70歳、…、100歳以上。
・高齢者の追加接種には様々な方法がある(本文参照)。
・高齢者以外でも60~64歳の免疫が低下している人は定期接種(無料)可能。
・脾臓摘出者は保険診療で接種可能(3割負担で約1,460円。診察代別途要)。
・60歳未満でも免疫が低下している人(本文参照)はワクチンを検討すべき。
・小児へのPPSV23の追加接種は任意でなら可能。
・PCV13が「認可」されているのは2カ月から6歳未満と65歳以上のみ(注1)。
・PPSVは2歳以上なら何歳でも任意接種可能。
注1:2020年5月29日より、小児・高齢者に限らずリスクのある全年齢が対象となりました
注2:2022年9月26日、15価の結合型ワクチン「バクニュバンス」が承認されました
注3:2024年10月1日、20価の結合型ワクチン「プレベナー20」が発売されました
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|2018年8月20日 月曜日
第180回(2018年8月) 月経に対する考え方のコペルニクス的転回
男女は社会的には平等であらねばならないわけですが、生物学的・医学的には「同じ」ではありません。我々医療者は常にその「差」や「違い」を考えて診察をおこないます。妊娠の可能性があれば放射線の曝露を避けねばならない、奇形のリスクがある薬を避けなければならない、などは分かりやすい例だと思います。
では、妊娠・出産・授乳などだけを問診で確認すればいいかというとそういうわけではなく、そもそも妊娠に気付いていない女性は少なくありません。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)でも、「妊娠は絶対にありません」と主張するものの実際は妊娠していた、というケースがありました。我々医師は医学生の頃に「女性をみれば妊娠を疑え」と習います。この言葉は、解釈の仕方によっては「避妊の管理くらいきちんとできています」という女性には失礼でしょうし、そもそもまったく性行為がない、あるいはパートナーが同姓という場合には失礼を通り越した無礼な考えだと思います。ですが、もしも妊娠の可能性があれば医療行為が大変な事態を引き起こすことになりかねませんから我々はかなり慎重にならざるを得ないのです。
もうひとつ、妊娠以外に、というよりも”妊娠していないからこそ”考えなければならないのが「月経との関連」です。多くの疾患や症状において、月経時あるいは月経前に悪化する、あるいは改善するものがあります。男性の場合(ストレートだけでなくゲイであったとしても)は、こういったことを考える必要がありませんからある意味でラクです(ただしホルモン剤を使用しているトランスジェンダーの場合は別の視点から考える必要があります)。
月経に関連する症状や疾患として、まず(当たり前ですが)月経痛や月経過多(月経血が増える)があります。子宮筋腫があればこれらの症状は悪化します。子宮内膜症も同様です。
PMS(月経前緊張症候群)という病名は随分と人口に膾炙してきました。月経前に、イライラ、不安感、抑うつ感、不眠、集中できない、涙もろくなる、などいろんな精神症状が出現します。身体の症状も伴うことがあります。例えば、むくみ、おなかのはり、頭痛、めまい、腰痛、便秘や下痢、動悸、発汗、乳房痛や乳房のはり、などです。
ニキビも月経周期に関連することが非常に多いと言えます。月経前に悪化し月経が始まると改善するというパターンが一番多くて、これは黄体期(排卵から月経までの期間)に分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)が皮脂の分泌を促すことが一因です。通常のニキビの治療をおこなってもどうしても月経前だけは悪化するという人は少なくありません。
谷口医院は「どのような症状でも相談してください」と12年間言い続けています。他の医療機関では診断がつかず、いわゆるドクターショッピングを繰り返している人も大勢います。めまい、腹痛、動悸などで長年苦しんでいる人が受診した場合、男性であれば最も多いのが自律神経のバランスが乱れて諸症状が出現しているケース、次に多いのがうつ病など精神疾患に伴って症状が現れているケースです。もちろん、女性の場合もこういったことが原因である場合は多いのですが、月経に関連しているかどうかを必ず確認しなければなりません。
月経に伴い症状が出現するなら女性ホルモンが関連しているだろうから避妊用のピルを用いてホルモン量を適切にコントロールすればいいのでは、という考えが当然でてきます。実際、一部の女性には以前から月経に関連する症状や疾患の改善目的で避妊用ピルが使われてきました。そして、子宮内膜症がある場合に限り保険適用になる「ルナベル」という薬が2008年に発売され、2010年には超低用量ピル「ヤーズ」が登場し、こちらは内膜症のみならず「月経困難症」があれば保険で処方できることになり、これで一気に使用者が増えました(ただし、発売直後に重篤な副作用の報告が相次ぎ慎重になる声もありました(注1))。
月経困難症というのは月経痛や月経過多を含む月経に関する諸症状のことを言いますから、軽症であっても何らかの症状があれば保険でピルが使用できる可能性がぐっと高まったのです。さらに「ルナベルULD」という超低用量ピルも2013年に登場し、低用量ピルのルナベルは2013年より「ルナベルLD」と名前を変え、内膜症のみならず月経困難症にも保険で処方できるようになりました。また、ルナベルLDの後発品「フリウェル」が登場、費用は3割負担で1000円を切るようになりました。尚、避妊目的の自費のピルと区別するために、最近は自費のものを「OC」(oral contraception)とし、月経困難症などに治療目的で保険処方できるものを「LEP」(Low dose estrogen-progestin)と呼ぶようになってきています。
そして、さらに大きな展開がありました。2017年4月、上述のヤーズが「ヤーズフレックス」と名前を変えて発売となりました。ヤーズフレックスの成分はヤーズとまったく同じです。1錠あたりの値段は少し安くなっていますが基本的には「まったく同じ」です。では何が違うのか。ヤーズは毎月一度出血を起こすように説明されているのに対し、ヤーズフレックスは休薬せずに続けて飲んでもOK、とされたのです。最長120日まで連続してもいいですよ、ということになったわけで、この飲み方をすればこれまで毎月来ていた(来させていた)月経が年に3回だけになるのです。
ということは、毎月経験していた「苦しみ」も年に3回だけになります。これはありがたいことですが、そんな”自然に反したこと”をしてもいいのでしょうか。
まさにこの点がヤーズフレックスの「ポイント」です。実は以前から、月経が毎月起こるのが正常なのかはずっと議論されてきました。たしかに、少子化などと言われるようになったのはせいぜい過去数十年の話であり、それまでは生涯に4~5人、あるいはそれ以上出産する女性も珍しくなかったわけです。そして、妊娠中と授乳中(の一定期間)は月経がとまったままです。ということは、妊娠10か月及び出産後3か月は無月経だったとして、それが5回あったとすると少なくとも65か月間は無月経ということになり、現代に比べて平均寿命が短かったことや栄養状態がよくなかったことなどを考えれば、さらに月経の回数が少なかったことが予想されます。
ということは、現代のように少子化、あるいは生涯まったく子供を産まなくなった時代、10代半ばに始まった月経が50歳前後まで毎月続くとなると、こちらの方がずっと”不自然”、少なくともこれまでの人類の歴史上なかったことを経験しているということになります。実際、子宮内膜症や月経困難症が過去数十年で急増している理由が「月経の回数が増えたからではないか」と言われています。
谷口医院は例によって発売直後の薬は慎重に進めます。ヤーズフレックスはヤーズと同じものですが、連続服用の日本でのデータが多くないために積極的に勧めていませんでした。ですが、発売1年以上経過し、全国的に使用者が増え、大きな副作用の報告もないことから、必要と思われる患者さんには説明し処方を開始しています。今のところ際立った副作用はありません。ただ、いきなり120日間連続服用するのではなく、最初は2か月くらいで休薬して出血を来させる方法を選択する人が多いようです。また、ヤーズフレックスに替えてから月経予定日を自由自在に決められるのがありがたいという声は多く寄せられています。
おそらく今後も、「月経は毎月こさせるのではなく自分自身で調節する」ことを選択する女性は増えていくでしょう。
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注1:医療ニュース2013年10月28日「超低用量ピルでの2人目の死亡例」
参考:はやりの病気第87回(2010年11月)「超低用量ピルの登場」
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|2018年7月26日 木曜日
第179回(2018年7月) 認知症について最近わかってきたこと(2018年版)
80歳になると二人に一人が罹患すると言われている認知症。かつてはワクチンに期待されたこともありましたが、手掛けていた製薬会社はすべて研究を中止し、一応は効果があるとされている数種類の治療薬も「進行を遅らせることもある」というだけであり、劇的な効果は期待できません。
ならば早期発見をということになりますが、4年前のはやりの病気「第131回 認知症について最近わかってきたこと」で取り上げた87%の確率で推測できるとするオックスフォード大学の研究もその後報道されておらず、おそらく実用化は困難ということでしょう(注1)。〇〇を食べれば予防になる、有酸素運動は有効?…、などいろんなことが言われていますが、現時点では「△△をすれば確実に防げる」「◇◇をすれば確実に進行が止まる」というものはありません。それでも、世界中からいろんな研究が発表されていますので、今回はそれらを紹介したいと思います。
まずは「遺伝」についてみていきましょう。アルツハイマーになりやすい遺伝子は”確実に”存在します。そして(ほぼ)万人が認める特定の遺伝子も特定化されています。それは「ApoE遺伝子」と呼ばれるものです。過去のコラム(メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」)でも紹介したように、ApoE遺伝子をε4・ε4で持っていれば(ε4をホモで持っていれば)、ε3・ε3の人に比べてアルツハイマーになるリスクが11.6倍にもなります。ε4を1つ持っている場合(ヘテロで持っている場合)でも3.2倍になります。
現在この検査を受ける人が増えてきています。リスクが判ったところで治療法がないのだから検査すべきでない、という人がいますし、例えば結婚前にそんな検査をしてApoE遺伝子を持っていることが判ると、婚約者(やその親)から破談を宣告されかねない、という意見もあります。ですが、例えば現在50代の中小企業の経営者がいたとして、自身のリスクを知っておくことは悪くないかもしれません。なぜなら、将来のアルツハイマーのリスクがあるなら早めに後継者を育てなければならない、とか、今から新しい事業に手を出すなら慎重に進めなければならない、などと考えることもできるからです。この遺伝子検査をすべきかどうかというのは医療者によっても意見が分かれます。
高血圧と認知症の関係は以前も何度か紹介しました。若年者(60歳未満)の高血圧はアルツハイマー病のリスクになるという報告(医療ニュース2017年6月28日「60歳未満の高血圧は認知症のリスク」)があります。しかし、高齢になってから血圧が上がると認知症のリスクは低下し、その逆に下がる(下げる)とリスクが上がるという研究もあります(医療ニュース2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」)。この報告は興味深いので、ここでも簡単に振り返っておくと、80歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて42%も低かったというのです。また、別の研究では、最も血圧が下がっていたグループは、血圧が最も上昇していたグループと比較して、認知症のリスクが大きく上昇していたとされています。収縮期血圧(上の血圧)の低下は46%もリスクを上昇させ、拡張期血圧(下の血圧)の低下は54%上昇させる、というのです。
比較的最近発表された論文にも興味深いものがあるので紹介しておきます。医学誌『European Heart Journal』2018年6月12日号に掲載された論文によると、心血管疾患のエピソードのない場合、50歳の時点で収縮期血圧130mmHg以上であれば、認知症のリスクが47%も高いことが判ったといいます。
これらをまとめると、若い頃(60歳くらいまで)は血圧が高くなると認知症のリスクが上昇し、80歳以降の高齢になればその逆に血圧が上がればリスクが下がるということになります。規則正しい生活、運動・食事療法などで若いうちは正常血圧を維持することが認知症のリスクを下げるのは(おそらく)間違いないでしょうが、薬を使って正常血圧を維持すればリスクが下がるかどうかは分かりません。しかし、80歳以降になって血圧が上がった場合は薬を使うべきでないということは言えそうです。
血圧以外の認知症のリスクで、最近話題になっている研究を紹介したいと思います。
まずはヘルペスウイルスとの関連です。科学誌『Neuron』2018年6月21日(オンライン版)に掲載された論文によると、アルツハイマー病患者の脳では、そうでない人の脳と比べてHHV-6A(ヒトヘルペスウイルス6A)及びHHV-7(ヒトヘルペスウイルス7)の量がおよそ2倍に増加していることが判りました。さらに、これらのウイルスは、アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子との相互作用があるといいます。
HHV-6及びHHV-7はほとんどの子供が幼少期に感染するウイルスです。ワクチンはなく、他のヘルペス科、例えば水痘帯状疱疹ウイルスやEBウイルス、サイトメガロウイルスなどと同様、一度感染すると体内から追い出すことはできません。そして、現在のところHHV-6(A)及びHHV-7がアルツハイマー病のリスクであったとしても、これらのウイルスに有効とされている薬はありません。
「運動」はどうでしょうか。残念ながら、運動に認知症を遅らせる効果は「ない」とする研究が権威ある医学誌で報告されました。医学誌『British Medical journal』2018年5月16日号(オンライン版)で紹介されています。軽度~中等度認知症に対し、中~高強度の有酸素運動と筋力トレーニングを実施したところ、これら運動で認知障害の進行を遅らせる効果はなく、さらに驚くべきことに、運動をした方が(差はわずかですが)しないよりも認知症が進行したことが判ったのです(当然といえば当然ですが「体力」は改善しました)。
飲酒はどうでしょうか。大量飲酒が認知症のリスクになるのは疑いようがないようです。医学誌『The Lancet Publish Health』2018年3月号(オンライン版)に掲載された論文でフランスでの110万人以上の認知症患者のデータが解析されています。アルコール依存があると、認知症発症のリスクが男性3.36倍、女性3.34倍に上昇しています。さらに、65歳未満で発症する「若年性認知症」患者の57%がアルコール依存症でることが判りました。
ここまでをおおまかにまとめると、アルツハイマー病は遺伝である程度決まっており(遺伝子を変えることはできない)、血圧に依存し(血圧の変動はある程度遺伝で決まっている)、運動は無効、ヘルペスウイルスには治療薬がない、飲酒はNG…。では何をすればいいのでしょうか。〇〇を飲めば予防効果あり、といわれるものはいかがわしいサプリメントから医薬品(たとえばアスピリンに予防効果ありとする論文もあります)までありますが、どれもエビデンスレベルが高いとは言えません。現時点で、充分なエビデンスがあるとは言えないながらも誰もが取り組めるもの(取り組むべきもの)は「睡眠」です。
たった一晩の睡眠不足でもアルツハイマー病リスクが増大するという研究もあるほどで、睡眠不足がいろんな意味でNGなのは間違いありません。では睡眠時間が長ければいいのかというと、そういうわけでもありません。医学誌『Journal of the American Geriatrics Society』2018年6月号に日本人を対象とした研究が紹介されています。
睡眠時間が5時間未満だと、認知症のリスクは2.64倍、死亡リスクは2.29倍になります。興味深いことに、睡眠時間が10時間を超えると、認知症のリスクが2.23倍、死亡リスクは1.67倍となります。さらにこの研究が注目に値するのは睡眠薬の使用との関連が調べられていることです。睡眠薬を使用すると、認知症のリスクが1.66倍に、死亡リスクは1.83倍になることが判ったのです。
さて、あなたが今日から取り組むべきことはどんなことでしょうか。
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注1:ただし、それなりに精度の高い検査として「MCIスクリーニング」という検査が普及してきています。詳しくは、次世代検査を参照ください。
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|2018年6月23日 土曜日
第178回(2018年6月) 「咳止めが効かない」ならどうすればいいのか
「長引く咳」は太融寺町谷口医院を受診する患者さんの訴えで最も多いもののひとつであり、ドクターショッピングを繰り返している人も少なくありません。「何種類もの咳止めを使ったけれども効かなくて・・・」と訴える人は大勢います。
一方、インターネットのヘビーユーザーの中には、どこで情報を仕入れたのか「咳止めは飲んでも意味がないんですよね・・・」と診察室で話す人もいます。たしかに、この情報は1年くらい前からメディアで何度か流れたようで、「咳止めは効かない」は少しずつ人口に膾炙しているような感じがします。
そこで今回は「咳止め」は本当に効かないのか、民間療法としてもてはやされているハチミツやチキンスープは有効なのか、咳止めが効かないなら何をすればいいのか、といったことについてまとめてみたいと思います。
およそ1年前から「咳止めは危険」と言われだした発端は(私の見解では)2017年4月20日のFDA(米国食品医薬品局)の発表です。咳止めとしてよく使われるコデインリン酸塩及びジヒドロコデインリン酸塩(長いので以下「コデイン」とします)を含む医療用医薬品の12歳未満の小児への使用を禁忌(要するに禁止)とすることを発表しました。
(おそらく)これを受けて、日本の厚労省は米国と同様12歳未満へのコデインの処方をおこなわないよう通知をおこないました。
しかし、大人でも夜間の咳はつらいものですが、咳で眠れない子供をみると、薬を使って咳を鎮めてあげたいと誰もが思うはずです。ではどうすればいいか。医学誌『CHEST』2017年11月号(オンライン版)に興味深い論文が掲載されました。
この論文では、市販の咳止めや民間療法としてのチキンスープなども含めて、咳を止める効果についてこれまで発表された論文を総合的に解析しています。その結果、「咳に効果がある」というエビデンス(科学的確証)のある治療法はひとつもない、ということが分かりました。
風邪の民間療法というのはどこの国にもあり、米国ではチキンスープが主流のようですが、日本ではハチミツがよく使われます。この論文ではハチミツの効果も検討されています。ハチミツは、ある程度効果があるとする研究がいくつかあるようですが、強いエビデンスがある、とまでは言えないようです。
また、この論文では、風邪によく使う痛み止め(NSAIDs)や鼻水をおさえる抗ヒスタミン薬も咳の治療として効果はない、という結論がでています。(これらは薬理学的にみても咳に効くとは思えません)
さらに興味深いのはコデインについてです。論文の著者らはFDAの勧告の12歳ではなく、副作用のリスクから18歳未満にコデインを使うべきではないと結論づけています・
なんだか「夢のない」研究、というか、これまで世界中でおこなわれていた咳の治療は何だったのでしょう。我々はハチミツに劣る咳止めを求めて薬局や病院を巡っているということなのでしょうか。
ではハチミツはどの程度効果があるのでしょうか。違う研究をみてみましょう。過去にも紹介したことのある「コクラン・ライブラリー」というエビデンスを集めたサイトがあります。そのなかに「小児の急性咳嗽に対するハチミツ(Honey for acute cough in children)」というタイトルの論文があります。
これによれば、エビデンスのレベルは高くないもののハチミツはある程度有効のようです。しかし、その効果も3日までで、それ以降は効果がありません。他の薬とも比較されていて日本でもよく使われるデキストロメトルファン(商品名は「メジコン」など)と同じ程度効果があるとされています。(ということはデキストロメトルファンも少しは有効ということになります)
ここまでを(少し強引ですが)まとめてみたいと思います。
・咳に有効な治療:何もないとする研究もある。ハチミツは少し効果あり、デキストロメトルファンも多少効果があるとするデータもある。
・咳に効果がないもの:NSAIDs(ロキソニンやイブ、ボルタレンなど)などの鎮痛剤、ほとんどの抗ヒスタミン薬
・危険で使いにくいもの:コデイン(FDAは12歳未満、上記論文では18歳未満は使わないよう注意勧告)、デキストロメトルファン(下記参照)
さて、では実際にはどうすればいいのでしょう。また、コデインは18歳以上なら使ってもいいのでしょうか。それを知るには「咳止めがなぜ効くか」を考えるのが適切です。デキストロメトルファン、コデインを含む”普通の”咳止めのほとんどは「中枢性鎮咳薬」といって、脳の咳中枢を抑えるものです。咳は出そうと思って出るものではなく、脳の「咳担当の部分」があなたの意思に関係なく「咳をせよ」と身体に”命令”するわけです。つまり、中枢性鎮咳薬はこの咳中枢を一時的に麻痺させるのです。では、なぜ中枢性鎮咳薬は危険なのか。大きな理由は2つあります。ひとつは「眠気」です。程度の差はありますが、中枢性鎮咳薬は多かれ少なかれ眠気がきます。部分的にとはいえ、脳を麻痺させるわけですから当然といえば当然です。
もうひとつの問題は「依存性」です。コデインはモルヒネに似た麻薬です。またエフェドリンというやはり中枢性鎮咳薬は覚醒剤の一種です。コデインやエフェドリンを含む咳止めや風邪薬や薬局で簡単に買えますから容易に依存症をつくりだします。特にこれら2種の双方が入っているものはダウン系(コデイン)とアップ系(エフェドリン)が同時に体内に入りますから、大量摂取すれば、いわば「スピードボール」と同じように危険なものですし、簡単に依存症になってしまいます。(デキストロメトルファンには依存性がないと言われています)
では、困った咳にはどのように対処すればいいのでしょう。当たり前ですが、その「原因」を突き止めることが重要です。百日咳やマイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)肺炎のように細菌感染が原因になっている場合は抗菌薬が有効ですし、アレルギー関与の咳であればアレルギーを抑える方法を検討すべきです。長引く咳の原因が逆流性食道炎ということは珍しくなく、この場合胃薬を使います。
その逆に、原因を究明しないまま、漠然とコデインやデキストロメトルファンを飲むなどということは18歳以上であっても眠気やそれ以外の副作用のリスクを背負うだけです。しかし、こういった咳止めはまったくの「悪」ではなく、期間限定(長くても1週間以内)であれば、咳中枢を一時的に麻痺させてでも夜間の咳をとりぐっすり眠れるようにするのが効果的な場合もあります。また、一部の漢方薬はいくつかのタイプの咳に有効なことがあります。
以上をまとめると、咳にとって重要なのは、①まず咳の原因をはっきりさせる、②それぞれの咳止めの特徴を理解し副作用に注意する、③自分の判断で漠然と咳止めを飲み続けない、ということになります。
参考:はやりの病気
第110回(2012年10月)「長引く咳(前編)」
第111回(2012年11月)「長引く咳(中編)」
第112回(2012年12月)「長引く咳(後編)」
第82回(2010年6月)「熱のない長引く咳は百日咳かも・・・」
第19回(2005年10月)「咳」
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