はやりの病気
第23回 手足の冷え 2005/12/31
冬になると手足が冷えて困るという患者さんは少なくありません。いわゆる「冷え症」というやつです。中高年の女性が最も多い印象がありますが、不規則な食生活からなのか、無理なダイエットからなのか若い女性でも手足が冷えて困っているという人は少なからずおられます。
女性に比べると頻度は少ないですが、男性のなかにもおられます。また、冬になると悪化するが夏でも冷えで悩んでいるという人は珍しくありません。
いったい、この冷えの原因は何なのでしょうか。もちろん、一言で「冷え症」と言っても原因も程度もいろいろあります。まずは原因からみていきたいと思います。
いわゆる「冷え症」の大部分は、器質的疾患がありません。「器質的疾患がない」というのは少し専門的な言い方ですが、要するに、例えば癌などといった内蔵の病気があったりとか、糖尿病や膠原病などの血管が直接ダメージを受けるような病気があるわけではないということです。つまり、なんらかの理由で血管が収縮し、手足の先まで充分に暖かい血液が循環しないために、冷えを感じるが、それ自体は放っておいても大事には至らないという意味です。
ただ、頻度は少ないと言っても冷えをもたらす重要な病気は存在しますからそれらをまずはみておきましょう。
重要な病気で比較的頻度が高いのは、糖尿病と動脈硬化です。糖尿病の初期は、喉が渇くとか夜中に何度もトイレに起きるとかいったものが有名ですが、初期であっても少しずつ血管にダメージが加えられています。このため特に手足の先の方の血管には充分な血液がいきわたらずに、そのために冷えを自覚するのです。手足の冷えが糖尿病発見のきっかけとなったというケースもありますから、ある程度の年齢以上の方で、健康診断を受けていない人は一度疑ってみてもいいかもしれません。
動脈硬化でも手足の冷えはおこりえます。血管の内側にドロドロしたものが付着し、それが硬くなって結果的に血液が流れる領域が小さくなってしまいます。すると末端の方には充分な血液が流れなくなってしまい、やはり結果として手足の冷えをきたすことがあります。動脈硬化の場合は、両側に起こることもありますが、例えば又の付け根のあたりの血管の左右どちらかのみに強い硬化がおこり、足先のどちらか一方だけが冷えをきたすようになることもあります。中高年以上の方で左右どちらかのみに冷えを感じるという人は疑ってみるべきかもしれません。
糖尿病や動脈硬化に比べるとぐっと頻度は下がりますが、膠原病や膠原病に類似した疾患でも手足の冷えが生じます。膠原病というと関節リウマチが有名ですが、関節リウマチのなかの一部は、全身の血管に炎症が起こり、このため手足の先の方に充分な血液が流れなくなってしまうことがあります。(もちろんリウマチは本来関節の病気ですから大部分は血管まで病気が波及することはありません。)
関節リウマチ以外の膠原病というのはどれもあまり有名でありませんが、一応名前だけを挙げておくと、全身性エリトマトーデス、全身性硬化症(強皮症)、皮膚筋炎、多発性筋炎、混合性結合組織病、などです。これらの病気になると必ず血管に炎症がおこり冷えが生じるというわけではありませんが、これらの病気のない人に比べるとおこしやすいということは言えると思います。また、さらに名前が知られていない病気ですが、膠原病に類似した疾患で特に血管に病変をきたしやすいものがあります。結節性多発動脈炎、Churg-Strauss症候群、Wegener肉芽腫症などです。また、喫煙で発症することで知られているバージャー病も広い意味ではこれらの仲間といえるかもしれません。
先に述べましたように、冷えを訴える患者さんの大半は、こういった器質的な疾患がありません。原因疾患がはっきりしていればその治療をおこなえばいいわけですが、それがないときは、では冷たくなった手足をあたためる治療をおこないましょう、となるわけです。
ところが、です。21世紀の医学をもってすれば手足を温めるくらい何でもないだろう・・・、そう思いたいのですが、残念ながら現代医学(西洋医学)においては身体を温めることを目的とした治療薬は、私の知る限りありません。逆に、熱を下げることを目的として開発された薬剤(解熱剤)は山ほどあります。西洋医学が最も苦手としている領域のひとつが「冷え症」だと言えるわけです。
西洋医学が苦手なら、じゃあ東洋医学に頼ろうか、となるわけですが、その前に日常生活で冷え症に対応する方法を考えていきましょう。
まず冬場は素足になるのは避けましょう。そしてぬるめのお風呂にゆっくりと入るようにしましょう。お風呂でなくても足湯でもいいと思います。足湯とは洗面器にお湯を入れて両足をつけることです。これは足を暖めるばかりではなくリラックス効果も得られます。
それから、特に女性の方に言えることですが、炊事をするときは必ずお湯を使うようにしましょう。なぜか、お湯は使わないようにしている、という人が少なくありません。冷たい水に指先がさらされると「しもやけ」や「あかぎれ」ができることもあります。こういう方に限って、冷たいのを我慢して水を使っているような印象があります。「なぜお湯を使わないのですか」、と質問すると、よく返ってくる答えが「お湯を使うと皮膚の脂分が取れてしまいそうであかぎれがひどくなるような気がするのです」というものです。
しかしながら、そういう心配はまったく不要です。冷たい水に指先をさらすと血管が縮こまって皮膚が余計に冷たくなってしまいます。脂分のことは心配せずに適度な温度のお湯を使うようにしましょう。
脂分がとれてしまうのは、お湯ではなくて洗剤が原因です。皮膚の弱い方は洗剤を代えてみるとか、あるいは炊事するときには手袋を使うのも効果的です。また炊事をする度にハンドクリームを使うのもいいでしょう。薬局に相談してみてもいいですし、医薬品のなかにも脂分を補うようなものもありますから医師に相談するのもひとつの方法です。
日常生活の注意として食事を見直してみるのもいいかもしれません。一般的に身体を冷やすといわれている食べ物があります。冷たい水やビール、ジュースなどもそうですし、キウイやパパイヤといった南国の果物もそうではないかと言われています。こういったものは冬場は避けた方がいいかもしれません。
逆に身体を温める効果があるとされている食べ物があります。黒ゴマ、ショウガ、ニンニク、納豆などです。食卓にこういった食べ物を加えてみてはいかがでしょうか。
日常生活や食生活を見直してみて、それでも症状がひどいようなら薬剤の力を借りるべきかもしれません。先ほど、西洋薬には身体を温めるものはない、と言いましたが、末梢血管を拡張させることのできる薬はあります。症状によってはそういった薬が有効かもしれません。
そして、一般的には身体を温めるのが得意なのは漢方薬です。漢方薬のなかには身体をあたためるものがたくさんあり、有名な葛根湯もそのひとつです。風邪の初期に一時的に身体を温めることにより免疫力をあげてしまおうという考えです。
ただし、葛根湯は手足の冷えにはそれほど効果があるようには思えません。手足の冷えには、別の有効な漢方薬がきちんとあるのです。ただ、漢方薬の処方がむつかしいのは、同じ冷えの症状を訴える人がいても、その人の他の特徴によって処方すべき漢方薬が異なるということです。その逆に、まったく違う症状であっても処方される漢方薬は同じということもよくあります。
私の場合は、手足の冷えに対しては、だいたい4~5種類の漢方薬を使い分けています。効果は、残念ながら100%というわけにはいきませんが、一部の人にはかなりの効果が認められます。また、漢方薬を変更してみて効果がでてきたという人もいますから、まずは諦めないことが肝心です。
「冷え症」というのは慢性の病態でありますから、一日二日で劇的に改善するということは望めません。しかしながら、日常生活を見直し、食生活を工夫し、必要に応じて様々な薬剤を主治医と相談しながら試していくうちに、少しずつよくなってくる、ということは充分に期待できるのです。
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