はやりの病気

第260回(2025年4月) 人工甘味料はなぜ太るのか

 2021年5月に開始したメルマガは、患者さん(というよりもこのウェブサイトを閲覧している人)と、メルマガ読者から寄せられる質問から成り立っています。メルマガで質問に回答すると、それに対してさらなる質問や感想が寄せられることも多く、意外な「回答」に反響が大きいことがあります。今回取り上げる「人工甘味料」もそのひとつで、大勢の方から感想や相談をいただきました。そこで今回の「はやりの病気」はこのテーマを取り上げたいと思います。

 発端となったのは「コーラゼロを飲んでいるのになぜやせないのか」という読者からの質問でした。しかし、この質問は言わば「定番の質問」であり、谷口医院をオープンした2007年から、少なく見積もっても100人以上の患者さんから診察室で尋ねられています。

 では、私は最初から的確な回答をしていたのかというと、そうではありませんでした。以前私が答えていたのは「やっぱりオリジナルのコーラの方が美味しいから満足度は高いし、砂糖がたっぷり入っているからそれ以上身体に悪いものは摂らないようにしようと考える。他方、コーラゼロなら”罪悪感”がないから、他のジャンクフードに手がでやすいんじゃないですかね」という感じのことです。

 なんと非科学的な……、と思われるかもしれませんが、その後の研究で、この私の「仮説」はまんざら間違っていないことが分かってきました。ちなみに、私自身もコーラは大好きですが「コーラゼロ」にはまったく興味がなく、いつもオリジナルのものを選びます。もしも瓶入りのコーラが売られていれば、缶には見向きもせず瓶をとります。瓶の方がずっと美味しい(と思う)からです。ただし、瓶入りでも缶入りでも健康に悪いのは分かっていますからせいぜい月に1本程度しか飲みません。

 なぜ人工甘味料が太りやすくなるのか、その理由を述べる前にまずは代表的な人工甘味料にはどのようなものがあるかをみていきましょう。おそらく人工甘味料で最も有名なのは”歴史”のあるサッカリンだと思うのですが、最近はほとんど聞かなくなりました。この理由ははっきりしませんが、おそらく「発がん性が広く知れ渡ったこと」と「下記に述べる人口甘味料が主流になったこと」でしょう。現在、飲料品などに最もよく使われている人工甘味料は次の3つだと思います。いずれもショ糖(砂糖)の〇百倍などと形容されます。尚、「コーラゼロ」には#1と#2が使われています。

#1 スクラロース
#2 アセスルファムカリウム
#3 アスパルテーム

 人工甘味料に反対する人は、その理由としてしばしば「発がん性」を挙げます。上述したようにサッカリンが人気をなくしたのもおそらくそれが原因でしょう。そして、これら3つについてもやはり発がん性がよく指摘されます。しかし、これらはすでに数多くの飲料品や食品に使われていますが「全面的に禁止しよう」という流れにはなっていません。よって、たとえ発がん性や毒性があるにしてもそれは程度の問題となります。それに、あきらかに「人工甘味料が原因で〇〇がんになった」人や、そういう人を知っているという人もほとんどいないでしょうから「人工甘味料はがんの原因になるからやめましょう」はそれほど説得力がありません。むしろ、「少々のがんのリスクを抱えてもカロリー摂取量が減ってやせられるのならそちらを取る」という人も少なくないでしょう。

 人工甘味料を摂取すべきでない理由は、上述したように「太るから」です。これは一見矛盾しているように聞こえるでしょうが、それを証明した研究も複数あります。例えば、2021年に医学誌「JAMA」に掲載された論文があります。南カリフォルニア大学ケック医大の研究者らが主導したこの研究では、スクラロースを含む飲料は「食欲を亢進」させることが示されました。スクラロースを摂取した被験者は、ショ糖(砂糖)を摂った被験者に対して、体内のホルモンの分泌量や脳の活性部位の分析結果から食欲が亢進していたことが分かったのです。

 似たような研究が最近も発表されました。75人の若年者を対象とし、スクラロース、ショ糖、水のいずれかを摂取します。スクラロースを摂取すると、ショ糖摂取時に比べ、視床下部(脳の食欲を調節する部位)の血流が増え、空腹を感じやすくなったのです。また、水(だけ)を飲むと満腹感は得られませんが、興味深いことに、スクラロースを摂取したときにも空腹感は水のときと変わっていなかったのです。ショ糖を摂取すると血中の血糖値は(当然)上昇します。ショ糖が分解されるとグルコースとフルクトースになり、フルクトースも一部はグルコースに代謝されるからです。ところが、スクラロースの場合は血糖値が上昇しません。だから太らずにダイエットできると宣伝されているわけです。

 血糖値が上がらなければインスリンが分泌されず、結果としてカロリーが細胞に取り込まれることはありません。にもかかわらず太るのはなぜなのか。人工甘味料を摂取したときの私の考えるストーリーは次の通りです。

・舌に分布する味覚細胞:人工甘味料を感知して「甘いものが取り込まれたこと」を脳に伝える

・脳:「甘いもの=カロリーの高いもの」と認識し、「カロリーが吸収されたこと=血糖値が上昇したこと」を確認した上で満腹中枢を作動させて食欲を減らそうとスタンバイする

・小腸:甘いものが取り込まれたと聞いて、グルコースを吸収するようスタンバイしていたが一向にグルコースがやってこず取り込めない。結果、血糖値が上がらない

・脳:血糖値が上がらないため、満腹中枢を作動させる発令を中止せざるを得ない。このままではカロリー不足になるかもしれないと考え、逆に空腹中枢に働きかけ「もっと食べるように」と指示を送る

 かくして、甘いものを摂取したのに満腹中枢ではなく空腹中枢が動き出してしまうのです。これが、私が考える人工甘味料を摂ったときに太るストーリーです。

 そして、実はこのことは難しい医学論文を読まなくても2日あれば簡単に証明することができます。興味がある人は実践してみてください。まず1日目の夕食時、食事を摂る前にオリジナルのコーラ500mL(350mLでも可)を飲んでみてください。20分ほどしてからご飯を食べてください。翌日、今度はコーラゼロを同じ量飲んで同じ時間をあけてからご飯を食べてください。夕食で食べる量(食べたい量)が異なることが分かるでしょう。

 では、コーラゼロではなく、オリジナルコーラを食前に飲むと食事の量が減るからやせるのかというと、残念ながらそういうわけではありません。空腹時に砂糖を摂取すると一気に高血糖となり、インスリンが大量に分泌され、その結果グルコースが脂肪細胞に取り込まれ、さらに中性脂肪として蓄えられます。空腹時に一気に血糖値を上げるのは危険だと考えるべきです。

 ではやせるにはどうすればいいか。興味がある人は「3日目の実験」をしてみてください。3日目は単なる水またはお茶を飲みます。可能なら500mL以上、1リットルでも飲んでみてください。そして、その後ご飯を食べてみてください。オリジナルコーラのときほど顕著ではないかもしれませんが、普段より食べる量が減らなかったでしょうか。実はこの「水ダイエット」、過去のコラムで紹介したことがあるのですが、有効性が高い割に誰も話題にしません。面白みがないですし、誰も儲からないからでしょう。

 ですが、「水ダイエット」こそ、誰でも簡単に安全に、そしてコスト(ほぼ)ゼロでできるダイエット法なのです。ダイエットに興味のない人はやる必要がありませんが、やせたい人もそうでない人も人工甘味料には手を出さないのが賢明です。脳を“だまして”いいことはありません。

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