はやりの病気
第79回 気軽に始める禁煙法 2010/3/19
2010年2月28日、米国大統領就任後初めて健康診断を受けたオバマ大統領は、担当医から健康面に心配はないと言われたものの「禁煙の努力を続けること」と勧告を受けたそうです。オバマ大統領は、立候補の条件として奥さんのミッシェルさんに禁煙を”公約”していたそうですが、依然守られていないことになります。
2010年2月28日で、WHO(世界保健機関)が「タバコ規制枠組み条約」を発効してから5年が経過したことになりますが、WHOは「世界的に喫煙者数が減少しているとは言えない。途上国では増加傾向にあり、女性の喫煙者は増えている」とのコメントを発表しています。WHOは、タバコを「法律で禁止されていない唯一の有害物質」と位置づけ、世界の喫煙人口を13億人とし、年間500万人が、喫煙が原因の病気で死亡していると推定しています。喫煙者は2025年までに17億人に増えるとの推計もあります。
これら2つのニュースだけをみると、「禁煙とは大変むつかしいもので、世界的にみて禁煙対策はほとんど進んでいない」ということになりますが、実際は各国とも禁煙対策に相当力を入れています。世界一喫煙人口が多いと言われている中国でも、2010年5月から開催される上海万博に向けて、市内のあらゆる公共施設を全面禁煙にする罰則付き条例が3月1日に施行されました。
日本でも禁煙への流れは着実に進行しています。
厚生労働省は2月25日、受動喫煙による健康被害を防ぐため、飲食店や遊技場など不特定多数の人が利用する施設を、原則として全面禁煙とするよう求める通知を各都道府県に対して発行しました。この通知には、罰則規定はないものの、対象施設は、学校や病院だけでなく、官公庁、百貨店、飲食店、ホテルなども含まれており、また鉄道やタクシーといった交通機関も明示されています。
日本で最も禁煙対策が進んでいるのは神奈川県といって間違いないでしょう。同県では、受動喫煙防止条例が2010年4月から施行されます。この条例では、飲食店も含めた公共的な施設に禁煙や分煙を義務付け、違反者には罰金が科されます。この条例施行に先がけて、マクドナルドでは県内全298店舗を3月1日から全面禁煙にしています。
禁煙対策や禁煙ブームは、ここ数年間加速度的に高まっていますが、輪をかけるように10月からはタバコ税率が上がり、1本あたり5円程度の値上げが実施される見込みです。また、一部の銘柄(外国製)は6月から1箱20円程度値上げされるようです。
世界の歴史上、かつてこれほどまでに禁煙への取り組みがおこなわれたことはなかったのではないでしょうか。愛煙家にとっては生きにくい時代と言えるかもしれませんが、逆に禁煙を考えている喫煙者にとっては、チャンス到来とも言えます。
太融寺町谷口医院にも禁煙治療を希望して受診される方が増えています。以前、このサイトで「谷口医院では禁煙の成功率は高いが、それは初めから成功しそうな人にしかおこなっていないから」、ということを述べました。それはそれで悪くはないかもしれませんが、同時に私には、それでいいのか・・・、という悩みがありました。
まだ禁煙を考えていない人や、できれば禁煙したいとは考えているけれども成功しそうにない人に対しても、禁煙してもらう方法はないのだろうか・・・。あるいは、成功しそうな人でも100%が成功するわけではなく、いったん禁煙に成功して半年程度過ぎたあたりで再び喫煙を開始したという患者さんもときどきおられます。このような人たちには今後どのようなアプローチをすべきなのか・・・。
そのような悩みを感じていたとき、日本禁煙推進医師歯科医師連盟という禁煙を支援する団体が禁煙指導者のトレーニングをしていることを知りました。私は、早速そのトレーニングを申し込むことにしました。このトレーニングプログラムがユニークなのは、単に講義やビデオを使った研修だけではなく、ワークショップが開催され、他の禁煙指導者と一緒になってケーススタディを学ぶことやロールプレイングができるということです。3月7日にそのワークショップが実施されたのですが、私には予想を上回る収穫がありました。
まず、多くの指導者(主に医師と看護師)は、患者さんが禁煙したいと話したとき、私のようにその患者さんの禁煙に対する決意が中途半端であれば時期尚早と判断するのではなく、「簡単に始められて楽に続けられますよ」と話して禁煙を勧めていることが分かりました。
しかし、私の経験上(自分自身のことも含めて)いったん禁煙に成功したとしても数ヶ月もすれば、吸いたくなる欲求に襲われます。そのときに、確固とした禁煙の動機を思い出すことができなければ、”1本の誘惑”に負けてしまうことになります。
けれども、簡単に禁煙を勧める医師たちは、「それでもかまわない」、と言います。禁煙治療をおこなわなければまったく減ることのなかったタバコが、少なくとも禁煙治療中(薬服薬中)は、ほとんどの人がタバコを吸わなくなり、またそれ以降もある程度は禁煙期間が続く場合があるからです。
ところで禁煙治療は保険を使っておこなうことができるのは12週間です。そしていったん終了すると、その後1年間は保険を使っての禁煙治療はできません。しかし、考え方をかえてみると、たとえ3ヶ月だけでも禁煙できたとすると、禁煙3ヶ月→喫煙1年間→禁煙3ヶ月→喫煙1年間→・・・、となり、単純計算で15ヵ月のうち3ヶ月は禁煙できていることになります。これを120ヶ月(10年間)続けたとすれば、このうち禁煙期間は24ヶ月(2年間)になります。10年のうち2年間は禁煙ができたなら、様々な病気のリスクをある程度は減らすことができます。
しかもこの計算方法は、3ヶ月禁煙した後はすぐに喫煙を再開するという前提です。もしも、薬をやめてからもある程度禁煙が続いていたり、吸ってしまったとしても以前に比べて本数が減少していたりするなら、さらに喫煙による病気のリスクを減らすことが期待できるというわけです。
さて、私自身は完全禁煙を遂行してから2年以上がたちますが、実は今でも吸いたくなることがあります。それも、突然強烈な欲求に駆られ、いてもたってもいられないような衝動に襲われることもあります。それでもタバコに再び手を出さないでいられるのは、禁煙の「動機」を思い出し、理性を取り戻すようにしているからです。
私が、禁煙治療を希望する患者さんに必ず「動機」を尋ねるのは、自分自身の経験もあるからなのです。「動機」がしっかりしたものでなければ、数ヶ月の禁煙が続いたとしても、やがて誘惑に負ける時がやってくる・・・。このような考えから、私は「動機」が曖昧な人には禁煙治療をすすめていませんでした。
しかしこれからは、(私自身は再び喫煙する気持ちはありませんが)、禁煙治療をおこなった患者さんが再び吸い出すことになったとしても、それでもいいじゃないか、と考えるようにしてみようと思っています。
「とりあえずやってみましょうか」という気軽な気持ちで始めてみる・・・。こんな禁煙法を勧めてみることを検討しています。
参考:
はやりの病気第32回(2006年5月)「そろそろ本格的な禁煙を!」
はやりの病気第66回(2009年2月)「メンソールの幻想と私の禁煙」
禁煙外来
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