はやりの病気

第255回(2024年11月) ビタミンDはサプリメントで摂取するしかない

 以前から「問題のビタミン」として本サイトで繰り返しているビタミンDについては相変わらず多数の質問が寄せられています。その後、いくつもの研究が発表され、複雑さが増しているのですが、結論をいえば「ほとんどの日本人はビタミンD不足で、サプリメントで摂取するしかない」となります。そして「不足すれば大変なことになる」も言えそうです。今回はそれについて述べますが、まずはこれまで本サイトで紹介してきたことをまとめてみましょう。

・ビタミンDの摂取基準が以前から大幅に引き上げられている。そのため、2001年の基準(男性2.9μg/日、女性3.0μg/日)ならクリアできても、新しい基準(男女とも8.5μg/日)で考えると大半の日本人が摂取できていない

・ビタミンDが不足すると、骨量低下、免疫能低下、アレルギー疾患のリスク向上など様々な弊害がある。がんのリスクを高めるとする意見もある

・ビタミンDをサプリメントで摂取しても健康上の利点がないとする研究がある

・しかし、食事から必要なビタミンDを補給するのはかなり難しい

・ビタミンDの血中濃度は30~50ng/mLが望ましい。20~30ng/mL未満は「不足」、20ng/mL未満は「欠乏症」とされている

 ビタミンDのサプリメントにうさん臭さが伴う理由のひとつは驚くほど高額で売られていることがあるからです。ある患者さんからの情報によると、コロナ後遺症で有名なそのクリニックでは「ビタミンD不足が原因だ」と言われ、月額8千円もの高価なサプリメントを(半ば強制的に)買わされたそうです。ビタミンDに月8千円とは……。ファンケル、小林製薬、大塚製薬などが扱うビタミンDのサプリメントはせいぜい月に300~400円程度です。

 大勢の日本人がビタミンDが不足しているのは事実です。医学誌「Osteoporosis International」に2013年に日本人を対象とした血中ビタミンD濃度を調査した研究が公開されました。日本人の男性の70~85%、女性では約90%がビタミンDの血中濃度が基準を下回っています。

 この研究はけっこう衝撃的で、谷口医院ではこの論文が発表されてから、職員健診の際に(職員全員が希望することもあり)全員のビタミンD濃度を実施しています。結果は、私自身も含めて(ビタミンDのサプリメントを飲んでいない限り)全員が毎回基準値に足りていません。約半数が20ng/mL以下、一番高いスタッフでも30ng/mLを超えていません。谷口医院では私自身も含め(ビタミンDのサプリメントを飲んでいない限り)全員が「欠乏症」または「不足」なのです。

 不思議なのは、これだけ大勢の日本人がビタミンDを適正に摂取できていないのにもかかわらず、厚労省なり地域の行政がサプリメントの摂取を勧めないことです。食事または日光からの摂取が困難なことを認め、治療薬として保険診療でビタミンDを処方できるようにすべきではないでしょうか。しかし行政は消極的です。

 厚労省のサイトには「ビタミンDは不足しがちな栄養素ですが、特にカプセル・錠剤形態のサプリメント類からの摂取については、過剰摂取に留意する必要があります」と記載されています。しかし、「留意する必要」と言われても何をすればいいのかまるで分かりません。例えば、厚労省がお墨付きを与えるサプリメントを紹介するとか、あるいは医薬品として処方できるようにすべきでしょう。

 では、なぜ行政はそのような対策に出ないのでしょうか。おそらくビタミンDについてはよく分かっていないところが多いからだと思います。過去に医療プレミアにビタミンDについてのコラムを書いたとき、複数の伝手を頼っていろんな役人に話を聞いてみたのですが、どうも厚労省としても、不明な点が多いために明確な基準をうちだせないようです。

 それは同省のサイトに掲載されている言葉からも読み取れます。ビタミンDの血中濃度の適正基準について、「一般に、30nmol/L(12ng/mL)を下回る血中濃度は骨や健康を保つには低すぎ、125nmol/L(50ng/mL)を超える血中濃度は恐らく高すぎます」という表現があります。

 「恐らく高すぎる」という言葉に自信のなさが表れています。これを執筆した役人も「もしかすると50ng/mLでも問題ないかもしれない。けれども、あまり高い数値を書いてしまうと健康被害が起こったときに責任問題になるかもしれない……」と考えたのではないでしょうか。

 しかし、高すぎるビタミンD血中濃度が危険なのは事実です。サプリメントマニアのなかには「自分はビタミンD濃度が高いから風邪をひかず、花粉症も治った。自分の場合は50ng/mLを超えるくらいが調子がいい」と言う人がいますがこれは危険です。最悪の場合、腎臓の機能が低下して元に戻らなくなるかもしれません。

 ではどうすればいいか。「定期的に測って血中濃度が適正化どうか確認する」が最善なのですが、この検査は保険適応にならず自費で受けるしかなく、費用はそれなりにします(谷口医院の場合1,800円)。しかし、食品(と日光)からでは不十分、サプリメントは摂取過多に注意、しかしそのサプリメントで充分な量が摂れているのかは不明、となんとももどかしいのがビタミンDなのです。

 しかし、ビタミンDは非常に重要な栄養素ですから、やはり自身が摂取できているかどうかは調べた方がいいでしょう。原則として谷口医院では自費検査を勧めていませんが、年に一度程度のビタミンDの検査は例外的に推奨しています。

 ではビタミンDを摂取して適正な血中濃度を保てばどんないいことがあるのでしょうか。この話がまた複雑です。まず、従来ビタミンDが有用と言われていた疾患についてはことごとく否定されています。例えばビタミンDをいくら摂取しても骨折や骨粗しょう症の予防にはなりません。

参考:
はやりの病気第244回(2023年12月)「なぜ「骨」への関心は低いのか」
医療ニュース2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」

 また、虚血性心疾患、脳血管障害、がんなどの予防にもほとんど寄与しません。

参考:医療ニュース2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」

 では、ビタミンDが不足していればどのような不都合があるのでしょうか。あるいはどのような症状があればビタミンD不足を疑えばいいのでしょうか。英紙「The Telegraph」から「ビタミンD不足で起こり得る7つの症状」を紹介しましょう。尚、この記事ではビタミンD不足を20ng/mL以下としています。
 
#1 疲労

疲労が慢性化している場合にビタミンD不足を疑います。興味深いことに、英国でもビタミンDの血中濃度を保険診療で測定することができるのは、慢性かつ広範囲の疼痛や骨疾患などの深刻な事態がある場合のみで、日本と同様のもどかしさがあるようです。

#2 風邪をひきやすい

すでにビタミンDが急性上気道炎(風邪)の予防になることを示した研究はいくつもあります。

また、エビデンスはありませんが、「ビタミンDでコロナ後遺症は治る」は”結果としては”正しいと思います。実際、谷口医院の患者さんにもそのような人はいます。しかし、一部の反ワクチン派が主張する「コロナ後遺症になればビタミンDは不足する」は正しいわけではありません。なぜなら、上述したように国民の8~9割が初めからビタミンD不足だからです。

#3 骨が痛い

ビタミンD不足が原因で骨粗しょう症や骨軟化症などを起こしている可能性があります。興味深いことに、上述したように「ビタミンDのサプリで骨粗しょう症は防げない」という研究がある一方で、若くして骨粗鬆症を発症する人はビタミンDが欠乏していることが多いのです。

#4 筋肉が痛い

慢性疼痛患者の71%にビタミンD不足(<20ng/mL) が認められたとする研究があります。谷口医院の患者さんのなかにも線維筋痛症や慢性疲労症候群が疑われていて、ビタミンDのサプリメントで治ったケースがあります。

#5 傷の治りが遅い

傷が治るには炎症を抑えなければなりません。ビタミンDは炎症を抑えてくれます。957 人の60歳以上のアイルランド人(日照時間が短いためビタミンDが不足しやすい)を対象とした調査では、ビタミンD血中濃度が10ng/mL以下であれば、炎症マーカーのCRP(C反応性蛋白)、IL-6(インターロイキン6)が上昇しやすいことがわかりました。

足に潰瘍を起こしている糖尿病患者にビタミンDを投与すると大きく改善した、という報告もあります。

#6 脱毛

48人の円形脱毛症の患者にビタミンDのクリームを外用すると、69.2%に効果があったとする報告があります。

びまん性脱毛(全体的に抜け毛が増えるタイプの脱毛)のある人はビタミンDが不足しており、その傾向は特に女性で顕著であることを示した報告があります。

#7 体重増加(糖尿病)

The Telegraphの記事ではビタミンD不足で体重増加が生じることを示したエビデンスが示されていませんが、糖尿病を予防するという研究は複数あります。

 これだけの研究を提示されるとビタミンDが重要であると認めざるを得ません。しかし、摂取し過ぎは不足以上に問題です。しかし検査に保険適用はない……。なんとももどかしいのがビタミンDです。

 

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