マンスリーレポート

2026年7月 GLP-1は「規制」ではなく、もっと「普及」させるべきだ

 オゼンピックやリベルサスなどのGLP-1受容体作動薬、及びマンジャロなどのGIP/GLP-1受容体作動薬(以下、これらを単に「GLP-1」とします)を美容クリニックやオンラインクリニック、あるいは一部の保険診療のクリニックが自費診療で処方しまくっている現状を快く思っていない医師や役人が少なくないのが私には不思議でなりません。

 2026年6月16日、厚労省医薬局医薬安全対策課は「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」というタイトルの注意喚起を発表しました。GLP-1を2型糖尿病など保険適用の処方以外の美容や痩身目的に一部の医療機関が”販売”していることが許せないというわけです。また、大勢の医師も営利目的の安易な販売に辟易とし、2022年には日本医師会の当時の副会長が定例記者会見で「医の倫理に反する」という言葉まで使って痛烈に批判しました。

 GLP-1の有効性と安全性についてはこのサイトでも繰り返し紹介しています。普及し始めて間もない頃は注意を怠ってはならず、特に谷口医院で何例も経験した「若い女性の抑うつ状態」についてはかなり慎重に経過をみています。2023年7月、EMA(European Medicines Agency=欧州医薬品庁)の安全委員会は、GLP-1が原因の自殺念慮と自傷行為について検討を始めました。アイスランドでは2023年の7月時点でGLP-1が原因の可能性がある自殺念慮や自傷行為が約150件集まっていました。結局、2024年4月にEMAは「GLP-1と自殺や自傷行為に関連はない」とする見解を発表して、現在は安全に使用できるということになっています。

 私の肌感覚はちょっと違います。やはり若い女性がGLP-1を使うと抑うつ状態になることが多いような印象があります。ただし、中止すれば元に戻りますし、中年以降の場合はむしろ抑うつ状態が改善するように思えます。この理由はおそらくGLP-1の「ムダなことへの欲求がなくなる効果」だと思います。よく言われるように、GLP-1を使用すると単に食欲が減退するだけでなく、アルコールやタバコ、あるいはギャンブルや買い物、さらに危険なロマンスなどへの欲求も低下していきます。それはいいことのように思えますが、若い頃はこういう一見ムダにみえることが楽しいわけで、そういった経験も広い意味では「勉強」になるのです(私はそう信じています)。
 
 他の副作用もみていきましょう。たしかにGLP-1による急性膵炎や低血糖発作の報告はあります。しかし頻度は稀であり、これらは症状(膵炎なら腹痛、低血糖発作なら動悸や手の震えなど)もでますから、そういう情報をあらかじめ知ってもらっていれば大事に至るリスクは最小限におさえられます。他に起こり得る副作用として、嘔気や下痢がありますが、これらはたいてい軽症で済みます。よって、副作用を理由に「GLP-1を安易に販売してはいけない」と必死になって訴える役人や医師を、最近の私はちょっと冷めた目でみています。

 米国ではすでに国民の8人に1人がGLP-1を使用していると言われています。それだけ広く普及している薬品を「副作用が……」という理由をつけて「適応外処方はけしからん!」と言ってみたところで意味がありません。では、なぜ大勢の役人や医師はGLP-1の適応外処方に反対するのでしょうか。もしかすると「ラクして稼いでいる医師が羨ましい」のでしょうか。インターネットやSNSに広告をうって、割引クーポンを発行し、初回格安キャンペーン!などと謳って“集客”しているような医師を羨ましがる必要はどこにもないのですが……。

 ここからはGLP-1の「利点」をまとめてみたいと思いますが、書ききれないくらいたくさんあります。糖尿病の改善、ダイエットは当然として、谷口医院の患者さんで目立つのが先述した「嗜好への欲求の低下」です。ジャンクフードやお菓子が減った、飲酒量が減った、禁煙できた、ムダな買い物が減った、未来のないロマンスへの渇望が減った、などです。つまり、GLP-1のおかげで、清く正しく美しく生きることができるようになるのです(繰り返しますが若い頃はこんな生き方が面白くないからGLP-1は時期尚早なのです)。

 脂肪肝、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、アレルギー疾患、がん、認知症などにもGLP-1の効果が認められるようになってきています。これほど有効性が広く高く、そして安全性が高い薬もそうはありません。

 まだあります。Financial Timesによると、米国ではGLP-1が普及し国民がスリムな体型を手に入れたことにより、アパレル業界が息を吹き返したようです。小売店、ショッピングモール、百貨店などで売り上げが大きく増加しています。GLP-1のおかげで国民は自信が持てるようになり、ファッション業界が盛り上がりをみせているというわけです。GLP-1普及前と普及後では社会の雰囲気も変わってきているのではないでしょうか。

 ということは、「GLP-1の普及度」が国民の豊かさの指標にならないでしょうか。やせることが幸せとは言いませんが、やせたい人が理想の体型を手に入れて自信が出てくるのであればそれは望ましい姿だと言えるでしょう。国民の幸せ度の指標として、ブータンは GDP(国内総生産)ではなく、GNH(Gross National Happiness=国内総幸福?)という概念を持ち出していますが、これからはGDPでもなくGNHでもなく「GLP-1の普及率」が国民の幸せに直結する指標となる、と言えば言い過ぎでしょうか。

 私はこれまでの人生で、そばにいる人たちから何度も「あんたは人が向く方を向かない」と言われてきました。自分ではよく分からないのですが、たしかにGLP-1についても「自費診療を始めて売りまくる」でもなく「GLP-1を売りまくる医師を非難する」でもなく、「GLP-1を売りまくる医師にもっとやれ!と応援する」という大勢の医師とは異なる立場をとっています。GLP-1を始めたことによって、自信がでてきて人生を楽しんでいる患者さんたちをみているとその姿を応援したくなるのです。

 GLP-1には大きな欠点が2つあります。副作用ではありません。1つは過去のコラム「 GLP-1ダイエット、中止すれば元の木阿弥」で述べたように「中止すれば元の木阿弥になる」ことで、GLP-1中止により体重が元に戻るどころから開始前よりも太ってしまいます。だからそれなりの費用を工面し続けなければなりません。これが1つめの大きな欠点です。
 
 もう1つの大きな欠点は「筋肉量が低下すること」です。これについては毎日メディカル(無料です)の「運動は『スーパードラッグ』! ウオーキングにプラスしたい大切なこと」という記事に詳しく書いたのでそちらを読んでほしいのですが、「GLP-1で減少する体重の約1/3は筋肉」です。ということは、積極的にウェイトトレーニング(筋トレ)をやらない限り、(特に女性は)将来の骨折や骨粗鬆症のリスクが大幅に上昇してしまいます。

 ならば我々医療者がGLP-1使用者(それは谷口医院で糖尿病の治療目的でGLP-1を処方している患者さんも、美容クリニックなどで自費で買っている患者さんも)にすべきことは「筋トレの助言」に他なりません。実際、最近は診察室で頻繁に「効果的な筋トレ」についての話をしています。この話をある医師にすると「利益は美容クリニックやオンラインクリニックにもっていかれて、先生(私のこと)にはメリットがないですよね」と言われたのですが、そういう問題ではありません。

 きれいごとに聞こえるかもしれませんが、我々の目的は「検査や薬は最小限にして受診回数を減らすこと(≒choosing wisely)」で、20年間その方針で進んできました。今さら利益を求めようとは思いませんし、その患者さんも別のことで受診されているわけですから別に赤字になるわけではありません。そんな小賢しい計算をするよりも目の前の患者さんに必要な助言をするのが我々の任務です。

 GLP-1自費処方クリニックにお願いしたいのは「他の医師や役人から不適切処方だと非難されてもがんばって! けど、できるだけ安くしてあげてね!」ということです。

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