マンスリーレポート
2008年7月号 研究会での発表(精神疾患編)
マンスリーレポート4月号では、「研究会での発表」と題して、4月に開催された「大阪プライマリケア研究会」で私が発表した内容(演題のタイトルは「プライマリケア医が担うべきワクチン接種」)を簡単に紹介しました。今回は、6月に開催された「第19回大阪プライマリケア研究会」で私が発表した内容を紹介いたします。
今回の演題のタイトルは「プライマリケアにおける精神疾患治療の限界」というものです。
すてらめいとクリニックには、軽症、重症を問わず、様々な心のトラブルを抱えた患者さんが来院されます。すぐに入院が必要なケースや、そうでなくても直ちに専門医を受診した方がいいようなケースは適切な医療機関を紹介するようにしていますが、軽症の場合や、軽症ではないかもしれないけれども緊急性がなく、なおかつ患者さんがすてらめいとクリニックでの治療を強く希望される場合は、すてらめいとクリニックで治療をおこなうことがあります。
まず、すてらめいとクリニックを受診する患者さんのなかで、どれくらいの割合の人が精神的ケアを必要としているかを調べてみました。
6月のある日に受診した患者さん(初診・再診を合わせて)は70人でした。そのなかで、抗うつ薬や抗不安薬といった心の病に対する薬を処方した患者さんは12人でした。また、薬は処方していないものの、カウンセリングを含めた何らかの精神的ケアが必要な患者さんが4人いました。ということは、(12人+4人)/70人=23%の人がなんらかの心のトラブルを抱えていることになります。
心のトラブルといっても内容は様々で、過労や超過勤務から心が疲れている人、家庭やプライベートのトラブルが発端となって不安症状や不眠に苦しんでいる人、ガンや感染症に罹患したに違いないと思い込んで(実際にはかかっていないことがほとんどですが)不安症状から抜けられなくなった人、また、特に思い当たる理由は見当たらないのだけれどうつ状態に陥っているといったような人もいます。
このなかで、自殺願望の強い人、アルコールや(違法)薬物に強く依存している人、幻覚(特に幻聴)の強い人、などは初めから患者さんに話をして専門の医療機関を受診してもらうようにしています。
そうでないケースは、すてらめいとクリニックで診ていくことになるのですが、治療によって症状が改善したケースもあれば、結果としてうまくいかなかったケースもあります。今回の発表では、うまくいったケースといかなかったケースをそれぞれ数例ずつ紹介し、さらにプライマリケアで診るべき(あるいは診るべきでない)精神疾患について考察をおこないました。
個々の症例について詳しく紹介するようなことはここではしませんが、すてらめいとクリニックで上手くいったケース、逆に今も患者さんの精神状態がそれほど改善していないケース(大半は患者さんの同意を得た上で専門性の強い医療機関を紹介しています)の特徴をまとめてみたいと思います。
まず、比較的短期間で改善するケースは、不安やうつになった原因がはっきりしている場合です。「過労」が最も多い理由で、この場合は、診断書を発行したり、場合によっては患者さんの上司や人事担当者に話をさせてもらったりすることもあります。また、過労が原因でうつ状態になるケースで意外に多いのが経営者の方です。特に責任感が強く真面目な性格を有している人に多く(そういう性格だから経営者になれたのかもしれませんが)、この場合は社内に相談できる人がいないためにひとりで苦しまれていることが少なくありません。
原因がはっきりしている不安やうつの原因に、職場やプライベートでの人間関係があります。こういう場合も比較的短期間でよくなる場合がありますが、その理由は、医療行為が功を奏したというよりも、社会的に原因が解決したことによる場合の方が多いと思われます。例えば、「イヤな同僚が会社をやめてから元気を取り戻せた」、といったケースや、「前の彼氏に裏切られたことが原因でうつ状態になりカウンセリングに通っていたけど、すべてを理解してくれる新しい彼氏ができてすっかり元気になった」、というようなケースです。
また、比較的時間がかかったけれど、うつや不安状態から抜け出せたというようなケースもあります。この場合も原因がはっきりしていることが多く、例えば、難治性の慢性疾患にかかってそのショックからうつ状態を発症したけれど、その病気と向き合うことができるようになって元気を取り戻したケースや、長い間憎み続けていた家族を許せるようになったことで精神状態が改善したという症例もあります。
一方で、数ヶ月にわたり治療をおこなったけれど、結果としてあまりよくなっていないようなケースもあります。よくならないケースで多いのが、社会的に問題を抱えているようなケースです。代表的な例は、親や配偶者と憎しみ合っていてその関係性に修復の兆しがないような場合です。また、幼少児から他人と馴染めないような性格を有している場合もむつかしい場合が多いと言えます。小さい頃から「キレやすい」性格だったり、常に他人に全面的な依存を求めたりするような性格の場合です。こういうケースは治療に難渋することが少なくなく、専門の医療機関を受診してもらう場合もあります。
都会で暮らしている人々は実に様々な悩みを抱えており、そのせいで心身に不調をきたす人は少なくありません。これからも、心のトラブルを抱えてすてらめいとクリニックを受診される人がおられると思いますが、まずは、その悩みをひとりで抱え込まずにお話いただくことが大切です。
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学会や研究会などで発表する予定が今年はあと3~4回程残っています。すべてとはいかなくても引き続き機会があればマンスリーレポートで紹介していきたいと思います。
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