マンスリーレポート

2013年6月13日 木曜日

2007年11月号 医師は誰のために存在すべきか 

医師は患者さんのために存在する・・・

 私はこれまでこのように考えて仕事をしてきました。「患者さんのために」というのは医師という職業人にとってのものであり、自分のプライベートや家庭を犠牲にしてまで、という意味ではありませんが、これまでの医師としての生活で、「患者さんのために・・・」という気持ちを忘れたことはないつもりです。

 しかしながら、「自分のために仕事をしている」という側面があるのもまた事実です。医学の勉強を継続するのはタイヘンですが、それでも充分なやりがいがあり、勉強したり知識や技術を習得したりした成果がそのまま患者さんの健康に反映されますから、これほど自分にとって楽しいこともないのです。「楽しむために医師をしている」と言えば、不謹慎な表現に聞こえるかもしれませんが、私が楽しんで仕事をしていることは事実です。

 すてらめいとクリニックを開院させてはや10ヶ月が経過した今、「誰のために存在すべきか」に対する答えが少し変わってきているように感じます。

 もちろん、「自分のため」「患者さんのため」という意識には今も変わりないのですが、新たに「仲間(従業員)のため」という要素が加わったように感じるのです。そして、誤解を恐れずに言えば、「患者さんのため」よりもむしろ「仲間のため」の方が私にとって重要ではないかと思うのです。

 こんなことは勤務医の頃は考えたことがありませんでした。勤務医の頃は、医療従事者であれば患者さんのために全力を注ぐのが当たり前であって、医療者全員がそのことを考えていればそれだけで充分、と思っていました。

 ところが、すてらめいとクリニックを開院させて、従業員は諸事情によりほぼ全員が入れ替わるかたちとなりましたが、今一緒に働いている仲間は全員が熱心でいつも患者さんの立場でものごとを考えています。勉強熱心であることも、すてらめいとクリニックの従業員に共通することで、週に1から2回の勉強会はいつも大変盛り上がります。そして、勉強会で学んだことを患者さんのために役立たせるような努力もしています。

 こんな仲間をみていると、組織のトップに位置する私としては、「仲間のために」、もっと言うと、「仲間の幸せのために」力を注ぎたいと思うのです。

 そして、私が「仲間の幸せのために」働くことが、結果として「患者さんのために」なるように感じるのです。

 10月29日は私の39回目の誕生日でした。

 その日の昼休みにカルテ整理をしていると、突然スタッフのひとりが私の元にやってきて、なにやら深刻な表情で「先生、ちょっと話があるんですけど・・・」と言ってきました。会社の経営者やその他組織のトップの方なら分かると思うのですが、この従業員の「ちょっと話が・・・」というのは不吉以外のなにものでもありません。最悪の場合、「実家に帰らないといけなくなって・・・」とか「新しい仕事がみつかっちゃって・・・」とか、要するに退職の申し出であることが多いのです。

 私は不吉な予感を払拭できないまま、彼女の指示通り、奥のスタッフルームに足を運びました。

 すると、テーブルが綺麗に整理されており、その真ん中には私のためのバースディケーキが用意されていたのです!!

 これには本当に驚きました。クリニックでは毎朝ミーティングをおこなっていますが、私の誕生日のことなど誰も話題にしていませんでしたし、まさかサプライズで誕生日会を開いてもらえるなどということは夢にも思っていなかったからです。

 私自身がスタッフの誕生日を覚えていてプレゼントを渡していたとすれば、そのようなことを少しは期待したかもしれませんが、プレゼントを渡すどころか、私は従業員の誕生日を調べようと思ったことすらないのです。

 バースディケーキのろうそくを息で吹き消す体験が前回いつだったかはもう記憶がありません。去年の誕生日は数人の方からメールをいただいたことを除けばなにもイベントがありませんでしたし、その前の年はタイにいましたが私は誰にもその日が自分の誕生日であることを告げませんでした。

 ケーキを用意してもらうというのは嬉しい反面、かなり照れくさいものがあり、そのような状況に慣れていない私は、何とお礼を言っていいか分かりませんでした。

 その日の夜、私はスタッフ全員がこの日のために事前に様々な準備をしていてくれたことを想像しました。ケーキは数日前から予約してくれていたでしょうし、私に気づかれないように、何度も秘密のミーティングを重ねてくれていたのでしょう。こんな私のためにアイデアを考えて時間を費やしれくれたことが嬉しいのです。
 
 私は日頃、スタッフに対し優しく接しているわけではありません。スタッフの言動が患者さんに不利益をもたらすことがないよう厳しく注意することもあります。「スタッフからある程度嫌われることがあっても仕方がないな・・・」と考えていたこともありましたから、誕生日会は意外であって、そして本当に嬉しかったのです。

 もうひとつ、その日の夜に考えて分かったことがあります。それは、クリニックのスタッフ全員がとても仲が良いということです。もしも、スタッフどうしの仲が悪ければこのようなイベントは決して開かれることがなかったでしょう。

 スタッフ全員が仲がよく勉強熱心で仕事に真摯に取り組んでいる、これ以上の理想はないでしょう。このような環境で仕事ができる私は本当に幸せだと思います。
 
 医師は患者さんのために存在する・・・。それが真実であることは変わりませんし、私の場合はNPO法人GINA代表の立場でエイズ患者さんやエイズ孤児のために努力し続ける義務もあります。

 しかしながら、それら以上に、仲間に楽しんでもらいたい、幸せになってもらいたい、という気持ちが強くなっているのです。

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2013年6月13日 木曜日

2007年10月号 Give me a rest! 

私がまだ研修医の頃、夜間の救急外来である先輩医師と話していたときのことです。

 その先輩医師は10年目くらいの脳外科医で、ひとりでたくさんの入院患者さんをかかえ、外来もこなし、さらに夜間の救急外来にも週に2回くらい入っていました。それだけではありません。夜間の当直勤務がないときにも、夜中の緊急手術が入るとどこにいても呼び出されます。まさに、24時間365日のほとんどを病院に拘束されているような状態です。

 当時、研修医だった私ももちろん休みはほぼ皆無でしたが、その先輩とは責任の重さがまったく違います。研修医は何かと大変と言われますが、第1執刀医をつとめたり、夜間に意識を消失して搬送されてくる患者さんの全責任を負ったりといったことはありません。

 私はその先輩医師に尋ねてみました。

 「先生は、まったく休みがないんですか?」

 「まったくないわけじゃないよ。月に一度は休みをもらって、その日は病院からの電話がかかってこないということになってるんだ。月に一度でもそんな休みがあるだけでも幸せだよ」

 その言葉を聞いて、私は医師として一人前になるまでは休みをもらおうなんて自分からは言い出さない、ということを自分自身に誓いました。

 そして現在・・・。

 私は今年から一応開業医ということになりましたが、クリニックで得られる利益は私の給料まではまかなえません。それどころか、クリニックにかかる費用を他から捻出しなければなりません。そのため他の医療機関での非常勤医師やアルバイトをおこなわなければ生活ができません。

 実際、クリニックは木、日・祝が休みですが、これらクリニックが休みの日には他の医療機関で働いています。

 月に一度くらいは休みがほしいというのが私の本音ではありますが、医療機関はどこも人手不足が深刻ですからそう簡単に休みをとることはできません。

 予定表を見てみると、この前私が休暇をとったのは5月4日でした。ということは、もう5ヶ月以上も休んでいないことになります・・・。(その間に実施された認定産業医の研修はある意味で休暇でしたが・・・)

 仕事自体は好きなので、ある程度の睡眠時間さえ確保できれば休みなんかなくてもいい・・・。

 少し前まではそう思っていましたが、最近は疲労感がとれず、「休みたい・・・」と思うようになっていました。

 先日、ある病院で夜間に当直をしていた時、夜中の2時半頃に救急車がやってきました。

 以前なら、どれだけ眠たくても、救急室にたどりつくまでに頭が冴えて、どんな患者さんが来られるのかが楽しみでした。

 けれども、そのときはそんな楽しみを感じることができませんでした。それだけでなく、”Give me a rest!”と感じてしまったのです。

 ”Give me a rest!”とは、直訳すれば「休みをください」という意味ですが、英語を母国語とする人たちは、「もうたくさん!」のような意味で使います。以前、知人のアメリカ人にこのフレーズを教えてもらったことがあるのですが、夜間に救急患者を診なければならない事態に直面した私は、心のなかで”Give me a rest!”と叫んでしまったのです。

 そして、そんな思いをもった自分自身がいることに対して頭が冴えてしまい、自分が恥ずかしくなりました。

 幸い、救急搬送されてきた患者さんは、軽度の喘息発作のみで点滴処置をおこなうだけで帰宅できる状態になりました。

 その患者さんが帰った後、私は自分自身を省みました。

 ”Give me a rest!”などと感じてしまった私は、もう休日や夜間の救急外来をすべきでない・・・。これ以上休みなしで働くと、すてらめいとクリニックの患者さんに対して全力で診られなくなってしまうかもしれない・・・。

 今、私はすてらめいとクリニック以外の勤務先に対して、少しずつ勤務の削減、あるいは退職を申し出ています。

 もちろん、急な話なので、実際に月に1~2度の休みをもらえるようになるのは、早くても来年になるでしょう。

 こんな私は医師として失格なのでしょうか。人手不足がますます深刻化する日本の医療業界で、月に1~2度も休むなんてことは許されがたいことなのでしょうか。

 そうかもしれません。しかしながら、私としては、自分が食べていけなくなったとしても、これ以上疲労を蓄積し、目の前の患者さんに集中できなくなるようなことは避けたいのです。

 ”Give me a rest!”などと心で叫んでいる医師に診られたい患者さんなどいるはずがないのですから・・・。

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2013年6月13日 木曜日

2007年9月号 相乗効果を発揮する、ということ 

早いもので、すてらめいとクリニックがオープンして8ヶ月以上が過ぎました。

 クリニックは都心部にありますから、お年寄りの集まる郊外や地方の診療所とは異なり、繰り返しの再診を必要としない働き盛りの若い患者さんが多数を占めることは当初から予想していましたが、それでもこの間におよそ2,500人の新患の患者さんが来院されたことには少し驚いています。

 最近は、職場のストレスなどからくるメンタルヘルスの問題を抱えている患者さんが増えてきており、現代社会が孕んでいる職場の環境問題をあらためて実感しています。

 さて、患者さんが増えてくるとクリニック内に様々な問題が生じてきます。「待ち時間が長い」「(私も含めて)スタッフの患者さんへの対応に問題がある」「事務処理が迅速にできていない」、といった多くの問題をスタッフ一同は認識しています。

 クリニックのスタッフは、オープン当初から比べると入れ替わりもあり、またスタッフ総数が増えてきているのですが、以前に比べると「問題を発見して改善しよう」という空気が次第に強くなってきています。

 これは、スタッフのそれぞれが、常に「問題はないか」という視点から業務に取り組んでいるために、少しでも改善すべき点があれば、それをミーティングや会議の場で、あるいは業務中にでも問題提起をし、同時に改善策も提示するような習慣ができているからです。

 例えば、こんなことがありました。

 患者さんが集中する時間帯にはたくさんの患者さんのファイルが混在するという問題がありました。このファイルの患者さんは診察がまだなのか、尿検査や血液検査の結果待ちなのか、診察が終わって会計待ちの状態なのかが、ときに分からなくなることがあったのです。以前は、おおまかにはルールを決めていたのですが、患者さんが集中したときにはそのルールで対応しきれておらず、その結果、患者さんに不必要な待ち時間を与えてしまうということがありました。

 ある日のこと、業務が終わってから誰かがこの問題を提起しました。(誰が提起したかは覚えていません。今のスタッフであれば誰もが提案するような空気になっています)

 すると、他のメンバーがそれに同意し、次々と改善案が出されました。みんなが一生懸命に案を出した結果、なんと15分後には、誰がみても同じ問題を繰り返さないようなシステムが確立され、さらにそのシステムを実行できるような環境がととのったのです。実際、翌日からは同じ問題は一切おこらなくなっています。

 もうひとつ例をあげましょう。

 クリニックには女性の内診台があります。私は産婦人科専門医ではないために、妊婦健診や中絶手術などはしていませんが、性感染症や子宮がんの検査目的の患者さんは大勢おられるため、子宮けい部(子宮の入り口)や腟内の診察はおこなっています。

 内診台に上がるのは初めて、という患者さんも少なくなく、そういう方はたいへん緊張されるでしょうし、恐怖感をもたれている方もいるに違いありません。

 内診台でリラックスして検査を受けてもらうにはどうすればいいか・・・。この問題に対しては何度かミーティングで取り上げられ、ブレイン・ストーミング(大げさ?)が重ねられました。

 現在は、安らぎが得られるような香りの芳香剤を置き、さらに内診室にも有線放送のスピーカーを設置してリラックスできる音楽を流すようにしました。こうすることによって、以前から通われている患者さんからも「以前よりも心地よくなりました」という言葉をいただくようになりました。しかし、もちろん、これからもさらなる改善につとめていきたいというのが我々の考えであります。

 最近のクリニックでは、誰かが何か問題を見つけると、すぐにそれを提案し話し合いがもたれ、実行にうつすような雰囲気ができあがっています。私は、仕事の醍醐味のひとつが「相乗効果を発揮する」ことだと考えています。もちろん、これはクリニックに限った話ではなく、どのような職場であっても、あるいは家族の場においても同じことです。相乗効果を発揮できているかどうか、これが仕事や家庭生活を楽しめるかどうかのひとつのポイントだと思うのです。

 今のクリニックでは、誰かがひとつの問題を提起すると、他のスタッフが様々な意見を述べます。その結果、問題提起をした人が考えていた改善案よりもずっと優れた解決策が見つかることも少なくなく、まさにこれが「相乗効果」なのです。

 さて、相乗効果を発揮できている、という意味において今のクリニックは非常にいい状態なのですが、これほどいい状態を維持できているのは、すてらめいとクリニックが大きすぎる組織ではないから、というのがひとつの理由です。これが大きな組織になると、例えば有線放送のスピーカーを設置するのにも稟議書が必要となり、多くの人のはんこが必要となり実行までにかなりの時間がかかってしまいます。

 しかし、小さな組織であれば、それだけでどのような組織でもうまく事が運ぶかというとそういうわけではありません。スタッフどうしの信頼関係が樹立されていなければなりませんし、スタッフのそれぞれの能力を誰もが認めていなくてはなかなかできることではありません。

 相乗効果を発揮するには、まずはメンバーのそれぞれが強い責任感と実行力を有していることが条件であり、さらに互いが互いを尊重するような土台がなければなりません。

 そういう意味で、現在のすてらめいとクリニックはまさに「理想の職場」であるように思えます。

 もちろん、相乗効果を発揮し続けるには、各自が高い自律性を維持し続ける必要があり、そのためにはそれなりの努力を強いられます。

 また、スタッフが思っていることと、患者さんの考えにズレが生じる(すでに生じている)可能性もあります。

 現在のクリニックのスタッフは、ミッション・ステイトメントの第1条にもあるように、「常に患者さんの立場にたって考える」というミッションを遂行すべく努力しています。

 すてらめいとクリニックを受診された患者さんで、クリニックの改善すべき点に気付かれた方がおられましたら、ご提案いただければと思います。

 院内には意見箱も設置してありますので、お気づきの点がございましたらご協力をお願いいたします!

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2013年6月13日 木曜日

2007年8月号 産業医の魅力

すてらめいとクリニックは7月30日の午後から8月6日まで休診とさせていただきました。これは、私が産業医の研修に参加していたからです。

 「産業医」とは、一言で言えば、「企業で働く人たちが安全に快適に働けるように健康面のサポートをする医師」のことです。

 私はいつの頃からか、この「産業医」の資格を取得して企業で働く人たちに貢献したいと考えるようになっていました。すてらめいとクリニックは大阪市北区の都心部に位置していますが、都心部でのクリニックにこだわったのも、診療時間を午後8時までと遅い時間にしているのも、都心で働く人たちの力になりたいと考えたからです。

 研修は北九州市の産業医科大学でおこなわれました。数ヶ月前からこの研修を心待ちにしていたのですが、実際行ってみると予想通り、あるいは予想以上に楽しいものでした。
 
 大阪を離れて飛行機に乗って北九州まで行けるということも楽しいことですし、連続6日間の研修を受けることができるというのも私にとってはこの上ない喜びです。受講生が多くて、講義の後、先生に質問ができないというのはややストレスになりましたが、実習については、少人数でおこなわれ質問もできましたから本当に楽しく過ごせました。あらためて、自分は本当に勉強が好きなんだなぁ・・・、と再認識しました。

 さて、これから私は認定産業医の登録をおこなうことになり、実際に産業医として働くことができるのは10月頃になります。

 産業医には専属産業医と嘱託(しょくたく)産業医の2つがあります。

 専属産業医とは従業員1,000人以上の事業所(一部の業種では500人以上)に勤務する産業医で、その企業の一従業員ということになります。

 嘱託産業医は、従業員50人以上の事業所が選任する産業医で、こちらは企業にいつもいるわけではなく、月に1~2度程度その事業所に出向いて仕事をおこないます。(社員数が50人以上ではなく、その事業所に勤務する従業員が50人以上です) 企業側からみれば、事業所に50人以上の従業員がいる場合は、必ず嘱託産業医を選任しなければなりません。

 私が、今年の秋頃から活動する予定なのは嘱託産業医です。クリニックの診療との兼ね合いもあり、捻出できる時間は限られますから、当分の間、契約をおこなうのは1~2社になると思います。

 嘱託産業医は月に1~2度しかその企業に出向きませんが、業務はたくさんあります。

 まず、企業で月に一度開催される「安全衛生委員会」に出席します。ここで、従業員の労働衛生上の問題はないか、職場環境の安全性に問題はないか、病気や怪我などで休んでいる従業員の職場復帰をどうするか、などについての話し合いをおこないます。

 また、月に一度の割合で「職場巡視」をおこないます。工場などでは、粉塵の処理はできているか、有害物質の管理は適切か、などを巡視しますが、オフィス(事務所)では、照度やパソコンの環境(VDT対策はできているか、など)などをみます。

 それから、(私が予想するにこれが一番重要だと思うのですが)、過重労働をおこなっている従業員との面談をおこないます。

 これは、2006年の4月に改正された労働安全衛生法の、「月に100時間を越える残業をおこなった者で、本人の申し出があれば、企業は産業医との面談を受けさせなければならない」、という規定によるものです。もちろん、これは最低限の基準ですから、100時間を越えていなくても、疲労が蓄積していたり強いストレスを受けていたりする場合は、産業医の面談を受けることができます。

 おそらく現在の日本の会社員で月の残業時間が100時間を越える人は少なくないでしょう。それは、すてらめいとクリニックを受診される患者さんに話を聞いていれば分かります。なかには、毎日会社を出るのが早くても深夜2時という人もいますし、もう2ヶ月以上も休みをとっていない、と話される人もいます。(そういう私も5月4日から休みが一日もありませんが・・・)

 過重労働に加え、おそらく現在の日本のビジネスパーソンが直面している重大な問題はメンタルヘルスです。過重労働から、あるいは、配置転換、昇進、職場の人間関係などから、不眠症や不安症、うつ病といった精神的な疾患に罹患する人は少なくありません。すてらめいとクリニックを受診する患者さんにもこういった方は多く、定期的なカウンセリングに通われている患者さんもいます。

 ちなみに、職場に原因または悪化因子があって、心身に症状が出現している患者さんを年代でみると、女性であれば20代、男性は30代半ばから後半の人に多いような印象があります。

 私は今年39歳になりますから、男性の患者さんで職場のストレスを訴える人をみると同年代として他人事でなく放っておけない気持ちになります。私が大学を卒業し就職した1991年はバブル組と呼ばれ、世界を代表するような大企業からの求人がひっきりなしにきていた時代です。

 あの頃は、「24時間働けますか」という言葉が流行語にもなって、みんなが仕事に夢を持っていたように思います。私も例外ではなく、仕事自体はたいへん楽しかったですし、いろんな勉強をさせてもらいました。結局、退職して最終的に医師という職業を選び、さらに自身でNPO法人もたちあげましたから、自由に使えるお金が会社員時代より少なくなったとはいえ、人生のミッションを遂行しているように感じてはいます。しかしながら、「あのまま会社に残っていたら今頃は・・・」といった後悔にも似た一抹の寂しさを覚えることがあります。

 あの頃、私と同じように夢をみてがんばっていたビジネスパーソンがストレスを抱えメンタルヘルスの問題に悩んでいると思うと、放っておけない気持ちになり、少しでも力になりたいのです。

 医師は患者に感情移入をしすぎてはいけない、というのは我々医師が忘れてはならないルールですが、日本のビジネスパーソンが健康に楽しく働けるようにできる限りのことをやりたい!、と今は思います。

 ビジネスパーソンのみなさん、夢を求めて働きましょう。けど、あまり頑張りすぎないように・・・。疲れたときは、産業医を頼ってみてください。

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2013年6月13日 木曜日

2007年7月 私の一番キライな仕事

 仕事を選ぶな!

 これは私がサラリーマン時代に先輩社員からよく言われた言葉です。

 たしかに「仕事を選ぶな」というのは社会のルールのようなものであって、一従業員が仕事のえり好みをすべきではありません。それに、一見イヤに思う仕事でもやってみればそれなりに面白さを見出せることはよくありますし、その仕事をおこなったことが後で役に立つことはよくあります。

 そういうわけで、私は医学部入学以降も、キライな科目の勉強にも手を抜きませんでしたし、医師になってからも一見雑用に見える仕事もイヤな顔をせず(これは疑わしいかもしれませんが・・・)取り組んできたつもりです。

 けれども、どうしてもキライな仕事というのはどんな仕事をしていてもつきまとうものです。

 私の場合、最もキライな仕事は「レセプト請求業務」です。

 レセプトについて少し説明をしておきます。通常、医療機関では診療費の3割を患者さんから徴収します。残り7割は、社会保険であれば、社会保険診療報酬支払基金にレセプトを提出し、その数ヵ月後に同基金より支払われます。要するに、レセプトとは同基金に提出する「請求書」のようなものです。

 しかしながら、単に「今月の請求額はいくらになります」という旨の請求書を作成しただけでは同基金は受け取ってくれません。それぞれの患者さんごとにどのような診療をおこなったかを詳細に記した書類を提出する必要があり、この書類がレセプトなのです。

 レセプトには、患者さんに対し、どのような検査や投薬をおこなったかを詳細に書かなければなりません。そして、その検査や投薬に適している「病名」を記載しなければなりません。この「病名」の表記がときに非常に複雑になります。

 例えば、ある患者さんが糖尿病の疑いがあったとします。この場合、血糖値を測定すれば、病名に「糖尿病の疑い」と記載する必要があります。このとき血糖値が高くもないが低くもないような場合、追加でHbA1Cの値を測定することがあります。現行のルールでは、HbA1Cを測定した場合には、病名は「糖尿病の疑い」ではなく「糖尿病」としなければならないことになっています。

 この場合、一度計測した血糖値が微妙な値をとったのだから、血糖値よりも糖尿病の診断により役立つHbA1Cを測定しようと考えるわけですが、レセプトの病名に「糖尿病」と書いてしまえば、この患者さんはまだ正確に糖尿病であることが決まったわけではないのに糖尿病という病名がついてしまうことになります。そして、決まったわけでもないのにレセプトに「糖尿病」と記載すれば、ある意味で「不正請求」ということになってしまいます。

 では、実際にはどうしているかというと、患者さんに対して「HbA1Cの測定は自費でお願いします」というわけにもいきませんから、この場合はクリニックの負担で(つまりクリニックが損をして)レセプトを提出しているのです。

 また、たくさんの訴えのある患者さんの場合、ついつい病名が抜けていることがあります。発熱と下痢で受診した患者さんに対して、急性胃腸炎という診断がつき、検査と投薬をおこなったようなケースで、患者さんが帰り際に「先生、水虫もついでに診てもらえますか」などと言われることがあります。顕微鏡の検査で水虫をみつけて、抗真菌薬を処方するわけですが、こんなときによく「足白癬」という病名の記載が抜けてしまうことがあります。メインの疾患の急性胃腸炎に目をとられるからです。「足白癬」という病名が抜けたままのレセプトを提出してしまうと、この分は基金から支払われずにクリニックが損をしてしまいます。

 レセプトのチェックでは、「病名が抜けていないか」と「不正請求になっていないか」の双方を確認しなければならないというわけです。

 医療機関の締めは末日ですから、月末日にはいったん下書きの段階のレセプトを打ち出します。そしてこれらを、1枚1枚カルテを見ながら確認していくのです。

 この作業がとてつもなくしんどいのです!! そして、これが私の一番キライな仕事です。

 実は、ついさっきまでその仕事に取り組んでいてやっと終了しました。時計の針はすでに午前7時に…。この仕事のせいで、月初めの数日間は徹夜をしなければならないのです。

 この作業をしていていつも思うことがあります。そもそも医療機関というものは、営利団体ではなく、現実的には公的機関の側面が強いわけですから、レセプトの内容に関係なく一定額が支払われるようなシステムにすればいいのではないでしょうか。

 我々医師がおこなう作業も大変ですが、社会保険診療報酬支払基金でのチェックもかなりの人件費が必要となっているはずです。

 もしも、レセプトの作成を簡素化し、一定額が支払われるシステムになれば、かなりの人件費が節約され医療費削減にもつながるのは間違いがありません。

 もっと言えば、勤務医も開業医もすべての医師を公務員にして給与を一定にし、レセプト作成業務をなくしてしまえばかなりのコストが削減できるはずです。

 医師は自身の給与が高かろうが低かろうが、目の前の患者さんに全力を注ぎますから、公務員として給与を一定額にしても医療の質が低下することはありません。

 もしも、レセプトの存在がなくなれば、医師だけでなく医療機関の事務員の仕事も大幅に減りますし、同基金の人件費も大きく削減できます。こうすれば浮いた医療費をより必要なところに使えると思うのですが、この私の案は絵に描いた餅なのでしょうか。

 毎月こんなことを考えながら、一番キライな仕事をこなす・・・。

 これが私の月初めの姿です。

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2013年6月13日 木曜日

2007年6月号 チャレンジシートと相乗効果

組織の質を高めていくには個々人の努力が不可欠ではありますが、いくら個々が努力を重ねてもそれぞれが別の方向を向いていれば相加効果すら発揮できません。例えば、ある組織に3人のメンバーがいて、仮にその3人の能力が優秀であったとしても、向いている方向が違えば、1+1+1が3に満たないこともあります。

 一方、組織のメンバーが各自で努力をおこない、なおかつそれぞれの目指すところが同じところを向いていれば、1+1+1が3ではなく、6にも9にも、あるいはそれ以上になることもあります。

 質の高い組織というものは、単に各自の能力が優れているだけではなく、メンバーの関係性のなかで相乗効果が発揮され、予想以上の力が結果として得られるものだと私は考えています。

 これは、スポーツのチームプレイを思い出せば分かりやすいと言えるでしょう。例えば、いくら能力の高いサッカー選手を集めても相乗効果が発揮できなければそれほど強いチームにならないことは多くの人が実感していることだと思います。

 さて、組織で活動するという意味では、サッカーチームもクリニックも同じであって、たとえ個々が優秀な能力を持っていたとしても、各自が異なる方向を向いていれば相乗効果が発揮できず、患者さんにとって満足のいく診療ができないことになります。

 すてらめいとクリニックはオープンして半年近くがたとうとしていますが、オープン当初に比べれば随分改善されたとはいえ、申し分のない相乗効果が発揮できているとは到底言えない局面もあります。

 そこで、一応は組織のリーダーである私は、クリニックのメンバー各自にチャレンジシートを書いてもらうことにしました。クリニックでは短時間のミーティングは毎日おこなっていますが、組織の性質上、なかなか全員が集まって時間を割いて定例会議を開くことができないこともあり、各自の努力の内容や目標を把握するにはチャレンジシートの作成が適していると考えたのです。

 チャレンジシートの項目は、①ミッションステイトメントをどれだけ遵守できたか、②半期を振り返ってよくやったと思うこと、③半期を振り返ってできなかったことと今後の取り組み、④自身の長所とその長所を今後どのように伸ばしていくか、⑤自身の短所とその短所をどのように克服していくか、⑥今後クリニックで取り組んでいきたいこと、の6つです。

 メンバー各自のチャレンジシートは、内容も量も様々で、「こんなことにまでこれほど考えていてくれたのか・・・」と思うようなものもあれば、「いまひとつ具体性に乏しくて分かりにくいかな・・・」と感じるものもありますが、メンバー各自が、クリニックに対してどのような思いを持っているかがよく分かり、各自の向いている方向が認識できました。

 チャレンジシートに書かれた文章の内容が、日頃私が考えていること、感じていることとほとんど同じものもあります。メンバーが書いたそういった文章を読むと、「ああ、この人とはかなりの部分で共感できるな・・・」と感じます。「共感」できるということは、それ自体で感動をもたらせてくれますが、その逆に、「ああ、こういう考え方もあるのか・・・」と自分が考えたことのない内容を目にしたときにも別の感動があります。

 メンバーそれぞれがまったく同じ考えをしているときには、組織はまとまりやすいですが、ともすると相加効果は発揮できても、相乗効果が得られないことになります。つまり、3人のメンバーからなる組織を例にとれば、1+1+1=3にしかなりません。

 けれども、例えば、ミッションステイトメントを遵守した上で、メンバーそれぞれが独自の考えを持っており、それが互いに尊重できるものであったとすれば、1+1+1>3となります。そういう意味では、自分の考えと異なる意見をもっているメンバーの考えを聞くことは組織を向上させていく上で非常に大切なことではないかと思います。

 今は、メンバーそれぞれと面談をおこなっている最中ですが、こういった作業は組織の質を高めていく上で不可欠であることを実感しています。

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 ところで、現在のすてらめいとクリニックの最大の問題点は、「患者さんの待ち時間が長い」ということです。

 いつも混雑しているわけではないのですが、時間帯によっては患者さんが集中して来られ、待ち時間が長くなってしまいます。ときには、「もうこれ以上待てない」と言って帰られる方もおられます。

 また、診察前の待ち時間だけでなく、診察後、薬を受け取って会計を済ますまでの時間が長いときもあり、患者さんには多大なるご迷惑をおかけしております。
 
 この点については、クリニックのスタッフも重々承知しており、ほとんどのスタッフは今回のチャレンジシートに「待ち時間の長さが現在のすてらめいとクリニックの最大の問題」と書いています。

 チャレンジシートの作成、各自との面談を通して、はっきりしてきたことは、現在のすてらめいとクリニックには解決すべき問題が数多く存在しますが、最大の”緊急を要する”課題は「待ち時間を減らすこと」であるということです。

 私が大変幸せだと思うことは、ほとんどのスタッフがこのことを強く認識しており、待ち時間を減らすために各自が努力を重ねていることが分かったことです。

 今後、患者さんの待ち時間を減らすことができるかどうか・・・

 これができるかどうかは、スタッフどうしの相乗効果をどれだけ発揮できるかにかかっていると言えるでしょう。

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2013年6月13日 木曜日

2007年5月号 シンパシーとエンパシー

すてらめいとクリニックがスタートして、しばらくの間は学会発表や講演の仕事を控えていたのですが、先月(4月)は人前で話す機会が2回ありました。

 1つは、大阪プライマリケア研究会での症例報告。すてらめいとクリニックに受診された興味深い3つの症例を報告しました。

 もうひとつは、関西のある地域の青年会議所での講演です。内容は「タイのエイズ事情とボランティアについて」です。

 もともとこの講演は、その青年会議所に所属する友人から依頼を受けたのがきっかけだったのですが、当初考えていたものとは少しかたちが変わりました。

 初めは、「タイのエイズ事情について話してほしい」という依頼だったのですが、ミーティングを重ねるうちに、「谷口恭のボランティアに対する考えについても話してほしい」との要望を受けました。私はこれまで、そのような内容では講演をしたことがなかったので少し躊躇したのですが、スタッフの方々の熱意に圧倒され、結局引き受けることにしました。

 それにしても、この青年会議所のスタッフは本当に熱心です。通常は、講演依頼を受けても、事前の打合せなどはほとんどなく、当日にいきなり本番というかたちの講演がほとんどです。

 ところが、この青年会議所のスタッフの方々は、何度もすてらめいとクリニックに足を運んでくださり、リハーサルを何度もおこないました。そして、その都度、「ここのところをもっと詳しく話してほしい」とか、「この部分は興味深いので時間をとって掘り下げてほしい」といった提案をしてくれるのです。

 そのため、これまでの講演に比べると、スライド(パワーポイント)を作成するのにかなり時間がかかりましたし、自分ひとりのリハーサルを何度もおこなうことになりました。

 講演当日は大勢の方々が会場に来られました。その日のイベントが急遽ひとつなくなったとのことで、私は1時間半もの時間を使わせてもらいました。

 この青年会議所は日頃から社会奉仕やボランティアに力を入れているだけあり、タイのエイズ患者さんやエイズ孤児の実態についてとても熱心に聞いてくれました。この組織も今年救急車1台をタイのある貧困地区に寄付することが決まっているそうです。また、私の話がボランティアに及ぶと真剣さがさらに増しました。

 講演が終わると、何人かの方が大変有意義な質問をしてくれました。これだけ活発に質問が出るのは、彼(女)らが興味を持って熱心に話を聞いてくれたからに他ならず、こちらとしては大変やりがいがありました。

 また、事前のリハーサルや資料作成を通して、私自身がボランティアや社会貢献ということにあらためて想いを巡らせることができたことも収穫でした。

 なぜ社会貢献をするのか・・・

 必要だからする!と言ってしまえばそれまでですが、このテーマは、実際に社会貢献をしている人、あるいはしたことのある人なら誰もが一度は考えたことのあるものです。

 しかし、「なぜ働くのか」「なぜ勉強するのか」「なぜ結婚するのか」・・・、などに比べると「なぜ社会貢献をするのか」については、はっきりとした答えがなく、人によって理由が様々であると言えます。また「社会貢献」の定義自体にもいろんな考え方があるでしょう。

 それだけに、「なぜ谷口恭は社会貢献活動をするのか」という点について、日頃から社会奉仕活動をしている人たちにとっては興味深いものだったのではないかと思います。

 ところで、事前の何度かのリハーサル時、当日の講演前の打ちあわせ時、講演中の質疑応答時、講演後の幹部スタッフとの会話時、などに私が感じたことがあります。

 それは、うまく表現できないのですが、社会貢献という同じ目標を掲げる”同士としての絆”を実感できたことによる感動のようなものです。一言で表すなら「シンパシー(sympathy)」を実感できた、となるのかもしれません。

 一方、私は日々の医療の現場で患者さんの苦悩を聞いたときや、タイで困窮な生活にあえぐエイズ患者さんと話したとき、理屈抜きで「この人の力になりたい!」と感じ、これには強い感動が伴いますが、これは”同士としての絆”とはまた異なります。そうではなく、そういった患者さんたちに対し、ある程度の”感情移入”をしたことによる感動です。これを一言で表すなら「エンパシー(empathy)」と呼べるかもしれません。

 sympathyとempathy、おそらく辞書にはどちらも”共感”と書かれていると思います(少なくとも私はどちらも「共感」と記憶しています)。私は今までこの2つの単語をほとんど区別していませんでしたが、今回の講演を通してsympathyの感覚が分かるようになったのかなという気がしています。

 同士としての絆=シンパシー、私は今後もこの感動を追求していきたいと考えています。

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2013年6月13日 木曜日

2007年4月号 働いている人は早朝の勉強を!

すてらめいとクリニックをオープンさせてから私生活が随分と変わりました。やはり最も大きな変化は、深夜の勤務が大幅に減ったということでしょう。

 いわゆる当直勤務(以前から勤務している病院で)が現在では月に3~4回のみとなりましたから、医師のなかではかなり規則的な生活をしていることになります。(月に10回以上当直勤務をしている先生方がたくさんおられることを考えると申し訳ない気持ちになります・・・)

 すてらめいとクリニックの診療時間は夜8時までです。8時まで受付をおこなっていますから、診察が終わり、患者さんが帰られてその日の業務がすべて終了となるのは9時を回ることもあります。

 私がいろんなところで繰り返し述べているように、医師の仕事は診療だけではありません。患者さんと接していないときは、学会や研究会発表の準備や、論文の作成などもしなければなりません。また、月に10冊以上送られてくる学会誌や医学関連の雑誌を読み、それ以外にも勉強をしなければなりません。

 そのため、医師という職業をしている以上は、診療以外の仕事(勉強)の時間を最低でも1日に2~3時間程度は捻出する必要があります。

 すてらめいとクリニックを開業するまでは、深夜勤務で救急の患者さんが来られないときなどに細切れの時間を見つけて勉強するようにしていましたが、先月からは夜は11時か12時には眠り、朝5時に起きて勉強するようにしています。

 実は、この方法は私が会社員時代におこなっていた方法です。

 私は会社員時代に勉強時間の捻出にあれこれ試行錯誤を繰り返し、1年目の終わりごろから朝5時からの勉強を日課にするようにしました。

 『偏差値40からの医学部再受験』にも書きましたが、私は英語がまったくと言っていいほどできなかったのにもかかわらず、就職した会社ではなぜか「海外事業部」に配属されてしまいました。

 このため、好きとか嫌いとかそういう問題ではなくて、ともかく英語をがむしゃらに勉強するしかなかったのです。とはいえ、会社員、特に1年目の会社員というのは夜遅くまでの残業が当たり前ですし、多くの付き合いもあります。若い社員は上司からの誘いを断るわけにはいきません。そのため週に1~2度はお酒を飲むことにもなります。

 残業を終えて深夜に帰宅したとき、あるいはお酒が入った状態で帰ってきたときに机に向かう気にはなれません。最初の頃は、それでも帰宅後に勉強していたのですが、能率が上がらずにいつのまにか寝ていることもしばしばでした。

 そんななか、あるとき朝5時に起床して勉強するという方法を思いつきました。これなら、疲れが蓄積していたり、お酒が残っていたりすることもありません。効果はてきめんで想像以上の能率の良さを実感することができました。

 朝5時に起きているわけですから、夜になると眠たくなってきます。それが分かっているために、日中の仕事は意識的に効率よくテキパキとおこなうようになります。また、眠たくなるときにお酒が入れば早く家に帰りたくなりますから、深酒をしたり、自らが率先して2次会、3次会を企てたりすることもなくなります。

 私が勤めていた会社では朝7時半とか8時から勉強会や週例会がありましたが、それでも勉強時間として朝5時から7時までの2時間が確保できます。この2時間は私にとって大変有意義な時間となりました。この日々の2時間がなければ、私の英語はいつまでたっても幼稚なままで、さらに医学部合格もなかったかもしれません。

 会社を退職してからは、医学部の受験勉強を始めましたが、このときも私は朝5時からの勉強を義務付けていました。そして、このときには会社員時代に英語を勉強していた頃には気付かなかった”利益”があることが分かりました。

 それは、「朝になると難問が解けている!」ということです。

 私は元々理数系の科目が苦手なので、数学や化学の計算問題は解答をみてもよく分からないものが少なくありませんでした。身近に質問できる人がいればよかったのですが、予備校も行かずにひとりで勉強していた私には気軽に質問できる人が皆無でした。しかし、医学部受験をする以上は、解答を見ても分からない問題があれば絶望的です。

 ある夜、数時間考えても分からない数学の問題を諦めて眠ることにしました。そして、明け方に夢を見ました。夢のなかでも私はその難問を解いていました。すると、数時間考えて分からなかった難問が夢のなかで解答が導けたのです!!

 目覚まし時計で目を覚ました私は、実際にノートを使ってその問題を解いてみました。すると、本当に解けたのです!!

 この経験をして以来、私は難問を見つけるとその日の最後に回すようにしました。そして眠りにつく前にその問題を考えるのです。もちろん、いつもそう上手くいくとは限りませんが、それでも解答に書いてあることが部分的にでも理解できることも度々ありました。英語の場合は、明け方に自分が英語でしゃべっている夢を見たこともあります。

 現在の私の勉強は、受験勉強ではないために、難問に頭を悩ませるといったことはありませんが、記憶すべきことを頭で反芻してから眠ることがしばしばあります。こうすればかなりの確率で記憶が確かなものとなっています。

 早朝勉強法は、日中の仕事もはかどり、飲酒量も減り、おまけに眠る前の思考と組み合わせれば難問の理解や記憶の向上にも役立ちます。

 あなたもさっそく試してみませんか・・・

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2013年6月13日 木曜日

2007年3月号 都心のプライマリケア・クリニック

すてらめいとクリニックがオープンして2ヶ月がたちました。

 すてらめいとクリニックの最も基本的なコンセプトは”どんな方のどんな症状でも診ます”ということもあり、この2ヵ月の間に、本当に様々な患者さんが来られました。

 単に、「風邪をひいた」「包丁で指を切った」「肩がこる」「じんましんが出た」「眠れない」などの訴えもあれば、問診だけで数十分かかる大変複雑な悩みもあります。

 また、遠方から来られる方も少なくなく、遠いところでは、岐阜県、高知県、広島県などからも、すてらめいとクリニックに受診する目的で大阪までやって来られた方もいました。診察代よりも往復の交通費の方がはるかに高額になることを考えると、申し訳ない気持ちになります。

 よく、「日本の医師は僻地では不足しているけれど都心部では余っている」と言われることがありますが、すてらめいとクリニックの最初の2ヶ月だけをみても、医師は余っているどころか、まったく足りていないことが分かります。

 ちなみに、2005年に財団法人社会経済生産性本部が発表した「国民の豊かさの国際比較」によりますと、「人口あたりの医師数」は先進国30か国中、日本は27位です。「人口あたりの看護師数」は19位で、医師よりは少しはましにみえますが、これは看護師の資格を持っている人数で算出されていますから、日本の看護師が結婚や出産を契機に辞めていく人が多いという特徴を考慮すると、看護師不足も医師不足と同様に深刻であると言えます。

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 この2ヵ月間のすてらめいとクリニックの患者さんを振り返ると、やはり季節の影響もあって花粉症とインフルエンザが目立ちます。また、すてらめいとクリニックでは提携エステティックサロンと協力して美容医療もおこなっていますので、ピーリングや脱毛といった施術を希望される患者さんもおられます。さらに、プラセンタの注射で通院される方も少しずつ増えてきています。

 問診だけでけっこうな時間のかかる複雑な悩みをもたれている患者さんが多いのもすてらめいとクリニックの特徴かもしれません。その内容は、ここに書くべきではないと思いますが、家族や友達、恋人にも言えないような悩みを抱えている方も少なくありません。クリニックの診察室が防音設備をかねそろえていることもあって、患者さんの多くは様々な想いを話されます。なかには、思い余って涙を見せる方もおられます。

 もうひとつ、すてらめいとクリニックを受診される方でよくあるのが、HIVやB型/C型肝炎、クラミジアなどの性感染症の検査や治療目的で受診される患者さんです。実際、ほぼ毎日これらの悩みを持っている人が来られます。すてらめいとクリニックは”どんな方のどんな症状でも診ます”とは言っているものの、標榜科目に「泌尿器科「産婦人科」「性病科」などはありません。にもかかわらず、HIVやB型/C型肝炎の検査目的の受診が多いのは、こういった感染症の増加に対して日本の医療機関が全体として対応できていないということなのかもしれません。

 患者さんの層を年齢別でみてみると、やはり都心部に位置していることから若い方が目立ちます。データはまだきちんととっていませんが、平均患者年齢はおそらく30歳前後だろうと思います。これは(小児科を除く)医療機関ではかなり若いのではないかと思われます。(私は今でも毎週木曜日にある大病院の皮膚科外来をおこなっていますが、そこでの平均年齢はおそらく70歳前後だと思います) 

 男女比については、おそらく半々くらいであろうと思われます。これが不思議なことに、ある日は男性が多かったりまた別の日は女性が多かったりと、なぜか日によって偏りがあります。

 外国人が多いのも特徴といえるかもしれません。いずれ英語のホームページも作成することを検討しているのですが、遅れていてまだ着手すらできていません。しかし、都心部に位置するクリニックでは必然的に外国人の患者さんの割合が増えます。今のところ、英語以外の外国語でコミュニケーションをとらなければならない機会はありませんが、今後は英語以外の母国語しか話せない方も来られるでしょうから、これからの課題となりそうです。

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 すてらめいとクリニックのような都心部でのプライマリケア・クリニックは、従来のステレオタイプ的な古典的なクリニックとは少し趣が異なります。さまざまな環境におられる方がさまざまな悩みを抱えて受診されます。

 電話帳や広告、チラシ、看板などの一切のPR活動をおこなっていないにもかかわらず、いろんな患者さんが来られるのは、それだけ日本の医師が不足しているからというだけでなく、「都心のプライマリケア・クリニック」が不足しているからではないでしょうか。

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2013年6月13日 木曜日

2007年2月号 『偏差値40からの医学部再受験改訂第4版』発売

先月10日に、私の処女作『偏差値40からの医学部再受験』の改訂第4版が出版されました。

 3回目の改訂となった今回は、これまでのものと比べると少し内容が変わっています。もともと私がこの本を出版しようと思ったのは、偏差値の高さから医学部受験をあきらめてしまっている人たちに対してエールを送りたいという気持ちが強かったからで、そういった人たちに訴えたかったことのひとつは、「医師とはこんなにも素敵な職業なんですよ」、ということです。

 そこで初版から改訂第3版までは、第1章をまるまる使って、「医師はなぜそんなに魅力的な職業なのか」ということを述べました。しかし、今回はその第1章を、「医師はこんなにも大変な職業なのです」、ということを、具体例を挙げながらお話しています。

 給料はそれほど高くなく、勤務時間は長く休みはほとんどなし、一生勉強を強いられる、退職金や福利厚生はなし、いつ訴えられるかわからない、うつや不眠に悩まされることもある、・・・

 改訂第4版では、これが医師という職業の現実であることを述べた上で、「それでも医師は素敵な職業である」、ということをお話しています。

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 「日経メディカル」という雑誌の2007年1月号に、医師を対象としたアンケートが掲載されています。

 「子供に医師になってほしいか」という項目では、「はい」と答えた医師が27.9%、「いいえ」と答えた医師が26.7%となっており、両者に差はありません。

 さらに、「子供に自身の病院やクリニックを継がせたいか」という項目では、「はい」が21.9%、「いいえ」が32.8%と、「継がせたくない」と答えた医師の方が多くなっています。

 注目すべきは、子供に医師になってほしくないと考える理由で、回答者数の多かった上位3つをご紹介いたしますと、

・仕事の忙しさに見合う報酬を得られないから
・患者とのトラブルなど、患者、家族との関係で気苦労が多いから
・医療訴訟に巻き込まれる可能性があるから

 となっています。

 『偏差値40からの医学部再受験』改訂第4版では、ちょうどこれら3つの理由(割に合わない報酬、患者・家族とのトラブル、医療訴訟)について、具体例を挙げながら説明をしています。

 しかしながら、私が強く訴えたいのは、「それでも医師は素敵な職業である」ということであり、こういったマイナス面を補い、尚且つ魅力を感じることのできる醍醐味が医師という職業にはあるということです。

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 1月から診療を開始した「すてらめいとクリニック」は今日で24日目となります。(これを書いているのは2月7日の午前6時です)

 今はまだ患者さんがそれほど多くないということもあり、ゆっくりと患者さんのお話をお聞きする時間をとることができ、多くの患者さんは、自身が感じている健康上のいろんな問題について話されます。

 (健康上の)いろんな悩みを聞いてもらえてよかったです、遠いところから来た甲斐がありました、家族にも言えないことをここでは気軽に話せてすごく楽になりました、・・・・、などと言われて感謝の気持ちを表す患者さんもおられますが、そういった感想を持たれる患者さんたちよりも、私自身の方がむしろ医師の醍醐味を実感できやりがいを感じているということは、もしかすると患者さんたちは気づいていないのかもしれません。

 目の前にいる苦悩を抱えた人の力になりたいという欲求、これが、医師が医師であり続けることのできる力の源です。

 この欲求があれば、収入が低くても、気苦労が多くても、様々なリスクを抱えなければならなくても、やはり医師とは素敵な職業なのです。

 医学部を目指している方がおられれば、世論の医師に対する社会的評価の低さや、マスコミの医者叩きに惑わされずに、原点に戻って医師という職業の醍醐味について思いをめぐらせてほしいと思います。

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