マンスリーレポート
2018年7月 己の身体で勝負するということ~その3~
組織に頼るな、自分ひとりの力で生きていくのだ…
私が提唱している「己の身体で勝負すること」というのは、極論するとこういうことになるかもしれません。こういう言葉には「それはできる者の言うセリフだ」「きれいごとだ」という反論があるでしょう。また、「そんなに肩肘を貼らなくても仲間と楽しくやっていけばいいんじゃないの」という声もあると思います。
私はなにも「組織や上司と対立せよ」と言っているわけではありません。実際、私自身がこれまでの人生で上司に刃向かったことは”数えるほどしか”ありません。
以前のコラム(「「やりたい仕事」よりも重要なこと~中編~」)で紹介した私の就職活動時の「師匠」、元リクルートのIさんは、「どんな仕事をするときも次への就職活動だと思え」と話していました。つまり、「どのような仕事からも学べることはある。そして、他社の人と会うときは、自分がその会社で使ってもらえるような人間になることを目指せ」ということです。30年近くたった今もその言葉を覚えているわけですから、私にとってIさんのこの言葉は仕事上の「原則」となっています。
一見雑用に見える、というか雑用にしか見えない仕事からも何かしら学べることはありますし、その雑用を複数人でおこなっているなら、職場の雰囲気をよくして人間関係を構築するトレーニングにもなります。新しいジョークが通用するかどうかを試してみてもいいでしょうし、まったく笑顔を見せない同僚に積極的に声をかけて微笑みをもたらすことを試みてもいいでしょう。
ただし、どのような仕事からも学べることがあるのは事実ですが、「多くの仕事には見切りをつけるタイミングがある」のもまた真実です。「己の身体で勝負する」を実践するには、ステップアップしていかなければなりません。40代になっているのに20代相当の知識と経験しかないのであればとても「勝負」はできません。
では、知識と経験のない20代は「勝負」できないのかというとそういうわけではなく、若いが故に有利なことも少なくとも2つあります。そして、私自身は30代前半頃まではその2つを「武器」にしていました。
「武器」の1つは「体力」です。体力といっても強靭な肉体を有している必要はなく、フルマラソンを4時間で完走できる持久力が求められるわけでもありません。これを読んでいるのが20代30代の人で、疲労しやすい持病を持っていないのであれば、実際には自信がなくても「体力には自信があります」と宣言してしまえばいいのです。本当は自信がないのに…という気持ちがあったとしても40代50代の人たちよりは確実に体力がありますから大丈夫です。さらに一歩進めて「体力”だけ”は自信があります!」と言うと、これだけで「こいつ、おもろい奴や」と思ってくれる人もいます。女性がこれを言えば男性よりも効果があることもあります。
そして、職場の肉体労働的なことを自ら率先してやるのです。例えばオフィスに宅配便が届いたときには真っ先に飛んで行って、配達の人に大きな声で挨拶し、荷物を(少し大げさに)運ぶのです。組織で行事やイベントがあれば面倒くさい雑用を率先してやります。これを続けていけば周囲から「あいつはできる奴や」と思われるようになります。本当はたいしたことをしていないのですが…。
もうひとつの若者の「武器」は「コミュニケーション」です。コミュニケーションの細かい技術は年齢を重ねるほど上達しますが、若いが故に有利な点もあります。初めて会う人がいれば誰であったとしてもすっと近づいて大きな声で挨拶するのです。こういうアピールはある程度年をとった者がやると滑稽で奇妙にみえますが、若者なら問題ありません。コミュニケーションが苦手、と感じている人もいるでしょうが、誰に対しても笑顔で大きな声で挨拶を自分からおこなう、これを実践しているだけで、あなたに話をしたいと感じてくれる人が増えていくのです。
ちなみに私は現在医師として研修医に教育をする立場にあります。積極的に教えたいと感じる研修医は、こういうタイプです。つまり「体力(だけ)はあることをアピールし、笑顔で元気がある若者」です。
ただし、「己の身体で勝負する」を実践するにはこれだけでは不十分です。自分にしかできないこと、というのはめったにありませんが「たいていの人にはできないこと」を見つけていかねばなりません。それにはいろんなものがありますが、ここでは私の経験を話します。
私の場合、会社員時代に海外事業部に入れられたせいで(おかげで)(このあたりはマンスリーレポート2011年10月号「私の英語勉強法」を参照ください)、英語の読み書きは少々できるようになっていました。また商社で働いているわけですから貿易実務の知識があります。そして、学生時代から(体力とコミュニケーションを武器に)築いた人間関係がありました。そこで、会社員3年目に雑貨の個人輸入をやりだしました。当時はインターネットどころか携帯電話も普及していない時代でしたから、このためにFAXを購入し知り合いを頼りに香港の貿易会社を探して、個人で輸入しそれを知り合いのいくつかの会社に販売したのです。輸入する物によっては法律がややこしく(特に食品)、一筋縄ではいきませんでしたが、やはり人脈に助けてもらい軌道に乗せることができました。(会社員がこういうことをするのは社内規定違反だと思います。四半世紀たった今だから告白できることです…)
これは一例で、私が小銭を稼ぐためにこれまでの人生でやってきたことは実はたくさんあります。ただ、そのほとんどはお金のためにやったのではなく、おもしろいからやったというのが本音です。きれいごとに聞こえる人もいるでしょうが、昔誰かが言っていたように「お金は後からついてくる」のです(これ、誰が言い出したのでしょう…)。ただし、私の場合、以前にも述べたように、ビジネスへの興味が急激に低下し、代わりに「勉強したい」という欲求に目覚め、その後はビジネスとは無縁の人生になりました。
今の私の立場で「己の身体で勝負する」と言っても「あんたは医師免許があるから言えるのよ」という反論があると思います。ですが、仮に医師免許を剥奪されたとしても、私には医学の「知識」と「技術」(こちらは最近自信をなくしていますが…)があります。食品会社や製薬会社なら採用してもらえると思いますし(甘いでしょうか…)、そんなことをしなくても医学知識が武器になる会社を興すことを考えます。資格に頼るつもりはありませんが、私は労働衛生コンサルタントの資格も持っていますから、これを使って会社をつくることもできます。また、英語力だけで生きていくことはできませんが、英語と医学の知識を絡めればできることがあるはずです。私はタイ語のレベルは中途半端ですが、もう一度勉強しなおしてタイ語の実力を上げれば、さらにできることが増えるでしょう。
医師免許がなかったとしても医学の知識があるからそんなことが言えるんだ、と感じる人もいるでしょう。ならば、あなたも何かを必死で勉強すればいいのです。私の医学部の6年間の生活は9割が勉強でした。若い同級生たちの倍は勉強しました。そして、医学の勉強は今も続け、英語もほぼ毎日勉強しています。体力には自信をなくし、コミュニケーションについては新しい人脈は医師になってから医師以外はほとんど広がっていませんが、「己の身体で勝負する」という考えは、私がひとつめの大学時代に先輩たちから学んだ時からまったくかわっていません。
「己の身体で勝負する」という考え、楽しいと思いませんか。不条理な組織の理屈や学歴以外にとりえがない上司の指示に屈するような人生、面白くないと思いませんか。前回述べたように、違法タックル事件の学生をかばう意見が多いことに私は違和感を覚えるのです。
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