マンスリーレポート

2011年11月号 私の英語勉強法 その2

 前回は英語の勉強法について、私の個人的経験を踏まえてお話しましたが、どうも分かりにくいところがあったようで、数人の方からご指摘をいただきました。また、もっと英語の勉強のヒントを教えてほしい、という声もありましたので、今回は前回の「私の英語勉強法」の続編としたいと思います。

 まず、前回分かりにくく複数の方から質問を受けたのが、NHKのウェブサイトでどうやって英語を聞くのかわからない、というものでした。これは私の説明不足で、たしかに前回の話は不十分という指摘はもっともです。正確に言えば「NHK」でなく「NHK world」のウェブサイトです(注1)。このサイトでは、いくつものニュースのタイトルがリストアップされており、タイトルの横にビデオのマークがある記事をクリックすればキャスターがニュースを読んでいるビデオが見られます。そしてその右横にはキャスターの話す英語がそのまま文字になっているので勉強になる、というわけです。ただし、話す英語とその文字は、ニュースにもよりますが、一字一句同じ、とまではいきません。

 BBCのウェブサイトもニュースが音声で聞くことができて勉強になることを前回述べました。NHKに比べると、映像(ビデオ)自体が興味深いものが豊富で、見ていて飽きないのですが、書かれている文字とキャスターの話は一致していないことの方が多く(例えばニュースの概要が文字でまとめられており、ビデオはインタビューや現地特派員の音声のレポートといったケースが多い)、dictation(書き取り)の勉強には不向きかもしれません(注2)。

 dictationに推薦したいのは、Voice of Americaのサイトのなかの「learning English」(注3)です。これは、英語勉強用に英文が少しゆっくりとしたスピードで読み上げられ、話される英語と書かれている英語が完全に一致しています。ただし、キャスターが原稿を読み上げるビデオはないので(私の場合は)飽きてきます。しかし、インターネットがなかった頃は、英文の文字と音声を同時に入手するにはそれなりの費用と時間がかかりましたから、それを考えると「飽きる」などというのは贅沢な悩みです。

 前回は触れませんでしたがもうひとつ推薦したいのは「2パラ」という毎朝(月~木)メールで送られてくる英字新聞です(注4)。これは日本のサービスで、毎朝世界中の新聞からピックアップされた英文の記事が2パラグラフだけ送られてきます。音声は通常のスピードとゆっくり発音されたものの2種類がついていますし、英単語の解説もあります。私が個人的にこのサービスを気に入っているのは、英語の勉強になることにも増して、選ばれる記事の内容が大変興味深いからです。あまり日本のマスコミでは報道されていないような面白い記事が取り上げられていることも多く、音声がなくても毎朝読む価値があります。配信されるのは2パラグラフだけですが、元の情報源(URL)も記載されていますから、その記事についてもっと知りたければそちらを参照すればいいのです。

 英語を「読む」ということについては前回あまり触れませんでしたが、これは今さら私が述べるまでもないと思います。世界中の英字新聞がほとんど無料で読めるわけですからこれを使わない手はありません。分からない単語が出てくればその場で無料のネット上の辞書を使えばいいわけですし、それでも文意が理解できなければ、その分を「コピー+ペースト」して後でまとめて誰かに聞けばいいのです。

 あなたの友達のなかにもそのような質問にすすんで答えてくれる人がいるのではないでしょうか。またあなたが英語を使う仕事をしているなら上司は喜んで教えてくれるでしょうし、前回述べたように外国人にマンツーマンで教えてもらえる環境ならばそのときに聞けばいいでしょう。また、その逆に、あなた自身も友達からそのような質問をどんどん受けるようにすることをすすめたいと思います。英語を勉強する仲間がいるならお互いに分からないところを質問しあうのはとてもいい勉強法です。教える楽しさというのがありますし、教えることにより自分自身の理解も深まります。

 「役に立つ参考書や問題集を教えてください」という質問をときどき受けますが、私の答えは「自分で選んでください」というものです。無責任なように聞こえるかもしれませんが、私の言いたいことは「日本で出版されている参考書や問題集に劣悪なものはほとんどない」ということです。大学受験に関しても同じような質問を受けますが、日本の参考書というのはどれも大変工夫されていてよくできています。私が「自分で選んでください」というのは、参考書の良し悪しというのは「個人の好みの問題」と言っていいと考えているからです(注5)。

 問題集選びについて、しいて言うなら、資格試験を考えている人は過去問からおこなうべき、ということです。これは私が繰り返し主張していることですから「聞き飽きた」と感じている人もいるでしょうが、TOEICでもTOEFLでも英検でも勉強を開始するなら過去問集からやるべきです。

 「単語の本は何がいいですか」と聞かれることもありますが、私は単語の勉強はする必要がないと考えています。実際、私は中学、高校と振り返ってみても、社会人になってからの勉強内容を思い出してみても、英単語の勉強をした記憶がほとんどありません。「重要な単語は何度も見ることになるからそのうち覚えるだろう」というのが私の考えです。そもそも単語だけを覚えて実践に役立つことがあるとは到底思えないのです(注6)。

 しかし、たしかに何度見ても覚えられない単語があるのは事実です。そこで私は英単語のノートを自分で作成しています。このとき品詞別にページをつくるのがコツです。形容詞のページ、動詞のページなどと分類し、この単語帳に書くのは「覚えられそうで覚えられない単語」に限定します。限定するのはやみくもに数が増えるのを防ぐためです。このとき、形容詞、副詞、動詞については同じような意味の単語を確認していくと効果があります。例えば、manifest(明白な)という単語が覚えにくいとすれば、これを「clear」の仲間のひとつと考えて、obvious、apparent、distinct、evident、などといった単語の意味も確認しておくのです。このときシソーラス(類義語辞典)があれば大変便利です。シソーラスを使って、manifestを引けば、今述べたような単語が(実際にはこの何倍も)掲載されています。私が英語を集中して勉強していた90年代はシソーラスを入手するには大型書店の洋書のコーナーに行かねばなりませんでしたが、今はそんな苦労をする必要もなくインターネット上にいくらでも無料のものがあります(注7)。

 名詞については、ジャンル毎にわけてノートをつくるのが効果的です。私の場合、「法律関係」「政治関係」「植物の名前」「生活用品」「軍事関係」・・・、などで分類しています。しかし、これを本格的にしていたのは90年代で、まだウェブ上の辞書が使えなかった頃です。現在も、このノートはテキストファイルを用いて一応は作っていますが、語彙が増えていきません。この理由は、もちろんウェブ上の辞書、それはシソーラスも含めて、いつでも簡単に呼び出せるためにノートの必要性が低下したことにあります。インターネットの存在は90年代に私が考え付いた勉強法をも不要にしているのかもしれません。

 TOEICの受検を職場で義務付けられている人も少なくないようですが、TOEIC(TOEFLでもかまいませんが)は、多くの人が受けるべきだと私は考えています。英語が得意でない人ほど、勉強を続けていけばどんどん点数が上がっていきますからこれは面白いですし、勉強していなくて受検して点数が悪かったとしても、「明日からがんばろう!」という気持ちになりますし、受検すれば数時間集中して英語に取り組むことになるわけですから、受検自体が大変効果的な勉強になるのです(注8)。

 最後に、英語の勉強でスランプに陥っている人にアドバイスを送りたいと思います。英語は、勉強量と学力が正比例の関係にあるわけではありません。やってもやってもちっとも伸びない・・・、そんな状態が続くものです。しかしある日突然、実力が伸びた!と感じる日がくるものです。これはリスニングで顕著で、ニュースなど全然理解できなかったのに、ある日突然そのニュースの概要がつかめた、という経験は多くの人がしています。また、TOEICを受け続けているとあるとき突然点数が上がる、ということもよくあります。やってもやってもなかなか伸びない、しかしある日突然できるようになる、そして再びスランプに・・・、という道のりをとることが多いのです。

 だから諦めないことが大切です。私自身も英語は得意ではありませんが、ほとんど毎日何らかの勉強を今も続けているのです。

注1: NHK worldのウェブサイトは下記のURLを参照ください。
http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/
 
注2: BBCのウェブサイトは下記のURLを参照ください。
http://www.bbc.co.uk/news/

注3: Voice of Americaの「learning English」は下記のURLを参照ください。
http://www.voanews.com/learningenglish/home/

注4: 「2パラ」についての詳細は下記のURLを参照ください。
http://www.two-para.com/index.php?FrontPage
追記(2014年10月):大変残念なことに「2パラ」は現在なくなっています。

注5: 日本で出版されている大学受験や英語に関する参考書や問題集がいずれも高品質というのは、例えばマイナー言語と比較してみればすぐに分かります。私はタイ語の勉強に随分苦労しましたが、その理由のひとつが「まともな参考書がない」というものでした。『間違いだらけのタイ語』というのは非常にすぐれたタイ語のテキストですが、これは初心者にはむつかしいですし、私の知る限りこれ以外に役に立った日本の参考書は皆無でした。以前私はタイ人からプライベートレッスンを受けており、そのときにプレゼントしてもらったのが『Thai for Beginners』という英文で書かれた教科書で、これは大変な良書で、何十回と読んで音声も(付属のカセットテープで)聞きました。この続編の『Thai: Intermediate Learners』も抜群であり、私はこの2冊と先にあげた『間違いだらけのタイ語』で一応の区切りをつけました。(現在は随分忘れてしまいましたが・・・)

注6: 例えば「毎日○○個の単語を覚える」と宣言してそれを実践し英語ができるようになった人は私の周囲には一人もいません。ですからこんな勉強法は無意味と思っていたのですが、先日(2011年11月7日)、日経新聞の「私の履歴書」で寺澤芳男氏が野村證券時代に「英単語を毎日50ずつ覚える」という勉強をおこない(もちろんそれだけではないでしょうが)、フルブライトの奨学金に合格した、というエピソードを書かれていました。

注7: ウェブ上のシソーラスは、例えば「英語」「シソーラス」で検索すればいくらでもでてきますが、下記のサイトが個人的にはおすすめです。(発音もしてくれます)
thesaurus.com/

注8: TOEICは問題が回収されますが、数ヵ月後には過去問が出回ります。これは受験者が少しずつ問題を覚えて帰ることによってつくられていると言われています。またその過去問がでるまで待たなくても、試験で分からなかった単語や解けなかった文法問題のいくつかは少なくともテスト終了直後には覚えているでしょうから、それを直ちに勉強するだけでも意味があります。

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