マンスリーレポート

2009年1月号 ミッション・ステイトメントをつくってみませんか

 年末年始はお休みをいただいていましたが、1月6日から太融寺町谷口医院は診療を再開しています。診療は1月6日から開始しましたが、スタッフの出勤は前日の5日からでした。

 では5日に我々は何をしていたかというと、一番重要なことは「ミッション・ステイトメント」の改訂でした。

 ミッション・ステイトメントという言葉は最近ではかなり認知されるようになってきましたが、改めてどのようなものかを定義付けるとすれば、「組織にとって最も核となる信条」で、組織を国に例えてみれば、”憲法”のようなものです。

 我々太融寺町谷口医院のスタッフは、ミッション・ステイトメントを基本に日々業務をおこなっています。「こういう場合はどうすべきかな・・・」と日常の仕事で疑問に感じたときには、スタッフは院長(私)に直ちに指示を仰ぐのではなく、その疑問をミッション・ステイトメントに照らして考えるのです。

 ミッション・ステイトメントの内容は院長からの押し付けであってはいけませんし、かたちだけのものであってはなりません。社訓や家訓とは似ていますが、これらは一般に伝統的な価値をもっており容易に変更できないのに対して、ミッション・ステイトメントはスタッフ全員の同意の下で見直し・再検討をおこなうことができます。

 さて、1月5日におこなわれたミッション・ステイトメントの改訂作業は私にとって(そしておそらくスタッフ全員にとって)大変実りのある、そして大変楽しい時間となりました。

 まずは、既存のミッション・ステイトメントを改めてじっくりと吟味し、クリニックの現状にそぐわない点はないか、不足している点はないかについて議論を巡らせました。そして、そういった観点からスタッフ全員が意見を出し、それぞれの意見を尊重しながら、さらに意見を重ね合わせて、全員が納得できるステイトメントを作成していきました。言葉のひとつひとつにこだわり、いったん完成してからも、これ以上付け加えることはないか慎重に検討し、そしてついに改訂版が完成しました。(改訂した新しいミッション・ステイトメントはすでにこのウェブサイトで公開しています)

 ところで、私は個人のミッション・ステイトメントも持っています。ミッション・ステイトメントというものが日本で市民権を得だしたのは、おそらく『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)の翻訳版が出版された1996年頃だと思います。同書は、37ヶ国語に翻訳され、世界で1,500万部以上売れているベストセラーで、ビジネス誌の書評などでもよく紹介されています(例えば、2008年のプレジデント誌『どの本&著者が一番役立つか』という特集の第1位)。

 私自身も、『7つの習慣』を何度か読んだ後、自分のミッション・ステイトメントをつくることを決意し、1997年に初めての自分自身のミッション・ステイトメントを作成しました。以後、十数回の改訂を繰り返して現在に至ります。最近では、この年末年始にタイのある静かなところでゆっくりと改訂作業をおこないました。

 私自身のミッション・ステイトメントは公開しませんが(公開すべきようなものではないと思います)、個人のミッション・ステイトメントの有用性についてはすべての人に推薦したいと思っています。

 なぜなら、私の経験で言えば、ミッション・ステイトメントを持つようになってから”精神的にぶれる”ということがほとんどなくなったからです。つまり、多くの場面において、以前なら不安な気持ちになったりイヤな気分を払拭できなかったりしたであろうことが、ミッション・ステイトメントを読み返すことにより「精神の安定」が維持できるのです。

 なぜ、ミッション・ステイトメントにはこれほどの威力があるのでしょうか。

 ミッションとは、日常的には「仕事上のひとつの任務」とか「いついつまでに仕上げなければならないひとつのプロジェクト」などの意味で使われることもありますが、「人が生涯をかけておこなうべき使命、あるいは天職」といったものがミッションという言葉の本質です。

 つまり、自分が一生を通じて守るべきことがらや追求していくべきものがミッション・ステイトメントには述べられているわけです。ですから、日常生活でトラブルや困難に遭遇したときや、人生の分岐点で悩んだときなどには、ミッション・ステイトメントに立ち返るのが最も賢明なのです。

 ただし、当たり前のことですが、それほどの威力をもつミッション・ステイトメントを作成するのは短時間では不可能です。何度も何度も練り直し、自分自身が100%信じることのできるものでなければなりません。私自身の感想を言えば、最初にミッション・ステイトメントをつくるときや改訂作業をおこなうときには、少なくとも丸一日静かな環境に自分自身を置いてみる必要があると思っています。

 私の人生に分岐点があるとするならば、大学進学のために都会にでてきたときよりも、医学部受験を決意したときよりも、NPO法人GINAを設立したときよりも、クリニックを開院したときよりも、自分自身のミッション・ステイトメントを作成したときだと感じています。

 私の場合、ミッション・ステイトメントの作成に初めて取り掛かったときはある種の苦しさもありました。できるだけ見たくない自分自身の本性についても思いを巡らせなければならなかったからです。それまでできるだけ触れたくなかった自分のイヤな部分にも向き合わなければなりません。しかし、そういった自分の見たくない部分をも見直し、乗り越えることによって、文字通り自分の”ミッション”が分かったような気がしたのです。

 ここまでくれば、確固とした自分自身を実感できるようになります。そして、世の中の動きや日々の誘惑、心の迷いなどに悩まされない安定した自己を確立できるのではないかと私は思っています。

 自分自身のミッション・ステイトメント、あなたも作成してみてはいかがでしょうか。

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注:ミッション・ステイトメントは、『7つの習慣』を含めて、「ミッション・ステートメント」とされている場合が多いのですが、ここでは「ステイトメント」と表記しています。

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