マンスリーレポート
2024年1月 世界は終末に向かっている
「世界終末論」というのはノストラダムスの大予言に代表されるようなオカルト、あるいはかつてオウム真理教が予言していたような新興宗教の独自の教義であり、信頼できる科学的な根拠はありません。そういった終末論を求める(特に若い)人たちというのは、「現状が満たされておらず”一発逆転”で自分の時代が来ることに賭けている人たち」と、私は考えていました。
誰かの予言などそもそも信じられませんし、古文書を曲解したような理屈も信用できません。そもそも古文書に書かれていることが科学的に正確とは思えません。よって「世界が近々終焉することなどはあり得ず、淡々とした日常が続くのがこの世界であり、世界が変わるのを待つのではなく自分自身が変わらねばならない」と私は(特に若い)人たちに言うことがあります。
けれども、数年前から私の心のなかでずっと引っかかっていたことがあります。それは2018年のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の報告です。IPCCとは地球温暖化を研究する国際組織で、国土交通省は「気候変動に関する政府間パネル」と呼んでいます。IPCCは2007年にノーベル平和賞を受賞しました。受賞理由は「人為的に起こる地球温暖化の認知を高めた」です。
ノーベル平和賞というのは、生理学・医学賞や物理学賞などの自然科学系のノーベル賞に比べると、どうしても(狭義の)科学的信頼度が低いように思えますが、それでもエビデンスに裏付けされた報告をしています(そうでなければ困ります)。
2018年、IPCCは「早ければ2040年までに地球は(温暖化により)壊滅的な状態になる」との内容を報告しました。The New York Timesは「(IPCCの)報告書によると早ければ2040年にも危機が訪れるリスクがある(Major Climate Report Describes a Strong Risk of Crisis as Early as 2040)」とのタイトルでこの発表を報じました。
これ、かなりのビッグニュースではないでしょうか。もしも私が政治家や官僚なら、ことあるごとにIPCCのこの報告を取り上げ「地球を守りましょう!」と叫びます。SNSを駆使して「2040年まであと〇年!」とPRに努めます。地球が壊滅的になれば食料確保にも苦労し日々生き残ることが困難となります。「生きがいが……」とか「本当の自分は……」などと言っている場合ではありません。2040年といえば、残り16年しかありません。焦っているのは私だけなのでしょうか。IPCCの勧告がまるで顧みられていない現在の世界の状況は、人類が集団自決に向かっているかのように私には見えます。
もしも、例えば知識人、特に地学に詳しい学者から「いや、2018年のIPCCの発表には計算間違いがあって実際にはあと数千年は地球は問題なく暮らせる場所だ」と言ってもらえれば安心できるわけですが、私の知る限りそういう話はほとんどありません。
正確に言うと、安心できそうなことを主張した学者が(私の知る限り)1人いました。英国ノーサンブリア大学の天体物理学者で数学教授のヴァレンティーナ・ザルコバ(Valentina Zharkova)博士です。ザルコバ博士は地球温暖化どころか、「これから地球はミニ氷河期に入る」との自論を発表し、これをカナダのメディアがIPCCの報告と同じ2018年に取り上げました。尚、この主張を科学的に発表しているザルコバ博士の論文は難解すぎて私には読破できませんでした……。
この記事がそれなりに注目されたのは(といっても日本ではおそらく報道されていなと思いますが)、2018年のカナダでは前年より平均気温が低かったことが原因のひとつだと思われます。カナダ政府によると、2018年のカナダは2005年以降最も平均気温が低い年でした。おそらく「このまま毎年寒い冬を迎えるのか……」という大衆心理に応じるかたちでザルコバ博士の論文が紹介されたのでしょう。
ところが、その後の数字を追ってみると、翌年からカナダの気温は再び上昇傾向に転じています。私が知る限り、現在もザルコバ博士の主張を積極的に取り上げている世界のメディアはありません。
では、2018年のIPCCの報告以降、地球温暖化はどのような状態になっているのでしょう。2023年に生じた具体的な災害をみてみましょう。これについてはすでに「GINAと共に」の10月号「他人の不幸や未来はどうでもいいのか」の後半で、世界各地の温暖化の状況を数値を挙げて紹介しました。よってここでは繰り返しませんが、中東やアフリカ大陸では深刻な洪水が発生し、カナダでは史上最悪の山火事が起こったことは記憶に新しいと思います。
本稿執筆時、タイムリーなことに、通称「C3S」と呼ばれる「EUコペルニクス気候変動局(European Union’s Copernicus Climate Change Service)」が、「2023年の世界平均気温は、記録が残る1850年以降で最高、おそらく過去10万年で最高で、業革命前からの世界の平均気温上昇が1.48 ℃だった」と発表しました(発表は2023年1月9日)。2015年のパリ協定では「1.5℃未満を目指す」とされましたから、目標の上限ギリギリまで近づいたことになります。
1.48℃という数字を目の当たりにすると、2018年のIPCCの報告にある「2040年」が前倒しされるのではないかと思えてきます。では、パリ協定(及びその前の京都議定書)に従い、地球温暖化を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。国連は「ゼロカーボン」の重要さを強調し新しい技術に期待していると言っていますが、この主張、なんだか虚しくないでしょうか。
その理由は、人類の愚かさを象徴するような紛争や戦争が世界で相次ぎ、さらに兵器を製造し輸送し消費することで多量の(二酸化炭素などの)「カーボン」を発生させているからです。呑気にゼロカーボンなどと言っている場合ではなく、優先順位を考えなければならないのは明らかです。ここで現在人類はどれくらい兵器製造に熱心なのかをみてみましょう。
世界各国の軍事支出の年間総額を算出しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2022年の全世界の軍事費(兵器、人件費、その他諸費用)は合計2兆2000億ドル(300兆円以上)にもなります。The New York Timesによると、2022年の時点で世界の武器輸出量が最も多い国は米国で世界全体の45%です。
驚くべきことに、イスラエルは戦争相手のハマスが武器を購入することを「奨励(encourage)」しています。The New York Timesによると、ネタニヤフ首相はカタール政府に対しハマスに武器輸出の停止ではなく奨励しているというのです。私にはこの理由がよく分かりませんが、おそらく右派のネタニヤフ首相にとっては派手な戦争を起こした方が自分のプレゼンスが高まると考えているのではないでしょうか。
そして、我が国もすでに戦争に加担しています。日本政府は12月22日、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」とその運用指針を変更しました。日本で製造されたパトリオットミサイルが直接ウクライナに運ばれることはありませんが、米国で備蓄されることになるようです。日本のメディアはこの件について事の重要さをさほど報じているようには思えませんが、例えばアルジャジーラ(カタールの英字新聞)は「致死性武器の輸出を認めない姿勢を長年取ってきた日本にとって大きな転換を示すものであり、攻撃能力の強化は、武力行使を自己に限定するという第二次世界大戦後の原則からの脱却」と緻密な言葉を使って深刻さを伝えています。
尚、日本のパトリオットミサイルは三菱重工グループが製造しており、フィナンシャル・タイムズによると、米国政府は過去数ヵ月間、日本(政府)に対し、同社のパトリオットミサイルの輸出を許可するよう迫っていました(ちなみに12月中旬頃より三菱重工の株価が急騰しています)。
「ゼロカーボン」の前に「ゼロ兵器・ゼロ戦争」にすべきなのは自明だと私は思いますが、どうも世界の権力者たちはそうは考えないようです。2040年まであと16年しかありません。このまま戦争が続けられるのなら「淡々とした日常」はもうすぐ終わり、世界終末論が現実化するかもしれません。
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