マンスリーレポート
2016年6月 己の身体で勝負するということ
「お前、まだ△〇◇□大学って言うてるんか?」
これは、少し前に偶然再会した旧友から言われた言葉で、私はこれを聞いて思わず赤面してしまいました。この旧友は私が18歳、つまり関西学院大学(以下「関学」)に入学してすぐ知り合い仲良くなった同級生で、関学の1回生の頃、学校で会うとよく話をしていた仲です。
入学直後、私は至るところで「唯一の志望校、関学に入学できて本当に良かった! 自分はなんて幸せなんだろう」と言いまくって、関学がいかに素晴らしい大学であるかということを誰彼かまわずに力説していました。それが、1回生の夏休みが終わり、後期の授業が始まる頃には、他人に自分が関学の学生であることを隠すようになったのです。隠しただけではありません。今思えば愚かなことですが、名前さえ書けば合格できる、と当時言われていたような偏差値の極めて低い△〇◇□大学の学生だ、と言いだしたのです。最近再会した旧友がそれを覚えていて指摘され、恥ずかしさがこみ上げてきたというわけです。
なぜ夢にまでみた理想の大学に入学できたのにもかかわらず、その数ヶ月後にはその憧れの関学を否定するようなことを言い出したのか。それは私のアルバイトでの経験によります。以前にもどこかに書きましたが、私は大学生時代におこなったいくつかのアルバイトで、それまでの考えを根底から覆される体験をしたのです。
まず、自分が全然仕事ができず、受験勉強で得た知識など微塵も役立たないことを知りました。しかも偏差値の高さと仕事のできる・できないには逆の相関関係がある、つまり(関学のような)偏差値の高い大学生は無能であり、逆に聞いたこともないような大学生がバリバリと仕事をこなすことに気づいたのです。もちろん、このようなことが事実であるはずもなく、後に「仕事(どのような仕事かにもよりますが)のできる・できないは偏差値にはまったく関係が無い」ことを理解するようになるのですが、18歳当時の私は、自分の無能さと、偏差値の低い大学に行っている仕事がよくできる同僚や先輩の魅力を痛いほど思い知らされ、「偏差値が低い方が仕事ができる」といった極端な考えを持つようになったのです。そして、自分も早く仕事ができるようになりたいと思う気持ちから、関学の大学生であることを恥じるようにまでなってしまったのです。
このような考えは無茶苦茶であり、四半世紀後に冒頭で紹介した旧友の言葉を聞いたときは「穴があれば入りたい」気持ちになりました。しかし、当時の私が偏差値の低い大学の先輩や同僚達から学んだことは、それまでの価値観をひっくり返すほどの衝撃だったのです。例えば、私がおこなっていたアルバイトのひとつに旅行会社での現地駐在があります。当時の旅行業界では(もちろんすべての会社ではありませんが)、予約システムがいい加減で、旅先に到着したが予約されているはずの宿に宿泊できず、他にも空いているところがない、などということは日常茶飯事でした。こういう状況で、関学など偏差値の高い大学生はあたふたするだけで何もできません。
しかし、こんなときにも怒り心頭のお客さんを上手くもてなし、後に感謝の手紙をもらうような強者もいるのです。彼らは、例えば翌朝に早朝の便で帰るノリの良い若者のグループを見つけて、「今日は朝までパーティをするからチェックアウトの準備をして宴会場に集合!」と誘い出します。そして、その日に到着した別の客をその部屋に案内するという”荒技”をいとも簡単にやってしまうのです。巧みな話術やパフォーマンスなどで、朝まで客を飽きさせない先輩たちの人心掌握のパワーにはただただ圧倒されるばかりでした。
仕事(アルバイト)の場面だけではありません。当時私が仲良くしていた女性たちは「関学とか偏差値の高い大学の男は話がおもんない。女は男の所属を見てるわけやない。男そのものを見てるんや」と言っていました。ある女性は就職後東京に研修に行き「合コン」に参加して「東京の男どもには驚いた」と言っていました。まだ盛り上がってもいない最初の段階で出身大学を聞かれたというのです。しかも、その大学(短大)は関西でもそれほど有名でないのにだいたいの偏差値を言われたというのです。さらに、「〇〇大学の学生は~」などと、関西人でも聞いたことのないような関西の大学の話をされ、さらに東京の大学の特徴の話を延々と語り出したというのです。この女性は「そんな話おもんないねん! 他に話題ないの?」と怒鳴って途中で退席したそうです。
憧れの関学に入学した私はその数ヶ月後、授業にまったくついていけなかったことから嫌気がさし、退学することも考えていました。(そんなとき、偶然にもアルバイト先で出会った関学社会学部の先輩に「社会学」の魅力を聞くことになり、退学ではなく社会学部編入を目指すことになったという話は過去のコラムで述べました)
1回生の夏休みが終わった後期には大学に行ってもおもしろいことは何もなく、周囲の学生がみんな”子供”に見えたことを覚えています。怒り心頭のお客さんを笑わせて感謝の手紙をもらうような先輩たちと一緒に時間を過ごせば退屈な大学でそう感じるのも無理はありません。
当時私が尊敬していた先輩や同僚から学んだことは「己の身体で勝負せよ!」ということです。学歴や家柄などそんなものは何の役にも立たない、頼れるのは自分自身だけだ、ということです。
「己の身体で勝負せよ!」この言葉を金科玉条とするようになった私は、就職活動もあえて大企業を避けました。大企業の歯車になることを嫌い、企業内の競争が不毛だと思っていたことに加え、もうひとつ私が大企業を避けた理由は「大企業〇〇会社の谷口恭」と思われるのがイヤだったからです。名刺を見せれば会ってくれるような立場の人間にはなりたくなかったのです。名前の通っていない中小企業であれば、名刺や肩書きは役に立たず、自分自身の魅力をつくり上げ理解してもらうしかありません。
その後私はその会社に4年勤務し多くのことを学びました。自分がいかに未熟であったかを知るようになり、冒頭で紹介したエピソードのように自分の大学を偽るということがいかにバカげていたかを理解するようになり、自分の極端な考えが少しずつ修正されていきました。そして、人間的に魅力のある人たちに共通することとして「誠実」「謙虚」が不可欠であることを知るようになりました。また、この頃に読んだ稲盛和夫さんの本で「利他の精神」が真実であることも学びました。
ただ、今も「己の身体で勝負せよ!」という言葉は私の中に深く根付いています。だから、今も学歴や職歴にこだわる人を見ると「かわいそうに・・・。早く真実に気づけばいいのに・・・」と感じます。誤解を恐れずにいえば、学歴や職歴にこだわる人は関西よりも関東に多いように私は思います。先に紹介した女性の体験もそうですし、東京の人は「〇〇大学卒業者は…」とか「△△社の人間は…」という話をよくするなぁという印象があります。
さて、私の恥ずかしい話までして延々とこのようなことを述べてきたのは、少し前にSKという名のテレビ・ラジオのパーソナリティが学歴を詐称していたことが話題になったからです。私はこの事件というか出来事にとても大きな違和感を覚えます。ウソをつくことが良くないのは自明ですし、ウソを言ったなら謝らなければならないとは思います。
しかし、これが番組を降板しなければならないような大きなウソでしょうか。SK氏は自ら降りたのでしょうか。あるいは番組側が降板させたのでしょうか。私がテレビ・ラジオ局の側の者なら、降板させることはありません。逆に、話題性がありますから、「SKさん、なんで学歴詐称してたの? 詐称していいことあった?」と言った質問をおこなって視聴率を稼ぎます。私はこの出来事が報道されるまでこのSK氏について何も知りませんでしたが、一連の報道を聞いて「ハデな学歴詐称というそんな面白いことする人物なら、話を是非聞いてみたい」と思いました。
SK氏は学歴詐称が発覚する前までは、大変な売れっ子で多くの人気番組のパーソナリティをつとめていてファンも多かったと聞きます。学歴詐称が発覚していなかったとしたら人気を維持していたのではないでしょうか。そして、SK氏が卒業したと言っていた一流大学を実際に卒業してもそのような人気パーソナリティになれる人はほとんどいないわけです。ということは、人気のあるパーソナリティになるには学歴は一切不要ということにならないでしょうか。
私自身は、友達はもちろん、仕事で出会う人も、また面識のないテレビやラジオのパーソナリティでも作家やジャーナリストであったとしても、その人の出身大学などまったく気になりません。自分自身の目で、信頼できる人か否か、面白い人かどうかを判断できる自信があるからです。
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