マンスリーレポート
2014年3月号 医療費を安くする方法~中編~
医療費をできるだけ安くする方法として前回述べたのは、診察代は基本的に同じであるから、検査を必要最低限のもの減らして、薬を可能であれば後発品(ジェネリック薬品)にする、というものです。今回は診察代について掘り下げていきたいと思います。
まず、前回私は「診察代は基本的に同じ」としましたが、正確に言うとその人の疾患によって異なってきます。前回は、紹介状なしで大きな病院に行くと、通常の初診代とは別に数千円から1万円くらいの別料金が徴収されることを述べました。
大きな病院でない普通の診療所やクリニックであれば初診代は一定に決められており、3割負担で810円(平日の18時以降と土曜日の12時以降はプラス150円)です。これはどのような疾患で受診しようが、3分で診療が終わろうが30分以上かかろうが同じです。もっとも、初診で診察時間が3分などということはあり得ませんが。
診察代が患者さんごとによって変わるのは「再診」のときです。まず「再診」の定義から考えていきましょう。例えば風邪で2013年3月に一度受診して1年後の2014年3月に再び受診したときには「再度診察を受けた」のは事実ですが「再診」とはみなされません。「再診」とは同じ疾患で継続して受診している場合を差します。
では、数年前から年に1~2度じんましんが出るという人が、2013年3月にじんましんである医療機関を受診(初診)して1年後の2014年3月に再び受診したときはどうでしょう。この場合は同じ「じんましん」ですが、通常はこの場合も「初診」とみなされます。1年間は期間が長すぎるからです。つまりいったん治療を終了して1年後に改めて診察が始まったと考えられるというわけです。
では、2013年3月にじんましんで受診して1ヶ月後の2013年4月に同じじんましんで受診したときはどうなるかというと、これは「再診」になると思われます。では、3ヶ月後ではどうか、6ヶ月後ではどうか・・・、という疑問が出てきます。これについては下記のような規定があります。(以下①②③などの番号はこのコラムを分かりやすくするために便宜上つけたものです)
①患者が任意に診療を中止し、1月以上経過した後、再び同一の保険医療機関において診療を受ける場合には、その診療が同一病名又は同一症状によるものであっても、その際の診療は、初診として取り扱う。(『保険診療の手引き』2012年4月版全国保険医団体連合会より)
これをそのまま読めば、1ヶ月から1日でも過ぎれば新たに初診代がかかることになります。再診代は370円ですから(正確には狭い意味での再診代210円に「外来管理加算」と「明細書発行体制等加算」というのが加わり合計370円になります。平日18時以降と土曜日12時以降はプラス150円になります(注1))、初診代の半額以下になります。つまり「初診」と「再診」で440円もの差が生じるわけで、できることなら「再診」にしてもらいたいものです。
ここで①の「患者が任意に診療を中止し」に注目してみましょう。「任意に診療を中止する」というのを素直に解釈すれば、「患者側の自己判断で治療を中止した」ということになります。しかし、先に例にあげたじんましんであれば、通常は「薬をしばらく飲んで症状が消失すれば再診されなくてかまいません。再発すれば受診してください」と言われることが多いわけです。例えば2ヶ月後に再発して受診したときに、これが「患者が任意に診療を中止した」とは言えないでしょう。私自身が患者ならそのように思います。
もっと分かりやすい例を挙げましょう。高尿酸血症で尿酸値を下げる薬を飲んでいる患者さんがいたとしましょう。この患者さんは治療開始までは尿酸値が高値を示しており痛風発作を起こしたこともありましたが現在は安定しています。そこで2013年3月の受診時に2ヶ月分の薬が処方され次回は薬の切れる2ヶ月後に受診するように言われたとします。そして予定通り2ヶ月後に受診した場合「患者が任意に診療を中止した」わけでないのは自明です。
実は①の規定には次のような続きがあります。
②(①にかかわらず)慢性疾患等明らかに同一の疾病または負傷であると推定される場合の診療は、初診として取り扱わない。(同書より)
つまり、その病気が「慢性疾患」であれば期間があいても「再診」になるというわけです。では、この高尿酸血症の患者さんが薬を飲み忘れることが多く、2ヶ月分の薬を処方されたけれどなくなるまでに4ヶ月かかり4ヶ月後に再診されたとしましょう。この場合は「初診」「再診」のどちらでしょうか。
規定には次のような補足があります。
③社会通念上治癒したと認められる状態(療養中止後自覚症状もなく相当期間継続して業務に服し日常生活に支障がない)の後に再発した場合は初診料は算定できる。(同書より)
薬を飲み忘れて2ヶ月後の受診予定が4ヶ月後になったとき、規定の読み方によっては①の「患者が任意に診療を中止し」に該当すると解釈できなくはありません。また(元々高尿酸血症に自覚症状はありませんから)痛風発作などを起こしていなければ③の「日常生活に支障がない」に該当します。したがって、この場合は規則の解釈の仕方によっては「初診」とされるかもしれません。
この解釈は医療機関によって変わってくる可能性があります。太融寺町谷口医院(以下、「谷口医院」)ではこのようなケースでは「再診」にしていますが「初診」とする医療機関もあるかもしれません。先にあげたじんましんのケースでも谷口医院では「再診」にしていますが「初診」としているところもあるかもしれません。
では、例にあげたじんましんのケースでも高尿酸血症のケースでも、5ヶ月後、6ヶ月後ならどうでしょうか。このあたりの対応は医療機関により様々だと思われます。谷口医院では、だいたい6ヶ月を目処にしています。つまり慢性疾患であれば6ヶ月以内に受診されれば特別な理由がない限りは「再診」の扱いにしています。もっと長い場合もあります。例えば、膠原病で抗核抗体やいくつかの自己免疫系の抗体が陽性となっており定期的な経過観察は必要だけれども症状がないという場合、「症状がなければ1年後の採血で充分です」というようなときは1年後でも「再診」としています。
今までみてきたのは「同じ疾患」の場合です。別の疾患で受診した場合はどうでしょうか。例えば2013年3月にインフルエンザで、2013年4月に水虫で受診した場合はどうなるでしょう。これには次の規定があります。
④第1病が治癒した後であれば第2病が短時日後の診療開始でも初診料は算定できる。(同書より)
これを文字通りに解釈すれば、1ヶ月後でなくても、例えばインフルエンザで受診した2週間後に水虫で受診しても新たに「初診」とされてしまいます。しかし患者さんの心理として、わずか2週間後の受診で「初診」というのは納得しがたいのではないでしょうか。それに、通常は2回目の水虫の受診のときにも医師は「インフルエンザはその後どうでしたか」といった質問はするわけで、例えば患者さんが「熱は数日で下がりましたが咳はその後しばらく続いていました。今は元気です」と答えた場合、これはインフルエンザの再診に該当すると言えなくもありません。
このあたりの解釈は医療機関によって異なると思います。谷口医院でもケースバイケースにしていますが、通常はまったく別の病気で受診されたとしても1ヶ月以内であれば「再診」としています。
以上みてきたように「初診」「再診」というのは一見簡単そうで実は相当複雑です。「任意に診療を中止」「社会通念上」「相当期間」といった言葉は解釈に幅がありますし、①と②、あるいは②と③は互いに矛盾しているように見えなくもありません。これだけ複雑ですからまったく同じような状況であったとしても医療機関ごとに対応が異なるのはある程度はやむを得ないのです。
そして、診察代には今回みてきた「初診」「再診」以外にも複雑なからくりがあります。次回はそれについて解説を加え、その上で診察代を安くする方法を検討していきたいと思います。
注1:外来管理加算は多くの場合で算定されますが、されない場合もあります。何らかの処置をおこなったときは算定されません。手術、熱傷や傷の処置、関節内穿刺、(イボなどに対する)液体窒素療法などが代表です。これらの場合、外来管理加算が算定されない代わりに処置料がかかります。家族の者が代理に受診した場合も外来管理加算は算定されません。原則として受診は本人がおこなわなければなりませんが、どうしても受診できない事情があり、様態が変わっておらず必要な薬が慢性疾患のものであれば、同居している家族が代わりに受診することができます。あとは、過去に「診察時間が概ね5分以下の場合は外来管理加算を算定しない」といったルールが決められたこともありましたが、現実的でないとの理由で現在は撤廃されています。
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