マンスリーレポート
2008年4月号 研究会での発表
医師の仕事には患者さんの診察以外にも、研究、学会や研究会での発表、論文作成、講演など多数のものがあります。私は、発表や講演などを月に一度くらいのペースでおこなうようにしています。先々月はあるNPO法人で、先月はある学校で講演をおこないました。
今月は、「大阪プライマリケア研究会」という研究会で発表をおこないました。この研究会は、私が所属する医局である大阪市立大学医学部総合診療センターが中心となって運営されており、2ヶ月に一度くらいのペースで開催されます。
私はこれまでも過去に何度かこの研究会で発表をしており、すてらめいとクリニックで経験した症例の報告をおこなったこともあります。
今回は、私が今月から大学の非常勤講師となり、大学でおこなわれる行事にはより積極的に参加しようと思ったこともあって、第18回大阪プライマリケア研究会でひとつの演題を発表することにしました。
発表した演題のタイトルは「プライマリケア医が担うべきワクチン接種」というもので、すてらめいとクリニックが取り組んでいるワクチン接種のなかでも特に重要と思われる麻疹(はしか)とB型肝炎ウイルスのワクチンを中心とした内容にしました。
今回発表した内容をここで簡単に紹介しておきます。
麻疹については、抗体陽性率がいかに低いかということを示しました。
抗体はその感染症に罹患するか、あるいはワクチンを接種すれば形成されます。ところが、麻疹については、現在では一度のみのワクチン接種では抗体ができないことがあります。以前から世界的には麻疹のワクチンは二度接種するのが標準でしたが、日本は昨年になってようやく二度接種がおこなわれるようになったばかりです。
「日本は麻疹の輸出国」と世界各国から揶揄されているということは、このウェブサイトでも過去何度かお伝えしたとおりです。そもそも先進国ではすでに麻疹という病気は過去のものです。お隣の韓国は2006年に「麻疹撲滅国」としてWHO(世界保健機構)から認定されています。
すてらめいとクリニックで麻疹の抗体検査をおこなった全患者さんを調べたところ、全体の抗体陽性率はわずか40.7%でした。これを年代別でみると10代は約2割、20代は約4割、30代でも5割しかありません。
日本では「はしかにかかったようなもの・・・」という言葉の存在が示すように、昔から麻疹が軽視されているように思われます。しかし麻疹は実際にはたいへん恐ろしい病気で命を奪うこともありますし、SSPE(亜急性硬化性全脳炎)という神経の病気になることもあります。
すてらめいとクリニックでは、麻疹の抗体検査及びワクチン接種を積極的におこなっていますが、こういった検査やワクチン接種の重要性を訴えていくべきなのは専門医ではなくプライマリケア医ではないかというのが私が主張したかったことのひとつです。
今回の発表では麻疹以外にB型肝炎ウイルスについても報告しています。
すてらめいとクリニックでは、B型肝炎ウイルスに罹患している人が見つかることも少なくありませんが(症状がある場合もありますが無症状の場合もあります)、抗体検査をおこなったところ、ワクチン接種をしていないのに抗体陽性がみつかる人がいます。
麻疹とB型肝炎では抗体検査の意味が少し異なります。
麻疹の場合は、過去に一度ワクチンを打っているから、あるいは過去にかかったかもしれないから「抗体があることを期待して」抗体検査をおこなう場合がほとんどです。最近では、麻疹抗体がなければ教育実習ができない教育機関が増えてきており、そのため実習に参加する学生は「抗体ができていますように・・・」と祈るような気持ちで抗体検査を受けにきます。
B型肝炎の場合は、通常この逆になります。以前からこのウェブサイトでも何度か指摘しているように、日本人のB型肝炎ワクチン接種率の低さは”驚異的”ですらあります。先進国ではワクチン接種が当たり前なのに、日本できちんとB型肝炎のワクチン接種をしているのは、医療従事者や海外勤務の経験のある人をのぞけば、けっして多くありません。ちなみに韓国では、90年代初頭から幼少時に全員がワクチン接種の対象となっています。
すてらめいとクリニックでB型肝炎ウイルスの抗体検査をおこなう人は、「ワクチンを接種する前提で」検査を受けます。「B型肝炎ウイルスは大変怖い感染症だから予防接種をうけておこう、けどその前に念のため抗体ができていないことを確認しておこう」、というのが抗体検査をおこなう理由です。
つまり、B型肝炎ウイルスの場合は「抗体がないことを確認するために」検査を受けるのです。
ところが、です。すてらめいとクリニックでB型肝炎ウイルスの抗体検査をおこなったところ、受検者の6.4%がすでに抗体を有していたのです。
麻疹が簡単に空気感染するのに対し、B型肝炎では”日常生活”では感染しません。抗体陽性が判った人を詳しく調べてみると、母子感染は一例もなく、おそらく全員が性感染でうつっていたのです。
B型肝炎ウイルスは、場合によっては感染後数ヶ月後に命を失うこともある大変恐ろしい感染症ですが、実は自然治癒もあります。なかには無症状でいつのまにか感染していていつのまにか治っていたという場合もあります。これら6.4%の人たちは”無防備”なことをした結果感染してしまったのだけれど自然治癒して抗体が形成された大変ラッキーな人たちなのです。大変な危険をおかしたものの、いわば天然のワクチンを無料で手に入れたようなものです。
けれども、こういった人たちはたまたま運がよかったと考えるべきであって、最も大切なことは、できるだけ早いうちに(できれば性交渉を開始する前の年齢に)ワクチン接種をして抗体が形成されていることを確認するということです。
B型肝炎ウイルスは”日常生活”ではよほどのことがない限り感染しないものの、性的接触があればごく簡単に感染することがあります。
B型肝炎ウイルスについてもワクチンの重要性を患者さんに伝えるべきなのは、患者さんとの距離が最も近いプライマリケア医ではないだろうか、というのが私の伝えたかったことです。
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これからも私がおこなう研究発表をマンスリーレポートでときどき紹介していきたいと思います。
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