マンスリーレポート
2012年2月号 医学部式暗記法のすすめ
昨年(2011年)のこのコラム(マンスリー・レポート)で、勉強に関するコツのようなものを何度か紹介しました。私は勉強に関する書籍を上梓していることで、受験の相談を受けることが多いため、勉強をしている人たちの役に立つことをしたい、と考えて、一時は専用のサイトをつくるとか、勉強カフェをつくるとか、そういった計画を立てたこともあるのですが、結局どれも時間不足で(というのは言い訳ですが・・・)何もできず、せめてこのサイトの「マンスリー・レポート」を利用して勉強のアドバイスを試みようとした、というわけです。
今回のコラムもその一環で、今回は「効率よい暗記法」について紹介したいと思います。
拙書『偏差値40からの医学部再受験』で述べましたが、暗記に関して最も大切なことは「暗記の能力にはそれほど個人差があるわけではない」ということをまずは認識することです。
いきなり反論がきそうですが、これは事実です。もちろん、一度聞いたことは絶対に忘れない、という”特異な”人がいることは私も否定しませんし、「暗記が得意!」と豪語する優等生もたいていクラスにひとりくらいはいるものです。
しかし、ごくわずかな”特異な”人をのぞけば、「暗記が得意!」と豪語するほとんどの人も含めて、彼(女)らは「暗記のコツを知っているにすぎない」のです。
私はこのことを医学部の「骨学」という授業で強烈に体験しました。『偏差値40・・・』でそのエピソードを詳しく紹介したので、ここではごく簡単に述べるにとどめますが、学年でトップを争っていたような”超”のつく天才が連想法を使って骨の名前(ラテン語)を覚えていたことに私は大変驚きました。頭蓋骨を構成する骨はたくさんあり、これをすべてラテン語で覚えなければならない、というのは(私のような凡人には)とても大変なことなのですが、その同級生は、「オス・パリエターレ(頭頂骨)は人間の一番高いところに位置して、高いといえばエッフェル塔で、エッフェル塔はパリにあるからパリエターレだ!」、と覚えていたのです。
私は彼女のこの発言にどれだけ驚いたことか・・・。まるで頭頂骨を何かで殴られたような衝撃を受けました。しかし、同じ班の私以外のメンバーは、彼女のこのコメントに別段興味を示していませんでした。なぜなら彼(女)らもまた、それぞれ連想法を駆使して暗記に努めていたからです。
それまでの私は、医学部に合格するような勉強のできる人たちは、それほど努力しなくても、覚えるべきことが、スポンジが水を含むようにすぅっと頭に吸収されるものだと思っていたのです。一方、私は、(今思えばまったくばかげた考えですが)学問という神聖なものに連想法などは用いるべきではない、と思い込んでいて、何十回と紙に書く、などといった非常に効率の悪い方法で暗記に励んでいたのです。
私の暗記に対する考え方はその日を境に一転しました。天才の同級生から衝撃的なインパクトを受けた私は、その後医学部の学生のほとんどが連想法や語呂合わせを使っていることを知りました。そして、それを知った私は、その後、「これは覚えよう」と決めたものは、覚え方を自分で編み出して何でも覚えるようにしています。(自信過剰と言われるかもしれませんが)今の私は暗記が苦手ではありません。少なくとも10代の頃よりは遥かに記憶が得意、と言っていいと思います。(ただし、これは「覚えよう」と意識したもののみの話であって、例えば何年も会っていない知人と再会したときに名前を思い出せない、などといったことはよくあります)
それでは、私が実践しているその暗記法について詳しく紹介していきたいと思います。その暗記法には3つのコツがあり、医学部時代の先に述べたエピソードをきっかけにあみだしたことから「医学部式暗記法」と勝手に命名しています。
ここで、化学ででてくる元素の順番の覚え方「水平リーベ僕の船、なな曲がるシップス、クラークか」を思い出してください。H、He、Li、Be、B、C、N、O、F、Ne、Na、Mg、Al、Si、P、S、Cl、Al、K、Ca、というのは現在化学にまったく縁のないという人でも、「水平リーベ・・・」と口ずさめば比較的簡単に思い出せるのではないでしょうか。
実は、この「水平リーベ・・・」こそが、効率よい暗記法の3つの極意をすべて含んでいます。まず1つめは、「語呂合わせ」で、「水平」は水平線、「リーベ」はドイツ語でLOVE、「船」や「曲がる」などはいずれも日常の単語ですから簡単に覚えられます。もしも、例えば「すいへい」が「へいすい」であればかなり覚えにくくなるはずです。
2つめのポイントは、この語呂あわせが「シーンを連想しやすい」ということです。「大好きな水平線を眺めながら僕は自分の船に乗っている。ななめに曲がってくる船が近づいてきた。あの船にはクラークが乗っているに違いない」、という感じで、それが映画のワンシーンのように想像できます。そして、思い出すときにはこのシーンを思い浮かべると簡単に記憶が戻るのです。
もうひとつ、この語呂合わせには重要なポイントがあります。それは、リズムが、7(水平リーベ)→5(僕の船)→7(なな曲がるシップス)→5(クラークか)と、多少の字余りはあるにせよ、基本的には七五調になっているということです。日本人にはこの七五調のリズムが最も覚えやすいのではないか、と私は考えています。
私は何かを覚えようと決めたときには、この3つに留意して覚え方を考えます。例をあげましょう。私はいまだハワイに行ったことがないのですが、ハワイ好きな人は大勢いますから話にはついていきたいものです。ハワイ諸島には、観光客が簡単に行くことができる大きな島が6つあります。北西から、カウワイ島、オアフ島、モロカイ島、ラナイ島、マウイ島、ハワイ島の順番で、これらは、それらの島が太平洋上に姿を現した順番でもあります。
これを覚えてしまいたいと考えた私は(そんなことは考えない人の方が多いかもしれませんが)、「顔もいらない、まぁハワイ」と記憶しています。 カ(カウアイ島)、オ(オハフ島)、モ(モロカイ島)、(イ)ラナイ(ラナイ島)、マ(マウイ島)、ハワイ(ハワイ島)となるわけですが、ポイントを述べていきたいと思います。
まず、ハワイに行ったことのない私でも、オハフ島、マウイ島、ハワイ島の名前は知っていました。一方、カウアイ島、モロカイ島、ラナイ島は聞いたことがない名前であり、覚えるのに苦労しそうです。カウアイ島と覚えるのに「カ」だけを取り出してもおそらく覚えられません。そこで「顔もいらない、まぁハワイ」以外に、「かわいいカウアイ島」という別の語呂合わせ(これは簡単でしょう)も作りました。モロカイ島を覚えるのに「モ」だけではすぐに忘れそうです。そこで、「モロ解凍」と覚えて、ハワイの大型スーパーに売っている冷凍の大きな肉の塊を外に出して”モロに”解凍しているシーンを思い浮かべます。ラナイ島はモロカイ島の最後の「イ」とあわせて「イラナイ」とすれば簡単です。「顔もいらない、まぁハワイ」とつぶやきながら、例えば、ハワイに普段着で顔にもメイクなどせずそのままの格好で行く、といった感じのイメージをすれば、もう忘れることはありません。そして、暗記法の3つ目のポイントである七五調も、7(顔もいらない)→5(まぁハワイ)、と満たしています。
もうひとつ例をあげておきましょう。必須アミノ酸の暗記で、私は「メイトと風呂、バリ」と覚えています。内訳は、メ(メチオニン)、イ(イソロシイン)、ト(トレオニン)、ト(トリプトファン)、フ(フェニルアラニン)、ロ(ロイシン)、バ(バリン)、リ(リジン)です(注)。連想は、友達(メイト)とサウナに入りながら「今度バリ島に行こうぜ」などと会話しているシーンです。リズムは、「メイト」を「メート」と発音し「ト」を「to」ではなく「t」で発音すれば、7のリズムになりリズミカルに覚えることができます。「ター(タ)タ、タタ・タタ」という感じです。(声に出せば簡単に伝えられるのですが、文章でこれを伝えるのはむつかしいです・・・)
語呂合わせ、連想しやすいシーン、七五調、この3つを考慮して独自の覚え方をあみだしていけば、かなり多くのことが覚えられ、もしかすると今後の人生まで大きく変わるかもしれません。私が医学部学生時代に考えた(というか気づかされた)この「医学部式暗記法」は是非多くの人に試してもらいたいと考えています。
注:現在必須アミノ酸は、これら8つに加えてヒスチジンを含めることが増えてきました。私は「必須(ヒッス)アミノ酸のヒ」と記憶しています。
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