マンスリーレポート

2007年5月号 シンパシーとエンパシー

すてらめいとクリニックがスタートして、しばらくの間は学会発表や講演の仕事を控えていたのですが、先月(4月)は人前で話す機会が2回ありました。

 1つは、大阪プライマリケア研究会での症例報告。すてらめいとクリニックに受診された興味深い3つの症例を報告しました。

 もうひとつは、関西のある地域の青年会議所での講演です。内容は「タイのエイズ事情とボランティアについて」です。

 もともとこの講演は、その青年会議所に所属する友人から依頼を受けたのがきっかけだったのですが、当初考えていたものとは少しかたちが変わりました。

 初めは、「タイのエイズ事情について話してほしい」という依頼だったのですが、ミーティングを重ねるうちに、「谷口恭のボランティアに対する考えについても話してほしい」との要望を受けました。私はこれまで、そのような内容では講演をしたことがなかったので少し躊躇したのですが、スタッフの方々の熱意に圧倒され、結局引き受けることにしました。

 それにしても、この青年会議所のスタッフは本当に熱心です。通常は、講演依頼を受けても、事前の打合せなどはほとんどなく、当日にいきなり本番というかたちの講演がほとんどです。

 ところが、この青年会議所のスタッフの方々は、何度もすてらめいとクリニックに足を運んでくださり、リハーサルを何度もおこないました。そして、その都度、「ここのところをもっと詳しく話してほしい」とか、「この部分は興味深いので時間をとって掘り下げてほしい」といった提案をしてくれるのです。

 そのため、これまでの講演に比べると、スライド(パワーポイント)を作成するのにかなり時間がかかりましたし、自分ひとりのリハーサルを何度もおこなうことになりました。

 講演当日は大勢の方々が会場に来られました。その日のイベントが急遽ひとつなくなったとのことで、私は1時間半もの時間を使わせてもらいました。

 この青年会議所は日頃から社会奉仕やボランティアに力を入れているだけあり、タイのエイズ患者さんやエイズ孤児の実態についてとても熱心に聞いてくれました。この組織も今年救急車1台をタイのある貧困地区に寄付することが決まっているそうです。また、私の話がボランティアに及ぶと真剣さがさらに増しました。

 講演が終わると、何人かの方が大変有意義な質問をしてくれました。これだけ活発に質問が出るのは、彼(女)らが興味を持って熱心に話を聞いてくれたからに他ならず、こちらとしては大変やりがいがありました。

 また、事前のリハーサルや資料作成を通して、私自身がボランティアや社会貢献ということにあらためて想いを巡らせることができたことも収穫でした。

 なぜ社会貢献をするのか・・・

 必要だからする!と言ってしまえばそれまでですが、このテーマは、実際に社会貢献をしている人、あるいはしたことのある人なら誰もが一度は考えたことのあるものです。

 しかし、「なぜ働くのか」「なぜ勉強するのか」「なぜ結婚するのか」・・・、などに比べると「なぜ社会貢献をするのか」については、はっきりとした答えがなく、人によって理由が様々であると言えます。また「社会貢献」の定義自体にもいろんな考え方があるでしょう。

 それだけに、「なぜ谷口恭は社会貢献活動をするのか」という点について、日頃から社会奉仕活動をしている人たちにとっては興味深いものだったのではないかと思います。

 ところで、事前の何度かのリハーサル時、当日の講演前の打ちあわせ時、講演中の質疑応答時、講演後の幹部スタッフとの会話時、などに私が感じたことがあります。

 それは、うまく表現できないのですが、社会貢献という同じ目標を掲げる”同士としての絆”を実感できたことによる感動のようなものです。一言で表すなら「シンパシー(sympathy)」を実感できた、となるのかもしれません。

 一方、私は日々の医療の現場で患者さんの苦悩を聞いたときや、タイで困窮な生活にあえぐエイズ患者さんと話したとき、理屈抜きで「この人の力になりたい!」と感じ、これには強い感動が伴いますが、これは”同士としての絆”とはまた異なります。そうではなく、そういった患者さんたちに対し、ある程度の”感情移入”をしたことによる感動です。これを一言で表すなら「エンパシー(empathy)」と呼べるかもしれません。

 sympathyとempathy、おそらく辞書にはどちらも”共感”と書かれていると思います(少なくとも私はどちらも「共感」と記憶しています)。私は今までこの2つの単語をほとんど区別していませんでしたが、今回の講演を通してsympathyの感覚が分かるようになったのかなという気がしています。

 同士としての絆=シンパシー、私は今後もこの感動を追求していきたいと考えています。

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