メディカルエッセイ

120 セルフ・メディケーションのすすめ~抗ヒスタミン薬~ 2013/1/21

 以前、このサイトのマンスリーレポート(下記参照)で、軽度の花粉症であれば「アレジオン10」という薬局で買えるようになった薬で対処できるかもしれない、ということを述べました。

 今回は、新たに薬局で買えるようになった花粉症の薬について紹介し、さらに今後の展望について考えていきたいと思います。

 2012年11月1日、久光製薬は「アレグラFX」というアレルギー性鼻炎の薬を発売しました。この薬は従来医療機関で「アレグラ」として処方されていたもので、数ある花粉症の薬のなかでも「最も眠くなりにくい」とされているもののひとつです。

 今、便宜上「アレジオン10」も「アレグラFX」も花粉症の薬、あるいはアレルギー性鼻炎の薬、としましたが、もう少し正確に言えばこれらは「抗ヒスタミン薬」、さらに詳しく言えば「第2世代の抗ヒスタミン薬」となります。まずはこれらを整理したいと思います。

 抗ヒスタミン薬にどのような効き目があるのかというと、1つは鼻炎に有効です。この「鼻炎」というのは、花粉症を含むアレルギー性鼻炎ももちろん含みますし、アレルギーが関与しないタイプの鼻炎も含みます。また、風邪を引いたときには鼻粘膜に炎症がおこりその結果鼻水が出ますが、これも「鼻炎」のひとつです。ですから、市販の風邪薬(総合感冒薬)には抗ヒスタミン薬が入っています。市販の風邪薬で眠くなるのは(古いタイプの)抗ヒスタミン薬のせいなのです。ということは、風邪をひいて鼻水を止めたい、だけど眠くなるのはイヤ、という人はアレジオン10やアレグラFXを使えば眠くならずに鼻水を止めることが期待できます。(ただし実際には、風邪ではこれらの薬は販売できないことになっています)

 花粉症は鼻炎症状で悩まされる人が最も多いのですが、結膜炎(目がかゆい)、皮膚炎(特に目の周り)、咽頭炎(咽頭に違和感)、気管支炎(咳がでる)などもあります。抗ヒスタミン薬はこういった鼻炎以外の炎症を抑える効果もあります。ですから、花粉のシーズンになると、鼻水・鼻づまりだけでなく、目が真っ赤になって痒くなり、目の周りの皮膚もかゆくて、喉に不快感があるし咳が出ることもある、という人が抗ヒスタミンを飲むだけですべての症状から開放される、ということもあります。

 もうひとつ抗ヒスタミン薬が有効、しかも極めて有効なのは「じんましん」に対してです。抗ヒスタミン薬が利かないじんましんが全くないわけではありませんが、少なくともほとんどのじんましんに対し、まず初めに使うべきなのは抗ヒスタミン薬です。じんましんには様々なタイプのものがありますが、それが食べ物などが原因のアレルギー性のものであったとしても、非アレルギー性のものであったとしても抗ヒスタミン薬はよく効きます。

 さらに抗ヒスタミン薬は「湿疹」や「かぶれ」にも有効です。これらには外用薬が主役となり、抗ヒスタミン薬は補助的な役割となるのが普通ですが、外用薬だけで完全に治らない湿疹には極めて有効ですし、なかには外用薬よりも抗ヒスタミン薬の方がよく効く、というケースもあります(注1)。

 例えば、花粉症があって、ときどきじんましんが出て、水洗いなどで手に湿疹がでやすい、という人がいれば(実際このような人は多い)、抗ヒスタミン薬はこれらすべての症状に有効であり大変ありがたい薬となるわけです。

 抗ヒスタミン薬が世界の市場に初めて登場したのは1950年代です。塩酸ジフェンヒドラミンという抗ヒスタミン薬が最も有名なもののひとつですが、これは今は薬局で(誰でも簡単に)買えます。商品名で言えば「レスタミン」(注2)などです。「ドリエル」(注3)も同じ塩酸ジフェンヒドラミンですが、薬局ではかゆみや鼻炎に対してではなく、睡眠薬(睡眠改善薬)として販売されています。これは抗ヒスタミン薬の副作用の眠気を利用したものなのです。(下記コラムも参照ください)

 抗ヒスタミン薬の登場で、鼻炎やじんましんで悩んでいた人たちはこれまでのつらい症状からは開放されたわけですが、今度は眠気に悩まされることになりました。鼻炎やじんましんは世代を問わず起こります。学生や社会人は日中から強い眠気があれば勉強や仕事に影響がでます。眠気が起こらずに何の副作用も感じられない、という人もいないわけではありませんが、そういう人でも作業効率が低下しやすいことがこれまでの研究から分かっています。知らず知らずのうちに注意力が散漫になったり、集中力が途切れたり、ということが生じるのです。

 抗ヒスタミン薬の発見は薬理学の歴史に残る画期的なものだったわけですが(注4)、眠気を克服しないことには使いにくい薬です。その後の抗ヒスタミン薬の開発は、いかに眠気をなくすかとの戦い、といっても過言ではありません。1980年代から少しずつ眠気が起こりにくい抗ヒスタミン薬が市場に登場しだし、これらは「第2世代の抗ヒスタミン薬」と呼ばれだしました(注5)。

 医療機関で医師が抗ヒスタミン薬を処方するときには常に眠気に注意をして、その患者さんに最も適したものを選択するようにします。第2世代の抗ヒスタミン薬がどんどん進化してくるにつれて、第1世代のものは、「寝る前にじんましんがでやすいのでむしろ眠気があるものの方がいい」とか「眠気が出てもいいからとにかく安いものを処方してほしい」というようなケースを除けば使われなくなっていきました。

 そして2011年11月、エスエス製薬株式会社は、第2世代の抗ヒスタミン薬「アレジオン10」を発売しました。私はこれが日本の抗ヒスタミン薬の歴史のターンニングポイントになるのではないかとみています(注6)。アレジオンが処方薬として登場したのは1994年ですから、実に17年たってようやく薬局でも買えるようになった、ということになります。冒頭で紹介したアレグラは医療機関での処方開始が2000年で、12年後に薬局に登場、ということになります。

 アレジオン10やアレグラFXが薬局で買えるようになったことはもちろん歓迎すべきことなのですが、手放しで喜べない点が2つあります。

 1つは認可されている「効果・効能」です。両方の薬剤とも効果・効能として、「花粉、ハウスダスト(室内塵)などによる次のような鼻のアレルギー症状の緩和:鼻みず、鼻づまり、くしゃみ」、と記載されています。つまり、鼻炎には使えますが、じんましんや湿疹には使うことができない、のです。じんましんで悩んでいる患者さんが薬局に行き薬剤師に相談したときに、薬剤師はこれらをすすめることが少なくとも”法的には”できないわけです。薬剤師からすれば、じんましんや湿疹で困っている人が目の前に来たときに「本当は眠くならないアレジオン10やアレグラFXをすすめたい。しかしそれをすると薬事法に抵触する・・・」というジレンマに苦しむことになります。

 一方、眠くなる第1世代の抗ヒスタミン薬であるレスタミンや、古い第2世代の抗ヒスタミン薬であるスカイナーAL錠(注6参照)の効果効能には「じんましん、湿疹・かぶれによるかゆみ、鼻炎」と記載されています。医療機関でじんましんや湿疹に処方するのは、アレジオンやアレグラを含む眠くならない新しい第2世代の抗ヒスタミン薬です。なぜ、アレジオン10やアレグラFXを市場に出すときにこれら製薬会社はじんましんや湿疹を効果・効能に加えなかったのか、私にはこの点が残念でなりません・・・。

 アレジオン10、アレグラFXの登場を手放しで喜べないもうひとつの点は「価格」です。この点は別のコラムで取り上げましたから(注7)、ここでは詳しく述べませんが、アレジオンの後発品を医療機関で処方してもらうと、アレジオン10で同様の自己治療をしたときに比べて、ケースによっては10分の1以下(!)になるのです。

 新しいタイプの眠くならない(なりにくい)第2世代の抗ヒスタミン薬には、アレジオン、アレグラ以外に、アレロック、クラリチン、ジルテック、タリオン、ザイザルなどがあります。このうち、ジルテックは近日薬局で買えるようになり(注8)、アレロックとクラリチンはすでに海外では薬局で処方箋なしで購入できます。

 これらがどんどん薬局に現れ、さらに後発品も薬局に登場するようになり、また鼻炎だけでなくじんましんや湿疹にも認められるようになれば、患者さんとしては医療機関で待たされなくてすみますし、医療者の疲弊が改善されますし(もちろん重症例は医療機関で診察すべきですが現状では軽症の人も大勢受診されています)、また製薬会社も薬局も潤い景気対策にも有効でしょうから皆にとって大変有益だと思うのですが、さて実際には今後どうなるのでしょうか・・・。

注1 ここで言う外用薬は保湿薬(尿素軟膏やセラミド、ヘパリン類似物質など)、ステロイド外用薬、タクロリムス(プロトピック)などです。抗ヒスタミン薬の外用薬もないわけではないのですがそれほど使われません。抗ヒスタミン薬は内服薬が主役なのです。

注2 レスタミンUコーワ錠、レスタミンコーワ糖衣錠、などです。

注3 ドリエルは1回2錠で希望小売価格が12錠入り1,900円ですから1回あたり(ジフェンヒドラミン塩酸塩50mg相当)317円となります。一方、レスタミンコーワ糖衣錠は希望小売価格が220錠入り1,450円で、ジフェンヒドラミン塩酸塩50mgは5錠に相当し33円になります。つまり、睡眠改善目的でドリエルでなくレスタミンコーワ糖衣錠を用いると、コストはおよそ10分の1で済むことになります。薬事法上の問題はありますが・・・。

注4 抗ヒスタミン薬を発見したイタリアのダニエル・ボベット氏はノーベル賞を受賞しています。

注5 90年代半ば以降に登場した「さらに眠くなりにくい抗ヒスタミン薬」を「第3世代の抗ヒスタミン薬」と呼ぶこともあります。

注6 アゼプチン(一般名は塩酸アゼラスチン)という第2世代の抗ヒスタミン薬があり、これはスカイナーAL錠(以前はハイガードという名称でした)という名前で薬局で売られています。これは一応第2世代の抗ヒスタミン薬に分類されますが、アレジオンやアレグラに比べると眠気を訴える人が比較的多い印象が私にはあります。

注7 下記コラム(「セルフ・メディケーションのすすめ~花粉症編~」)で、アレジオンの後発品の価格を具体的な数字をあげて説明していますので参照してみてください。尚、アレグラの後発品はこれまでありませんでしたが、2013年1月の下旬に発売予定です。

注8 処方薬のジルテックも2013年2月1日に薬局で買える薬として登場します。2社から発売される予定で、「ストナリニZ」(佐藤製薬)、「コンタック(R)鼻炎Z」(グラクソスミスクライン社)です。

参考:
はやりの病気第86回(2010年10月) 「新しい睡眠薬の登場」
マンスリーレポート2012年4月 「セルフ・メディケーションのすすめ~花粉症編~」