メディカルエッセイ
98 被災者に対してできること 2011/3/14
2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0(当初は8.8と発表されたが13日に9.0に修正)を記録する地震が東北地方太平洋沖で発生し、現在も被害が続いています。
3月14日午前0時の警察庁の発表では、死者1,597人、行方不明者1,481人、負傷者1,923人となっていますが、13日時点で宮城県警は死者が1万人を超える可能性があることを発表し、宮城県の村井知事は「被害額は東北全体で阪神淡路大震災を上回る」とコメントしています。
これだけの大災害ですから、世界のメディアは一斉にトップ記事で報道し、世界中の人々から注目されています。すでにアメリカ、韓国、中国などが支援を開始しているとの報道もありますし、また大国だけでなく、AFP通信によりますと、例えばアフガニスタン・カンダハル州は5万ドル(約400万円)の義援金を被災地に送ることを表明しています。アフガニスタンの国民の大半は1日あたり2ドルの生活水準だそうですから、この金額は相当大きなものです。
もちろん日本国内でも、多くの人が今自分に何ができるかということを考えています。ひとりでも多くの人を救おうと、現地入りを考えている医療者も少なくありません。ただし、現時点では交通機関が麻痺したままですから、個人の判断で現地に到着することができません。そのため東京で待機している医療者もいるようです。
医療者専門の掲示板では、「医療者を求む」というページよりも、「現地に行って診療を手伝います」というページの方にたくさんの声が寄せられており、少しでも役に立ちたいと考えている医療者がいかに多いかということが分かります。日本プライマリ・ケア連合学会では、ウェブサイトのトップページに支援関連の情報を掲載し、いくつかの病院では後期研修医を現地に向かわせる計画もあるそうです。
現地では計画停電が実行される予定で、電力がなければ業務が中断するどころか患者さんの命に影響を与えることを知っている医療者は「節電」ということに敏感になっています。関東地方ではすでに節電が呼びかけられていることを受けて、いくつかの医療者のメーリングリストでは、「西日本や九州でも節電を心がけ東北地方に回そう」という内容のメッセージが出回りましたが、後にこれはガセネタのチェーンメールであることがわかりました。関西と関東では周波数が異なりますから、西日本の電力をそのまま利用できないということはよく考えれば分かりそうなものですが、一気にメールが回ったということは、それだけ「なんとしても東北地方の被災者の力になりたい」と多くの人が考えている証と言えるでしょう。
このような未曾有の事態が起こっているのにもかかわらず、少なくともマスコミの報道から伝わってくる現地の姿は、被災者の多くは落ち着いており、例えば強盗や略奪といった凶悪犯罪もおこっておらず、混乱は最小限に抑えられているようです。これは海外からも驚かれているようで、地震が起きた最初の時点から、日本の政府のみならず、被災者が見せた冷静で秩序だった行動に、改めて日本の民度の高さを感じた、という声が各国から上がっているそうです。
菅直人首相は12日夜、「一人でも多くの命を救うために全力で、今日、明日、あさって、頑張り抜かねばならない。未曽有の国難とも言うべき地震を、国民一人一人の力と、それに支えられた関係機関の努力で乗り越え、未来の日本で『あの苦難を乗り越え、こうした日本が生まれたんだ』と言えるよう、それぞれの立場で頑張ってほしい。私も全身全霊、命がけで取り組む」とコメントしました。(報道は3月13日の毎日新聞)
このところ非難されることの多かった菅首相であり、このコメントに対しても冷ややかにみる向きも少なくないようですが、私自身は菅首相のこのコメントを信じたいと思っています。このような事態のときに絶対に必要なのは「強いリーダーシップ」だからです。強いリーダーシップなくして、この惨劇から立ち直ることはできません。リーダーが「全身全霊、命がけで取り組む」と言っているのであり、我々はこの言葉を信頼すべきだと思うのです。
では、私自身に何ができるのか、と考えてみると、残念ながら直接役立つことはほとんど何もありません。しかし、少しでもできることはないかと考え、震災の翌日(12日)から、クリニックに募金箱を設置し私自身も募金をおこないました。集まった募金は義援金として全額を日本赤十字に寄附する予定です。
現時点では、被災者の方々は落ち着いて理性的に行動されており、菅首相は強いリーダーシップが期待できるコメントを発表しており、国内だけでなく海外からも支援の申し出が次々と寄せられています。現在は、自衛隊を中心とした救助が続けられています。
被災者に対してできることは何でもしたい・・・。そう考える人は大勢おられると思います。しかし、現時点で現地に行こうとしても余計に交通に混乱を与えることになりかねませんし、たとえ現地入りできたとしても、各自が勝手に振舞えば、それを善意でやっていたとしてもかえって混乱が増幅しかねません。
まずは、首相をトップとする組織を信頼し、我々ひとりひとりは当局からの呼びかけに応えることを考えるべきでしょう。例えば、首相官邸のウェブサイトではすでに関東地方の方々に対して「節電」を呼びかけており、原子力施設への影響に伴う避難についての情報も発信しています。
次に我々ひとりひとりができることですが、一般に震災の被害というのは、急性期、亜急性期、慢性に分けて考えられます。慢性の被害はかなり長期間に及びます。実際、阪神淡路大震災の被災者のなかには、今でもPTSDに悩まされている人が少なくありません。
現在の急性期の時点では、募金以外にできることはほとんどないかもしれませんが、亜急性期、慢性期へと以降するにつれて、支援できることが増えていくこともあります。それに、募金というものは確実に役立つものです。日本以外の国であれば、不正が横行しており被災者の元に届かないということがしばしば指摘されますが、この日本という国においてはそのような心配は無用でしょう。(少なくとも私はそう信じています)
最後に、WFP(国連世界食糧計画)のジョゼット・シーラン事務局長が、震災が起こった日(3月11日)に発表した声明文の一部を紹介したいと思います。
このような大きな悲劇を受け、思い出されることがあります。それは、過去に世界各国で同様の惨事が起き、日本がWFPと共に緊急対応をした際のことです。緊急対応にかけつけた日本の支援隊の勇敢で献身的な姿勢、そして人命を救い被害を食い止めるために日本政府がとった断固たる処置の数々に、私たちWFPの職員すべてが感銘を受けました。
私たちは、日本から、困難に立ち向かう回復力というものを学び、そのような精神を持つ日本に対し、敬服の念を覚えています。日本は、世界で悲劇が起きWFPが出動した際、最も多くの支援を差し伸べてきてくれた国の一つです。そして今日、WFPは日本と共にあります。
WFPは、日本の役に立てることであれば、どのような支援でも行う用意があります。あらためて、今回の地震で被災された多くの日本の皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
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