メディカルエッセイ
第181回(2018年2月) 英語勉強法・続編~有益医療情報の無料入手法~
このサイトではいろんな話題を取り上げていますが、英語の勉強については興味を持っている人が多いのか、コラムを書くと問い合わせが増えます。前回の「私の英語勉強法」についても、「早速、NHKの『ニュースで英会話』の会員登録をしました」というメールも届きました。
そこで今回は英語勉強の応用編として、医学情報を入手する方法について述べたいと思います。なぜこのような話をするかというと、医学情報は日本語より英語で入手する方が断然「正確で新しい」からです。そして、英語の文献を読むことは、世間で考えられているよりも簡単であることを伝えたいからです。しかも後で詳しく述べるように、日本語では有料の同じ記事が英語なら無料で読めます。
我々医師は日々世界中の論文を検索し新しい情報の収集に努めています。日本語のサイトを使った情報収集も一応はしますが、はっきり言うと日本語のものは良質なものが少なくあまり役に立ちません。医師向けのポータルサイトはそれなりに参考にはなりますが、内容・量とも不十分です。それに、一般の人は医師向けのサイトにアクセスすることができません。
おそらく一般の人が医学情報を入手したいときは、グーグルやヤフーで日本語のキーワード検索をすることが多いのではないでしょうか。この方法には2つの「欠点」があります。ひとつは正確な情報が検索上位に上がってくるとは限らない、ということです。DeNA(ディー・エヌ・エー)が運営する医療系サイト「WELQ(ウェルク)」のいい加減さが問題となり廃止に追い込まれたのはまだ記憶に新しい2016年11月です。その後グーグルやヤフーは検索ランキングのアルゴリズムを修正し、有用なサイトが上位に表示されるよう工夫をしています。がんについては、2018年1月に国立がん研究センターとヤフーが連携し、検索上位に同センターの「がん情報サービス」の内容が表示されるようになりました。
ですが、これでがんに関する有益な情報のすべてが得られるわけではありませんし、広告代を払っているサイトは今も上位に表示されます。また、がん以外の疾患については依然”質の悪い”サイトが出てくるようです。いかがわしい民間療法やサプリメントが上位に現れ、ガイドラインを重視した標準治療に関するものが必ずしも表示されるとは限りません。
グーグルやヤフーで医療情報を検索するときのもうひとつの欠点は、正確な情報が書いてあるサイトにたどり着いたとしても、日本語だと情報量が少なく必ずしも新しくないということです。ですから、日本語のサイトをみるときにはちょっとした「コツ」がいります。そのコツとは、まず誰が書いているか、そしていつ書かれたものかを確認することです。さらに、その書いた人に連絡が取れるようになっていれば良質なサイトと言えます。医学の情報はどんどん更新されていきますから一昔前の情報だと、そのときは正しかったとしても現在は必ずしも有用とは限らないからです。また、これは私見ですが、ネット上に文章を公開する以上、執筆者は内容の責任をとる義務があると思います。というわけで、執筆者も執筆時期も分からないサイトについては参考にする程度にとどめておくのが無難です。
さて、英語のサイトについてです。まず、日本の大手メディアと比べると、例えば、Reuter、BBC、CNNといった世界を代表するメディアの情報は新しく正確で参考になります。一部の医療者は、一流の医学誌に掲載された論文でないこういった一般のメディアは不正確と言いますが、そういう人たちも日本のメディアよりは遥かにグレードが高いことは認めています。
私自身は毎日新聞の医療サイト「医療プレミア」に連載をもっていますから、私の立場で日本のメディアを批判するのは失礼というか非常識かもしれませんが、日本のメディアが欧米(特に米国と英国)のものより劣るのは事実です。それに、医療プレミアは内容が良質であったとしても「有料」であり、ここは欠点だと思います(ただし、月に5本程度は無料の登録だけでも読めるようです)。
私自身が現在最も有用だと考えていてほぼ毎日閲覧しているのは「Physician’s Briefing」という医師向けのサイトです。これは、編集者が世界中の論文を検索し、良質なものをまとめて読みやすい記事にしてくれています。さらに原論文にもリンクが張られているために詳しく知りたければそちらを参照することもできます。
このサイトは医師向けですが、同じ会社が運営している別のサイトに一般向けの「Health Day」というサイトがあり、これが非常に優れています。上記の医師用のサイトよりも(当たり前ですが)分かりやすい表現で文章が書かれていて、取り上げている論文が世間の関心を引きそうなものばかりなのです。例を挙げましょう。
2018年1月19日、同サイトは「Flu May Be Spread By Just Breathing」(インフルエンザは呼吸するだけで感染する)というタイトルの記事を発表しました。そして、遅れること2週間の2月2日、この記事の日本語訳が「医療プレミア」に掲載されました。また、いくつかの他の日本語サイトでも同じものがやはり2週間遅れで掲載されました。それらのほとんどは医師しかログインできないサイトです(注1)。
調べてみると、「Health Day」は日本語版もあるものの、記事をクリックすると「『ヘルスデーニュース』記事の使用は、有料でのご契約企業様のみとなっております」と表示されます。おそらく毎日新聞やその他の医療系サイトは日本語版の記事をこのサイトから「購入」して自社のサイトに掲載しているものと思われます。
私がこの会社のビジネスに文句を言う資格はありませんが、ちょっとひどくないでしょうか。英語なら無料で読める記事の日本語版は、同社の日本語版サイトで入手できるのは「ご契約企業様」のみ、その「ご契約企業様」のサイトで記事を読もうと思うと2週間遅れ、しかも有料、もしくは医師しかログインできないのです。ちなみに「Health Day」のスペイン語版サイトは無料で読むことができます。
最近の流行りの言葉に「健康格差」というものがあります。高学歴・高収入の者が健康で長生きできることを指したものです。最新の医学情報が入手できればそれだけで長生きできるわけではありませんが、日々発展していく医学では次々と新しい知見が生まれ、少し前まで正しいとされていたことが否定されるということも珍しくありません。
もちろん重要な情報のなかには、日本語でも遅れてなら入手できるものもあるわけですが、日本語のものだと編集者や翻訳者の”手垢”がついていますし、あなたにとって重要なものが取り上げられるとは限りません。繰り返しますが、日本語の医療情報サイトは、いい加減なものが多く、過去に紹介したコクラン共同計画や医療プレミアなどの良質なサイトも、量が満足できるものではありません。
ならば「Health Day」のオリジナル版(英語版)を各自が読めばいいのです。おそらくこれを読む人口が増えると、自分の訳をブログなどに公開する人も出てくるのではないでしょうか。そこで、適切な訳について意見を交わせるようになると英語の知識もアップして医学情報にも詳しくなれます。
こんなことが無料でできるわけですから、英語に興味を持てば健康で長生きできて人生を楽しめる、とまで言えば言い過ぎでしょうか…。
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注1:「糖尿病ネットワーク」では「Health Day」の日本語の記事が無料で誰でも読むことができます。ただし、取り上げられているのは生活習慣病関連の記事だけであり、しかも英語版(オリジナル版)に比べると情報量が少なすぎるように感じられます。
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