2026年4月23日 木曜日
2026年4月23日 アルツハイマー病にレカネマブもドナネマブも無効
以前から「本当に効くのか?」「費用対効果が悪すぎる」と評判のよくないアルツハイマー病の”特効薬”「レカネマブ(レケンビ)」「ドナネマブ(ケサンラ)」の有効性が「コクラン(Cochrane)」により正式に否定されました。
コクランとは信頼できるエビデンスを提供する国際的な非営利組織で、世界で最も中立であり信頼性の高い組織です。コクランが発表するデータなら無条件で信頼できると言ってもいいでしょう。
そのコクランがレカネマブもドナネマブも効果がないと断言したわけですから、この発表は世界中の認知症の治療に極めて大きな影響を与えることになります。まずはコクランの発表内容をみてみましょう。タイトルは「抗アミロイド薬は臨床的に意義のある効果を示さない(Anti-amyloid Alzheimer’s drugs show no clinically meaningful effect)」です。
コクランが検証したのは、アルツハイマー病または軽度認知症患者に対する(レカネマブやドナネマブなどの)合計7種類の抗アミロイド薬の効果が調べられた合計17の臨床試験のデータです。試験の対象者は合計20,342人です。結果、抗アミロイド薬が認知機能低下や認知症の重症度に及ぼす絶対的な効果は皆無、もしくはごくわずかであり、臨床的には意味がないことが明らかにされました。
研究を主導したイタリア・ボローニャのIRCCS神経科学研究所の神経内科医兼疫学者Francesco Nonino氏は「残念ながら、これらの薬剤は患者にとって何ら意味のある効果をもたらさないことが示されました」と述べています。
レカネマブを例にとってみてみると、発売当初は、認知機能低下が27%抑制されるとされていました。しかし、記憶力、推論力、日常生活機能を測定する18点満点の尺度で検討したNEJMの研究によると、プラセボ投与群は18ヶ月間で1.66ポイント低下したのに対し、レカネマブ投与群では1.21ポイントの低下にとどまりました。確かに差はありますが、ごくわずかなものです。
さらに、効果がないばかりでなく、有害性も明らかになりました。発売当初から指摘されていたように、抗アミロイド薬は脳の腫脹や出血のリスクを高めるリスクが高いことも明らかにされました。
レカネマブ及びドナネマブは臨床試験で良好な結果が得られたとされたため、英国、米国、日本の規制当局によって承認されました。しかし英国では、費用に見合うだけの「効果が小さすぎる」として、NICE(=National Institute for Health and Care Excellence=英国国立医療技術評価機構)はNHS(=National Health Service=英国国民保健サービス)での使用を却下し、結局英国では使用できない状態が続いています。英国でいったんこれらの承認をしたMHRA(=Medicines and Healthcare products Regulatory Agency=医薬品・医療製品規制庁)は、コクランの発表を受けて再審査をおこなうようです。
費用についてはThe Telegraphの報道をみてみましょう。これらの薬剤を使用するには、定期的な静脈内投与に加え、腰椎穿刺や脳の画像検査が必要となり、患者一人当たり年間4万ポンド以上がかかります。
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このコクランの発表には反対意見もあります。検討されたのは合計7種類の抗アミロイド薬で、レカネマブとドナネマブ以外に、アデュカヌマブ、バピネウズマブ、クレネズマブ、ソラネズマブなど、既に販売中止となった薬剤も含まれていたからです。しかし、研究の方法としては何ら間違っているわけではなく、これらの薬と同時に検討されたという理由だけではコクランの分析が間違っているとは言えません。
ひとつ言えることはアルツハイマー病の原因をアミロイドだけで説明することはできないということです。「アルツハイマー病の原因がアミロイドβ」を”証明”した有名な論文が捏造されたものであることはすでに白日の下に晒されています。
参考:毎日メディカル「STAP細胞よりひどい…社会を揺るがす二つの捏造論文」
粘着性のあるアミロイドタンパクが脳内に蓄積してプラークを形成し、これがアルツハイマー病に関連しているのは事実でしょう。ですが、それが「原因」ではないことはもはや明白であり、アミロイドを取り除いたからといってアルツハイマー病が治るわけではありません。抗アミロイド薬は、副作用のリスクを抱え、大金を投じておこなうような治療でないことはもはや自明です。
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2026年4月19日 日曜日
2026年4月19日 ApoEがε4でも肉を食べれば認知症リスクが帳消しに!
常識を揺るがすような驚くべき論文が発表されました。
アルツハイマー病の最大のリスクがApoEの遺伝子型で、ε4を所有していればリスクが大幅に上昇することは本サイトで繰り返し述べてきました。ε4・ε4の人は(ε4をホモで所有していれば)、ε3・ε3の人に比べ、アルツハイマー病になるリスクが11.6倍にもなるとされています。
日本を含む東アジアではもっとハイリスクだとする研究もあります。2023年に医学誌JAMA Neurologyに掲載された論文「ApoE遺伝子型とアルツハイマー病リスク:年齢、性別、および民族(APOE Genotype and Alzheimer Disease Risk Across Age, Sex, and Population Ancestry)」には各民族におけるε4とアルツハイマー病のリスクが掲載されています。結果は、我々日本人にとっては絶望したくなるようなものです……。
ε4とアルツハイマー病の相関関係は民族によって異なり、東アジアではその関係が最も強くなります。下記のグラフが示すように、ε4を1つ持っていれば(ヘテロで持っていれば)リスクは4.54倍(白人3.46倍、黒人2.18倍、ヒスパニック系1.90倍)です。ε4を2つ保有している場合(ホモの場合)、東アジア人のリスクはなんと30倍近くにもなります(白人13倍、黒人6倍、ヒスパニック系4倍)。

認知症の他のリスクを考えてみると、例えばLDLコレステロールであれば薬(スタチン)を使えば下げられますし、社会的孤立であれば(人によっては大変でしょうが)自身の努力で挽回できる見込みはあります。
一方、遺伝子は生まれたときにすでに決まっていて変更することは絶対にできません。アルツハイマー病のリスクは”運命”として受け入れるしかない、ということになります。
ところが、です。最近、信じられないような(当事者からみれば)歓喜したくなるような研究が報告されました。医学誌「JAMA Network」2026年3月19日号に掲載された論文「ApoE遺伝子別の肉摂取量と認知機能(Meat Consumption and Cognitive Health by APOE Genotype)」です。
なんと、ApoEをε4で持っていても「肉を食べればそのハンディを完全に克服できる」というのです。研究の対象者は調査開始時に認知症がない60歳以上の2,157人(平均年齢71.2歳、女性62.0%)。うち1,680人が継続して調査を続けることができ、569人(26.4%)がApoEを「ε3・ε4」または「ε4・ε4」で持っていました。15年間の追跡期間中、296人が認知症を発症し、690人が認知症を発症せずに死亡しました。肉の摂取量は食物摂取頻度調査票に基づき、認知機能は次の4つが調べられました。
・エピソード記憶(再生と再認):episodic memory (free recall and recognition)
・意味記憶(語彙):semantic memory (vocabulary)
・言語流暢性(動物名と職業名):verbal fluency (animals and professions)
・知覚速度(数字消去課題とパターン比較):perceptual speed (digit cancellation and pattern comparison)
解析の結果、ApoEを「ε3・ε4」または「ε4・ε4」で保有する人たちは、総肉摂取量が最も少ない下位5分の1のグループに比べ、最も多い上位5分の1のグループでは、認知機能の低下が抑制され、認知症発症リスクが大幅に低下していました。下記のグラフが示すように、認知機能低下のリスクがApoEをε4で持たない(ε2かε3で持つ人)となんとまったく同じレベルにまで下がったのです!

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ApoEをε4で持つ人にとっては思わず踊りだしたくなるような嬉しい報告です。では、アルツハイマー病のリスクを帳消しにするにはどれだけの肉を食べればいいのでしょうか。論文には「肉の摂取量を目標値の2倍以上にすること」と書かれています。では、「2倍」とは実際にはどれくらいの量が相当するのでしょうか。
英国の健康サイトDiabetes UKによると、World Cancer Research Fund(=WCRF=世界がん研究基金)などのがん関連団体は、赤身肉の摂取量を週3食分(調理済み重量で約350~500グラム)以下に制限し、加工肉はほとんど、あるいは全く食べないことを推奨しています。NHS(英国国民保健サービス)のサイトにも「1日70グラム」と書かれています。ApoE遺伝子をε4で持つ人がアルツハイマー病のリスクを帳消しにするためには、これの2倍ですから「1日およそ140グラム」の加工されていない肉を摂取すべし、ということになります。
もうひとつ興味深いのは、上記のグラフからも読み取れますし、論文の本文でも述べられているように、「(加工されていない)赤身肉の摂取量が多いほど、ApoE遺伝子のタイプに関係なく、認知症のリスクが低い」ということです。発がん性のリスクを考えれば肉の摂取はほどほどに、ということになる一方で、認知症のリスクを下げたいのなら積極的に肉を摂取すべし、となるわけです。
気を付けなければならないのは「加工肉を食べない」ということです。論文には「総肉摂取量に対する加工肉の比率が高ければ、遺伝子型にかかわらず認知症リスクが上昇する」と指摘されています。
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2026年4月16日 木曜日
第272回(2026年4月) 「ホルモン補充療法(HRT)は安全」が世界の見解に
ガイドラインやその他治療指針などで推奨されている治療で、なおかつ院長の私が研修を受けている疾患であれば、谷口医院では原則として「実施する」が基本方針なのですが、ほとんど唯一の例外が「ホルモン補充療法」(=Hormone Replacement Treatment、以下「HRT」)でした。「でした」と過去形なのは、2010年代から少しずつ開始し、2020年代に入る頃にはかなり積極的に実施しているからです。ただ、当院が開院した2007年からおよそ3年間は、患者さんが強く希望してもお断りするか、他院を紹介していました。
その理由は、2007年のコラム「ホルモン補充療法の危険性」に書いたとおりです。2007年4月に2つの衝撃的な論文が発表されました。1つは「New England Journal of Medicine」の「米国では乳癌の発生率が近年急激に減少しているのはHRTがおこなわれなくなったから」という論文、もう1つは「Lancet」に掲載された「HRTを実施した女性は、していない女性に比べ卵巣がんで死亡するリスクが2割高い」とする論文です。
論文だけではありません。そのコラムで述べたように、これまで大変お世話になった、私が師と仰ぐ米国の女性医師が、HRTが原因で自らが乳がんに罹患し、それ以降すべての患者に「HRTはやってはいけない」と助言していたからです。この話を聞いたのは私が医師になってまだ3年目の頃で、「この先生が絶対反対する治療なんだから自分もやるべきではない」と誓ったのです。
さらに、当時の世界的潮流も「HRTは避けるべき」というものでした。その流れに大きな影響を与えたのが、2002年に JAMA に掲載された論文です。HRTの安全性を検証する目的で開始された「Women’s Health Initiative (WHI)」試験は、本来約9年の追跡を予定していましたが、平均5.2年で中止されました。心血管疾患および乳がんのリスク上昇が明らかとなり、これ以上継続できないと判断されたためです。
しかし、前医から当院に転院してくる患者さんの中には、すでにHRTを開始しているケースが少なくなく、その評価が非常に高いのです。「メンタルが安定する」「肌がきれいになる」「髪が増えた」など実感しやすい効果があり、さらにLDLコレステロールの低下や骨密度の上昇も期待できます。まるで“魔法の薬”のように感じる人もいます。乳がんのリスクについても「日本人ではそれほど上がらない」という報告があり、リスクを理解し定期的に検診を受けるのであれば、過度に恐れる必要はないのかもしれないと考えるようになっていきました。
最初に処方したのは、「前医と同じ薬を処方してほしい」と希望した患者さんでした。その後、更年期障害に悩む女性に対し「選択肢の1つ」として話をするようになり、そしてあるとき、ついに「更年期障害の治療で最も推薦する治療法」としてHRTを紹介し始めました。
同時に「前医でHRTを受けているが安全か」という相談も増えました。意外なことに「安全ではない」ケースが時折見られました。最も驚いたのは、(子宮を摘出していないのに)卵胞ホルモンのみが処方され、黄体ホルモンが併用されていないケースです。これは子宮内膜増殖のリスクを高め、危険な状態になり得ます。子宮がある場合は原則として黄体ホルモンの併用が必要であり、定期的な経腟超音波検査も欠かせません。こうした「適切でない更年期治療」が目立つようになり(男性に対する更年期障害の治療も)、警鐘を鳴らす目的で書いたのが2023年のコラム「間違いだらけの男女の更年期障害のホルモン治療」です。
今回は「(女性の)HRTの安全性が世界的にほぼ確立された」という話をしたいと思います。
第二次トランプ政権の発足後、ケネディ保健長官は、新型コロナワクチンへの慎重姿勢、定期ワクチン接種の見直し、食事療法に関する方針転換、妊娠中のアセトアミノフェン使用への注意喚起など、さまざまな政策を打ち出し、医療関係者の間で議論を呼んでいます。一方で、あまり大きく報じられていませんが、政権はHRTの積極的な導入を支持しており、この方針は多くの女性から支持されています。マーティ・マカリ医師が長官を務めるFDAは、ホルモン剤の添付文書の見直し方針を示し、2026年2月12日にはHRTの安全性を強調するページを公表しました。
具体的には、心血管疾患、乳がん、認知症に関するリスク記述が、FDAが定める最重要警告「boxed warning」から削除されました(安全性評価が改善したことを意味します)。さらに、無作為化比較試験(エビデンスレベルの高い試験)で、更年期開始後10年以内(かつ60歳未満)にHRTを開始した女性は全死亡率と骨折リスクが低下していたことが示されています。
HRTの安全性を強調しているのはFDAだけではありません。医療ガイドラインを集約した世界最大級の臨床ガイドラインデータベース「GuidelineCentral」もHRTの有効性と安全性を高く評価しています。ページ冒頭には「HRTは更年期障害に対する最も効果的な治療法であり、骨量減少や骨折の予防にも効果がある」と明記されています。
英国では米国とはまた違った「動き」が見られます。興味深いことに、英国で更年期医療の分野でもっとも有名な医師は婦人科専門医ではなく、女性GP(総合診療医)の Louise Newson医師です。Newson医師が注目される理由は、一言で言えば「やり過ぎ」と批判されることが多いためです。危険なほど高用量のHRTを処方したとして、BBCのドキュメンタリー番組「パノラマ」で取り上げられ、これを受けてか、「British Menopause Society」(BMS=英国更年期学会)から認定資格を剥奪されました。
しかし、Newson医師のクリニックで治療を受けた女性からの評価はすこぶる高く、英国の医療規制当局「Care Quality Commission」は、2026年2月、同クリニックを「outstanding(卓越した)」と最高評価で報告し、「女性のニーズに合ったケアを提供している」と結論付けました。尚、Newson医師は、批判されている「高用量のHRT」に対し、「本当に必要な場合にしか処方していない」とコメントしています。
現在、世界的にHRT導入のムーブメントが強まっています。米国では半年ほど前から品薄が社会問題となり、米国の大手電子カルテ企業Epic Systemsの研究部門Epic Researchによると、ホルモン補充療法の処方件数は2021年から2025年の間に86%も増加しています。その影響を受けているのか、日本でも供給量が減少しています。当院でも、人気の貼付薬「メノエイドコンビパッチ」が入荷しなくなり、その影響で内服薬「ウェールナラ」も入手困難となり、最近まで新規処方を見合わせなければならない状態が続いていました。
今後も需要は増え続けると私は予測しています。最後に、HRTは本当に安全と言えるかどうかをみておきましょう。前半で述べたように、2002年には臨床試験の「Women’s Health Initiative」で「HRTの危険性は明白」とされていました。四半世紀を経て、それが誤解だったと言えるのでしょうか。実際には、HRTのリスクを指摘する研究もそれなりにあり、一方ではリスクは高くないとする研究も少なくありません。結論としては「個別に検討する」というつまらないものになるのですが、ひとつ言えるのは「60歳未満で閉経後10年以内であれば、HRTを検討する価値はじゅうぶんにある」ということです。
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2026年4月9日 木曜日
2026年4月 人類はもうすぐ確実に滅ぶのだから ~その2~
マンスリーレポート2022年11月号「人類はもうすぐ確実に滅ぶのだから」で、私は、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change=気候変動に関する政府間パネル)の勧告や、歴史学者ピーター・フランコパンの予測などを引き合いに出し、地球がいずれ滅びるのは間違いないことを指摘し、だからこそ、「戦争をしたり、マスクの是非で言い合いをしたり、SNSでつまらない罵り合いをしたり、といったことに時間を費やしている暇はない」と述べました。
当時は新型コロナウイルス(以下「コロナ」)に伴う「マスク論争」が盛んで、賛成派、反対派が互いに相手を罵り合っていました。あれから3年以上が経ち、コロナは事実上「収束」し、マスクで人間どうしが醜い争いをするようなことはほぼなくなりました。では、人類は互いに手を取り合って仲良くしているのかというと、残念ながらその正反対に向かっています。
2022年2月24日にロシアが一方的にウクライナに侵攻して始まった戦争は今も終結の見通しが立ちません。ロシアが侵攻した2022年の時点で考えれば、いきなり戦争をしかけたロシアが悪いわけですが、視点を変えれば一方的にロシアに非があるとは言えません。2013年のユーロマイダン革命は「革命」とされていますが、親ロシアのヤヌコーヴィチ大統領を失脚させたクーデターに他ならず、それを指揮していたのは米国だったという話もあり、ロシア・ウクライナ戦争はどちらが悪いか、という問いに対する答えは簡単には出せません。
ロシア・ウクライナ戦争勃発から4年が経過した2026年2月28日、今度は米国がイランに空爆を仕掛け戦争が始まりました。イランとしては米国と協力関係にある中東諸国を部分的にでも攻撃せざるを得ず、戦火が他国に広がりました。
特に、ドバイは甚大な被害を受け、裕福な外国人の移住で成り立っていた「砂漠の楽園」は事実上消滅しました。日本のメディアはドバイ当局に忖度しているのか控えめな報道しかしていませんが、たとえば英紙「Daile Mail」は「ドバイは終わった(Dubai is finished)」というタイトルで、外国人からドバイが見捨てられた現実を報じました。
ドバイ国際空港が被害を受け、ラグジュアリーホテルとして有名なフェアモントホテルも炎上しました。ドバイ当局は「空に響く大きな爆発音はUAEの防空システムが作動している証拠であり、我々の安全が守られている証拠だ」と苦し紛れの広報を出しましたが、高級ホテルが燃えているのを目の当たりにした外国人がこんな言葉を信じられるはずがありません。紛争勃発から数週間で数万人の住民と観光客が次々とドバイを離れ、「二度と戻らない」と宣言しています。スタンダードチャータード銀行やシティバンクなどの欧米系銀行の従業員は、イラン政府から次の爆撃目標とされるという脅迫を受け、すでにオフィスから退避しています。もはやドバイがつい最近までの栄光を取り戻すことはないでしょう。
尚、イランのペゼシュキアン大統領は、イランが湾岸諸国をミサイル攻撃の標的としたことに対して謝罪しています。
最も被害の大きい地域はもちろんイラン国内で、特に南部ミーナーブ(Minab)の女子小学校が爆破され175人が犠牲になった事件は胸が張り裂けるような痛ましい出来事でした。トランプ米大統領は、「イランの兵器は命中精度が低いからイランの仕業だ」と述べましたが、そんなはずがありません。実際、The New York Timesは「標的の誤りにより、この学校は米国のトマホークミサイルの攻撃を受けた」と報じています。
これから米国とイランが仲直りして首脳同士が心から歩み寄ることなどあり得ませんし、ドバイが栄光を取り戻すこともないでしょう。仮に米国がこの戦争に勝利したとしてもイラン国民を掌握することは不可能です。軍隊を地上に投入すれば、イラクやアフガニスタンで繰り広げた泥沼の二の舞になるでしょう。つまりイランと米国(及びイスラエル)にはハッピーエンドの解決はないのです。
では日本は何をしているのか。中東在住の邦人保護には取り組んだものの、ドバイを含め中東諸国を守るような行動はなにひとつしていませんし、大勢の小学生が犠牲になった事件に対しても何もしていません(少なくとも報道されていません)。ちなみに、中国政府はイランの人道支援組織「Red Crescent Society」に20万ドルを寄付しました。
本稿執筆時点の4月9日現在、今後のホルムズ海峡の行方は分かりませんが、当分の間、原油入手困難な状況が続くでしょう。輸入に頼っているアジア諸国は国を挙げて節約の方向に舵を切っています。韓国では曜日ごとに公用車の使用を制限、スリランカでは1週間の給油量に上限を設けました。インドネシアでは公務員は毎週金曜日は在宅勤務とされ、フィリピンでは一部政府機関が週4日勤務となりました。翻って我が国がとった政策は、なんと「石油元売り会社への補助金」です。
今は国民が一丸となって節約に努め、そして国を超えて助け合わねばならないときです。日本は石油の輸入依存度が高いのは事実ですが、備蓄量がそれなりにあります。高市内閣はそれを自慢するかのように「我が国では年内は石油が不足することはない」などとアピールしているようですが、本来すべきは備蓄量が少なく困窮している国に対しその備蓄を供与することではないでしょうか。例えば、フィリピンやベトナムは備蓄量が極めてわずかしかないと言われています。こんなときに支援しなくてどうするのでしょう。
今、日本政府がすべきなのは石油の補助金をばらまくことではなく、国民に節約を呼びかけることです。すでに報道されているように、石油からつくられる商品が枯渇する可能性があり、特に影響を受けやすいのは医療業界です。医療用グローブや、注射器、点滴バッグなどは石油が枯渇すれば供給が止まります。たとえば透析を受けている人にとって、これらの供給不足は命を失うことを意味します。
2020年にコロナが登場したとき、反対意見はありましたが、政府は外出を控えるよう呼びかけ、飲食店の営業を禁じました。あのときできたことをもう一度やればいいわけです。夏の冷房費を削るわけにはいきません。しかし、外食や遊行など節約できることはたくさんあります。なぜ政府はそれを言わずに、その逆に石油に補助金をばらまくのか。お金を使うべきは、飲食店など自粛を要請すべき業界に対してです。では、なぜ総理大臣はそれをしないのか。今の人気を維持したいからでしょう。
ところで、米国はなぜイランに侵攻したのでしょう。たしかにイランの核兵器疑惑には不透明な部分がありましたが、IAEA(国際原子力機関)との対話は続けていました。2025年に一時中断されたのは、イランのせいではなくイスラエルと米国が戦争(いわゆる「12日間戦争」)を仕掛けたからです。今回の侵攻に対して、トランプ大統領は「イランの核兵器の脅威を防ぐために必要な戦争だ」と言っているそうですが、IAEAのグロッシ事務局長は、「イランが核兵器を製造している証拠はない」と正式に述べています。
では、なぜ米国はこのタイミングで戦争を仕掛けたのか。イスラエルがトランプ大統領を焚きつけた、というのが一般の見方だと思います。特に、ユダヤ教徒である、大統領の娘婿Jared Kushner氏が大統領にけしかけた、とする説が有力視されています。
それもあると思いますが、私はもうひとつトランプ大統領を戦争に向かわせた理由があると思っています。そして、実はこちらの方が強いインセンティブになったのではないかと疑っています。それは「自身のエプスタイン疑惑から世間の目を逸らそうとする目的」です。「エプスタイン関連文書にトランプ氏が未成年者を性的虐待したという主張が含まれている」と英紙The Guardianなどが報道したのが2月26日、米国がイランに爆撃を開始したのはその2日後です。これが単なる偶然だとは思えません。実際、戦争が開始されてから、トランプ氏のエプスタイン疑惑の報道は氏の思惑通りほぼなくなりました……。
大国の大統領が自らの恥ずかしい過去から世間の目を背けるために戦争を起こし、まあまあ大きな国の総理大臣が近隣の国々の窮状には見向きもせずに自らの人気維持のために補助金をばらまく……。これが人間の真実の姿なのだとすれば、そのうち全滅するのも時間の問題では?
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