2022年10月27日 木曜日

2022年10月27日 週に一度以上の睡眠薬の使用で死亡リスクが1.3倍

 睡眠薬を使えばぐっすり眠れて翌日からは元気いっぱい!、というわけにはいきません。睡眠薬に頼らざるを得ない人の多くは、日中も倦怠感がとれず、食欲は不振で(または過食に走り)、精神状態が悪化していきます。

 では、睡眠薬の長期使用で寿命は縮まるのでしょうか。最近、日本人を対象にそれを調べた研究が発表されました。医学誌「Sleep Medicine」2022年12月に掲載された論文「睡眠薬が必要な不眠症の性別・年齢別の全死因死亡率:日本多施設共同コホート研究からの知見(Sex- and age-specific all-cause mortality in insomnia with hypnotics: Findings from Japan multi-institutional Collaborative Cohort Study)」です。

 結論からいえば、睡眠薬(ここではほとんどがベンゾジアゼピン系睡眠薬)を使用すると死亡リスクが1.3倍に上昇することが分りました。男性は1.51倍、60歳未満では1.75倍にもなります。

 本研究の対象者は92,527人の日本人(35~69歳)で、平均追跡期間は8.4年です。この間に合計1,429人が死亡しました。睡眠薬の使用率は4.2%でした。

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 太融寺町谷口医院では、2007年の開院以来、睡眠薬(及び抗不安薬)については「ゆっくりでいいからできるだけ減らしていきましょう」と助言してきました。最近は、初診時から「睡眠薬をやめたいんですが……」という相談が増えています。

 この研究が周知されて睡眠薬を断ち切りたいと考える人が増えることを期待したいと思います。ただし、「ベンゾジアゼピン依存症からの脱却」は決して簡単ではありません。谷口医院の経験でいえば、覚醒剤よりはましだけど(谷口医院では覚醒剤依存症のハームリダクションとしてベンゾジアゼピンを用いることがあります)、タバコよりは依存症からの解脱がはるかに困難です。

 ではどうすればいいか。不眠を自覚しても安易にベンゾジアゼピンに手を出さないことです。依存症の最善の治療は「初めから手を出さない」です。この研究の対象者が使用している睡眠薬はおそらく大部分がベンゾジアゼピンです。不眠で悩んだときは、ベンゾジアゼピンではなく他の方法で治せばいいのです。

参考:不眠を治そう・依存症を治そう

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2022年10月13日 木曜日

2022年10月13日 鼻うがいで新型コロナ感染後の重症化リスク低減

 私が「谷口式鼻うがい」を初めて実施したのが約10年前の2012年12月末です。そして、その後風邪は一度も引いていません。

 新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)の流行が始まっていた2020年2月、当時の私は診察室でさえもマスクをしていませんでした。マスクにはコロナを防ぐ効果がありませんし(ただし「感染させない」効果があることがその後分かりました。よって当時の私は間違っていました)、ましてコロナより粒子の小さいインフルエンザやライノウイルスにはほとんど効果がありません。

 しかし、私はコロナが始まったときから「自分はコロナに感染しない」という自信がある程度あり、実際一度も感染していません。毎日、発熱外来を実施していても、です。「絶対にかかりません」とまでは言えませんが、なぜ、そこまで強気なことが言えるかというと、鼻うがいを初めてから一度も風邪をひいておらず、その記録がもうすぐ10年になるからです。

 しかし、鼻うがいはコロナどころか風邪に有効とする研究もほとんどありません。そんななか、ついに有効性を示した論文が登場しましたので紹介します。

 生理食塩水を用いた1日2回の鼻うがいで、入院および死亡リスクが1/8に低下する

 医学誌「Ear, Nose & Throat Journal」2022年8月25日に「重症化リスクのある新型コロナウイルス感染者のリスクを軽減するために生理食塩水による鼻うがいを実施(Rapid initiation of nasal saline irrigation to reduce severity in high-risk COVID+ outpatients)」にこのような研究が報告されました。

 また、米国の医療メディア「Health Day News」はこの論文をわかりやすく解説しています。結論からいえば、「鼻うがいをしていなかった人はしていた人に比べて入院または死亡のリスクが8.57倍も高くなる」となり、2021年11月の米国で言えば、「鼻うがいにより入院を要する高齢者が100万人以上減る」ことを意味します。

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 「谷口式鼻うがい」はとても簡単で、生理食塩水すら不要です。必要なのは10mLか20mLのシリンジ(プラスティック製の注射器)1本です。これはAmazonで買えます。

 ただし、どこでもできるわけではなく「場所」は選びます。その場所とは風呂場です。この方法は簡単で痛くもないのですが、周囲が(不潔な水の)水浸しになります。私は風呂場にシリンジを置いておいて、1日2回この鼻うがいを実施しています。

 これから私の「風邪をひかない記録」がどこまで更新できるのか、自分でも楽しみです。

参考:毎日新聞医療プレミア(すべて無料で読めます)
鼻にいるコロナは喉の1万倍 対策は「うがい」
うがいの”常識”ウソ・ホント
新型コロナ 「うがい薬推奨」は問題

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2022年10月13日 木曜日

第230回(2022年10月) ポストコロナワクチン症候群~2022年版~

 治験(臨床試験)の期間が充分でないことが分っていながら世界中で接種が開始された新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)のワクチンを受けた後で、「倦怠感(だるさ)が取れない」、「痛みが消えない」といった副作用が続くという訴えが少なくなく、「コロナワクチンは他のワクチンとは異なる」ことを確信し、このサイトではちょうど1年前の2021年10月に「ポストコロナワクチン症候群」というタイトルで紹介しました。

 その後多くの方から相談を受け、それは今も続いています。谷口医院の患者さんのみならず、私が主催するメルマガの読者や、私が連載するメディアの記事を読まれた人からも相談メールが届きます。

 コロナに感染して生じる「ポストコロナ症候群」(後遺症)の患者さんも少なくなく、訴えられる症状は多岐に渡ります。多くの患者さんを診ているうちに、一言でコロナ後遺症といっても実に様々で、中には本当にコロナに感染したのか疑わしい例もあります。よって、そういった事例もひっくるめて「症候群」と呼ぶのがふさわしく、それらを分類した上で治療を進めるべきだというのが私の考えです。

 今回は、感染後の後遺症ではなく、ワクチン接種後の後遺症(=ポストコロナワクチン症候群)について述べます。まずは私の「5分類」を紹介します。

短期軽症型:接種1週間程度で消失するすべての症状を含む。発熱、倦怠感、疼痛、リンパ節腫脹など。たとえ1週間寝込んだとしても回復すればこのタイプに含まれる。

短期重症型:接種1~2週間以内に入院を余儀なくされ、肢体不自由などの重篤な後遺症を残す。または死亡する

中期型:接種後1週間以上たっても症状が持続し、最長6か月まで続く。頭痛、動悸、倦怠感が比較的多い訴え。

長期型:接種後6か月以上持続。倦怠感、抑うつ症状、食思不振、体重減少などが主症状となる。ときにME/CFS(後述します)を発症したと考えられる。

持病再発型:しばらく落ち着いていた持病がワクチン接種を契機に再び発症。頻度が多いのが、ヘルペス(口唇ヘルペス、性器ヘルペス、あるいは他の部位のヘルペスも)、頭痛(特に片頭痛)、じんましん。帯状疱疹(及び帯状疱疹後神経痛)もこの分類に入れる

 ではそれぞれを解説していきましょう。

 まず「短期軽症型」はほぼ全員に起こります。どれだけしんどくても1週間たてば後遺症なく社会復帰できるのであればOKと考えるべきでしょう。後述するようにコロナワクチンの有効性が高いのは間違いないからです。

 「短期重症型」の原因はワクチンの成分によるアナフィラキシーショックと、心筋炎(または心膜炎)が重要です。よって、アレルギーのエピソードがある人は充分な注意が必要で(接種前にかかりつけ医に相談しましょう)、まったく健康体の人であっても接種後1週間は激しい運動を控えるべきです。

 ちなみに、私自身は3回目のワクチン接種を終えて3日後にジョギングをして激しい胸痛と動悸に襲われ、その動悸は1週間くらい続きました。今だから言えますが、当時(2022年1月)はちょっと怖かったです。心筋炎/心膜炎が起こるのは「若い男性」とされていたために、「まさか53歳のおっさんには関係ないだろう」と高を括っていたのが失敗でした。このときの睡眠の記録を見ると(Fitbitで管理しています)、眠れはしたものの心拍数は90BPM(日頃は50BPM程度)前後の状態が続いていました。しかし、1週間程度で完治しましたから「短期重症型」ではなく「短期軽症型」に入ります。その程度だったので、今では心筋炎/心膜炎ではなかったと考えています(と思うようにしています)。

 「中期型」はそれなりの長期間、社会生活を制限されますからかなり辛いワクチン後遺症と言えます。頭痛、嘔気、食欲不振、めまい、関節痛、筋肉痛など症状は多岐に渡ります。不眠、抑うつ感などの精神症状も出現します。

 「長期型」はその大半がME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)と見分けがつきません。ME/CFSとは、一言で言えば、「日常生活が制限されるような激しい倦怠感が6か月以上続く」慢性の疾患です。以前は単にCFS(慢性疲労症候群)と呼ばれていましたが、最近では国際的にME/CFSが一般的です。

 ME/CFSは、周囲の人たちから(ときには家族からも)理解されないことが多く、ひどい場合は「単に怠けているだけだろ」とか「精神的なものやから精神科に行け」などと言われて傷ついている人もいます。たしかに、単純疲労やうつ病の場合も倦怠感は伴いますが、これらの場合、散歩など軽度の運動で改善することが多いと言えます。他方、ME/CFSの場合は、軽度の散歩程度であっても、その翌日あたりから体を動かせなくなるほどの激しい倦怠感が数日続くこともあります。これを「運動後倦怠感(post-exertional malaise, PEM)」と呼びます。

 ME/CFSの話をしだすとかなり長くなりますのでいずれ改めて紹介したいと思います。ここでは、ポストコロナワクチン症候群の「長期型」はME/CFSそのものかもしれない、ということだけ押さえておきましょう(といっても、これらはすべて私の「私見」ですが)。

 「持病再発型」は上に述べた通りで、いつ治るかは人それぞれですが、谷口医院の経験で言えば長くても6か月以内にはおさまります。

 では、なぜこのような副作用が起こるのでしょうか。はっきりしたことは分かりませんが、反ワクチン主義者の人たちがよく言う「スパイク蛋白が悪さをしている」というのはひとつの答えかもしれません。

 コロナのmRNA型ワクチンが登場したとき、政府も学者も感染症専門医も「ワクチンで体内に入ったmRNAはすぐに分解され、スパイク蛋白が長期間体内に存在することはない」と言っていました。実際、厚労省のサイトには今もそう書かれています。

 ですが、最近はそうとも言えないことが分ってきています。ドイツの70代の男性がワクチン接種後に死亡し、大量のスパイク蛋白が脳と心臓から見つかったという事例が報告されています。また、ワクチン接種した妊娠中の女性11人のうち5人の母乳からワクチンのmRNAが検出されたという報告もあります。

 さて、ワクチンの副作用をこれだけ列記すると「そこまでして打たないといけないの?」という気持ちになる人も多いでしょう。その答えは「国民全体としては接種すべき」となります。国際的な研究では医学誌「The Lancet」に掲載された論文が有名で、この研究によればコロナワクチンのおかげで世界の1440万人が命を救われています。身近なところで言えば、大阪府が公表しているデータを見てもワクチンの有効性は明らかです。4回接種者と未接種者では重症化率、死亡率がまったく異なっているのがよく分かります。また、因果関係のはっきりとしている(と厚労省が言っている)重篤な副作用はごく僅かであるのも事実です。

 ただし、ワクチンが有効なのは「全体として」です。いくらそのように役人や偉い学者から言われたとしても、あなた自身やあなたにとって大切な人が重篤な副作用に苛まれるのならば接種したくないのは当然です。

 では、あなたやあなたの大切な人がワクチン接種を受けるべきかどうかはどのように決めればいいのでしょうか。答えは「かかりつけ医に相談する」です。谷口医院の場合、患者さんから相談されたとき「ではうちましょうか」となることも「今は控えておきましょうか」となる場合もあります。

 ちなみに私がメディアに記事を書くと、「ワクチン絶対肯定派」からも「ワクチン絶対反対派」からもクレームが来ます。「ワクチンに賛成なのか反対なのかはっきりしろ!」とお叱りの言葉をいただくこともあります。私の答えは「その人にとって受けるべきか否かは異なる。だからかかりつけ医が存在している」です。

 最後に最も大切なことを言っておきましょう。ポストコロナワクチン症候群はときに難治性となります。そのため「藁にもすがる思い」となり、高額な自費診療を受けさせられた被害者が続出しています(多いのは「グルタチオンの点滴を数千円で受けさせられた」、「イベルメクチンを高額で買わされた」、など)。時間がかかるのは事実ですが、あくまでも保険診療で治療をすべきだ、と私は言い続けています。

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2022年10月10日 月曜日

2022年10月 「我々はなぜ働くのか」、もうひとつの答え

 先日他界された稲盛和夫氏の著作に『働き方「なぜ働くのか」「いかに働くのか」』があります。個人的にはこの本も他の稲盛氏の著作と同様、できるだけ多くの人に勧めたいのですが、おそらく21世紀に生きる若者のなかには、こういう主張に馴染めない、あるいは反発する人も少なくないと思います。

 なにしろ、言葉だけを読めば「仕事は常に(ベストではなく)パーフェクトを目指せ」「一心不乱に寝食を惜しんで働け」「困難なことにも<できない>と言ってはいけない」などなど、昭和時代の「猛烈サラリーマン」を彷彿させるようなメッセージのオンパレードです。もしも長時間残業やパワハラの被害に遭っている人がこれを読めば、”猛烈に”反対するでしょう。

 そう思ってこの本のAmazonのレビューを見てみると、やはり私の予想通り、厳しいコメントが相次いでいました(もちろん絶賛するコメントも少なくありません)。たしかに(誰かが書いていたように)、自分の働く会社からこの本を渡されればぞっとするに違いありません。なにしろ、読み方によっては「他のすべてを犠牲にして死ぬまで働け」と言われているような気持ちになるでしょうから。

 私自身がこの本を初めて手にしたのは太融寺町谷口医院をオープンさせてからで、私の立場は「院長」ですから、経営者(というほどのものではありませんが)的な観点でも考えてしまいます。すると、この本は良書だけれど自分の立場で谷口医院の従業員に勧めるわけにはいかないなぁ、と感じたことを覚えています。

 しかしながら、それでもこの本のなかに出てくる「人間は自らの心を高めるために働く」という稲盛さんの言葉には説得力があります。特に医療機関では、「働く」ことが(職種によってある程度異なりますが)病気や怪我を患っている人や不安が強い人に対する直接的な「貢献」につながります。

 ちなみに、「ぐるなび」創設者の滝久雄氏は「自分を他者のために役立てたいという貢献心は<誰にもある本能>」と考え、「ホモコントリビューエンス研究所」を設立されています。「ホモコントリビューエンス」とは「貢献する人」という意味だそうです。

 さて、今回は私が考える「我々はなぜ働くのか」に対する私なりの「回答」を紹介したいと思います。それは「仲間をつくるため」です。「なんだ、当たり前のことじゃないか」と感じる人が多いでしょう。特に私と同世代以上であれば、多くの人が「そんなこと、言うまでもない」と思っているでしょうし、また仕事を通して「生涯の友」と呼べる友人を得たという人も大勢いるはずです。

 もちろん若い人のなかにも、「そんなの当然」と考えている人はいると思いますが、私と同世代以上のいわば「旧世代の人間」とはやはり異なると思います。旧世代の人間は、まだギリギリ「終身雇用」が当然の時代に生きていました。実際、私の1つ目の大学の同級生のなかには、入職以来30年以上同じ企業に勤務しているという人も少なくありません(ただし、その1回り上の世代に比べると、それほどの長期間勤務者は激減しているのは間違いありません)。

 いったん就職するとそこが「共同体」となり、共に働くのみならず、共に慰安旅行に参加し、会社が主催する社員とその家族が出場する運動会に参加し、半数以上が社内結婚をし、社員どうしは家族ぐるみの付き合いをするのです。それを「社畜」と非難する声がありますが、その一方、かけがえのない友情が築かれることが多いのも事実です。
 
 一方、会社が単に「お金を稼ぐ場」と考える人が多くなった21世紀の現代社会では、社員とその家族が参加する運動会の話はほとんど聞かなくなりました。慰安旅行でさえも、すでに新型コロナ流行前から激減していたと聞きます。社内恋愛は今でも(不倫も含めて)少なくないでしょうが、旧世代であれば大企業では半数以上が社内結婚だったのです。どこの企業だったか忘れましたが、私が就職活動をしている頃「〇〇社の社内結婚率は9割以上」と聞いたことがあります。

 「生涯の友は学生時代に見つけるべきで、就職後の友はしょせんライバルに過ぎない」と言う人がいます。実際にそういうこともあるのでしょうが、それでも仕事を一緒にがんばったという経験から深い友情が芽生えることもよくあります。

 太融寺町谷口医院では最近立て続けにスタッフが退職しました。退職の理由は「持病の悪化」「院内の人間関係」など様々ですが、突然辞めた職員もいたために仕事が回らなくなりました。少ない人数でまかなっている診療所でそのような複数のスタッフの突然の退職は困ります。求人を新たに出すことにしましたが、すぐにいい人が応募してくれる保証はありません。

 そこで、以前谷口医院で働いていた元スタッフに声をかけてみました。就職前に谷口医院にアルバイトに来てくれていた20代の頭脳明晰なMさんにダメ元で連絡をとってみると、偶然にも「新たな就職先が決まり、以前の会社は辞めたところ」だと言います。本当は充電期間に海外旅行をする予定だったそうなのですが、なんとそちらをキャンセルし谷口医院にアルバイトに来てくれたのです。しかも「谷口医院でのアルバイトは海外旅行よりも価値のある貴重な経験です」とまで言ってくれたのです。これほど嬉しいことがあるでしょうか。Mさんを友達と呼ぶのは変かもしれませんが、私にとってはかけがえのない恩人です。

 次に、過去に谷口医院に少しだけ働いていたAさん(名前のアルファベットがAではなく便宜上Aさんとします)が来てくれることになりました。Aさんは明るくて頼りがいのある女性なのですが、以前谷口医院に勤務していたときに、ある同僚からイジメとも呼べるような酷い対応を受けていたのです。私がそれをAさんから聞いたのは退職を決めた後でした。そのときには申し訳ない気持ちしかなかったのですが、こうして戻って来てくれることになりとても嬉しく思います。

 「女性の世界は難しい」とよく言われますが、それは谷口医院でも同様です。これまでも明らかなパワハラで辞めていった人が複数人います。そして、そういう人に限って被害に遭っていることを口にせず、最後まで笑顔を絶やさないのです。私にもっと早く言ってくれれば……、と思いますが、おそらく「告げ口」になると彼女らは考えたのでしょう。

 パワハラやイジメの加害者は、日頃から口調が強くよくしゃべるタイプもいれば、普段はほとんど何も話さない無口なタイプまで様々です。しかし共通点がひとつあります。それは加害者であることが発覚するとすぐに辞めていくことです。それならば、初めからそんなことしなければいいわけです。私にはこういう女性(だけではないかもしれませんが)の心理が理解できません。

 もうひとり、本稿執筆時点では未確定ですが、元スタッフのBさんも戻って来てくれるかもしれません。実はBさんも当時のあるスタッフからひどいパワハラの被害に遭っていたのです。Bさんのケースも、その被害報告を受けたのは退職を決意した後でした。

 ちなみに、谷口医院には過去にも、諸事情からいったん退職し、再び戻って来てくれたスタッフが何人かいます。元の職場に戻ったことがある人や退職した人を再び受け入れた経験がある人は少なくないと思いますが、いったん退職したスタッフが戻って来てくれるのは、迎え入れる側からすると格別の嬉しさがあります。昔話に花が咲き、別の職場で培った経験から一回り成長した姿を見ることができます。そして、何よりも「また一緒に患者さんに貢献しよう」という”絆”を確認することができるのです。

 稲盛さんはさほど触れられていなかったと思いますが、「なぜ働くのか」の答えのひとつは「仲間との絆を感じることができるから」だと私は信じています。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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