2018年7月30日 月曜日
2018年7月30日 ハワイの日焼け止め禁止の続報~多くの日本製も禁止に~
医療ニュース2018年5月25日「日焼け止めが禁止されてもサプリメントはNG」でお伝えしたように、2021年1月1日よりハワイのビーチで一部の成分を含むサンスクリーン(日焼け止め)が禁止されることになります。
その医療ニュースで、私は「日本人はさほど心配ない。なぜなら太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では紫外線吸収剤が含まれているサンスクリーンは勧めていないから」と述べました。
しかし一部の読者から「それは谷口医院の患者のことであり、紫外線吸収剤が含まれているサンスクリーンが一般的ではないのか」という指摘があり、たしかにその通りですので、今回はその点を補足しておきます。
まず、ハワイ州が問題にしているサンスクリーンの成分は次の2つです。
・オキシベンゾン(oxybenzone)
・オクティノクセイト(octinoxate)=メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(Ethylhexyl methoxycinnamate)
メトキシケイヒ酸エチルヘキシルは、日本のサンスクリーンで最も高頻度に用いられている紫外線吸収剤のひとつです。
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これまで谷口医院では(サンスクリーンの相談をされる人のほとんどが肌が弱いということもあり)、サンスクリーンと言えば「紫外線吸収剤が含まれていないもの」を推奨してきました。ですが、上記読者の指摘にあるように、実際に市場に出回っているもの、積極的なCMがおこなわれているものは、ほとんどが紫外線吸収剤が含まれています。そして、その大半がハワイのビーチで禁止されることになる成分が含まれているというわけです。
今のところ、ハワイのビーチ以外ではこのような禁止措置が取られるという情報は(私の知る限り)ありませんが、今後世界中で同じムーブメントが起こるかもしれません。肌がさほど弱くないという人も、今のうちに紫外線吸収剤を含まず紫外線散乱剤だけでできているサンスクリーンに変更した方がいいかもしれません。
尚、上記医療ニュースでお伝えしたように「サンスクリーンに置き換わる錠剤やカプセルはない」ことをここで繰り返しておきます。
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|2018年7月26日 木曜日
第186回(2018年7月) 裏口入学と患者連続殺人の共通点
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過去には二十人以上の裏口入学者が出た年もありました。去年は「裏口入学の申込者が七十人くらいいて大変だ」という話を聞きました。去年の一般入試の定員は七十五人ですから、もちろん全員を受け入れたはずはないでしょうが・・・・
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これは「週刊文春」2018年7月19日号に掲載された東京医大のあるOBのコメントです。75人の定員に裏口入学が20人以上…。これが事実なら(OBが述べているからその可能性が高いでしょう)国を挙げて捜査すべきではないでしょうか。
裏口入学って本当にあるの? これは私が医学部に入学してから知人から何度も聞かれた質問です。その度に私は「自分の知る限りない」と答えてきました。実際、私の母校の大阪市立大学医学部では「過去も現在も一例もない」と私は今も信じています。6年間の在学中も卒業してからもそのような話は一度も聞いたことがありませんし、極端に学力が低い医学生も見たことがありません。
ただ、私が医学生の頃から「私立の医大では裏口入学がある」という話は何度か聞いたことがあります。また、替え玉受験の噂も数回聞いたことがあります。ですが、当時も今もそのようなことを検証する気力もコネも私にはありませんし、おそらく他の医大生や医者もそうでしょう。このような「詐欺行為」はあってはならないわけですが、分かりやすい”被害者”がいるわけではありませんから、告発する人がいませんし、訴えがないなら警察や検察も動くことはありません。
ですが、今年(2018年)に発覚した「東京医大裏口入学事件」をきっかけに不正行為の徹底調査をおこなうべきではないか、と私は思います。いえ、私だけでなくほとんどの国民がそう思うでしょう。先に「被害者はいない」と述べましたが、正確にはいます。まず、不正行為で入学した者のせいで合格点に達していたのに不合格にされた「正直者」は被害者です。また、たとえ医師国家試験に合格していたとしても、医学部に不正行為で入学した者に医療行為を受ける患者さんはどうなるのでしょう。
医師国家試験に合格しているのだから医学部には裏口入学で入っていても別にかまわない、と思える人はどれだけいるでしょうか。そもそも医師国家試験は合格率が9割を超える”簡単な”テストです。簡単と断言するのは問題かもしれませんが、「それなりの勉強」をしていれば不合格になることはありません。「それなりの勉強」というのは、高校受験や大学受験とは異なります。
少し話がそれますが、せっかくですから国家試験の種明かしをここでしておきましょう。例えば難関大学の受験(もちろん医学部も)や司法試験などのような合格率が低い試験というのは、他人が解けない問題を解かなければ合格はありません。ですからいわゆる「難問」にも対応せねばならず、全問ではなくても多くの受験生がむつかしいと感じる問題にも正解する必要があります。
一方、医師国家試験のような9割以上が合格する試験の場合は、大半の受験生と同じ選択肢を選べば合格するわけです(医師国家試験はマークシート方式)。さらに医師国家試験の場合は、正解率の低い問題は「無効」とみなされるというルールもあり、合格するには「みんなと同じ答えを選ぶ」が近道になります。実際、私が医師国家試験を受けたとき、「これはよくあるひっかけ問題だな」と感じれば、ひっかからないように回答しましたが、「これはどちらの意味でも解釈できるからおそらく正解率は下がるはず」と感じた問題は不正解でもOKと判断しました。医師国家試験に不合格となる者というのは、勉強のできない学生では決してありません。普通の医学生が読まないような高度な専門書を学生のうちから読んでいて一目置かれているような学生、つまり他の誰もが分からない問題を答えることができる学生が不合格になることもあるのです。
話を戻すと、医師国家試験に合格したから医学部に不正入学していてもかまわないという考えは完全に間違っています。「医師は公人であり公僕である」というのは私が言い続けている言葉で、これを万人に押し付けるつもりまではありませんが、医師になるための試験には「公正さ」が絶対に必要です。
ところで、そもそも不正をしてまで医学部に入学するメリットはあるのでしょうか。「ある」からそのようなことをする者がいるということでしょう。これについては後で述べるとして、最近報道された裏口入学以上に衝撃的な事件を振り返っておきましょう。
横浜市の病院で2016年に起こった連続殺人事件は、ひとりの女性看護師が消毒液ジアミトールを患者さんの点滴に混入させたことにより発症しました。2018年7月の逮捕後「20人以上にやった」と自供しているとか…。
俄かには信じがたいこの事件、動機がよく分かりません。一部の報道では「自分が勤務のときに患者が亡くなると対応が面倒くさい」と話しているとか…。しかし、そのような理由で殺人を犯すでしょうか。これが事実だとすると精神疾患を患っていたということになるのでしょう。とすれば罪に問えなくなるのでしょうか。
報道から判断すると「この女性は看護師になるべきではなかった」のは間違いありません。患者さんや家族とのみならず他の医療者ともコミュニケーションがとれていなかったようです。看護師には、そして医師にも「向き・不向き」が間違いなくあります。さっさとそれを自覚して、仕事を変えるべきだったのです。
こういうと「せっかく苦労して資格をとったんだから…」という声が上がりますが、看護師免許があれば有利な仕事は他にもたくさんありますし、看護師として働くとしても患者さんとコミュニケーションをとらない仕事(例えば健診の採血など)もあります。
医療者にとって絶対に必要なものはいろいろとありますが、私が最も重要だと思うのは「医療に対する畏敬の念」です。過去に紹介した「ヒポクラテスの誓い」やフーフェランドの「扶氏医戒之略」も「畏敬の念」がそれらの基礎にあると私は考えています。我々医療者は医療の原理原則には跪くしかないのです。だから、いかなるときも患者さんの利益にならないことはやってはいけませんし、信頼を失うような言動をおこなってはいけないのです。
過去のコラムで私は「医師(のほとんど)は人格者だ」と述べました。私を昔から知る人達からは「お前が言うな!」と笑われるでしょうが、そんな私でも「人格者にならねばならない」と日々思い続けています。患者さんは自分の家族にも言えないようなことも医療者には話します。通常の社会生活では他人にホンネを話すことはさほど多くないでしょうが、医療者には本当に困っていること、辛いことを話します。
我々医療者は、もちろん医師のみならず看護師や他の職種の者も、そんな患者さんの要求に答えなければなりません。それなりに辛いことがあっても、医療者としての矜持は失ってはならず、その矜持を維持するには「医療に対する畏敬の念」が必要です。不正行為が過去にあるなら「畏敬の念」を抱けるはずがありませんし、患者さんとのコミュニケーションを放棄するのならすでに医療者の「矜持」をなくしています。
裏口入学をおこなった者は直ちに医師を辞めるべきです。それができないのであれば、少なくとも患者さんと接する仕事からは手を引くべきです。それくらいの「良心」はまだ残っていることに期待します。良心の呵責に生涯苛まれながら自身の過去を隠し通して患者さんと関わることは相当辛いに違いありません。美容外科手術で人相を変えて警察から逃げ続ける指名手配犯のようだ、と言えば言い過ぎでしょうか。
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|2018年7月26日 木曜日
第179回(2018年7月) 認知症について最近わかってきたこと(2018年版)
80歳になると二人に一人が罹患すると言われている認知症。かつてはワクチンに期待されたこともありましたが、手掛けていた製薬会社はすべて研究を中止し、一応は効果があるとされている数種類の治療薬も「進行を遅らせることもある」というだけであり、劇的な効果は期待できません。
ならば早期発見をということになりますが、4年前のはやりの病気「第131回 認知症について最近わかってきたこと」で取り上げた87%の確率で推測できるとするオックスフォード大学の研究もその後報道されておらず、おそらく実用化は困難ということでしょう(注1)。〇〇を食べれば予防になる、有酸素運動は有効?…、などいろんなことが言われていますが、現時点では「△△をすれば確実に防げる」「◇◇をすれば確実に進行が止まる」というものはありません。それでも、世界中からいろんな研究が発表されていますので、今回はそれらを紹介したいと思います。
まずは「遺伝」についてみていきましょう。アルツハイマーになりやすい遺伝子は”確実に”存在します。そして(ほぼ)万人が認める特定の遺伝子も特定化されています。それは「ApoE遺伝子」と呼ばれるものです。過去のコラム(メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」)でも紹介したように、ApoE遺伝子をε4・ε4で持っていれば(ε4をホモで持っていれば)、ε3・ε3の人に比べてアルツハイマーになるリスクが11.6倍にもなります。ε4を1つ持っている場合(ヘテロで持っている場合)でも3.2倍になります。
現在この検査を受ける人が増えてきています。リスクが判ったところで治療法がないのだから検査すべきでない、という人がいますし、例えば結婚前にそんな検査をしてApoE遺伝子を持っていることが判ると、婚約者(やその親)から破談を宣告されかねない、という意見もあります。ですが、例えば現在50代の中小企業の経営者がいたとして、自身のリスクを知っておくことは悪くないかもしれません。なぜなら、将来のアルツハイマーのリスクがあるなら早めに後継者を育てなければならない、とか、今から新しい事業に手を出すなら慎重に進めなければならない、などと考えることもできるからです。この遺伝子検査をすべきかどうかというのは医療者によっても意見が分かれます。
高血圧と認知症の関係は以前も何度か紹介しました。若年者(60歳未満)の高血圧はアルツハイマー病のリスクになるという報告(医療ニュース2017年6月28日「60歳未満の高血圧は認知症のリスク」)があります。しかし、高齢になってから血圧が上がると認知症のリスクは低下し、その逆に下がる(下げる)とリスクが上がるという研究もあります(医療ニュース2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」)。この報告は興味深いので、ここでも簡単に振り返っておくと、80歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて42%も低かったというのです。また、別の研究では、最も血圧が下がっていたグループは、血圧が最も上昇していたグループと比較して、認知症のリスクが大きく上昇していたとされています。収縮期血圧(上の血圧)の低下は46%もリスクを上昇させ、拡張期血圧(下の血圧)の低下は54%上昇させる、というのです。
比較的最近発表された論文にも興味深いものがあるので紹介しておきます。医学誌『European Heart Journal』2018年6月12日号に掲載された論文によると、心血管疾患のエピソードのない場合、50歳の時点で収縮期血圧130mmHg以上であれば、認知症のリスクが47%も高いことが判ったといいます。
これらをまとめると、若い頃(60歳くらいまで)は血圧が高くなると認知症のリスクが上昇し、80歳以降の高齢になればその逆に血圧が上がればリスクが下がるということになります。規則正しい生活、運動・食事療法などで若いうちは正常血圧を維持することが認知症のリスクを下げるのは(おそらく)間違いないでしょうが、薬を使って正常血圧を維持すればリスクが下がるかどうかは分かりません。しかし、80歳以降になって血圧が上がった場合は薬を使うべきでないということは言えそうです。
血圧以外の認知症のリスクで、最近話題になっている研究を紹介したいと思います。
まずはヘルペスウイルスとの関連です。科学誌『Neuron』2018年6月21日(オンライン版)に掲載された論文によると、アルツハイマー病患者の脳では、そうでない人の脳と比べてHHV-6A(ヒトヘルペスウイルス6A)及びHHV-7(ヒトヘルペスウイルス7)の量がおよそ2倍に増加していることが判りました。さらに、これらのウイルスは、アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子との相互作用があるといいます。
HHV-6及びHHV-7はほとんどの子供が幼少期に感染するウイルスです。ワクチンはなく、他のヘルペス科、例えば水痘帯状疱疹ウイルスやEBウイルス、サイトメガロウイルスなどと同様、一度感染すると体内から追い出すことはできません。そして、現在のところHHV-6(A)及びHHV-7がアルツハイマー病のリスクであったとしても、これらのウイルスに有効とされている薬はありません。
「運動」はどうでしょうか。残念ながら、運動に認知症を遅らせる効果は「ない」とする研究が権威ある医学誌で報告されました。医学誌『British Medical journal』2018年5月16日号(オンライン版)で紹介されています。軽度~中等度認知症に対し、中~高強度の有酸素運動と筋力トレーニングを実施したところ、これら運動で認知障害の進行を遅らせる効果はなく、さらに驚くべきことに、運動をした方が(差はわずかですが)しないよりも認知症が進行したことが判ったのです(当然といえば当然ですが「体力」は改善しました)。
飲酒はどうでしょうか。大量飲酒が認知症のリスクになるのは疑いようがないようです。医学誌『The Lancet Publish Health』2018年3月号(オンライン版)に掲載された論文でフランスでの110万人以上の認知症患者のデータが解析されています。アルコール依存があると、認知症発症のリスクが男性3.36倍、女性3.34倍に上昇しています。さらに、65歳未満で発症する「若年性認知症」患者の57%がアルコール依存症でることが判りました。
ここまでをおおまかにまとめると、アルツハイマー病は遺伝である程度決まっており(遺伝子を変えることはできない)、血圧に依存し(血圧の変動はある程度遺伝で決まっている)、運動は無効、ヘルペスウイルスには治療薬がない、飲酒はNG…。では何をすればいいのでしょうか。〇〇を飲めば予防効果あり、といわれるものはいかがわしいサプリメントから医薬品(たとえばアスピリンに予防効果ありとする論文もあります)までありますが、どれもエビデンスレベルが高いとは言えません。現時点で、充分なエビデンスがあるとは言えないながらも誰もが取り組めるもの(取り組むべきもの)は「睡眠」です。
たった一晩の睡眠不足でもアルツハイマー病リスクが増大するという研究もあるほどで、睡眠不足がいろんな意味でNGなのは間違いありません。では睡眠時間が長ければいいのかというと、そういうわけでもありません。医学誌『Journal of the American Geriatrics Society』2018年6月号に日本人を対象とした研究が紹介されています。
睡眠時間が5時間未満だと、認知症のリスクは2.64倍、死亡リスクは2.29倍になります。興味深いことに、睡眠時間が10時間を超えると、認知症のリスクが2.23倍、死亡リスクは1.67倍となります。さらにこの研究が注目に値するのは睡眠薬の使用との関連が調べられていることです。睡眠薬を使用すると、認知症のリスクが1.66倍に、死亡リスクは1.83倍になることが判ったのです。
さて、あなたが今日から取り組むべきことはどんなことでしょうか。
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注1:ただし、それなりに精度の高い検査として「MCIスクリーニング」という検査が普及してきています。詳しくは、次世代検査を参照ください。
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|2018年7月19日 木曜日
2018年7月19日 すし詰めバスで22歳女性が脳梗塞
深部静脈血栓症、DVT、ロングフライト血栓症、旅行者血栓症、エコノミークラス症候群、基本的にはこれらは同じ疾患を示しています。このなかで最も人口に膾炙しているのは「エコノミークラス症候群」だと思います。実際には、ビジネスクラスに座っていても発症しますし、例えば震災などで避難所に同じ姿勢でいたり、軽自動車のなかで眠ったりすればおこりますから、「エコノミークラス」という表現は適切ではないのですが、今も他の表現はなかなか社会に浸透していません。ここでは「深部静脈血栓症」で通します。
今回紹介したい事例(”事故”と呼べるかも)も飛行機ではなくバスのなかで起こりました。
2017年(何月かは不詳)、カンボジアからバンコクのすし詰め状態のバス(cramped bus)に14時間乗っていた22歳のスコットランド人の女性が脳梗塞を起こしました。最近(2018年5月)になって、海外のいくつかのメディアが報道しています(注1)。報道では、足にできた血の塊が原因で(つまり深部静脈血栓症が原因で)脳梗塞を発症したとされています。
女性は左半身が麻痺しましたが、母国でのリハビリの結果、ほぼ完全に回復し5kmのマラソンにも出場したそうです。
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この報道には疑問があります。メディアは医学系または科学系のものではなく、(どちらかというと)三面記事を中心に扱った媒体であるため仕方がありませんが、深部静脈血栓症が脳梗塞につながるわけではありません。下腿の静脈内にできた血の塊は肺の血管を閉塞して「肺梗塞」を起こすことはありますが、脳の血管をつまらせることは通常はありません。それが起こるのは心臓の壁に穴があいているときで、報道ではその可能性を指摘しているのですが、心臓に穴があいている疾患をもっているのならマラソンは危険です。
ただ、すし詰めバスに14時間もいれば、容易に脱水状態になることが予想されます。それで、例えば(私の推測ですが)低用量ピルなど血栓を起こしやすい薬を飲んでいたとすれば脳梗塞が起こってもおかしくありません。
また、この女性は血栓症のリスクとされている肥満や喫煙はなく、アルコールを飲んでいたわけでもないようですが、記事にはこの女性のコメントとして「my drink had maybe been spiked or I had eaten something dodgy」とあります。「飲み物に何か入れられた、あるいは何か危ないものを食べた」という意味ですからいわゆる「危険薬物」を摂取していたのかもしれません。
いずれにしてもこういった旅行プランでは、深部静脈血栓症(さらには肺梗塞も)のリスクも脳梗塞のリスクもあります。(特に若い人は)正確な知識を身につけて身を守らねばなりません。
注:下記を参照ください。
https://www.mirror.co.uk/news/uk-news/young-woman-left-paralysed-stroke-12587230
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|2018年7月7日 土曜日
2018年7月 己の身体で勝負するということ~その3~
組織に頼るな、自分ひとりの力で生きていくのだ…
私が提唱している「己の身体で勝負すること」というのは、極論するとこういうことになるかもしれません。こういう言葉には「それはできる者の言うセリフだ」「きれいごとだ」という反論があるでしょう。また、「そんなに肩肘を貼らなくても仲間と楽しくやっていけばいいんじゃないの」という声もあると思います。
私はなにも「組織や上司と対立せよ」と言っているわけではありません。実際、私自身がこれまでの人生で上司に刃向かったことは”数えるほどしか”ありません。
以前のコラム(「「やりたい仕事」よりも重要なこと~中編~」)で紹介した私の就職活動時の「師匠」、元リクルートのIさんは、「どんな仕事をするときも次への就職活動だと思え」と話していました。つまり、「どのような仕事からも学べることはある。そして、他社の人と会うときは、自分がその会社で使ってもらえるような人間になることを目指せ」ということです。30年近くたった今もその言葉を覚えているわけですから、私にとってIさんのこの言葉は仕事上の「原則」となっています。
一見雑用に見える、というか雑用にしか見えない仕事からも何かしら学べることはありますし、その雑用を複数人でおこなっているなら、職場の雰囲気をよくして人間関係を構築するトレーニングにもなります。新しいジョークが通用するかどうかを試してみてもいいでしょうし、まったく笑顔を見せない同僚に積極的に声をかけて微笑みをもたらすことを試みてもいいでしょう。
ただし、どのような仕事からも学べることがあるのは事実ですが、「多くの仕事には見切りをつけるタイミングがある」のもまた真実です。「己の身体で勝負する」を実践するには、ステップアップしていかなければなりません。40代になっているのに20代相当の知識と経験しかないのであればとても「勝負」はできません。
では、知識と経験のない20代は「勝負」できないのかというとそういうわけではなく、若いが故に有利なことも少なくとも2つあります。そして、私自身は30代前半頃まではその2つを「武器」にしていました。
「武器」の1つは「体力」です。体力といっても強靭な肉体を有している必要はなく、フルマラソンを4時間で完走できる持久力が求められるわけでもありません。これを読んでいるのが20代30代の人で、疲労しやすい持病を持っていないのであれば、実際には自信がなくても「体力には自信があります」と宣言してしまえばいいのです。本当は自信がないのに…という気持ちがあったとしても40代50代の人たちよりは確実に体力がありますから大丈夫です。さらに一歩進めて「体力”だけ”は自信があります!」と言うと、これだけで「こいつ、おもろい奴や」と思ってくれる人もいます。女性がこれを言えば男性よりも効果があることもあります。
そして、職場の肉体労働的なことを自ら率先してやるのです。例えばオフィスに宅配便が届いたときには真っ先に飛んで行って、配達の人に大きな声で挨拶し、荷物を(少し大げさに)運ぶのです。組織で行事やイベントがあれば面倒くさい雑用を率先してやります。これを続けていけば周囲から「あいつはできる奴や」と思われるようになります。本当はたいしたことをしていないのですが…。
もうひとつの若者の「武器」は「コミュニケーション」です。コミュニケーションの細かい技術は年齢を重ねるほど上達しますが、若いが故に有利な点もあります。初めて会う人がいれば誰であったとしてもすっと近づいて大きな声で挨拶するのです。こういうアピールはある程度年をとった者がやると滑稽で奇妙にみえますが、若者なら問題ありません。コミュニケーションが苦手、と感じている人もいるでしょうが、誰に対しても笑顔で大きな声で挨拶を自分からおこなう、これを実践しているだけで、あなたに話をしたいと感じてくれる人が増えていくのです。
ちなみに私は現在医師として研修医に教育をする立場にあります。積極的に教えたいと感じる研修医は、こういうタイプです。つまり「体力(だけ)はあることをアピールし、笑顔で元気がある若者」です。
ただし、「己の身体で勝負する」を実践するにはこれだけでは不十分です。自分にしかできないこと、というのはめったにありませんが「たいていの人にはできないこと」を見つけていかねばなりません。それにはいろんなものがありますが、ここでは私の経験を話します。
私の場合、会社員時代に海外事業部に入れられたせいで(おかげで)(このあたりはマンスリーレポート2011年10月号「私の英語勉強法」を参照ください)、英語の読み書きは少々できるようになっていました。また商社で働いているわけですから貿易実務の知識があります。そして、学生時代から(体力とコミュニケーションを武器に)築いた人間関係がありました。そこで、会社員3年目に雑貨の個人輸入をやりだしました。当時はインターネットどころか携帯電話も普及していない時代でしたから、このためにFAXを購入し知り合いを頼りに香港の貿易会社を探して、個人で輸入しそれを知り合いのいくつかの会社に販売したのです。輸入する物によっては法律がややこしく(特に食品)、一筋縄ではいきませんでしたが、やはり人脈に助けてもらい軌道に乗せることができました。(会社員がこういうことをするのは社内規定違反だと思います。四半世紀たった今だから告白できることです…)
これは一例で、私が小銭を稼ぐためにこれまでの人生でやってきたことは実はたくさんあります。ただ、そのほとんどはお金のためにやったのではなく、おもしろいからやったというのが本音です。きれいごとに聞こえる人もいるでしょうが、昔誰かが言っていたように「お金は後からついてくる」のです(これ、誰が言い出したのでしょう…)。ただし、私の場合、以前にも述べたように、ビジネスへの興味が急激に低下し、代わりに「勉強したい」という欲求に目覚め、その後はビジネスとは無縁の人生になりました。
今の私の立場で「己の身体で勝負する」と言っても「あんたは医師免許があるから言えるのよ」という反論があると思います。ですが、仮に医師免許を剥奪されたとしても、私には医学の「知識」と「技術」(こちらは最近自信をなくしていますが…)があります。食品会社や製薬会社なら採用してもらえると思いますし(甘いでしょうか…)、そんなことをしなくても医学知識が武器になる会社を興すことを考えます。資格に頼るつもりはありませんが、私は労働衛生コンサルタントの資格も持っていますから、これを使って会社をつくることもできます。また、英語力だけで生きていくことはできませんが、英語と医学の知識を絡めればできることがあるはずです。私はタイ語のレベルは中途半端ですが、もう一度勉強しなおしてタイ語の実力を上げれば、さらにできることが増えるでしょう。
医師免許がなかったとしても医学の知識があるからそんなことが言えるんだ、と感じる人もいるでしょう。ならば、あなたも何かを必死で勉強すればいいのです。私の医学部の6年間の生活は9割が勉強でした。若い同級生たちの倍は勉強しました。そして、医学の勉強は今も続け、英語もほぼ毎日勉強しています。体力には自信をなくし、コミュニケーションについては新しい人脈は医師になってから医師以外はほとんど広がっていませんが、「己の身体で勝負する」という考えは、私がひとつめの大学時代に先輩たちから学んだ時からまったくかわっていません。
「己の身体で勝負する」という考え、楽しいと思いませんか。不条理な組織の理屈や学歴以外にとりえがない上司の指示に屈するような人生、面白くないと思いませんか。前回述べたように、違法タックル事件の学生をかばう意見が多いことに私は違和感を覚えるのです。
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