2015年9月28日 月曜日
2015年9月29日 どのような人がお酒を飲み過ぎるのか
成功者は飲酒過多になる可能性が高い・・・。
最近、いくつかのマスコミでこのようなことが主張されており、どうやらその根拠としているのは医学誌『BMJ Open』2015年7月23日号(オンライン版)に掲載された1つの論文(注1)のようです。
この論文は、イングランド在住の50歳以上の男女9,251人が対象とされた研究に基づいています。きちんと読むと、決して「成功者」のリスクが高いと言っているわけではなく、もう少し細かく見ておいた方がいいでしょう。そこでこの論文の要旨をまとめておきたいと思います。
まず、どの程度のアルコールを飲むと健康被害のリスクが生じるか、についてです。下記のように「単位」に基づいてまとめられています。3単位に相当するのが、ワインであればグラス1杯、ビールであれば1pint(約473mL)です。
・低リスク:男性は週に21単位以下、女性は週に14単位以下。
・中リスク:男性は週に22-50単位、女性は週に15-35単位。
・高リスク:男性は週に50単位以上、女性は週に35単位以上。
どのような人で飲酒過多のリスクが高くなるかについては男女で差があります。
女性の場合、興味深いことに「(仕事から)引退していること」「収入が高いこと」が飲酒過多のリスクとなっています。50歳をピークとして(49歳以下はこの研究では検討されていない)年をとるにつれてリスクは減少しています。また、介護を担っている人(原文では「caring responsibility」)はリスクが低いようです。
男性は女性とは異なる点がいくつかあります。まず、年齢のリスクは50歳から上昇し、60代半ばがリスクのピークとなり、その後は減少していきます。独身者や離婚をしている場合はリスクが上昇しています。そして子供と同居している場合や孤独を感じている場合はリスクが減少する(意外!)としています。また、年をとり収入が減ればリスクも減少していくようです。
興味深いことに、孤独感や抑うつ感(loneliness and depression)は男女とも飲酒過多とは無関係のようです。
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いくつかの日本のマスコミが「成功者は飲酒過多になる」と報じたのは、この論文の一部を取り上げたからです。収入があれば外で飲酒することができますし、購入して家で飲むこともできますから、飲酒機会が増えるのは当然といえるでしょう。この研究では男女とも年をとり収入が減るにつれて飲酒量が減っていると述べています。
さてこの研究全体をどう解釈するか、ですが、まずどこの文化にも同じことが当てはまるとは思わないことです。実際、論文の著者も「イングランド以外のイギリス(UK)では検討していない」ことをこの論文の限界と述べています。イングランドと他のイギリスの地域(スコットランド、ウエールズ、北アイルランド)でも差がでるでしょうが、日本との差はもっと大きいはずです。
特に、この論文を読んで私が意外に思ったのが、男性の孤独感(loneliness)が飲酒過多のリスクを下げるとしていることです。独身者や離婚者は飲酒過多につながりやすいとしている一方で(これは理解できます)、リスクを下げる要因として、子供との同居(これも理解できます)の他に孤独感があげられているのです。そして、男女とも孤独感や抑うつ感は飲酒過多のリスクにはならないとされています。日本では孤独感や抑うつ感から飲酒に走る人は少なくありません。
また、男女ともリタイヤ(退職)することがリスクにつながるとしており、この理由として著者らは「時間に余裕がある」ということを考えています。しかし、日本では仕事上での「つきあい」の飲酒も問題になります。
私個人の見解を述べれば、あまり「〇〇の人は飲酒のリスクが高い」と考えるのでなく、週にどれくらい飲酒すれば健康被害を生じる可能性があるかをひとりひとりが主治医に相談すべき、ということです。特に先に述べた週に50単位(男性)35単位(女性)を超えている人は一度かかりつけ医と話をすべきでしょう。
注1:この論文のタイトルは「Socioeconomic determinants of risk of harmful alcohol drinking among people aged 50 or over in England」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://bmjopen.bmj.com/content/5/7/e007684.abstract?sid=13b88d12-f978-4bfd-820c-9504345d9862
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|2015年9月28日 月曜日
2015年9月28日 「情け」をかければ社会不安障害が改善
「社会不安障害」という精神疾患をご存知でしょうか。「社会恐怖」とも呼ばれるもので、人から注目を浴びるかもしれないという状況のなかで生じます。
軽症であれば、軽度の緊張感・不安感程度で済みますが、重症化してくると、顔面紅潮、手足の震え、声が出なくなる、発汗過多、胃痛・下痢などの身体の症状も伴うようになります。このため、精神科ではなく(当院のような)総合診療の医療機関を受診する患者さんが少なくありません。
早めに相談してくれればいいのですが、なかには自分でなんとかしようと考え、アルコールに走る人がいます。そしてアルコール依存症、さらにうつ病を発症する人もいます。
この疾患の生涯有病率は低くなく、米国のある調査では2.4~13.3%とされています。日本では1.4%とする報告があります。
今回紹介したいのは「他人に親切にすれば社会不安障害が改善する」という研究です。医学誌『Motivation and Emotion』2015年6月5日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)。
この研究は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のサイモンフレーザー大学(SFU、Simon Fraser University)の研究者によりおこなわれています。社会不安障害の診断がついている学生115人が研究の対象者です。
115人がランダムに3つのグループにわけられています。1つめのグループ(38人)は4週間にわたり「他人に親切にする」を実行しました。2つめのグループ(41人)は「寄付などの行為」(原文では「exposure only」とされています。おそらく他人とコミュニケーションをさほどとらない慈善行為のことを指しているのだと思われます)をおこないました。3つめのグループ(36人)は「日記を付ける」ことをおこないました。つまり3つめのグループは「対照群」です。
その結果、1つめのグループと2つめのグループ共に、3つめのグループに比べて社会的交流を避けたいという気持ちが減少しました。特に1つめのグループ、つまり「他人に親切にする」を継続したグループでは社会不安障害の症状が大きく改善したようです。
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太融寺町谷口医院に社会不安障害で受診される患者さんは社会人がほとんどです。最もよくあるのが「今度朝礼でスピーチをしなければならない・・・」とか「次の会議でプレゼンをしなければならない・・・」というケースです。
こういったケースでは、一時的に不安を和らげる薬や心拍数をおさえる薬を本番の30分くらい前に内服してもらっています。これでうまくいくことが多いのですが、このような薬に頼る方法を繰り返すのもよくありません。
2015年9月号の「マンスリー・レポート」で、私は「情けは人の為ならず」を実行すれば自分自身がお金に困らなくなり社会全体が理想的なものになる、ということを述べました。私個人の意見としては、社会不安障害がある人のみならず、すべての人が他人に親切にする社会をつくるべきだと考えています。
注1:この論文のタイトルは「Kindness reduces avoidance goals in socially anxious individuals」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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|2015年9月20日 日曜日
第145回(2015年9月) 髄膜炎菌による髄膜炎
あまり大きく報道されなかったようですが、2015年8月に山口市で開かれた第23回世界スカウトジャンボリー(WSJ2015)に参加したイギリス人(スコットランド人)3人とスウェーデン人1人が帰国後に髄膜炎菌による感染症を発症していたことが分かりました。
この大会はいわばボーイスカウトの世界大会で、世界162の国と地域から約3万人(日本人は約6千人)が参加しており、参加者の大半は14歳~17歳の少年(スカウト)です。感染者は4人とも日本で感染したと見なされています。国立感染症研究所によりますと(注1)、幸いなことに4名とも速やかに治療がおこなわれ軽症で済んだようです。
今回は「髄膜炎菌」の話をしていきたいと思いますが、その前に「髄膜炎」と「髄膜炎菌」の言葉を整理しておきたいと思います。ここを曖昧にしておくと必ず混乱します。
まず「髄膜炎」というのは髄膜に生じる炎症のことですが、これではわかりにくいので「髄膜」のおさらいから始めましょう。脳と脊髄には外側に「膜」があります。膜は三重構造になっていて、外側から「硬膜」「クモ膜」「軟膜」と呼びます。「髄膜」は「クモ膜」と「軟膜」の総称です。その「髄膜」に炎症がおこった状態が「髄膜炎」というわけです。
髄膜の炎症は一気に広がることが多く、なんらかの原因で脊髄の髄膜の一部に炎症が生じるとその炎症は脳の髄膜に及びます。そうなると高熱、嘔吐、頭痛などに苦しめられることになります。髄膜炎の原因としては感染性が最も多く、細菌性、ウイルス性、真菌性、寄生虫性、結核性(結核菌は細菌ですが臨床上は他の細菌性と分けて考えます)に分類できます。非感染性の髄膜炎としては腫瘍性(脊髄腫瘍など)、膠原病など自己免疫疾患によるものなどがあります。
今回とりあげるのは、感染性髄膜炎のなかの細菌性髄膜炎の原因のひとつである「髄膜炎菌」の話です。「髄膜炎を来す原因は多数あり、感染症はそのひとつ。感染症をきたす病原体のなかに細菌があり、その細菌性髄膜炎の原因のひとつに髄膜炎菌がある」ということです。決して「髄膜炎=髄膜炎菌」ではありません。
一方、髄膜炎菌は髄膜炎以外の感染症を起こさないのか、というとそうではなく、当院の例でいえば長引く咽頭痛の原因に髄膜炎菌性のものがあります。髄膜炎菌は特徴的なかたちをしているので(注2)、のどの赤いところを綿棒でぬぐって顕微鏡で観察すると見つかることがあります。顕微鏡だけでは100%断定できるわけではないため培養検査という精密検査をおこない確定します。
つまり、細菌性髄膜炎の原因には多数あり髄膜炎菌はそのひとつに過ぎない、一方で髄膜炎菌が起こす感染症は髄膜炎のみならず、咽頭炎なども起こしうる、ということです。
髄膜炎菌が重要なのは「重症化」があるからです。特に10~20代では注意が必要で死亡することもあります。日本ではかつて終戦前後には年間4千例以上の感染の報告がありましたが、2000年代は10人程度です。しかし2000年代になってからも集団感染の報告、そして死亡例もあります。
2011年5月、宮崎県の高校で寮生活をしていた4人の生徒が髄膜炎菌に感染し、うち1人が死亡しています。冒頭で紹介したイギリス人とスウェーデン人は多くの10代の生徒が集まる場で感染し、宮崎県の症例は寮で感染しています。これらが示しているように、髄膜炎菌による感染症の最も典型的なパターンがこのケース、つまり10代の生徒が集まる場所での発生です。したがって、国によっては寮に入るのに髄膜炎菌のワクチン接種が必須の条件とされています。特にアメリカではこのルールが厳格です。日本人がアメリカのハイスクールに留学するときには(州にもよりますが)通常は髄膜炎菌のワクチン接種をしていることが入寮の条件となるのです。
しかし、このアメリカの制度、少し前まで日本人には多いに問題でした。というのは日本には正式に認可された髄膜炎菌のワクチンがなかったからです。このため、どうしても米国のハイスクールに行きたいという人は、危険を抱えて輸入モノの未承認ワクチンを接種するしか方法がなかったのです。
2015年5月、ついに日本国内で髄膜炎菌のワクチンが発売となりました。誰がこのワクチンを接種すべきかということを考えていきたいのですが、その前に髄膜炎菌がどのようなものなのかもう少し詳しくみておきたいと思います。
髄膜炎菌の感染はおそらくほとんどは飛沫感染だと思われます。最初に咽頭に感染し、成人の場合は、先に例を述べたように「長引く咽頭痛」などの症状から見つかることがあります。咽頭炎でとどまらない場合、菌は血中に浸入します。そして大量に増殖すれば菌血症または敗血症といって血液中に大量の髄膜炎菌が生息する状態となります。そして一部の菌が髄液に入り込み髄膜に炎症をきたすと髄膜炎となります。こうなると生命に関わる可能性もあります。
なぜか髄膜炎菌性の髄膜炎は10代から20代に多く発症します。このため髄膜炎菌のワクチンを定期接種としている米国では、1回目を11~12歳時に接種し、追加接種を16歳時におこないます。しかし10歳未満なら髄膜炎菌が怖くないというわけでは決してありません。それ以下の小児で致死的な感染症を起こすこともあります。
髄膜炎菌の重症化の例で医学の教科書によくでてくるのが「ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群」と呼ばれるもので、数日の間に一気に重症化し症状が全身に及び四肢を切断しなければならないような場合もあります。私自身はこういった症例を直接診察したことはなく、論文や学会の症例報告で見聞きしたことがあるだけですが、これほど急激に進行し死に至る病、たとえ死を免れたとしても四肢を切断しなければならない感染症というのもめったにありません。しかも10歳未満の小児にもおこるのです(注3)。
さて、どのような人がワクチンを接種すべきか、ですが、その前にワクチンの種類について簡単に説明しておきます。従来海外でよく使われていた髄膜炎菌のワクチンは「ポリサッカライドワクチン」(多糖類ワクチン)と呼ばれるもので、このタイプのワクチンは、結論をいえば強い免疫ができずに有効期間が短いという欠点があります。
この欠点を克服したものが「結合型ワクチン」と呼ばれるもので、従来のポリサッカライドワクチンに特殊な蛋白を結合させたものです。日本で発売になった髄膜炎菌ワクチンはこのタイプです。結合型ワクチンは(B型肝炎ウイルスなどのように)一度抗体ができると長期間免疫が成立するという長所があります(注4)。しかし短所として価格が高いという問題があります。
髄膜炎菌のワクチン接種が望ましいのは、国内外を問わず寮などの集団生活をおこなう10代から20代前半の生徒・学生ということになります。クラブの合宿などでも検討すべきでしょう。
あと2つあります。
ひとつはアフリカ大陸に渡航するときです。特に「髄膜炎ベルト」と呼ばれるアフリカの中央部(西はセネガルから東はエチオピアやスーダン)では髄膜炎が猛威を振るっていて、毎年数万人が罹患し、数百人から多い年は数千人もの死亡者が報告されています。
もうひとつは、イスラム教のメッカ巡礼(「ハッジ」と呼ばれます)の時期にサウジアラビアへ入国するときです。これは自らの感染予防というよりは、サウジアラビアから求められるからです(注5)。つまり髄膜炎菌のワクチン接種をしたことの「証明書」がなければ入国を拒否されることがあるのです。
これだけ世界中で人の流れが活発になると、もはや「日本にはない(少ない)感染症だから・・」というのがワクチンをうたない理由にならないと考えるべきでしょう。有効なワクチンのある感染症に罹患した人は「あのとき接種しておけばよかった・・・」と必ず後悔します。
感染症対策の基本は「自分の身は自分で守る」です。今回紹介した髄膜炎菌を含めて接種すべきワクチンがないかどうか、各自がよく考えるべきです。
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注1:詳細は国立感染症研究所のサイトに記載されています。興味のある方は下記URLを参照ください。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrs/5878-pr4272.html
注2:髄膜炎菌は細菌学上の分類では「グラム陰性双球菌」となります。これはグラム染色という特殊な染色をおこなうとピンク色に染まる菌で、まん丸の菌がペアで観察されます。ただし、グラム陰性双球菌が見つかると直ちに髄膜炎菌確定というわけではありません。性的接触で感染する「淋菌」もこのグループに入り、実際、髄膜炎菌と淋菌は顕微鏡の検査だけでは鑑別がつきません。
注3:ではこの疾患の可能性を回避するために幼少時にワクチンをうつべきでないのかという意見がでてくるかもしれませんが、いまのところ推奨されてはいません。
注4:少し詳しく述べると、ポリサッカライドワクチンは、接種してもT細胞という免疫を司る細胞が刺激されず、そのためメモリー細胞という細胞がつくられず免疫の記憶が成立しません。一般的な不活化ワクチン(たとえばB型肝炎ウイルスのワクチン)ならば、メモリー細胞が残っていますから血中の抗体が消えていても免疫応答が可能なのです。
注5:このように「接種していないと入国できないワクチン」をrequired vaccine(要求されるワクチン)と呼びます。他には一部の国の黄熱ワクチンが相当します。また、本文に述べたようにアメリカのハイスクールで求められる髄膜炎菌ワクチンやその他ワクチン(麻疹やB型肝炎ワクチンも入学の条件になっていることが多い)も広義ではrequired vaccineということになるでしょう。
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|2015年9月20日 日曜日
第152回(2015年9月) 医師とMRの「齟齬」~薬を減らすということ~
たしか2年ほど前のある休診日のことです。その日は複数の製薬会社のMR(「医薬情報担当者」という表現が正しいとされていますが、簡単に言えば「営業職」のことです)との面談をおこなう日でした。
医師とMRはあまり近づきすぎない方がいいのですが、私としては製品に対する複雑な質問があるときや、新製品についてプレゼンテーションをおこなってもらうときなどに太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)に来てもらっています。
その日、あるMRにこのようなことを言われました。「〇〇(薬の名前)は、この地域で先生(私のこと)の処方量が一番多いんです」。そのときのそのMRは満面の笑みを浮かべいかにも嬉しそうでした。私はこの言葉を聞いたとき、心の奥からある種の不快感がこみ上げてきたのですが、その感情を奥に押しやってMRの立場になって考えてみました。
おそらくこのMRの言いたいことは、「ありがとうございます。先生(私のこと)のおかげで売り上げも伸びて私も社内で鼻が高いです。これはいい製品ですので、これからもどんどん処方していってください」、とこのようなことだったと思います。
これはMRの立場になれば分からないことはありません。私も自分がMRであれば同じようなことを考えると思うからです。製薬会社は資本主義の中に存在するひとつの企業ですから売り上げを伸ばさなければ存続できませんし、新しい薬の開発もできません。ですから”ある程度は”<売り上げ重視>になるのはやむを得ません。
しかし我々医師は違います。私がそのMRに言われて「不快感」を覚えたのはその点にあります。私はこのように感じたのです。「私の処方量が多いということは、他の医療機関では、薬を使わずに生活指導がうまくいっているのではないか・・・。私は薬に頼りすぎているのではないか・・・」
医師のミッションは「薬を処方すること」ではなく、「いかに薬を減らすか、あるいは初めから薬を使わない」であり、MRとは向いている方向が正反対なのです。(もしもこのようにMRに褒められていい気分になる医師がいるとすれば、その医師は直ちに医師を辞めて製薬会社に転職すべきです)
薬というのはどのようなものでも使わない方がいいに決まっています。ただ、ここを「決まっています」で終わらせると一種の「感情論」になってしまいますので、少し詳しくみておきます。
メディカルエッセイ第129回(2013年10月号)「危険な「座りっぱなし」」(注1)で、「生死にかかわる疾患」の分類をおこないました。ここでもう一度振り返ってみたいと思います。
生死にかかわる疾患 = ①感染症 + ②生活習慣に関連する疾患(脳卒中、心疾患、悪性腫瘍など) + ③一部の遺伝的疾患 + ④一部のアレルギー疾患・自己免疫疾患 + ⑤外傷・事故 + ⑥自殺・他殺 + ⑦その他
これは「生死にかかわる疾患」です。この分類を元に「すべての疾患」をまとめなおすと⑦「その他」の割合が増えることになります。そして⑦「その他」には、頭痛、めまい、便秘・下痢、胃炎、じんましんなどの慢性疾患やうつ病、不安神経症、統合失調症、薬物依存症などの精神疾患が多くを占めます。
また「すべての疾患」は「生死にかかわる疾患」と比べると⑦「その他」以外にも割合が増えるものがあります。「生死にかかわる疾患」では、①「感染症」と②「生活習慣の関連する疾患」でほとんどを占め、他は無視できるほど低頻度です。一方、「すべての疾患」では、①②も多いのですが、さらに④(喘息やアトピー性皮膚炎などの)「アレルギー疾患」、⑦「その他」も高い割合を占めます。
では、「すべての疾患」で多いもの(①②④⑦)で薬を使うべきかどうかについてみていきましょう。
①「感染症」では、たとえば結核やHIV、マラリアなどでは薬が必ず必要になります。(ただしこれらの疾患は感染後の薬を考えるのではなく「予防」をしっかりおこなうことが重要です) しかし、これら一部を除く多くの感染症では薬は必須ではありません。よく言われるように、ウイルス性の感染症には抗菌薬は無効(というよりも有害)ですし、細菌性のものであっても必ずしも抗菌薬が必要になるわけではありません。実際私は、健康な方の急性感染症の場合、程度がさほど深刻でなければ、細菌性を疑っても、それが咽頭炎でも腸炎でも膀胱炎/尿道炎でも、抗菌薬の処方をせずに治す方法を考えます。
②「生活習慣に関連する疾患」についてはどうでしょう。これら疾患は、具体的には、糖尿病や高血圧、高脂血症といった生活習慣病が大半を占めます。谷口医院は大阪市北区という都心部に位置していることもあり、転勤などで新しい患者さんがよく来られます。そのときにこれまで内服していた薬を聞くことになりますが、たくさんの薬を飲んでいる人には「1つでも薬を減らす努力をしましょうね」という話をします。初めからこういう考えに好意を持ってくれている人が谷口医院に集まるということかもしれませんが、私のこの提案はほとんどの患者さんが受け入れてくれます。
そして実際に多くの人が薬を減らすこと、あるいは完全にやめることに成功しています。また、元々谷口医院で診ていた患者さんで、生活習慣病の薬が必要になった場合でも、日々の食事や運動をしっかりおこなってもらうことで薬の中止に成功したケースも多数あります。
④「アレルギー疾患」については、禁煙や規則正しい生活といった生活習慣の見直しに加え、「生活環境」の見直しをおこなうことにより大きく薬を減らすことができます。ペットとの共存における工夫、ダニやハウスダストの対策、汗対策、職場での環境対策などをおこなうことで劇的に薬が減る人も少なくありません。⑦「その他」の慢性疾患も同様で、規則正しい生活を徹底するだけで薬がゼロになる人もいます。
ここで、私の考えを後押ししてくれそうなデータを2つ紹介したいと思います。ひとつめは薬剤費です。厚生労働省の資料によりますと、年間の薬剤費は約8.5兆円(2012年度)にも上ります。日本の人口を1億2千万人とすると、ひとりあたり、実に年間70,800円ものお金を使っていることになります。これは薬代だけです。医療費全体で考えると年間の医療費は40兆円に迫る勢いですから、減らすことができる薬剤があるなら当然減らすべきです。
もうひとつは、日本薬剤師会が発表しているショッキングな数字です。同会によると、75歳以上の在宅患者の残薬(処方されたが飲まなかった薬)はなんと年間475億円にも上るそうです。475億円というこの金額は保険料や税金から捻出されているのです。しかもこの数字には75歳未満の在宅患者や、全年齢の通院患者の分は含まれていません。
私はこれまでこのサイトで「セルフ・メディケーション」と「Choosing wisely」(不要な医療をやめる)という2つのキーワードについて述べ、これらの重要性をウェブサイトを通して伝えていくことを今年(2015年)の目標にしました(注2)。しかし、2015年も残りわずかとなってしまっているのにまだ準備段階の域を抜け出せていません・・(注3)。
先日患者さんに対してある薬の説明をしているとき、冒頭で述べたMRの言葉を思い出しました。私がそのMRに”褒められた”原因の薬がその薬だったからです。私はそのとき患者さんに次のように言いました。「今はこの薬が必要ですが、近い将来中止できるように日常生活でできることをやっていきましょう・・・」
この私の言葉は私自身への戒めでもあったのです・・・。
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注1:メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」を参照ください。
注2:「開業9年目に向けて(2015年1月)」を参照ください。
注3:これについては未完成のものでもなんとか年内に公開したいと考えています。
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|2015年9月11日 金曜日
2015年9月 お金に困らない生き方~4つの秘訣~(後編)
今回は「お金に困らない生き方」の最終回として3つめと4つめの秘訣を述べたいと思います。前々回、前回に引き続き、今回も私がタイで見聞きしたエピソードが中心となります。「もうタイの話は聞き飽きた」という人も今しばらくおつきあいください。
3つめの秘訣は「情けは人の為ならず」です。このことわざ、以前私はあまり好きでなかったのですが、最近はどうもこれは世の中の”真実”であるのではないかという気持ちになってきています。
説明していきたいと思いますが、その前にこのことわざの意味をはき違えている人が少なくないという新聞記事を以前読んだことがあるので、念のため正しい意味の確認からしていきたいと思います。その記事によると「情けは人の為ならず」を「他人に情をかけることはその人の為にならない。だから他人に同情するな!」という意味と思っている人が少なくないそうです。
もちろん正しくはまったく逆で「誰にでも親切にしなさい。そうすると、いずれ自分が困ったときに助けてくれるものですよ。だから情をかけるのは<他人>のためでなく<自分>のためなんですよ」という意味です。(「国語学者」からみると幾分ずれているかもしれませんが、私の解釈で大意は合っているはずです)
では本題に入ります。以前私がなぜこのことわざを好きでなかったかというと、なんとなくエゴイスティックなイメージがあったからです。あとで見返りを期待して他人に親切にすると言っているように聞こえて、「あ~、なんか打算的でイヤな考え」と思っていたのです。
しかし「情けは人の為ならず」を社会の構成員全員が実践していたとすればどうでしょう。そして、それがタイなのです。誤解のないように言っておくと、私はタイがパラダイスと言っているわけでは決してありません。タイ人と仕事をしたことがある人には同意してもらえると思いますが、あの「いい加減さ」についていける日本人はあまりいません。これからタイ人の優しさについて述べていきますが、一方で平気で仲間を裏切るタイ人は少なくありませんし(裏切られた方もいつのまにか許しているのがタイ人の魅力のひとつかもしれませんが)、彼(女)らは借りたものは返しませんし、嘘をよくつきますし、義理・人情というものがあるのかないのかよく分かりません。
タイ人は男性でも女性でも、仲良くなるとすぐに「家に遊びに来い」とか「親戚が来るから一緒にご飯を食べよう」とかいいます。そして一緒に食事をすると、だいたい日本人が全額払わされることになります。経済格差がありますから、これは当然と言えば当然かもしれません。我々日本人が理解しがたいのは、彼(女)らがお礼を言わないことです。(このような機会でお礼を言われたとすれば、そのタイ人は日本文化を知っていると考えるべきです)
タイ人の感覚は「お金は持っている者が払うもの」というものです。では、私に(日本人に)おごってもらう人たちはいつも他人の善意に頼っているのかというとそうではありません。彼(女)からみて困っている人に対しては手を差し伸べるのです。
深夜、バンコクの繁華街では、男性なら薬物のディーラーかジャンキー、女性ならセックスワークをしているだろうと思われる不良タイ人にイヤでも遭遇します。そんな彼(女)らが悪人かといえばそうは思えません。彼(女)らがホームレスに果物やご飯を恵んでいる光景をしばしば目にするからです。
「タイでホームレスや障害者からお金を求められても無視するように」と言う日本人がいます。しかし、実際にホームレスや障害者をしばらく観察していると、タイ人、それもスーツを着た富裕層ではなく、低い層と思われる男女がそのような社会的弱者にお金をあげているシーンを目にします。
では、ホームレスや障害者の人たちは恵んでもらうだけかというと、そうではないのです。彼(女)らは野良犬にご飯をあげています。つまり、タイでは社会を構成するすべての階層のひとたちが、困っている人(犬)たちに何らかの手を差し伸べているのです。
そして、以前は自分よりお金を持っていた人が何らかの理由で転落したときには、今度はその人を助けようとします。これは、私の印象でいえば、日本人が感じる「恩返し」とは少し異なります。「恩を返す」あるいは「借りを返す」というものではなく、あたかもそれが「当然」という感じなのです。
東日本大震災が起こったとき、バンコクではBTS(モノレール)の主要な駅周辺に募金箱が置かれました。BTSの料金は冷房なしのバスの何倍もしますからある程度の富裕層しか使わない乗り物です。このとき、庶民的なタイ人たちはBTSを利用するわけでもないのに駅まで来て募金をしてくれたのです。「困っている人は放っておけない」という感覚が自然に身についているのかもしれません。
タイは特に地方に行けば日本よりもはるかに貧しく、また格差はすさまじいものがあり日本の比ではありません。生活保護などの公的扶助は日本とは比較にならないほど貧弱です(ただし医療費は無料です)。しかし、自殺する人は非常に少ないですし、最近よく聞く「孤独死」もおそらくほぼ皆無でしょう。
「情けは人の為ならず」をただひとり実践したとしても社会は変わらないかもしれません。しかし、良貨は悪貨を駆逐します。(これは私があえて「誤用」している言葉で、正しいことわざは「悪貨は良貨を駆逐する」です。念のため) 私はタイの文化をみて「情けは人の為ならず」が「非現実的な理想」ではなく「真実」であると考えています。真実であるならば、少しずつ草の根レベルで他人に広めていけばいいのです。つまり「情けは人の為ならず」を実践し続けることでそれが真実であることに気づく人が増え、結果として「お金に困らない」=「お金がないときも他人に頼れる」社会になると思うのです。
「お金に困らない」4つめの秘訣は「健康」です。健康を損なえばお金に困ることがあります。またまたタイの話で恐縮ですが、北タイ在住のある日本人男性の話をしたいと思います。この男性に私は会ったことはありませんが、チェンマイでは有名のようで、作家の下川裕治氏はこの男性を実名をだして著書で紹介しています(注1)。沖縄出身で東京で飲み屋をやっていたこの男性はチェンマイが気に入り移住したそうです。しかし持病の腎臓病が悪化し人工透析が必要になってしまいました。
人工透析はかなりの高額が必要になり、日本で治療を受けた場合、実際は保険や公的扶助で自己負担はあまりありませんが、透析の費用だけで月あたり40~50万円程度かかります。タイで透析を受けるとなると自費診療となりますから10万円以上は必要になります。このような高額な費用を払い続けることはできません。下川氏によると、この男性は月額7万円の年金で楽しく暮らしていたそうです。前回も述べたように月7万円もあれば贅沢しなければ北タイでは充分に暮らしていけます。しかし透析代が必要となるとすぐに破産してしまいます。下川氏は「乞食をやってもチェンマイにいる」とこの男性に言われ、言葉をなくしたそうです。
タイを含むアジア諸国で老後をまったり過ごす予定だったけれども、現地で病気を患って帰国せざるを得なくなった。あるいは、海外に旅立つ前に持病が悪化し夢を諦めなければならなくなった、という話はそう珍しくありません。
比較的よくある疾患が、生活習慣病(特に糖尿病)や悪性腫瘍です。HIV感染も珍しくありません。ちなみに抗HIV薬はタイでは日本よりも格段に安く入手できますが、それでも(円安の影響もあり)月に1万円以上はします。しかも、この安い薬剤が副作用で使えなくなったり、他の病気を併発したりすると、日本に帰国せざるをえなくなってきます。
さて、3回にわたり、私が思う「お金に困らない秘訣」を述べてきました。「年金」「倹約」「情けは人の為ならず」「健康」がその4つです。振り返ってまとめてみると、「日頃から健康に気をつけ、倹約に努め、年金は遅滞なく支払い、困っている人がいれば手を差し伸べる」となります。
どこかで聞いたことがあるようなないような・・・。もしかすると小学校の道徳の時間に習ったようなことかもしれません。つまり、「道徳的に生きること」が結局のところ「お金に困らない生き方」につながる。それが私の考えです。
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注1:私の記憶はいい加減ではありますが、下川裕治氏は確実にこの男性を著作で紹介しています。けれども、私はこのコラムを書くにあたり、本棚をひっくり返し下川氏の10冊以上の本を手にとってみたのですが結局見つかりませんでした・・・。どこか海外のホテルにでも忘れてきたのでしょうか・・・。ただ、この日本人のことを自身のブログで書かれていました。下記URLを参照ください。
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|2015年9月4日 金曜日
2015年9月5日 立ちっぱなしも健康にNG?
「座りっぱなし」が生活習慣病の大きなリスクとなり、規則正しい生活を心がけようが定期的な有酸素運動をおこなおうがそのリスクが減るわけではないとする研究もある、という話を過去に何度かおこなってきました。
ならば立ちながら仕事をすればいいのでは?となるわけで、私もそのように思っていたのですが、「立ちっぱなしの仕事が健康に被害をもたらす」という研究がでてきました。
医学誌『Human Factors』2015年6月5日(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、1日5時間の立ちっぱなしの仕事をおこなうと下肢筋肉の疲労を引き起こし、腰痛や筋骨格障害のリスクが高まる可能性があるとしています。
この研究はスイス連邦工科大学(ETH, Eidgenössische Technische Hochschule)の研究チームによっておこなわれています。対象者は男性14人、女性12人で、半分が18~30歳、残りの半分は50~65歳です。過去に神経障害や筋骨格障害がないことが条件で、前日の激しい運動は控えてもらっています。
対象者全員に工場でおこなうような軽作業をシミュレートしてもらっています。5時間の立ちっぱなしの業務の間、何度かの5分間の休憩と30分の昼食休憩が設けられています。
姿勢の安定と下肢の筋力を計測し、対象者には不快度を答えてもらっています。結果、年齢・性別にかかわらず、作業日の終了時に著しい疲労を感じていることがわかりました。
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この研究、きちんとした医学誌に掲載されたこともあり興味を持ったのですが、対象者が少なく、長期間での検討がなされていません。日頃、立ちっぱなしになる習慣のない人が5時間も立ったままの仕事をやらされれば不快感を自覚するのは当然のことであり、日頃使っていない筋肉に負荷をかけることになるでしょうから、筋力低下が生じるのも十分理解できることです。
座りっぱなしの危険性が指摘されるのは、生活習慣病のリスクが上昇するということ、食事や運動を改善させても座りっぱなしのリスクが軽減されない可能性があること、です。立ちっぱなしに健康被害があることを証明するには、長期間の観察が必要なのは当然であり、さらに一時的な筋肉の疲労などではなく(これらは慣れると改善する可能性が高い)、生活習慣病の罹患率や死亡率との関連を調べなければなりません。
一方で、今回の論文では触れられていませんが、「下肢静脈瘤」が立ちっぱなしの仕事をしている人に多いのは自明です。つまり、立ったままじっとしていれば下肢にたどり着いた血液が戻りにくくなりうっ滞し、その結果下腿がむくみ心臓に戻れなくなった血液が静脈を太らせるようになるのです。これを解消するには、足踏みをする、(可能なら)そのあたりを動き回る、などの工夫が必要です。
立ちっぱなしの健康被害を総まとめする必要がありそうです。
注1:この論文のタイトルは「Long-Term Muscle Fatigue After Standing Work」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://hfs.sagepub.com/content/early/2015/06/05/0018720815590293.abstract
参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
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|2015年9月4日 金曜日
2015年9月4日 電子タバコ、有害でなく禁煙補助にも有効?
電子タバコ、どう思いますか?
この質問を受けたとき私は「有害性も報告されていますし、禁煙ツールに使えるという話もあるようですが、それを示す証拠もないようですし、決して勧められるものではありません」と答えています。
実際、米国FDA(食品医薬品局)も日本の厚生労働省も電子タバコの危険性を勧告しています。(下記医療ニュース参照)
ところが、です。イギリスの保健省が「電子タバコの危険性は低く禁煙支援ツールになり得る」という発表を正式におこないました。2015年8月19日、同省の公式サイトに発表されています(注1)。
同省のサイトによりますと、電子タバコは従来のタバコに比べて有害性が95%も低く、さらに禁煙ツールになるかもしれない(have the potential to help smokers quit smoking)と断言しているのです。
この理由として、同省が調査した結果、従来のタバコが持っている有害な化学物質のほとんどが電子タバコには含まれていないことを挙げています。
***************
この発表を読んだとき、私は、これは世界中で議論を呼んで大きな論争になるに違いないと感じました。ところが、実際はそうでもなく、日本も含めてメディアはあまり大きく取り上げていないようです。
なぜいまひとつ注目されないのかは分かりませんが、イギリス保健省のこの発表は大変重要だと私は考えています。
なぜなら、「禁煙ツールになる可能性がある」と断言しているからです。禁煙を始めたいという人には禁煙補助薬があり、保険適用もありますが、それでも安いわけではなく(とはいえタバコの値段よりは遙かに安いですが)、副作用もないわけではなく、飲み薬(チャンピックス)の場合はその間、車の運転をやめなければなりません。
もしも電子タバコで禁煙できるとなると、費用は安いですし(高いものもあるようですが)、副作用はほとんどないでしょうし(イギリス保健省は従来のタバコに比べ95%も有害性がないといっているのですから)、運転もできますし、医療機関で実施する禁煙治療よりも先に試してみたいという人は少なくないでしょう。というより、禁煙を考えているほとんどの人が先に電子タバコを試すに違いありません。
私は元喫煙者で現在は吸っていませんが、もしも禁煙を考えているときにこの記事を読んだとすれば電子タバコで禁煙を試みた思います。さらに、(従来のタバコの)禁煙が成功した後も、電子タバコを吸い続けることも考えるかもしれません。
しかし、これまでの各国の調査から、有害性の高い電子タバコが存在するのもまた事実です。ということは、どの電子タバコが安全なのかを明らかにし、本当に禁煙ができるのかどうかを長期的な観点から検証していく必要があるでしょう。
注1:イギリス保健省のこのウェブサイト(GOV.UK)でこの発表を読むことができます。タイトルは「E-cigarettes around 95% less harmful than tobacco estimates landmark review」で、下記のURLで全文を読めます。
参考:医療ニュース
2015年7月15日「電子タバコ、未成年には禁止すべきでは?」
2013年10月5日「電子タバコは本当に有効なのか」
2009年7月31日「「電子タバコ」はやはり危険!」
2008年9月26日「「電子タバコ」に要注意!」
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