マンスリーレポート

2013年6月13日 木曜日

2005年12月号 2005/12/03

 先月はチェンマイのホテルからレポートをお届けしましたが、今月は熊本のビジネスホテルからです。いつもお金のない私は、今日も風呂トイレ共同の安ホテルに泊まっていますが、比較的新しいホテルなので快適です。ホテルを決めるときに、初めから共同トイレや共同風呂を避ける人もいるでしょうが、小さい頃から貧困が当たり前だった私にとってはまったく気になりません。富裕層に生まれてこなくてよかったな、とつくづく感じます。

 今回の熊本出張の目的は、日本エイズ学会参加です。本日が初日でしたが、興味深い発表が多く非常に有意義な時間を過ごせました。医学部を卒業して4年近くたった今、よく思うのは、やっぱり勉強は楽しいもんだ、ということです。医師という職業をしている限り、日々勉強が義務付けられていますが、日々おこなっていることは教科書や論文を読んだり(あるいは書いたり)することで、講演を聴く機会はそれほど多くありません。学会や研究会に参加すれば、著名な先生方の講義を聴くことができ、新しい知見を知ることができるので本当に楽しいのです。

 最近、神戸大学の大学院生の方々に、エイズに関する話をさせていただく機会がありました。同じような講演は何度もおこなってきていますが、今回は私にとって非常に楽しいものとなりました。というのも、多くの質問や意見をいただいたからです。どこで、講演をおこなってもある程度は質問や意見をいただけるのですが、今回はどの学生さんも非常に熱心で、後日質問のメールをくれた方も何人かおられました。

 さすがは大学院・・・。今回講演をさせていただいた教室には、大学を卒業してすぐに大学院に入学された方もおられますし、一度社会に出てから再び学問の世界に戻ってこられた方もおられます。どちらにしても、学問に真剣に取り組みたいから大学院に通われているわけです。就職に有利かなと思って・・・、とか、みんなが行くから・・・、とか、そんな理由で通う大学生なんかじゃなくて、学問が好きで真剣に取り組んでいる、そんな方の集団ですから、議論を交わすのは本当に楽しいのです。

 自分も仕事をやめて大学院で学問に没頭してみたい・・・・、そんな考えすら頭をよぎりました。

 ところで、私は現役時代(1987年)に、神戸大学を受験して不合格となっています。しかも受験した学部は教育学部・・・。教育学部を受験して不合格となった大学で、その大学院生に講演をおこなうというのは・・・、なんとも言えない複雑な気持ちでした。

 話を熊本に戻しましょう。

 熊本は会社員時代に出張で来たことがあります。たしか1993年だったと思いますので12年ぶりということになります。93年にはご飯やお酒がおいしい、ということ以外には特に感じるものもなかったのですが、医師になってこの土地に来てみると感慨深いものがあります。

 それは、熊本には、水俣病があり、ハンセン病があり、成人性T細胞白血病があるからです。これらは、いずれも患者さんがいわれのない差別を受けていた(受けている)という事実があります。

 なぜ、病気によって差別を受けなければならないのか・・・。私にはそれがまったく理解できません。

 水俣病はチッソという会社が排出したメチル水銀が原因であり、罹患した患者さんにはまったく責任がないのです。しかも患者さんの多くは子供たちだったのです。
 ハンセン病の歴史が差別の歴史であったことはよく知られています。あきらかにむちゃくちゃな「らい予防法」という法律が撤廃されたのは1996年で、まだ10年もたっていません。ハンセン病はよほど濃厚な接触をしない限りは他人に感染しませんし、感染したとしても有効な治療薬があります。なのに、差別は依然として残っていると言わざるをえません。数年前に、ある旅館がハンセン病の患者さんの宿泊を拒否したという事件がありましたが、現在は廃業しているその旅館は熊本にあります。

 成人性T細胞白血病は、あまり有名でないかもしれませんが、HTLV-1というウイルスが原因の白血病です。白血病に罹患しなくてもこのウイルスをもっていればHAMと呼ばれる神経の病気になることもあります。このウイルスは血液、精液、母乳などに含まれているため、針刺し事故や薬物の静脈注射の使いまわし、あるいは性交渉、または授乳で感染します。ウイルスを保有している人は、日本に約120万人いると言われていますが、九州や四国、三重県南部の山間部に多いという特徴があります。それほど有名にならないのは、潜伏期間が数十年と極めて長いことと、ウイルスを保有していても必ずしも発症するわけではないことが原因かと思われます。

 血液、精液、母乳にウイルスが含まれているということは、HIVとよく似ています。(ただしHTLV-1は腟分泌液には含まれていません。)HIVがいわれのない差別を受けている現実は明らかですが、HTLV-1はそれほど大きく取り上げられることはないようです。しかしながら、このウイルスを保有している人がまったく偏見を持たれていないかというと、そんなことはないでしょう。おそらく患者さんやキャリアの方は、相当な苦労をなさっているものと察します。

 こういった疾患の患者さんが多い熊本では、しかしながら、これらの疾患に対する研究がどこよりも進んでいますし、差別に闘ってきた人もおられます。「ハンセン病の神様」と呼ばれる加藤清正は、熊本でハンセン病の患者さんのために半生を費やしました。イギリスのハンナ・リデル女史は熊本でハンセン病の患者さんをみて救済に立ち上がりました。

 時間があれば、しばらく熊本に滞在してこれらの疾患について調査をしてみたいのですが・・・。そういうわけにもいかないので、文献をあたって勉強してみようと考えています。

 日本エイズ学会は1日から3日まで開催されますが、私は2日の夕方には熊本を出なければなりません。3日と4日は小倉で日本性感染症学会が開催されるからです。どちらかが一日ずらしてくれればどちらもフル参加できるのに、重なっているために途中までしか参加できないのです。

 少々グチになりますが、いつも学会に参加するとこういうフラストレーションがたまるのです。今回のように日程が重なることもありますし、ひとつの学会でも興味深い発表が同じ時間に別の会場でおこなわれることは頻繁にあります。ポスター展示や企業の製品展示もやっていることがあり、それらも興味深いのですが、きちんと見ようと思えば、どこかで時間をつくらなければならなくなり、その間は講演を聴きにいけません。

 せっかく高いお金を払って参加しているんだから(学会に参加するには1から4万円程度の参加費が必要ですし、それ以外にも年会費で数万円がかかります)、メインの講演はビデオ録画して会員に配るとか、そういう工夫をしてもらいたいのですが、そういう話はほとんど聞いたことがありません。

 まあ、とは言っても、これだけ貴重な研究報告や発表を直接聞くことができるというのは、幸せなことなんだと思います。お金がなくて、風呂トイレ共同のホテルにしか泊まれないといっても、それすらできない方もおられるでしょうし、所属している組織から休暇をもらえず学会に参加したくてもできない医師や看護師は大勢いるはずです。私の場合はどこかの常勤医というわけではないために、比較的自由に時間がつくれるのです。
 
 来年の4月に大阪市内にクリニックをオープンする予定でいます。自分のクリニックをもって毎日診療をおこなえば、同じ患者さんをずっと診ることができますし、自分がいいと思った検査や薬を処方することもできますから(病院勤務だとそういうわけにはいきません。病院によってできない検査があったり、取り扱っていない薬剤も多々あるからです)、今よりも遥かに患者さんにとって満足度の高い医療に取り組めると考えているのですが、一方では今のように時間がつくれないという問題が出てきます。

 やはり、あれもやりたい、これもやりたい、というのはわがままな要望なのでしょう。しかし、一方を選択したがためにもう一方がまったくできない、というのも辛いことなわけで・・・・。

 まあ、とりあえずはクリニックを軌道に乗せるのが先決なのでしょう。4月からオープンするクリニックで働いてみたい看護師さんはおられませんか。興味のある方がおられましたら、一度お問い合わせください。

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2013年6月13日 木曜日

2005年11月号 2005/11/06

 11月1日です。私、谷口恭は現在チェンマイのPornping Tower Hotelの一室にいます。10月27日からタイに来ていて、バンコク、ロッブリー、チェンマイで用事を済ませ、11月4日に帰国する予定です。用事といっても、エイズ施設を訪問したり、研究の打合せをするだけですが・・・。

 タイに来ると、いつも感動する出来事があるのですが、今回も心が洗われるような素晴らしい体験をしました。今日はそれをお話したいと思います。

 先日、我々(友人二人と私)はバンコクから車でロッブリーに向かっていました。その路上でのことです。

 一般道路の右側(追い越し車線)で、いきなり前の車が左ウインカーを出して理由もなく急停車しました。まさか急停車するなどとは思わなかった我々の車は、とっさに急ブレーキを踏みましたが接触は避けられませんでした。もともとスピードはほとんど出ておらず、車間距離も充分に取っていたために事故といえるような事故ではありませんが、それでも前の車の後ろのバンパーと、我々の車の前のバンパーは損傷を避けられませんでした。

 もちろん、追い越し車線でいきなり急停車した前の方に絶対的な過失があるでしょうから、我々は事故の責任ということにおいては気楽に考えていました。前の車のドライバーは、若い女性でいかにも免許を取ったばかり、という感じで、我々に何度も何度も謝ってきました。

 事故の現場は、その前の車の販売店の目の前で、ちょうど新車を買ったばかりの彼女が、路上に出たところ、いきなり急停車し、その結果事故を起こしたということが間もなく分かりました。(ちなみにタイの運転免許証を取得するにはペーパー試験だけで、実技は要らないそうです。)

 彼女は免許証を取ったばかり、車を買ったばかりのドライバーで、その彼女が理由もなく急停車したわけですから、彼女の自動車保険を使ってすべて解決、我々は日本的な感覚でそのように考えていました。

 ところが、です。タイの自動車事故では、追突事故の場合は、いかなる場合でも常に後ろの車が全責任を取るという慣習があるそうなのです。事故現場には、その車の販売店以外には何もないような田舎ですから、我々はその販売店のなかで、販売店のスタッフや保険会社と交渉することになりました。

 我々としては、こちらには一切の過失がなく相手の保険ですべてを解決すべきだと考えました。けれども、周囲はもちろん全員タイ人、しかも販売店は、当事者のドライバーが新車を買ったところなのです。交渉するという意味で、これほど不利な状況もないでしょう。

 しかし、我々としても、「こちらにすべての責任があります」などといった書類に簡単にサインをするわけにはいきません。結局、我々の保険会社の指示で、最終的にはそのサインをすることになったのですが、事故を起こしたのが午前11時、最終的に書類にサインすることになったのは午後4時半です。

 この間、我々は言わば「敵地」での戦い(交渉)を強いられたわけです。販売店の従業員は、「あいつらがサインしたらすべて解決するのに、なんでしないんだろう」とでも、思っていたに違いありません。

 ところが、そんななかでも一部の従業員の方は、我々に常に微笑みを向けてくれていました。(さすがは「微笑みの国タイ!」です。) ひとりの女性は、「敵」であるはずの我々に何度もコーヒーや飲料水を入れてくれるのです。それだけではありません。彼女は、昼食を取っていない我々を気遣い、ラーメンまで作ってくれたのです。「一杯20バーツね!」などと冗談も言いながら・・・。

 そんな優しさに小さな感動を覚えた我々は、その後、さらに深い感動を体験することになります。

 なんと、その女性が、我々の目的地であるロッブリーまで車で送ってくれると言うのです。車を修理に出す必要があるため、足を無くした我々はタクシーを呼んだのですが、そのドライバーの言い値がかなり高いのです(タイの田舎にはメータータクシーはありません)。その値段が高すぎることに同情してくれたその女性は、そのタクシードライバーを帰し、自らが送迎することを申し入れてくれたのです。彼女の自宅もロッブリーにあり、帰り道というわけではありませんが比較的近いところだから気にしないで!(マイペンライ)、と言ってくれたのです。

 これには本当に感動しました。事故を起こした女性が車を買った店の従業員が、言わば交渉の「敵」である、見ず知らずの日本人男性三人を自分の車で目的地まで送ってくれる、と言うのです。

 他に移動手段のなかった我々は、彼女のありがたい申し入れを受けて、ロッブリーのホテルまで送ってもらいました。彼女は、四歳の娘を運転席の横に座らせて(彼女は自分の娘を職場に連れてきていました)、我々に常に笑顔で話しかけ、丁寧に我々を送ってくれました。我々の大量の荷物の出し入れも率先して手伝ってくれました。

 我々は何度も礼を言い彼女の車を見送りました。

 この話はまだ終わりません。

 夕食を食べているときのことです。繁華街の食堂で夕食を摂っていた我々の元に、突然一本の電話が鳴りました。保険会社からで、車のキーを翌朝早くに事故を起こした現場の前の販売店まで持ってこい、と言うのです。

 我々は、本来ならばその日にパバナプ寺(エイズホスピス)を訪問する予定をしていたところに、まったく計算外の事故が起こったわけです。予定を急遽変更し、寺の訪問は翌日することにしていました。それが、早朝に車のキーを持っていくとなると、再び半日はつぶれてしまいます。

 結果、もうこの方法しかない、と考えた我々は、夕方親切にホテルまで送迎してくれた販売店の女性に電話をしてみました。今からタクシーで(その女性の)家までキーを届けるから、翌朝販売店に持っていってほしい、とお願いしたのです。
 すると、彼女の反応は・・・・。

 なんと我々が食事をしている食堂まで、わざわざキーを取りに来てくれるというのです。再び、彼女のありがたい申し入れを受けた我々は彼女を待ちました。しばらくすると、夕方と同じように、ひとり娘を運転席の横に座らせ彼女は車でやってきてくれました。

 そして、我々を再びホテルまで送ってくれたのです。

 異国の人間にここまで親切にしてくれるとは・・・・・。

 タイ人とはなんて暖かいんでしょう。もちろんすべてのタイ人がここまで親切ということはないでしょうが、私は今回のこの出来事を通して、ますますタイという国に魅力を感じるようになりました。何か日本人が過去に置いてきてしまったものが、タイには存在するような気がするのです。
 
 そんなタイ人の中に、エイズという病のために社会から差別を受けているという人がいる現実・・・。

 HIV/AIDSに対してこれからも、日本だけでなく世界に目を向けて行きたい、そう強く感じるタイ旅行です。

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2013年6月13日 木曜日

2005年10月号 2005/09/30

 まずは、私、谷口恭の9月の活動を報告したいと思います。

 9月3日には、大阪の羽衣学園という高校で、「タイのエイズ事情」というタイトルで約1時間の講演をおこなってきました。この内容で講演をおこなうと、最後まで一生懸命に聞いてくれる方が大勢おられるのですが、いつも感じることがあります。

 それは、「HIVに感染しないためには予防が大切」ということは伝わるのですが、「HIV陽性の人やエイズの患者さんに対して差別的な意識をもつのはおかしい」ということがどこまで伝わっているのかが疑問であるということです。というのも、講演の後、質疑応答をおこなうと、「エイズの深刻さが分かりました」という意見は多いのですが、「これからはHIV陽性の人達と仲良くやっていきたいです」というコメントがほとんど聞かれないのです。

 私は、講演のなかで、タイのHIV感染ルートは、タトゥー、ドラッグ、セックスが多いという話をおこないます。もちろん、無防備にこのようなことをおこなうことに対する危険性を認識していただけるのは大変ありがたいのですが、私が最も主張したいことは、これらは誰もがおこなってしまう可能性のあるものであり、たった一度の過ちで社会から疎外されるのはおかしい、ということです。

 現在では、エイズは「死に至る病」ではなく、適切な治療を受けることによって発症を防ぐことのできる、いわば「慢性疾患」のひとつであるわけです。他の慢性疾患が差別の対象になることはないのに、なぜエイズだけがおかしな目で見られることになるのか、これははなはだおかしいわけです。

 私に言わせれば、他の慢性疾患、例えば長年のカロリーの摂り過ぎと運動不足から発症した糖尿病や、何十年にもわたる喫煙から発症した肺癌の方が、よほど本人に責任があるのです。それに対し、エイズというのはただ一度の誤った行動のみでも起こりうるわけです。しかもエイズの発症年齢は、他の慢性疾患に比べるとずっと若いのです。

 さて、9月は執筆作業にずいぶんと時間を費やしました。

 ひとつめは、来年初頭に発売される『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ(仮)』という本で、文芸社から出版されます。これは、タイトルどおり、私が体験したタイのエイズ事情を写真をまじえて紹介し、日本での症例も紹介し、合わせて性感染症についても述べたものです。スティグマや差別、タトゥー、ドラッグ、セックス、ボランティア、セックスワーカー(とその恋人)などにも言及し、医学的な本というよりはむしろ社会的な考察にページを割いています。この原稿を書き始めたのは、今年の初頭ですから、出版までにおよそ1年の月日を費やしたということになります。

 ふたつめは、現在発売中の『医学部6年間の真実』(エール出版社)の改訂版です。

 研修医制度が大きく変わり、現在の状況が初版のときと比べて随分と異なっているために、そのあたりを大幅に書き換えました。こちらは年末までには書店に並ぶと思われます。

 もうひとつ、新たに本を出版することになりました。

 私の処女作である『偏差値40からの医学部再受験』(エール出版社)は改訂3版を発行することになりましたが、発行を重ねるにつれて、批判を多くいただくようになりました。もっとも多い批判が、「抽象的な話が多くて、具体的に何をすれば医学部に合格できるのか分からない」というものです。

 私は、もともと具体的な勉強法でなく、もっと根源的なものに触れた受験のことを伝えたいという気持ちから、自分でホームページを立ち上げて、それが結果として出版につながったわけであり、もともと具体的な勉強のテクニックを紹介するつもりはありませんでした。

 ところが、私の思惑とは逆に、「根源的な勉強についての話を聞けば聞くほど具体的なテクニックも同時に伝授してほしくなる」という意見が後を絶たないのです。

 そこで、読者からのご批判に応えるかたちで、『偏差値40からの医学部再受験テクニック編(仮)』という本を出版することになりました。

 この本では、文字通り受験のテクニックを伝授しています。過去問の具体的な解き方、参考書・問題集の使い方、模試の活用、科目別勉強法、その他細部に至るまで具体的なテクニックを紹介しています。実際に、医学部受験を考えられている方の参考になれば幸いです。

 この本の出版日はまだ未定ですが、おそらく年末か年始になると思われます。

 臨床のことをお話ししましょう。

 今年の2月から9月まで、私は整形外科領域におけるプライマリケアを学ぶために、尼崎の「さくらいクリニック」に、週に一度研修に行っていましたが、9月で終了となりました。

 10月からは、大学病院の総合診療科のなかで、婦人科の研修を受ける予定です。婦人科は、以前勤務していた星ヶ丘厚生年金病院で、3ヶ月の間、週に一度外来の研修を受けていましたが、それだけではまだまだ心許ないために、もう一度じっくりと勉強しようと考えたわけです。

 研修ですから、もちろん無給ではありますが、ただ(無料)で勉強させていただけるわけですから、やはり私は恵まれた環境にいるようです。

 日本の9月での最大のイベントは衆議院選挙であったように思います。

 投票率は67%にも及び、私が選挙権を得てからの期間では、もっとも盛り上がった選挙ではなかったかと思います。BBCやCNNでも、連日日本の選挙活動の模様が報道され、小泉首相やライブドアの社長の演説やインタビューが、世界中の人々の注目を集めていたようです。

 私は、特定の政党を支持しているわけではありませんが、かといってまったくのノンポリ(最近この言葉をあまり耳にしませんね。ノンポリとは政治に無関心という意味です。)でもありません。選挙は行ったり行かなかったりで、あまり良き国民ではないかもしれません。(ただ選挙に行かないときは投票したい政党がないという意思表明ではあるのですが・・・)

 なぜ、医療に関係のない選挙の話を持ち出したかと言うと、公務員のあり方に疑問を感じるからであります。私は「小さい政府」に賛成であるのですが、それ以前に、公務員とは「全体の奉仕者」であるべきだと考えています。この「全体の奉仕者」という表現は、マスコミからは聞いたことがありませんが、高校の(おそらく中学でも)教科書にも載っている、公務員の定義のようなものです。

 「全体の奉仕者」であるはずの公務員が、モノを生産したりサービスを供給したりしている民間の会社員や自営業者の方々よりも高給であるのはおかしいと思うのですが、なぜかそういう議論はあまり出ません。

 そして、私がもうひとつ疑問に感じているのは、なぜ医師の給与が、一般の会社員の方々よりも高いことが多いのかということです。

 社会をプロ野球チームに例えると、医師はチームドクターに、フロントは公務員にあたると思います。そしてグランドに立つ選手が会社員や自営業者の方々となります。会社員や自営業者の方々が、頑張って利益を上げないことには国が成り立たないのと同様、プロ野球チームでも選手が頑張って相手チームを倒さない限りは、ファンもスポンサーもつかずにチームがつぶれてしまいます。

 プロ野球チームで、もっとも高収入であるべきなのは誰でしょうか。もちろん、4番バッターであったり、先発ピッチャーであるべきです。4番バッターの年収が1億円で、チームドクターやフロントが年収800万円であれば誰もが納得できるでしょうが、これが逆であってはおかしいですし、そんなチームは成立しません。

 同じように一般社会でも、素晴らしいモノやサービスを供給する会社員や自営業者が高収入を得るべきであって、公務員や医師の年収が高すぎるのはおかしいわけです。なぜなら、医師や公務員というのは、会社員や自営業者の方々が汗水流して働いた結果、上げることのできた利益の一部から収入を得ているからです。

 私も会社員の経験がありますが、毎月給与明細を見る度に、高すぎる税金と保険料に疑問を感じていました。その高すぎる税金と保険料から公務員や医師は収入を得ているのです。公務員や医師の収入が、会社員や自営業者の方々よりも高いのはおかしいわけです。

 私は今回の選挙は投票に行きましたが、もしも「政治家も含めて公務員の給料の大幅削減」というのをマニフェストに入れる政党があれば、その政党に投票したいと思います。

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2013年6月13日 木曜日

2005年9月号 2005/08/29

 9月になりましたが、まだまだ暑さが続いています。私の仕事はいつも病院内で、移動はもっぱら車ですから、それほど暑さを感じませんが、外で仕事をしている方は本当に大変だと思います。

 最近の私にとってのビッグイベントは、タイ渡航でありました。7月28日から8月3日までわずか6泊だけですが、かなり実りの多い旅行となりました。

 まずは、チェンマイにある「Mckean病院」についてお話したいと思います。これは、チェンマイの郊外にある、およそ200床の病院です。この病院は、リハビリセンターとしても有名ですが、最大の特徴はタイ国や一部ミャンマーのハンセン病の患者さんがたくさん収容されているということです。ハンセン病を患っていて、入院する必要のない人の多くは、社会から「いわれのない差別」を受けていることが少なくなく、地域社会に帰れない人もいます。そういった人たちは、この病院の敷地内にある「村」に住んでいます。

 この病院は、もともとMckeanという名のクリスチャンが設立して、現在でも運営資金はほとんど寄付金でまかなっているそうです。世界中のキリスト教団体や、慈善団体が寄付をしており、故・笹川良一氏の日本船舶振興会もかなりの寄付をおこなっているそうです。

 2003年11月に熊本県のある温泉宿泊施設が、ハンセン病の患者さんの宿泊を拒否したことが報道され、現在でも、患者さんがいわれのない差別を受けているという現実が明らかになりました。

 タイでも、最近はかなり改善されたというものの、まだ差別は残存しており、そのためにこの病院の敷地内にあるような「村」が必要となっているのです。

 McKean病院については、あらためて詳しくご報告したいと思います。

 昨年も訪問した、エイズシェルターである「バーン・サバイ」にも行ってきました。昨年、訪問したときにおられた二人の患者さんは、すごく元気に過ごされていました。ひとりの患者さんは、一時、CD4と呼ばれる、エイズの重症度を示す値が0にまでなっていましたが(正常値は400以上)、バーン・サバイのスタッフの努力の甲斐もあり、適切に抗HIV薬を服薬することができ、現在ではすっかり元気になられていました。

 1年ぶりに患者さんに再会するというのは、なんとも言えない嬉しさがあります。

 ロッブリーの「パバナプ寺」にも行きました。現在はボランティア医師が誰もいない状態でしたが、近くの病院が、以前に比べると積極的に患者さんを診てくれるようになり、治療がおこないやすくなったそうです。まあ、とは言っても、相変わらず病棟には、下痢、嘔吐、痒みなどで苦しんでいる患者さんが大勢おられるのですが・・・。

 私は幾分かの薬を日本から持っていきましたが、必要な薬が必要な分だけいつもあるとは限らず、薬剤の入手で苦労することが依然多いそうです。

 「パバナプ寺」の、特に重症病棟に去年おられた方は、大半がお亡くなりになられており、あらためてエイズという病の深刻さを実感しました。ただ、重症病棟の何人かの患者さんは、容態が安定しており、私を覚えていてくれましたし、軽症病棟におられた患者さんの何人かは、病棟から出られる状態になり、寺のなかで作業をされている方もおられました。日本でもタイでも、患者さんが社会復帰されるのをみるのは、本当に幸せなことです。

 バンコクでは、タイで公衆衛生学を学ぶ大学生と、共同研究の打合せをおこないました。これは、性に対する行動や意識を日本とタイで調査し、比較をおこなおう、というものです。その調査で使う、アンケートの質問項目について話し合ったというわけです。

 調査が完成すれば、日タイの意識の違いがわかり、非常に興味深いものになるのではと考えています。調査対象は、日本とタイの大学生です。タイの分はその学生の通う大学でおこなうのですが、日本の方は、まだ決まっていません。

 私に日本の大学生の友達があまりいない、というのがその理由です。これを読まれている方で協力していただけるという方がもしもおられましたら、ご連絡いただきたいと思います。

 さて、今回わずか1週間の訪タイでしたが、「タイが変わりつつある・・・・」、と感じたことがふたつあります。

 ひとつは、これは私の印象があたっているとすれば非常に悲しいことなのですが、それは、タイ人の体重が全体的に増加しており、スタイルが悪くなっているのではないか、ということです。

 私は、2002年の3月に初めてタイに行きましたが、そのときに驚いたことのひとつが、街を歩く男女のスタイルが抜群である、ということでした。

 身長は、たしかに日本人の方が平均では高いと思いますが、男女ともスタイルが素晴らしい・・・。

 男性は、まるでムエタイ選手のような筋肉質の身体をした人が街にあふれていましたし、女性は、日本にいれば間違いなくモデルクラスだと思われるような人たちが、あふれるほどいるのです。そして、男女ともファッションセンスが素晴らしいのです。これには地域差もあるでしょうが、バンコクに限ってみると、男女とも艶やかなカラーとデザインの衣服を身にまとい、そんな人々が普通に会社に出勤しているのです。

 それが、今回の訪タイでは・・・・。たしかにそのような人も依然大勢おられますが、平均としては、スタイルが悪くなっているのではないか・・・・、そのような印象をもったのです。

 それを裏付けるような光景がふたつあります。ひとつは、郊外の公園や空き地などで、集団でエクササイズをおこなっているシーンを頻繁に目にするのです。これは日本のテレビでも何度か紹介されたことがあるようですが、50人から100人程度の若い男女が、集団で大音量で音楽をかけ、インストラクターの踊りを真似て、日本でいうところのエアロビクスをおこない、エクササイズをしているのです。その理由はもちろんダイエットのためです。つまり、意識的にダイエットをしなければならないような人たちが増えているということなのです。

 もうひとつは、いわゆるファストフードの店が大量に設立されており、価格も3年前に比べて安くなっているということです。これでは、若いタイ人の男女が、伝統的な素晴らしいタイ料理ではなく、ファストフードに傾いてしまうことになりかねません。

 これは、日本を含めてフィリピンなどアジア諸国で報告されている、「食物の欧米化による肥満」という問題が、タイでも起こりつつあるということに他なりません。

 タイの伝統的な文化をこよなく愛する私としては、食物の西洋化は非常に悲しいことです。タイには、ソムタムを代表とする、栄養にあふれ、かつ肥満を心配しなくてよい食物がいくらでもあるのです。

 これは本当に悲しい・・・。私の今回の印象が「考えすぎ」であることを祈ります。

 もうひとつ、タイが変わったかな、と思うのは、HIP HOPやR&Bなどのブラックミュージックが社会に浸透してきているな、という印象です。

 私は、ブラックミュージックのかかるクラブやディスコが大好きです。3年前にいくつかのディスコに行ったのですが、そのときは白人のテクノやトランス、あるいはタイポップスが主流で、ブラックミュージックはほとんど聴くことができませんでいした。もちろん、行くところに行けばブラックミュージックのかかる店もあったのでしょうが、今回、3年ぶりに行ったディスコでも、ブラックミュージックが主流とまではいかないものの、かなりかかるようになっているような印象を受けました。そして、DJのテクニックが上手くなっている、という印象も受けました。

 とは言っても、タイのクラブやディスコは、おそらく人口あたりでみたときに、東京や大阪よりも多いでしょうから、私の推測が当たっているかどうかは分かりません。タイのクラブ文化に詳しい方がこれを読まれていたら、教えていただければ嬉しいです。

 さてさて、9月の私にとっての大きなイベントは、9月3日に、羽衣学園(大阪の中高)で、エイズに関する講演をおこなうことです。羽衣学園では、6月に「偏差値40からの医学部受験」というタイトルで、受験に関する講演をおこないましたので、今回で同校での2回目の講演ということになります。

 エイズの講演は、これまで各地で何度もおこなっていますが、今回は対象が中高生ですから、話す内容を変えた方がいいのかな・・・、と直前になってもまだ考えがまとまっていません。

 これについては、次回のマンスリーレポートで報告したいと思います。

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2013年6月13日 木曜日

2005年8月号 2005/08/02

 8月になりました。(といっても、これを書いているのはまだ7月半ばを過ぎたところです。今回は7月下旬からタイに渡航するため、原稿を早めに書いているというわけです。)

 私にとって、7月の最大の出来事と言えば、1日から5日まで神戸で開催されたICAAP(アジア太平洋国際エイズ会議)でした。この会議のことも含めて、AIDSのことは、「はやりの病気」の7月15日号と8月1日号で紹介していますので、ぜひともそちらもご覧いただきたいのですが、このマンスリーレポートでも、ICAAPのことを述べたいと思います。

 ICAAPは、他の医学の学会と異なり、医師以外の大勢の方々が参加されていました。どのような人たちかというと、NPO法人の方や、HIV/AIDSに関連するボランティアをされている人、ILOやユニセフなど国際機関の方、同性愛者やその擁護者の方、(元)ドラッグユーザーやその研究者、セックスワーカーやその擁護者の方、社会学や他の学問を研究されている方などです。

 私は、そういった普段は接することのない方々とお話させていただき、多くのことを学ぶことができました。また、国際学会だから当然だとはいうものの、何人かの外国人の方とも仲良くなることができました。

 5月に京都で開催されたWONCA(国際家庭医学会)も国際会議で、こちらにも大勢の外国人が来られていましたが、参加者のほとんどが医師でしたから、ICAAPのように医師以外の方と知り合うことはありませんでした。

 ICAAPでは思わぬ再会がありました。私が昨年の夏、タイのパバナプ寺でボランティアをしているときに、同じように日本からボランティアに来ていた人たちと再会したのです! これは驚いたと同時に、すごく嬉しく思いました。

 私は普段多くの医療従事者と接していますが、エイズに興味のある医師や看護師というのはそれほど多くいません。最近では私自身が接する、新たにHIV感染が分かった人も増えてきていますし、もちろん日本全体でも急速に患者数が増加してきています。

 にもかかわらず、関心のある医療従事者は非常に少ないのです。

 そんななかで、エイズという問題に関心を持ち続けている方がおられるというのは非常に嬉しいことなのです。

 ICAAPは、参加するのにおよそ4万円の費用が必要でした。私は働いていますから、4万円という金額は払えないことはありませんが、昨年パバナプ寺で出会い、今回ICAAPで再会した人のなかには、学生の方もおられます。彼ら彼女らは、もちろん自費でタイに行き、無償でボランティアをおこない(しかも私よりも長期間で)、そして、ICAAPには4万円という大金を自分で支払って参加しているのです。なかには東京から来られている人もいて、彼ら彼女らには、交通費と宿泊費もかかっているのです。

 医療従事者ではない方々が、そんなにもエイズという問題について一生懸命でおられるということが、私にはとても嬉しいのです。 

 また、再会した人ではなく、今回始めて知り合った人たちのなかにも、エイズという問題に真剣に取り組み、奉仕の精神を発揮されている方が大勢おられました。そして、そのなかの大半の方は、どこからも報酬がでるわけではなく、いわばボランティアとして活動されているのです。

 そういった方々と、新しく、あるいは再び出会えたことが、私が今回ICAAPに参加して得られた、もっとも大きな収穫であったと感じています。

 私はこれから、そういった医師以外の方々とも、何らかのかたちで一緒に仕事がしたいと考えています。「奉仕の精神」をもつ人と、共に何かをやり遂げることは、「感動」につながりますし、私自身が刺激を受け、鼓舞されるからです。

 さて、7月28日から8月3日まで、タイ国に渡航いたします。今回は期間が短いことから、かなりのハードスケジュールになります。この短期間で、ロッブリーの「パバナプ寺」に行き、チェンマイの「バーン・サバイ」に行き、さらに、今回はチェンマイにあるハンセン病の患者さんが収容されている施設の見学もしたいと考えています。

 また、バンコクでは、タイの大学で公衆衛生学を学んでいる学生と会う予定をしています。この学生とは、日タイの共同研究について検討する予定です。共同研究は、もちろんエイズに関連するものですが、これまでにないオリジナリティのある研究をしたいと考えています。

 そんなわけで、かなりのハードスケジュールになってしまいます。考えてみれば、4月以降は、丸一日休めた日がありません。ずっと働きづくしです。できればタイで丸一日の休息をとりたいなと考えていたのですが、どうやらそれは無理なようです。

 けれども、私にとってタイは大好きな国ですから、タイに行くこと自体が休息になるというふうに考えようと思います。

 実際、バンコクのドンムアン空港のゲートを出たときに感じられる、あの乾いた熱気と、ケンタッキーの油の匂い、それに飛び交うタイ語を聞けば、それだけでいつも私はあの国の魅力にやられてしまいます。

 タクシーに乗って市街地に入れば、近代的な高層ビルと、その裏側にある昔ながらの屋台や露店が同時に視界に飛び込んできます。ファッショナブルな街行く人々の笑顔がその光景をエキサイティングなものにします。タクシーを降りれば、屋台から漂う香草の香りが鼻をくすぐり、アスファルトにだらしなく寝そべった犬をよけて歩く頃には、すっかりタイという国の居心地のよさに馴染んでいるのです。

 というわけで、タイ国渡航については、次回のマンスリーレポートで報告いたします。

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2013年6月13日 木曜日

2005年7月号 2005/07/06

 7月がやってきました。

 私はなぜか毎年7月になるとワクワクします。これは小学生の頃から変わってません。小学生の頃の一学期の終業式なんて、もう楽しくて楽しくて・・・。長い夏休みの幕開け・・・、この感覚が私は大好きです。この感覚は、サラリーマンをしていた頃の金曜日の午後の気分に似ているかもしれません。土日とも休めることはあんまりありませんでしたが、土日に連休がとれるようなときには、金曜日の午後には、かなりハイテンションになっていて、どれだけ嫌な仕事でもワクワクしてすることができました。

 一方で、夏休み最後の日というのはかなり憂鬱だったのを記憶しています。夏休みの宿題はできていない、毎日遅くまで寝ていたので明日から朝起きられる自信がない、お昼のテレビが見られなくなる・・・、とイヤなことだらけでかなり辛かったわけです。サラリーマンのときも、日曜日の晩がとにかくイヤでイヤで・・・。

 よく言われるように、日曜日の夜のテレビ番組、例えば「サザエさん」を見ていると、うつな気分に襲われる、というのは私にも当てはまります。医師としての仕事は、楽しいことの方が圧倒的に多いので、今では日曜日の夜にイヤな気持ちになることはありません。けれども、今でも条件反射のような思考回路ができていて、サザエさんの、特に終わりの音楽を聞くと、なんともいえないイヤな気分になってしまいます。

 さて、そんな話はいいとして、最近の活動をご報告したいと思います。まず、先月お伝えしたように、6月は、ふたつの発表(講演)の機会がありました。ひとつは、「大阪STI研究会」という研究会での発表、もうひとつは「羽衣学園」という大阪の学校での受験についての講演でした。前者は約10分間の発表でしたから、それほど緊張もしなかったのですが、後者の受験についての講演は、さすがに緊張しました。中高生の生徒さんとその親御さんの前で話すわけで、そして私は、中高と決して優等生なんかではなく、できそこないの生徒でしたから、そんな元不良生徒が話していいのかな、と申し訳ない気持ちもありました。

 どんなことを話したかというと、まあ、だいたいは私が拙書のなかで述べていることなのですが、「偏差値が低くても受験を諦める必要はない」、「勉強とは本来楽しいものであり受験は勉強のなかでもかなり特殊なひとつ」、「受験勉強はたしかに辛いものかもしれないが、短期間であって楽しむこともできる」、などといったことです。

 「講演するのは楽しいですか」などと聞かれることがたまにあります。楽しいかどうかはその内容にもよるのですが、勉強や受験に関して言えば、私の考えは「多くの人が受験について誤った理解をしている。本当は偏差値が低くても諦める必要はまったくないし、やりたいことならやればいい!」というものですから、悔いのない人生を送るためにも、私の意見を参考にしてもらえればと考えています。だから、私の意見を聞いていただき、それに同意してもらったり、あるいは反論してもらって意見を交換することは本当に楽しいことなのです。

 というわけで、私の本を読んだり、このホームページのエッセイなどを読まれたりして、ご意見やご質問のある方はどんどんメールをいただければと思います。

 さて、7月は私にとって大きなイベントがふたつあります。

 ひとつは、7月1日から4日まで神戸で開催される、「ICAAP(アジア太平洋国際エイズ会議)」です。これは、いわゆる学会のひとつなのですが、普通の学会が、その出席者の大半が医師で、看護師や薬剤師などのパラメディカルが少し、というのに対して、この学会は、医師も参加しますが、医師よりもむしろパラメディカル、あるいはNPO法人のスタッフの方が多く、さらにHIV陽性の患者さんも参加されます。そして、HIV陽性の人のみが参加できるフォーラムも開催されます。

 HIVやエイズは、日本でも患者数が増えているのにもかかわらず、世間の関心はそれほど高くありません。しかしながら、この学会ではアジア中からHIVやエイズに関心のある人が集まってきます。そして各自がそれぞれの研究や活動をおこなっており、それらを発表する場であります。

 私はこの学会を通して、多くのHIVやエイズに関することがらを学びたいと考えています。

 もうひとつのイベントは、タイ国渡航!です。7月28日から8月3日までタイに行くことになりました。もちろん本当はもっと長期で行きたいのですが、日本での仕事もありますから、これが精一杯の日程です。この間に、チェンマイに行って「バーン・サバイ」を訪問し、ロッブリーに行って「パバナプ寺」を訪れます。それからバンコクでは、去年パバナプ寺で仲良くなった、タイで公衆衛生学を学ぶ大学生と会って、日本タイでの共同研究の打合せをする予定です。かなりのハードスケジュールです。

 先日、「バーン・サバイ」の早川さんから手紙をいただきました。(「バーン・サバイ」はチェンマイにあるエイズ患者さんのシェルターです。)早川さんによると、私が昨年お会いした患者さんは、抗HIV薬がよく効いて元気に生活されているそうです。またこの患者さんにお会いできると思うと今からすごく楽しみです。

 一方ロッブリーのパバナプ寺では、去年私が一ヶ月間滞在したときにいた患者さんは、特に重症病棟におられた患者さんはほとんどが亡くなられているそうです。亡くなられた患者さんについては、HIV感染がもっと早期に発見され、適切なタイミングで適切な投薬がおこなわれていれば今も元気にされていたかもしれません。このことを考えると、我々医療従事者がしなければならないことはまだまだたくさんあるように思います。

 家族や地域社会から見放されてパバナプ寺で生活されている、治療が遅れたために余命いくばくもない患者さんの苦しみを取り除くことに努力するのも医師の務めですし、一方でエイズの早期発見の重要性を訴えて、検査を促進することもしなければなりませんし、また、HIV感染を予防するための正しい知識を普及させることにも努めなければなりません。

 私はこれからもどんどんHIV/AIDSに、医師として様々な観点から取り組んで行きたいと考えています。

 「日本タイでの共同研究」というのは、私が知り合ったタイの大学生がとても熱心な学生で、タイでのHIV/AIDSについてすごく興味をもっています。そんな学生と一緒に、「主に若い世代のHIVやエイズに対する関心」や「性感染症について、あるいはコンドームの使用についての意識」をアンケート調査をすることによって比較してみようという試みを考えています。この調査をおこなうことによって、互いの国でどういう意識が欠落しているか、とか、どういう啓蒙活動をすべきか、といったことを分析できればいいなと考えています。
 
 次回のマンスリーレポート(8月号)は、ICAAPのことを中心に報告したいと思います。

 受験生の方にとっては、ワクワクするような夏ではないかもしれませんが、それでも2005年の夏はもう二度と来ないわけですから、悔いのないシーズンにしましょう!

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2013年6月13日 木曜日

2005年6月号 2005/06/01

 6月になりました。

 私の5月の最大の出来事と言えば、28日から30日まで京都の国際会議場で開催された「WONCA」という国際学会でした。

WONCAとは、World Organization of National Colleges, Academies and Academic Associations of General Practitioners/Family Physiciansの略で、簡単に言えば、「国際家庭医学会」のことです。

 WONCAは、数年に一度しか開催されず、それが今回は日本で開催されたわけですから、現在の日本が、いかに、家庭医(プライマリ・ケア医/総合診療科医)の成長期であるかということが伺えるように思います。

 そして、WONCAと共に、日本家庭医学会、日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療科学会の3つの学会も同時に開催されました。私はこれら3つの学会すべてに所属しているため、まさに何があっても参加しなければならないといった感じの大会になりました。

 通常、大きな学会では、著名な医師の講演や発表がたくさんあり、それらが同じ時間に異なる会場でおこなわれます。そのため、是非とも聞きたい講演や発表が同じ時間に重なれば、どれかを犠牲にしなければならず、これははがゆいものです。今回のWONCAでも、そのはがゆい思いを何度か味わいました。

 それでも、今回の大会ではいくつもの興味深い講演や発表を聞くことができて、私としては非常に満足のいくものでした。家庭医という領域は、他の専門医療に比べると、扱う範疇がかなり広く、今回聞くことのできた講演や発表も、喘息、うつ、頭痛、神経痛、神経症などのプライマリ・ケアの疾患から、全人医療、疫学、電子カルテや医学教育まで、幅広いものとなりました。

 大会に参加しているのは、国際学会ですから外国人も多かったですし、また学生や研修医も大勢参加していたのが印象的でした。

 こういうアカデミックな学会に年に数回参加できるのは、医師の醍醐味のひとつと言えます。参加費の他、交通費や宿泊費もかかるため、金銭的にはかなりの出費になるのですが、得るものの方が圧倒的に大きく、私としては大好きなイベントのひとつです。

 よく研究された講演や発表を聞いていると、書籍や日頃の臨床経験では分からないことが学べますし、今後の自分の臨床に役立てることができます。今回私は何も発表しませんでしたが、いずれ大きな学会でも何か発表できればと考えています。自分の経験したことや研究したことを多くの医師に知ってもらって臨床にいかせてもらえるというのは、このうえない幸せであるのです。そして、このような意見交流を通して、医学というのは日に日に進歩していくわけであります。

 さて、6月は私にとって大きなイベントがふたつあります。

 ひとつは、6月4日に開催される「大阪STI(性感染症)研究会」です。これは、国際学会であるWONCAと比べると、会員のほとんどが大阪の医師ですから非常に小さな研究会なのですが、私は前回に続いて、今回もひとつの演題を発表することになっています。

 前回(2004年11月開催)は、「タイ国のエイズ事情」というタイトルで、タイのエイズホスピスやHIV/AIDSに関する社会的な考察を発表しました。今回は「HIV抗体検査の受診動機」というタイトルで発表をおこないます。前回の発表が45分間だったことを考えると、今回私に割り当てられた時間は10分間なので気楽と言えば気楽なのですが、それでも気合いが入ります。

 今回の内容は、私が2004年の5月から7月まで研修に行っていた「大国診療所」に、HIV抗体検査を目的に受診した患者さんに対するアンケート調査をまとめたものです。アンケートの作成や回収は、大国診療所でおこない、私はその結果をまとめるだけです。アンケートの結果をまとめさせてもらって、発表までさせてもらえる大国先生には、感謝の気持ちで頭が上がらない思いです。

 もうひとつ、私にとって大きなイベントがあります。それは6月28日に「羽衣学園」という大阪の学校で、中高生を対象におこなう講演です。講演の内容は、「受験について」です。これまで医学に関する発表は何度かおこなってきましたが、受験についての講演は初めてです。しかも講演時間は1時間もあります。拙書『偏差値40からの医学部再受験』に興味を持ってくださったある方のご好意で、今回の講演が決まったというわけです。

 受験についての講演という初めての体験を想像すると、まだ一ヶ月近くも先だというのに少し緊張感を感じます。けれども、このストレスがなんとも言えない心地よいプレッシャーを与えてくれるので、私はこういうイベントが大好きです。なんとしても、成功させたいと考えています。
 
 2つの発表/講演については、来月のマンスリーレポートでお話することにいたします。
 
 最近、メールでの問い合わせが増えてきて、内容も受験相談から、私のエッセイの感想、病気の相談まで多岐に渡っています。できるだけ返事を書かせてもらいますので、みなさん、お気軽にメールをくださいね。

 それではまた・・。

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2013年6月13日 木曜日

2005年5月号 2005/05/08

 5月になりました。最近の私の出来事で大きなことと言えば、『偏差値40からの医学部再受験』の改訂第3版が、書店に並ぶようになったことです。おかげさまで、多くの方からご支持をいただき、またもや改訂版を上梓することができました。

 このホームページを見てくださる方も次第に増えてきており、最近はなかなか返事のメールを書けなくなってきてしまいました。なんとか、できるだけ多くの人に返事を書こうとは思っているのですが、時間的な制約がそれを妨げます。

 ただ、お寄せいただいたメールを読んだときに、すぐに返事を書かせてもらっている方もいます。そういう人のメールは、質問や意見の内容がはっきりとしており、こちらとしても返事を書きやすいのです。

 それに対して、答えようのないメールを受け取ったときは、何を書いていいか分からず、ついつい返事を怠ってしまうことになります。例えば、「自分は今成績がこれくらいですが、こんな成績で医学部に合格できるでしょうか」といった類の質問です。こういう質問には答えようがありません。「拙書を読んでください」とでも言えばいいのかもしれませんが、それでは答えになっていないでしょうし、すでに読まれた方からもこのようなメールをいただきますから返答に困ってしまうのです。
 
 以前から、ご意見の多かった「科目別勉強法」については、今回は5回目の「社会編」を公開しましたから、とりあえずこれで終了となります。

 『偏差値40・・・』では、具体的な勉強法をほとんど述べずに、試験勉強全般に通じる私なりの意見を紹介しています。そのため、「具体的な勉強法を教えてほしい」とか、「いい参考書を教えてほしい」という意見を多くの方からいただきました。私としては、あくまでも試験勉強全般の話だけにとどめておきたかったのですが、あまりにもこのような意見が多いために、科目別勉強法を連載したというわけです。

 「科目別勉強法」の連載は終了となりますが、また別の観点から具体的な勉強法が紹介できればいいなとも考えています。もしもこのようなことを紹介してほしい、という具体的な案がありましたら、ご意見をお寄せいただきたく思います。

 さて、私の仕事の状況ですが、先月から毎週水曜日に大学の外来をおこなうことになりました。

 私が、「日本一小さい診療所」を開業してから、ホームページや本の読者の方から、「診療所を訪ねたい」という内容のメールをいただくようになったのですが、私は原則としておすすめしていません。

 なぜなら、ほんとに日本一小さい診療所ですから、近所の人が気軽に健康のことを相談する場所としては、ある程度うまく機能しているように思いますが、遠くの方がわざわざ受診するような診療所ではないからです。駅からも遠いですし、できる検査やその場で処方できる薬も限られていますから、がっかりさせることになりかねないのです。

 もしも、私の診察を受けたいという方がおられましたら、水曜日に大学に来ていただけたらと思います。もっとも私は名医ではありませんし、単なるプライマリケア医ですから、ご満足のいく治療がおこなえるかどうかは分かりませんが・・・。

 (私の外来は、大阪市立大学医学部附属病院総合診療センターの毎週水曜日の外来です。受付は午前10時半までとなっています。受付で私を指名してくだされば受診できると思います。どのような訴えでも症状でもかまいません。)

 最近の病気のお話をさせてもらうと、驚くのがインフルエンザが5月になっても無くなっていないということです。普通、インフルエンザというのは年末からせいぜい2月末くらいに流行るものです。それが、今年は2月くらいから猛威をふるいはじめ、なんと5月に入ってからも患者さんが受診されるのです。

 もちろん一時に比べると患者さんは大幅に減少しました。代わって、気管支炎や扁桃炎、それから胃腸炎が流行りだし、インフルエンザが減っても患者さんの数はそう大きく減少していません。病原体というのはいつもなにかが流行っているものだということを再認識しました。

 それにしても暖かくなってきました。つい最近まで暖房が必要だったのに、今では昼間車に乗るときはエアコンが欠かせません。私は暑い季節が大好きです。なんとか数日間でも海のきれいなところに旅行に行きたいと考えていますが、今年の夏は実現するのでしょうか・・・。

 そういえば、私は医学部受験を目指している年にも一度だけ夏に旅行に行きました。これを読んでいる受験生の方に、おすすめしているわけではありませんが、私の場合その旅行が気分をリフレッシュさせてくれ、旅行から帰ってからの勉強の能率は格段にアップしました。

 このような「闇」(『偏差値40・・・』を読まれた方なら意味は分かりますね)も、一度検討されてはいかがでしょう・・・。

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2013年6月13日 木曜日

2005年4月号 2005/04/08

 4月になりました。私、谷口恭は、3月は比較的平穏に過ごせたように思います。3月から始めた、東大阪市のある診療所での、毎週火曜日午前中の内科・小児科外来も、なんとか軌道にのってきましたし、八尾市のある病院での、毎週木曜日午前中の皮膚科外来も落ち着いてきました。

 改めて考えてみると、私の1週間は、月曜日が、堺市にあるクリニックで皮膚科・アレルギー科の外来をされている先生のもとに修行にいき(これは無給)、火曜日が、東大阪市で内科・小児科外来(これは仕事)、水曜日が大学病院の総合診療科(これは無給)、木曜日が八尾市で皮膚科外来(これは仕事)、金曜日が尼崎市で、整形外科の外来をされている先生のもとでの修行(これは無給)、土日が不規則的に複数の病院での時間外救急外来(これは仕事)、と毎日違うところに仕事や研修に行っています。

 医者のなかでもこれだけ不規則的に生活をしている者は多くないでしょうし、他の仕事でもあまりこういう勤務形態の人はいないのではないでしょうか。毎日違うところに出勤すると、一日一日が新鮮で、あまりストレスも貯まらず、日々新たに学ぶことがあって、私としては非常に理想的なライフスタイルを送れているものと自負しております。

 もう医師として4年目になるのに、無給の研修を入れていると大変じゃないですか、という質問も受けるのですが、そんなことはないのです。医師が最も恐れることは、「収入が低いことではなくて、医師としての技術や知識が停滞してしまうこと」なのです。

 できるだけ多くのことを幅広く学ぼうを思えば、毎日同じところで勤務するよりも、異なる医療現場で学ぶ方が効果がある、と私は考えているわけです。

 これは、私がいわゆる専門医の立場にはなく、ひとりの患者さんの部分的な病気のみをみるのではなく患者さん全体を診ることを目的とした総合診療科医を目指しているから、ということが言えると思います。

 医療の現場から3月を振り返ってみて感じることは、今年はインフルエンザと花粉症が驚くほど多い、ということです。インフルエンザはA型とB型があって、たいがいの人は感染しても、どちらか一方だけであることが多いのですが、なかには今シーズンでA型にもB型にも感染したという人もいました。あの高熱と倦怠感に2回も悩まされる・・・。患者さんとしてはかなり大変だったのではないかと察します。

 インフルエンザのワクチンは、接種すれば、100%予防できるというわけではありませんが、それでも多くの方に有効ですから、今年接種しなくて感染してしまったという人は、来年はぜひともワクチンを検討されていはいかがでしょうか。

 花粉症も今年は爆発的に多いという印象があります。微熱に倦怠感、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ・・・、と多彩な症状を呈する花粉症は本当にやっかいなものです。なかには、喘息の症状を呈したり、皮膚に湿疹が出るひともいます。

 「はやりの病気」でも書きましたが、花粉症は適切な治療をすることにより、かなり症状をとることができますから、あやしい民間療法にすがる前に、ぜひとも医療機関を受診してもらいたいと思います。実際、これまで(処方箋なしで買える)薬局の薬しか使用していなかったり、あやしげな民間療法しかしていなくて、「花粉症は治らないと思っていた」という患者さんが非常に多いのです。そして、そういう人の大部分は、病院や診療所で治療を受けて、「もっと早く受診しておけばよかった」と言うのです。

 さて、最近のできごとと言えば、『偏差値40からの医学部再受験』の2回目の改訂版の執筆が終わりました。これはゴールデンウイーク明けくらいには書店に並ぶ予定です。医学部受験を考えられている方を中心に、私のところには毎日多くのメールが届きますが、そういった人たちの参考になればいいなと考えてます。

 もうひとつ、現在執筆中の本があります。これはまだ正式には決まっていませんが、私が昨年タイ国のエイズホスピスで経験したことを中心にまとめた、タイと日本における今後のHIVとエイズについての本です。

 最近、多くの方から、HIVやエイズの質問を受けますし、実際の診療の現場でも、HIV陽性が分かったり、エイズを発症している人が少しずつ増えているように思います。そして、間違いなく日本においても、近い将来、HIV感染が爆発的に増加することを私は確信しております。そのあたりにも詳しく言及していますので、興味のある方は楽しみにしておいてください。

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2013年6月13日 木曜日

2005年3月号 2005/03/01

 3月になりました。昔から「2月は逃げる(1月は行く、3月は去る)」とか言って、この季節は時のたつのが早く感じる人が多いようですが、私のように、日々職場が変わっていろんなことをしている人間は、「2月もいろんなことがあったなぁ・・・」というのが正直な感想です。

 思えば、医学部に入学してからの9年間は、「時間がたつのが早いなぁ・・・」と感じたことがありません。小学生のときほどは1年間を早く感じませんが、私がサラリーマンをしていた頃は、「えっ、もう年末?」なんていうのを毎年のように感じていましたから、幸か不幸か(たぶん”幸”なのでしょうが)、最近は特に時間を早く感じなくなりました。

 さて、2月もいろんなことがありましたが、印象的だったことのひとつは、ある「ロータリークラブ」で「タイのエイズ事情」について講演させてもらったことです。また、「CHARM」という日本在住の外国人を支援するNPO法人主催でも講演させてもらいました。この話はこれまで医療従事者を対象に講演させてもらうことが多かったのですが、ロータリークラブやCHARMといった、ボランティアをされている方々の前でお話するのは、非常にいい経験になりました。というのは、同じような講演をしても、興味を持って聞いてくれるところが、医療従事者とボランティアの方々では全然違うのです。

 医療従事者から出る質問は、病気(エイズの合併症)であったり、その治療であったりですが、ボランティアの方々からいただく質問は、エイズ患者さんの社会的差別であったりとか、ゲイや売春婦の社会学的考察であったりするからです。あらためて、HIV/AIDSというのは、医学的だけでなく、社会的な観点からも考えていく必要があるということを再認識しました。
 
 医療において、2月から新しく始めたことがあります。それは整形外科の勉強です。尼崎でさくらいクリニックを開業されている桜井先生のところに、週に一度勉強に行くことにしました。この先生は、元々内科の専門医の資格をお持ちの先生ですが、途中から整形外科の専門医の資格をとられ、現在ではプライマリ・ケアに関する研究・教育をされています。また在宅医療にも取り組んでおられ、多くの患者さんの在宅ケアをされています。

 私は初め、整形外科領域のプライマリ・ケアを学びたいと考えていたのですが、外来を受診される内科疾患の患者さんや、在宅の患者さん、特別養護老人施設の患者さんなどの症例もみせていただき非常に勉強になっています。
私は以前、尼崎に住んでいて、なつかしい風景を見ながら車で通っていることもあり、週に一度の楽しみになっています。

 「いろんな先生のところに勉強に行って無給でよくやるなぁ。生活大変やろ。」と同僚の医者によく言われます。私にしてみれば、「今はお金を払ってでも勉強をすべき大切な時期」というポリシーがあるのですが、たしかに休みもほとんどなく収入の少ない生活を続けていますから、最近少し大変になってきました。それでも、このスタンスを変更するつもりはありませんが・・・。考えてみれば、無給でも学びにいきたいところがあるというのは、なかなか味わえない幸せなことですし。

 ただ、今月から週に一日仕事を増やそうと考えています。できるだけプライマリ・ケアを実践できる場所を見つけて、患者さんを診ていきたいと考えてます。

 最近、また読者の方々からのメールが増えてきました。ホームページをもっと内容の濃いものにしなければいけないことを実感しています。とりあえず今月から「科目別勉強法」のコーナーを新しくつくりますので、特に受験生の方の参考になればいいなと思います。また、できるだけ個別の質問にも答えていきたく思いますので、今後ともご質問・ご意見の方もお待ちしてますのでよろしくお願いします。

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