マンスリーレポート
2010年2月号 強いられる勉強と本来の勉強
1月はセンター試験が実施されることもあって、私の元には年末あたりから受験の相談のメールが多数寄せられています。
以前にも述べましたが、不景気になると「資格をとりたい」と考える人が増えるからなのか、社会の「勉強熱」が上昇してくるように感じています。ちょうど1年前のこのコラム(マンスリーレポート2009年2月号「”不況”を感じる2つの兆候」)で、2008年10月頃から、じわじわと医学部受験の相談数が増えてきていることをお話しましたが、その傾向は今も続いています。
最近送られてくるメールの特徴としては、医学部受験以外の勉強をしている方からの相談が増えています。例えば、税理士や会計士といった資格をとるための勉強をしているという人、公務員試験や教員試験を考えているという人、子供の高校(あるいは中学)受験について相談にのってほしいという人、あるいは社会人枠の大学院を考えているといった人まで、勉強の目的は様々です。
おそらく、「勉強の仕方」というのは、それが医学部であっても中学受験であっても、あるいは教員試験であっても、その本質は何ら変わることがないと考える人が増えてきたから、相談メールを私に寄せる人が増えてきたのではないかと私は考えています。
拙書などでも述べましたが、効果的に勉強をし「合格」という目的を達成するためにはいくつかの”秘訣”があります。
最も大切な”秘訣”は、なぜ自分がその勉強をするのか、医学部受験の勉強ならなぜ医師になりたいのか、その目的や動機をはっきりさせることです。「なんとなく医学部に行きたい」と「将来○○をするためにどうしても医学部に行くんだ!」というのでは、動機の強さが全然違ってきます。
もちろん医学部受験(他の資格試験もそうでしょうが)は、決して簡単なものではなく、並大抵ならぬ努力が必要です。勉強に費やす時間もそれなりに必要になりますし、勉強のために犠牲にしなければならないものも少なくありません。それだけの苦労をしてでも、本当に医学部に行きたいのかどうか、ということは勉強を開始する前に何度も自問すべきです。
「勉強とは本来楽しいもの」ということを私はこれまで何度も述べていますが、それは「本来の勉強」であって、受験を目的とした勉強は楽しさだけでは乗り切れません。当然受験勉強にはそれ相応のストレスがかかりますし、スランプという厄介なものもほとんど誰にでも(それも何度も!)やってきます。
ですから、受験勉強の期間、上手に自分をコントロールするには効果的なストレス対策をおこなう必要があります。私は、この点については、拙書『偏差値40からの医学部再受験』で「光と闇」という理論を用いて紹介しています。ポイントを簡単に紹介すると次のようになります。
*********
受験生の勉強は<生産的>であり、会社員の仕事や農民の作物生産に相当する。仕事ばかりしていると人間はいずれ破綻するため何らかの<闇>の行動が必要となる。例えば、農民は収穫後”祝祭”という行為を通してそれまで一生懸命つくってきた貴重な農産物や酒を一気に消費(浪費、あるいは”蕩尽”とも言える)することによってバランスをとっている。会社員であれば、典型例で言えば「のむ・うつ・かう」といった<闇>の行動を適度にとることによって、ストレスのかかる日常の仕事との間にバランスをとっている。受験生も同じように、勉強という生産行為で蓄積されたストレスをうまく発散(蕩尽)させなければ長期的な「勉強ロード」を乗り切れない。
**********
要するに、勉強そのものがストレスを蓄積させるような受験勉強を上手に乗り切るには、確実にやってくる苦痛やストレスをコントロールする必要があり、それには「のむ・うつ・かう」に相当するような、短時間で一気にリフレッシュできるような<闇>の時空間が必要ですよ、ということを主張したかったわけです。
さて、受験勉強がこのようにいくらかの苦痛を伴うものに対し、勉強そのものは本来楽しいものであるはずです。勉強することにより、新たな知識が増えて物の考え方が深くなりまた広がるわけですから、勉強しないのはもったいないことです。
ところで、勉強という言葉が私は好きではありません。「勉を強いる」と言われているわけで「やりたくないことを強制される」というイメージにつながるからです。本来の勉強は、別の言い方、例えば「知の探検」とでも呼ぶ方がずっと的を得ているように私は考えていますが、こんなことを提唱しても誰も賛同してくれないでしょうから、やはり「勉強」としておきます。
私に勉強に関するメールをくれる人(以前からの知人も含めて)のなかで、この本来の勉強をされている人が最近少しずつ増えてきています。「(学生時代は嫌いだった)日本史を本格的に勉強しだした」「京都や奈良の寺や神社の探索を本格的におこなっている」「世界の遺跡を訪問する計画をたてている」「(仕事のためでなく)中国語の勉強を開始した」、などです。
このようなメールをくれる人は、私と同世代の40代前半の男女に多いような印象があります。おそらく、彼(女)らも、学生時代は勉強がそれほど好きでなくて、社会人となり様々な経験を経て、本来の勉強の楽しさに気づいたのではないでしょうか。
勉強する方法は、昔に比べれば随分と選択肢が広がりました。私が最初に大学に行っていた頃(1987~1991年)は、必要な本を探すのに図書館で半日を費やし、英語の教材も充実していませんでしたし、あっても高価なものばかりでした。現在はインターネットが普及したおかげで、昔なら入手しにくかった発行部数の少ない書物でもすぐに手に入りますし、洋書も比較的簡単に、そして(昔に比べれば)安く買えます。本を買わなくても、インターネットで入手できる情報は格段に増えています。医学誌でも最近は、要約だけでなく論文そのものが読めるようになってきています。英字新聞はどこの国のものでもほとんど無料でいくらでも読むことができます。歴史や地理などはDVDを使って勉強するのも効果的です。
誰にも強制されず自分の好奇心の向くままにおこなう勉強の面白さに気づくと、人生の楽しさが何倍にもなります。私の場合、たまの休日に日頃の疲れを癒す目的で興味ある分野の本を読み、老後の楽しみとして本格的な語学の勉強を考えています。そしてこういった楽しさを得るために必要なコストはごくわずかなのです。
本来の勉強とは、低コストで楽しめる<闇>にもなるというわけです。
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