マンスリーレポート
2007年10月号 Give me a rest!
私がまだ研修医の頃、夜間の救急外来である先輩医師と話していたときのことです。
その先輩医師は10年目くらいの脳外科医で、ひとりでたくさんの入院患者さんをかかえ、外来もこなし、さらに夜間の救急外来にも週に2回くらい入っていました。それだけではありません。夜間の当直勤務がないときにも、夜中の緊急手術が入るとどこにいても呼び出されます。まさに、24時間365日のほとんどを病院に拘束されているような状態です。
当時、研修医だった私ももちろん休みはほぼ皆無でしたが、その先輩とは責任の重さがまったく違います。研修医は何かと大変と言われますが、第1執刀医をつとめたり、夜間に意識を消失して搬送されてくる患者さんの全責任を負ったりといったことはありません。
私はその先輩医師に尋ねてみました。
「先生は、まったく休みがないんですか?」
「まったくないわけじゃないよ。月に一度は休みをもらって、その日は病院からの電話がかかってこないということになってるんだ。月に一度でもそんな休みがあるだけでも幸せだよ」
その言葉を聞いて、私は医師として一人前になるまでは休みをもらおうなんて自分からは言い出さない、ということを自分自身に誓いました。
そして現在・・・。
私は今年から一応開業医ということになりましたが、クリニックで得られる利益は私の給料まではまかなえません。それどころか、クリニックにかかる費用を他から捻出しなければなりません。そのため他の医療機関での非常勤医師やアルバイトをおこなわなければ生活ができません。
実際、クリニックは木、日・祝が休みですが、これらクリニックが休みの日には他の医療機関で働いています。
月に一度くらいは休みがほしいというのが私の本音ではありますが、医療機関はどこも人手不足が深刻ですからそう簡単に休みをとることはできません。
予定表を見てみると、この前私が休暇をとったのは5月4日でした。ということは、もう5ヶ月以上も休んでいないことになります・・・。(その間に実施された認定産業医の研修はある意味で休暇でしたが・・・)
仕事自体は好きなので、ある程度の睡眠時間さえ確保できれば休みなんかなくてもいい・・・。
少し前まではそう思っていましたが、最近は疲労感がとれず、「休みたい・・・」と思うようになっていました。
先日、ある病院で夜間に当直をしていた時、夜中の2時半頃に救急車がやってきました。
以前なら、どれだけ眠たくても、救急室にたどりつくまでに頭が冴えて、どんな患者さんが来られるのかが楽しみでした。
けれども、そのときはそんな楽しみを感じることができませんでした。それだけでなく、”Give me a rest!”と感じてしまったのです。
”Give me a rest!”とは、直訳すれば「休みをください」という意味ですが、英語を母国語とする人たちは、「もうたくさん!」のような意味で使います。以前、知人のアメリカ人にこのフレーズを教えてもらったことがあるのですが、夜間に救急患者を診なければならない事態に直面した私は、心のなかで”Give me a rest!”と叫んでしまったのです。
そして、そんな思いをもった自分自身がいることに対して頭が冴えてしまい、自分が恥ずかしくなりました。
幸い、救急搬送されてきた患者さんは、軽度の喘息発作のみで点滴処置をおこなうだけで帰宅できる状態になりました。
その患者さんが帰った後、私は自分自身を省みました。
”Give me a rest!”などと感じてしまった私は、もう休日や夜間の救急外来をすべきでない・・・。これ以上休みなしで働くと、すてらめいとクリニックの患者さんに対して全力で診られなくなってしまうかもしれない・・・。
今、私はすてらめいとクリニック以外の勤務先に対して、少しずつ勤務の削減、あるいは退職を申し出ています。
もちろん、急な話なので、実際に月に1~2度の休みをもらえるようになるのは、早くても来年になるでしょう。
こんな私は医師として失格なのでしょうか。人手不足がますます深刻化する日本の医療業界で、月に1~2度も休むなんてことは許されがたいことなのでしょうか。
そうかもしれません。しかしながら、私としては、自分が食べていけなくなったとしても、これ以上疲労を蓄積し、目の前の患者さんに集中できなくなるようなことは避けたいのです。
”Give me a rest!”などと心で叫んでいる医師に診られたい患者さんなどいるはずがないのですから・・・。
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