メディカルエッセイ
61 救急搬送拒否とクリニックの待ち時間 後編 2008/2/27
前回は、救急搬送が病院から拒否される理由として、「少ない医師が大勢の入院患者を診ている」現状をお伝えしました。
今回は、クリニック(診療所)での待ち時間の長さを、やはり「少ない医師(開業医)が大勢の外来患者を診ている」という観点からお話したいと思います。
すてらめいとクリニックに限らず、多くのクリニックでは「待ち時間の長さ」が問題になっています。ですから、どこのクリニックもあの手この手で待ち時間対策をおこなっています。
一方、患者さんの側からみれば、この待ち時間の長さが理解できないことがあります。他の業種であれば2~3時間もの間待たされるといったことは通常はないわけで、「こんなに長時間待たせるなんてここのクリニックは常識がないのか!」といった憤りにもつながります。
では、なぜ医療機関ではこんなに待ち時間が長くなるのでしょう。
たしかに、美容院やエステティックサロン、マッサージ店などでは、こんなに待たされることはないでしょう。特に、予約を入れておけば、決まった時間にサービスを受けることができるはずです。
ところが、医療機関の場合、予約があったとしても30分以上も待たされることがあります。
これはなぜでしょう。
最大の理由は、「ひとりの患者さんにかかる時間が予測できない」ということです。
あらかじめ、ひとりの患者さんにかかる時間が分かっていれば、それを考慮して予約のスケジュールを組むことができます。例えば、「糖尿病でかかっているAさんは最近安定しているから次の予約は5分でいいだろう。昨日、電話で初診の予約が入ったBさんは長引く咳があるとのことなので問診だけで10分以上、レントゲン撮影も入りそうだから診察にかかる時間の合計は20分以上になるだろう」、といった予想をするとします。
ところが、実際にAさんを診察してみると、「最近、倦怠感と頭痛がひどくなってきていて日常生活ができなくなってきている」といった相談をされることもあるわけです。そうなれば、ふだんみている糖尿病以外にも様々な病気のことを考え、検査と治療をおこなっていくことになります。こうなれば予想できなかった時間がとられることになります。
また、長引く咳で来院予定のBさんは、当日になって連絡もなしに来ないということもあります。とすれば、Bさんのためにあけてあった20分がまるまる無駄になってしまいます。これは、一応は利益を出さなければならない医療機関としては死活問題につながります。
この問題を避けるために、「再診はOKだけど初診予約は受け付けていない」という医療機関もあります。こうすれば、当日の連絡なしのキャンセルといったリスクを幾分かは防げるでしょう。しかし、この方法にも問題があります。すてらめいとクリニックでは、「初診でも予約を入れてください」と案内していますが、これは、予約なしだと、日によっては2~3時間待たなければならないことがあるからです。
医療機関での待ち時間が長いふたつめの理由は、「突然重症の患者さんがやってくることがある」というものです。
医療機関には様々な訴えをもった方が来ます。美容院のお客さんであればほぼ全員が髪のカットやセットに来るはずですが、医療機関を受診する理由は実に様々です。例えば、健康診断目的で来る人は、特に体調不良がないのが普通です。一方、突然40度を超える熱と激しい下痢に襲われてやってくる人がいます。こういった場合、健康診断の人(Cさんとします)は予約を入れてあり、発熱と下痢の人(Dさんとします)は、突然症状が現れたわけですから予約がないのが普通です。
この場合、医療機関はどちらの患者さんを優先すべきでしょうか。
目の前で苦しんでいる人を後回しにするわけにはいきません。この場合は予約がなくても、発熱と下痢で苦しんでいるDさんを先にみます。そして、Dさんのような症状の場合、診察にはある程度の時間がかかります。診断をつけるには詳細にわたる問診が必要な場合もあります。採血や点滴も必要になるでしょう。診察時間の合計は30分以上となるかもしれません。
一方、Cさんは健康診断が目的ですから、予定通りにすすめば15分程度で終わるはずです。もしかすると仕事の合間に健康診断を受けに来られたのかもしれません。ところが、クリニックに来てみると、予約のない別の患者さんに医師も看護師もつきっきりになっていてCさんに時間がとれなくなってしまう、ということもあり得るわけです。
さて、待ち時間を短くして予約どおりの診察をするために、「1時間に2~3人程度しか予約をとらない」といった方式にすればどうでしょうか。
実は、すてらめいとクリニックで、試験的にこのようなことをしたことがあります。症状や初診・再診の違いにもよりますが、「1時間で最少4人の予約」のシステムを取り入れてみたのです。
しかし、結果は芳しいものではありませんでした。たしかに予約のある患者さんには満足いただいたと思うのですが、その一方で、予約がすぐにいっぱいになってしまったため、多くの患者さんをお断りしなければなりませんでした。せっかく来てもらったのに「予約がいっぱいで・・・」と言って大勢の方に帰ってもらうこととなってしまったのです。実際は、結果としては診察できる時間がある場合もあったのに、です。
もうひとつの問題は「クリニックの採算がとれない」ということです。これではクリニックが存続できなくなるのです。別のところでも述べましたが、医療機関はそれほど利益のでる業種ではありません。例えば、ある医療関係者向けのウェブサイトに掲載されていた情報によりますと、「某放送局のテレビマンは時給7582円、某銀行の行員は時給5582円、これらに比べ医師(開業医)は4000円台」となるそうです。さらに医師(開業医)はここからある程度の経費を捻出しなければなりません。これだけ患者さんを待たせて、プライベートな時間を削って仕事をしても、余裕のある生活からは程遠いのが日本の開業医の現実なのです。
さて、現在のすてらめいとクリニックでは、試行錯誤を繰り返し、以前よりはかなり待ち時間の問題が解消されています。(といっても重症の人が立て続けに来られれば状況は変わりますが・・・) ただし、これは予約がある場合です。予約がなくて軽症の人には2~3時間待ってもらうことがあります。
医療機関を受診する際はできるだけ予約を入れるようにするのが賢明です。たとえ当日であっても、電話で予約状況を確認すれば、待ち時間の長さが短縮されるはずです。
最近のブログ記事
- 第186回(2018年7月) 裏口入学と患者連続殺人の共通点
- 第185回(2018年6月) ウイルス感染への抗菌薬処方をやめさせる方法
- 第184回(2018年5月) 英語ができなければ本当にマズイことに
- 第183回(2018年4月) 「誤解」が招いた海外留学時の悲劇
- 第182回(2018年3月) 時代に逆行する診療報酬制度
- 第181回(2018年2月) 英語勉強法・続編~有益医療情報の無料入手法~
- 第180回(2018年1月) 私の英語勉強法(2018年版)
- 第179回(2017年12月) これから普及する次世代検査
- 第178回(2017年11月) 論文を持参すると医師に嫌われるのはなぜか
- 第177回(2017年10月) 日本人が障がい者に冷たいのはなぜか
月別アーカイブ
- 2018年7月 (1)
- 2018年6月 (1)
- 2018年5月 (1)
- 2018年4月 (1)
- 2018年3月 (1)
- 2018年2月 (1)
- 2018年1月 (1)
- 2017年12月 (1)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (1)
- 2017年9月 (1)
- 2017年8月 (1)
- 2017年7月 (1)
- 2017年6月 (1)
- 2017年5月 (1)
- 2017年4月 (1)
- 2017年3月 (1)
- 2017年2月 (1)
- 2017年1月 (1)
- 2016年12月 (1)
- 2016年11月 (1)
- 2016年10月 (1)
- 2016年9月 (1)
- 2016年8月 (1)
- 2016年7月 (1)
- 2016年6月 (1)
- 2016年5月 (1)
- 2016年4月 (1)
- 2016年3月 (1)
- 2016年2月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年12月 (1)
- 2015年11月 (1)
- 2015年10月 (1)
- 2015年9月 (1)
- 2015年8月 (1)
- 2015年7月 (1)
- 2015年6月 (1)
- 2015年5月 (1)
- 2015年4月 (1)
- 2015年3月 (1)
- 2015年2月 (1)
- 2015年1月 (1)
- 2014年12月 (1)
- 2014年11月 (1)
- 2014年10月 (1)
- 2014年9月 (1)
- 2014年8月 (1)
- 2014年7月 (1)
- 2014年6月 (1)
- 2014年5月 (1)
- 2014年4月 (1)
- 2014年3月 (1)
- 2014年2月 (1)
- 2014年1月 (1)
- 2013年12月 (1)
- 2013年11月 (1)
- 2013年10月 (1)
- 2013年9月 (1)
- 2013年8月 (1)
- 2013年7月 (1)
- 2013年6月 (125)