メディカルエッセイ

第94回(2010年11月) 水ダイエットは最善のダイエット法になるか

 今回はまず、人間はどれくらいのカロリーを摂取すれば、体重が維持される、すなわち「消費エネルギー=摂取エネルギー」となるかについて考えてみましょう。年齢や性別、どのような仕事をしているかにもよりますが、成人で事務職、激しい運動はしていない、と仮定すれば、だいたい男性で1,800~2,200kcal、女性で1,500~2,000kcal程度ではないかと思われます。

 次に1日あたりどの程度のカロリーを摂取しているかについて考えてみましょう。モデルケースとして、朝は①トーストセット(トースト1枚、マーガリンとジャム、ホットミルク付き、サラダなし)、昼間に②スパゲッティ・ミートソース(ドリンクは水だけ、サラダなし)、おやつに③カフェオレ(砂糖なし)とシュークリーム1つ、夕食に④とんかつ定食を食べたとしましょう。これで1日の総摂取カロリーは、①690kcal+②930kcal+③210kcal+④1,270kcal=3,100kcalとなります(注1)。

 例えばあなたの1日の消費カロリーが1,800kcalとすると、この食生活では1日あたり1,300kcalのエネルギー過多となります。1gは7kcalでしたから(前回の「ダイエットの第2法則」参照)、1日あたり186グラム体重が増えることになります。1ヶ月では5.58kgも太ることになってしまいます・・・。(もちろん前回述べたように、これらには小さくない個人差があります)

 上にあげた①~④の食事は現代人の標準的な食事と言えるのではないでしょうか。つまり現代人の<標準的な食事>をすれば月に5kg以上も太ることになるわけです。要するにダイエットをしたければ<標準的な食事>の概念を変えるしかないのです。

 ここで1つの反論が聞こえてきそうです。その反論とは、「私は食べることが好きなので今言われた①~④程度の食事はしたい。だから運動でダイエットをすればいいじゃないか」というものです。たしかに、運動をすれば消費エネルギーが増えるのは事実ですし、運動はいろんな理由から積極的にすべきです。

 しかし結論から言えば、運動だけで体重を落とすことは不可能です。もう一度「ダイエットの第2法則」に戻りましょう。それは「脂肪組織1gは約7kcalのエネルギー」というものでした。その人の体格にもよりますし前回述べたように個人差が大きいのですが、例えば60分のウォーキングなら約200kcal、10kmを1時間かけて走ったならば約700kcalのエネルギーを消費します。ということは、毎日1時間のウォーキングをおこなう程度では、①~④の食生活をしていれば、1日あたり1,100kcalのエネルギー過多になり、1日で157g増え、1ヶ月で4.7kg太ることになります。毎日10kmの距離を1時間かけて走ったとしても(これはかなり大変ですし、実際に毎日おこなえばそのうち足や膝を痛めるでしょう)、1日あたり600kcalのエネルギー過多、1ヶ月では2.5kgの体重増加となります。

 毎日10kmの距離を走ることのできる人は(時間確保の観点からも疲労度の観点からも)そういないでしょう。しかし、たとえ1日かかさず10kmのランニングをおこなったとしても、現代人の<標準的な食事>をしていれば月に2.5kg太ってしまうのです。

 ここまでくればお分かりいただけたと思いますが、結局のところ、ダイエットをしようと思えば摂取カロリーを減らす以外に方法はないのです。
 
 では、どのような食事をすればいいのでしょうか。次のケースを想像してみてください。朝食は⑤納豆定食、昼食に⑥山菜ソバ、おやつに⑦アイスミルクティー(ガムシロップ入り、食べ物はなし)、夕食に⑧幕の内弁当を食べるとします。⑤584kcal+⑥350kcal+⑦55kcal+⑧770kcal = 1,759kcalとなります。1,759kcal≒1,800kcalと考えると、⑤~⑧の食生活を毎日続けると、体重の変化なし、ということになります。

 さらに毎日60分のウォーキングをおこなえば、200kcalx30日=6,000kcalのカロリー消費となり、これを7kcalで割ると、6,000÷7=1,108g、つまり月に1.1kgやせることになります。月に1.1kg、1年で13kgのダイエットに成功!、となるかもしれません。

 しかし、あらためて考えてみると⑤~⑧の食事を継続し、毎日60分のウォーキングを前提としていることには無理があります。外食をまったくしないわけにはいかないでしょうし、お酒を飲む機会もあるでしょうし、たまにはあぶらっこいものも欲しくなるでしょう。
 
 ここで最近話題になっている2つのダイエット法を紹介したいと思います。1つは「梅干ダイエット」で和歌山県田辺市の紀州田辺うめ振興協議会が調査したものです。同協議会によりますと、大粒の梅干2個を50日間食べた人の約7割がダイエットに成功したそうです(注2)。なぜ梅干でダイエットできたかについて、詳しくはわかりませんが、おそらく食事時に梅干を2つも食べることによって、全体のカロリー摂取量が減少したからではないかと思われます。梅干自体が体にいい食品とされていますから、この方法は一見価値があるようにみえますが、気になるのは塩分の過剰摂取です。

 一般的に梅干1個あたりの塩分は約2gとされています。2つであれば4gです。一方、厚生労働省が推奨する1日あたりの塩分摂取は男性9g未満、女性7.5g未満です。例えば五目ソバ一杯で塩分は8gになりますから、気をつけていても日本人の塩分摂取は過剰になりがちです。その上、毎日梅干を2個食べるとなると、塩分のコントロールがかなりむつかしくなってしまいます。梅干好きの私としては、おすすめしたいダイエット法ではあるのですが、塩分をどうやって管理するかが難点です。

 もうひとつ紹介したいのは、いわゆる「水ダイエット」です。方法はごく単純で「食前にコップ2杯程度の水を飲む」というものです。米バージニア工科大学の研究によりますと、このダイエット法により12週間で7kgの減量が認められています。

 この研究を少し詳しく紹介すると、被験者を2つのグループにわけて、双方に1,200~1,500kcalの低カロリー食を食べてもらっています。片方のグループのみ1日3回食前にコップ2杯の水を飲んでもらいます。12週間後、水を飲んだ方は7kg、飲まない方が5kgの体重減少が認められ、その差は2kgということになります。

 今回の研究チームのリーダーであるBrenda Davy氏は、以前、過体重および肥満の中高年を対象とした研究をおこない、「食前に水を飲むと被験者の摂取カロリーが1食につき75~90kcal,1日で300kcal少なくなる」という結果を発表しています。おそらくこの理由は、「水を飲むことによって胃が膨らみ、少ない食事で満腹感が得られるようになる」というものでしょう。

 しかし、今回の研究では、水を飲まなかったグループと飲んだグループで食事量が同じですから、他にも理由があるはずです。

 水ダイエットは、”やりすぎ”は危険かもしれません。水の飲みすぎは度をすぎると「水中毒」をおこし、これが進行すると生命にかかわる可能性すらあります。しかし、毎食前にコップ2杯程度の水であれば、そのような心配は不要であり、大変有用なダイエット法と言えるかもしれません。

 よく「水は健康にいいから」という理由で、水のペットボトルを持ち歩いている人がいますが、これを持ち歩くのではなく、三度の食事の前にコップ2杯の水を飲むようにすれば、当初の目的の「健康にいい」も達成でき、ダイエット効果も期待できるかもしれません。

 私は、「画期的なダイエット法」などという言葉を聞くと、その信憑性を疑ってかかりますが、この「水ダイエット」に関しては、少なくとも試す価値はあるのではないかと考えています。しかも、ほとんど無料で簡単に始められて、医学的な裏づけもあるのです。

 高価なダイエット用品を買い求める前に、食前のコップ2杯の水を試してみればどうでしょう。ただし、ダイエットの2大法則を忘れないように・・・。

注1:本文中の①~⑧のカロリー数は、⑤以外は、『肥満解消のための外食カロリーBOOK男性版』(主婦の友社)からの引用です。⑤は吉野家の下記のURLを参照しました。

http://www.yoshinoya.com/menu/morningset/index.html

注2:本文で紹介した梅干ダイエットについては、2010年8月25日の毎日新聞の報道を参考にしています。