2026年7月26日 日曜日

2026年7月26日 GLP-1は脱毛のリスク

 今月の「マンスリーレポート」「GLP-1は『規制』ではなく、もっと『普及』させるべきだ」で述べたように、私はマンジャロやオゼンピック、リベルサスなどのGLP-1をもっと普及させるべきだと考えています。あまりにもベネフィットが多いからです。他方、欠点としては以下のようなものがあります。

#1 自費の場合、費用を捻出し続けなければならない
#2 脂肪と同時に筋肉量が低下する → ウエイトトレーニング(筋トレ)は必須!
#3 特に若い女性の場合、精神状態が悪化することがある(否定する意見もありますが、私の印象でいえばこの副作用は無視できません)
#4 その他、膵炎や低血糖発作などの稀な副作用

 #4は注意点さえ知っていればほとんど無視できるレベルですし、#3は中止すればすぐに戻ります。#2は頑張ってもらうしかありません。

 今回紹介するのは新たな「欠点」で、「脱毛」です。医学誌「The BMJ」に2026年7月22日に掲載された「2型糖尿病成人におけるGLP-1受容体作動薬と脱毛リスクの関連:標的試験エミュレーション(Risk of hair loss associated with glucagon-like peptide-1 receptor agonists in adults with type 2 diabetes: target trial emulation)」を紹介します。「標的試験エミュレーション(target trial emulation)」とは聞きなれない言葉ですが、要するに「研究の方法」と考えてもらえればOKです。

 この研究の対象者は、2019年1月から2024年9月の間に新たにGLP-1、SGLT-2阻害薬、DPP-4阻害薬のいずれかを開始した2型糖尿病をもつ18歳以上の成人で、脱毛が発症するかどうかが調べられました。

 GLP-1を開始した12,004人とSGLT-2阻害薬を開始した15,221人が比較され、また、GLP-1を開始した11,964人とDPP-4阻害薬を開始した11,238人が比較されました。

 結果、GLP-1使用者は、SGLT-2阻害薬使用者に比べ、脱毛を発症するリスクが37%高く、DPP-4阻害薬使用者に比べると68%高くなっていました。

 実際にどれくらいの使用者が脱毛を起こしているかについては、日本ではデータが見当たらないのですが、英国では、MHRA(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency=医薬品・医療製品規制庁)にデータがあるようです。2025年の初め以降、チルゼパチド(マンジャロ)による脱毛の報告が940件、セマグルチド(オゼンピック)による報告が312件寄せられています。

 脱毛は使用を開始してから約1年後に最も多く見られました。この関連性は男女双方で見られましたが、女性においてより顕著でした。

 脱毛の種類は「非瘢痕性脱毛症」の一種で、毛包は維持されており、再び髪が生えてくる可能性があることが示唆されています。
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 では、なぜGLP-1で脱毛が起こるのでしょうか。おそらく「必要な栄養素が食事から得られなくなるから」でしょう。特に女性の場合、GLP-1を使用していなくても発毛に不可欠な鉄と亜鉛が不足していることが少なくありません。

 気になる人は一度鉄と亜鉛の値を調べてみるのがいいでしょう。
 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年7月23日 木曜日

2026年7月23日 生まれるなら長男か長女が有利な理由は感染症

 旧約聖書『創世記』に登場する「カインとアベルの物語」は、弟アベルに嫉妬した兄のカインがアベルを殺害する話です。この話が実際の現象を象徴しているのだとすれば、弟に生まれた方が得するように思えますが、実際には兄や姉に生まれる方が二番目以降に生まれるよりも有利なようです。

 学術誌「American Economic Association」に2026年7月に掲載された論文「家族内の病原体:家庭内での疾病伝播がもたらす短期的・長期的な影響(Germs in the Family: The Short- and Long-Term Consequences of Intrahousehold Disease Spread)」によると、その原因はなんと「感染症」です。今回はこの画期的な論文を紹介しますが、その前に長男長女が2番目以降に生まれるよりもどれだけ有利かを過去の研究からみておきましょう。

 まずは「教育期間が長い」が挙げられます。下のグラフをみればあきらかなように、何人兄弟であっても長男か長女が最も教育期間が長いことが2005年の学術誌「The Quarterly Journal of Economics」ですでに示されています。

 この論文で示されたのは、単に教育期間の長さだけであはりません。2番目以降に生まれると、長男長女に比べて、生涯所得(earnings)、雇用(employment)、10代での妊娠(teenage pregnancy)といった面で、より不利な状況にあることが明らかになったのです。

 では、先述した「その原因が感染症」とする論文をみていきましょう。この研究の対象者は1980年以降に生まれたデンマークの子供約120万人で、政府の記録に基づき成人期に至るまでが調べられました。その結果、まず分かったのは、「2番目以降に生まれると、生後1年以内に急性呼吸器疾患で入院する確率が、長男長女に比べて2~3倍高い」ということです。この差は生後1歳半くらいまで続きます。下の2つのグラフを参照ください。

 2番目以降に生まれて、特に呼吸器疾患に罹患しやすいのは11月から1月、つまり冬に生まれた子供です。下の右側のグラフが示すように、11月~1月に誕生した2番目以降の子供は呼吸器疾患で入院するリスクが激増します。興味深いことに、左側のグラフが示すように、長男長女であれば冬に生まれても特にリスクは上昇しません。

 通常、呼吸器疾患で入院しても死亡したり後遺症を残したりするリスクはそう高くありません。ならば乳幼児期を乗り越えれば、二番目以降に生まれても長男長女の利点との差はなくなるのかといえば、そういうわけでもありません。なんと成人してからの「収入」が不利なことが明らかになったのです。下の図が示すように、長男長女との収入差がはっきりとしています。

 そして、さらに興味深いことに、2番目以降に生まれた子供どうしを比較すると、冬に生まれると収入が大きく下がることが分かったのです。先ほど、呼吸器疾患で入院しても特に後遺症は残さないと述べましたが、このようなデータを見せつけられると、脳になんらかの障害が残るのかもしれません。

 もしも幼少期の感染が脳に影響するのだとすれば、2番目以降に冬に生まれれば精神疾患を発症するリスクも上昇するのでしょうか。論文によるとその答えは「イエス」です。感染症に罹患する頻度が高かった弟や妹は、頻度が低かった場合と比べて、精神科の受診回数が統計的に有意に増加していたのです。

 では2番目以降に冬に生まれると絶望しなければならないのでしょうか。なんとか挽回できる方法はないのでしょうか。興味深いことに、この論文ではその「答え」になるかもしれない現象も取り上げられています。それは「母乳」です。母乳を6か月以上与えられた場合、疾患に罹患するリスクが大きく低下するというのです。下のグラフが示すように、授乳期間が長ければ長いほど罹患リスクが低下しています。

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 今回紹介した論文をまとめると、「長男長女に比べ、2番目以降に生まれると幼少期に感染症に罹患しやすく、その傾向は冬に生まれるほど高い。教育期間が短く、成人後の収入が低く、精神疾患に罹患しやすい。母乳で育てることでそのリスクが軽減する可能性がある」となります。

 母乳に含まれる免疫関連の成分が感染症を予防するとした報告は多数あります。弟、妹を育てるときには特に母乳を考えるべきかもしれません。
 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年7月12日 日曜日

第275回(2026年7月) 低用量ピル(OC/LEP)の歴史と今後の行方

 谷口医院がオープンしたのは2007年の1月ですから、もうすぐまるまる20年が経過することになります。この20年間を振り返ってみると、治療方法がまったく変わっていない疾患もあれば(例えば、接触皮膚炎、梅毒、めまい、外傷などの治療)、大きく変わったもの(糖尿病、片頭痛、HIV、潰瘍性大腸炎など)もあります。今回取り上げるのは「ピル」です。この領域も20年前から使用する薬の種類が大きく変わりました。そこで今回は過去20年間のピルの歴史を振り返り、これからの賢明なピルの選択について、当院の経験を紹介しながら述べていきたいと思います。

 先に言葉の整理をしておきましょう。日本では経口避妊薬をピル(またはOC=oral contraceptive pill)と呼び、海外ではcontraceptive pills(またはbirth control pill)と呼ばれます。日本にはLEP(=低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤)という言葉もあって、この表現は海外では使われません。基本的にはOCもLEPも同じもので、日本では保険適用のない自費処方の低用量ピルをOC、保険適用のある低用量または超低用量ピルをLEPと呼びます。従来のOC/LEPは「エストロゲン+プロゲスチン」でできていますが、プロゲスチン単剤の製品もあります。

 では20年の歴史を振り返りましょう。

2007年1月(谷口医院開院当時):月経困難症や子宮内膜症があって保険適用でピルを処方しようと思えば、いわゆる中用量ピルの「プラノバール」を処方することしかできなかった。低用量ピルは当時から存在していたが、すべて「自費」でしか処方できなかった。当時、谷口医院で処方していたのは、「アンジュ」、「トリキュラー」、「トライディオール」、「シンフェーズ」、「オーソ777」、「オーソM」、「マーベロン」。このうち、オーソMとマーベロンは一相性、他は三相性

2008年:子宮内膜症に対して保険診療で処方できる「ルナベル」が登場。ルナベルは上述のオーソMとまったく同じもので名前が違うだけ。子宮内膜症があることを超音波検査やMRIで示せば保険診療で処方することができた。エストロゲンを含まないプロゲスチン単剤の「ディナゲスト1mg」も同時期に登場。こちらも子宮内膜症に対してのみ保険での処方が可能

2010年:ルナベルが子宮内膜症がなくても、つまり単なる月経困難症であっても保険診療で処方できるようになった。月経困難症に対し超低用量ピルの「ヤーズ」が発売された

2013年:従来のルナベルが「ルナベルLD」に名前が変更され、別の製品として超低用量ピルの「ルナベルULD」が発売された(ルナベルULDは避妊効果がふじゅうぶん)

2017年:ヤーズフレックス登場。中身はヤーズと同じだが最長4か月連続飲みすることが認められた。これにより(うまくいけば)月経周期を4か月に一度にできるようになった。同時期にディナゲスト1mgの後発品「ジエノゲスト1mg」が発売された

2018年:ルナベルLD、ルナベルULDの後発品がそれぞれ「フリウェルLD」「フリウェルULD」という名前で登場した。3割負担で1枚500円程度となり一気にOC/LEP開始へのハードルが下がった。また、77日間連続飲みできる「ジェミーナ」が登場し、連続飲みのLEPの選択肢がヤーズフレックス、ジェミーナの2種になった

2020年:月経困難症に対して処方できる「ディナゲスト0.5mg」が登場

2022年:ディナゲスト0.5mgの後発品「ジエノゲスト0.5mg」が登場
 
2023年:日本で初めてのいわゆる「ミニピル」(=プロゲスチン単剤)として「スリンダ」が登場。血栓リスクがほぼないため、肥満、喫煙など血栓のリスクがある女性にも使えるとされている。自費のみ

2024年:「アリッサ」登場。月経困難症に対して保険診療で処方可能。血栓のリスクの少ないエストロゲン製剤が使用されている

2026年8月17日:ヤーズフレックスの後発品「ドロエチフレックス」発売開始予定

2026年8月?:超低用量ピル「マルシロン」が月経困難症の治療薬として登場予定。80日間連続服用が可能(下記の「マーシロン」と同じもので、海外では避妊目的で処方されている)

 と、日本製のOC/LEPはだいたいこのような感じです。これらに加え、次の未承認ピルもそれなりに普及しました。

・ダイアン:抗アンドロゲン作用が強いのが特徴
・セラゼッタ:ディナゲスト(=ジエノゲスト)、スリンダと同じカテゴリーで、エストロゲンを含まないいわゆる「ミニピル」
・マーシロン:海外では早くから普及してたい超低用量ピル(上述の「マルシロン」と同じもの)
・ヤスミン:ヤーズの低用量ピル版。一部の女性はヤーズフレックスと同じように連続飲みしている

 ここからは、今後のOC/LEPの行方を考察したいと思います。まず「エストロゲンを含む合剤か、プロゲスチン単剤か」を考えてみましょう。

 プロゲスチン単剤のメリットはなんといっても「血栓のリスクがない」ことです。喫煙、肥満、血圧などが血栓のリスクとして有名ですが、頻度は低いもののこういったリスク要因がなくても血栓を起こすことはあります。また、プロゲスチン単剤なら乳がんのリスクが上昇することもありません。さらに、エストロゲンとの合剤は不正出血を起こしやすいのに対し、プロゲスチン単剤なら出血のリスクもほとんどありません(出血すれば数日休薬すれば止まります)。

 血栓、乳がん、不正出血のリスクが激減するのなら「全員がプロゲスチン単剤を選べばいいではないか」という単純な疑問が生じます。しかし、(特に谷口医院では)プロゲスチン単剤はあまり人気がありません。なぜでしょうか。

 エストロゲンを入れないことのデメリットがあるからです。ただし、エストロゲンはOC/LEPで取り入れなくても、内因性の(つまり自然に分泌される)エストロゲンがあるのだからエストロゲンを抜いてもデメリットはないとする考えが一般的ではあります。たしかに理論的にはそうなのかもしれませんが、やはりエストロゲンを含むOC/LEPを摂取した方が、例えば、皮膚や髪がきれいになり、胸がふくよかになるなど女性らしさが維持できて、メンタルが安定します。全員に言えるわけではありませんが、エストロゲンの特徴を一言でいえば「女性らしくなる」のです。

 谷口医院の事例でいえば、プロゲスチン単剤のデメリットで最も目立つのが「メンタルの悪化」です。まるで更年期障害の女性にみられるような抑うつ状態が起こることがあるのです。更年期障害のメカニズムもエストロゲンの分泌低下ですから、プロゲスチン単剤投与で抑うつ状態が生じるのは理に適っているように思えます。また、プロゲスチン単剤を長期で使用する場合には骨塩量の低下が生じるリスクがあります。こちらも更年期障害と似たようなメカニズムで起こると考えられます。

 エストロゲンが入った従来のOC/LEPを使用する場合、血栓と乳がんのリスクは常に考慮しなければなりませんし、子宮筋腫や腺筋症があれば、不正出血が緩和されることも多いのですが、逆に出血量が増えることもあります。しかし、エストロゲンの補給によって女性らしさが得られることに魅力を感じる女性も少なくありません。では、エストロゲンが入ったOC/LEPではどれを選べばいいのか。血栓のリスクを考えるなら最新のアリッサが最もよさそうに思えますが、後発品がないために費用は高くなります。

 値段を重視するならフリウェルが最適で1枚500円以下(3割負担)です。しかし、まもなくヤーズフレックスの後発品(=ドロエチフレックス)が発売されます。そうなれば1月1000円未満の費用で、4か月に一度の月経周期にすることも可能になります。また、近日ドロエチフレックスと同様、超低用量ピルで連続飲みできる「マルシロン」が登場します。しばらくの間、およその目安としては次にようになるのではないかと推測されます。いずれも月経困難症(生理痛や生理不順、PMSなど)がある場合で、かっこのなかは3割負担でのひと月あたりのおよその費用です。

#1 エストロゲン不要 → ジエノゲスト0.5mg(約700円)
#2 費用重視 → フリウェルLDまたはULD(約500円)
#3 連続飲み希望 → ドロエチフレックス(約830円)もしくは近日発売のマルシロン(価格未定)
#4 エストロゲン必要だが血栓のリスクを最小限にしたい → アリッサ(約1,500円)

初校:2026年7月20日
改訂:2026年7月26日

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年7月2日 木曜日

2026年7月 GLP-1は「規制」ではなく、もっと「普及」させるべきだ

 オゼンピックやリベルサスなどのGLP-1受容体作動薬、及びマンジャロなどのGIP/GLP-1受容体作動薬(以下、これらを単に「GLP-1」とします)を美容クリニックやオンラインクリニック、あるいは一部の保険診療のクリニックが自費診療で処方しまくっている現状を快く思っていない医師や役人が少なくないのが私には不思議でなりません。

 2026年6月16日、厚労省医薬局医薬安全対策課は「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」というタイトルの注意喚起を発表しました。GLP-1を2型糖尿病など保険適用の処方以外の美容や痩身目的に一部の医療機関が”販売”していることが許せないというわけです。また、大勢の医師も営利目的の安易な販売に辟易とし、2022年には日本医師会の当時の副会長が定例記者会見で「医の倫理に反する」という言葉まで使って痛烈に批判しました。

 GLP-1の有効性と安全性についてはこのサイトでも繰り返し紹介しています。普及し始めて間もない頃は注意を怠ってはならず、特に谷口医院で何例も経験した「若い女性の抑うつ状態」についてはかなり慎重に経過をみています。2023年7月、EMA(European Medicines Agency=欧州医薬品庁)の安全委員会は、GLP-1が原因の自殺念慮と自傷行為について検討を始めました。アイスランドでは2023年の7月時点でGLP-1が原因の可能性がある自殺念慮や自傷行為が約150件集まっていました。結局、2024年4月にEMAは「GLP-1と自殺や自傷行為に関連はない」とする見解を発表して、現在は安全に使用できるということになっています。

 私の肌感覚はちょっと違います。やはり若い女性がGLP-1を使うと抑うつ状態になることが多いような印象があります。ただし、中止すれば元に戻りますし、中年以降の場合はむしろ抑うつ状態が改善するように思えます。この理由はおそらくGLP-1の「ムダなことへの欲求がなくなる効果」だと思います。よく言われるように、GLP-1を使用すると単に食欲が減退するだけでなく、アルコールやタバコ、あるいはギャンブルや買い物、さらに危険なロマンスなどへの欲求も低下していきます。それはいいことのように思えますが、若い頃はこういう一見ムダにみえることが楽しいわけで、そういった経験も広い意味では「勉強」になるのです(私はそう信じています)。
 
 他の副作用もみていきましょう。たしかにGLP-1による急性膵炎や低血糖発作の報告はあります。しかし頻度は稀であり、これらは症状(膵炎なら腹痛、低血糖発作なら動悸や手の震えなど)もでますから、そういう情報をあらかじめ知ってもらっていれば大事に至るリスクは最小限におさえられます。他に起こり得る副作用として、嘔気や下痢がありますが、これらはたいてい軽症で済みます。よって、副作用を理由に「GLP-1を安易に販売してはいけない」と必死になって訴える役人や医師を、最近の私はちょっと冷めた目でみています。

 米国ではすでに国民の8人に1人がGLP-1を使用していると言われています。それだけ広く普及している薬品を「副作用が……」という理由をつけて「適応外処方はけしからん!」と言ってみたところで意味がありません。では、なぜ大勢の役人や医師はGLP-1の適応外処方に反対するのでしょうか。もしかすると「ラクして稼いでいる医師が羨ましい」のでしょうか。インターネットやSNSに広告をうって、割引クーポンを発行し、初回格安キャンペーン!などと謳って“集客”しているような医師を羨ましがる必要はどこにもないのですが……。

 ここからはGLP-1の「利点」をまとめてみたいと思いますが、書ききれないくらいたくさんあります。糖尿病の改善、ダイエットは当然として、谷口医院の患者さんで目立つのが先述した「嗜好への欲求の低下」です。ジャンクフードやお菓子が減った、飲酒量が減った、禁煙できた、ムダな買い物が減った、未来のないロマンスへの渇望が減った、などです。つまり、GLP-1のおかげで、清く正しく美しく生きることができるようになるのです(繰り返しますが若い頃はこんな生き方が面白くないからGLP-1は時期尚早なのです)。

 脂肪肝、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群、アレルギー疾患、がん、認知症などにもGLP-1の効果が認められるようになってきています。これほど有効性が広く高く、そして安全性が高い薬もそうはありません。

 まだあります。Financial Timesによると、米国ではGLP-1が普及し国民がスリムな体型を手に入れたことにより、アパレル業界が息を吹き返したようです。小売店、ショッピングモール、百貨店などで売り上げが大きく増加しています。GLP-1のおかげで国民は自信が持てるようになり、ファッション業界が盛り上がりをみせているというわけです。GLP-1普及前と普及後では社会の雰囲気も変わってきているのではないでしょうか。

 ということは、「GLP-1の普及度」が国民の豊かさの指標にならないでしょうか。やせることが幸せとは言いませんが、やせたい人が理想の体型を手に入れて自信が出てくるのであればそれは望ましい姿だと言えるでしょう。国民の幸せ度の指標として、ブータンは GDP(国内総生産)ではなく、GNH(Gross National Happiness=国内総幸福?)という概念を持ち出していますが、これからはGDPでもなくGNHでもなく「GLP-1の普及率」が国民の幸せに直結する指標となる、と言えば言い過ぎでしょうか。

 私はこれまでの人生で、そばにいる人たちから何度も「あんたは人が向く方を向かない」と言われてきました。自分ではよく分からないのですが、たしかにGLP-1についても「自費診療を始めて売りまくる」でもなく「GLP-1を売りまくる医師を非難する」でもなく、「GLP-1を売りまくる医師にもっとやれ!と応援する」という大勢の医師とは異なる立場をとっています。GLP-1を始めたことによって、自信がでてきて人生を楽しんでいる患者さんたちをみているとその姿を応援したくなるのです。

 GLP-1には大きな欠点が2つあります。副作用ではありません。1つは過去のコラム「 GLP-1ダイエット、中止すれば元の木阿弥」で述べたように「中止すれば元の木阿弥になる」ことで、GLP-1中止により体重が元に戻るどころから開始前よりも太ってしまいます。だからそれなりの費用を工面し続けなければなりません。これが1つめの大きな欠点です。
 
 もう1つの大きな欠点は「筋肉量が低下すること」です。これについては毎日メディカル(無料です)の「運動は『スーパードラッグ』! ウオーキングにプラスしたい大切なこと」という記事に詳しく書いたのでそちらを読んでほしいのですが、「GLP-1で減少する体重の約1/3は筋肉」です。ということは、積極的にウェイトトレーニング(筋トレ)をやらない限り、(特に女性は)将来の骨折や骨粗鬆症のリスクが大幅に上昇してしまいます。

 ならば我々医療者がGLP-1使用者(それは谷口医院で糖尿病の治療目的でGLP-1を処方している患者さんも、美容クリニックなどで自費で買っている患者さんも)にすべきことは「筋トレの助言」に他なりません。実際、最近は診察室で頻繁に「効果的な筋トレ」についての話をしています。この話をある医師にすると「利益は美容クリニックやオンラインクリニックにもっていかれて、谷口医院にはメリットがないですよね」と言われたのですが、そういう問題ではありません。

 きれいごとに聞こえるかもしれませんが、我々の目的は「検査や薬は最小限にして受診回数を減らすこと(≒choosing wisely)」で、20年間その方針で進んできました。今さら利益を求めようとは思いませんし、その患者さんも別のことで受診されているわけですから別に赤字になるわけではありません。そんな小賢しい計算をするよりも目の前の患者さんに必要な助言をするのが我々の任務です。

 GLP-1自費処方クリニックにお願いしたいのは「他の医師や役人から不適切処方だと非難されてもがんばって! けど、できるだけ安くしてあげてね!」ということです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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