2023年9月30日 土曜日
2023年9月30日 座りっぱなしの時間が長ければ運動しても認知症のリスク上昇
座りっぱなしが健康のリスクになることはこれまでこのサイトで何度も伝えてきました。生活習慣病、がん、ED、そして認知症のリスクにもなると言われている「座りっぱなし」は「第2の喫煙」と呼ばれることもあります。
しかし、運動が座りっぱなしのリスクを軽減するという研究もあり、こういった情報も伝えてきました。過去の医療ニュース「1日わずか11分の運動で「座りっぱなし」のリスク解消」で述べたように、ごく短時間の運動でも座りっぱなしによる死亡リスクが低下するというのは希望のある話です。
では、認知症はどうでしょうか。座りっぱなしが認知症のリスクになるのは以前から指摘されていましたが(これは想像しやすい)、やはり運動でそのリスクが解消されるのでしょうか。どうやらそうではなさそうです。運動をしても座りっぱなしの時間が長ければ認知症のリスクが低下しないという大変ショッキングな研究が報告されました。
医学誌「JAMA」2023年9月12日号に掲載された論文「高齢者の座りっぱなしと認知症(Sedentary Behavior and Incident Dementia Among Older Adults)」です。
この研究の対象者は49,841人の英国在住の高齢者 (平均年齢67.19歳、54.7% が女性)で、平均追跡調査期間が6.72年です。この期間中に414人が認知症を発症しました。
1日に10時間座っていた場合、座る時間が10時間未満の場合に比べて認知症を発症するリスクが8%上昇することが分かりました。座りっぱなしの時間は長ければ長いほどそのリスクが高くなります。12時間椅子に座ったまま過ごした人の認知症リスクは63パーセント、15時間ではなんと321%も増加することが分かりました。
さらに興味深いことに、認知症に関しては運動をしてもリスクが低減していませんでした。運動が認知症のリスクを下げることを示した研究はいくつもあるのですが、この研究では中等度から強度の運動(moderate to vigorous intensity physical activity)をおこなってもリスクが低下していなかったのです。
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運動してもリスクが下がらないとは座りっぱなしはなんとやっかいなのでしょう。第2の喫煙というよりもむしろ「喫煙と同等のリスク」と考えた方がいいかもしれません
この研究結果から言えることはただひとつ。認知症のリスクを下げたいのなら「座りっぱなしを極力少なくする生活」を始める以外に方法はありません。例えば、テレビは立って見る、読書も立ったまま、食事はバーカウンターで、仕事の基本スタイルはスタンディング、会議も全員起立したまま、……、といったところでしょうか。
しかしこんな習慣を維持することなどできないでしょう。さしあたり、「座る時は定期的にお尻を上げて空気椅子」あたりから始めればいいのでしょうか……。
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|2023年9月21日 木曜日
第241回(2023年9月) 円形脱毛が”治癒”する時代に
総合診療を実践している谷口医院では内科領域のみならず、婦人科、小児科、皮膚科、整形外科、精神科など多彩な症状や疾患を診ています。ひとりの患者さんが多数の疾患を持っていることが多く、さらに各症状につながりがある場合もあるからです。標準的な治療、もしくはガイドラインに沿った治療をすれば完治、あるいは症状が完全に消えなくても大きく抑えられる、という場合ももちろん多いのですが、何をやってもうまくいかない「難治性」の疾患もあります。
そのひとつが「円形脱毛症」です。
もっとも、脱毛自体がどのタイプのものも簡単ではなく一筋縄ではいきません。AGA(男性型脱毛症)の場合、すでに高齢で、デュタステリド/フィナステリドを10年以上使っているが効果が感じられない……、というような場合は効果が期待できる安全な治療はほとんどありません(もっとも、AGAが治さなければならない病気か、という議論があります)。
さて円形脱毛症。あらゆる脱毛のなかで「治療薬がなくもどかしい……」と医師が最も強く感じるのが円形脱毛症です。なぜもどかしく感じるのか。なんとしても治したいのだけれど効いていることを実感できる薬がほとんどないからです。では、我々医師は他の脱毛症(例えばAGA)に比べてなぜ円形脱毛症を治さなければならないと強く考えるのか。「若い女性に多いから」です。
私が大学病院の皮膚科で研修を受けていた頃、難治性の様々な疾患が集まって来るなか、私が最も「なんとかしたい!」と強く感じたのが円形脱毛症です。皮膚がんよりも皮膚に症状のでる白血病よりも他の難治性の皮膚疾患よりも円形脱毛症を治したい、と思ったのです。円形脱毛症が重症化すると、頭皮の半分以上、さらに進行すればほぼ全領域に脱毛が起こります。女子中学生に起こることも珍しくありません。まだアイデンティティが確立しておらず、ルックスを気にするこの年齢で髪のほとんどがなくなることがどれだけ辛いかが想像できるでしょうか。
ではなぜ円形脱毛症はそんなにも治しにくいのでしょうか。それを知るには「なぜ円形脱毛が生じるのか」を考える必要があります。円形脱毛症を一言でいえば「自己免疫疾患」です。本来なら大切な仲間であるはずの毛母細胞を免疫系の細胞(リンパ球)が攻撃してしまうのが円形脱毛症の正体です。リンパ球は外から入ってくる病原体に立ち向かわなければならないのに、よりによって大切な大切な毛母細胞を”敵”と勘違いしているわけです。
自己免疫疾患なのであればステロイドは効きそうです。実際、入院してもらってステロイドを大量に点滴すれば毛は生えてきます。しかし終了すればまたすぐに抜け始めます。では、ステロイドを点滴ではなく毎日内服すればどうか、と考えたくなります。この方法でもそれなりの量を内服すれば髪は生えます。しかしステロイドを長期で飲むわけにはいきません。副作用のリスクが大きすぎるからです。
では、ステロイドの外用薬ならどうでしょう。こちらは副作用のリスクは各段に下がりますが、残念ながら重症例にはほとんど効きません。軽症例になら効きますが、軽症の円形脱毛の場合、何もしなくても自然に治ることが多いため(つまり、リンパ球が毛母細胞を敵と勘違いしていたことに気付いて攻撃をやめるため)、ステロイドで治ったのか、自然に治ったのかの区別がつかないこともあります。
ステロイド以外の薬としては飲み薬のセファランチン、グリチロンなどがありますが、やはり効いているのか自然治癒だったのかが判断できないケースが多々あります。カルプロニウムというグリーンの塗り薬も保険診療で処方できるのですが、これで治った人を私は見たことがありません。この薬はAGA用の市販の外用薬にも入っていることが多いのですが、やはり効果が出たケースを私は一例も知りません。尚、慢性の皮膚疾患に対してときに絶大な効果を発揮する漢方薬も円形脱毛(を含むすべての脱毛症)にはまったく歯が立ちません。初めから使わない方がいいでしょう。
基本的に自己免疫疾患というのは難治性であり、「ステロイドを使うしかないけれどステロイドの副作用で苦しむ」というトレードオフのジレンマがあります。ですが、2000年代初頭から少しずつ普及しはじめた(広義の)生物学的製剤のおかげで、いくつかの疾患は随分と治療しやすくなりました。
突破口を切り拓いたのが関節リウマチに対して登場したレミケード(インフリキシマブ)です。これは間違いなく歴史に残る優れた薬で、この薬の登場とともにリウマチという疾患が変わったと言っても過言ではないでしょう。今やリウマチには10種類近くの注射型の生物学的製剤が使われるようになり、さらにJAK阻害薬と呼ばれる内服型の(広義の)生物学的製剤も登場し、すでにリウマチに対しては5種が処方されています。また、全身性エリトマトーデス、シェーグレン症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎などの自己免疫疾患も生物学的製剤の登場のおかげで随分と治療しやすくなりました。さらに、広義の自己免疫性疾患ともいえるアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬といった慢性の皮膚疾患にも生物学的製剤が使用できるようになってきました(参考:はやりの病気第226回「アトピーの歴史は「モイゼルト」で塗り替えられるか」)。
この後の話の展開はもうお分かりでしょう。他の自己免疫疾患に有効な生物学的製剤はやはり自己免疫疾患である円形脱毛症にも効果があるのでは?と期待したくなります。そして、その期待に対する答えは「効果あり」なのです。
リウマチ、アトピー、慢性副鼻腔炎などに使用できる生物学的製剤のデュピクセント(デュピルマブ)は円形脱毛症にも効果があるとする報告が増えています。残念ながら円形脱毛症に対しては保険適用がありませんが、アトピー性皮膚炎と合併している場合には使えることもあります。
すでに円形脱毛症に対して保険適用のある薬も(2023年9月20日時点で)2つあります。ひとつは、アトピー、リウマチ、そして新型コロナウイルスにも使えるJAK阻害薬のオルミエント(バリシチニブ)、もうひとつはリットフーロ(リトレシチニブトシル酸塩)というJAK阻害薬です。
さて、ここまで読まれて何か”違和感”を覚えないでしょうか。私はこれまでアトピーに対し、(JAK阻害薬を含む)生物学的製剤を「安易に使用すべきでない」と言い続けています。値段が高いこと(3割負担で年間50万から100万円くらいします)以外に「強力な免疫抑制がかかるから」がその理由です。生物学的製剤は、ステロイドのように骨密度が低下したり、血糖値が上昇したり、といった副作用は(ほぼ)ありません。ですが、免疫能が大きく低下しますから感染症に対してかなり脆弱になります。生ワクチンがうてないほどに低下するのです(生ワクチンに含まれる弱毒化した病原体にもやられてしまうわけです)。
リウマチが重症化すると動けなくなりますし、IBD(クローン病/潰瘍性大腸炎)の場合は何も食べられなくなり日常生活ができなくなります。そんな状況から抜け出すために免疫抑制のリスクを抱えてでも生物学的製剤を使うという方針は理にかなっています。感染症に気を付けていれば日常生活を営めるのですから。他方、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬の場合、重症例の場合はもちろん使っていいわけですが、そこまで生活が制限されない状態であれば、JAK阻害薬の外用薬であるコレクチム(こちらは内服と異なり副作用は軽度)や、PDE阻害薬であるモイゼルト(こちらは免疫抑制がほぼゼロ)、あるいはタクロリムス外用でじゅうぶんにコントロールできるのです。
他方、円形脱毛症がそれなりに重症化すれば外出することができなくなります。精神状態も悪化していきます。上述した3種の薬には免疫抑制のリスクがあり、新薬ですから長期的な安全性は保証されていません。ですがそういうリスクを抱えてでも使用すべきときがあるのです。
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|2023年9月10日 日曜日
2023年9月 『福田村事件』から見えてくる人間の愚かな性(さが)
2020年初頭から始まった新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)に関する騒動はほぼ終わったと言っていいと思いますが、「ワクチン論争」はいまだに続いています。
私自身は「ワクチン肯定派」でも「反ワクチン派」でもなく、「ワクチンは『理解してから接種する』ものであり、接種すべきか否かは個々によって異なる。コロナワクチンの場合は安全性が担保されているとは言い難く、うつのはリスク、しかしうたないのもまた(一部の人には)リスクだ」と言い続けています。
ちなみに、この考えをコロナワクチンが登場したばかりの頃に公表した毎日新聞「医療プレミア」のコラムは大炎上しました。内容は、「コロナワクチンは製薬会社から発表されている有効性は高いが、新しいワクチンだから接種するのはリスクとなる。しかし感染すれば(当時はまだ薬がそろっていなかったこともあり)重症化して命を奪われるかもしれないから接種しないのもリスクである」という内容で、編集部に提出した私が考えたタイトルは「コロナワクチン、うってもうたなくても『大きなリスク』」でした。
それを公開するときに編集者が「新型コロナワクチン 打つも打たぬもリスク大きい」としました。ところがこれが大炎上し、その結果「新型コロナ ワクチン接種はよく考えて」というつまらない(と私は思います)タイトルに変更されてしまいました。
最初のタイトル、そして内容は反ワクチン派、ワクチン肯定派双方の”怒り”を買いました。私がコロナワクチンに関するコラムを書くと、たいてはワクチン肯定派・否定派の双方から攻撃されるのですが、このときには、どちらかというと「肯定派」の人たちからの怒りが強く、私の人格を否定するような内容のものも少なくありませんでした。彼(女)らから、私は「反ワク」のレッテルを貼られたのです。しかし、興味深いことに、同じコラムを読んだ反ワクチン派の人たちは、私が肯定派だ、と言って怒りを表すのです。
こんな論争、というかつまらない言いがかりは無視するしかありません。それに、私はこういう誹謗中傷に慣れている、というわけではありませんが、何を書かれてもほとんど負の感情を抱きません。なかには(特に医師には)SNSで罵られたり悪口を書かれたりすると、それで落ち込んで、極端な場合はそれを根に持って訴訟を起こすこともあるそうですが、私自身は「無視すれば済む話なのに……」と思ってしまいます。
もっとも、SNSの誹謗中傷が原因で自殺した若い女性の話や、そのせいでタレントとしての仕事を失った人の話も聞いていますから、何を書きこんでもいいわけではないということは理解しているつもりです。しかし、私自身は「書きたければ書けば?」と思ってしまいます。きっと、私は(いい意味で)鈍感なのでしょう。ちなみに、私は面と向かって罵詈雑言を吐かれたとしてもあまり苦痛ではありません。まあ、実際にはそんな経験はほとんどないわけですが。
話をコロナワクチンに戻しましょう。ワクチンは個々の状況を考えて決めるべきです。つまり、ワクチンが必要な人もいれば、うたない方がいい人もいるわけです。質問や相談があれば個別に考えて助言するのが医師の仕事であり、谷口医院の患者さんにはそうし続けています。一律に「ワクチン賛成」とか「反対」といった意見を述べることがおかしいのです。
しかも、奇妙なことに、反ワクチンの人(医師も含めて)たちは、決まって「反マスク」と「イベルメクチン信奉」をセットにします。一人くらいは「ワクチンをうたない代わりにマスクで予防しよう」とか「ワクチンをうって、なおかつ感染すればイベルメクチンで対処しよう」と言う医師がいてもおかしくないと思うのですが、そういう医師は(一般市民も)みたことがありません。
なお、マスクについては近くにハイリスク者がいなければ不要ですが、必要な時と場合もあります。それは常識的にもそうだと思うのですが、「反マスク」を強く主張する医師はそうではないという主張を譲りません。ちなみに、最近「英国王立学会」が、マスクが有効であることを示す報告をしています。
なぜ、「反ワクチン+反マスク+イベルメクチン信奉」がセットになるのでしょう。その答えはきっと「人間とは集団闘争が好きな生き物だから」ではないかと私は考えています。つまり、自分の考え(「イデオロギー」と呼んでいいでしょう)に共感する仲間を求め、そして反対する連中を攻撃したいと考える生き物だと思うのです。実は、似たようなことを過去のコラムにも書いています。このコラムでは「リベラル」と「保守」はステレオタイプ化してしまっていて、リベラルなら「自衛隊海外派遣反対」と「福祉充実」がセットになってしまう、などの事例について述べました。
最近、森達也監督の『福田村事件』を観て、やはりそうだろうと確信するようになりました。
『福田村事件』は実際にあった事件を元につくられた映画です。1923年、香川県三豊郡の被差別部落出身の薬売りの集団が、千葉県福田村で朝鮮人と間違われて集団虐殺された事件です。
何年か前にこの事件について初めて聞いたときにまず私が感じたのは「(日本人を殺すのはダメで)朝鮮人なら殺してもいいのか」です。
森監督は私の期待に応え、その部分を浮き彫りにしてくれていました。永山瑛太扮する薬売りのリーダーが……、と書きかけたところで気付きました。このように映画のストーリーを話すことを「ネタバレ」と言うことに。ただ、この映画はミステリーやサスペンスではなく実話に基づいた社会的な映画なので許されるでしょう(許せない人はこれ以上読まないでください)。
話を戻すと、薬売りたちが「朝鮮人ではないか」という疑いをかけられ福田村の村民に囲まれ襲われそうになった状況のなか、一部の良識ある村民のおかげで「(朝鮮人ではなく)日本人ではないか」という空気が流れ始めました。つまり誤解が解けて助かるかもしれない雰囲気になったのです。しかしその直後、薬売りのリーダーは「朝鮮人なら殺してもいいのか!」と大声で何度も訴え村民の周りを歩き始めます。ここで、意外な女性にいきなり殺され、ここから見境のない残酷な殺戮シーンが始まります。
この映画では「差別」が幾層にも絡んでいます。三豊郡(現・三豊市でしょうか)が被差別部落という設定(実話ですから実際もそうだったのでしょう)で、作品中には何度も「エタ」という言葉が飛び交い、彼(女)らが一斉に水平社宣言を暗唱するシーンもあります。
また、別のシーンでは東京在住の社会運動家が警察官に斬首され、朝鮮人の女性が(おそらく)自警団に新聞記者の目の前で殺される場面もあります。さらに、韓国(当時の朝鮮)の京畿道で日本人が29人の朝鮮人を殺戮した提岩里教会事件に関与した元教師が(たぶん)主人公です。
日本人vs朝鮮人、資本主義者vs社会主義者、一般市民vs被差別部落民、といった差別の構図を抉り出し、人間とは敵と味方をつくらずにはいられない愚かな存在だ、ということを森監督は訴えたかったのではないでしょうか。
反ワクチン主義者(あるいはワクチン絶対主義者)がこの映画を観れば私が言いたいことに気付いてくれるでしょうか。
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|2023年9月3日 日曜日
2023年9月3日 うつ病があれば炎症性腸疾患を発症しやすい
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Diseases)とは、分かりやすく言えば、「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことです。双方ともいわゆる自己免疫性疾患のひとつで、いったん発症するとかなり長期の治療が必要となります。
双方とも、腹痛、下痢、血便、微熱、倦怠感などが続き、生活に支障がでます。がんのリスクにもなり、若くして大腸、さらには肝臓の手術が必要になることもあります。日本を含む先進国で過去数十年増加傾向にある疾患です。
さて、今回発表されたのが「うつ病を患っていれば、将来炎症性腸疾患を発症するリスクが上昇する」という研究です。
医学誌「Inflammatory Bowel Diseases」オンライン版2023年6月10日号に掲載された論文「うつ病と炎症性腸疾患との関連:体系的レビューとメタアナリシス(Association of Depression With Incident Inflammatory Bowel Diseases: A Systematic Review and Meta-Analysis)」を紹介します。
研究の対象はこれまでに発表されているうつ病と炎症性腸疾患の関連について調べた研究5,307件です。これらから基準に合致するものを選び出して解析しなおしました。結果、次のようなことが分かりました。
・うつ病があればクローン病を発症するリスクが1.17倍に上昇する
・うつ病があれば潰瘍性大腸炎を発症するリスクが1.21倍に上昇する
・うつ病を発症した数年後に炎症性腸疾患を発症しやすい
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研究の対象が過去に発表された5,307件というこの数字がかなり大きいことに驚かされます。これは、炎症性腸疾患の患者さんがうつ病も患っているケースが少なくないと気付いた医師がかなり多いことを示しています。
「どうやら炎症性腸疾患はうつ病と関連がありそうだ。ではどれくらい関連性があるのだろう」と考えた研究者が少なくないということです。
ただし、この考えには昔から論争がありました。「そのような慢性疾患に罹患して平静を保てるはずがない。次第によくうつ状態が出現してもおかしくない」、「いや、そうではなくて炎症性腸疾患を発症したのが後だ。だから関係はない」、などです。
また、これらの疾患を持っている人は性格が似ている、という医療者もいます。さらに、炎症性腸疾患だけでなく、関節リウマチや橋本病など他の自己免疫疾患にも性格の特徴があると言う人もいます。
私個人としては先入観を持ちたくないという理由もあって、日頃の臨床ではこういうことを考えないようにしていますが、これらの疾患を持っている人の精神状態には注意を払うようにしています。
その結果、炎症性腸疾患の治療は(生物学的製剤など高価な薬が必要になるため)専門医を受診してもらい、その他の症状や疾患は谷口医院で診ている、というケースが非常にたくさんあります。そして、それら「症状や疾患」のなかにはうつ病も含まれていることが少なくありません。
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