2013年7月10日 水曜日

2011年5月27日(金) エイズ発症者が過去最多に

 厚生労働省は毎年5月末に前年のHIV/エイズ関連のデータを発表します。昨年(2010年)1年間のエイズ発症者(エイズを発症して初めてHIV感染がわかったケース、いわゆる「いきなりエイズ」)が469人でこれは、昨年の431人から38人の増加となり、そして過去最多です。

 2010年に新たにHIV感染が判った人(まだエイズを発症していない感染者)は、1,075人で、これは2009年の1,021人より54人の増加となります。「新たにHIV感染が判った人」は2002年から増加の一途をたどっていて、2009年に初めて減少に転じましたが、これは感染者が減ったのではなく、検査を受ける人が減ったことが原因だと考えられています。そして、2010年には再び増加に転じています。

 全国の保健所などでおこなっている無料のHIV抗体検査は、2009年は新型インフルエンザの影響で減少したことが指摘されましたが、2010年は2009年をさらに13%下回っているそうです。同時に、保健所などへの相談件数も減少しているそうです。

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 HIVへの関心が低下し、検査件数が減少しているのにもかかわらず新規で発見される人は増えている。そして「いきなりエイズ」も増加している・・・。

 これは、言うまでもなく、「HIVに感染しているのに気づいていない人が増加している」ことを示しています。

 太融寺町谷口医院でも、(エイズを発症して受診という人はほとんどいませんが)何らかの症状からHIV感染が発覚するケースは2009年、2010年と比べて今年(2011年)は大きく増えています。2007~2008年は、発熱や倦怠感といった症状から、あるいは無症状でもキケンな行為があったことから自分自身でHIV感染を心配して受診、という患者さんが多かったのですが、2009年以降は、患者さん自身はHIVなどとは夢にも思っていない、というケースが増えています。

参考:医療ニュース
2010年6月10日「HIVの「検査数」が大幅減」
2009年6月20日「日本のHIV、増加傾向は変わらず」

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2013年7月9日 火曜日

2011年5月30日(月) 不活化ポリオワクチンがついに導入か

 ポリオのワクチンは、世界的には「不活化」を使うのが一般的になってきているのに日本ではいまだに「生」を使っていることが問題である、ということはこのサイトで何度かお伝えしてきましたが(下記医療ニュース参照)、ついに日本でも不活化ワクチンが導入される見込みがでてきました。

 2011年5月26日に開催された厚生科学審議会感染症分科会の予防接種部会で、早ければ2012年度にも不活化ポリオワクチンが導入される見通しが示されました。

 厚生労働省によりますと、国内ワクチンメーカー4社が不活化ポリオワクチンとDPTワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合ワクチン)を混合した、言わば「4種混合ワクチン」を開発中で、2011年中に承認申請がおこなわれる見込みだそうです。

 ただし、DPTワクチンをすでに接種している人が、この新しい4種混合ワクチンを接種することに問題はないのかという懸念があります。そこで、厚生労働省では、不活化ポリオワクチン単独のワクチンを国内で開発すべきだと提案しています。同省の担当者は、「今後、不活化ポリオワクチン単独のワクチン開発に協力していただける企業を探していく」とコメントしているそうです。(報道は5月26日の読売新聞など)

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 まず基本的なことをおさらいしておくと、生ワクチンの問題は、①非常に稀ではあるがポリオに感染したときと同じような麻痺症状がおこりうること、②成人には接種できないこと、です。このため、一部の小児科クリニックや旅行医学を積極的に実践しているクリニックでは不活化ポリオワクチンを輸入して接種しています。(尚、2001年度からの10年間で、生ワクチンでポリオウイルスに感染したときと同じような症状がでた例は15例、生ワクチンを接種した児童の便などから感染したと思われる二次感染が6例報告されています)

 しかし、単独ワクチンよりも4種混合ワクチンが先に開発されたのはなぜなのでしょうか。混合ワクチンというのは、単純にそれぞれのワクチンを足してつくられるわけではありませんから、単独ワクチンよりも4種混合ワクチンの開発が先におこなわれたことに合理的な理由があるのでしょう。しかしながら、なぜ厚生労働省は国内メーカーにこだわり、海外で実績のある不活化ポリオワクチンを輸入しないのか、という疑問が私にはぬぐえません。

 国内メーカーがこれから開発するよりも、すでに海外で実績のあるワクチンを輸入して使う方がずっと現実的だと思うのですが、政治的な問題(例えばワクチンメーカーが官僚の天下り先になっているとか・・・)を疑いたくなります。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2010年12月17日「ポリオ不活化ワクチンを求め患者団体が署名提出」
2010年2月22日「神戸の9ヶ月男児がポリオを発症」
メディカルエッセイ第90回(2010年7月)「理想のワクチン政策とは・・・」

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月3日(金) WHOが携帯電話の危険性を公表

 携帯電話は脳腫瘍のリスクかもしれない・・・。これは随分前から指摘されていたことで、本格的に大規模調査がおこなわれたことは以前このサイトでお伝えしました。(下記医療ニュース参照)

 その調査結果を簡単に振り返っておくと、約13,000人を対象とした10年間にわたる国際調査がおこなわれ、結論は「携帯電話使用と脳腫瘍の間に相関関係は認められなかった」というものです。しかし、その調査をよく読むと、累積で1,640時間以上携帯電話を使用すると、神経膠腫(グリオーマとも呼ばれます)という脳腫瘍の発症率が1.4倍になると記されており、これは1日30分の通話を9年間続ければ達成してしまう時間である、ということを「医療ニュース」のコメントで述べておきました。

 この調査でWHO(世界保健機関)やFDA(米食品医薬品局)は、「通常の携帯電話の使用では脳腫瘍のリスクは上昇しない」と発表したわけですが、2011年5月31日、WHOはこの調査結果の解釈を変えて、発ガン性があるかもしれない(possibly carcinogenic)との見解を公表しました。

 日本の総務省は、6月1日、このWHOの見解を受けて、2003年に同省の専門委員会が発表した研究結果を基に、「現時点では問題がないと考えている」とコメントしたそうです。(報道は6月2日の読売新聞)

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 possibly carcinogenicというのは発ガンリスクとしては上から3番目にカテゴライズされており(一番高いのはcarcinogenic、次がprobably carcinogenicです)、他のpossibly carcinogenicに相当するものの例としてタルクパウダーに対する卵巣ガンがあります。

 私の知る限り国内外のマスコミはコメントしませんでしたが、上記に述べた通り、1日30分の通話を9年間続ければ、脳腫瘍のリスクとなる1,640時間を越えることになりますから、実際は長期間でみたときにはリスクがあると考えるのが妥当ではないでしょうか。

 総務省は「現時点では問題がない」としていますが、我々が知りたいのは「現時点」ではなく「将来のこと」です。

 最近も、別のことで「現時点では問題がない」という表現を政治家や官僚の見解でよく聞くような気がするのですが、その場しのぎの言い訳に聞こえてしまうのは私だけでしょうか・・・。

(谷口恭)

注:WHOの発表のニュースは日本のマスコミでも報道されていますが、Washington Postの記事が分かりやすいです。(下記URLで読めます)
http://www.washingtonpost.com/national/cell-phones-possibly-carcinogenic-who-says/2011/05/31/AGRktZFH_story.html

参考:医療ニュース
2010年5月31日「携帯電話で発ガン性は一応認められず・・・」
2010年1月23日「携帯電話がアルツハイマーを予防?」
2010年7月12日「寝る前の携帯電話はNG」

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月3日(金) 出生率上昇、人口減12万人、自殺3万人以下に

 6月1日、厚生労働省は2010年の人口動態統計(概数)を発表しました。

 合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと推定される子供の数)は1.39に上昇しています。合計特殊出生率は、2005年に過去最低の1.26を記録し、2006年から2008年は上昇、2009年は2008年と同様でした。(注)

 出生率が上昇した原因として、同省は、「30代後半及び第2子以降の出産が増えたため」と分析しています。しかしながら、同省は、「上昇に転じたものの、少子化傾向は今後も続くとみられる」とコメントしています。

 出生率を年齢別にみると、10代後半~20代前半は2009年より低下し、20代後半~40代後半は上昇しています。第1子出産時の平均年齢は29.9歳でこれは2009年より0.2歳上昇したことになります。

 都道府県別では沖縄が最高で1.83(2009年も首位は沖縄で1.79でした)、次いで島根と宮崎が1.63、さらに熊本1.61、鹿児島1.60と続きます。最低は東京の1.12です。

 出生数から死亡数を引いた自然増減はマイナス125,760人で、10万人を超えたのは初めてとなります。内訳は、出生数が1,071,306人、死亡数が1,197,066人です。

 死因の1位はガンの353,318人で、これで30年間連続の首位となります。2位が心疾患の189,192人、3位は脳血管疾患で123,393人です。

 結婚は700,213組で2009年より7,521組の減少、離婚は251,383組で2009年より1,970組の減少となります。

 自殺は1,183人減の29,524人で、3万人を下回ったことになります。(注2)

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注1:合計特殊出生率を詳しくみると、2004年1.29、2005年1.26、2006年1.32、2007年1.34、2008年1.37、2009年1.37、2010年1.39です。

注2:警察庁のデータでは、2010年の自殺者は3万人を越えています。(下記医療ニュース参照) 厚生労働省と警察庁で自殺者数の発表が異なるのは、統計の取り方が異なるからです。厚生労働省は、市町村に届出された「死亡届」を基にしているのに対し、警察庁は、死亡届が出された後に自殺と判明したケースも「自殺者」に含めています。そういう意味では、警察庁の統計が実態をより正確に示していると言えるでしょう。

参考:医療ニュース
2010年6月7日「2009年の合計特殊出生率は横ばい」
2011年3月8日「日本の自殺者、13年連続で3万人超」

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月12日(日) 糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク

 2011年6月9日、フランス当局(Afssaps)は、ピオグリタゾン塩酸塩を有効成分とする医薬品の新規処方をしないように通達しました。この医薬品が膀胱ガンの発生リスクを上昇させるという疫学研究が発表され、その結果をフランス当局が重要視したというわけです。

 ピオグリタゾン塩酸塩を有効成分とする医薬品というのは、比較的新しい糖尿病の治療薬で、商品名で言えば、アクトス、ソニアス、メタクトなどです。

 フランスでは、医師に対しては新規処方をしないように通達をおこない、すでにこれら薬剤を服用している人たちには、自己判断で服用を中止せず、主治医に相談するように注意を促しています。

 また、フランスのこの発表を受けて、これら薬剤の日本での販売元である武田薬品工業が日本の患者さんに対する通達をおこなっています。(下記注参照)

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 ピオグリタゾン塩酸塩は、ここ数年間で最も注目されていた糖尿病の治療薬のひとつと言えます。それだけに、我々医師にとってはこのフランスの発表は非常に強いインパクトがあります。

 ピオグリタゾン塩酸塩に限らず、糖尿病の治療薬は自己判断で中止するのは極めて危険です。フランス当局や武田薬品が発表しているように、現在服用している人はまず主治医に相談すべきです。(当院でこれら薬品を処方している患者さんには次回の診察時にお話しさせていただきます)

(谷口恭)

注:武田薬品の患者さんに対する案内は下記URLで読むことができます。

http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_1_p.pdf

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月12日(日) 世界の障害者は10億人

 世界で10億人以上が何らかの障害を抱え、このうち日常生活や社会生活で著しい不自由を感じている人が1億9千万人にも上る・・・

 これは世界保健機関(WHO)と世界銀行が、2011年6月9日に世界に向けて発表した報告書に紹介されている数字です。障害者に関する世界的な規模の報告書が発表されたのは初めてだそうです。

 報告書によりますと、経済協力開発機構(OECD)加盟国では、障害者の雇用率が44%で、障害のない人々の雇用率75%と比べると極めて小さいことが指摘されています。また、同報告書では14歳までの子供の障害者は最大で1億5千万人と推定されており、学校施設の不備や教師不足などの理由で、教育を受ける機会が妨げられていることが述べられているそうです。

 障害者権利条約には現在約100ヶ国が批准していますが、日本は2007年に署名したものの批准はしていません。

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 現在世界の人口は70億を少し切るくらいですから、障害者が10億人であれば、7人に1人が何らかの障害を持っているということになります。ですから、障害者との共存・共生というのはむしろ当たり前なわけで、7人以上の組織のなかで障害者がひとりもいないとすればそちらの方が不自然ということになります。
 
 それにしてもなぜ日本は障害者権利条約に批准しないのでしょうか。ちなみに、人権に対する意識が低いことがしばしば指摘される中国はすでに批准しています。

(谷口恭)

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月15日(水) 糖尿病薬、アクトスに続きビクトーザも注意喚起

 武田薬品の糖尿病治療薬「アクトス」などが、膀胱ガンのリスク上昇につながるという理由で、フランスでは新規処方がされなくなった、という情報を先日お伝えしましたが(下記医療ニュース参照)、ドイツでも同様の措置がとられることになったようです。

 報道によりますと、ドイツで医薬品の認可を担当する行政当局は、フランスの決定を受けるようなかたちで、武田の独子会社に新規処方の停止を指示しています。同時に、現在服用中の人には「医師の相談なしに服薬をやめるべきではない」と通達したそうです。(報道は6月15日の日経新聞)

 フランスとドイツが、実質「新規処方の禁止」をしたことになりますが、欧州の他国では現時点では発表がありません。6月20~23日に開催される欧州医薬品庁(EMA)の会議で検討されるそうです。

 また、糖尿病の新薬として期待されていたノボノルディスクファーマ社の「ビクトーザ」(一般名はリラグルチド)が、米国で、一部の甲状腺ガンと急性膵炎のリスクになることが、同社米国法人とFDA(米国食品医薬品局)により注意喚起されています。

 ビクトーザの甲状腺ガンと急性膵炎のリスクは以前から指摘されていたのですが、今回あらためて、同社とFDAは、ビクトーザについて「生活習慣の改善で十分な血糖コントロールが得られない糖尿病患者の第1選択薬として用いることを推奨しない」と米国内に呼びかけています。

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 ノボノルディスクファーマ社とFDAがおこなった「ビクトーザ」の注意喚起は、フランスの「アクトス」新規処方中止の影響を受けたのかどうかは不明ですが、糖尿病を患っている人からみれば、今までにない期待の治療薬と言われていたもの2つが立て続けに注意喚起されたことは軽視できないでしょう。

 武田薬品、仏当局、独当局は、現在アクトスなどを使用している人には「すぐに止めないで」と案内していますし、ビクトーザを自己注射している人が自己判断で中止するのは極めて危険です。まずは主治医に相談するようにしなければなりません。(当院でビクトーザを処方している人は現在いません。アクトスを処方している患者さんには次回の来院時に説明いたします)

 
(谷口恭)

注1: 武田薬品が発表している案内は下記を参照ください。
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201106_1_p.pdf

注2:「ビクトーザ」のノボノルディスクファーマ社とFDAによる注意喚起は下記を参照ください。尚、日本のノボノルディスクファーマ社は現時点(2011年6月15日)では、ウェブサイトに今回の件に関する案内を掲載していないようです。

http://www.fda.gov/downloads/Safety/MedWatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/UCM258828.pdf

http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/SafetyAlertsforHumanMedicalProducts/ucm258826.htm

参考:医療ニュース2011年6月12日 「糖尿病治療薬「アクトス」が膀胱ガンのリスク」

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月17日(金) 精神疾患の労災申請・認定が過去最多

 過重労働や人間関係のトラブルからうつ病などの精神疾患にかかって労災申請する人が年々増えていることがしばしば指摘されますが、2010年の労災申請は過去最多の1,181人となっています。6月15日、厚生労働省が公表しています。

 2009年の申請数が1,136人ですから45人の増加ということになります。認定されたのは308人で、2009年の234人よりも74人増えていることになります。

 厚労省によりますと、精神疾患による労災申請の多い業種は「社会福祉・介護」が85人、「医療」84人、「情報サービス」59人の順で、認定数も同じ傾向にあります。精神疾患になった人のうち、未遂を含む「自殺」は申請段階で171人、認定されたのは65人です。

 認定された308人の発症の原因や引き金となった「出来事」をみると、最も多いのが「仕事の内容・量に大きな変化があった」で41人(うち自殺が12人)、次いで「嫌がらせやいじめを受けた」が39人(自殺は5人)となっています。

 心筋梗塞や脳梗塞など「脳・心臓疾患」で労災申請した人は前年より35人増の802人で、4年ぶりの増加となります。しかし認定数は8人減の285人にとどまっています。そのうち、死亡で認定された人は113人で、こちらは7人の増加となります。

 脳・心疾患の労災認定が多い業種は、貨物運送(宅配やトラック運送)の57人、旅客運送(バスやタクシー)の17人などです。認定された人の1カ月の平均残業時間は80~100時間が92人、100時間以上が148人で、そのうち160時間以上も20人となっています。

 また、当初は労災と認められなかったものの審査請求などを経て逆転認定されたのは、精神障害で15人(うち自殺7人)、脳・心疾患で11人(うち死亡6人)となっています。

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 2010年のすべての労災申請数のなかで精神疾患に占める割合が6割に上っていることになります。精神疾患の労災申請者数を経時的にみてみると、2007年952人、2008人927人、2009年1,136人、2010年1,181人と、着実に増加していることが分かります。認定されたのは、2007年268人、2008年269人、2009年234人、2010年308人ですから、2009年にいったん減少しましたが2010年は再び増加に(それも大幅に)転じたことになります。

 改正された労働安全衛生法では、すべての事業者は、長時間労働者(通常は月の残業が80時間以上)には産業医による面接を受けさせなければならないことになっています。私も医師会などを通じて産業医の仕事をしていますが、従業員の健康管理に熱心な企業とそうでない企業の差がはなはだしい、と感じています。実際、月の残業時間が80時間どころか100時間を優に超えているのに、事業者から面接の話すらしてもらっていない、という人も少なくありません。

 今回の厚生労働省の発表で興味深いのは、精神疾患での労災申請者の業種が「介護」と「医療」で最も多いということです。本来なら、もっとも従業員の健康に注意していなければならないはずのこれらの業種で心の病を抱えている人が多いということにアイロニーを感じます。

(谷口恭)

参考:医療ニュース
2010年7月17日「「心の電話相談」が過去最多」
2009年6月11日「職場のストレスで「心の病」が過去最多」

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2013年7月9日 火曜日

2011年6月25日(土) リンゴ病が過去10年で最多

 今年(2011年)はリンゴ病が4年ぶりに増加していることを以前(2011年2月)にお知らせしましたが(下記「医療ニュース」参照)、その後も増加傾向にあり、6月6~12日の週の報告数は、2000年以降の同時期で最多となっていることが国立感染症研究所感染症情報センターにより発表されました。これまで過去10年で最も多かったのは2007年でしたが、この週に関しては2007年を超えているというわけです。

 リンゴ病(正式名称は「伝染性紅斑」)は、4~6年周期で流行を繰り返すと言われており、流行の年には年明けから7月上旬くらいまで感染者が増加します。

 都道府県別のデータをみると、宮崎が最も多く、群馬、山梨、埼玉、栃木と続いています。

 リンゴ病の原因ウイルスは、ヒトパルボウイルスB19と呼ばれるものです。感染してから10~20日後に、小児であれば、ほっぺたに赤い発疹が出現し、続いて手や足に網目状の赤い発疹が現れます。小児の場合はほとんどが重症化せずにすぐに治りますが、成人の場合は強い関節痛や高熱などが生じることがあります。また、妊婦さんが感染すると、流産を起こすことがあります。

 このため国立感染症研究所感染症情報センターは、「保育園や幼稚園、小学校などで流行している場合には、妊婦の施設内への立ち入りを制限することを考慮すべきだ」とコメントしています。

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 リンゴ病が成人に感染した場合、特徴的なほっぺたの紅斑がでないことがありますし、上下肢の紅斑も典型的なものにならないこともあります。さらに、パルボウイルスB19の抗体検査は保険診療では妊婦さんにしか認められておらず、妊娠していない女性や男性の診断をつけるのは(検査ができないため)非常に困難です。(妊婦さんには絶対に感染させてはいけない感染症ですから、少なくとも妊婦さんと接することがあるリンゴ病が疑われる症例については保険診療で検査できるようにすべき、と私は以前から考えていますが、今のところ改善される様子はありません・・・)

 国立感染症研究所感染症情報センターが言うように、妊婦さんが幼稚園や保育園などに出入りするときは充分に注意しなければなりません。「2番目の子供を妊娠中のお母さんが幼稚園に子供を迎えにいったときに感染・・・」というケースがありうるからです。

(谷口恭)

参考:医療ニュース2011年2月21日「リンゴ病がアウトブレイク!」

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2013年7月9日 火曜日

2011年7月10日(日) 手足口病がアウトブレイク

 リンゴ病がアウトブレイクしているという情報はすでにお伝えしましたが、今年は手足口病も流行しており過去10年で発症者最多となっています。しかも重症例の報告も相次いでいます。

 国立感染症研究所の発表によりますと、6月13日から19日までの1週間の小児科定点医療機関(全国に約3千ヶ所あります)当たりの患者報告数は2.60で、前の週の1.68を大きく上回っています。過去10年間の同時期で最も多かったは2001年の1.89ですから、今年は過去10年間で最も流行の年、ということになります。

 地域ごとにみてみると、報告最多が佐賀で、以下、福岡、島根、岡山、香川、熊本と続き、西日本で顕著であることが分かります。

 患者数急増には拍車がかかっているようで、7月7日には京都市で流行警報が発令されています。同市では、1995年以来16年ぶりの大流行だそうです。

 今年の手足口病は例年と異なる重要な点が2つあります。

 1つは、成人にも発症例が多いということです。手足口病といえば、子供の手足と口に発疹ができ喉が痛くなる夏風邪のひとつ、というのが多くの人のイメージだと思いますが、今年は20代の成人にも多発しています。

 もうひとつは、重症例が多いというものです。皮疹も手と足だけでなく、殿部(おしり)や前腕、顔面などに広範囲に広がる症例も報告されています。さらに、爪の変形や、ひどい場合は爪が脱落する例の報告もあるそうです。

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 手足口病が重症化すると、稀ではありますが、髄膜炎や心筋炎を起こすこともあり、こうなると命にかかわります。

 手足口病の原因ウイルスは複数あり、日本ではコクサッキーA16とエンテ
ロウイルス71の2つが多いとされていますが、今年はコクサッキーA6が多く報告されているようです。しかし、原因となるウイルスが特定できたところで、そのウイルスを退治する方法があるわけではなく、治療は解熱剤や点滴といった対症療法が中心となります。

 手足口病は、咳やくしゃみ、もしくは便を介して比較的簡単に感染します。潜伏期間は2~7日程度で、多くは1週間程度で治りますが、今年は感染予防対策を例年にも増してしっかりとおこなう必要があります。

(谷口恭)

参考:医療ニュース2011年6月25日 「リンゴ病が過去10年で最多」

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