2013年6月15日 土曜日

第66回 メンソールの幻想と私の禁煙 2009/2/21

2009年2月16日、神奈川県の松沢知事は、全国初の禁煙条例案を県議会に提案しました。現在の議席で過半数を占める自民・公明両県議団の中に慎重意見が多いこともあり、成立するかどうかは”微妙”なところですが、「ついに禁煙ムーブメントもここまで来たか・・・」と感じます。

 県会議員に慎重意見が多いのは、もしかすると県会議員のなかにも喫煙者がいるからかもしれません。というのも、日本人の喫煙率は、全体では減少傾向にあるとはいえ(JTの調査によれば13年連続で過去最低更新)、男性だけでみれば今でも約4割は喫煙者だからです。とはいえ、今後も喫煙率は減少していくでしょうから、禁煙条例が各地で成立していくのは時間の問題ではないか、と私はみています。

 太融寺町谷口医院にも、禁煙治療希望の患者さんはコンスタントに来られます。他の病気とは異なり、禁煙(病名で言えば「ニコチン依存症」)は、病気(ニコチン依存症は”病気”です)が治ればクリニックには来なくなります。したがって、どれくらいの患者さんが禁煙に成功したのかを正確に把握するのは困難なのですが、私の印象で言えばほとんどの人が成功しているようです。実際、「禁煙外来を始めたけど挫折してしまって・・・」という患者さんはほとんどいません。(来なくなっただけ、という人もいるでしょうが・・・)

 太融寺町谷口医院は、もちろん禁煙治療だけをしているのではなく、様々な病気の人が来られます。この季節は風邪と花粉症が多いのですが、以前禁煙外来を2~3回程度続けていた人が、こういった症状で来られることがあります。そのときに、「禁煙はどうなりましたか」と聞くと、ほとんどの人は「成功しました!」と答えてくれます。

 禁煙外来をしていると「成功した理由」を聞くのが楽しみになります。多くの人は、「薬がよく効いて、そのうち薬をやめてもタバコをほしくなくなりました」と答えますが、なかには、「先生も何度も禁煙に失敗した経験があると聞いたことが励みになって成功しました」と言われることもあります。ユニークなところでは、「あのとき先生にムカついたことが勝因です!」と言われたこともあります。

 私は禁煙を開始する人に対して必ず「動機」を聞きます。禁煙に成功しやすいのは「自分(や家族)が病気をしたから」、「子供(や孫)にタバコやめてって言われたから」、とかいったものが多く、禁煙の目的がはっきりしていればいるほど成功しやすい、ということが言えます。ところがこの患者さんの禁煙の動機は、「タバコはもう流行らないと思うから」というものでした。

 私はこの言葉を聞いたときに、「そんな理由ではうまくいかないと思いますよ」と言って、「禁煙開始はもう少しはっきりした理由ができてからでいいんじゃないですか」とまで言いました。ところが、この患者さんは、どうしても禁煙を開始したい、と言ったために禁煙補助薬の処方をおこないました。

 およそ半年後に別の理由でクリニックを受診したこの患者さんは診察室に入るなり私に先のセリフを言ったのです。この人は、私が「うまくいかないと思う」と言ったことに対して相当”ムカついた”ようで、私を見返すことを目標にして禁煙に成功したというのです。

 私としては、ムカつかせたことを反省すると同時に、禁煙に成功した患者さんがひとり増えたことに嬉しさも感じましたが、やはりこのケースは例外と考えるべきだと思っています。禁煙には「確固とした動機」が必要なのです。

 ですから、禁煙治療希望で受診された患者さんに対しては、初診時に「本当にやめる気があるのか。禁煙補助薬は確かによく効くが確固とした動機と強い意志がなければそのうちに失敗する。禁煙を成功させるためにカウンセリングも含めて医師としてできる限りのことをするが禁煙の主役はあなた以外にはない」、ということを言います。その結果、「今はちょっと無理かな・・・という気がします」という人には、「強い意志ができたらまた来てください」と言います。

 以前、ある医師に「谷口医院の禁煙成功率は9割以上だと思う」という話をすると、「なんでそんなに高いの?」と聞かれたことがありますが、この理由は、「初めから本当にやる気のある人だけを選別しているから」であって、私の医師としての臨床能力が高いわけではありません。

 ところで、次の言葉を聞いてあなたはどのようなものが思い浮かぶでしょうか。

 突き抜ける青空、エメラルドグリーンの透き通る海、どこまでも続く白い砂浜・・・。

 これは私のタバコに対するイメージです。「なんでタバコなの?!」と感じる人もいるでしょうが、このような”さわやかな夏”のイメージは私の頭のなかではタバコに一致するのです。

 その理由はCMです。今は規制がありますからタバコのCMというものはほとんど見かけませんが、1980年代にはゴールデンタイムでさえタバコのCMが流れていましたし、ファッション誌を含めて様々な雑誌には見開きでカラーのきれいな写真を使った宣伝がなされていました。

 私が特に”単純”なだけかもしれませんが、CMによって私の頭の中では「タバコ=さわやかな夏」という図式ができあがってしまいました。そのため、私はタバコ1本で、リゾート地でくつろいでいるところを想像することができます。そして、タバコ以外にこれほど簡単にリラックスできるものはないのです。

 ところで、これほどタバコ1本でリラックスできるのは本当にニコチンの作用だけなのか・・、という疑問が以前から私にあったのですが、最近その答えとなるかもしれない研究が発表されました。

 その研究では、「メンソールのタバコは、メンソールを含まないタバコよりもはるかに禁煙が難しい」と結論されています。

 『The International Journal of Clinical Practice』という医学誌のオンライン版に掲載された論文でこの研究が報告されています。米国のあるタバコ中毒クリニックを受診した約1,700人を対象に調査したところ、メンソールを吸う喫煙者は、メンソール以外のタバコの喫煙者に比べ、禁煙成功率は半分にしかならなかったようです。また、研究から、「メンソールのタバコを吸う喫煙者は、1日あたりの本数が少ない場合でも禁煙しにくい」ことが明らかとなっています。

 私は1988年から、あるメンソールのタバコをほとんど”浮気”することなく愛していました。そしてそのメンソールのタバコのCMが”さわやかな夏”をイメージするものだったのです。私は何度も禁煙を試みましたが失敗を重ねることになり、ようやく成功したのは太融寺町谷口医院(当時はすてらめいとクリニック)を開院してからという遅さです。

 禁煙に失敗し続けていた私が不思議に感じていたのは、「タバコの本数は多くないし、それほど強くないタバコしか吸っていない。意志は確かに強い方ではないけどもなぜ他人は禁煙に成功して自分は失敗ばかりなんだろう・・・」ということです。最近、この論文を読んでようやく謎が解けたような気がします。

 つまり、私がタバコから離れられなかったのは、ニコチンだけでなくメンソールにも依存していて、メンソールの清涼感が”さわやかな夏”のイメージと重なっていたこともあり、「1本でリゾート地でくつろげるほどのリラックス感」という幻想ができあがっていたのです。

 私にとっての禁煙の最終的な動機は「禁煙外来を始めることになってしまったから」というものです。「なってしまった」というのは、私はクリニックを開院したときにはまだ完全に禁煙できていなかったために、禁煙外来はおこなうつもりはありませんでした。ところが、ある先輩医師から禁煙外来に必要なCOモニターを開業祝いとしていただくことになりました。高価な器械をいただいた以上、禁煙外来を始めざる得なくなってしまったというわけです。これはかなり強い”動機”になりました。このような状況はかなり特殊であり、”動機”を与えてもらったという意味で私は相当幸運であったといえます。

 このように私はかなり特殊な動機で成功できていますが、もう一度禁煙をやり直すとすれば、まずメンソールのタバコからメンソールが含まれていないタバコに変更してみようかなと思います。

 メンソールの身体的な依存性もありますが、それよりも、私の場合、メンソールの清涼感と完全にリンクしてしまっているあの夏のイメージを取り除くことが目的です。

 禁煙成功者にはそれぞれのドラマがあります。あなたがもし喫煙者ならそろそろ新しいドラマをつくってみてはいかがですか。

参考:
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1742-1241.2008.01969.x/abstract
禁煙外来

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2013年6月15日 土曜日

第65回 突然やってきた脂質異常症 2009/1/21

それは何の前触れもなくやってきました。

 太融寺町谷口医院では、院内の定期健康診断というものがあります。これは、通常の企業と同じように従業員の健康診断を年に一度おこなう健診で、心電図、胸部X線、尿検査、そして血液検査があります。

 私はこれまでの人生で、ひどい下痢や高熱のときなど以外では血液検査でほとんど異常が出たこともなく、健診での血液検査の異常などというのは、年齢的には出現してもおかしくないということは理屈では分かっていても、まさか自分にはないだろうと思っていたのです。

 ところが、です。返ってきた検査結果を見て私は愕然となりました。

 なんと、総コレステロール値が280mg/dL!

 すぐにでも薬を開始しなければならないような異常高値です。これには本当にショックを受けました。太融寺町谷口医院にもコレステロールが高い患者さんは毎日のように受診されています。私はそのような患者さんに対して、薬を処方するだけでなく生活指導もおこなわなければならない立場です。それなのに、私自身が高コレステロール血症をもっており、それも決して軽症ではない数値なのです。

 コレステロールは数値にもよりますが、総コレステロールが280mg/dLというのは、もう「食事療法や運動療法で・・・」とか言っているレベルを超えています。そういった生活習慣の改善をしなければならないのはもちろんですが、それらと同時に薬を始めなければなりません。

 早速私は薬を飲み始めることにしました。コレステロールの薬は、非常によく効くものがいくつもありますが、私はまずは標準的な薬を1錠だけ始めることにしました。ちょうど2週間後に採血をすると、私のコレステロール値は正常範囲におさまっていました。

 それにしても、なぜ前年までの血液検査では異常がなかったのに、今冬になって突然コレステロールの値が急上昇したのでしょうか。

 その最大の原因はおそらく不規則な食事でしょう。中性脂肪が運動をしたり体重を減らしたりすることによって大きく改善することが期待できるのに対し、コレステロール(悪玉コレステロール)は食事の内容により大きな影響を受けます。

 実は私はちょうど今から1年くらい前、2008年1月頃から1日に1食しか食べないようになりました。これは別に変な健康法を始めたからではなく、食べる時間を捻出できなかったからです。

 午前の診療が終わり、それから事務仕事をしているとすぐに午後の診察が始まります。昼食をとっている余裕はありません。午後の最後の患者さんの診察が終わって、それからカルテ記載や写真の整理、検査値の見直しなどをしていると通常は日付が変わります。それから、読まなければならない学会誌などを手にもってご飯を食べにいきます。朝ごはんを食べる時間があるなら、その時間を睡眠か勉強に使いたいですから、その頃には朝食も抜いていました。ということは1日1食、深夜の食事で1日に必要な栄養をすべて取らなければなりません。最も効率よくカロリーを摂取するのは高脂肪食が最適です。というわけで、私の食事はいつのまにか1日1回、深夜の高脂肪食になっていました。

 そんな夜中に高脂肪食なんてどこで食べるの?と感じる人もいるかもしれませんが、太融寺町谷口医院は東梅田のど真ん中、深夜まで開いている食堂はいくらでもあります。私は、今日は牛丼、昨日はカツカレー、その前は焼き飯と酢豚、・・・といった感じで、メニューを決めるときはできるだけ高脂肪食のものを選んでいたというわけです。

 寝る前にそんなものを食べて太らないの?と思われる人がいるかもしれませんが、私の計算ではカロリー過剰摂取にはならないのです。私が夜中に食べていた油っこい食事はおなかいっぱい食べても1,200~1,600キロカロリー程度です。私の年齢・体重から考えて最適なカロリー量は2,000~2,200キロカロリーだと思われます。ですから、夜中に満腹まで食べて、それ以外に缶ビールを飲むとかお菓子を食べるとかして、ちょうどいいくらいなのです。実際、私の体重は1年間でほとんど変わりませんでした。

 ここで脂質異常症の整理をしておきましょう。

 まず、「脂質異常症」という言葉ですが、以前は「高脂血症」と呼ばれていましたし、現在も脂質異常症というよりは、高脂血症という言い方の方が一般的かもしれません。(「脂質異常症」という表現は2007年2月に日本動脈硬化学会が発表したガイドラインで初めて登場しました)

 脂質異常症には主に3つに分けられます。高LDL血症、低HDL血症、高中性脂肪血症です。高LDL血症というのは、LDL(悪玉コレステロール)が異常高値を示す病態で、私もこれに相当します。

 先に、私の総コレステロールの値は280mg/dLだった、と述べましたが、最近は総コレステロール値を計測することは少なくなってきており、太融寺町谷口医院でも通常は患者さんの総コレステロール値は測定せずに、LDL、HDL(善玉コレステロール)、中性脂肪(TG)の3つを測ります。では、なぜ私は自分自身に対しては総コレステロール値を計測したかというと、これは健康診断での測定だからです。健康診断の詳細を規定している労働安全衛生法による指針が、LDLでなく総コレステロール値になっているからです。

 高LDL血症、低HDL血症、高中性脂肪血症の3つを比較した場合、臨床的に最も多いのが私と同じ高LDL血症です。高LDL血症は、肥満やメタボリックシンドロームと合併することも多いですが、そうでない場合も少なくありません。例えば、20代(なかには10代の人もいます)の痩せている人でも驚くほど高いLDLを示す場合があります。これは、食べ物が悪いのではなく、遺伝的に高いLDL値となっていることが考えられます。

 脂質異常症には自覚症状がありません。自覚症状が出るとすれば、動脈硬化が進行し、脳の血管がつまって半身麻痺になったり、心臓の結果がつまって突然倒れたりするような場合です。ですから、早期発見、早期治療が大切というわけです。

 もちろん予防が最も大切なのは言うまでもありません。コレステロールや油の多い食べ物はできるだけ避けなければなりません。

 しかし、一度できあがった食生活を改善するのは簡単ではありません。私は薬の力でLDLの値は下がっていますが、一年間の暴食のせいで、私の味覚はすっかり高脂肪食に慣れてしまったようです。

 今から、あぶらっこいものなしの食事にできるだろうか・・・。今の私の悩みのひとつです・・・。

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2013年6月15日 土曜日

第64回 ”臭いが気になる”病気 2008/12/19

自分の臭いが気になるんです・・・

 そう言ってクリニックを受診する患者さんがときどきいます。臭いの原因は様々ですから、こういった患者さんを診察するときには、その臭いの原因を明らかにして治療をおこないます。

 一番多いのが「脇の臭いが気になる」というものです。こういった患者さんを診るときには、まずは脇を露出してもらい臭いを確認し、必要であれば脇を綿棒でぬぐって細菌感染の程度を調べることもあります。なぜ臭いが発生するかというと、過剰に分泌されたアポクリン汗が、脇に常在している細菌によって代謝・分解された産物が臭いの元となるからです。治療が必要なほどの臭いがあれば(これを「腋臭症(えきしゅうしょう)」と言います)、治療が手術になりますから、適切な医療機関を紹介することになります。

 次に多いのが「口臭が気になる」という訴えです。口臭だけならまず歯科医院を受診するでしょうから、当院でこのような症状を訴える人は、別の病気で受診をし、”ついでに”日ごろ気になっている口臭について相談されることが多いようです。この場合は、まず歯肉を観察します。歯肉が赤く腫れていればピンセットなどでその部分を刺激してみます。痛みを訴えたり、出血があったりすれば歯周病(昔の言い方では「歯槽膿漏(しそうのうろう)」)を疑い、歯科医を受診してもらいます。

 歯周病ではなく口臭が気になる人で、胃の不快感や胸やけ、あるいはゲップが多いという症状があれば胃薬を処方することもあります。

 「外陰部や帯下(おりもの)が臭う」という訴えもよくあります。帯下が臭う病気で一番多いのはトリコモナス腟炎です。トリコモナスは原虫とよばれる小さな病原体で、顕微鏡で観察することができます。したがって、診断はごく簡単です。帯下を少し綿棒などで採取してそのまま顕微鏡で観察すればすぐに診断がつきます。治療も簡単で、トリコモナス用の腟錠(腟に入れる錠剤)を数日から10日間程度使用すればまず間違いなく治ります。よほどの重症(診察室に入ってきた時点で臭うような場合)や腟錠を自分で入れることができない人の場合は、飲み薬を飲んでもらうこともあります。

 トリコモナス以外にも帯下の臭いが悪化する病気があります。有名なクラミジアや淋病は重症化すると臭いがでてくることがありますし、これら以外の細菌(診察室では「雑菌」という言葉を使って説明することがあります)でも、異常増殖するとイヤな臭いとなる場合があります。

 「足が臭う」という場合は水虫であることが多いと言えます。誰でも足に汗をかいて放っておいたり、靴下を履いたまま寝たりすればある程度は臭いがしますが、水虫にかかっていると治療をする必要があります。水虫(白癬菌)も顕微鏡で簡単に診断がつきますから、診断をつけて塗り薬を処方します。重症の場合は飲み薬を併用することもあります。

 これら上に挙げた臭いの多くは、抗菌薬や外科的な処置をおこなえば完全に治るわけですが、それほど頻度は多くないものの悪性腫瘍(ガン)による臭いがある場合もあります。例えば、食道癌や口腔内の癌で口腔から悪臭がする場合がありますし、子宮頚癌も進展すれば悪臭が伴います。

 さて、私が日常の診療でやっかいだと感じている病気に「自己臭恐怖」というものがあります。これは客観的には何の異常もないのだけれど、患者さん自身が「自分は臭うに違いない」と決め込んでいるような状態です。

 こういった患者さんを診たときには、まず身体のどの部分が臭うのかを聞いて、その部分の検査をおこないます。上に述べたような部分の検査をおこない、異常がないことを伝えたとしても納得されないような場合に「自己臭恐怖」という病名について話をすることになります。

 重症の人は、自分の臭いが気になって日常生活もままならなくなることもあります。自分の臭い(もちろん他人は何も感じないのですが)が気になって外出できなくなるような人もいます。こうなれば、「自己臭恐怖」の専門的な治療が必要になります。当院でも重症の患者さんには精神科を紹介することにしています。(ただし実際には精神科受診を嫌がる人もいます)

 ところで、何年か前から「加齢臭」という言葉をよく聞くようになりました。ノネナールという物質が原因なのですが、これは、皮脂腺の中のパルミトオレイン酸という脂肪酸と過酸化脂質が結びつくことによって作られる物質です。(参考までに、医学の教科書には「加齢臭」という言葉はでてきません。「加齢臭」という言葉は2000年に資生堂が命名したそうです)

 この加齢臭を防ぐためのサプリメントやボディシャンプーなどはよく売れているそうで、私自身も患者さんから「どんなものを使えばいいですか」と聞かれることがあります。「加齢臭」自体は、少なくとも保険医療の対象にはなりませんし、寿命を縮めるものでもありませんから、我々としては「病気」とは考えていません。

 ただ、治療しなければならないものではなかったとしても臭いというのは気になるものです。私自身も、医師としてではなく個人として自分の臭いが気になることがないわけではありません。

 最近、ライオン株式会社のビューティケア研究所が、30代の男性の臭いの元を明らかにし発表しました。この臭いの元は、「ペラルゴン酸」という物質で、ノネナールが原因の加齢臭とは異なるそうです。ライオン社がおこなった調査によりますと、「男の曲がり角」は34.7歳にやってきて、「体臭が強くなる」ことを意識する30代男性が少なくないそうです。

 さらにライオン社は、メマツヨイグサ抽出液でこのペラルゴン酸を抑制することを明らかにし、この抽出液を製品化することに成功し、近々発売する予定だそうです。

 この情報を入手した私は、「これが発売されたら早速試してみよう」と思ったのですが、その直後に気づきました。

 私は2か月前に40歳になっていたということを・・・

 私が気にしなければならないのは30代のニオイの元であるペラルゴン酸ではなく、加齢臭だったのです!

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2013年6月15日 土曜日

第63回 日本脳炎を忘れないで! 2008/11/25

一度発症率が減少した後に再び増加し注目されるようになった感染症を「再興感染症」と呼びます。代表的なものが、結核、デング熱、狂犬病などですが、私は日本脳炎が再興感染症に加えられる日が近いのではないかと考えています。

 日本脳炎は、病気の名前が示すように日本に多い感染症でした。実際、1960年代までの日本では年間千人程度の患者数が報告されています。ところが、その後予防接種が普及し、また、水田耕作法や養豚方法が近代化された結果、患者数は激減し、最近の発症は年間10例未満となっています。

 しかし、これは日本国内の話です。日本脳炎はアジア全域に発症が認められます。特に中国南部からインドシナ、インドあたりで多く、毎年約5万人が発症し、約1万5千人が死亡しています。これは狂犬病に次ぐ致死的脳炎と言えます。

 この日本脳炎が再び日本で増加するかもしれない・・・、という話をしたいのですが、その前にこの高い致死率に注目してみてください。年間5万人の発症に対して、1万5千人が死亡、致死率はおよそ3分の1です。

 中国南部やインドシナでは医療技術が未熟じゃないの・・・、そのように考えたとすれば、それは間違いです。日本脳炎は日本で発症したとしても、致死率はおよそ3分の1です。日本脳炎には特効薬がないのです。

 さらに、残り3分の2が完全に回復するわけではありません。3分の1は神経障害など重篤な後遺症が残り、ほとんど寝たきりの生活となります。元気になって元の生活に戻れるのは3分の1のみなのです!

 日本脳炎は日本脳炎ウイルスに感染することで発症しますが、ここで、日本脳炎ウイルスはどのようにしてヒトに感染するのかおさらいしておきましょう。

 まず、日本脳炎ウイルスはヒトからヒトへの感染はありません。コガタアカイエカという蚊に刺されることで感染します。日本脳炎ウイルスは豚に感染していることがあるのですが、感染している豚の血液をコガタアカイエカが吸い出すことによって、コガタアカイエカの体内に日本脳炎ウイルスが移動します。そして、そのコガタアカイエカが人の血液を吸うときに、血液を吸いだす前に血を固まりにくくするために唾液を分泌します。その唾液のなかに日本脳炎ウイルスが含まれており、ヒトの血中に移動するというわけです。

 こう書くとかなりややこしいですが、要するに、コガタアカイエカが豚の体内に棲息している日本脳炎ウイルスをヒトの血液内に運んでいると考えれば分かりやすいかと思います。ですから、ヒトからヒトへの感染はありません。

 日本での日本脳炎発症例は、現在年間10例未満ですが、実は豚の日本脳炎ウイルスの抗体保有率はかなり高いことが分かっています。地域にもよりますがおおむね50%を超えるという調査が多いようです。(「抗体を保有している」というのは、その豚が日本脳炎ウイルスに罹患しているという意味です)

 豚の多くが日本脳炎ウイルスに罹患していることを考えると、日本脳炎発症者が年間10例未満というのは少なすぎるように思えます。これはなぜでしょうか。

 実は、ヒトがコガタアカイエカを通して日本脳炎ウイルスに感染しても、全員が発症するわけではありません。日本脳炎を発症するのは、感染者の100人から1,000人にひとりくらいの割合と言われています。つまり、ほとんどの人は日本脳炎ウイルスに感染しても自覚症状のないまま治癒しているのです。(これを「不顕性感染」と呼びます)

 ただし、その100人から1,000人のひとりに選ばれれば(別に選ばれているわけではありませんが)、大変な事態になることは先に述べた通りです。

 さて、私はその日本脳炎が今後日本で増えることを危惧しています。その理由をお話します。

 まず、ひとつめは、日本脳炎ウイルスに感染している豚が増えている可能性があることです。今年(2008年)の7月に三重県でおこなわれた調査では、検査した豚すべてから抗体が検出されています。8月には鹿児島県で日本脳炎ウイルスに感染した豚が基準値を超えたことにより、日本脳炎注意報が発令されました。

 ふたつめの理由は、日本脳炎ウイルスのワクチン接種をおこなうのが現在むつかしくなっているということです。日本脳炎が日本で急激に減少した最大の理由はワクチンの普及ですが、そのワクチン接種が現在非常に困難な状態にあるのです。

 これは、2004年に山梨県の14歳の女子が日本脳炎のワクチン接種が原因で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)と呼ばれる意識障害や手足が麻痺する病気になったことを受けて、2005年に厚生労働省が「現行のワクチンでの積極的推奨の差し控えの勧告」をおこなったことが原因です。「積極的推奨の差し控えの勧告」とはずいぶん分かりにくい表現ですが、要するに「日本脳炎ウイルスのワクチンはキケンかもしれないから積極的に打たないでね」と言うことです。

 現行のワクチンが使えないなら、安全なワクチンを開発すればいいわけですが、ことはそう簡単には進みません。厚生労働省のワクチン差し控え勧告を受けて、国内のメーカー2社が危険性の低い新しいワクチンを開発していましたが、「接種部位が腫れる」などの副作用が出現し、追加臨床試験が必要となり現在も審査の途中です。供給開始は早くても来年度(2009年度)以降になる見通しです。

 このようにワクチン接種をおこないにくい状況のなか、2008年10月には茨城県で2人の日本脳炎発症者が確認されました。先に述べたように日本脳炎を発症するのは、100人から1,000人にひとりですから、単純に計算して、茨城県では1月の間に200人から2,000人が日本脳炎ウイルスに感染したことになります。

 日本脳炎には地域的な偏りがあることが分かっています。関東地方よりも中国・四国・九州地方に圧倒的に多いという特徴があります。茨城県でひと月の間に2人の発症者が出たということは、今後西日本でさらに大勢の罹患者が現れる可能性があります。

 日本脳炎を危惧しなければならないのは本来ワクチンを接種すべき年齢にある小児だけではありません。実は、日本脳炎ウイルスのワクチンは生涯有効ではないのです。ですから、感染の可能性がある人は子供の頃にワクチンをうっていても抗体検査をおこない、抗体が消えていればワクチンの追加接種を検討すべきです。(実は、最近私も抗体検査をおこなったところ「陰性」でした。早速ワクチンを接種しましたがこのワクチンは厚生労働省が「差し控え勧告」をおこなっているものです)

 近所に豚がいない人は日本脳炎なんて気にしなくていいんじゃないの・・・。そう思う人がいるかもしれません。その地域から離れなければたしかにそうかもしれませんが、これだけ海外旅行がさかんになると海外(というより日本脳炎に関してはアジア)での感染を考えなければなりません。そして、このことが、私が日本脳炎増加を危惧する3つめの理由です。

 A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、狂犬病などと比べると、「海外に行く前に日本脳炎のワクチンを」と言われることはあまり多くはありませんが、私はこれを不思議に思っています。

 アジア全域で年間5万人が発症しているということは、単純計算で年間500万人から5,000万人がウイルスに罹患していることになります。そして、もう一度言いますが日本脳炎を発症すると回復するのは3人に1人のみなのです。

 1日も早く安全性の確立した新しいワクチンが誕生することを願いたいものです・・・。
 
参考:
医療ニュース2008年8月29日「鹿児島で日本脳炎注意報」
医療ニュース2008年8月1日「日本脳炎の新ワクチンは2009年以降に」
医療ニュース2008年7月24日「豚が近くにいる人は日本脳炎に注意を!」
はやりの病気 第60回「虫刺されにご用心」

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2013年6月15日 土曜日

第62回 ニキビの治療が変わります! 2008/10/16

欧米では10年以上の歴史があり、世界50ヶ国以上で使われているニキビの特効薬ともいえるアダパレン(商品名ディフェリンゲル)がついに保険診療で処方できることになります。

 この薬は、高い効果が期待できる半面、ピリピリとした感覚(副作用)が出やすいことや(ただしほとんどは数日間のみ)、原則として妊婦には使えないことなどもあったためか、日本では長い間承認されていませんでした。

 もっとも、我々医師はアダパレンの高い有効性を知っていますから、保険診療が認められていないとはいえ、これまでも(医師としての)個人輸入などをおこない、希望する患者さんには保険外(自費診療)で処方していました。

 ただ、やはり自費診療になりますから、若い患者さんにすすめるのには抵抗があり、すてらめいとクリニックにニキビで通われている患者さんに対しても実際に説明をして処方したのはごくごくわずかです。(保険診療をしている以上、自費診療は検査でも薬でも推薦しにくいのです・・・)

 さて、アダパレン(ディフェリンゲル)がなぜそんなに高い効果があるのかについてお話する前に、まずはニキビがなぜできるのかを簡単に復習して、従来の治療をおさらいしておきましょう。

 簡単に言えば、ニキビの原因は2つです。ひとつは、アクネ菌を代表とする皮膚にいついている細菌が毛穴をすみかにして増殖することです。つまり、ニキビとは「細菌感染症」なのです。細菌感染症ですから当然抗生物質が効きます。現在、日本で、保険診療でおこなうニキビの治療は抗生物質が中心です。商品名で言えば、外用薬ならダラシンゲルやアクアチムクリーム、内服薬なら、ルリッドやミノマイシンです。

 ニキビのもうひとつの原因は「毛穴がつまる」ことです。細菌は毛穴の奥をすみかとしていますから、毛穴がつまれば細菌の”思うツボ”です。なぜなら、毛穴がつまって細菌が奥に閉じ込められれば、クレンジングをしても洗顔をしても容易には洗い流されないからです。

 では、なぜ毛穴がつまるかといえば、その原因は「アブラ」にあります。顔面がアブラっぽい人にニキビができやすいのは、アブラが毛穴をふさいでしまうからです。一般に、男性ホルモンが多い人の顔面はアブラっぽいことが多いのですが、男の子が中学生になって男性ホルモンがたくさん分泌されるようになるとニキビができやすくなるのはこのためです。

 女性の場合、生理(月経)前にニキビができやすい人がいるのも、ホルモンバランスに関係があります。排卵から月経までの期間を黄体期といいますが、この期間にはプロゲステロンというホルモンがたくさん分泌されます。そしてこのプロゲステロンがアブラの分泌を促し、分泌されたアブラが毛穴をつまらせて、その結果毛穴の奥で繁殖している細菌の”思うツボ”になるというわけです。

 ですから、女性で生理前になるとニキビが悪化して、生理が始まるとおさまるという人はピルを飲めば劇的に改善することがよくあります。ピルは中用量ではなく低用量ピルで充分です。ピルによって女性ホルモンのバランスが整えられ、その結果余分なアブラの分泌が抑制され、ニキビができにくくなるというわけです。

 すてらめいとクリニックの患者さんでピルを使用している人のおそらく半分くらいはニキビ改善目的だと思います。(ピルは、元々は避妊目的に開発されたものですが、すてらめいとクリニックの患者さんをみていると、避妊というよりはむしろ、ニキビ・肌荒れの改善や、生理痛の緩和、生理周期を整える、生理前のイライラなど(月経前緊張症候群)の治療目的などで使用している人の方がずっと多いようです)

 さて、アダパレン(ディフェリンゲル)の話にうつりましょう。

 ディフェリンゲルの作用メカニズムは専門的に説明すると複雑になりますが、簡単に言えば「毛穴を広げる」ことでニキビを治します。1日1回寝る前(必ずしも寝る前でなくてもいいですが)に気になるところに塗るだけでOKです。従来の治療である抗生物質の外用・内服、あるいはピルの内服などと併用することもできます。

 高い効果を期待できるアダパレンですが、注意点がいくつかあります。

 まず、妊婦と授乳婦には使用することができません。(そのため、すてらめいとクリニックでは、妊娠している可能性のある人でアダパレンを希望する人には妊娠検査を先におこなうこともあります)

 次に、副作用の頻度がまあまあ高いということです。シオノギ製薬(アダパレンの発売元)の資料によりますと、5%以上の頻度で、皮膚乾燥、皮膚不快感、皮膚剥奪などが生じています。このうち、皮膚乾燥については、他のニキビの治療法でもおこりますし、保湿をしてあげたり痒みがひどいときは痒み止めを飲んでもらったりして対処できます。それに一時的なものであることがほとんどです。

 問題は皮膚の不快感というか、極めて不快なピリピリ感や痛みがでたときです。こういった症状も通常は数日から2週間程度で軽減することが多いのですが、なかにはこういった副作用のせいでどうしても使用できないという人もいます。

 また、0.1~5%未満の頻度で肝機能障害や血中コレステロールの増加が起こる場合もあります。場合によっては使用後2~4週間程度経過したときに血液検査をおこなうことが必要になるかもしれません。

 それから、ピーリング治療を受けている人は併用すべきではないと思われます。どちらもピリピリ感や皮膚剥奪などが問題になることがあるからで、併用するとそういった副作用が増強される可能性があるからです。

 悪いことばかり並べて書くと、なんだかとても怖いような薬に思えてきますが(実際、アダパレンは「劇薬指定」となっています)、使用上の注意点を守れば、高い効果を期待することができます。

 日頃ニキビの患者さんを見ていて思うことは、「患者さんによってニキビに対する考え方がバラバラ」ということです。なかには、ひどいニキビに長年悩みながら医療機関を受診したことがなくて、様々な民間療法を試して余計に悪化させているような人もいます。(悪徳ニキビビジネス業者に大金を騙し取られたような人もいます!) また、医療機関は受診するものの改善しなければすぐに病院をかえて(いわゆる「ドクターショッピング」)、医療不信を募らせているような人もいます。(ニキビに限らず慢性疾患は長期間腰を据えて取り組むことが必要です!)

 ニキビに悩んでいる人、これまでのニキビ治療に失望している人も、アダパレンを一度検討されてはどうでしょうか。

注:アダパレン(ディフェリンゲル)は2008年10月21日より処方開始となりました。

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2013年6月15日 土曜日

第61回 舌の痛み~舌痛症~ 2008/9/22

それは私が入院していた頃の話・・・。

 交通事故で首から腕の激しい痛みや手のしびれに悩まされ入院生活を余儀なくされた私は、毎日夕方になると決まって舌にピリピリとした痛みを感じていました。

 この痛みは、最初は誤って噛んでしまったのかな・・・と思って鏡を見てみてもまったくそのような傷がありません。また「できもの」のようなものもありません。かといって”気のせい”というものでもなく、はっきりとしたピリピリとする痛みがあるのです。その痛みが気になって本を読むこともできません。

 しかし夕食時には、少なくとも夕食を食べているときにはあまり痛みを感じずに、食事に苦労することはありませんでした。そしてこの痛みは夜寝る前にも出現します。ただ、その痛みで寝られないかというとそういうわけでもありません。

 その痛みは毎日だいたい決まった時間に出現します。”激痛”というわけではありませんし「その痛みが気になって・・・」という以外は日常生活に影響することもありません。

 この症状はいったい何なんだ・・・。当時私は医師になったばかりの研修医でしたから、乏しい医学の知識をフル動員して考えましたが、この痛みに該当する病気の名前が見当たりません。

 やがて、この痛みは「舌痛症」であることを知りました。(私の記憶の限りでは、6年間の医学教育では舌痛症について学びませんでした)

 舌痛症とは、「外見上の異常がなく、また貧血や感染症といった原因があるわけでもない痛み」のことで、心身症のひとつとして位置づけられることもある原因不明の舌の痛みです。

 詳しい教科書を見てみると、「舌痛症は50~70歳代の女性に多く男性には少ない」と書かれていますが、30代の私に出現したというわけです。

 不思議なもので、入院中あれほど気になっていた舌の痛みは、退院後しばらくすると完全に治りました。そして6年以上たった今でも一度も再発していません。今考えると、入院中の不安から起こった心身症だったのかな・・・という気がします。

**********

 さて、すてらめいとクリニックを受診する患者さんのなかにも、けっこう舌の痛みを訴える人がいます。医師が患者さんから「舌が痛い」という症状を聞いたときに、最初に舌痛症を疑うというようなことは普通はしません。

 まずは、よく観察して傷や炎症、腫瘤がないかどうかを確認し、さらに口腔内の他の部位に炎症や異常所見がないかを確認します。もしも舌苔が多ければ、顕微鏡でカンジダの有無を確認します。さらに、唾液が充分にでているか、口腔や口唇に他の症状が出現していないか、などについても問診をおこないます。必要があれば血液検査をおこなうこともあります。

 舌の痛みを呈する病気には、舌痛症以外にも、腫瘍(癌)、ヘルペスやカンジダといった感染症、ドライマウスに伴うもの、亜鉛不足、貧血、膠原病などもあるからで、これらを見逃して安易に舌痛症という診断をつけるようなことはあってはならないからです。

 教科書には「50~70代の女性に多く・・・」と書かれていますが、すてらめいとクリニックを受診する患者さんだけでみてみると、舌痛症が女性の方が多いのは間違いないとしても、20代の女性や30代の男性にも珍しくはありません。そして、全員ではないものの、大多数の患者さんがなんらかの”不安”を抱えています。特に多いのが「癌になったのではないか」という不安、そしてもうひとつが「感染症に対する不安」です。

 よくよく問診してみると、知人や親戚が「舌癌になって・・・」というケースがありますし、なかには「エイズのひとつの症状として舌に痛みがでてきたのではないかと思って・・・」というものもあります。こういったケースでは、癌やエイズでないことを説明すると、それだけで数日後には軽快する場合もあります。

 やっかいなのは、特に具体的な不安をもたらす要因があるわけではないけれど漠然とした不安感や抑うつ感のある場合です。こういうケースでは、心配の種となっている原因が分からないために治療もむつかしいことが少なくありません。

 症例によっては、抗うつ薬や抗不安薬を使用するとよくなる場合もありますが、一時的に改善しても再発することもあります。また、漢方薬を使うケースもありますが、この場合、「どんな舌痛症もこの漢方薬で劇的に治る」というものはなく、その患者さんの他の症状や(東洋医学的な)体質を診察した上で、適切な漢方薬を選ぶことになります。

 長引くときは長引く舌痛症ですが、月に1~2度程度通院してもらっていくつかの薬を試しているうちに大多数の患者さんは治癒します。(薬が効いたのか、自然に治ったのか区別がつかないこともありますが・・・)

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 舌痛症という病気は、明らかな痛みはあるものの、確定させる検査もなければ、医師によって処方する薬が違うことも多々ありますし、患者さんサイドからみればときにたいへんやっかいな病気にうつることがあると思います。

 もしも舌に痛みを感じたときは、それでも医療機関を受診するようにすべきです。もしも原因がカンジダやヘルペスといった感染症であれば病原体をやっつけることによって症状は消えますし、亜鉛不足や貧血があるなら飲み薬やサプリメントで治ることもあります。

 また自分自身では気づいていないけれども、社会的あるいは精神的に不安要因があってそれが原因で舌痛症が生じている場合もあります。この場合、医師と話をするだけでも症状がとれることがあります。

 もともと何らかの不安があって、舌痛症が出現し、その舌の痛みがさらに不安を大きくして・・・、といった悪循環に陥らないためにも早めの受診が有効だというわけです。

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2013年6月15日 土曜日

第60回 虫刺されにご用心 2008/8/22

今年の夏にすてらめいとクリニックを受診した患者さんに多い疾患のひとつが「虫刺され」です。

 「たかが虫刺され」と思う人も多いでしょうが、虫刺されはときに重症化することもあります。

 まず、日本の夏にどこにでも登場する”蚊”の虫刺されについて少し詳しくお話いたします。

 「子供が蚊に刺されて全身が腫れあがった」と言って、小さな子供を連れて来られるお母さんがおられます。お母さん方にしてみれば、「なんで自分たち大人は蚊に刺されてもたいしたことがないのに子供はこんなに腫れるの」という気持ちになられるようです。

 これは、虫刺されに対するアレルギー反応の起こり方が大人と子供では異なるからです。虫に刺されると虫の唾液が皮膚に入ってくるのですが、この唾液に対するアレルギー反応が虫刺され症状の原因です。そして、虫刺されのアレルギー反応には、「即時型」と「遅延型」があります。通常、大人であれば「即時型」の反応を示すことが多いと言えます。これは虫(蚊)に刺された直後に皮膚が少し盛り上がる現象で、痒み自体はたいしたことがありません。(ムヒなどの)市販の痒み止めで充分対処できます。

 それに対して「遅延型」は、刺されてから1~2日程度たってから症状が現れます。この場合、強いかゆみが現れ、ときに大きく腫れあがり、この状態が数日間続きます。「遅延型」に対しては、市販のかゆみ止めがあまり効かずに、ステロイド外用薬が必要になります。子供の場合は、免疫系のシステムが充分に確立されていないために「遅延型」が起こりやすいと考えられます。

 ときどき、「子供にステロイドのようなきつい薬は使いたくない」というお母さんがおられますが、適切なタイミングで適切なステロイドを使わなかった場合、虫に刺された跡が長期間残ることがありますので、やみくもにステロイドを怖がるのではなく、医師の指導の下で上手にステロイドを使うことが必要です。

 「遅延型」の反応は大人に対して現れることもあります。この場合は、やはりステロイドの外用薬を適切に使用することが早くきれいに治すコツです。(ですから、「たかが虫刺され」と思わずに医療機関を受診することが必要です)

 さて、虫刺されで医療機関を受診する人は年々増えているように思われますが(おそらく私以外の医師も同じように感じていると思います)、これはなぜなのでしょうか。

 その理由のひとつが、地球温暖化ではないかと言われています。暖かくなったことにより虫にとって望ましい環境となり、その結果人を刺す被害が増えているというわけです。

 もうひとつは、海外からの輸入品に付着して日本に入ってきている虫が増えているということです。

 90年代後半にマスコミをにぎわせた「セアカゴケグモ」を覚えているでしょうか。セアカゴケグモが日本に上陸したのは、オーストラリアから荷物と共に大阪港に侵入したことが原因と言われています。国立感染症研究所の調査では、すでにセアカゴケグモは関西の広域に棲息していることが確認されています。

 また、中国からの貨物と一緒に「南京虫」が国内のいたるところに侵入しているという情報もあります。南京虫に刺されると、強烈なかゆみと腫れに悩まされることになります。

 虫刺されには命にかかわるものもあります。このウェブサイトの「医療ニュース」でもお伝えしましたように、今年は宮崎県でダニに刺された女性が「日本紅斑熱」で死亡しています。同じくダニが媒介する「ライム病」や「ツツガムシ病」もときに発熱やリンパ節の腫れなどの全身症状に悩まされることがあります。

 蚊が媒介し命にかかわる病気には日本脳炎があり、日本脳炎ウイルスが三重県でブタに新規感染したことは「医療ニュース」でお伝えしました。

 日本脳炎以外に、蚊が媒介して命にかかわる病気にマラリアとデング熱があります。どちらも日本で感染することは現時点ではないとされていますが、デング熱については今後注意が必要になるでしょう。

 デング熱はタイやマレーシアなど熱帯地方に生息している「ネッタイシマカ」や「ヒトスジシマカ」が媒介するのですが、デング熱は去年あたりから発症が増えており、現在台湾にまで北上してきています。

 また、タイでも今年は異例の流行を見せており、日本企業もたくさん入っているラヨン県では今年に入ってデング熱に罹患した人がすでに1,400人を超えており、そのうち2人が死亡しています。(デング熱の重症型のデング出血熱は致死的な感染症です) これを緊急事態と受け止めたラヨン県では5千万バーツ(約1億5千万円)をデング熱対策に割り当てるそうです。(報道は8月11日のBangkok Post)

 虫刺されがひどいときは、できるだけ早いうちに医療機関を受診することが必要です。特に発熱やリンパ節腫脹などが出現したときには自分で様子をみるのではなくすぐに受診するようにしましょう。

 強い症状が出たときには医療機関を受診するのが最善ですが、虫刺されには予防が大切です。まず、虫がいそうなところに行く場合は長袖・長ズボンを着用するようにしましょう。キャンプなどをするときには蚊取り線香は必需品です。電池式の携帯用蚊取り器(虫の嫌がる音がでる小さな器械)も有効です。

 それから、虫除けの塗り薬も持参するようにしましょう。スプレー型のものもありますが、私は個人的にはクリームタイプの方がより効果があると感じています。クリームタイプの方がまんべんなく塗れますし、顔にはスプレーを拭きつけることができないからです。(虫除けの塗り薬は薬局に売っていますが、海外では普通のコンビニにも置いていることが多いですから暖かい国に行ったときには必ず購入しましょう)

 まだまだ暑い日が続いており、山や海にキャンプに行ったり、海外旅行を楽しんだりする人も少なくないでしょう。旅行から帰ってから、全身が腫れあがってあわてて病院に、ということがないように・・・。

参考:
 2008年8月7日 宮崎の女性がダニに刺されて死亡
 2008年7月24日 豚が近くにいる人は日本脳炎に注意を!
 2008年5月19日 日本紅斑熱に注意
 2008年4月3日 ブラジルでデング熱と黄熱が大流行
 2008年2月19日 タイでデング熱が急増

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2013年6月15日 土曜日

第59回 カビの病気2(カンジダ) 2008/7/18

前回は、「カビの病気」として私自身が悩まされている癜風(でんぷう)と水虫をご紹介しました。

 今回は、カンジダについてお話いたします。カンジダも水虫と同様いろんなところにできますが(足、手、口角、体幹、男性のペニスなど)、日常診療でもっとも多く見るのが女性の外陰部、もしくは腟内のカンジダです。

 まず初めに、私が最も強調したいことをお話します。

 それは、「カンジダは性感染症とは限らない」ということです。世間では「カンジダは性感染症のひとつで、危険な性交渉をするからだ」と考えている人がいますが、これは誤りです。

 すてらめいとクリニックにはたくさんの女性のカンジダの患者さんが来られますが、その大半は性的接触が原因ではありません。(実際、処女のカンジダの患者さんもおられます)

 では、何が原因でカンジダが発症するかというと、前回でも述べたように「ストレス」と「抗生物質の服用」であることが圧倒的に多いのです。

 「ストレス」は計測しにくいものですが、患者さんのなかにはたいへん”わかりやすい”人がいます。例えば、「残業をする度におりものが増える」、「出張する度に外陰部が痒くなる」、あるいは「彼氏とけんかする度に・・・」という人もいます。これらは性交渉などが原因ではなく、明らかに「ストレス」が原因のカンジダです。要するに、ストレスを感じることによって身体の抵抗力(免疫力)が低下して、その結果カンジダが発症しているのです。

 前回、私は自分自身の癜風再発の原因として抗生物質があることを述べましたが、カンジダの場合も同様です。繰り返す人も少なくなく、「抗生物質を飲む度に・・・」という人も珍しくありません。なかには、「抗生物質を処方してもらうときは必ずカンジダの腟錠も同時に処方してもらう」という人もいます。

 先に、「カンジダは性感染症とは限らない」と述べましたが、例えば、クラミジアや淋病に感染して、抗生物質を服用したときに、「クラミジアや淋病は治ったけど、その後おりものが増えてその原因がカンジダだった」、ということは少なくありません。ですから、すてらめいとクリニックでは、クラミジアや淋病(これらはほとんど性感染症です)を治療する場合は、場合によっては予防的にカンジダの腟錠や塗り薬を処方することもあります。

 カンジダは性感染症とは限りませんが、なかには性感染であろうと思われるケースもあります。そして、これは男性に多いという特徴があります。男性のカンジダ性亀頭炎は、女性の外陰部や腟のカンジダに比べると頻度が少ないと言えます。これは、女性の外陰部や腟が湿っておりカビ(カンジダ)が繁殖しやすい環境なのに対して、男性のペニスは通常は乾いており、カビがあまり好まない環境だからです。

 しかしながら、女性との(コンドームなしの)腟交渉があれば、ペニスは多数のカンジダ菌にさらされることになります。これによって性感染するのです。ですから、私は、女性のカンジダを見たときは性感染を初めに考えませんが、その一方で、男性のカンジダを見つけた場合は、必ず性交渉の有無を尋ねるようにしています。

 ただし、男性のカンジダ性亀頭炎はある程度予防することができますし、それほど重症化はしません。予防には、「性交渉の後にすぐにペニスを洗う」ということを心がけていればかなりの確率でカンジダ性亀頭炎の発症を防げます。これは、たとえペニスが多量のカンジダ菌にさらされたとしても、実際にカンジダが皮膚に定着するのに数時間はかかるからです。

 そして、これはカンジダだけに限ったことではありません。日本人に水虫が多いのは、銭湯やサウナに置いてあるマットが原因だと言われています。銭湯やサウナに入った後は足を拭かざるを得ませんから、マットを使うことになります。この時点では水虫菌(白癬菌)が足に付着している可能性が高いと言えます。

 しかしながら、家に帰ってから足をもう一度洗えば(水洗いで充分ですが、抗真菌薬入りのボディソープなどを使えばより効果的でしょう)、水虫菌の感染が”成立”する可能性は下がるというわけです。

 話を戻すと、女性と(コンドームなしの)性交渉をした男性は、できるだけ早い時間にペニスを洗うのが予防としては効果的です。この場合、過去にカンジダ性亀頭炎を起こしたことのある人は、抗真菌薬入りのボディソープを用いるのがいいでしょう。

 過去にカンジダ性亀頭炎を起こしたことがなくても、(仮性)包茎の人は要注意です。包皮につつまれた部分はじめっとしたカビ(カンジダ)が大好きな環境になるからです。

 「(好きな)女性と性交渉を終えてすぐに身体を洗いにいくのはなんだか冷めた感じがする」、あるいは「そんなことをするのは女性に失礼では・・・」と感じる人もいるかもしれません。そのあたりについては、医学的に介入するべきではありませんから、各自で考えればいいと思います。

 さて、繰り返しになりますが、「女性のカンジダは性感染とは限らない」というのは男性にも是非とも知っていてもらいたいものです。というのは、特定の女性からカンジダをうつされた場合、男性はその女性を「浮気しているのではないか」と疑う可能性があるからです。

 例えば自分の彼女や奥さんからカンジダをうつされてしまった場合は、相手を疑うのではなく、「最近おりものが多くない?」とか「痒くない?」とかいった質問を優しくしてあげるようにしましょう。カンジダは放っておいて大事にいたるといったようなことは普通はありませんが、それでも重症化すれば、痒みやおりものの量でつらい思いをすることがありますし、場合によっては飲み薬まで必要になることもあります。

 カンジダの診断はいたって簡単です。男性のカンジダ性亀頭炎であっても、女性の外陰部(あるいは腟)カンジダ症であっても、顕微鏡の検査でその場で診断がつきます。(すてらめいとクリニックを受診された患者さんには、モニタでその人が持っていたカンジダ菌をお見せすることもよくあります)

 ただし、見ただけでは判らないことも多々ありますから必ず検査は必要です。実際、カンジダと湿疹やかぶれは見ただけでは鑑別のつかないことの方が多いのです。本当は湿疹なのにカンジダの治療をしていれば治るものも治りません。また、おりものの異常があってもそれが実際にはトリコモナスやクラミジアが原因であったということもよくあります。

 おりものの異常、外陰部の痒み、ペニスの発赤や痒み、などがあればなるべく早いうちに医療機関を受診するようにしましょう。

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2013年6月15日 土曜日

第58回 カビの病気1(癜風・水虫) 2008/6/24

「先生、首に湿疹ができてますよ」

 先日、クリニックのスタッフに言われた言葉です。

 「やっぱり再発したか・・・」

 これが最初に私がつぶやいた言葉です。私にはその”湿疹”が湿疹でないことがわかっていました。通常、湿疹であれば痒みを伴いますから、「他人に指摘されて発覚する湿疹」というのはあまりありません。

 この皮膚の異常は、もう18年も私を悩ませている病気で、あるカビが原因となっています。そのカビの名前を癜風菌(もしくはマラセチア)、そしてその病気の名前を癜風(でんぷう)と言います。

 私がこの病気に初めてかかったのは1990年の秋です。背中に薄赤色で境界がはっきりした皮疹が出現しました。痒みがないために気付いたときには背中一面に広がっていました。当時の私は、まだ関西学院大学の大学生で、医学部受験など微塵も考えていなかった頃です。当然医学的知識はまったくなく、私はその皮疹を”不吉な病”ではないかと考え、ついに「これはエイズではないのか・・・」と思うようになりました。(実際、知識が皆無の私が受診したのは医療機関ではなく保健所でした。目的は、「エイズ検査」です)

 当時はHIVの検査は結果がでるまでに1週間かかっていたため、私は眠れない日々を過ごし様々な思いをめぐらせました。(これについては「『GINAと共に』第10回HIV検査でわかる生命の尊さ」に詳しく述べていますので興味のある方はご参照ください)

 HIVが陰性であることが分かったことでようやく病院を受診する決心がつきました。診察室に入ると、担当医が「これはカビですよ」と言いながら、その場で顕微鏡を覗いて実際に癜風菌が繁殖していることを確認してくれました。「これくらいなら塗り薬だけで充分ですよ」と言われ、私は処方された薬を塗ると数日間でほぼきれいになりました。

 エイズ疑惑も晴れ、塗り薬だけで簡単に治った私の癜風ですが、これですべて終了となったわけではありません。この病気がやっかいなのは「再発が多い」ことです。

 もともと癜風菌は常在菌のひとつで、誰の皮膚にも少量は存在しています。それが”何らかの理由”で、一気に増殖することによって症状が出現します。

 ”何らかの理由”というのは様々ですが、最も多いのが「汗」です。一度発症すると、例えば夜中に暑くて汗をかきながら寝ているようなときには簡単に再発します。そのため、私は寝る前にシャワーをあびるようにしていますが、仕事が忙しかったりお酒を飲んでいたりして汗をかいたまま寝てしまえば再発することがあります。

 次に多い理由は「ストレス」ではないかと思います。よく言われるように、ストレスにさらされると身体の抵抗力(免疫力)が低下します。すると、癜風菌の増殖が始まり数日間のうちに身体のあちこちにあの皮疹が出現します。

 もうひとつ、注意すべき理由は「抗生物質の服用」です。抗生物質というのは細菌を死滅させるものであって真菌(カビ)をやっつけるものではありません。通常、皮膚には癜風菌を含めた真菌の常在菌と表皮ブドウ球菌などの常在細菌が混在しています。抗生物質を飲むのは、例えば扁桃炎で扁桃に繁殖している細菌や膀胱炎をもたらしている細菌を死滅させるためですが、このような「悪い細菌」だけでなく、「別に悪くない細菌」まで殺してしまいます。抗生物質を飲むと下痢をするのは、腸の中の「善玉菌」もやっつけられてしまうからです。

 冒頭で述べたように、私がスタッフから「首に湿疹が・・・」と言われて、「やっぱり再発したか・・・」と感じたのも、抗生物質を使用していたからです。少し前に私は風邪をこじらせて細菌性の咽頭炎を発症させていました。そして、高熱に苦しめられたために内服だけでなく抗生物質の点滴もおこなっていました。

 その結果、身体のあちこちに棲息している「別に悪くない細菌」も死滅させることになり、カビ(癜風菌)の”天下”にさせてしまったのです。
 
 スタッフに首の皮疹を指摘された夜、背中をみてみると直径数ミリから数センチの円形もしくは楕円形の赤い皮疹が多数現れていました。癜風は痒みがないか、あってもごく軽度のため、気付いたときには背中一面に広がっていることが少なくないのです。

 しかし、癜風は治すこと自体は簡単です。今回は抗生物質が原因でやや勢いが強かったのと背中は塗り薬を塗りにくいことから、抗真菌薬の内服薬を使いました。薬を飲みだして今日で4日目ですが、私の癜風はほとんどなくなっています。

 日常よく遭遇する真菌(カビ)の病気のトップ3は、白癬(水虫)、癜風と、もうひとつはカンジダだと思われます。

 水虫が夏に多いのは、やはり夏になると暖かくなって汗をかくからです。ほどよい温度と汗がもたらすじめっとした環境は水虫が大好きな環境なのです。しかし、汗だけが悪化因子ではありません。

 例えば寝たきりで肺炎などを繰り返している高齢者は、水虫をもっていることが少なくありません。これは、肺炎などの細菌感染症で抗生物質を使っていることも原因のひとつです。だから、入院時には足がきれいだったとしても、抗生物質の点滴などを繰り返しているような患者さんに対しては、我々医療従事者は足の水虫のチェックをおこないますし、股の水虫(いわゆる「いんきんたむし」)が現れていないかにも注意を払います。

 水虫というと足の水虫を思い出す人が多いでしょうが、実際には頭皮、手(ただしこれは珍しい)、股、背中やおなかなどにできることもあります。だいたいは、塗り薬だけでよくなるのですが、例外が2つあります。

 ひとつは爪の水虫、もうひとつは踵(かかと)の水虫です。これらは痒くないために重症化して初めて医療機関を受診する人も少なくありません。爪の水虫は、爪が白くなり分厚くなってくることで、「見た目が悪いから」という理由で受診する人もいます。踵の水虫は、踵の皮膚が厚くなりカサカサになってくるのが特徴です。これは知識がないと水虫とは考えないかもしれません。

 通常、これらの水虫には最初から塗り薬に加えて飲み薬を処方することが多いと言えます。塗り薬だけではとうてい治らないからです。

 つづく・・・

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2013年6月15日 土曜日

第57回(2008年5月) 疲労の原因と慢性疲労症候群

 疲れると筋肉で尿酸がつくられて、その尿酸が疲労を蔓延化させる・・・

 このような「乳酸悪玉説」を聞いたことがありますでしょうか。しかし、最近はこの「乳酸=疲労物質」という説はほぼ否定されつつあります。例えば、マウスなど実験動物に乳酸を投与しても疲労がみられなかったという実験があります。

 乳酸に代わって最近注目されているのは、「疲労神経回路説」です。疲労を感じると脳の前頭葉の一部の血量が減り、神経伝達物質のセロトニンの働きに異常がおこるというもので、血流の低下は実際にPET(陽電子放射断層撮影装置)などで確認することができます。

 疲労の神経回路には免疫系も関与していると考えられています。風邪をひいたときなどには疲れ(倦怠感)を感じますが、これは風邪の原因ウイルスがサイトカインという免疫に関係した物質を生成するためだと考えられています。

 ウイルス感染以外にも、例えば肝炎の治療で使うインターフェロンという薬は副作用で倦怠感が出現しますが、これもインターフェロンがサイトカインとして作用するからです。

 ここまでをまとめると、ウイルス感染やインターフェロン投与で体内にサイトカインが蓄積すると、脳内の疲労に関する部位に異常が起こり、血流が低下し神経伝達物質に異常が生じるということになります(もっともこの説も完全に認められたわけではなくまだまだ研究段階ではあります)。

 ところで、慢性疲労症候群という病気をご存知でしょうか。

 慢性疲労症候群とは、強度の疲労が長期間(一般に6ヶ月以上)に及び継続する病気で、身体だけでなく思考力や精神力も疲労困憊し、日常生活を著しく阻害することもあります。

 単なる疲労とは異なり、微熱、咽頭痛、リンパ節の腫れ、関節痛、睡眠障害などが生じることもあります。

 慢性疲労症候群は現在もっとも注目されている疾患のひとつで多くの研究がおこなわれています。上に述べた脳内の血流の異常も慢性疲労症候群の患者を対象とした研究で明らかになったものです。

 慢性疲労症候群の原因は、結論から言えば依然として”不明”なのですが、提唱されている説には、内分泌の異常、神経の異常、遺伝子の異常、幼少期の虐待、感染症、などがあります。

 慢性疲労症候群はときに集団発生することがあり、例えば1984年にはアメリカのネバダ州の小さな町で人口の1%にあたる約200人が一斉に発症したという記録があります。集団発生は他の国でも報告があり、未知のウイルスが原因ではないかと考えられ、一時は”第2のエイズ”とも言われたことがありました。

 その後、ウイルス感染が慢性疲労症候群の原因という説は下火になっていたのですが、最近改めて有力視されるようになってきています。

 例えば、ヘルペスウイルスの一種であるHHV6及びHHV7が原因ではないかとする説が注目されています。HHV6及びHHV7は、乳児の発熱・発疹でお馴染みの「突発性発疹」の原因ウイルスです。(ときどき突発性発疹に二度かかることがあるのは、HHV6とHHV7の双方に罹患するケースがあるからです) HHV6あるいはHHV7は一度感染すると体内から消えることはありません。突発性発疹が治ってもこれらのウイルスは体内に潜みます。そして成人してから再度増殖して慢性疲労症候群をもたらすのではないかと考えられているというわけです。

 また、先に述べたネバダ州の小さな町のケースではEBウイルスが原因ではないかとする説があります。この他にも、肺クラミジア、リケッチア、Q熱、サイトメガロウイルスなどが原因ではないかと言われることもあります。

 いずれのウイルス(や細菌)が原因であったとしても、疲労を生じる機序としては、まず感染によりサイトカインが生成され、これが異常蓄積し、脳内の疲労の回路に異常をきたすと考えられています。

 慢性疲労症候群は、これまで日本人の0.1から0.3%くらいにみられるのではないかと考えられてきましたが、最近「実際はもっと多く人口のおよそ1%に相当する」という研究が発表されました。人間ドックを受診した1000人以上を対象とする大規模調査で男性女性とも全体の1.2%が慢性疲労症候群と診断されたのです。

 人口の1%といえば決して珍しい病気ではありません。実際、慢性疲労症候群に罹患した(あるいはしたと考えられる)有名人は少なくありません。歴史上の人物でいえば、ナイチンゲール、ダーウィンが疑われています。ジャズピアニストのキース・ジャレット、『月の輝く夜に』でアカデミー主演女優賞を受賞したシェール(ダンスミュージックファンには「Believe」の方が有名かもしれません)も罹患したという噂があります。

 慢性疲労症候群はなかなか診断がつきにくく、いくつもの病院を受診(ドクターショッピング)することが多いという傾向があります。また、一方では患者さんの方に病識がなく、しんどいのは病気のせいではないと思い込み医療機関を受診しない人も少なくありません。

 もっとも、医療機関側からみても自信をもって慢性疲労症候群と診断できる医師は多くなく誤診されているケースも少なくないかもしれません。例えば、うつ病、更年期障害、自律神経失調症などと誤診されていることが予想されます。私は、疲労の程度が激しくて慢性疲労症候群が疑われる場合、他の疾患(膠原病、甲状腺機能低下症、うつ病、HIV感染など)を除外した上で専門機関に紹介するようにしています。(私の母校の大阪市立大学医学部には「疲労クリニカルセンター」があります)

 もちろん太融寺町谷口医院でも診察しています。治療法は、決定的なものはありませんが、一部のビタミン剤や漢方薬がよく効く場合がありますし、一部の抗うつ薬が有効な場合もあります。

 慢性疲労症候群がやっかいなのは、ときに社会復帰ができなくなるほどの重症化があることです。数十年もの間疲労に悩まされる人やなかには寝たきりの状態になる人もいます。

 気になる人は、「しんどいのは気のせい・・・」と思わずに、まずは近くの医療機関に相談されてみてはいかがでしょうか。

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