2020年11月24日 火曜日

2020年11月24日 フィナステリド(プロペシア)で自殺したくなる

 男性型脱毛症(以下「AGA])の画期的な薬として日本では2005年に登場した爆発的に処方され、AGAで悩む男性が劇的に減ったと言われています。そして、発売当初から「抑うつ症状」の副作用は指摘されていたのは事実です。

 ただ、太融寺町谷口医院の例でいえばオープンした2007年当初からプロペシア(その後後発品の「フィナステリド」)は大変人気のある薬でしたが、大きな副作用はほとんど聞きません。リビドーの低下(つまり、性欲が低下する)を訴える人はある程度いますが(添付文書では1~5%未満に起こるとされています)、それでも、例えば「パートナーからクレームがくる」ほどには低下せず、「性欲はちょっと減ってちょうどよくなった」と言われることもあります。

 添付文書では「抑うつ症状」が起こるのは「頻度不明」とされています。ところが、フィナステリド(プロペシア)で自殺したくなる気持ち(自殺念慮)の頻度がそれなりに高いことが大規模調査で判明しました。

 医学誌「JAMA Dermatology」2020年11月11日(オンライン版)に「フィナステリド使用時の自殺念慮と精神症状の副作用(Investigation of Suicidality and Psychological Adverse Events in Patients Treated With Finasteride)」というタイトルの論文が掲載されました。

 研究は米国の学者によって、WHOが薬の副作用をまとめたデータベース「VigiBase」を使っておこなわれました。このデータベースに、フィナステリドを使用して自殺念慮が生じた事例356件と精神症状が出現した事例2,926件が報告されていたようです。これらを統計学的に解析すると、フィナステリド使用により自殺念慮のリスクが1.63倍、精神症状の出現リスクは4.33倍になることが分かりました。

 また、大変興味深いことにフィナステリドと似た働きをするデュタステリドではこのようなリスク上昇は認められませんでした。

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 フィナステリドとデュタステリドは非常に似た薬です。両者とも5αリダクターゼという酵素を阻害することによりジヒドロテストステロンという男性ホルモンの1種の生成を抑制します。そして、5αリダクターゼには1型と2型があり、フィナステリドは2型のみを阻害するのに対し、デュタステリドは1型、2型双方を阻害します。

 すでに本サイトでも紹介しているようにAGAを改善させる効果はデュタステリド>フィナステリドです。また、後発品の登場で値段もデュタステリド(当院では3,300円税込み)の方が安くなっています。さらに、フィナステリドで自殺念慮の副作用が出現しやすくなるとなれば、ほとんどの人がフィナステリドではなくデュタステリドを選ぶことになるでしょう。

 もしかするとフィナステリドが市場から消えることもあるかもしれません。

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2020年11月20日 金曜日

第207回(2020年11月) 新型コロナで「分断」される社会

 「分断」という言葉をここ数年間でよく見聞きします。具体的にいつどこで聞いたかを思い出せないのですが、内容としては米国のトランプ大統領を支持する人たちとリベラルの人たちとの隔たりが「分断」と呼ばれています。他には、英国の知識階級と労働者、フランスの白人とムスリムの差を論じるときにも使われているような気がします。

 日本にも「分断」と呼びたくなるような現象があります。日本は今も(ほぼ)単一民族国家だというのに、同じ世代でも「考えていること」がまったく異なると感じることがあるからです。もっとも、これは最近始まったことではなくて、以前から、少なくとも平成の始め頃には指摘されていたことです。

 ちなみに、私が初めて「分断」、つまり同世代なのにまるで価値観が異なる人たちの集団があることを表した言葉を見かけたのは、私の記憶が正しければ1992年ごろで、何かの雑誌に載っていた社会学者の宮台真司氏の言葉でした。氏はそういった事象を「島宇宙」と捉え、同じ価値観をもった小グループがいくつも存在することを指摘しました。別のグループでは考えていることがまったく異なり、コミュニケーションもとれないことにまで触れていました。

 当時はまだ医学部受験などまったく考えておらず、この雑誌を読んだ2年後くらいに社会学部の大学院受験を考えるようになったのですが、今思えば私が社会学を本格的に学びたくなったのは宮台氏のこういう考え方に影響を受けたことが理由のひとつかもしれません。さらに余談になりますが、その後宮台氏の著作を読みだした私は、医学部受験の勉強中に『制服少女たちの選択』という本を手に取りました。その数カ月後、河合塾の模試の現代文にこの本が引用されていてものすごく驚きました。

 話を戻しましょう。現在の私が、社会が「分断」されていると感じ、宮台氏が90年代前半に指摘していた「島宇宙」という言葉を思い出すのは、新型コロナウイルスに対する考え方が人によって(グループによって)あまりにも異なるからです。実際の事例をあげましょう(ただし、プライバシー保護のため内容はアレンジしています)。

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【事例1】20代男性 飲食店勤務

 発熱と頭痛で当院に電話相談。持病はないが数年前から風邪や腹痛で何度か受診している。「その症状は発熱外来で診察する」と言うと不機嫌に。「コロナじゃない」と主張。「発熱外来でないと診られない」と繰り返し言うとしぶしぶ同意して発熱外来に受診。しかし新型コロナウイルスの検査は要らないという。味覚も嗅覚も正常だからコロナじゃないというのが男性の言い分。そういう症状が出ない場合も多いことを説明しようやく検査を実施。結果は案の定陽性。保健所から電話があるからアパートから出ないように指示した。

 翌朝この男性から当院に電話があった。「勤務先に電話すると、『休まれると困る。どうしても休むのなら診断書を出せ』と言われた」とのこと。そもそも外出すべきでないのだから勤務先に診断書を持っていくことも控えるべき」と説明するが、「それを勤務先に理解してもらうのが大変」と言う……。

【事例2】20代女性 事務職

 「電車に乗るのが怖い」「手の消毒について教えてほしい」「職場でマスクを外す人がいて困っている」などの訴えを繰り返しメールで相談してくる女性。数年前から花粉症と湿疹で何度か当院を受診している。相談の頻度が多いとはいえ、内容は理にかなったものであり、答えにくいものではない。父が高齢で寝たきりのために絶対に感染するわけにはいかないと考えている。

【事例3】30代女性 無職

 「新型コロナウイルスに4月に感染し、その後もウイルスが体内から消えない」と言って受診。「このウイルスが慢性化することはない」と繰り返し説明しても受け入れられず、「倦怠感と頭痛がとれないのは体内に潜んでいる新型コロナウイルスのせいなんです」という主張をゆずらない。
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 事例1の男性と事例2の女性はほぼ同じ年齢です。仮にどこかでこの二人が出会う機会があったとしてもほとんど話が噛み合わないのではないでしょうか。この二人の会話に事例3の女性が加わったとすればどうでしょう。おそらく3人とも「話しても無駄だ」と思ってその後連絡をとろうとは思わないでしょう。

 では3人それぞれは日ごろ誰とコミュニケーションをとっているのでしょうか。事例1の男性は職場のスタッフといつも行動を共にしていると言います。仕事が終わってからの付き合いも多いそうです。おそらくこの飲食店で勤務するスタッフ全員が、新型コロナウイルスを脅威と考えず、予防もしていないことが予想されます。事例2の女性も事例3の女性もインターネットでいろんな情報を集めていると言いますが、おそらく見ているサイトはまったく異なります。事例2の女性が言うのは我々医療者が聞いても納得のできるエビデンスレベルの高い情報です。一方、事例3の女性が言うのは「ウイルスは〇〇が開発した」とか「本当は武漢ではなく▲▲でウイルスが生まれた」といった陰謀論のようなものです。

 さて、同じ日本に住み、同じ言語で情報収集をしているほぼ同じ世代の彼(女)たちの考え方がこんなにも違うのはなぜなのでしょうか。しかし、考えが違うことはそもそも良くないことなのでしょうか。

 原則として社会は多様性を認めなければなりません。ですから、異なる考えを持つことに問題はありません。というより、全員が同じ考え・同じ価値観をもつ社会があったとすれば脅威であり、また脆弱でもあります。そういう意味で大勢の人たちが多くの情報源を持ち様々な考えを持つ社会の方がずっと健全です。問題は、違う考え・価値観を持つ人たちとのコミュニケーションが「分断」されていることにあります。

 現在私が恐れているのは、医師の間でもこの「断絶」が生まれつつあることです。医師にも「過剰に恐れる必要はない。外出制限を減らしていくべきだ」と考える「派」があり、「グレートバリントン宣言」というものが発表されています。他方では、こういった考えは危険で慎重になるべきだという「派」が「ジョン・スノー覚書」というものを公表しています。医師であればどちらにも「サイン(署名)」することができるため、世界中の医師がどちらかにサインする動きが広がっています。

 ですが、私はこのような活動には反対です。医師どうしの「分断」がますます加速されるからです。「二極化」は分かりやすくすっきりする反面、極論につながりやすいという危なさがあります。「あんたはどちら派?」というような会話が始まればさらに「分断」が加速するでしょう。

 一般の人も医療者も、新型コロナ対策に現在最も必要なのは「異なる意見を持つ人との対話」ではないか。それが私の考えです。そして、ネット上での匿名の会話ではなく、自己紹介した上でのコミュニケーション、つまり相手の考えも尊重しながら進めていくコミュニケーションが必要だと考えています。先述した事例1と事例3は医療者からみて誤った考えを持っていますが、頭ごなしに否定するのではなく、なぜそのように考えているのかの理解から始めることが大切だと考えています。

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2020年11月10日 火曜日

2020年11月 米国大統領選挙と新型コロナでみえてくる「勝ち組」の愚かさ

 2020年11月の米国大統領選挙で民主党のバイデン氏が勝利しトランプ氏が失脚したことが報じられました。今回の選挙は私自身としてはどちらが勝ってもおかしくないと思っていましたが、4年前の大統領選ではトランプ氏が勝利するなどとは微塵も思っていませんでした。就任してからでさえ、「誇り高きアメリカ人がこんな人物を大統領と認めるはずがない。近いうちに選挙がやり直しされるだろう」と本気で思い込んでいたほどです。

 しかし、世界中のメディアを見聞きし、実際にラストベルト地域などトランプ氏を支持する地域への取材記事などを読むにつれて「なるほど、そういうことか」と思うようになっていきました。トランプ氏がいくら差別発言をしようが、下品な言動を披露しようが支持者には関係がない。いや、むしろトランプ氏がそういった非理性的な行動をとればとるほど、一部の人達からは熱狂的に支持される理由が次第にわかってきたのです。

 その「理由」とは「リベラルへの反逆」です。つまり、民主党を支持するリベラルの言うきれいごとや偉そうな態度に我慢ならない人たちの「怒り」がトランプ氏支持へとつながっているのだと思うのです。「怒り」というのは反理性的な感情です。ですから、トランプ氏が非理性的・反理性的な言動を示せば示すほど、日ごろ感じているリベラルへの怒りが発散できるというわけです。つまり、トランプ氏は、リベラルを嫌う人たちの「代弁者」となっていたのです。

 ではなぜ彼(女)らはリベラルに対して「怒り」の感情を抱くのか。極端なエピソードを創作するとこんな感じです。

 あるハイスクール。勉強はたしかにできるけど付き合いが悪くて冗談が通じないビル。いいとこ育ちで、ちょっとは美人かもしれないけど愛想のないケイト。そして俺たち。ビルやケイトは有名大学に行き、俺たちは地元の工場勤務。不景気で工場が閉鎖に追い込まれた。他の工場で雇ってもらおうと思っても不法滞在のヒスパニック系がマジョリティになってしまっている。そんななか、ビルは弁護士に、ケイトは会社の社長をしていると聞いた。ビルは「平等が大切だ」とかきれいごとを言って移民に権利を与える運動をしているらしい。ケイトは「黒人を守る」などと言っているが本音は黒人へのマーケットを増やしたいだけなのは見え見え。今度の選挙? ビルやケイトは民主党を支持しているって? じゃあ俺たちは……。

 私の印象でいえば、FOXニュース以外の米国の主要メディアはほぼすべてリベラルで、民主党支持です。大手メディアのスタッフは(ほぼ)全員が高学歴者で、差別反対主義者で、ポリティカルコレクトネス大好き、きれいごと大好きです。つまり「エリート」もしくは「ブルジョア」です。

 こう言ってしまうと、マルクス主義でいうブルジョアジーとプロレタリアートの対立に聞こえるかもしれませんがそうではありません。実際、トランプ氏はプロレタリアートの代弁者でないのは自明です。大金持ちなのですから。むしろ、生まれは貧しかったけれど一所懸命に努力をして成功している人たちや、人種差別の被害に遭いながらも努力を重ね高収入を得ている人たち、つまり自身をプロレタリアートと考えているような人たちが民主党を支持しているのが現在の米国だと思うのです。

 マルクス主義の用語でこれらの対立を説明できないのならどう考えればいいのでしょうか。その答えが「勝ち組」です。つまり、「勝ち組への怒り」がアンチ民主党、そしてトランプ氏支持につながったのではないかというのが私の推論です。

 では、なぜ勝ち組が怒りや反感を買うのか。それは彼(女)らに「謙虚さ」が欠落しているからだ、というのが私の考えです。現代社会というのは努力が美化される社会です。努力して這い上がり栄光を手にすれば他人から賞賛を集めます。ロースクールに入り苦労して弁護士になった、メディカルカレッジに入学して努力を重ね医者になった。彼(女)らは欲しいものを手に入れるために自分の時間を犠牲にし、がんばってきたわけです。

 そういう人たちの中には自分にだけでなく他人にも厳しい人が少なくありません。「成功していないのは努力が足りないからだ」という考えに固執するようになり、自分が勝ち組になったのはあれだけ頑張ったのだから当然だ、とうぬぼれるようになります。

 そして、彼(女)らがその後も自分のアイデンティティを維持するには、自分が成功しているのは「公正で正しい競争社会で勝ち抜き、今も平等な社会で勝負しているのだ」と思いこむ必要があります。だから彼(女)らは「平等」という概念を大切にします。性的指向や性自認に関わらず、有色人種も、外国人も、身体障がい者も、みんなが”平等に”チャンスが与えられている世界で自分は正当な競争を勝ち抜いたんだ、という「幻想」が彼(女)ら”エリート”には必要なのです。

 そして、これは日本にもそのままあてはまります。「勝ち組」の人たちの多くは、たしかに真面目に努力を重ねて成功しているのでしょう。一方、「勝ち組」の人たちのいくらかはきれいごとが好きで、努力を重ねて成功したのは自分ががんばったおかげだと思いこんでいます。

 東日本大震災のときには被災者を支援し、ラグビーで日本が善戦したときには「ワンチーム」という言葉に熱狂し支え合いを美化していた「勝ち組」の人たちも、新型コロナが流行しはじめると「他者を思いやる発言」が減っていないでしょうか。仕事をなくすかもしれないと考え始めると他人のことを考える余裕がなくなるのかもしれません。

 新型コロナの流行で「勝ち組」の立場を脅かされそうになった人たちのいくらかは、また新たな努力を始めるでしょう。会社を経営している人なら、助成金を上手に申請してこの状況を耐え忍び、そして再び成功することでしょう。成功を確認した時点で「苦境のなかでここまでこれたのは自分ががんばったからだ」と再び思うに違いありません。一方、コロナ禍でも雇用やお金の不安を感じることなく働いている人は「これまで一生懸命がんばってきたからだ」と自分自身をねぎらっているのではないでしょうか。

 今から14年前のコラム「医者は「勝ち組」か「負け組」か」で、私は「勝ち組」と言う考え方に疑問を投げかけ、何でもお金に換算する考えを強く批判し、お金が勝ち負けの指標にはならないことを主張しました。また、お金を求めることが馬鹿馬鹿しいことをタイの農民と日本のビジネスマンの逸話を用いて述べたこともあります(「なぜ「幸せ」はこんなにも分かりにくいのか」)。成功の原因として自分の実力が占める割合はほんのわずかであり、「人生を決めるのは99%の運と1%の努力」だということを過去のコラム「『偏差値40からの医学部再受験』は間違いだった」で述べました。

 私は自分自身のことを「勝ち組」とは思っていませんし、また「勝ち組」を目指すつもりもありません。過去のコラムでも述べたように自分自身の役割を演じるだけです。米国の大統領選については他国の人間が口をはさむべきではありませんが、日米問わず、勝ち組の人たちには”勝っている”要因をもう一度考えてもらいたいと思っています。”勝っている”のは自分ががんばったからなのか?ということを。

 最後に旧約聖書から興味深い言葉を引用しましょう(日本聖書協会の和訳を引用しようとしたのですが著作権の関係でできないようなので私が勝手に英文を訳しました。尚、英文にも複数あり、下記に示したのはその一例です。興味のある方はBible Hubのサイトを参照ください)。

私が白日のもとで見てきたのはこういうことだ。すなわち、足の速い者が競争に勝つとは限らない。強い者が闘いに勝つとは限らない。知恵のある者がパンを手にできるわけではない。賢者が金持ちになれるわけでもない。しかし、これらを成し遂げた者たち全員に「時」と「運」が味方したのだ。

“I have seen something else under the sun: The race is not to the swift or the battle to the strong, nor does food come to the wise or wealth to the brilliant or favor to the learned; but time and chance happen to them all.”

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2020年11月1日 日曜日

2020年10月31日 認知症予防には「食の多様性(ダイバーシティ)」

 ここ数年よく耳にする言葉に多様性(ダイバーシティ)があります。よく使われるのは、主に職場で「人種、宗教、性的指向・性自認などの違いからくる人それぞれの考えを尊重しよう」という文脈です。最近の日本では、セクシャルマイノリティの人権の話になると決まって引用されます。

 しかし多様性(diversity)というのは社会的な言葉だけではなく、医学の分野でも用いられることがあります。今回の話題は「食の多様性」です。

 多様性に富んだ食事をしている人ほど加齢による海馬(記憶を司る脳の部位)の萎縮が抑制される……

 医学誌『European Journal of Clinical Nutrition』9月2日(オンライン版)に「食の多様性は、日本人の海馬の体積の変化と関連(Dietary diversity is associated with longitudinal changes in hippocampal volume among Japanese community dwellers)」というタイトルの論文が掲載されました。著者は日本人の学者です。

 海馬は記憶を司る脳の領域で、加齢に伴い誰もが萎縮していきますが、アルツハイマー病などの認知症があれば早期から萎縮することが分かっています。

 研究の対象者は「国立長寿医療研究センター」の老化に関する研究に参加している1,683人(男性50.6%)、調査期間は2008年7月~2012年7月です。海馬の萎縮の程度と食事内容との関係が解析されています。

 食の多様性を5段階に分類すると、多様性が最も少ないグループでは海馬の体積の減少率が1.31%、次いで順に1.07%、0.98%、0.81%、0.85%となりました。

 研究者は「様々なものを食べること(食の多様性を増やすこと)が認知症のリスク低下につながる」と結論づけています。

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 太融寺町谷口医院の患者さんのなかに「身体にいいもの」にこだわりすぎて、特定のものばかり食べて「身体に悪い(かもしれない)もの」を一切避けているという人がいます。たとえば発芽玄米のみばかり食べて、小麦、卵、大豆製品などを一切食べないという人がいます。そして、「魚には重金属が…」「コーヒーにはカビが……」などと言って食べるものをどんどんと制限しています。こういう人たちはビーガン(徹底した菜食主義者)の人たちよりもさらに健康のリスクがあるのは自明なのですが、なかなか聞く耳をもってくれません。

 組織と同じで食にも多様性が必要、といってもこういう人たちの耳には届かないのでしょうか……。

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2020年11月1日 日曜日

2020年10月31日 胃薬PPIは糖尿病のリスクにもなる

 このサイトでは特定の薬を充分な根拠もないままに高評価したり、逆に低く評価したりはしていないつもりです。常に客観的な観点から医療情報をお伝えすることを心がけています。ですが、胃薬PPIに関しては否定的なものを取り上げる機会が増えています。認知症、脳梗塞、骨粗しょう症などのリスクになることが指摘されているPPIは新型コロナのリスクにもなる可能性があることを過去に伝えました。今回は糖尿病との関係です。

 医学誌『Gut』2020年9月28日号(オンライン版)に「胃薬PPIの定期的な服用と2型糖尿病のリスク:3つの前向きコホート研究の結果(Regular use of proton pump inhibitors and risk of type 2 diabetes: results from three prospective cohort studies)」というタイトルの論文が掲載されました。中国人の学者による研究ですが、対象は米国の医療従事者が対象の3つの大きな研究(Nurses’ Health Study(NHS)、NHSⅡ、Health Professionals Follow-up Study(HPFS))です。

 調査開始時に糖尿病を発症していない人が204,689人で、調査期間中に10,105人が糖尿病を発症しています。PPIを使用していない人に比べて、PPIの長期使用者で糖尿病のリスクが24%上昇していました。リスクは使用期間が長いほど上昇するようで、使用期間が0~2年のグループでは発症リスクが5%上昇するのに対し、2年以上の使用では26%になっています。

 興味深いことに、このリスクはPPIを中止すると減少するようです。使用中止期間が0~2年であれば17%、2年以上になれば19%のリスク低下が確認されています。

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 過去にも述べたように、これまでPPIを内服していた人でも、少しの生活習慣の改善と薬の変更でいい状態が維持できる人は少なくありません。PPIは頼りになる薬ですが、長期使用を減らしていく対策も必要です。

医療ニュース
2020年8月6日 胃薬PPIは新型コロナのリスクになる
2019年12月28日「やはり胃薬PPIは認知症のリスクを増やすのか」
2018年9月28日「胃薬PPIで認知症のリスクは増加しない?!」
2018年5月14日「PPI使用で脳梗塞のリスク認められず」
2017年4月28日「胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク」
2018年4月6日「胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに」
2017年1月23日「胃薬PPIは精子の数を減らす」

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