2018年1月26日 金曜日

2018年1月26日 単身者は犬を飼えば長生き 雑種より猟犬が良い?

 動物療法(動物介在療法、ぺット療法、アニマルセラピーなどとも呼ばれる)が心身の健康に良いということが指摘されています。エビデンス(科学的確証)が充分ではなく、すべての医療者が推薦しているわけではありませんが、私の経験からいっても、犬を飼いだしてから笑顔が戻った引きこもりの若者や、パートナーをなくしてふさぎ込んでいたところ犬と一緒に暮らしだして元気になった高齢者などを何人かみていますから、「犬を飼おうと思っているんですけど…」と相談されたときは積極的に推薦するようにしています。

 では、果たして犬を飼うことは本当に健康によいのでしょうか。結論から言えばよさそうです。科学誌『Scientific Reports』2017年11月17日号(オンライン版)に興味深い論文(注1)が掲載されています。

 この研究はスウェーデンのものです。データベースに登録されている合計3,432,153人(男性が48%、中間年齢57歳)が研究対象です。犬を飼っているのは全体の13.1%で調査期間は12年間です。

 犬の飼育は単身者と家族のいる人とで分けて分析されています。犬を飼育していると、死亡リスクは家族のいる人で11%低下、単身者だと33%低下しています。心血管系疾患の死亡リスクでみると、家族のいる人で15%、単身者は36%も低下しています。

 この研究では犬の種類ごとの検討もおこなわれています。結果は下記に示した通りです(ただしこの和訳に自信がないので関心のある人はhttps://www.nature.com/articles/s41598-017-16118-6/tables/3を参照してください。また、ジャパン・ケネル・クラブのサイトではこれと同じ順番で犬の種類が紹介されています)

                               心血管系疾患のリスク   全死亡のリスク
牧羊犬                    1.02           0.84
ピンシャー、シュナウザー        0.97           0.78
テリア                    0.95            0.81
ダックスフンド               0.94            0.76
スピッツ類                  0.98            0.72
セント(嗅覚)ハウンド          0.93           0.63
ポインター                 0.90            0.60
レトリバー                  0.90           0.74
トイドッグ                  1.04            0.85
サイト(視覚)ハウンド          1.02            0.83
雑種                     1.13            0.98

 興味深いことに、猟犬タイプ(ポインター、レトリバー、ハウンドなど)は心血管系疾患のリスクも全死亡のリスクも低くなっている一方で、雑種やトイドッグはさほどリスク低下が認められません。特に雑種は、心血管系疾患のリスクが逆に13%増加しています(全死亡のリスクは2%の低下)。

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 そのままこのデータを信用するなら、雑種でなく猟犬を飼おうとなるかもしれませんが、実際には品種にこだわらずに一緒にいて落ち着けるタイプの犬がいいのではないか、というのが私の考えです。私の家では、私が小さい頃に犬を何度か飼ったことがありますが、すべて雑種でした。一流の血統の犬を飼っている友達もいましたが、私は私の家の犬が一番かわいいと思っていました。

注1:この論文のタイトルは「Dog ownership and the risk of cardiovascular disease and death – a nationwide cohort study」です。下記URLで全文を読むことができます。

https://www.nature.com/articles/s41598-017-16118-6

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2018年1月20日 土曜日

第180回(2018年1月) 私の英語勉強法(2018年版)

 2011年に書いたコラム「私の英語勉強法」で、効果的であると私が考えている英語の勉強法を紹介したところ、たくさんの方から「参考になった」「もっと教えてほしい」といった連絡をいただきました。そのコラムで書いたように、私自身も20代前半の頃から英語の勉強は今も継続しているのですが、最近になってその方法が随分と変わってきました。そして改めて2011年当時のコラムを読み直してみると、改訂版をつくらなければ、という思いになり、今回2018年版を書くことにしました。

 まずは2011年版で紹介した勉強法をまとめてみます。

(1) 英会話学校は役に立たない
(2) CD,ラジオではなくテレビ、インターネットが有効
(3) NHKのテレビプログラムは最強の英語勉強ツール
(4) NHK(正確にはNHK world)のウェブサイトでニュースを聴く
(5) ネイティブの講師をみつけてプライベートレッスンを受ける

 この5つのなかで、今も継続して私が実践していて、そして他人に勧めているのは(4)だけです。(2)は部分的には変わっていませんが根本が異なります。そして、(1)(3)(5)は完全に撤回しなければなりません。

 2011年の時点では、私はNHKを絶賛しており、複数の英語教育番組を録画して観るべきだ、と述べました。なにしろ90年代前半から20年間にわたり私が実践してきた方法です。当時のコラムには「私はNHKの英語教育プログラムを一生見ることになる」とまで書いています。ここまで書いて撤回するのは恥ずかしいのですが、真実を隠すわけにはいきません。

 とはいえ、何もNHKの英語教育番組が劣化したわけではありません。プログラムの内容自体は素晴らしいものです。では、なぜ私がNHKから”卒業”したのか。それは現在ではもっといい方法があるからです。その方法は後で述べるとして、NHKの英語教育プログラムで1点だけ補足しておきます。「ニュースで英会話」という優れた番組があります。この番組を見たことがないという人には是非テレビも勧めたいのですが、インターネットを用いればこの番組をもっと効率よく利用することができます。番組のウェブサイトにアクセスし、会員登録をするとニュースの画像、音声、スプリクトの全てを得ることができます。しかも「音声」はゆっくりと読み上げる機能まであります。この機能が使えるとなるとテレビを見るよりも効果的な勉強ができます。

「ニュースで英会話」を私はデスクトップのパソコンを利用して勉強していますが、これはスマホでも可能です。そしてスマホこそが先に述べた私の勉強法が大きく変わってきた最大の理由に他なりません。スマホ依存症はいまや重大な疾患ですが、「スマホで英語勉強依存症」はむしろ目指してもいいかもしれません。

 元々私は電話自体が好きでありませんし、スマホが登場したときも必要とは思いませんでした。(一方でiPADは比較的早くに買いました) ところが「iPhone 6 Plus」が発売されたときに、私の考えが大きく変わりました。「これは使える!」と直感したのです。以前の私は、あの小さな携帯電話(ガラケーと呼ばれているもの)で、文字をうっている人の気持ちが分かりませんでした。そんなに細かいことしなくても家か職場でパソコンでやればいいんじゃないの?と思っていたからです。スマホが登場したときも、こんなに小さい画面で入力なんて肩がこるだけ、と思っていたのです。しかし「Plus」のサイズがでたときにはその考えが変わりました。

 スマホが英語の勉強に適しているのは「ニュースで英会話」が見られるからだけではありません。インターネットにつながるわけですからCNNでもBBCでもNHK worldでもなんでも見られます。ですが、スクリプトのでない放送をみても勉強になるとは限りません。私のおすすめは「voice of America learning English」(以下VOA)です。これについては、2011年のコラムでも紹介しましたが、英語の学習者用にゆっくりと読み上げてくれて、なおかつ一字一句正確なスクリプトが表示されます。

 ここで「英語はネイティブのスピーキングの速さについていかなければ意味がない」という意見に答えておきます。これはたしかに一理あり、意味が分からなくてもBBCやCNNのキャスターの英語を聞くような勉強もすべきです。ですが、VOAのようにゆっくりと話してくれれば「シャドーイング」ができます。シャドーイングはここ数年英語の勉強の話題になるとよく出てくるキーワードで、英語を聞き取りながらわずかに遅れて同じ英文を話すことです。2011年時点では私はシャドーイングの有効性をそれほど重視していなかったのですが、現在は極めて有効な練習法と考えています。英語はいくら読み書きができて、ある程度リスニングができたとしてもスピーキングはうまくなりません。うまくなるにはこのシャドーイングが極めて有効なのです。

 さらに、話す・聴くで有効な勉強法を紹介しましょう。2011年に私は英会話学校を否定し、自分でプライベートレッスンを受けられる講師を探すことを提案しましたが、これより遥かに有効な方法があります。それは、フィリピンの英語教師からマンツーマンのレッスンを受けるという方法です。2011年の時点で私は知りませんでしたが、ちょうどその頃からフィリピンに短期間渡航し、マンツーマンの英会話学校に入る人、さらにスマホを用いて日本にいながらプライベートレッスンを受ける人が続出しました。そして、これが信じられないくらいに安いのです。

 私も4日間の超短期間ですが、実際にフィリピンに渡航し体験してみました。学校や講師によっては勉強にならないという意見もあるようですが、そんなことはまったくなく私にはとても勉強になりました。そもそも彼(女)らの英語のレベルは少なくとも日常会話でいえばほとんどの日本人より上です。講師によっては、例えば医学で用いる単語を知らない、ということはありましたし、仮定法過去の使用がおかしい講師もいましたが、そんな講師でも発音は私とは比較にならないほど上手ですし、あまり話さない講師なら、こちらから一方的にがんがん話をして、間違っている発音を訂正してもらうという勉強もできます。私のように4日程度なら、”元”をとれないかもしれませんが、1週間以上の時間がとれるならLCCなどを利用すればかかった費用の何倍もの価値があるはずです。

 もちろん日本にいながらスマホを用いて講師の顔をみながらレッスンを受けてもかまいません。ただ、私自身はスマホのスクリーン越しに他人と話すのに慣れておらず抵抗があるので、これはおこなわずに、先述したVOAとNHK worldをメインとした勉強にしています。VOAでは、ニュース以外に「Let’s learn English」、「English in a Minute」、「News Words」、「Everyday Grammar」など、英語勉強用の1~数分のすぐれたプログラムが多数用意されています。

 スマホといえばアプリですが、私は過去数年間で30以上の様々な英語学習用アプリを試してみました。そのなかでひとつ推薦するとすれば「English Central」です。このアプリでもマンツーマンレッスンも申し込めますが、それをしなくても多数のビデオを字幕付きで見ることができます。ビデオの時間は1~数分で、内容が多岐にわたり、初心者から上級者向けまで様々なものが用意されていて無料です。これを毎日続ければ少なくともリスニングとスピーキングに関しては飛躍的に伸びると思います。

 また、読み書きなら誰でもすぐに始められる簡単な勉強法があります。まずスマホの設定を「英語」にします。これでほとんどのアプリが英語版になります。そしてLINEやFacebookやtwitter、メールを可能な限り英語で送信するのです。私はSNSは登録のみで自分から何かを発することはありませんが、たとえばtwitterではトランプ大統領のツイートがほぼ毎日入ります。(返信はしたことがありませんが、すれば読んでもらえるのでしょうか…)

 ここで私の英語勉強法2018年版をまとめておきます。

(1) スマホは最強の英語勉強ツール(もちろんPCでもOK)。アプリも充実している。
(2) NHKの英語教育番組は依然高品質だがテレビを観なければならないのが難点。
(3) NHKの「ニュースで英会話」はテレビよりスマホが効果的。スマホならゆっくり読み上げてくれる機能がある。
(4)  「Voice of America learning English」のゆっくり読み上げてくれる機能はリスニング及びシャドーイングに最適。
(5)英会話学校はマンツーマンレッスンをフィリピンで受けるのがいい。費用は驚くほど安くLCCを利用して渡航すれば1週間でも元がとれる。
 
 最後に、拙書『偏差値40からの医学部再受験』でも述べた英語学習の”特徴”を繰り返しておきます。それは、英語というのはしばらくの間はやってもやってもまったく伸びず、ある日突然理解できるようになり、また停滞して、再びできるようになり…、という感じで階段状に上達していくということです。現在行き詰っていたとしても決して諦めないでください。

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2018年1月20日 土曜日

第173回(2018年1月) 急増するPFAS(花粉食物アレルギー症候群)

 果物や野菜のアレルギーが増えている、という話を過去のコラム(はやりの病気第144回(2015年8月)「増加する野菜・果物アレルギー」)で述べました。そのときは、増加しているといっても、そうそう頻繁に診ることはなかったのですが、その後の約2年半でどんどん増えてきています。そして、そのコラムでも述べたように「花粉症との合併」が目立ちます。

 これまで(私の感覚では5年ほど前まで)、野菜・果物アレルギーと言えば、ラテックスアレルギーと合併する「ラテックスフルーツ症候群」がちらほらとあった程度で、そんなに多いという印象はありませんでした。しかし、3~4年ほど前から、主にリンゴ、モモなどのバラ科の植物にアレルギーのある患者さんが増え、私の経験上北海道や東北地方の出身者に多かったために、シラカンバ(シラカバ、白樺)アレルギーがあるからではないかと考えていました。シラカンバの花粉とバラ科の植物の表面の蛋白質の構造が似ているために、シラカンバの花粉症があれば一部の果物を食べたときに口腔内に違和感が生じるのです。そして、シラカンバは北国にしか育ちませんから、西日本にはさほど多くないだろうと考えていたのです。

 ところが、ここ2~3年を振り返ってみると出身地域に関係なくバラ科のアレルギーの患者さんが増えています。また、バラ科だけではありません。メロン、トマト、スイカ、タマネギなどを食べると違和感が出ると訴える人が増えています。さらに、これまでほとんどの患者さんは症状がでても軽症で治療を要するほどではなかったのですが、最近は重症化するケース、例えば息苦しくなり喘息の発作止めを使わざるを得ないようなケースが増えてきています。特に豆乳とスパイス(香辛料)でそのような症例が目立ちます。

 今回は野菜・果物アレルギーと花粉症の関係を整理して、どのような対策をとるべきかについて考えてみたいと思います。

 まずは言葉です。数年前よりPFAS(ピーファスと読みます)と呼ばれる疾患名が注目されるようになってきました。PFASの正式名はPollen-food allergy syndrome、直訳すると「花粉食物アレルギー症候群」となります。概念としては、同じアレルギーのメカニズムで花粉症と食物アレルギーの双方が生じる疾患、となります。その理由は先にシラカンバの例で述べたように、花粉と食物の表面のタンパク質の「かたち」が似ているから同じアレルギー反応が起こるのです。

 どの花粉症があればどの食物アレルギーが起こるのでしょうか。いくつか例を挙げましょう。

・スギ → トマト

・ヒノキ → トマト

・ハンノキ →  バラ科の果物(★)
         ウリ科の果物・野菜(☆)
         ダイズ(主に豆乳)
         その他果物(キウイ、オレンジ、マンゴー)                    
         その他野菜(ニンジン、セロリ、トマト、ゴボウ、アボカド)
         イモ類(ヤマイモ、ジャガイモ)
         ナッツ類(ヘーゼルナッツ)

・シラカンバ → バラ科の果物(★)
         ナッツ類(ヘーゼルナッツ、クルミ、アーモンド、ピーナッツ)
         ウリ科の果物・野菜(☆)
         その他野菜(ニンジン、セロリ)
         イモ類(ジャガイモ)
         その他果物(キウイ、オレンジ、ライチ、ココナッツ)
         ダイズ(主に豆乳)
         香辛料(マスタード、パプリカ、コリアンダー、トウガラシ) 

・カモガヤ・オオアワガエリ → ウリ科の果物・野菜(☆)
                その他果物(オレンジ、キウイ)
                野菜(トマト、セロリ、タマネギ)
                イモ類(ジャガイモ)
                穀類(コメ、コムギ)

・ブタクサ → ウリ科の果物・野菜(☆)
        バナナ

・ヨモギ →  野菜(ニンジン、セロリ、レタス、トマト、キウイ)
        ナッツ類(ピーナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ)
        その他(クリ、ヒマワリの種)
        イモ類(ジャガイモ)
        香辛料(マスタード、コリアンダー、クミン、コショウ)

★:リンゴ、モモ・スモモ、ナシ・洋ナシ、ビワ、サクランボ、イチゴ、アンズ
☆:メロン、スイカ、キュウリ、ズッキーニ

 太融寺町谷口医院の患者さんでいえば、この中で最も重症化するのは「豆乳」です。なかには豆乳を飲んで2~3分後に呼吸が苦しくなり、救急車を呼ばねばならなかったという例もあります。そして、全例でハンノキに血液検査で強い反応を示していました。興味深いことに、患者さんは自分自身がハンノキアレルギーという意識がありません。ハンノキというのは北海道から沖縄まで日本全国どこにでも山中に生えている木です。知らない間に山の中で花粉を吸いこみアレルギーが成立していたのでしょう。

 豆乳以外に重症化するのはヨモギアレルギーがある人のスパイス(香辛料)です。東南アジアに住まない限りはコリアンダー(パクチー)を毎日食べる人はそういないでしょうが、マスタードやコショウは日本に住んでいても日常的に口にする機会がありますから、完全に避けるのは思いのほか大変です。この場合は、ヨモギアレルギーの自覚がなかったとしても「秋の花粉症があるかも」とほとんどの人が言います。

 アレルギーがやっかいなのは、現在はなくてもそのうちに出てくることがある、ということです。ですから、花粉症もしくは食物アレルギーがある人は、どういった花粉と食物が関連しているかということをあらかじめ知っておくべきでしょう。そして、いつなんどき食物アレルギーが発症するかもわかりませんから、いつも薬を持ち歩くべきかもしれません。ただし、薬に頼りすぎるのはよくありません。豆乳やスパイスアレルギーがあれば完全に避けなければなりませんし、野菜・果物アレルギーの大半は軽症ですが重症化する例もありますからあなどらない方がいいと思います。

 単なる花粉症であれば、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの鼻症状と目のかゆみなどの眼症状で苦しむことになりますが、命が脅かされる事態になることはほとんどありません。花粉症で皮膚症状が生じれば生活が制限されるほどの苦痛を伴うことがありますし、喘息症状も辛いものですが「花粉症で重体」というのは極めて稀です。ですが、食物アレルギーの場合は重症化して入院を余儀なくされることはまあまああります。つまり、PFASは「死に至る病」になりうるということです。

 PFASがやっかいな点がもうひとつあります。過去のコラムで紹介した最も難渋するアレルギー疾患といえる好酸球性食道炎がPFASと合併しやすいという報告があるのです(注1)。好酸球性食道炎はいったん発症するとその後の人生が大きく変わりかねない重症性疾患であり、実際厚労省の指定難病に入っています。報告によれば好酸球性食道炎を合併しやすいPFASとして、リンゴ、ニンジン、モモが指摘されています。

 PFASは最近注目されだした疾患です。おそらくこれからいろんなことが分かり、花粉と食物の複雑な関係が少しずつ明らかになっていくでしょう。上に述べた関連以外にも食物アレルギーがあれば花粉症を、花粉症があれば食物アレルギーの可能性を検討していくべきだと私は考えています。

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注1:医学誌『Diseases of The Esophagus』2017年10月26日号(オンライン版)に掲載された論文「Pollen-food allergy syndrome is a common allergic comorbidity in adults with eosinophilic esophagitis」に報告があります。下記URLで概要を読むことができます。

https://academic.oup.com/dote/advance-article-abstract/doi/10.1093/dote/dox122/4566194?redirectedFrom=fulltext

参考:https://www.thermofisher.com/allergy/jp/ja/allergy-symptoms/special-allergies.html

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2018年1月11日 木曜日

2018年1月12日 高学歴はアルツハイマーのリスクを下げるが喫煙も?

 アルツハイマーのリスクを上げる要因、下げる要因については世界中で様々な研究がおこなわれています。今回紹介したいのはスウェーデンでおこなわれた大規模調査で、医学誌『British Medical Journal』2017年12月7日号(オンライン版)に掲載されたものです(注1)。

 調査は、ヨーロッパのアルツハイマー病の患者17,008例と対照37,154例を比較検討することによっておこなわれています。

 結果は、大学を卒業していればアルツハイマー病の発症を26%低減させるというものです。学歴以外の興味深い結果としては、喫煙(1日10本)で31%のリスク低下(!)、コーヒー(1日1杯)は26%のリスク上昇(!)です。

 アルコール摂取、葉酸、ビタミンB12、血糖値、血圧、脂質などには関連性は認められなかったようです。

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 論文の著者は「高学歴がアルツハイマーのリスクを下げる」ということを最も強調したいようですが、それよりも喫煙がリスクを下げて、コーヒーが逆に上げるということの方が気になります。従来から言われていることと逆になるからです。

 学歴にしてもヨーロッパと日本では事情が異なるでしょうし、大学にも様々なところがありますし、さらに私個人の見解を述べれば、大学卒業後もどれだけ勤勉な態度を維持しているかの方が重要だと思います。

 今回の結果を鵜呑みにするのではなく(特にタバコ!)、従来から言われているように生活習慣病に気を付けて、規則正しい生活をおこなうべきだと私は思います。この論文を読んで喫煙を開始することなどあってはなりません。

注1:この論文のタイトルは「Modifiable pathways in Alzheimer’s disease: Mendelian randomisation analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/359/bmj.j5375

参考:
メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース
2017年10月10日「認知症になりにくい性格とは?」
2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
2017年10月25日「認知症の治療にイチョウの葉は有効か無効か」

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2018年1月11日 木曜日

2018年1月11日 バイアグラ過剰摂取で全裸の男が空港で逮捕

 バイアグラが効きにくくなってきたとの理由から自己判断で過剰摂取する人がときどきいますが、それをすると世界中に恥をさらすことになるかもしれません。

 2018年1月4日、タイのプーケットから韓国のインチョン行きのフライトに搭乗予定の韓国系アメリカ人の男性が、プーケット空港で全裸になり、なんと自分の糞便を周囲に投げつけ、危険回避のために逮捕されました。世界中のメディアが写真やビデオ付きで報じています。(なぜか日本のメディアは取り上げていないようですが)

 この男性は平静を取り戻した後、自分の罪を認め、損害賠償にも応じると話しているそうです。当然のことながら、韓国行きのフライトには搭乗できず地元の警察に連行されました。

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 突然空港で見知らぬ男性が全裸になり糞便を投げつけてくれば恐怖を覚えますから、この男性が罪に問われるのは無理もありません。ですが、実名を晒され、画像が世界中に拡散されるのは問題ではないでしょうか。もはやこの男性が「社会復帰」するのは困難でしょう。(私自身は、名前や画像が広がることを疑問視していますので、ここではこのニュースの出所は書かないでおきます。検索すれば簡単に見つかりますが…)

 それにしても怖いのはバイアグラです。これからの取り調べで別の薬物が出てくる可能性もあるでしょうし、理論的にバイアグラが原因でこのような行動をとったとは考えにくいのですが、バイアグラを過剰摂取したのは事実のようです。

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2018年1月9日 火曜日

2018年1月 かつての情熱を失くした私が今考えていること

 1月1日に必ず私がすること。それはミッションステイトメントの見直しです。過去のコラムで述べたように、私の人生で最も大きな転機はミッションステイトメントを初めて作ったときに訪れました。それは1997年の3月で、私が医学部の1回生の終わりごろ、28歳の時でした。その後、毎年1月1日を「ミッションステイトメント全面的見直しの日」としています。

 それから20年が過ぎ、2018年1月1日は21回目の見直しをすることになりました。たいていは早朝に時間をとっておこないます。今年は東南アジアのある地域で早朝のジョギングに出かけ、そのときに自己を見つめなおしミッションステイトメントの見直しにとりかかりました。

 ミッションステイトメントを見直すにはちょっとした勇気がいります。不安感や抑うつ感も伴うからです。自分の内側に深く入り込んでいくと、自分はいかなるときも「善」で行動しているか、ということを問わねばなりません。以前も少し触れたように、私は稲盛和夫さんの「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉を座右の銘にしています。何か新しいことをするときはもちろん、いかなるときもこの言葉を忘れないよう努めるのです。

 幸いにも、医師という仕事は利益を考えなくていい(考えるべきでない、考えてはいけない)職業ですから、医療行為をおこなう上で動機を「善」に保つことはそうむつかしくありません。(そういう意味で、京セラやKDDIを純粋に社会のためだけに設立し、さらにJALを再建された稲盛さんは本当に偉大な方だと思います) ですが、自分をよくみせようと振舞ったことは一度もなかったのか、他人のためと言っておきながら自分に有利になるように行動したことはないと言い切れるのか、私心は常にまったくなかったと言えるのか…、このようなことを考えるとときに胸が苦しくなることがあります。

 湧き出てくる不安感や抑うつ感にも向き合い自分を見つめなおし、心の深部に触れようとすると、これまでの人生で感じた「情熱」が蘇ります。ミッションステイトメントを見直すときに思い出す「情熱」で最も強いものは、2002年にタイで感じた「差別と闘っていかなければ!」という思いです。当時のタイでは、HIV告知は「死」を意味していました。抗HIV薬がまだ使われておらず、正確な知識が市民に伝わっておらず、そのためHIV陽性者は行き場をなくし、地域社会からも家族からも、そして病院からも追い出され途方に暮れていたのです。

 病気が原因で差別されることなどあってはならない! そう強く感じた私は、たとえどのような障壁があろうとも、周りに味方がいなくても立ち向かっていくことを誓いました。そして、当時タイのエイズ施設で出会った欧米の総合診療医達の影響を受け、患者さんを幅広い視点から診察し、心理的、社会的にもサポートしていく総合診療医を目指すことを決意したのです。

 当時のタイのHIV陽性者はエイズ施設以外に行ける医療機関がありませんでしたから、そこではどのような症状があろうがすべて総合診療医が診なければなりません。私には何でも診ることのできる彼(女)らがとても魅力的にうつりました。当時の日本では臓器ごとに担当する医師(専門医)が決まっていて、「総合診療医」という概念すらまだ確立されていなかったからです。彼(女)らによれば、欧米では総合診療が当たり前であり、患者さんは何かあれば大きな病院には行かず総合診療医であるかかりつけ医をまず受診すると言います。そして入院や手術が必要なときのみ紹介状を持参して専門医を受診するのです。

 今考えるとタイミングが私に合っていたのでしょう。ちょうどその頃、日本でも総合診療医を育成せねばならないという声が増え始め、大学病院で試みが始まっていたのです。帰国後、私は母校の大阪市立大学の総合診療部の門を叩き、大学で総合診療医を目指すことになります。そして、大学に籍を置きながら、別の病院や診療所で各科のトレーニングを受けるという生活が始まりました。

 しかし、大学病院を中心に診療している限り「何かあればすぐに相談してください」と患者さんに言えません。そこで自分でクリニックをオープンすることにしました。自分のクリニックがあれば、いつでも相談してもらえますし、患者さんから信頼を得られるようになると社会的、心理的なサポートもできるようになるはずです。また、日本でもこれから増えていくであろうHIV陽性者の力になれるだろうとも考えました。HIV陽性者も含めて、どんな背景をもつ人に対しても、そしてどのような症状であってもサポートができる医師を目指したのです。このようなクリニックは私の知る限りひとつもありません。ならば「自分が先駆者になってみせる!」と情熱に駆られました。

 そして10年以上の月日が流れ時代は変わりました。それにつれて私の情熱の”かたち”も変わっていきました。

 まずタイでのHIV事情が大きく変わりました。抗HIV薬が実質無料で供給されるようになりHIVはもはや死に至る病でなくなりました。謂れなき差別は残存していますが、かつてのように食堂に入ると皿を投げつけられ追い返される、ということはなくなりました。今はどこの病院でもHIV陽性者だからという理由で追い返されることはありません。(一方、日本ではまだそういった医療機関が少なくありませんが…)

 タイでHIVに関する活動をしていた世界中のNPOは規模を小さくし撤退するところもでてきました。かつて私が感じた心の底から湧き出てくる怒りは完全になくなったわけではありませんが、あの頃の情熱を維持しているとは言えません。もちろん今も苦しんでいるHIV陽性者の人は少なくありませんから、これからもタイでの支援は続けています。ですが、かつて感じた「差別と闘っていかなければ!」という強い情熱が自覚できなくなっているのも事実です。

 日本での診療はどうかというと、この10年で総合診療は随分とメジャーなものになってきました。かつての私と同様、臓器の専門医を目指すのではなく患者さんのあらゆる健康上の悩みに応えられる医師になりたい、と考える若い医師が増えたのです。実際、全国の総合診療医(及び総合診療医を目指す若者)が集まる「日本プライマリ・ケア連合学会」の学術大会はいつも若い医師達でいっぱいです。昨年(2017年)高松で開催されたときは、ホテルがとれず岡山に泊まらねばならなかったほどです。

 総合診療が盛り上がるにつれ、当時の私が考えた「自分が先駆者になってみせる!」という情熱の”かたち”も変わってきました。少しずつ「教育」のことを考えるべきだと思うようになってきたのです。総合診療に興味を持つ若い医師が増えたのは事実ですが、大半の若い医師たちは、医療の対象を高齢者中心の地域医療と考えています。もちろん高齢社会のなかで彼(女)らの考えは重要であり活躍できる場はたくさんあります。ですが、私が実践しているような都心部で若い世代を中心とする総合診療に興味を持っている若い医師は少数なのです。実際、「(太融寺町谷口医院のようなクリニックは)他にないから」という理由で他府県から定期的に受診している患者さんも少なくありません。

 タイのHIV陽性者が被っている惨状を目の当たりにし「差別と闘うんだ!」と感じたときの”情熱”、欧米のような総合診療医がいないなら「自分が総合診療医となってクリニックを立ち上げるんだ!」と考えたときの”情熱”は、今私のなかでどんどん小さくなってきています。

 しかし、タイでも日本でもそれ以外の国でも助けを求めている人は依然少なくなく、そのような人たちの力になっていかなければ、という気持ちは変わっていません。また、これからは患者さんへの貢献だけではなく、若い医療者を支援していかなければ、という思いが次第に強くなってきています。

 かつてのような激しく情動的な”情熱”は消え去りましたが、「貢献」という原理原則は変わっていないことを確認し、地道な努力を続けていくことを自分に誓いました。私の2018年はその誓いでスタートしました。

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