2013年6月13日 木曜日
2005年8月号 2005/08/02
8月になりました。(といっても、これを書いているのはまだ7月半ばを過ぎたところです。今回は7月下旬からタイに渡航するため、原稿を早めに書いているというわけです。)
私にとって、7月の最大の出来事と言えば、1日から5日まで神戸で開催されたICAAP(アジア太平洋国際エイズ会議)でした。この会議のことも含めて、AIDSのことは、「はやりの病気」の7月15日号と8月1日号で紹介していますので、ぜひともそちらもご覧いただきたいのですが、このマンスリーレポートでも、ICAAPのことを述べたいと思います。
ICAAPは、他の医学の学会と異なり、医師以外の大勢の方々が参加されていました。どのような人たちかというと、NPO法人の方や、HIV/AIDSに関連するボランティアをされている人、ILOやユニセフなど国際機関の方、同性愛者やその擁護者の方、(元)ドラッグユーザーやその研究者、セックスワーカーやその擁護者の方、社会学や他の学問を研究されている方などです。
私は、そういった普段は接することのない方々とお話させていただき、多くのことを学ぶことができました。また、国際学会だから当然だとはいうものの、何人かの外国人の方とも仲良くなることができました。
5月に京都で開催されたWONCA(国際家庭医学会)も国際会議で、こちらにも大勢の外国人が来られていましたが、参加者のほとんどが医師でしたから、ICAAPのように医師以外の方と知り合うことはありませんでした。
ICAAPでは思わぬ再会がありました。私が昨年の夏、タイのパバナプ寺でボランティアをしているときに、同じように日本からボランティアに来ていた人たちと再会したのです! これは驚いたと同時に、すごく嬉しく思いました。
私は普段多くの医療従事者と接していますが、エイズに興味のある医師や看護師というのはそれほど多くいません。最近では私自身が接する、新たにHIV感染が分かった人も増えてきていますし、もちろん日本全体でも急速に患者数が増加してきています。
にもかかわらず、関心のある医療従事者は非常に少ないのです。
そんななかで、エイズという問題に関心を持ち続けている方がおられるというのは非常に嬉しいことなのです。
ICAAPは、参加するのにおよそ4万円の費用が必要でした。私は働いていますから、4万円という金額は払えないことはありませんが、昨年パバナプ寺で出会い、今回ICAAPで再会した人のなかには、学生の方もおられます。彼ら彼女らは、もちろん自費でタイに行き、無償でボランティアをおこない(しかも私よりも長期間で)、そして、ICAAPには4万円という大金を自分で支払って参加しているのです。なかには東京から来られている人もいて、彼ら彼女らには、交通費と宿泊費もかかっているのです。
医療従事者ではない方々が、そんなにもエイズという問題について一生懸命でおられるということが、私にはとても嬉しいのです。
また、再会した人ではなく、今回始めて知り合った人たちのなかにも、エイズという問題に真剣に取り組み、奉仕の精神を発揮されている方が大勢おられました。そして、そのなかの大半の方は、どこからも報酬がでるわけではなく、いわばボランティアとして活動されているのです。
そういった方々と、新しく、あるいは再び出会えたことが、私が今回ICAAPに参加して得られた、もっとも大きな収穫であったと感じています。
私はこれから、そういった医師以外の方々とも、何らかのかたちで一緒に仕事がしたいと考えています。「奉仕の精神」をもつ人と、共に何かをやり遂げることは、「感動」につながりますし、私自身が刺激を受け、鼓舞されるからです。
さて、7月28日から8月3日まで、タイ国に渡航いたします。今回は期間が短いことから、かなりのハードスケジュールになります。この短期間で、ロッブリーの「パバナプ寺」に行き、チェンマイの「バーン・サバイ」に行き、さらに、今回はチェンマイにあるハンセン病の患者さんが収容されている施設の見学もしたいと考えています。
また、バンコクでは、タイの大学で公衆衛生学を学んでいる学生と会う予定をしています。この学生とは、日タイの共同研究について検討する予定です。共同研究は、もちろんエイズに関連するものですが、これまでにないオリジナリティのある研究をしたいと考えています。
そんなわけで、かなりのハードスケジュールになってしまいます。考えてみれば、4月以降は、丸一日休めた日がありません。ずっと働きづくしです。できればタイで丸一日の休息をとりたいなと考えていたのですが、どうやらそれは無理なようです。
けれども、私にとってタイは大好きな国ですから、タイに行くこと自体が休息になるというふうに考えようと思います。
実際、バンコクのドンムアン空港のゲートを出たときに感じられる、あの乾いた熱気と、ケンタッキーの油の匂い、それに飛び交うタイ語を聞けば、それだけでいつも私はあの国の魅力にやられてしまいます。
タクシーに乗って市街地に入れば、近代的な高層ビルと、その裏側にある昔ながらの屋台や露店が同時に視界に飛び込んできます。ファッショナブルな街行く人々の笑顔がその光景をエキサイティングなものにします。タクシーを降りれば、屋台から漂う香草の香りが鼻をくすぐり、アスファルトにだらしなく寝そべった犬をよけて歩く頃には、すっかりタイという国の居心地のよさに馴染んでいるのです。
というわけで、タイ国渡航については、次回のマンスリーレポートで報告いたします。
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|2013年6月13日 木曜日
2005年7月号 2005/07/06
7月がやってきました。
私はなぜか毎年7月になるとワクワクします。これは小学生の頃から変わってません。小学生の頃の一学期の終業式なんて、もう楽しくて楽しくて・・・。長い夏休みの幕開け・・・、この感覚が私は大好きです。この感覚は、サラリーマンをしていた頃の金曜日の午後の気分に似ているかもしれません。土日とも休めることはあんまりありませんでしたが、土日に連休がとれるようなときには、金曜日の午後には、かなりハイテンションになっていて、どれだけ嫌な仕事でもワクワクしてすることができました。
一方で、夏休み最後の日というのはかなり憂鬱だったのを記憶しています。夏休みの宿題はできていない、毎日遅くまで寝ていたので明日から朝起きられる自信がない、お昼のテレビが見られなくなる・・・、とイヤなことだらけでかなり辛かったわけです。サラリーマンのときも、日曜日の晩がとにかくイヤでイヤで・・・。
よく言われるように、日曜日の夜のテレビ番組、例えば「サザエさん」を見ていると、うつな気分に襲われる、というのは私にも当てはまります。医師としての仕事は、楽しいことの方が圧倒的に多いので、今では日曜日の夜にイヤな気持ちになることはありません。けれども、今でも条件反射のような思考回路ができていて、サザエさんの、特に終わりの音楽を聞くと、なんともいえないイヤな気分になってしまいます。
さて、そんな話はいいとして、最近の活動をご報告したいと思います。まず、先月お伝えしたように、6月は、ふたつの発表(講演)の機会がありました。ひとつは、「大阪STI研究会」という研究会での発表、もうひとつは「羽衣学園」という大阪の学校での受験についての講演でした。前者は約10分間の発表でしたから、それほど緊張もしなかったのですが、後者の受験についての講演は、さすがに緊張しました。中高生の生徒さんとその親御さんの前で話すわけで、そして私は、中高と決して優等生なんかではなく、できそこないの生徒でしたから、そんな元不良生徒が話していいのかな、と申し訳ない気持ちもありました。
どんなことを話したかというと、まあ、だいたいは私が拙書のなかで述べていることなのですが、「偏差値が低くても受験を諦める必要はない」、「勉強とは本来楽しいものであり受験は勉強のなかでもかなり特殊なひとつ」、「受験勉強はたしかに辛いものかもしれないが、短期間であって楽しむこともできる」、などといったことです。
「講演するのは楽しいですか」などと聞かれることがたまにあります。楽しいかどうかはその内容にもよるのですが、勉強や受験に関して言えば、私の考えは「多くの人が受験について誤った理解をしている。本当は偏差値が低くても諦める必要はまったくないし、やりたいことならやればいい!」というものですから、悔いのない人生を送るためにも、私の意見を参考にしてもらえればと考えています。だから、私の意見を聞いていただき、それに同意してもらったり、あるいは反論してもらって意見を交換することは本当に楽しいことなのです。
というわけで、私の本を読んだり、このホームページのエッセイなどを読まれたりして、ご意見やご質問のある方はどんどんメールをいただければと思います。
さて、7月は私にとって大きなイベントがふたつあります。
ひとつは、7月1日から4日まで神戸で開催される、「ICAAP(アジア太平洋国際エイズ会議)」です。これは、いわゆる学会のひとつなのですが、普通の学会が、その出席者の大半が医師で、看護師や薬剤師などのパラメディカルが少し、というのに対して、この学会は、医師も参加しますが、医師よりもむしろパラメディカル、あるいはNPO法人のスタッフの方が多く、さらにHIV陽性の患者さんも参加されます。そして、HIV陽性の人のみが参加できるフォーラムも開催されます。
HIVやエイズは、日本でも患者数が増えているのにもかかわらず、世間の関心はそれほど高くありません。しかしながら、この学会ではアジア中からHIVやエイズに関心のある人が集まってきます。そして各自がそれぞれの研究や活動をおこなっており、それらを発表する場であります。
私はこの学会を通して、多くのHIVやエイズに関することがらを学びたいと考えています。
もうひとつのイベントは、タイ国渡航!です。7月28日から8月3日までタイに行くことになりました。もちろん本当はもっと長期で行きたいのですが、日本での仕事もありますから、これが精一杯の日程です。この間に、チェンマイに行って「バーン・サバイ」を訪問し、ロッブリーに行って「パバナプ寺」を訪れます。それからバンコクでは、去年パバナプ寺で仲良くなった、タイで公衆衛生学を学ぶ大学生と会って、日本タイでの共同研究の打合せをする予定です。かなりのハードスケジュールです。
先日、「バーン・サバイ」の早川さんから手紙をいただきました。(「バーン・サバイ」はチェンマイにあるエイズ患者さんのシェルターです。)早川さんによると、私が昨年お会いした患者さんは、抗HIV薬がよく効いて元気に生活されているそうです。またこの患者さんにお会いできると思うと今からすごく楽しみです。
一方ロッブリーのパバナプ寺では、去年私が一ヶ月間滞在したときにいた患者さんは、特に重症病棟におられた患者さんはほとんどが亡くなられているそうです。亡くなられた患者さんについては、HIV感染がもっと早期に発見され、適切なタイミングで適切な投薬がおこなわれていれば今も元気にされていたかもしれません。このことを考えると、我々医療従事者がしなければならないことはまだまだたくさんあるように思います。
家族や地域社会から見放されてパバナプ寺で生活されている、治療が遅れたために余命いくばくもない患者さんの苦しみを取り除くことに努力するのも医師の務めですし、一方でエイズの早期発見の重要性を訴えて、検査を促進することもしなければなりませんし、また、HIV感染を予防するための正しい知識を普及させることにも努めなければなりません。
私はこれからもどんどんHIV/AIDSに、医師として様々な観点から取り組んで行きたいと考えています。
「日本タイでの共同研究」というのは、私が知り合ったタイの大学生がとても熱心な学生で、タイでのHIV/AIDSについてすごく興味をもっています。そんな学生と一緒に、「主に若い世代のHIVやエイズに対する関心」や「性感染症について、あるいはコンドームの使用についての意識」をアンケート調査をすることによって比較してみようという試みを考えています。この調査をおこなうことによって、互いの国でどういう意識が欠落しているか、とか、どういう啓蒙活動をすべきか、といったことを分析できればいいなと考えています。
次回のマンスリーレポート(8月号)は、ICAAPのことを中心に報告したいと思います。
受験生の方にとっては、ワクワクするような夏ではないかもしれませんが、それでも2005年の夏はもう二度と来ないわけですから、悔いのないシーズンにしましょう!
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|2013年6月13日 木曜日
2005年6月号 2005/06/01
6月になりました。
私の5月の最大の出来事と言えば、28日から30日まで京都の国際会議場で開催された「WONCA」という国際学会でした。
WONCAとは、World Organization of National Colleges, Academies and Academic Associations of General Practitioners/Family Physiciansの略で、簡単に言えば、「国際家庭医学会」のことです。
WONCAは、数年に一度しか開催されず、それが今回は日本で開催されたわけですから、現在の日本が、いかに、家庭医(プライマリ・ケア医/総合診療科医)の成長期であるかということが伺えるように思います。
そして、WONCAと共に、日本家庭医学会、日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療科学会の3つの学会も同時に開催されました。私はこれら3つの学会すべてに所属しているため、まさに何があっても参加しなければならないといった感じの大会になりました。
通常、大きな学会では、著名な医師の講演や発表がたくさんあり、それらが同じ時間に異なる会場でおこなわれます。そのため、是非とも聞きたい講演や発表が同じ時間に重なれば、どれかを犠牲にしなければならず、これははがゆいものです。今回のWONCAでも、そのはがゆい思いを何度か味わいました。
それでも、今回の大会ではいくつもの興味深い講演や発表を聞くことができて、私としては非常に満足のいくものでした。家庭医という領域は、他の専門医療に比べると、扱う範疇がかなり広く、今回聞くことのできた講演や発表も、喘息、うつ、頭痛、神経痛、神経症などのプライマリ・ケアの疾患から、全人医療、疫学、電子カルテや医学教育まで、幅広いものとなりました。
大会に参加しているのは、国際学会ですから外国人も多かったですし、また学生や研修医も大勢参加していたのが印象的でした。
こういうアカデミックな学会に年に数回参加できるのは、医師の醍醐味のひとつと言えます。参加費の他、交通費や宿泊費もかかるため、金銭的にはかなりの出費になるのですが、得るものの方が圧倒的に大きく、私としては大好きなイベントのひとつです。
よく研究された講演や発表を聞いていると、書籍や日頃の臨床経験では分からないことが学べますし、今後の自分の臨床に役立てることができます。今回私は何も発表しませんでしたが、いずれ大きな学会でも何か発表できればと考えています。自分の経験したことや研究したことを多くの医師に知ってもらって臨床にいかせてもらえるというのは、このうえない幸せであるのです。そして、このような意見交流を通して、医学というのは日に日に進歩していくわけであります。
さて、6月は私にとって大きなイベントがふたつあります。
ひとつは、6月4日に開催される「大阪STI(性感染症)研究会」です。これは、国際学会であるWONCAと比べると、会員のほとんどが大阪の医師ですから非常に小さな研究会なのですが、私は前回に続いて、今回もひとつの演題を発表することになっています。
前回(2004年11月開催)は、「タイ国のエイズ事情」というタイトルで、タイのエイズホスピスやHIV/AIDSに関する社会的な考察を発表しました。今回は「HIV抗体検査の受診動機」というタイトルで発表をおこないます。前回の発表が45分間だったことを考えると、今回私に割り当てられた時間は10分間なので気楽と言えば気楽なのですが、それでも気合いが入ります。
今回の内容は、私が2004年の5月から7月まで研修に行っていた「大国診療所」に、HIV抗体検査を目的に受診した患者さんに対するアンケート調査をまとめたものです。アンケートの作成や回収は、大国診療所でおこない、私はその結果をまとめるだけです。アンケートの結果をまとめさせてもらって、発表までさせてもらえる大国先生には、感謝の気持ちで頭が上がらない思いです。
もうひとつ、私にとって大きなイベントがあります。それは6月28日に「羽衣学園」という大阪の学校で、中高生を対象におこなう講演です。講演の内容は、「受験について」です。これまで医学に関する発表は何度かおこなってきましたが、受験についての講演は初めてです。しかも講演時間は1時間もあります。拙書『偏差値40からの医学部再受験』に興味を持ってくださったある方のご好意で、今回の講演が決まったというわけです。
受験についての講演という初めての体験を想像すると、まだ一ヶ月近くも先だというのに少し緊張感を感じます。けれども、このストレスがなんとも言えない心地よいプレッシャーを与えてくれるので、私はこういうイベントが大好きです。なんとしても、成功させたいと考えています。
2つの発表/講演については、来月のマンスリーレポートでお話することにいたします。
最近、メールでの問い合わせが増えてきて、内容も受験相談から、私のエッセイの感想、病気の相談まで多岐に渡っています。できるだけ返事を書かせてもらいますので、みなさん、お気軽にメールをくださいね。
それではまた・・。
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|2013年6月13日 木曜日
2005年5月号 2005/05/08
5月になりました。最近の私の出来事で大きなことと言えば、『偏差値40からの医学部再受験』の改訂第3版が、書店に並ぶようになったことです。おかげさまで、多くの方からご支持をいただき、またもや改訂版を上梓することができました。
このホームページを見てくださる方も次第に増えてきており、最近はなかなか返事のメールを書けなくなってきてしまいました。なんとか、できるだけ多くの人に返事を書こうとは思っているのですが、時間的な制約がそれを妨げます。
ただ、お寄せいただいたメールを読んだときに、すぐに返事を書かせてもらっている方もいます。そういう人のメールは、質問や意見の内容がはっきりとしており、こちらとしても返事を書きやすいのです。
それに対して、答えようのないメールを受け取ったときは、何を書いていいか分からず、ついつい返事を怠ってしまうことになります。例えば、「自分は今成績がこれくらいですが、こんな成績で医学部に合格できるでしょうか」といった類の質問です。こういう質問には答えようがありません。「拙書を読んでください」とでも言えばいいのかもしれませんが、それでは答えになっていないでしょうし、すでに読まれた方からもこのようなメールをいただきますから返答に困ってしまうのです。
以前から、ご意見の多かった「科目別勉強法」については、今回は5回目の「社会編」を公開しましたから、とりあえずこれで終了となります。
『偏差値40・・・』では、具体的な勉強法をほとんど述べずに、試験勉強全般に通じる私なりの意見を紹介しています。そのため、「具体的な勉強法を教えてほしい」とか、「いい参考書を教えてほしい」という意見を多くの方からいただきました。私としては、あくまでも試験勉強全般の話だけにとどめておきたかったのですが、あまりにもこのような意見が多いために、科目別勉強法を連載したというわけです。
「科目別勉強法」の連載は終了となりますが、また別の観点から具体的な勉強法が紹介できればいいなとも考えています。もしもこのようなことを紹介してほしい、という具体的な案がありましたら、ご意見をお寄せいただきたく思います。
さて、私の仕事の状況ですが、先月から毎週水曜日に大学の外来をおこなうことになりました。
私が、「日本一小さい診療所」を開業してから、ホームページや本の読者の方から、「診療所を訪ねたい」という内容のメールをいただくようになったのですが、私は原則としておすすめしていません。
なぜなら、ほんとに日本一小さい診療所ですから、近所の人が気軽に健康のことを相談する場所としては、ある程度うまく機能しているように思いますが、遠くの方がわざわざ受診するような診療所ではないからです。駅からも遠いですし、できる検査やその場で処方できる薬も限られていますから、がっかりさせることになりかねないのです。
もしも、私の診察を受けたいという方がおられましたら、水曜日に大学に来ていただけたらと思います。もっとも私は名医ではありませんし、単なるプライマリケア医ですから、ご満足のいく治療がおこなえるかどうかは分かりませんが・・・。
(私の外来は、大阪市立大学医学部附属病院総合診療センターの毎週水曜日の外来です。受付は午前10時半までとなっています。受付で私を指名してくだされば受診できると思います。どのような訴えでも症状でもかまいません。)
最近の病気のお話をさせてもらうと、驚くのがインフルエンザが5月になっても無くなっていないということです。普通、インフルエンザというのは年末からせいぜい2月末くらいに流行るものです。それが、今年は2月くらいから猛威をふるいはじめ、なんと5月に入ってからも患者さんが受診されるのです。
もちろん一時に比べると患者さんは大幅に減少しました。代わって、気管支炎や扁桃炎、それから胃腸炎が流行りだし、インフルエンザが減っても患者さんの数はそう大きく減少していません。病原体というのはいつもなにかが流行っているものだということを再認識しました。
それにしても暖かくなってきました。つい最近まで暖房が必要だったのに、今では昼間車に乗るときはエアコンが欠かせません。私は暑い季節が大好きです。なんとか数日間でも海のきれいなところに旅行に行きたいと考えていますが、今年の夏は実現するのでしょうか・・・。
そういえば、私は医学部受験を目指している年にも一度だけ夏に旅行に行きました。これを読んでいる受験生の方に、おすすめしているわけではありませんが、私の場合その旅行が気分をリフレッシュさせてくれ、旅行から帰ってからの勉強の能率は格段にアップしました。
このような「闇」(『偏差値40・・・』を読まれた方なら意味は分かりますね)も、一度検討されてはいかがでしょう・・・。
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|2013年6月13日 木曜日
2005年4月号 2005/04/08
4月になりました。私、谷口恭は、3月は比較的平穏に過ごせたように思います。3月から始めた、東大阪市のある診療所での、毎週火曜日午前中の内科・小児科外来も、なんとか軌道にのってきましたし、八尾市のある病院での、毎週木曜日午前中の皮膚科外来も落ち着いてきました。
改めて考えてみると、私の1週間は、月曜日が、堺市にあるクリニックで皮膚科・アレルギー科の外来をされている先生のもとに修行にいき(これは無給)、火曜日が、東大阪市で内科・小児科外来(これは仕事)、水曜日が大学病院の総合診療科(これは無給)、木曜日が八尾市で皮膚科外来(これは仕事)、金曜日が尼崎市で、整形外科の外来をされている先生のもとでの修行(これは無給)、土日が不規則的に複数の病院での時間外救急外来(これは仕事)、と毎日違うところに仕事や研修に行っています。
医者のなかでもこれだけ不規則的に生活をしている者は多くないでしょうし、他の仕事でもあまりこういう勤務形態の人はいないのではないでしょうか。毎日違うところに出勤すると、一日一日が新鮮で、あまりストレスも貯まらず、日々新たに学ぶことがあって、私としては非常に理想的なライフスタイルを送れているものと自負しております。
もう医師として4年目になるのに、無給の研修を入れていると大変じゃないですか、という質問も受けるのですが、そんなことはないのです。医師が最も恐れることは、「収入が低いことではなくて、医師としての技術や知識が停滞してしまうこと」なのです。
できるだけ多くのことを幅広く学ぼうを思えば、毎日同じところで勤務するよりも、異なる医療現場で学ぶ方が効果がある、と私は考えているわけです。
これは、私がいわゆる専門医の立場にはなく、ひとりの患者さんの部分的な病気のみをみるのではなく患者さん全体を診ることを目的とした総合診療科医を目指しているから、ということが言えると思います。
医療の現場から3月を振り返ってみて感じることは、今年はインフルエンザと花粉症が驚くほど多い、ということです。インフルエンザはA型とB型があって、たいがいの人は感染しても、どちらか一方だけであることが多いのですが、なかには今シーズンでA型にもB型にも感染したという人もいました。あの高熱と倦怠感に2回も悩まされる・・・。患者さんとしてはかなり大変だったのではないかと察します。
インフルエンザのワクチンは、接種すれば、100%予防できるというわけではありませんが、それでも多くの方に有効ですから、今年接種しなくて感染してしまったという人は、来年はぜひともワクチンを検討されていはいかがでしょうか。
花粉症も今年は爆発的に多いという印象があります。微熱に倦怠感、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ・・・、と多彩な症状を呈する花粉症は本当にやっかいなものです。なかには、喘息の症状を呈したり、皮膚に湿疹が出るひともいます。
「はやりの病気」でも書きましたが、花粉症は適切な治療をすることにより、かなり症状をとることができますから、あやしい民間療法にすがる前に、ぜひとも医療機関を受診してもらいたいと思います。実際、これまで(処方箋なしで買える)薬局の薬しか使用していなかったり、あやしげな民間療法しかしていなくて、「花粉症は治らないと思っていた」という患者さんが非常に多いのです。そして、そういう人の大部分は、病院や診療所で治療を受けて、「もっと早く受診しておけばよかった」と言うのです。
さて、最近のできごとと言えば、『偏差値40からの医学部再受験』の2回目の改訂版の執筆が終わりました。これはゴールデンウイーク明けくらいには書店に並ぶ予定です。医学部受験を考えられている方を中心に、私のところには毎日多くのメールが届きますが、そういった人たちの参考になればいいなと考えてます。
もうひとつ、現在執筆中の本があります。これはまだ正式には決まっていませんが、私が昨年タイ国のエイズホスピスで経験したことを中心にまとめた、タイと日本における今後のHIVとエイズについての本です。
最近、多くの方から、HIVやエイズの質問を受けますし、実際の診療の現場でも、HIV陽性が分かったり、エイズを発症している人が少しずつ増えているように思います。そして、間違いなく日本においても、近い将来、HIV感染が爆発的に増加することを私は確信しております。そのあたりにも詳しく言及していますので、興味のある方は楽しみにしておいてください。
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|2013年6月13日 木曜日
2005年3月号 2005/03/01
3月になりました。昔から「2月は逃げる(1月は行く、3月は去る)」とか言って、この季節は時のたつのが早く感じる人が多いようですが、私のように、日々職場が変わっていろんなことをしている人間は、「2月もいろんなことがあったなぁ・・・」というのが正直な感想です。
思えば、医学部に入学してからの9年間は、「時間がたつのが早いなぁ・・・」と感じたことがありません。小学生のときほどは1年間を早く感じませんが、私がサラリーマンをしていた頃は、「えっ、もう年末?」なんていうのを毎年のように感じていましたから、幸か不幸か(たぶん”幸”なのでしょうが)、最近は特に時間を早く感じなくなりました。
さて、2月もいろんなことがありましたが、印象的だったことのひとつは、ある「ロータリークラブ」で「タイのエイズ事情」について講演させてもらったことです。また、「CHARM」という日本在住の外国人を支援するNPO法人主催でも講演させてもらいました。この話はこれまで医療従事者を対象に講演させてもらうことが多かったのですが、ロータリークラブやCHARMといった、ボランティアをされている方々の前でお話するのは、非常にいい経験になりました。というのは、同じような講演をしても、興味を持って聞いてくれるところが、医療従事者とボランティアの方々では全然違うのです。
医療従事者から出る質問は、病気(エイズの合併症)であったり、その治療であったりですが、ボランティアの方々からいただく質問は、エイズ患者さんの社会的差別であったりとか、ゲイや売春婦の社会学的考察であったりするからです。あらためて、HIV/AIDSというのは、医学的だけでなく、社会的な観点からも考えていく必要があるということを再認識しました。
医療において、2月から新しく始めたことがあります。それは整形外科の勉強です。尼崎でさくらいクリニックを開業されている桜井先生のところに、週に一度勉強に行くことにしました。この先生は、元々内科の専門医の資格をお持ちの先生ですが、途中から整形外科の専門医の資格をとられ、現在ではプライマリ・ケアに関する研究・教育をされています。また在宅医療にも取り組んでおられ、多くの患者さんの在宅ケアをされています。
私は初め、整形外科領域のプライマリ・ケアを学びたいと考えていたのですが、外来を受診される内科疾患の患者さんや、在宅の患者さん、特別養護老人施設の患者さんなどの症例もみせていただき非常に勉強になっています。
私は以前、尼崎に住んでいて、なつかしい風景を見ながら車で通っていることもあり、週に一度の楽しみになっています。
「いろんな先生のところに勉強に行って無給でよくやるなぁ。生活大変やろ。」と同僚の医者によく言われます。私にしてみれば、「今はお金を払ってでも勉強をすべき大切な時期」というポリシーがあるのですが、たしかに休みもほとんどなく収入の少ない生活を続けていますから、最近少し大変になってきました。それでも、このスタンスを変更するつもりはありませんが・・・。考えてみれば、無給でも学びにいきたいところがあるというのは、なかなか味わえない幸せなことですし。
ただ、今月から週に一日仕事を増やそうと考えています。できるだけプライマリ・ケアを実践できる場所を見つけて、患者さんを診ていきたいと考えてます。
最近、また読者の方々からのメールが増えてきました。ホームページをもっと内容の濃いものにしなければいけないことを実感しています。とりあえず今月から「科目別勉強法」のコーナーを新しくつくりますので、特に受験生の方の参考になればいいなと思います。また、できるだけ個別の質問にも答えていきたく思いますので、今後ともご質問・ご意見の方もお待ちしてますのでよろしくお願いします。
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|2013年6月13日 木曜日
2005年2月号 2005/02/15
2月になりました。前回のマンスリーレポートでお知らせしたように私、谷口恭は自宅にて「日本一小さい診療所」である生野東1丁目診療所を開院いたしました。開院と言っても、保険診療は2月からになるため、実際はまだひとりも患者さんを診ていません。2月からは正式に保険診療ができますので、保険証を持ってきていただくと通常の診療がおこなえるのですが、果たして患者さんは来られるのでしょうか。ちょっと不安です。
1月は開業の準備であっという間に1ヶ月が過ぎ去ったという感じです。私はこの家に12月下旬に引っ越してきたのですが、前に住んでいた人が1階で「按摩」をされており、診察室と待合室がせっかくあるのだからという理由もあって開業することにしたのです。だから内装はほとんどいじっていません。ただ、医院の開業となると、診察室と待合室のほかに、薬局と受付を別の部屋としてつくらなければならないので、診察室のスペースの一部をそれら2つの部屋にあてる工事はしました。そうなのです。診察室はめちゃめちゃ小さいのです。
薬については、夜間に患者さんが来られることもあるので(診察時間は夕方5時から9時)、緊急で必要になりそうな薬、例えば、痛み止めや抗生物質、抗インフルエンザ薬、痒み止め、睡眠薬などは常備することにしました。また点滴や注射で緊急性のあるものも置くことにしました。これらに対して、あまり緊急性のない薬、例えば、高血圧や高脂血症の薬などは、原則院外処方とすることにしました。
それから実際に開業してみると、というか診察室でひとりでいると、とてつもなくさみしいことが分かりました。患者さんが来てくれるといいんですけど、入りくんだところにある小さな診療所ですから、そうそう患者さんも来られないでしょう。このさみしさから抜け出すために、診療所に有線をひきました。有線は今まで何度か引いたことがあるのですが、やっぱりいいですね~。440チャンネルは・・・。まぁ実際は聞くチャンネルが限られてきて、いつもおんなじチャンネルにするんですけどね。今回は患者さんにも聞いてもらうことになるので、やっぱりヒーリングのチャンネルとかにすべきなのでしょうか・・・。現在考え中です。ちなみに今これを書きながら聞いてるのはC-25です。C-25はハイパーディスコミックスといって、横田商会という会社がレコードを回しています。横田商会のDJは元マハラジャのDJなどが在籍しており、ミックスのテクニックは文句なしの一流です。僕はこのチャンネルを聴いてると、ときのたつのを忘れるのです。
新規開業以外に、新しいことがひとつあります。1月末から八尾市にある貴島中央病院で週1回皮膚科の外来をやっています。私の目標とするところは、全科のプライマリーケアができる総合診療科医でありますが、この病院では皮膚科医として勤務しております。私にとって皮膚科は、最初に興味をもった科であることもあって、大学病院での6ヶ月間の研修の他、それ以外の科での研修期間も週に1度程度は開業医の先生のところに勉強に行っていました。現在も毎週月曜日にある先生のところに修行に行っています。この前第1回目の外来をおこなったのですが、いきなり手術あり、難解な湿疹ありと、バラエティに富んだ外来になりました。診察日は木曜日です。近くにお住まいで皮膚疾患に悩んでおられる方がおられましたらお気軽に覗いてみてください。
今月は自宅開業開始、貴島中央病院での皮膚科外来、大学病院の勤務、皮膚科の修行の他、もうひとつ新規で始めようと思っていることがあります。それは整形外科の本格的な勉強です。これまで星ヶ丘厚生年金病院の救急外来などで、整形外科疾患をちょっとは勉強しましたが、まだまだ知識も技術も向上させたいと考えています。そこで整形外科のプライマリーケアの教育にも力を入れられている先生に指導してもらおうと考えているのです。こちらの経過についてはまたHPで報告しますね。
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|2013年6月13日 木曜日
2005年1月号 2005/01/15
新年あけましておめでとうございます。
「マンスレー・レポート」を毎月更新する予定でしたが、昨年は全然できてませんでした。申し訳ございません。今年からはきちんと更新させていただきます。
まずは、私の昨年8月以降の行動を簡単にレポートしておきます。8月5日にタイ国へ渡航し、ロッブリーにあるパバナプ寺というエイズホスピスに医療ボランティアに行ってきました。(このレポートは、ホームから「タイ国の最新HIV/AIDS事情」に入ってご覧いただけます。)
当初の予定では最低でも半年程度はボランティア医師として滞在するつもりでしたが、諸事情から9月上旬に帰ってくることになりました。その後発熱と下痢などで、半月ほど休養をとり、その後、母校である大阪市立大学医学部の「総合診療センター」というところに所属するようになりました。
「総合診療センター」とは、どこの科に行っていいか分からないような症状の患者さんが受診されることを目的とした科で、毎日様々な症状の方が受診されます。「プライマリー・ケア」を中心に臨床に取り組みたいと考えている私のような医師にとって、まさに最適の科であります。
しかしながら、大学を受診される患者さんを診察するだけでは、自分の臨床能力を上げるのに限界があると考えました。そこで大学は、無給で働くかわりに毎日出勤しない、というかたちにしてもらって大学に出勤しない日には、他の病院やクリニックに研修(見学)に行くようにしています。もちろんこちらも無給になるのですが、まだ私は3年目の医師ですから、お金を稼ぐことよりも、勉強に力を入れたいのです。
さてさて、そんなわけで、2004年が過ぎ去ったのですが、2005年から、自宅の1階を使って開業することにしました。開業といっても10畳ほどのスペースを診療所にしたもので、レントゲンなどの機械は一切置いていません。ベッドと机とイス、それに顕微鏡くらいです。
おそらく「日本一小さな診療所」だと思います。
いずれ本格的に開業したいと考えているのですが、まずはこの「日本一小さな診療所」で、開業とは何か、診療所における医療の役割、保険医療の実態、などを考えてみたいと思っています。
もうひとつ私がおこなっている活動は、CHARMというNPO法人のお手伝いです。
CHARMでは毎週土曜日に大阪北区で、HIV、梅毒、クラミジアの抗体検査を無料でおこなっています。月に1から2回程度ですが、私もこの事業を手伝わさせていただいております。
( CHARMのHPは http://www.charmjapan.com/ )
というわけで、みなさま、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
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|2013年6月10日 月曜日
1 小児科最後の日のセンチメンタリズム 2004/2/5
2004年1月30日、この日は私の小児科での研修最後の日となりました。今なんとも言えないセンチメンタリズムに心が苦しめられています。
思えば、もともと私はここ、星ヶ丘厚生年金病院(以下、「星ヶ丘」)で、昨年5月から10月まで半年間形成外科の研修を受ける予定であって、11月からは大学の皮膚科に戻る予定でありました。ところが、星ヶ丘の症例の多さと、医師や看護師をはじめとするスタッフの手厚さに感銘を受け、大学の医局と星ヶ丘の先生方に無理を言って、半年間の研修延長を認めてもらったのです。
そして、11月から今年の1月末まで、星ヶ丘の小児科の研修を受けさせてもらえることになったわけです。私の3ヶ月間での小児科研修の目的は、採血や点滴などの基本的な手技を覚えることと、風邪や腹痛などのいわゆるコモン・ディジーズの診察及び治療ができるようになることでした。
ところが、研修が始まった頃は、採血ができない、点滴がとれない、(当たり前だけど)子供が言うことを聞いてくれない、お母さんとのコミュニケーションがなかなかスムーズにいかない、などトラブル続きで、医師になってはじめてとも言えるスランプに陥りました。
もともと子供には苦手意識もあり、なんとか3ヶ月間で子供のことが理解できるようになりたいと考えていたのですが、理解するどころか、ますます苦手になっていったのです。先月の中ごろまでは、夢の中でも子供の泣き声に悩まされ、電車の中で子供が泣いているのを見ただけで逃げ出したくなるといった日々が続いていました。
私は幸いなことに、それまでの研修生活では、患者に苦手意識を持ったことはほとんどなく、例えば他の医師が嫌がる患者に対しても、何のストレスもなく接することができていました。そのため、トラブルをおこしがちな患者の主治医をまかされるということがこれまでにも何度かあったのです。
そういうわけで、対患者のコミュニケーションで、これまでまったく不都合を感じていなかった私は、小児科で初めて壁にぶちあたったのです。
そして、私が苦手意識を持っていたのは、実は対患者さんだけではありませんでした。小児科病棟の看護師と接するのも、特に最初の頃は、苦手というかうっとうしく感じていたのです。
そもそも研修医というのは、看護師さんとの関係が上手くいかないことが多く、ろくに仕事のできない研修医が看護師からはけむたがられ、やたら冷たく接する看護師が研修医からはうっとうしがられるという構図はよくあることです。(この点については、別の機会に詳しくお話しようと思います。)
ただ、私の場合は、大学にせよ、星ヶ丘にせよ、これまで所属したところが自分に合っていたため、看護師をうっとうしく思うことはほとんどありませんでした。
ところが、今回初めて、研修医も4分の3を終えて初めて、看護師を苦手と感じたのです。というのも、星ヶ丘の小児科病棟では、看護師から、やれ、伝票は2枚打ち出せだの(他の病棟では1枚でよい)、やれ、薬をオーダーしたときは薬剤部に電話連絡をしろだの(他の病棟では看護師がやってくれることが多い)、なにかと煩わしいことを言われることが多いのです。他の研修医から、「小児科病棟は看護師から何かと文句を言われることが多い」と事前に聞いてはいたのですが、実際に体験してみると予想以上のしんどさがあったわけです。
つまるところ、私は研修医になって初めて、患者(及び患者の家族)に対しても、看護師に対しても苦手意識を持ち、医者になって初めてのスランプに陥っていたのです。
そんななか小児科研修も半ばを迎えたころ、小児科の先生方に丁寧に指導してもらってきたおかげで、採血や点滴などの手技がある程度できるようになってきました。さらに、子供やお母さんとのコミュニケーションも少しずつ苦手意識がなくなってきました。一度毎回入院する度にトラブルを起こしている患者さん(のお母さん)が入院してきたときに、私が主治医となりましたが、このときも何らクレームもトラブルも起こさずに無事退院されていきました。
対看護師の関係にしても、別に人間的に嫌な人がいるわけでなく、制度として医師がやりにくいという点があるだけであり、これはシステム維持のために仕方のないこともあるわけで、慣れればどうってことはないように感じるようになりました。まあ、郷に入っては郷に従え、というわけです。
さて、3ヶ月の小児科研修がたった今終わってしまったわけですが、今なんとも言えないセンチメンタリズムに心が苦しめられています。胸の奥が緩やかに締め付けられるようなこの感覚は、ここ数年経験したことのないような不思議な感じです。
どうして、こんな感覚に捉われるのでしょうか。もう毎日子供とコミュニケーションすることができなくなるという寂しさなのか、これまでお世話になってきた先生と別れる辛さなのか、あるいは最初はうっとうしく感じていた看護師と接することができないことからくる空虚さなのか、それは分かりませんが、何かとても苦しい気持ちでいっぱいです。
話は変わりますが、私は、「人生の価値はどれだけ感動できたかで決まる」と常々感じています。どれだけ大きな感動をどれだけ数多く体験できたかで、その人の人生が実りの多いものだったのか、そうでなかったのかが決まると思うのです。だから私の行動の選択基準は、「常に感動のある方へ」です。
小児科で研修医をさせてもらった3ヶ月では、そんなに大きな感動があったわけではありません。その代わり、日々小さな感動を覚えることができました。忙しいなか、私のために時間をつくってくださって、丁寧にご指導いただいた先生たちからはあたたかさを感じました。熱が下がって元気になった子供の笑顔も感動を与えてくれます。採血するときは泣きじゃくっていても、終わってからだっこしてあげようと手を差し出すと、あわせて両手を差し出してくる子供を見ると嫌なことも忘れます。聞き分けのない子供を一生懸命なだめて子供を落ち着かせている看護師さんの姿からも感動を覚えることができました。「子供が元気になってほしい」その気持ちは看護の姿勢から伺い知ることができるのです。
これら小さな感動の積み重ねのおかげで、私にとって非常に実りの多い3ヶ月となりました。先生方、看護師の方々、多くの患者さん、患者さんのお父さん、お母さんたちにはいくら感謝してもしすぎることはありません。
私は星ヶ丘の小児科で3ヶ月間研修を受けたということを誇りにしたいと思います。これらお世話になった方々にむくいるためにも、私はこの3ヶ月の経験を、医師としての、そして人間としての糧にしていくつもりです。
それにしてもこのセンチメンタリズムは一体何なのでしょうか。もしかすると、あと3ヶ月でこの病院を去らなければならないという辛さも相まっているのかもしれません。ここを去れば新天地で新たな出会いがあるわけで、それは確かに楽しみではあるのですが、一方でお世話になった方々と別れる辛さもあり、これはこれで非常に辛い。
高校の卒業式のときもこんな感じだったのかな、ふとそんなことを考えました。けれども高校のときは、おそらく都会に出る期待の方が圧倒的に大きかったと思います。今回は、・・・・、何なのでしょう。このセンチメンタリズムは。あぁ誰かと朝まで飲み明かしたい、今そんな気分です。
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|2013年6月10日 月曜日
谷口恭のマンスリーレポート 2004/07/16
谷口恭は、2004年4月に1年間勤務した星ヶ丘厚生年金病院を退職し、5月より大阪市北区にある大国診療所で勤務(勉強)中であります。
大国診療所は、皮膚科の他に性感染症の診療で有名であり、少なくとも関西では性感染症の患者さんが最も多く来院される診療所であります。
またプラセンタ療法でも有名であり、プラセンタエキスの注射や皮下への埋没方法などの治療を受けに遠方から来院される患者さんも少なくありません。
谷口恭は大国診療所で7月末まで修行をし、8月からは著書の中でも紹介している、タイ国にあるAIDS患者専門のホスピスにボランティアに行く予定であります。
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