2021年1月30日 土曜日
2021年1月29日 1日わずか11分の運動で「座りっぱなし」のリスク解消
座りっぱなしが健康のリスクになることはこれまでこのサイトで繰り返し伝えてきました。生活習慣病、がん、ED、そして認知症のリスクにもなると言われている「座りっぱなし」は「第2の喫煙」と呼ばれることもあります。
その危険な「座りっぱなし」をいかに解消するか。今回紹介したいのは「わずか1日11分の運動で解消できる」とするものです。発端は、医学誌「British Medical Journal」2020年12月号に掲載された論文「加速度計で測定された身体活動と座りっぱなしの時間と死亡率との関連性~44,000人以上の中年以上のメタ分析~(Joint associations of accelerometer-measured physical activity and sedentary time with all-cause mortality: a harmonised meta-analysis in more than 44 000 middle-aged and older individuals)」ですが、「1日11分」という言葉が広がったのは「New York Times」の記事「1日11分の運動が座りっぱなしを解消するかも(11 Minutes of Exercise a Day May Help Counter the Effects of Sitting)」だと思います。
ポイントを述べていきましょう。
・従来、座りっぱなしのリスク解消には「1日60~75分の適度な運動が必要」とされていた。この根拠となっているのが医学誌「The Lancet」2016年9月24日号に掲載された論文「座りっぱなしのリスクを身体活動で解消できるか~100万人以上の男女から得たデータのメタ分析~(Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women)」。
・しかし今回、研究をより客観的な方法で実施しなおしたところ、早期死亡のリスクを減らすための最適な運動量は「1日35分程度の早歩き、もしくはそれに準ずる運動」であることが判った。
・1日少なくとも11分の運動をすれば長時間のデスクワークによる健康被害を減らすことができることも判った。
・座りっぱなしの時間が最も長く運動量が最も少ないグループは、運動量が最も多く座りっぱなしの時間が最も短いグループに比べて、早期に死亡するリスクが260パーセントも高い
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運動の”敷居”は高いと考える人は少なくありませんが、1日11分なら可能でしょう。ただし、例えば「通勤で11分は歩いています」ではほとんど意味がないと思います。論文にはっきりと書いてあるわけではありませんが「心拍数を上げての11分」にすべきです。どれくらい心拍数を上げればいいかは年齢やその人の背景によって異なります。
日頃診察していて私が思うのは「運動なしで健康を維持することはできない」「運動メニューの確立と実践は生活習慣病においては薬よりも有効な処方箋」ということです。
参考:
医療ニュース2018年6月9日 「「座りっぱなし」は認知症のリスクか」
医療ニュース2016年2月27日 「「座りっぱなし」はやはり危険」
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
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|2021年1月30日 土曜日
2021年1月29日 ベジタリアンは骨折しやすい
日本は諸外国と比べてベジタリアン、特にビーガンは少ないと言われていますが、太融寺町谷口医院の患者さんのなかに何人かはおられます。では、その人たちがとても健康かというと、そういうわけではなさそうです。貧血や低蛋白血症を防ぐためにサプリメントを多用して腎臓や肝臓を悪くするというケースはよくありますし、体重コントロールが上手くいかず過体重になっていく場合もあります。
今回紹介したいのは「ビーガンは骨折リスクが4割高い」というイギリスの研究です。医学誌「BMC Medicine」11月23日号に「ベジタリアンとビーガンの食事と骨折のリスク~前向きEPIC-Oxford研究の結果 Vegetarian and vegan diets and risks of total and site-specific fractures: results from the prospective EPIC-Oxford study」というタイトルで掲載されました。
ビーガンは肉、魚のみならず卵も乳製品も一切とらない最も厳しいベジタリアンで、骨折のリスクが上がるのは想像に難くありません。この研究では他のベジタリアンについても調査されています。
調査の対象は「EPIC-Oxford」と呼ばれる研究の参加者約55,000人で、追跡期間は平均17.6年です。参加者の内訳は、通常の食生活をしている人(肉も食べる人)が29,380人、肉は食べず魚を食べる人(これをpescetarianと呼びます)が8,037人、通常のベジタリアン(肉も魚も食べない人)が15,499人、ビーガンが1,982人です。追跡期間中に発生した骨折は3,941件です。
その結果、ビーガンはベジタリアンでない人に比べて、骨折のリスクが1.43倍になることが判りました。特に大腿骨近位部の骨折ではリスクが2.31倍にもなります。また、大腿骨近位部の骨折リスクは、ビーガン以外のベジタリアンでも上昇しています。魚を食べるが肉を食べないベジタリアン(pescetarian)は1.26倍、通常のベジタリアンは1.25倍となっています。
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ベジタリアンになってから(あるいはビーガンになってから)調子がいいという人に、無理に肉を食べろとは言いませんが、私の経験上、ベジタリアンでいい健康状態を維持している人はほとんど見たことがありません。
日本ではベジタリアン専用のレストランはあまりないと思いますが、海外ではよくあります。私は過去に一度バンコクのベジタリアン専門レストランに行ったことがあります。そこは「レストラン」というよりは体育館みたいなつくりで数百人のベジタリアンが集まってビュッフェ形式の食事を楽しんでいました。何人かに声をかけて気付いたのは、ほぼ全員が「ベジタリアンになって日が浅いこと」です。やはり長続きはしないのでは?、とその時感じました。
太融寺町谷口医院の患者さんで言えば、長続きして効果もでていることが多い食事療法は小麦制限です。あるいは極端なものは危険ですが、(小麦以外のものも含めた)糖質制限(低炭水化物ダイエット)やパレオダイエット(caveman diet)も、それなりにいい状態を維持し、かつ長続きしている人が多いようです。一方、ベジタリアンは軒並み上手くいっていません。
きちんとしたことを言うには症例数を増やして統計学的な検討を加えなければなりませんが、私の「印象」としては、(もちろん個人ごとに考えなければなりませんが)おしなべて言えば肉を中心の生活にした方がいいように思えます。
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|2021年1月25日 月曜日
第209回(2021年1月) 新型コロナ、5類への格下げは妥当か
新型コロナウイルスが流行しだした1年前あたりから、当院に寄せられるメールでの問い合わせの大半が新型コロナ関連となりました。当院の患者さんだけでなく、遠方にお住まいで当院未受診の人からも多くの声が寄せられます。なかには半年以上にわたり、ほぼ毎週のように質問をされる人もいます。
今年(2021年)になってから最も多いのがワクチン関連の質問です。ワクチン以外で最近多いのが、酸素飽和度やパルスオキシメーターについて、PCRのCt値について(このような高度で難易度の高い質問が次々と寄せられることに驚かされます)です。もちろん「〇〇の症状が出たが検査を受けるべきか」「△△の症状はコロナの後遺症か」といった内容のものも少なくありません。今回は、そのなかでもここ1週間くらいで増えている「指定感染症の変更」について私見を交えながら述べていきたいと思います。
まずは「指定感染症」の意味から解説していきます。感染症というのは他の疾患と異なり、感染が広がると社会に大きな影響を与えます。そこで、感染症の重症性や感染力などを考慮し、社会全体で管理すべきものを選び、さらにそれらを重篤度に応じて分類すべきだという考えに至っています。すべての感染症が届出され分類され管理されているわけではありません。例えば、水虫になったからといってそれが届けられることはありませんし、健診でピロリ菌がみつかったとしてもその情報が保健所にいくことはありません。ここで感染症の5つの分類をその代表的疾患と共にみていきましょう。
1類:致死率の高い感染症で交通制限もおこなわれる。診断がつけば直ちに入院が義務付けられる。例:エボラ出血熱、ペストなど。
2類:1類から交通制限を取り除いたもの。例:SARS、MARS、鳥インフルエンザ、結核など。
3類:必ずしも入院は必要でないが就業制限はある。例:コレラ、赤痢、腸チフスなど。
4類:主に動物を介して感染する感染症。例:A型肝炎、デング熱、マラリア、狂犬病など
5類:感染者数調査のために届出が必要とされている。「全数把握」と「定数把握」に分かれる。
・全数把握の例:麻疹(はしか)、風疹、百日咳、梅毒、HIVなど。
・定数把握の例:インフルエンザ、水痘、性器クラミジア、性器ヘルペスなど。
おおまかには1類が最重症で5類が軽症と考えて問題ありません。5類に分類されているHIVは(治療しなければ)致死的な疾患じゃないか、という質問がときどきあります。しかし、HIVは空気感染や飛沫感染が起こるわけではないのと感染者が少なくないことから「社会にどの程度影響を与えるか」という観点からはさほど重篤性は高くないと考えられているのです。
5類の全数把握と定数把握について補足しておきます。全数把握に分類されている感染症はすべての医療機関に届出義務があります。例えば梅毒であれば多彩な症状がでますから、当院のような総合診療科だけでなく、一般内科、耳鼻科、眼科、婦人科、皮膚科、泌尿器科などいろんなところで診断がつきます。どこで診断がつこうが診断をつけた医師は保健所に届け出なければなりません。
一方、定数把握に分類されている感染症は、「指定された医療機関」は診断をつけた全例を報告しますが、それ以外のところでは報告しないのがルールです。もちろん、その感染症に罹患した患者さんが「指定された医療機関」を受診するとは限りません。例えば、当院では毎年(今シーズンは除きます)多数のインフルエンザの患者さんを診ていますが、当院は「指定された医療機関」ではありませんから報告はしていません。
では、新型コロナウイルスの話を……、と言いたいところですが、「1~5類以外に3つの分類」が残っていますのでそちらをおさえておかねばなりません。その3つとは「新型インフルエンザ等感染症」「指定感染症」「新感染症」の3つです。「新型インフル……」は文字通りです。「新感染症」はまったく未知の感染症と考えてOKです。「指定感染症」は「1類から3類に準じた扱いとする感染症で最長2年とする」とされたものです。要するに、「社会にとって重要な感染症であるけれどまだよく分かっていないところがある。とりあえずここに入れておいて2年以内に別の分類にしよう」と考えられているいわば暫定的な分類です。そして、新型コロナがこれに相当するというわけです。
2020年2月1日、政府は新型コロナを1年間の期間限定で「2類に相当する指定感染症」としました。当時はSARSやMERSと似たような疾患と考えられていましたからこの判断は妥当です(私はそう思います)。その後この分類が厳格化されました。2月14日、無症状病原体保有者にも(事実上の強制)入院が適応されることになりました。これで1類とほぼ同じ扱いになったと言えます。
3月27日、さらに規則は厳しくなります。建物の立ち入り制限や封鎖、交通の制限、外出自粛等の要請なども政府により可能とされました。ここまでくると純粋な「1類」と何らかわりはありません。ただし(私の知る限り)行政が正式に「1類相当」と明言した記録はなく、今も「2類相当」という表現がとられています。
コロナは軽症とする「軽症派」に最も勢いがあったのが夏の第2波の頃だと思われます。この頃は、感染者は第1波に比べて大幅に増えたものの死亡者が少なく、「なんで風邪で1類相当なんだ!」という声は世論からだけでなく医療者からも出るようになり、今もそのように主張する医療者も少なくありません。8月末、こういった世論の影響も受けてなのか、厚労省は2類相当から5類への引き下げを検討したことが報道されています。
ところが第3波の影響からなのか、12月17日、厚労省は5類に引き下げるのではなく2021年1月31日に期限を迎える指定感染症の指定を1年間延長すると発表しました。しかしそれ以上の延長はできませんからその後どうするかを決めなければなりません。そして、2021年1月15日、新たな分類を、先述した「1~5類以外に3つの分類」の1つである「新型インフルエンザ等感染症」のカテゴリーに入れることを決めました。厚労省としては「新型インフルエンザ等感染症」という分類を「新型コロナウイルス感染症および再興型コロナウイルス感染症」と変更する方針で、この案を今期の通常国会が閉会する6月までに通したいようです。
つまり、医師のなかにも現状の2類(実際には1類)から5類へという声が少なくないなかで、政府は現在よりもより厳しい措置のとれる分類に移行することを(ほぼ)決定したというわけです。「新型インフルエンザ等感染症」であれば「政令により一類感染症相当の措置も可能」「感染したおそれのある者に対する健康状態報告要請、外出自粛要請」が行えるルールになっていますから、堂々と厳しい命令が下せるようになります。
これが発表され、「軽症派」の人たちは黙っていません。軽症派の医師が言うのは「病院でクラスターが発生すれば通常業務が止まり、コロナ以外の人の治療ができない」「保健所の業務が逼迫する」「ひとり発熱患者を診る度に防護服が必要で診察後の消毒に時間がかかる」「インフルエンザの方が死者が多い」「経済が回らない」などです。軽症派の医師は「5類にすれば多くの医療機関が新型コロナを診るようになり医療崩壊が防げる」と主張します。
ですが、もしも新型コロナが完全な5類、つまり季節性インフルエンザと同じ扱いになれば大変なことになります。熱があって通常の外来を受診すれば院内感染が広がるのは必至です。軽症派の人たちは「軽症なのだから」と言いますが、高齢者や持病を抱えた人ではそうではありません。休む時間もなくときには差別を受けながら必死で新型コロナと戦っている医療者が「5類にせよ」という気持ちは理解しなければならないと私は思っています。ですが、5類にするということはコロナ前の状態になるということです。「密」だらけの社会、自粛のない社会、誰もがいつでも医療機関を受診できるような状態に戻ってしまえば最悪の事態も想定せねばなりません。
何類が妥当かという議論の前に、新型コロナウイルスの特徴、つまり「無症状者でもうつす」「ただの風邪ではない」「後遺症が残る」「現時点では特効薬がなくワクチンも今すぐうてるわけではない」といったことを思い出さねばなりません。
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|2021年1月11日 月曜日
2021年1月 世界がどう変わろうとも各自がすべきこと
「2020年が始まった時点ではこんな一年間になるとは誰も予想していなかった」と誰かが言っていました。たしかにその通りで、学者とか経済人と名の付く人から宗教者まで「2020年は新型コロナ一色になる」と年初に予言した人はおそらく皆無でしょう。
では2021年はどうなるのでしょうか。おそらく多くの人が「まだコロナ禍が続く」とみているのではないでしょうか。一部にはワクチンができたから下半期には元の世界に戻るという楽観論(例えばこのコラム)もあります。目下のところ、日本政府としては東京オリンピックを開催する予定だと聞きます。
世界全体でどのような事件が起こるのか、日本ではどうか、日本の経済や株価や為替は……、という話は専門家に任せるとして、今回は「世界がどうなろうとも一人一人がすべきこと」について考えてみたいと思います。
まず「自分ではどうしようもないことが起こるのが現実だ」ということを我々は認識しなければなりません。もしも1年前のお正月に戻れたとして、あなた自身がどんな努力をしようとも新型コロナウイルスの勢いを止めることはできませんでした。そして、新型コロナ以上の災いが2021年に絶対に起こらないと断言できる人は一人もいません。南海トラフ大地震が2021年に100%起こらないと断言できる人はいるでしょうか。
事実を客観的に見るのは意外に難しいものです。トランプ大統領が何度も使うフェイクニュースという言葉があります。興味深いことに、あきらかに正確なことを「陰謀だ!」と言って否定する人も少なくなく、どう考えてもおかしなことを真実と捉える人もいます。驚くべきことに、米国ではQアノン信奉者が国会議員に当選しています。これは、知識人であろうとも「人は物事を自分の見たいように見ている」ことを示しています。
もちろん、新聞に書かれていることがすべて正しいわけではありません。それどころか、メディアの報道は一度は疑ってかかるべきだと思います。情報の出所は確かか、場合によっては誰が書いたかにも注目すべきでしょう。一見陰謀論に見えるものが実は正しかったということもあるかもしれません。
新型コロナで言えば、「新型コロナはただの風邪」という意見が正しいか間違っているかを論争することに意味はありません。「ただの風邪と変わらないくらい軽症のこともあれば若くして死に至ることもある」が事実です。「ワクチンは有効か無効か」という問いに対しては「効く可能性があるが効かない可能性もある」が事実です。「それでは何も言っていないのと同じだ」という意見があるでしょうが、「ワクチンは期待してもいいが効果は不明」が現在言える最大限のことです。
新型コロナに関して確実に言えるのは「(年齢や持病により確率は変わりますが)感染しても治癒する可能性が高い」ということです。であるならば、感染しないような対策をとった上で、それ以上「感染すればどうしよう……」と考えるのではなく「感染してもしなくてもコロナ禍で生きていかねばならない」と認識することが重要です。
過去1年間で我々は人間の嫌な部分をたくさんみてきました。感染者への差別、医療者への差別、自粛警察、海外では人種や国籍による差別もあります。どうやら我々人間の正体は「とんでもなく醜い生き物」のようです。この表現が大袈裟だとしても「醜い側面も持つ生物」くらいはいえるでしょう。つまり、自分さえよければいいと考え他人を蹴落とす人たちが大勢いることが分かったわけです。2021年からは世界中のすべての人が利他的な生き物に突然豹変するということはあり得ないでしょう。ならばこの「事実」を受け入れなければなりません。
つまり、他人からの助けなど期待できない、またはいつ裏切りに合うかもわからない冷酷な社会で我々は生きていかねばならないのです。そのために必要なのは「力強く生きること」で、経済的な自立が必要になります。「働かざる者食うべからず」という言葉を私は好きになれないのですが、各自が自身の能力をお金に変換できる術を持たねばなりません。厳しいことを言えば、たとえ障がいがあったとしてもお金を得るために何をすべきかを考えるのです。
もちろん、すべての人が上手くいくわけではなく、なかには努力を重ねたけれど仕事が見つからない、すぐにクビになる、という人もいるでしょう。障がいを持つ人が安定した収入を得るのは簡単ではありません。しかし、公的なセーフティネットがありますし、そういった恩恵に預かれない人たちも、支援してくれる人が現れることもあります。利己的な人が多いのは事実ですが、「困っている人を放っておけない」と考える人たちが少なからず存在するのもまた事実だからです。
しかしながら、自身が努力をせずに他人の支援を期待することはできません。終身雇用はとうの昔になくなり、リモートワークが進んだことで「会社にいるだけの人」は無用であることがはっきりしました。つまり、仕事ができなければ会社での居場所がなくなるわけです。「私を雇うことで会社に利益がでますよ」ということを示せなければ仕事が得られない時代になってしまったといえるでしょう。
厳しい現実はまだあります。新型コロナに感染しても回復すれば寿命が短くなるわけではありません。後遺症があるのはほぼ確実ですし(私はこれを「ポストコロナ症候群」と呼んでいます)、数十年後には「新型コロナに感染した人は寿命が短い」という研究がでるかもしれませんが、現時点では新型コロナに感染しようがしまいが寿命が短くなるわけではありません。つまり、新型コロナの流行とは関係なく大勢の人はかなりの確率で希望しなくても長生き”してしまう”わけです。これもまた「事実」です。
2019年に「老後2000万円必要問題」が話題になりました。詳しい説明は省略しますが、ひとつ言える確実なことは「多くの人の老後が経済的に不安」で、不安な人にとっての最善の対処法は「可能な限り働き続ける」ことです。このことを主張する識者は少なくないと思いますが、あまり指摘されない重要事項があります。それは、「加齢とともに仕事のパフォーマンスが低下する」ことです。
メディアは高齢者が元気に働く姿や高齢者の起業を”美しく”取り上げますが、全員がうまくいくわけではありません。むしろ、若い人たちの足手まといとなり、いつ解雇されるか分からず怯えている高齢者の方が多いわけです。少子化社会で人手不足になるから高齢者も売り手市場になるという意見もありますが、雇用する側からみれば「その高齢者を雇うことによって生まれる利益がその高齢者の人件費を上回らなければ採用しない」のは自明です。これは直視したくないことではありますが、これもまた「事実」です。
「仕事のパフォーマンス」とは単に体力のことを言っているわけではありません。個人差はありますが、年をとると理解力や記憶力もほぼ確実に低下します。当院は過去14年以上の歴史のなかでそれなりの人数のスタッフを雇用してきました。なかには1日で辞めた人もいます。数十人をみてきて感じるのは、ある程度年をとっていて経験の乏しい人は仕事のパフォーマンスが低いことです。不思議なことに、若い人なら経験がなくてもできます。つまり、同じように経験のない20代と40代を比べれば生育環境や学歴に差がなくても20代の方がずっと有利なのです。40代でも明らかな差があるわけですから、経験のない60代なら20代とは勝負にならないでしょう。
もちろん40代の人はすべての仕事ができないと言っているわけではありません。ですがある程度の年齢になると経験のないことを簡単にはできないのは「事実」です。実は私は随分前からそのことに薄々気付いていたのですが心の中で否定していました。人生いつになってもやり直しがきく、と信じていたからです。前半に述べたように「物事を見たいように見よう」としていたのです。しかし、何十人もの従業員をみてきてその「事実」を認めざるを得なくなりました。
現在40代の人が20代に戻ることはできません。ならば「今日が一番若い日」と考えて、今できる最善のことを始めなければなりません。大変厳しい意見になりますが、以上から導かれる結論は「年をとっても続けることができる仕事を一日も早く見つけなければならない」となります。
今回の内容をまとめておきましょう。すべて私の主観を取り除いても客観的にいえる「事実」だと思います。
・先のことは誰にも分からない。新型コロナ以上の災いが起こる可能性もある。
・世の中には困った時に手を差し伸べてくれる人もいるが、身勝手で自分のことしか考えず他人を差別する人も多い。
・大勢の人にとって、新型コロナに感染しても死ぬ確率はわずかであり、また、今後我々の寿命が極端に短くなる可能性も少ない。我々は厳しい社会の中で、望まなくても長期間生き続けることになる。
・多くの人は長生きすればお金の心配が出てくる。
・生涯現役で働くならお金の心配は解消されるが、体力と気力があったとしても仕事のパフォーマンスが落ちる。
・年をとってから新しい仕事を始めるにはハンディがある。年をとっても続けることができる仕事を一日も早く見つけるべきだ。
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