2013年6月15日 土曜日
第36回 夏のかゆみにご用心 2006/08/20
昨年4月には「みずむし」について、昨年8月には「日焼け(日光皮膚炎)によるかゆみ」についてお話しましたが(それぞれ「はやりの病気」第5回「水虫」、及び第15回「日焼け-日光皮膚炎-」)、夏に、「このかゆみをなんとかしてください」、と言って、病院を受診する患者さんは、これら以外にもたくさんの原因をもっています。実際、春先から夏にかけては、皮膚の悩みで受診する患者さんが一気に増えます。そして、台風のシーズンが終わって涼しくなりだすと、少しずつ減ってきます。
今回は、夏に生じるかゆみの代表疾患についてみていきましょう。
まず、金属アレルギーによるかゆみがあります。これを「金属による接触皮膚炎」と呼びます。
アレルギーを起こしやすい主な金属は、ニッケル、クロム、コバルト、水銀です。ニッケルはメッキとして使われる金属の代表で、合金製のアクセサリーなどにも多く使用されています。具体的には、ネックレス、指輪、ピアス、イヤリング、腕時計などが多いと言えますが、なかには眼鏡のフレームでアレルギーを起こす人もいます。
また、ベルトの金属の部分や、ジーンズのボタンにもニッケルが使われていることが多く、「へそのあたりが赤くなってかゆい」、と言って受診する人も少なくありません。なぜ、同じファッションをしていても、冬は大丈夫で夏にだけかゆくなるのかというと、夏には汗をかくからです。汗の影響で、金属がイオン化して溶け出し、体内のたんぱく質と結合することによって体が反応するアレルゲンとなるのです。このトラブルは、Tシャツをジーンズのなかにいれて着るとほぼ確実に再発を防げるのですが、患者さんの多くは、「そんなカッコ悪いファッションはできない」と言います。
クロムは、なめし革に使われていることがあり、そのためベルトや、あるいは腕時計のベルトでも接触皮膚炎を起こし、かゆみが生じることがあります。
原因がニッケルであれ、クロムであれ、あるいは他の金属であれ、そのかゆみや赤みを治すのは簡単です。中くらいの強さのステロイドを数日間外用すれば、ほとんどのケースで治癒します。ただ、先にも述べたように、金属の装着をやめなければ再発するのは時間の問題です。
アレルギーを起こしにくい金属というのもあります。その代表が、金、プラチナ、チタンです。これらは、いずれも高価なものばかりですが、装飾品をすべてこういった金属にすれば、かゆみが解消できることが多いというわけです。(ただし、実際の貴金属は金やプラチナの純正ではなく合金になっていますから、完全に安心というわけではありません。)
ピアスやイヤリングの場合は、チタン製にするというのもひとつの方法です。金属アレルギーがあるかもしれないと思う人は、耳に穴を開ける段階から、チタン製のものを使用するのがいいでしょう。(ただし値段はちょっと高いです。)
次に、衣類による接触皮膚炎をみていきましょう。夏になると、襟元や袖口がかゆい、と言って受診する人が大勢います。襟元の場合はネックレスをしていなければ、袖口の場合は腕時計をしていなければ、そしてナイロン製の制服を着用していれば、おそらくそれは、衣類による接触皮膚炎です。
これらも、数日間のステロイド外用で簡単に治るのですが、ネックレスや指輪と異なり、接触皮膚炎の再発を防ぐために制服をやめるというわけにはいかないでしょう。では、どうすればいいかというと、汗をこまめにふきとる、とか、制服の下にTシャツを着るとかいった工夫をしてみるのがいいでしょう。ただし、Tシャツでも袖口に使われているナイロン糸に反応する場合もあるので注意が必要です。
女性の場合は、ストッキングが原因になることもよくあります。私は、一度ある患者さんに、(冗談で)「ストッキングをやめて綿のパッチをはいてみたら・・・」、と言ったことがあるのですが、「そんなことできるわけがない」、と一蹴されてしまいました。では、どうすればいいかというと、これもお金がかかりますが、シルク製のストッキングを使用するのもひとつの方法です。ただ、その場合でも、ウエットティッシュや濡れタオルなどで、汗をこまめにふきとる、という努力は必要でしょう。
脇や股、女性の場合は胸の間や下の部分が赤くなりかゆくなることがあります。これは皮膚と皮膚が触れあい、さらに汗がその部分にたまることが原因でおこるかゆみで、これを「間擦疹」と呼びます。また、こういった部分にはいわゆるあせも(汗疹)が起こることもあります。
これらもいったん赤みやかゆみが生じれば、短期間の外用薬で治したあと、再発防止に努めなければなりません。こういったことで悩んでおられる患者さんのなかには、熱い風呂に好んで入っていたり、あるいはナイロンタオルでごしごしとかゆみのある部分をこすっていたりする患者さんがおられます。これらは、いずれも逆にかゆみを助長することになっています。熱い風呂も、ナイロンタオルも皮膚にある必要な油分が失われることになり、皮膚を乾燥させてしまうことになるのです。汗が出てかゆいのだから乾燥させた方がいいのではないか、と考えている人もいますが、それは誤りで、ある程度の油分があった方が余分な汗を防ぐことができます。ちょうど、乾燥肌にアルコールの入った化粧水を使うと、そのときは気持ちがいいような気がするが、かえって乾燥を悪化させるのと似ています。夏のお風呂は、ぬるめのお湯に使って、綿のタオルでやさしく洗うのがポイントです。
さて、夏のかゆみでもうひとつ忘れてはならないのが、感染症です。みずむし以外にも、夏には、ケムシ、ダニ、ハチ、蚊、などかゆみをもたらすやっかいな虫がたくさんいます。たかが、蚊と考えている人もいるでしょうが、蚊でも患者さんによっては大きく腫れ上がる人がいます。特に子供ではそれが顕著です。
ケムシのかゆみは、ときに全身に広がり強烈なかゆみをきたします。ケムシになんか触っていないのに・・・、と言う患者さんもいますが、ケムシのいる木の下を歩いただけで衣服のすきまからケムシの毛が入り込み全身が真っ赤に腫れ上がることもあります。
ダニも非常にやっかいで、特に日本ではヒゼンダニによる「疥癬(かいせん)」に罹患する人が少なくありません。ヒゼンダニは人間の皮膚の中に寄生し卵を産み付けます。卵からかえったばかりのダニは主に夜中にごそごそと活動を開始しだすため、疥癬のかゆみは特に夜間に強くなります。疥癬は、普通先進国ではあまり見られない疾患で、外国人の医師に、日本では疥癬が多い、という話をすると驚かれます。寝たきりの人や免疫不全の人に感染しやすい、というのは事実ですが、実際には、誰でも感染しますし、家族全員が感染したという症例も珍しくありません。
私の経験した症例に、まずその家のおじいさんが感染し、ついで嫁と孫が感染し、さらにその孫のガールフレンドにまで感染したというものがあります。疥癬は、以前は、性感染症のひとつ、と言われていたのです。
夏のかゆみの原因は様々ですが、多くの場合、短期間の治療と再発予防をおこなえば、それ以上悩むことはなくなります。気になる人は早めの受診を・・・。
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|2013年6月15日 土曜日
第35回 ラテックスアレルギー 2006/07/19
私は以前、アレルギー科指導医の先生のもとで、1年ほど研修を受けていたことがあり、私自身も日本アレルギー学会に入会していることもあって、外来でアレルギーの患者さんを診察させてもらうことが少なくありません。
日頃もっともよく接するアレルギー疾患のトップ3は、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎ですが、これら以外にも、ハウスダスト、ペット、金属、化粧品などによるアレルギー疾患にもよく遭遇します。食べ物によるものも少なくなく、去年から今年にかけて、マンゴーによるアレルギーで口の周りが腫れた、という患者さんを何人か診ました。
そんなアレルギー疾患のなかで、最近着実に増加しているな、と私が感じているのが、ラテックスアレルギーです。ラテックスアレルギーとは、天然ゴムに含まれる蛋白が原因となって引き起こされるアレルギーで、軽症のものから重症のものまであり、最重症の症例では死亡例もあります。
どんな患者さんに多いかと言うと、おそらく職業別で言えば、医療従事者がナンバー1だと思われます。というのは、医療従事者は手術の際などにラテックス製のグローブ(手袋)を使用するからです。最初は軽いかゆみや発赤だけしか症状がなかったとしても、何度も使用しているうちに次第に症状がひどくなってくることが多いようです。
このため、ラテックスアレルギーのある医療従事者用のグローブも用意されており、(価格は高いようですが)こういったグローブを使用することによりアレルギーの症状を防いでいます。
医療従事者以外の職業で多いのは、工場で勤務する人です。一般的に、工場でも衛生上の観点からゴム手袋を義務付けているところが多く、そのため、それまでは一切の症状がなかったのに、工場勤務を始めてから手が腫れだした、という人がいます。
ラテックスアレルギーは、たとえそのような体質であったとしても、医療従事者や工場勤務者のように日頃からゴム製品に接触するような環境にいなければ、発症することはありません。一般的に、アレルギー疾患というのは、その原因となる物質(これを「アレルゲン」と呼びます)に接触しなければ症状が出現することはないのです。
しかしながら、日常生活からゴム製品を一掃することはなかなか容易ではありません。そもそも、ラッテクスアレルギーの患者さんが増えてきているのは、衛生に関する意識が向上したことにより、結果としてグローブなどのゴム製品を使用する機会が増えているからです。良質のラテックス製品を使用することによって感染症を防ぐことができるわけですから、ゴム製品の使用をやめることによって感染症に罹患したのでは意味がありません。
感染症を防ぐ目的で使用されているラテックス製品の代表のひとつが、コンドームです。病院や工場で勤務していない人でも、状況によってはコンドームを使わないわけにはいかないでしょう。
ところが、このコンドームが悲劇を起こすこともあります。実際に、性行為の最中にラテックスアレルギーの症状が出現し、そのまま死亡した男性の症例が報告されています。
「こんな報告を聞くと、コンドームなんて怖くて使えない!」
そんなふうに思われる方もおられるでしょう。たしかに、「コンドームを使うことで死亡することもある」、などと言われれば使用に躊躇してしまいます。
しかし、一般的には先にも述べたように、何度もゴム製品を使用している間に、症状の程度が重症化してくるのが普通です。コンドーム以外にも、日常生活品のなかでゴム製品はあるでしょうから、コンドームにアレルギーのある人は、それまでにも何らかの症状が発症していた可能性が強いと言えます。軽度のかゆみや発赤が出た時点で病院を受診していれば、このような悲劇は防げた可能性が強いのです。
それまでゴム製品を触っても何もなかった人が、いきなり性行為の最中に死亡、なんていうことは可能性としてはそれほど高くないわけです。
一般的にラテックスにアレルギーのある人は、1,000人にひとりくらいだと言われています。しかし、アトピー性皮膚炎のある人の3-4%にラテックスアレルギーがあるとの報告もあり、アトピー性皮膚炎と診断されたことのある人はより注意が必要です。また、なぜか理由は分かりませんが(私が知らないだけかもしれませんが)、二分脊椎という病気のある人は、そのほとんどがラテックスアレルギーだと言われています。
もしも、あなたがラテックスアレルギーの疑いがあるなら、早めに病院を受診することをお勧めします。病院に行けば、本当にアレルギーがあるのかどうかが正確に分かり、今後の生活に注意することによって悲劇を防ぐことができるからです。
また、ラテックスアレルギーがあるかもしれない人は、ラテックスアレルギーを診てもらう以外の理由で病院を受診した際にも、必ず医師にそのことを伝えるべきだと私は考えています。
なぜなら、病院でおこなわれる処置や手術というのは、医療従事者は通常、ラテックス製のグローブを用いておこないますから、医療従事者の手が患者さんに触れることによって、患者さんにアレルギーの症状が出現することがあるからです。
では、具体的にラテックスアレルギーでは、どのような症状が出現するのかみていきましょう。
皮膚症状としては、痒疹(かゆくなる)、紅斑(赤くなる)、じんましん(かゆみのある皮膚の盛り上がり)などがあります。これらは軽症であれば、ゴムが触れた部分のみ(グローブなら手のみ)に現れますが、重症化するとこういった皮膚症状が全身に出現します。
鼻炎や結膜炎を起こすこともあります。ゴム製品の手袋やコンドームを使用すれば、目がかゆくなる、あるいは鼻水がでる、という人は疑うべきだと思われます。
さらにひどくなると、息苦しくなったり、喘息のような症状が出現したりすることもあります。これらが重症化すると、血圧が大きく下がり(これを「ショック」と呼びます)、最悪の場合は命を失うこともあります。
これらのうち、少しでも気になる症状があれば、できるだけ早く病院を受診するのが賢明です。
また、コンドームについては、現在市場に出回っているほとんどのものがラテックス製です。アレルギーのある人でも使える製品というのもメーカーによっては存在するようですが、自分の判断でラテックスアレルギーと診断してそういう製品を使用するよりも、一度医師と相談した上で対策を考えていく方がいいでしょう。
なぜなら、ラテックスアレルギーの人のためにつくられたコンドームのなかには、単にアレルギーを引き起こす成分を少なくしただけのものもあり、(これで充分なことも多いのですが)ほんの少しのラテックスでも反応する人にとっては、危険性はほとんど変わらないからです。
ラテックスアレルギーの怖いところは、多くの人々が、自身がアレルギーであることを知らず、なおかつ、ときに重症化をきたすことがあるということです。
少しでも気になることがある人は早めの受診を・・・・。
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|2013年6月15日 土曜日
第34回(2006年6月) そろそろ本格的な禁煙を!~後編~
前回は、喫煙者がタバコをやめられない様子を比喩的にひとつの物語としてお話しました。タバコを吸わない人はこの物語を大げさだと感じられるでしょうが、喫煙者の苦しみというのは相当なものなのです。
実は、この物語の主人公である「僕」は私自身のことです。もちろん、私もタバコの有害性を認識しており、タバコが原因で病気になった人を多くみていますし、禁煙を指導する立場にあるわけですから、すぐにでも禁煙したいと思っています。
しかし、これまで何十回と禁煙を試みましたが一度も成功していません。今回こそは!と思っても、前回の物語のようにだいたい60日前後で挫折して夜中にコンビニに駆け込んでしまうのです。
タバコがやめられないのはニコチンに対する依存症です。だから、科学的に考えれば、ニコチンが身体に残存している期間を過ぎれば禁煙はたやすくなるはずです。禁煙を開始してからだいたい3週間前後で身体からニコチンが完全に除去されるため「3週間を過ぎればタバコがなくても苦痛でなくなる」と言われることがあります。
けれども、実際に禁煙に成功した人に話を聞いてみても、多くの人が、「やめて何年たってもタバコをいらないと思うことはない。すぐにでも前のような喫煙者に戻れる」と言います。単純な科学的な理屈だけでは片付かないところに禁煙のむつかしさがあります。
物語で述べたように「理性」だけでは禁煙はできません。タバコを切らせた状態が長く続くと「理性」で物事を考えられなくなってしまいます。そのために非合理的な行動に出てしまうのです。物語で述べた、ガラスを割ったり、おしいれをひっくりかえしてタバコのかけらを探したりするエピソードも、実際の私の体験です。これら以外にも、例えば、紙を燃やして煙を鼻に入れてみたり、煙が出ている銭湯の煙突をみると無性に登りたくなる衝動に駆られたりすることもあります。
さらに「罪悪感」に苦しめられることにもなります。物語で述べたように、「何も悪くない恋人を自分の都合で一方的に捨てた」ような感覚にとらわれるのです。
ちょうど恋人と別れるときに、その恋人のいいところばかりが思い出されるのと同様、タバコをやめるときにも数々の思い出が頭をよぎります。前回の物語で比喩的に述べた「雑誌に登場」というのはタバコの広告のことです。現在のように広告が規制される前は、雑誌はもちろんテレビコマーシャルも放映されていました。そしてその広告が、青い海や青い空、あるいは都会の夜景などをモチーフにしており、タバコを吸ったときにきれいな景色や夜景を眺めているときと同じような感覚になるよう脳に刷り込まれてしまっているのです。
ですから、タバコの利点は、たった1本でまるでリゾート地に来ているかのようにリラックスできることです。もっとも、本当にリラックスできているわけではないという医学的な研究もあり、非喫煙者の人にとってみれば、リラックスどころか苦痛以外の何ものでもないでしょう。しかしながら、リラックスできているかどうかというのは主観的なものであり、いったん依存症になってしまうと容易にリラックス効果の得られる(と本人が思い込んでいる)タバコが手放せなくなってしまうのです。
タバコを吸えない苦痛は寝ているときにもやってきます。というより、この苦痛は睡眠を妨げます。物語では、「彼女」に手を伸ばしても触れることができない夢をみる、としていますが、私が実際によく見る夢は、タバコを吸っているシーンです。久しぶりに手にしたタバコを思いっきり吸うのですが味がしません。そのため何度も大きな呼吸を繰り返すことになるのですが、これがどうやら夢の中だけでなく実際にも寝ながら大きな呼吸をしているようなのです。そして、空気を吸いすぎて(医学的には過換気になって)苦しくなって目が覚める、というわけです。
私の場合、この睡眠障害は禁煙を開始してから一ヶ月が過ぎた頃にやってきます。禁煙開始直後から寝つきが悪くなるのですが、なかなか寝付けないところにこの夢で目覚めることになり、本当に辛いのです。睡眠不足から日中にストレスがたまることになり、さらに身体はそのストレスを解消するためにタバコをほしがります。まさに悪循環なのです。
さて、ではそんなタバコを完全に断ち切るにはどうすればいいのでしょうか。
まずは、禁煙する!という確固とした決意をすることが必要です。そのためには、自分がなぜタバコをやめたいのかを明確にする必要があります。ファッション感覚で禁煙を試みても挫折するのは時間の問題です。絶対に禁煙しなければならない理由をいつも意識できなければまず成功しないでしょう。
しかしながら、決意だけでは不十分であることもあります。いくらタバコの有害性を理解していても、ニコチンの禁断症状が出現した際にはいかなる理論も理性も役に立ちません。理論的にものごとを考えられなくなり、ついには非合理的な行動に出てしまうのです。
禁煙治療薬の有効性は広く認められており、これらに頼るのもひとつの方法です。ただし、絶対に禁煙する!という強い決意があることが前提です。
最も安価で簡単に入手できる禁煙治療薬はニコチンガムです。これは処方箋なしで薬局で買うことができます。しかし、私はニコチンガムで禁煙に成功したという人をほとんど見たことがありません。この理由は、ニコチンを摂取できるのは日中のガムを噛んでいる時間だけであり、そのためニコチンの吸収量が一定しないからではないかと思われます。
ニコチンの貼付シートがあります。これは医師の処方箋が必要な薬剤で、入手するには必ず医師の診察が必要です。身体に貼付するシートに含まれるニコチンの量を徐々に減らしていくことによってニコチンを断ち切るという方法です。少しずつ一定量のニコチンが緩徐に体内に吸収されていきますから、ニコチンガムと異なり、安定したニコチン摂取が可能となり、ニコチンを徐々に断ち切るには適していると言えるでしょう。
これまで、禁煙に対する医療というのは保険外、つまり自費診療だけでしたが、2006年4月より保険適用となりました。厚生労働省がニコチン依存症は立派な「病気」であることを認めたというわけです。
ただ、保険適用といっても、診察代はたしかに保険適用となりますが、肝心のニコチンシート(貼付薬)は薬価が設定されておらずこの分は依然自費のままです。これでは一通りの治療が終わるまでに数万円は必要となりますし、事実上の混合診療とも考えられます。
そこで、厚生労働省は早急にニコチンシートの薬価を決めることにしました。おそらく、このエッセイがウェブサイトに公開される頃には薬価が決められ保険適用となっているのではないかと思われます。
禁煙治療薬は経口薬(飲み薬)もあります。すでに欧米では、bupropin(商品名はZyban)という薬品が発売されており、それなりの効果が認められています。この薬は、インターネットによる通販などを利用すれば誰でも入手可能のようですが、医師の指導なしで服薬するのは非常に危険だと思われます。
最近新たな経口禁煙治療薬が開発され話題を呼んでいます。Varenicline(注)という名前のその薬剤は、先発のbupropinの2倍近くの効果があることが、研究グループの対照試験で明らかになりました。欧米では近日中に発売になる見込みだそうです。
これらの経口禁煙治療薬は、日本でも近いうちに市場に登場する可能性があり現在注目されています。
私自身としても、貼付シートを使うべきか、経口薬を使うべきなのか、現在迷っているところです。もちろんその前に、禁煙する!という確固とした決意を確認する必要がありますが。
素敵な「彼女」と別れることを本当に後悔しないのか、「彼女」との思い出を本当に断ち切れるのか、そして「彼女」に対する罪悪感を本当に克服できるのか・・・。
これらの問題を乗り越えない限りは、シートか経口薬かを考えることに意味はないでしょう。
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注:Vareniclineはその後日本でもファイザー社から「チャンピックス」という商品名で発売されました。
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第33回(2006年6月) そろそろ本格的な禁煙を!~中編~
時計の針が午前二時を指した。
これで僕が彼女と別れてからちょうど六十日が経過したことになる。
ベッドに入ってもう一時間以上もたつというのに、今日もまったく眠れそうにない。
もう一週間以上もほとんど眠れない日々が続いている。明け方にうとうととすることがあっても、いつも同じ夢で起こされる。彼女と再会し、彼女に手を伸ばそうとするのだけれど、すぐそこにいるはずの彼女に触れることはできない・・・、そんな夢だ。
なぜ、彼女と別れることを選んだんだろう。最近考えるのはこのことばかりだ。以前から別れなければならないと思っていて、別れを決意するまでに何か月も考えたのだ。考えて考えて考え抜いた結果、僕は別れを決意した。
けれども、本当に別れなければならなかったのだろうか、と今になって思う。たしかに僕の周囲の人間は、僕と彼女が付き合っていることに反対した。「あんなやつと付き合っていて損をするのはお前だ」、皆が皆、同じことを言っていた。
だけど、いったい彼女の何がいけないというのだろう。実際、彼女ほどクールなやつはいないんだ。少なくとも僕にとっては。クールなだけじゃない。ときには優しくて、ときには暖かくて、ときには僕を癒してくれる、そんな彼女だったんだ。
それに、彼女は何も悪いことをしていない。悪いのはいつも僕の方だ。
一度僕の勝手な理由で彼女と別れたとき、僕は一週間で彼女の元に戻ったんだけど、そんな身勝手な僕に対して、彼女は怒るどころか、不満のひとつも言わずに僕を受け止めてくれたんだ。
僕は一度浮気をしたことがある。いつも同じ彼女だと、その彼女が一番だということが分かっていても、たまには他にも試してみたくなる。男の性(さが)ってやつかもしれない。だけど、そんなだらしのない僕を彼女は許してくれた。そして彼女の元に戻ったとき、彼女はいつも以上に僕に安らぎを与えてくれたんだ。そのとき僕は浮気を後悔したと同時に決意もした。もう二度と彼女を離さないって。
彼女ほど素敵なやつはいない、と僕は思う。今ではすっかり見なくなったけど、以前はよく雑誌なんかにも登場していたんだ。それも二ページまるまる彼女が載っていたこともあったんだ。それくらいクールな彼女なんだ。あの当時は彼女が最高にクールだってこと、誰もが認めてたはずだ。
僕と彼女の出会いはとても素敵だったんだ。真夏の沖縄のビーチ、今でもあのときのことをよく覚えている。遅れて沖縄にやってきた僕の友達が彼女を連れてきてたんだ。初めて彼女をみたときのあの胸のときめきは、今でも忘れられない。
とにかく僕は彼女に一目ぼれだった。出会った瞬間から彼女に夢中になったんだ。
それ以来、どこに行くにも彼女と一緒だった。男友達と飲みにいくときも、僕は必ず彼女を連れて行った。旅行にいくときも、実家に帰るときも彼女と一緒だったし、仕事で出張に行くときも、こっそり彼女を連れて行ったりもしていたんだ。
また分からなくなってきた。どうして僕は彼女と別れることを決意したんだろう。いったい僕は彼女の何が気に入らないと言うんだ。
今回僕が別れを決意したときも、彼女は何も言わず、僕の気持ちを分かってくれた。十年間以上も一緒にいて、僕が突然別れを切り出し、彼女の元から去って行ったとき、彼女は何も言わずにそんな僕を許してくれた。少しは彼女にすがってほしい、という気持ちもなかったわけではないけれど、僕がどんなわがままを言っても分かってくれる、それが彼女なんだ。
時計の針が午前三時を指した。
彼女に会いにいこうか・・・。ちょうど昨日もこの時間に同じことを考えた。昨日は、彼女が恋しくてたまらなくなり、服を着替えて外に出たんだ。車に乗り込みエンジンをかけ、無我夢中で車を飛ばした。けれど、最後の最後で僕は理性を取り戻した。ダメだ・・・、彼女との別れは何度も考えて出した結論のはずだ。
何度も何度も考えて出した結論なんだ。だから、彼女と別れた直後はとても辛かったけど、何度も考えたことを思い出してその辛さに耐えたんだ。
けれども、三日がたち、一週間が経過し、ちょうど一か月を超えた頃から、再び僕の決心が揺らぎだした。まるで僕の理性が人間の根源にある魂に飲み込まれていくようだった。頭のなかで何度も彼女と別れた理由を反芻するんだけど、そんなものはすぐに感情の波にさらわれていくんだ。
理性がなくなり、まともに物事を考えられなくなると、僕は自分でも不可解な行動を取るようになってきた。十日ほど前には家のモノに当り散らして窓ガラスを二枚も割ってしまった。彼女の香りがきっとまだこの部屋に残っているはずだと思って、おしいれをひっくりかえしたり、キッチンの下に潜りこんだりもした。もうひとりの自分が、バカなことはやめておけ、って言うんだけど、頭の中が彼女のことでいっぱいになると、そんな理性的な忠告には耳を傾けられなくなるんだ。
時計の針は午前三時四十五分。もう一週間以上もほとんど寝ていないというのに、今夜も眠れそうにない。
僕は知っている。彼女と再会さえすれば、ほんのわずかな時間だけでも彼女と会えれば、僕の身体はリズムを取り戻し元気になれるんだ。
もしも彼女が昔みたいに、僕の枕元にいてくれればどんなに幸せだろう・・・
僕はこれから彼女なしで生きていけるんだろうか・・・
彼女のいない人生なんて僕にとってどれだけの意味があるというのだろうか・・・
ふと気がつけば僕は車を飛ばしていた。
昨日は着替えて飛び出したけれど、今日は着替えすらしていない。寝巻き姿のまま、髪もボサボサのままだ。六十日ぶりに彼女と会うというのにこんな格好だなんて、僕はほんとに勝手な男だ。それに時刻は午前四時だ。おそらく世界中で、もっとも寝ている人の割合が多い時間だろう。そんな時間に、小汚い格好で何の連絡もなしに、一方的な理由で、それも六十日ぶりに会いにいくなんて、よく考えるとこれほど非常識な行動もないだろう。
けど、僕は知っている。こんな僕でも彼女は受け入れてくれるってことを。まるで何事もなかったかのように、また前みたいに僕に安らぎを与えてくれる。それが彼女なんだ。
六十日ぶりに再会した彼女は以前とまったく変わっていなかった。クールな香り、麗しいボディライン、そしてまろやかな肌触り、あの頃となにひとつ変わっていない。
やっぱり僕には彼女が必要なんだ!
今度こそ離さない・・・。こんな身勝手な僕を許しておくれ・・・。
僕は何度も彼女に謝った。
そして、ゆっくりと彼女に口づけた。
彼女の香りが僕の鼻腔を支配した。
ああ、この香りだ! この香りを僕は六十日間求め続けていたんだ。初めて出会った沖縄のビーチが頭をよぎり、これまでに彼女と過ごしてきた日々が次々と頭のなかを駆け巡った。
ごめんよ、本当にごめん、もう二度と離さないからね・・・
僕は彼女に何度も何度も同じ言葉を繰り返した。
そして、ゆっくりと「彼女」に火をつけた。
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第34回(2006年6月) そろそろ本格的な禁煙を!~後編~
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|2013年6月15日 土曜日
第32回(2006年5月) そろそろ本格的な禁煙を!~前編~
生活習慣病の二大大敵は「肥満」と「喫煙」です。この他にも、野菜果物の低摂取、飲酒、性交渉でのパピローマウイルス感染など、たくさんありますが、「肥満」と「喫煙」ほど、確固とした地位を築いている大敵はいないでしょう。
前回は、「肥満」や「喫煙」を棚に上げて、どれだけ積極的に身体にいいものを食べようが、サプリメントを摂取しようがほとんど意味がない、という話をしました。今回お話するのは、「喫煙」についてです。
まずは、タバコがリスク因子となる疾患をみていきましょう。
悪性腫瘍(がん)の多くは生活習慣病であると言えます。そして、全世界のがんによる死亡の21%が喫煙に関係しているというデータがあります(Lancet誌2005年11月19日号)。
タバコが原因のがんと言えば、肺がん(一部タバコが原因でない肺がんもあります)が有名ですが、他にも、胃がん、食道がん、咽頭がん、喉頭がん、口腔がん、舌がん、膀胱がんなどがあります。
がん以外で、タバコが関係している疾患も非常に多く、肺気腫、喘息、慢性気管支炎、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などが有名ですが、他にも動脈硬化を促進させたり、傷の回復を遅らせたり、手足の冷えを助長したり、と悪いことばかりです。先日、厚生労働省研究班がおこなった4万人を対象にした調査によりますと、喫煙者の心筋梗塞は非喫煙者に対して約3倍も高いことが分かったそうです。
私が医学部の学生の頃は、いくつかの病気に対してはタバコが有用ではないか、といった説もありました。具体的には、パーキンソン病、クローン病、潰瘍性大腸炎などで、これらの予防、もしくは治療にタバコが薦められるのではないか、という議論があったのです。
しかしながら、最近はこういった議論はほとんど聞かれなくなり、現在タバコの有用性を訴える医師や研究者はほとんどいないのではないかと思われます。
世界保健機構(WHO)は、世界を率先するかたちで、2005年12月「喫煙者を雇用しない」という方針を発表しました。
医学界だけではなく、社会的にもここ数年で禁煙へのムーブメントが一気に広がっています。レストランやファストフード店のなかには、全面禁煙の店もでてきましたし、喫煙が可能でも狭いスペースに喫煙コーナーを設ける店舗が増えてきています。
海外ではその傾向がいっそう顕著です。
2003年7月にはニューヨークで禁煙法が施行されました。これにより、レストランやバーなども全面禁煙となり、喫煙できるのは市役所から許可をもらった一部のシガーバーだけとなりました。
ヨーロッパでは、アイルランドが2004年に禁煙法を施行し、これに追随するかたちで他の欧州諸国が喫煙に対する法律を整備しだしました。
英国では、2005年1月に北アイルランドが、2006年3月にはスコットランドが全面的な禁煙法を施行し、バーやクラブを含めて喫煙できる公の場がなくなりました。この流れは加速度的に広まり、ついに2007年の夏には、ロンドンを含むイングランドが全面禁煙になることが決定しました。ウェールズにおいても2008年中には、全面禁煙になるであろうと言われています。
また、オーストラリアでも2007年中には全面禁煙になる見込みだそうです。
アジアではどうでしようか。
中国は、都市部と地方では、同じ国と思えないほどの経済格差があり、また生活様式も異なります。今やどこからみても先進国としか思えない上海では、禁煙レストランが急増しているそうです。
私が商社に勤めていた頃、仕事で中国人と食事を供にすると、よくタバコを勧められました。それが好意を示す行為であるという話を聞いたことがありますが、今ではそのような慣習も減ってきているそうです。
中国と同様に、タイも都心部と地方では驚くほどの経済格差があります。地方はさておき、都心では高級レストランだけでなく100円以下で食事ができるような食堂でも全面禁煙の店が増えてきています。また、ロビーを禁煙にしたホテルが急増しています。
このように、禁煙ブームは世界的な広がりを見せており、喫煙者には非常に住みにくい世の中になってきました。
ここまで禁煙ブームが加速すると、喫煙者からは「本当にバーやクラブまで禁煙にする必要があるのか。喫煙者が他人に迷惑をかけているという、なにか科学的なデータでもあるのか」という声が上がりそうです。
しかし、喫煙者にとっては残念なことに、そういうデータが最近登場し始めました。
まずは、アイルランドの調査です。
禁煙法施行前と施行1年後の2回にわたり、アイルランド国内40ヵ所以上のパブの空気調査と、そこで働く81人の男性労働者を対象に肺機能の調査とインタビューがおこなわれました。その結果、1年間で呼吸器に影響を及ぼす大気中の浮遊微粒子が大幅に減少したことが判明し、パブやレストランの労働環境も改善され、息切れ、せきなどの、呼吸器系の症状や、涙目になるなどの刺激を感じるといった症状が、全体で30%から40%減少したそうです。この調査では、「禁煙法によってパブの従業員を間接喫煙の被害から守ることに成功した」と結論づけています。
心臓病に関するデータもあります。
米国コロラド州プエブロ市では、全面的な喫煙禁止条例の施行後に急性心筋梗塞の患者が30%近くも減少したことが分かったそうです。
こういったデータがでてくるようになると、禁煙法は今後もますます普及していくことが予想されます。日本では、まだそのような動きがありませんが、「禁煙法」が国会で議論される日はそう遠いことではないかもしれません。
さて、いくら法律が制定されても、病気になりやすいというデータを示されても、愛煙家にとって禁煙の苦しみが軽減されるわけではありません。タバコを吸わない人が、喫煙者に対して「禁煙しなさい」と言ってもほとんど説得力がないのは、喫煙者にしてみれば「この苦しみの分からないあんたになんでそんなに偉そうなこと言われやなあかんねん!」という気持ちがあるからです。
愛煙家が禁煙に成功するのは、愛煙家自身が固い決意をもって禁煙に取り組んだときだけです。どれだけすぐれた禁煙治療薬を使おうが、本人に固い意思がない限りは絶対に成功しないと考えるべきでしょう。
しかし、例外的に他人の説得が有効なことがあります。
それは、まだタバコを吸ったことのない人に対するアドバイスです。いったん愛煙家になってしまえば、並大抵の努力では禁煙に成功しませんが、まだ吸ったことのない人、あるいは吸い始めて間もない人に対してはアドバイスが非常に有効です。
タバコを吸い始める年齢というのは、だいたい10代後半から20代前半だと思われます。10代前半という人もいますが、そういう人でも依存症になるのは10代後半あたりからであることが多いと言えるでしょう。この年代であれば、まだタバコに対する知識をきちんと持っていないことが多く、吸い出すきっかけは、「友達が吸っているから」とか「なんとなく気持ちよさそうだから」とか「カッコいいような気がする」とか、そういう理由が多いわけです。これくらいの動機なら、「病気になりやすい」、「老けやすい」、「肌が汚くなる」、「口が臭くなる」、など、タバコの否定的な側面をしっかりと教えてあげれば、「初めから吸わない」ということが期待できます。つまり、「理性」で説得することが可能です。
最も効果的な禁煙対策は「初めから吸わない」ことなのです。
ところが、吸い出してから数年がたち、いったんタバコの魅力にとりつかれてしまえば、どんな「理性」をもってきても、愛煙者にしてみれば単なる「正論の振りかざし」にしか聞こえなくなってしまうのです。
「感情には、理性にはまったく知られぬ感情の理屈がある」というのはパスカルの言葉ですが、愛煙者に対しては「理性」は通用しないのです。これが、発展途上国だけでなく、先進国の、しかも高学歴者や知識人のなかにも愛煙家が多い理由なのではないかと私は考えています。
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|2013年6月15日 土曜日
第31回 心筋梗塞を確実に防ぐ方法 2006/05/01
心筋梗塞を防ぐサプリメントや食品の研究は様々あるが、それらが疑わしいとするデータもあり、実際にどれほどの効果が期待できるのかははっきりしないという話を前回しました。
かと言って、「じゃあ、サプリメントや食品には何も期待しないことにしよう」とするのも、また極端すぎるような気がします。特に、日本人を対象とした日本の研究についてはある程度は参考にすべきかもしれません。
例えば、前回、魚の脂にたくさん含まれるオメガ3脂肪酸について否定的な論文を紹介しましたが、最近発表された日本の研究は、「魚を食べれば食べるほど心筋梗塞の危険性は減少する」と結論づけています。
厚生労働省の研究班は、虚血性心疾患(心筋梗塞とその手前の状態の狭心症を合わせた疾患名)になった258人を、魚を食べる量に応じて5つのグループに分けて比較しました。その結果、魚を「食べれば食べるほど」危険性が減少するという結果がでました。具体的には、5つのグループのなかで最も摂取量の多いグループ(1日約180グラム、ちなみに刺身一切れは約15グラム)は、あまり魚を食べないグループ(1日20グラム以下)に比べて、虚血性心疾患に罹患する率が4から6割も低いことが分かったそうです。
これまでも、魚を食べれば罹患率は減るというデータはありましたが、「食べれば食べるほど」予防効果があるという結果を出した研究はおそらく初めてではないかと思われます。
ただ、一方では前回ご紹介したデータのように魚の効果を疑わしいとする発表もありますし、この日本の研究でも、魚をたくさん食べる人のなかにも心筋梗塞を起こしている人がある程度はいるわけです。
ですから、「魚を食べていれば心筋梗塞にはならない」と考えるのは非常に危険であるのです。
じゃあ、何を食べればいいのか、あるいは何をすればいいのか、ということになるわけですが、その答えはきちんと用意されています。
食品やサプリメントの研究では、効果があったとするものでも、その効果が劇的なものであるわけではありません。一方では、誰がみてもあきらか、世界中のすべての研究者が同意する、いわば「確実に心筋梗塞を予防する方法」が存在するのです。
まずは、研究者や医者なら誰もが認める、心筋梗塞をおこしやすい10個の要因をみていきましょう。それらは、①糖尿病、②高血圧、③高脂血症、④肥満、⑤喫煙、⑥高尿酸血症、⑦男性、⑧加齢、⑨A型気質、⑩ストレス、です。
お馴染みの言葉も、そうでない言葉もあると思いますので、これらを説明していきましょう。①②④⑤は説明がいらないでしょう。③の高脂血症は、コレステロールもしくは中性脂肪の高い状態を言います。そして、①から⑤までを通常「メジャーファクター」といってこれらが最重要です。
「メジャーファクター」に対して、⑥から⑩までを「マイナーファクター」と呼びます。このなかで、⑨A型気質について説明をしておきます。「A型」と言っても、血液型のA型のことではありません。臨床医学上、性格を分類することがあり、そのひとつが「A型気質」です。A型気質とは、真面目で責任感が強く何に対しても一生懸命取り組むような性格の人のことを指します。
「メジャー」「マイナー」という言葉が示すように、実際の医療現場では、我々は①から⑤の「メジャーファクター」を最重要視します。マイナーファクターが1つ、もしくは2~3個あったとしても、そういう人全員が心筋梗塞を起こしやすいと考えているわけではありません。マイナーファクターを重要視しすぎると、責任感の強いある程度の年齢の男性を全員疑わなければならなくなってしまいます。
一方、①から⑤のメジャーファクターは、1つでもあれば心筋梗塞になりやすい人だと考えられます。もう一度言いますが「1つでも」です。
私の経験した症例をご紹介したいと思います。
その患者さんは35歳の男性です。道端で突然胸の痛みを感じそのまま倒れました。近くにいた人が駆け寄るとすでに心肺停止の状態でした。幸いなことに、その近くにいた人というのが、医療従事者ではないのですが救命についてのトレーニングを受けたことのある方で、心臓マッサージを含めた適切な処置をおこない同時に救急車を呼びました。そして、患者さんは当時私が勤めていた病院に搬送されてきました。
診断の結果は心筋梗塞、すぐに緊急処置となり一命をとりとめました。たまたまそばにいたこの人(患者さんとは赤の他人です)の的確な行動がなければ、おそらく助からなかったと思われる症例です。
30代の心筋梗塞というのはないわけではありませんが、好発年齢というのはもう少し上の世代です。若い人で心筋梗塞を起こすのは、極端な肥満の人に多いということがいえます。しかしこの患者さんは、身長170センチ、体重65キロで決して肥満ではありません。職業はあるスポーツのコーチです。筋肉質でおそらく体脂肪率は15%以下だと思われます。血圧は正常ですし、血液検査の結果、糖尿病も高脂血症もないことが分かりました。
ただひとつ、忘れてはならないメジャーファクターのひとつ「喫煙」があることが問診で分かりました。この患者さんの心臓の周囲の血管は、かなり動脈硬化が進んでおり、よくこれでスポーツができるな、というほどのものでした。
私はそれまで、喫煙で動脈硬化が促進されるという知識はもっていましたが、喫煙だけで、しかもこの若さでここまで動脈硬化が起こるとは思っていませんでした。
5つのメジャーファクターのなかで、①糖尿病、②高血圧、③高脂血症は、特に初期の段階では自覚症状がありません。自覚症状がないまま進行し、気づいたときには手遅れ、という患者さんにお会いすることがよくあります。なかには心筋梗塞を起こして初めてこれらの病気があることが分かったという患者さんもおられます。
これらの疾患を早期発見するために有用なのは、もちろん健康診断です。特に自覚症状がない人でも年に一度は健康診断をおこなうべきなのです。
しかし、健康診断以上に重要なことがあります。それは、もうひとつのメジャーファクター、④の肥満です。
そもそも、①糖尿病、②高血圧、③高脂血症のある人は肥満であることが圧倒的に多いわけです。ですから、日頃から肥満にならないように健康管理をおこなうことが何にも増して重要なのです。肥満にならないようにしていれば、かなりの確率で、糖尿病、高血圧、高脂血症を防ぐことができるというわけです。
メタボリック・シンドロームという病気を聞かれたことがあるでしょうか。これは、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満が、ひとつひとつはそれほど重症というわけではないけれども、これらのすべてがそろっている状態のことを言います。そして、それぞれは薬を飲んだりする必要のない数値なのですが、放っておくと心筋梗塞などにかかりやすくなるという特徴があります。ですから、ちょっとした肥満、というのも放っておくのは危険です。体重は標準だけども体脂肪率が高いとか、以前に比べてウエストラインが太くなったという人も要注意です。メタボリック・シンドロームというのは比較的新しい言い方で、以前は「死の四重奏」とか「デッドリー・カルテット」とか言われていました。
まとめに入りましょう。心筋梗塞などの心臓病を防ぐには、サプリメントや食品摂取よりも明らかに重要なことがあります。それらは、喫煙をやめて、肥満を避ける、さらに年に一度の健康診断を受ける、というものです。これらを無視して、タバコを吸い続けたり肥満を放っておいたりしながら、毎日大量の魚を食べサプリメントを飲んでいたとしても、いずれ心筋梗塞になるのは時間の問題というわけです。
患者さんのなかには、タバコを吸い続け、あるいは肥満であることに直面しようとせず、高価なサプリメントを何種類も飲んでいる人がいますが、これは明らかにおかしいのです。それだけのお金をかけるなら、禁煙や肥満の対策に当てるべきなのです。
では、タバコをやめて、肥満を避けるにはどうすればいいのでしょうか。
そもそも、こんなことはいちいち言われなくても誰もが知っていることです。今回は、これらが、サプリメントや食事よりもはるかに重要ということを再確認したかったから述べたわけですが、現実的には禁煙や肥満について具体的な対処法を考えていくことが大切です。
次回は、禁煙について考えていきたいと思います。
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|2013年6月15日 土曜日
第30回 コーヒー摂取で心筋梗塞!? 2006/04/15
以前、このコーナー(「はやりの病気」第22回)で、コーヒーは様々な病気の予防に効果があるという研究結果を紹介しました。具体的には、癌、糖尿病、高血圧、パーキンソン病などの疾患において、各国の大規模調査でコーヒーの有用性が証明されたというものです。
ところが、最近、コーヒーは心筋梗塞のリスクを上昇させるのではないかという研究が発表され話題を呼んでいます。『JAMA』という医学専門誌の2006年3月8日号にその研究が紹介されています。
その研究によりますと、「カフェイン代謝速度が遅い個体においては、コーヒーの摂取が非致死性心筋梗塞のリスク増加と関連した」と結論づけています。この表現は少しむつかしいように思いますので分かりやすく解説していきましょう。
まず、「カフェイン代謝速度が遅い個体」というのは、この研究に協力した個人の遺伝子を調べています。つまり、個人によってカフェインを代謝する速度が異なり、その原因は個人が持っている遺伝子にあるというわけです。「代謝」というのは、要するにカフェインを分解してしまう生体の能力のようなものです。
そして、カフェインを代謝するのが遅い遺伝子を持っている人が、コーヒーを摂取することによってカフェインが体内に長い時間とどまることになり、それが心筋梗塞を起こしやすくする、というわけです。
心筋梗塞という病気は、あまりにも有名なために解説はいらないかもしれませんが、ここで少し復習しておきましょう。
心臓は寝ているときも起きているときも意識に関係なく24時間働いてくれています。全身に血液を送り出さなければならないわけですから、かなりの重労働でそのため心臓の筋肉は多量の血液を必要とします。したがって心臓の周囲の血管というのはしっかりとした太いものです。
ところが動脈硬化がおこると、血管の内部にドロドロした物質が付着することによって血管の内径が細くなってしまいます。そして少しの血液しか流れなくなり、やがて完全に血管がつまると心臓の筋肉が悲鳴を上げ、心筋梗塞が起こります。
この論文で述べられているように、カフェイン摂取で心筋梗塞のリスクが増加するなら、カフェイン大量摂取で動脈硬化が促進される可能性があると言えます。しかし、今回発表されたこの論文では、それに対する説明があまりなされていません。まだ発見されていない未知のメカニズムがあるのかもしれません。
周知の動脈硬化を促進する要因はいくつかあります。その代表が糖尿病と高血圧です。しかし、「はやりの病気第22回」でご紹介したように、コーヒーは糖尿病も高血圧も予防する効果があるという研究があります。これらは矛盾しているようですが、医学とはそんなに単純なものではありませんから、いつの日かこれらをクリアカットに説明できるときがくるのかもしれません。
ところで、カフェイン代謝速度が遺伝子で決まるなら、自分の遺伝子はどうなんだろう、と疑問を持たれる方もおられるでしょう。遺伝子を調べて、もしもカフェイン代謝速度が遅い遺伝子をもっているなら、これからカフェイン摂取を控えることによって心筋梗塞のリスクが減らせるかもしれないのですから、知りたいと思うのも当然です。
しかしながら、今回の研究で調べられたようなカフェイン代謝速度の遺伝子というのは、まだまだ研究レベルのものであり、実用的ではありません。もしもカフェインと心筋梗塞の関係が今後の研究ではっきりとすれば、遺伝子検査が実用化されるかもしれませんが、当分先のことだと思われます。
一般に「心臓病」と言うときは、この心筋梗塞を指すことが多いといえます。それだけ心筋梗塞とは重大な病気であり、日本人の三大死因のひとつでもあります。心筋梗塞はもしも発生すれば一刻を争う病気であり、すばやく救命処置がとられなければ命に関わる疾患です。
したがって、心筋梗塞を防ぐための食品やサプリメントの研究は多々ありますが、最近は否定的なものも相次ぐようになりました。記憶に新しいショッキングな報告は、ビタミンEについてのものです。心筋梗塞の原因である動脈硬化を予防するには抗酸化物質を摂取すればいいと考えられており、その代表のひとつであるビタミンEの摂取がこれまで推薦されていました。
ところが2001年11月29日に『New England Journal of Medicine』という雑誌に発表された論文で、心筋梗塞の予防には抗酸化物質の効果がないことが報告され、その後も特にビタミンEの効果については否定的な結果があいついでいます。
青い魚の脂肪にたくさん含まれているオメガ3脂肪酸という物質をご存知でしょうか。これは、心筋梗塞の発症率に地域差があることから発見につながった物質です。元々心筋梗塞は欧米に多く、日本や地中海沿岸地方では発症率が低いという特徴があります。地域差があるということは、食生活に原因があるに違いないと考えられ、その結果特定されたものがこのオメガ3脂肪酸というわけです。つまり、日本や地中海沿岸地方では従来から青身の魚を食べる習慣があり、日頃からオメガ3脂肪酸を摂取しており、そのため心筋梗塞になりにくいのではないかと考えられているというわけです。
オメガ3脂肪酸は心疾患だけでなく癌の予防効果もあると言われており、現在世界の多くの国で積極的な摂取が薦められています。生活習慣病を防ぐために青身の魚を食べましょう、というようなことはきっと聞かれたことがあると思います。実際、サプリメントにもオメガ3脂肪酸が含まれているものがありますし、一部の医薬品にもあります。
ところが、です。最近、このオメガ3脂肪酸の効果を疑問視する研究が発表され議論を呼んでいます。2006年3月24日の『British Medical Journal』(電子版)に、英国のある大学がおこなった研究が掲載されました。この研究によりますと、これまでに発表されたオメガ3脂肪酸に関連した89の研究を再分析したところ、健康増進効果を導きだせなかったそうなのです。この報告では、「狭心症(心疾患のひとつで心筋梗塞の一歩手前のような状態)などの人は、念のため、(オメガ3脂肪酸の)多量の摂取は控えた方がいい」としています。
ところで、食生活やサプリメントというのは、マスコミの報道や宣伝広告ほど効果が期待できない、と考えるべきだと私は思っています。今回は心臓病を取り上げて、研究発表を振り返ってみましたが、例えば癌に効果があるとされているようなものは、ほとんど何ひとつきちんと証明されていません。それどころか、かえって有害であるという報告も見られます。
アガリクス製品が、癌を予防するどころか、発癌物質を含んでいることが分かり、厚生労働省管轄の食品安全委員会が販売中止を命じたのがいい例でしょう。(例えば共同通信社2006年2月14日)
また、以前、大腸癌を予防するということで脚光を浴びていたベータカロチンが、実際には大腸癌を予防するどころか、かえって肺癌のリスクを上昇させることが分かったというのもよく知られていることです。
話を心臓病に戻しましょう。
心筋梗塞を予防することを考えたとき、コーヒーは逆効果である可能性があり、ビタミンEを代表とする抗酸化物質やオメガ3脂肪酸には期待することができないかもしれない・・・。では、我々は、いったい何をすればいいのでしょうか。
心配しなくても、的確に心筋梗塞を予防する方法はきちんとあります。わざわざ最新の医学情報、あるいはサプリメント情報に精通している必要はありません。では、その方法をご紹介しましょう・・・、といきたいところですが、その前に「サプリメントとの付き合い方」について片付けておきましょう。
まず、サプリメントというのはどうしても摂らなくてはいけないものではありません。かといって、度を越さなければ摂ってはいけないものでもありません。期待はそれほどせずに、「摂取することによって体調がよくなれば儲けもの」、くらいの気持ちで考えればいかがでしょうか。
コーヒー、酢、大豆、など、健康にいいとされている食品についてはどうでしょうか。私はこれらも、「好きなら摂取する」、くらいでいいと考えています。「健康にいいから摂取するんだ!」という気持ちでいればおいしいものもそうでなくなってしまいます。「おいしくて自分が好きなものだからよく食べている(飲んでいる)」くらいがちょうどいいのではないかと私は考えています。
次回は、「確実な心臓病予防法」についてお話することにいたします 。
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|2013年6月15日 土曜日
第29回 HIV、施設から家庭へ 2006/04/01
私が始めてタイのエイズ関連施設を訪問したのは2002年の秋ですが、そのときにもっとも驚いたことのひとつが、患者さんが地域社会や病院から、さらに家庭からも差別的な扱いを受けているというものでした。
病院からは診察を拒否され、家庭からも追い出された患者さんが、パバナプ寺をはじめとするエイズ施設への入所を余儀なくされていたのです。さらに、施設の収容人数にも限りがあるため、行くところがないまま彷徨い歩く患者さんが多いという話もよく聞きました。
その後、私は2004年、2005年、そして今年(2006年)にも様々なタイの施設を訪問していますが、あきらかに変化していることがあります。
それは、少しずつですが、それでも着実に、HIV/AIDSに対する差別が減少してきている、ということです。たしかに、今でもHIV/AIDSの患者さんの入店を拒否している食堂はあるようですし、就職差別は根強いですし、病院からの差別も完全になくなったわけではありません。
しかしながら、「家庭での差別」というのは大きく減少してきているように見受けられるのです。
今から4~5年前までは、家族のなかでHIV陽性が分かると、多くの人が家から追い出され、行き場をなくしていました。当時は、特に北タイなどでは、正しい知識が浸透しておらず、なかにはエイズは容易に空気感染する、などと言われていた地域もあり、そのような地域では患者さんはその土地を離れなければならなかったのです。
実際、数百人を収容しているパバナプ寺でも、家族は一度も見舞いに来ないばかりか、患者さんが亡くなって遺骨を家族の元に送っても送り返されることが多々ありました。
それが、現在では施設に入るのではなく、HIV陽性が分かっても、あるいはAIDSを発症していても家族と過ごす人が増えてきているのです。
差別が少なくなってきた最大の理由は、正しい知識が浸透するようになってきた、というものです。HIVは容易に感染するような感染症ではないということ、感染しても適切なタイミングで適切な薬を内服することによりAIDSの発症を防げるということ、そして、何よりも、もともと差別されるような病気ではないことが、社会に認知されるようになってきているのです。
これはもちろん歓迎されることであり、正しい知識を普及させたタイの行政、マスコミ、多くのNPO、多くのボランティアなどの貢献の結果であります。私は最近(2006年3月)、タイ北部を中心に多くの患者さんやその家族とお会いしましたが、少なくとも患者さん(正確に言えばHIV陽性であるだけの人を「患者」と呼ぶのはおかしいですが・・・)が家族に暖かく受け入れられていることを実感しました。
現在、家族とともに生活されているHIV陽性の患者さんの多くは同じことを言います。
「家族とともに過ごすのが一番です。」
「家族は私の病気のことをよく理解してくれています。」
と、言い、そして家族の方も
「できるだけ(患者さんと)一緒に過ごす時間を増やしたい」
と言います。
こういう話を聞くと、感動を覚え家族愛というものが大変素晴らしく感じられます。
しかし、問題がないわけではありません。
患者さんの多くは、家族から受け入れられ、適切な薬剤を内服することによりAIDSを発症していないと言っても、疲れやすい、あるいは発熱しやすいという症状を有している人も少なくありません。ですから、通常の社会人と同様に仕事をするわけにはいかないのです。また、普段は健康に過ごしている人でも、重労働をおこなえば、すぐに倦怠感などの症状が出現するという人もいます。
HIV陽性というだけで、例えば国から手厚い保障があるわけではありませんから(タイは日本に比べると社会保障がほとんど発達していません)、仕事をしなければ生活がままならなくなります。結局、わずかな賃金しかもらえない自宅での軽作業などしかできず、そのため充分な生活ができない状況にあるのです。
HIV陽性の方も、その家族の方も、
「お金はなくてもいい。それよりも少しでも家族一緒の時間を増やしたい」
と言います。
ただ、現実に目を向けると、いくら貧乏を受け入れるといっても食べるものがなければ問題です。そして、一部の人は外国人の寄付金を頼りにすることになります。
「何を言っているんだ。HIV陽性と言っても働けるんだから、初めから寄付金をあてにするのはおかしいじゃないか!」
そのように考える人もおられるでしょう。たしかに、いくつかのNPOではこの点をジレンマに感じているようです。「自分たちが、患者さんが容易に寄付金を当てにする慣習をつくってしまったのではないか・・・」、そのような自責の念にとらわれている人もおられます。
HIVに対する差別が減少し、家族と共に過ごすことができるようになったといっても、この社会から差別が完全になくなったわけではありません。患者さんは自宅や近所の集会所でおこなえるような簡単な軽作業はできても、なかなか正式な社員、もしくは労働者として勤めることはむつかしいのです。
その理由は先に述べた、体調のこともありますが、それよりも大きな理由は、HIVに対する就職差別です。雇用者の多くは、HIV陽性の志願者を採用しないということが日常茶飯事なのです。
そういう現状があるので、HIV陽性であることを隠して、就職活動をおこなう感染者の方もおられます。けれども、その地域ではHIV陽性であることを隠すことはできませんし(田舎の村ではすぐに噂が広がります)、都会に出稼ぎに行くようなことをすれば交通費や宿泊費がかかりますし、家族とまったく会えなくなってしまいます。
そして、もうひとつ忘れてはならないのが、HIV陽性であることに対する精神的な不安定さです。いくらタイ人は笑顔が絶えなくて、自殺もしないし、楽天的だといっても(国民全体でみればそうかもしれませんが)、HIV陽性であることを背負って生きていくということは、私も含めた健常者からは想像もできないような苦痛を抱えていることを意味します。
日本でも、例えば、薬剤エイズの被害者の36%が「死んでしまいたい」と答えています(日本経済新聞2006年3月26日)。日本の患者さんは、タイと比べると手厚い保障があるのにもかかわらず、です。
家族の支えによって、この精神的な不安定さがいくぶんか和らいでいるところを、出稼ぎに行くことによって家族から離れなければならなくなるというわけです。
結局のところ、家族から受け入れられるようになったといっても、実際には生活することは依然としてできずに、家族と過ごすことを断念し体調や精神状態を悪化させるリスクを抱えて出稼ぎにいくか、寄付金を頼りにするかしか選択肢がないという人も大勢いるわけです。
さらにこの出稼ぎということには別の問題も孕んでいます。もともと田舎出身でHIV陽性の人というのは、学歴のないことが圧倒的に多いのです(タイでは日本では考えられないほど学歴による就職差別があります)。高い賃金が得られる仕事に就けない人は、男性であれば身体に相当の負担のかかる肉体労働に従事することになりますし、女性であれば、売春に流れることもあるわけです。
HIV陽性の女性が売春をするというのはもちろん問題ですし、その母親の姿をみて、自分が代わりに働かなければと考える10代前半の子供もでてきます(タイでは日本からは考えられないほど子供が親を大切にします)。すると、その子供が女性であれば、やはり売春に流れていくということがあるわけです。
こういった状況を改善するには、行政からの社会保障を手厚くするか、あるいはNPOやボランティアの力を借りざるをえません。前者はすぐには期待することができませんから、直面している問題を解決するためには、NPOやボランティアの役割が依然大きいというわけです。
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|2013年6月15日 土曜日
第28回 急性アルコール中毒② 2006/03/16
前回は、自分の過去の恥ずかしい話も披露して、急性アルコール中毒がいかにキケンかということをお話しました。
今回は、あるひとつの症例をとりあげて、急性アルコール中毒の患者さんに、医療従事者がいかに苦労して対応しているかについてお話したいと思います。
その患者さんは21歳の男性、大学生(仮に佐山さんとしておきましょう)です。
大阪市内のとある病院に佐山さんは救急搬送されてきました。救急隊からの連絡では、かなり泥酔しており、衣服に嘔吐物が付着しているが、血圧や心拍数は正常で重症度はそれほど高くないとのことです。
病院に到着してからも、佐山さんは状況が分かっていないようです。救急車に同伴してきた友人らしき人物も相当酔っています。なんとかベッドでおとなしくしてもらい、点滴をつなぎ様子をみることにしました。ときどき訳のわからないことを口にしますが、少しは自分が申し訳ないことをしたという意識があるのでしょう。「すいません、すいません」と何度も口にしています。
衣服は泥だらけ、嘔吐物だらけですから、外来はかなり汚れてしまいましたが、これは仕方ありません。こんな状況になるのは、急性アルコール中毒の患者さんを受け入れる以上は避けられません。
しばらくすると、佐山さんの「友人」がやってきました。救急車に同伴してきた友人が、自分も泥酔しているために付き添いを交代してほしいと依頼したのでしょう。
この新しく来た「友人」は、お酒を飲んでいないようです。しらふの付き添いが側にいるのは患者さんにとって心強いものです。実際、佐山さんはこの「友人」に「すまんなぁ、ありがとう」と繰り返し話しています。
ちょうどその頃、別の急性アルコール中毒の患者さんが救急搬送されてきました。この患者さん(50代の男性)はなにやら大声で怒鳴っています。誰かとけんかをしていたのかもしれません。「おい、田中はどこや、田中はどこいった!」と大声で叫んでいます。
そのときです。つい先ほどまでおとなしくしていた佐山さんが、むくっと上半身を起こし、「誰が田中や! 俺は佐山や!」と怒鳴りました。「なんやと! お前は関係ないんじゃ。黙っとけ!」「お前、誰にむかって口きいとんじゃ、ボケ!」・・・・・
泥酔しているふたりが口げんかを始めました。とりあえず、救急隊員が新しく搬送された患者さんを、院内のスタッフと付き添いの「友人」が佐山氏をおさえました。
佐山氏はようやく状況を理解したようで再びおとなしくなりました。そして1時間ほど経過した頃、「トイレに行きたい」と言い出しました。
「トイレ」と言われても、佐山氏は相当泥酔していて、ひとりでトイレまで歩けるような状態ではありません。それに点滴をおこなっていますから、途中で外れるようなことがあれば大変です。看護士が、自分が持つ尿瓶に尿をするよう何度も説得し、ようやく佐山氏は同意しました。
ところが、佐山氏はなんとか排尿する姿勢はとるもののなかなか自分のペニスを出そうとしません。尿瓶をもっている看護士が、「恥ずかしくないから大丈夫ですよ」と何度も言うのですが、ペニスを出すまでに5分以上も経過しました。
ようやく取り出したペニスは、いわゆる「包茎」でした。おそらくそれが原因で若い看護士に自分のペニスを見せたくなかったのでしょう。
ようやく排尿を開始した瞬間です
悲劇はこのとき起こりました。ペニスが包茎であったことから、排尿のコントロールが上手くいかず、尿は尿瓶をとらえずに、なんと看護士の顔にかかってしまったのです。それまで笑みを絶やさなかった看護士も、これには我慢ならなかったようです。
「もう、あんたなんか知らんわ! 勝手にしい!」彼女はそう言ってその場を去っていきました。若い看護士が、泥酔した男性患者に尿を顔面にかけられたのです。怒るのも無理はないでしょう。
そのときです。それまでおとなしくしていた佐山氏の態度が急激に変わりました。「なんやと! オレを誰やとおもてんねや!」、そのようなことを口走り突然暴れだしました。点滴を自ら引き抜きました。血液が床にしたたり落ちています。すでにフロアは、さきほどとびちった尿でぬれています。これに血液が加わり、また床に落ちた衣服についた嘔吐物が混ざり合います。もう見ていられない光景です。
看護士が怒ってしまったことに対して、感情を抑えきれない佐山氏の怒りの矛先が次に向いたのは、付き添いの「友人」でした。今度はこの「友人」に襲い掛かりだしました。佐山氏は、身長約180センチ、おそらく体重は90キロはあるでしょう。そんな体格の佐山氏がアルコールで理性を失っているのです。まともに襲われれば危険です。
「友人」は必死で逃げました。佐山氏は泥酔しているわけですから、足元がふらついてもよさそうなのですが、意外にしっかりとしています。このままでは「友人」がつかまるのも時間の問題かもしれません。
身の危険を感じたこの「友人」は廊下に逃げました。ところが、佐山氏も後をおいかけます。真夜中の病院の廊下での追いかけ合いは、相当異様な光景です。おそらくこの「友人」もこの病院に来るのは初めてなのでしょう。玄関から逃げればよいのですが、院内の地理が分かりません。
長い廊下をまっすぐ進むと、不幸なことにそこは行き止まりでした。この「友人」が壁に背を向け立ち止まっているところに、佐山氏は突進してきました。この「友人」には逃げ場がありません
アブナイ! 佐山氏が襲い掛かってくるその瞬間、この「友人」はいちかばちかで身体をふと横にそらしました。
ドシーン! 大きな音とともに佐山氏が壁にぶつかりました。泥酔した上での加減のない突進ですからかなりの衝撃です。まるで、トムとジェリーのワンシーンのように、いったん壁に張り付いた佐山氏はヒラヒラと壁から床に倒れました。
再び意識をなくした佐山氏は、この「友人」と看護士によってベッドにうつされました。
幸い、この壁との衝突で大事にいたることはありませんでしたが、佐山氏は翌日このことを一切覚えていませんでした。このことだけではありません。佐山氏はこの病院に搬送されたこと自体が記憶にないそうです。
さて、この患者さんの話を読まれて皆さんはどのように思われたでしょうか。きっと読まれているうちに、私に対して怒りの気持ちが出てきたのではないでしょうか。
「お前、医者やったら、客観的に観察してる場合やないやろ。看護士や友人がキケンな目にあってるんやから、医師であるお前がしっかりしやなあかんやろ!」きっとそのように思われたことでしょう。
この症例はつくり話などではなく、もちろん実際のものですが、時は1989年2月某日のものです。つまり、私が医師になる遥か以前の話です。では、なぜ、私がこれだけ詳しくお伝えできるかというと、実はここで登場する「友人」が私自身だからです。そして佐山氏は仮名ですが、私の実際の知人です。
急性アルコール中毒に対し、実際に我々がどのような治療をおこなっているかについて簡単にご紹介しておきましょう。
まず、呼吸や血圧などに注意し、外傷がないことを確認し、点滴を開始します。もしも、呼吸状態が悪ければ、万一にそなえて気管挿管の準備をおこないます。念のため血糖値を測定したり、頭部のCTを撮影したりすることもあります。
今回ご紹介した症例(私の思い出?)のように、患者さんによっては、いったんおとなしくなって、意識が戻っているように見えても、その後凶暴化することもあるわけです。この経験があるから、私は急性アルコール中毒の患者さんを診察したときは、たとえ本人が「もう大丈夫です」と言っても、完全に酔いが覚めるまでは帰らずに院内で休んでいてもらうようにしています。
アルコールは、決してあなどってはいけないのです。
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|2013年6月15日 土曜日
第27回 急性アルコール中毒① 2006/02/28
少し前になりますが、急性アルコール中毒で夜間に救急病院を受診した大学生が、帰宅後に死亡し、病院が適切な処置を怠った、という理由での医事紛争がありました。判決では、全面的に原告側の主張が認められ、病院及び担当医師の注意義務違反が立証され、病院側は8800万円(原告側の要求は9000万円)を支払うことになりました。
急性アルコール中毒といえば、夜間の救急外来ではおきまりの疾患のひとつです。この症例のように、ときには命にかかわることもありますし、中毒症状自体が軽症であっても、理性をなくした患者さんが医療従事者に暴言を吐いたり、暴力をふるったりということも日常茶飯事で、我々医師からみれば少々難儀するケースがあります。せっかくつないだ点滴を自ら引き抜いたり、診察室を駆けずり回ったり、と他の患者さんとは趣を異にするのが特徴といえるかもしれません。
そんな急性アルコール中毒の患者さんたちに、私は思い入れがあります。どのような症状で来られようが、患者さんによって差をつけてはいけないというのが、我々医師のルールなのですが、私はどうしても、急性アルコール中毒という疾患に特別の思い入れを持ってしまいます。
それは、私の(医学部でなく以前の)大学生の頃の経験によるものです。
ときはバブル経済真っ盛りの頃、私は関西の私立大学に通っていました。通っていたといっても、大学にはとりあえず籍を置いているという程度のもので、勉強はほとんどせずに、アルバイトや遊びに精を出していたというのが正直なところです。(最近、大学の出席率が上昇しているということがよく言われますが、80年代後半当時は、国全体がお祭り騒ぎをしていたような時代で、授業よりも「遊び」が重要視されていたのではないか、と私は考えています。もちろん大学や学部にもよりますが・・・)
私は、今でこそほとんどお酒を飲みませんが、当時はほぼ毎日、しかも大量に飲んでいた、というか、飲まされていました。実際、お酒を飲んで吐かなかった日はほとんど記憶にありません。もともと私は、お酒は好きではないのですが、当時の関西では、「酒も飲まれへんようなやつは男やない」とか「つがれた酒をイッキにあけないやつはヘタレや」とか、そういうことが言われており、飲まないわけにはいかなかったのです。(時代や地域のせいにするのもよくありませんね。私の性格もあるかと思います・・・。)
で、ともかくお酒を飲まないやつは信用されない、みたいな空気が(少なくとも私の周囲には)ありましたから、なんとしてでも飲まなければならなかったのです。
飲まなければならない、と言っても、飲めないものは飲めません。それで、私を含めたお酒が強くない者がとる道は、「アルコールが身体にまわる前に吐く」というものです。ただ、「吐く」と言っても「トイレで吐いてきます」と言うわけにはいきませんから(そんなことはお酒を拒否するのと同様とみなされ許されません)、なんとか自分が注目されていないような場の空気になるのを待って、タイミングをみて、一気にトイレに駆け込むのです。
しかし、こういう方法もいつもいつもうまくいくとは限りません。ビールだけ、あるいは薄い水割りだけなら、アルコールが身体にまわるのにある程度の時間の余裕がありますが、これが60度以上の焼酎とか、84度のラムとか、96度のウォッカとかになると、もうほとんど瞬間的に酔っ払ってしまいます。
そもそも、96度のウォッカなどは、ボトルに「ストレートで飲まないでください」と表示されているのです。それをストレートどころか、イッキで飲まされていたのですから、今振り返るとゾッとします。
このあたりで、アルコールの致死量についてみていきましょう。
アルコールの致死量は、成人で体重1キロあたり、5~8グラムと言われています。例えば体重50キロの人であれば、50キロ×5グラム/キロ=250グラムですから、アルコール250グラムでも死にいたることがありうるわけです。5%のビールだけを飲んでいたとすれば、X×0.05=250グラムとなり、X=5000グラムとなります。1グラム=1ミリリットルとすると、5000グラム=5000ミリリットル=5リットルのビールを急激に飲めば死にいたるということになります。5リットルといえば、大ビン7本程度でしょうか。
ウイスキーの場合はどうでしょうか。例えば40%のウイスキーでは、Y×0.4=250グラムとなり、Y=625グラム(=625ミリリットル)となり、ちょうどボトル1本程度になります。なんと、ウイスキーボトル1本を急激に飲めばそれだけで死にいたる可能性があるのです。
では、私が学生の頃、無理やり飲まされたことのある96%のウォッカではどうでしょう。Zx0.96=250グラムとなり、Z=260グラム(=260ミリリットル)となります。ほとんどグラス1杯で死にいたるということになります。
もちろん、致死量には個人差があります。お酒の強い人と弱い人では当然これらの数字は違ってきます。実際、患者さんにお話をお聞きしていると、信じられないくらいにお酒に強い人がいます。つい先日、診察した患者さんは、毎日ビールを1ケース(350ミリリットルの缶)飲むと言っておられました。私が聞いた最高記録は、毎日ビール大ビン2ケース!というものです。この方は元力士の方で、結局お酒が原因で肝臓を壊されています。
一方、私のようにお酒が苦手な者は、体重あたり5グラムでも危ない、という意識を初めからもつべきだと思います。
「正しい知識の欠落」とは恐ろしいものです。医師になるなんて微塵も思ってなかった当時の私には、アルコールの致死量なんてことはまったく知りませんでしたし、知ろうと思ったことすらありませんでした。現在、命のあることに感謝しなければなりません。
急性アルコール中毒の症状についてみてみましょう。まず、多くの人が経験的に知っているのは、顔面紅潮(顔が赤くなる)、頭痛、嘔吐、などでしょう。これが重症化すると血圧低下をきたします。さらに重症化すると、意識がなくなってきます。そして意識がなくなり呼吸状態が悪化することもあります。急性アルコール中毒の主たる死因のひとつは、「呼吸不全」です。
臨床的にときどき遭遇するのは、嘔吐物が気管につまり窒息するというものです。意識状態が正常であれば、嘔吐物が気管に入るなんてことは起こらないわけですが、アルコールのせいで意識が朦朧としている状態であればこういうことが起こりうるのです。
また、嘔吐物による窒息や呼吸不全が起こらなかったとしても、意識が朦朧としている状態では、転倒して頭をぶつけ、脳内出血や脳細胞の挫滅が起こることも予想されます。ときに、これらは救急外来での発見が遅れることがあり、命にかかわることもあります。
また、こういった命にかかわるようなことが起こらなかったとしても、意識がなくなるというのは非常に危険なことです。盗難に合う可能性もありますし(実際私も何度か被害にあったことがあります)、もっと凶悪な犯罪に巻き込まれることもあるかもしれません。
私はよく意識をなくし、翌朝、銀行の前で寝ているところを警備員に叩き起こされたり、駅前で浮浪者に起こしてもらったり、あるいは次の店で大騒ぎしていたことの一切の記憶がない、なんてこともよくあり、それらをまるで自慢のように話していた時代がありましたが、今思えば恥ずかしいこと極まりない行為であったと深く反省しています。
一度、「このまま死んでしまうんじゃないか・・・」と思ったことがあります。その日は初めから体調が悪かったのですが、いつものようにトイレで吐いていると、いつのまにか便器に顔をうずめ意識をなくしていました。そして、胃の痛みで目覚めると、トイレが血だらけになっているのに気付きました。かなり大量の血を吐いていたのです。
今思えば、直ちに救急車を呼んででも病院に行くべきだったのですが、当時の私にはそんな意識はありませんでした。しばらくトイレで休憩し、その後ふらつきながらなんとかタクシーで家に帰りました。胃の痛みはしばらく続いて数日間は何も食べることができませんでした。
医学部入学後、ある講義中にこの状態の正体が分かりました。それは「マロリー・ワイス症候群」と言って、主にアルコールで嘔吐を繰り返し、その結果、胃粘膜に亀裂が入り、そこから大量の出血がおこる病態です。確定はできませんが、私が苦しんだ吐血はこの疾患であったのではないかと思われます。この疾患の講義を受けているときに、私は過去の自分のあさはかな行動が恐ろしく、そして恥ずかしくなりました。
このように、恥ずかしく、そしてキケンな行為をしていたため、私には急性アルコール中毒がひとごととは思えないのです。過去の自分に対する反省もこめて、現在は治療にあたっています。
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