のどの痛み(咽頭痛)

「のどの痛みが引きません」と言って受診される人は少なくありません。「のどの痛み」というのは実に様々な原因があり、もちろん治療法も異なります。軽症であれば、市販の風邪薬で様子をみていて解決することも多いのですが、痛みが長引いていたり、これまでにないような痛みであったり、また他に症状が出現してくるようであれば早めに医療機関を受診すべきでしょう。

ここでは、のどの痛みが生じたときにどのような疾患を考えるべきか、について述べていきます。(下記コラムも参照ください)

*のどの痛みは、「感染性」と「非感染性」にわけて考えます。

■感染性の咽頭痛・咽頭炎

◆ウイルス性咽頭炎(グラム染色で炎症所見に乏しく細菌像が認められません)

1.インフルエンザ以外の風邪のウイルス:ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルスなど。これらは通常「軽症」ですみますからこういったウイルスの有無を調べることは普通はありません。

2.インフルエンザウイルス:疑えば迅速抗原検査をおこないます。15分くらいで結果がでます。

3.EBウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど:それほど多いわけではありませんが、稀というわけでもありません。当院でも、年に数例はのどの痛みからこれらの疾患が見つかります。

4.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2):症状が咽頭痛のみという場合もあります。

◆細菌性咽頭炎(まずグラム染色で診断します。重症化すれば抗菌薬が必要になる場合があります

〇「一般的な」細菌感染:溶連菌、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌(インフルエンザウイルスとはまったく異なるもの)など

必要があればペニシリン系、第1世代セフェム系などの抗菌薬を用います。グラム染色でおおまかな細菌の種類と炎症の程度が分かり、抗菌薬が必要かどうかが判定できます。グラム染色は5分程度で結果がわかり、安いこともあり、細菌感染かウイルス感染かを見分けるのに大変便利な検査です。

〇「非定型な」細菌感染:百日咳、マイコプラズマ、クラミジア(ニューモニエ)(注)など

マクロライド系抗菌薬を使うことが多いのですが、最近は耐性化(特にマイコプラズマ)が問題になっています。 ニューキノロン系、テトラサイクリン系を用いることもあります。

参考:毎日新聞「医療プレミア」

クラミジア(クラミドフィラ)には、クラミジア・ニューモニア、クラミジア・シッタシ、ク ラミジア・トラコマティスの3種があります。 クラミジア・シッタシはオウムやインコなど鳥から感染します。クラミジア・トラコマティスは性的接触により感染しますが、痛みがでないのが普通です。このため検査は痛みという「症状」に対してではなく「リスク」に対しておこなうべきで、通常は保険適用がなく自費となります。  また、クラミジアと同様、性的接触で感染しうる淋菌性咽頭炎の場合も無症状であることが多いですから検査は自費となるのが普通です。(ただし感染していた場合は保険診療で治療がおこなえます)

注意:重症化することもあります。 急性喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍などは短時間の間に呼吸困難に陥ることもあり疑えば入院となります。  急速に進行するようなときは気管内挿管をおこなうこともあります。

◆真菌性咽頭炎(稀です。当院には月に1例くらいで、ほとんどがカンジダによるものです)

カンジダ性咽頭炎:ステロイド吸入薬や内服薬を使用している人に生じることがあります。ステロイドの使用がなければ免疫系の疾患(膠原病やHIV)を疑うことになります。

非感染性の咽頭痛・咽頭炎

 ○亜急性甲状腺炎:動悸と甲状腺に圧痛があるのが特徴です。

 ○無顆粒球症:薬の副作用で白血球がつくられなくなり、そのため病原体が感染するものです。
 原因薬剤としては甲状腺機能亢進症に用いるメルカゾールが有名ですが、精神疾患やてんかんに使う薬剤でも起こりますし、頻度はそれほど多くないものの鎮痛薬や胃薬(市販のものも含めて)でも起こりえます。

 ○虚血性心疾患:他の症状でみつかることが多いのですが、最初の症状が「のどの痛み」のことも稀にあります。

 ○悪性腫瘍:高齢者なら咽頭癌、喉頭癌、若い世代なら白血病や悪性リンパ腫ということもあります。

 ○心因性:意外に多く、不定愁訴のひとつということもあります。

 ○花粉・黄砂・大気汚染(PM2.5含む)などによる咽頭痛:非感染性の咽頭痛では最も多いといえます。
参考:はやりの病気第114回(2013年2月)「花粉と黄砂とPM2.5」

 ○その他:外傷、熱傷(煙を吸い込んだ)、異物(魚の骨など)