PEP・PrEP外来、HIVの検査など

<HIVのPEP(曝露後予防)について>


<HIVのPrEP(曝露前予防)について>


抗HIV薬の輸入品について

◆HIV以外のPEPとして、狂犬病、麻疹、水痘、インフルエンザ、破傷風などがあります。

◆HIV以外のPrEPとして、マラリア(マラロン、ビブラマイシン)、各種ワクチンなどがあります。

<当院のHIVの治療(含・自立支援医療)について>

居住地域に関わらず自立支援医療に対応しています。診察を希望される方は、必ず受診前に電話もしくはメールでお問い合わせください。

<当院のHIV陽性者への診療内容>

#1 抗HIV薬の処方

注意:最初の処方時だけでなく、新たに使用を検討するサプリメント・健康食品などがあれば事前に教えてください。安全だと思い込んで使用開始し、トラブルが生じる例が多数あります。特に注意が必要なのが、カルシウム、亜鉛などのミネラル、プロテインパウダーやクレアチンなどの筋肉増強目的のサプリメントです。

参照:抗HIV薬の歴史
琉球大学が作成した「抗HIV薬と他の薬剤、サプリメントとの”飲み合わせ”について」(現在更新中)


#2 HIVに関する採血(CD4陽性細胞数、viral load、肝腎機能など):安定していれは6カ月に一度の頻度で実施します。


#3 他の疾患の診療:生活習慣病、アレルギー疾患、精神疾患、婦人科疾患、皮膚疾患などHIV以外の疾患・病状についても診察いたします。これらは通常の保険診療(通常は3割負担)となります。


#4 合併症の予防

すでにHIV感染はきちんと薬を内服していればAIDSを発症することはなく「死に至る病」ではありません。では、HIVに感染するとどのようなことに気を付けなければならないのでしょうか。次の4つが相当します。

〇 動脈硬化/心血管系疾患の予防:エイズは防げたのに、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患で命を落とすHIV陽性者が少なくありません。禁煙・適正体重の維持、及び生活習慣病の予防が必要です。当院で肝臓の超音波検査、及び頸動脈の超音波検査を定期的に実施します。

〇 腎臓の保護:HIVに感染すると腎臓の血管が悪影響を受け、さらに抗HIV薬も腎臓に負担をかけます。腎臓はいったん悪化すると元に戻すことはできず、最終的には人工透析が必要になることもあります。定期的な検査及び薬(サプリメントも含めて)の見直しが必要です。

〇 HANDの予防:免疫状態が安定していても、HIVに感染すると、HAND(HIV-associated neurocognitive disorders、HIV関連神経認知障害)と呼ばれる認知症を発症するリスクが高くなります。
参考:GINAと共に第117回(2016年3月)「HIVに伴う認知症をどうやって予防するか」

〇 骨折・骨粗しょう症の予防:抗HIV薬の長期使用で骨量が減少することが分っています。なお、これは非感染者のPrEP服用でも同様です。よって、当院で定期的な骨密度の測定をおこないます。

〇 悪性腫瘍/がんの予防:種類にもよりますが、HIV陽性であれば多くのがんのリスクが高いといえます。そこで、下記の対策が必要になります。

肛門がん:HPVワクチン、細胞診、HPV検査などを検討します
肺がん:無症状でも定期的なレントゲン(またはCT)を検討します
胃がん:ヘリコバクター・ピロリ菌の検査をまずおこないます。陰性であればあまり心配はいりません。陽性の場合、専門医に胃内視鏡を依頼します
大腸がん:定期的な便潜血検査が必要です(大阪市の方は当院で市民健診として実施できます)。必要あれば専門医に大腸内視鏡を依頼します
肝臓がん:B型肝炎ウイルス/C型肝炎ウイルスに感染したことのある場合、当院で定期的な超音波検査を実施します
口腔がん・咽頭がん:HPVワクチンを推奨します。異変があれば生検を検討します
陰茎がん:HPVワクチンを推奨します。異変があれば生検を検討します
子宮頸がん・子宮体がん:細胞診(大阪市民の方は400円で当院で実施できます)、HPVワクチン、定期的な経腟超音波を当院で定期的に実施します

〇メンタルコンディション:HIVに感染していなくても、生涯にわたり常にメンタルが安定している人はまずいませんし、HIV陽性となればほとんどの人は抑うつ感や不安感を自覚することがあります。薬を使うかどうかは別にして当院でフォローしていきます。必要に応じて精神科を紹介することもあります

〇感染症とワクチン:きちんと抗HIV薬を服用している限りAIDSを発症することはありませんが、免疫状態に関係なく他の感染症の予防をしなければなりません。ワクチンはB型肝炎の他、A型肝炎、HPVも接種しておいた方がいいでしょう。

<PEP(曝露後予防)について>

<PEP薬剤費>
 診察代が別途必要となります

BIC/TAF/FTC(ビクタルビ後発品)1ボトル(30錠):30,000円(処方代・税込)(*1錠/日 1錠1,100円)

参考:Thailand National Guidelines on HIV/AIDS Diagnosis, Treatment and Prevention 2022/2023該当ページ

(参考)
抗HIV治療ガイドライン2023年版
国立エイズ治療・研究開発センターのPEPのページ

 

感染したかもしれない時点からできるだけ早く抗HIV薬を開始し、28日間内服を継続することで感染成立を防ぐ方法です。従来は「72時間以内に開始」とされていましたが、2020年以降のガイドラインでは「曝露からある程度期間が経過した場合であっても曝露後予防を検討してもよい」とされています。


当院でPEPを実施するのは以下の場合です。
①医療者の針刺し事故(
輸入品の抗HIV薬を使うと労災の適応はありません。先発品を選択された場合は労災適応の見込みがあります)
②性暴力の被害に遭ったとき
③その他、感染の可能性がありやむを得ない場合

●  PEPの対象となるアクシデントが起こった時点より前にHIVに感染している可能性がある場合は、先にHIV迅速検査が必要になります。

サプリメントとの飲み合わせに注意が必要です。特にPEPに用いるインテグラーゼ阻害薬(テビケイ、アイセントレス、ビクタルビなど)はミネラルと同時に内服できません。詳しくは診察時にお聞きください。

参照:琉球大学が作成した「抗HIV薬と他の薬剤、サプリメントとの”飲み合わせ”について」(現在更新中)

日本では、保険適用がなく、費用も高価になるのでこの方法に頼るべきではありません。


「PEPがあるから危険な行為があっても安心」と考えている人がいますがこれは正しくありません。

 

DoxyPEPの問合せが増えています。クラミジア、梅毒、淋菌のPEPで、DOXY200mgを性交後72時間以内に内服します。これら3種の感染を大きく減少させます。HIVのPEPと異なり成功率が高くない上、耐性菌を生むリスクにもなります。”事故”が起こってしまった場合は服用せざるを得ませんが、DoxyPEPを過信して無防備な性行為をもつことは推薦できません。

HIVのPEP(28日)+DoxyPEP+緊急避妊:32,000円(処方代・税込)

参照:医療ニュース2023年4月13日「DoxyPEPを過信するべからず」

 

(参考)
抗HIV治療ガイドライン2023年版
国立エイズ治療・研究開発センターのPEPのページ


 

<PrEP(曝露前予防)について>​

注意:最近、じゅうぶんな理解をせずに、インターネットなどで気軽にPrEPを初めた人のトラブルが相次いでいます。「これまで他院で処方されていたけれど(当院での)説明を聞いて初めて危険性を知って中止した」というケースも多数あります。特に、on demand PrEPは100%成功するわけではないことを知っていなければばりません。また、骨塩量の減少リスクなど注意点を理解せずにPrEPを開始することは避けなければなりません。

・ストレートの女性(及び自身の膣を用いた性交渉をする人)は、デシコビ(及びその後発品)(TAF/FTC)の有効性を米国FDAが認めておらず、ツルバダ(TDF/FTC)のみが適応となります。

・PrEPはHIV感染を防ぐものです。他の感染症の予防はできません。

・B型肝炎ウイルス(HBV)は理論的に防げる可能性はありますが、そのエビデンスはありません。原則として、PrEPを開始するならHBVのワクチン接種が必要になります。また、過去にB型肝炎ウイルスに感染した人はPrEP実施に特別の注意が必要です(このトラブルは非常に多いので注意してください)。

・C型肝炎ウイルス(HCV)には一切無効です。欧州ではHIVのPrEPが普及したせいで、HCV感染が増えたという報告もあります。

・治療の「合併症の予防」で述べたように、抗HIV薬の内服を継続すると、腎機能障害骨量低下のリスクが上昇します。腎機能の定期的なチェックは必ず必要です。また、特に体重が少ない人は長期のPrEP内服で骨粗しょう症のリスクが相当上昇することを忘れてはいけません。当院では必要に応じて骨塩量を計測しています。

・on demand PrEPは米国では推奨されていない予防法です。実際、100%成功するわけではないことは予め理解しておかなければなりません。また、on demand PrEPが有効とする意見の場合でも、使用する薬剤はツルバダ(及びその後発品)であり、デシコビ(及びその後発品)でのon demand PrEPを推奨している国や地域はありません。

<デイリーPrEP薬剤費> 診察代と処方代(650円)が別途必要となります

・TAF/FTC(デシコビ後発)1錠/日x30錠(1ボトル)5,500円/月(税込)

BIC/TAF/FTC(ビクタルビ後発)1錠/日x30錠(1ボトル)29,500円/月(税込)

・TDF/FTC(ツルバダ先発)1錠/日 x 30錠(1ボトル)80,600円/月(税込) 

・CAB(カボテグラビル=ボカブリア)1回600mg(1バイアル)307,160円;最初の2ヶ月は月に1回、その後は2ヶ月に1回

・LEN(レナカパビル=シュンレンカ)1回(2バイアル)3,530,000円/半年

・TDF/FTC(ツルバダ後発)1錠/日:この処方は終了しました

参考:米国の2013年から2023年のPrEPとしての各薬剤の処方人数
JAMA 2024年10月14日Research Letter「Trends in Oral and Injectable HIV Preexposure Prophylaxis Prescriptions in the US, 2013-2023」

◇オンデマンドPrEPとは◇
性行為の2~24時間前に2錠、最初の服用の24時間後に1錠、2回目の服用の24時間後に1錠、合計4錠服用する方法です。費用を抑えることはできますが完全に推薦できる方法ではありませんIPERGAYと呼ばれるフランスでおこなわれた研究では有効性がデイリーPrEPと変わらないという結果となり、「New England Journal of Medicine」に掲載された論文でも有効性・安全性が示されていますが、米国CDCはオンデマンドPrEPをHIVの予防とは認めておらず、FDAは「デイリーPrEPがFDAの承認する唯一の予防法」としています。実際、少数とはいえ失敗例もあります。また、オンデマンドPrEPを推奨する研究でも、女性及びストレート(異性愛者)の男性は適応外とされています。

(参考)
NPO法人GINAウェブサイト「GINAと共に」
第219回(2024年9月)「ツルバダのPrEP認可でPrEPはかえって普及しなくなった」
第214回(2024年4月)「 HIVのPrEPの失敗例」
第184回(2021年10月)「PrEPについての2つの誤解」
第175回(2021年1月)「ついに日本でもPrEPが普及する兆し」
第174回(2020年12月)「PrEPとU=Uは矛盾するのか」
第119回(2016年5月)「PEP、PrEPは日本で普及するか」
第113回(2015年11月)「HIV治療の転換~直ちに投薬、PEP、PrEP~後編」
第61回(2011年7月)「緊急避妊と抗HIV薬予防投与」

毎日新聞「医療プレミア」実践!感染症講義 -命を救う5分の知識
2022年12月5日 HIV 予防薬を毎日飲む人が知っておくべき「三つの問題点」
2016年11月27日 HIV感染、事前も事後も薬で防げるが…

注意:下記の検査の場合は検査代以外に診察代が必要になります。

リスクのあった時点から時間的には次のように考えます。

① リスクの直後~数日以内:曝露後予防(PEP)を検討します。

② NAT(PCR, RNA test)
・NATとはHIVを直接感知する検査法で、リスクがあった時点から14日以降経過していれば正確な結果を得ることができます。

・HIV-1型のみ知ることができます。
・結果が出るまでに5~8日程度かかります(結果をオンライン診療でお伝えすることもできます)
・検査代金は15,400円(税込)です。
・HIV陽性の方がウイルス量を調べる目的でこの検査をおこなうときは保険適用になります。

 第四世代HIV(抗原+抗体)CLIA法
・HIVの1型、2型とも判ります。
・料金は4,400円(税込)です。
・この検査で正確な結果を得るにはリスクのあった時点から3~4週間が経過している必要があります。
・12時30分までに受付(予約制)をされると18時以降に結果がでます。

 第四世代HIV(抗原+抗体)IC法
・17時59分までに受付をされると同日(検査後約1時間後に)結果をお伝えすることができます。(予約制の時間帯の場合、13時30分までの予約が必要になります)18時以降に受付をされた場合は翌日に結果を聞きに来て頂くことになります。

・HIVの1型、2型とも判ります。
・料金は4,400円(税込)です。
・この検査で正確な結果を得るにはリスクのあった時点から3~4週間が経過している必要があります。

 WB法
・他の検査で陽性となったときに確実に感染しているかどうかを知るためにおこなう検査です。保険適用となります。


⑥ELISA法
・感染して1~2カ月程度で正確な結果がわかります。(現在当院ではこの検査は扱っていません)



⑦ PA法
・感染してから3カ月程度経過していれば知ることができる検査方法です。(現在当院ではこの検査は扱っていません)

★HIV検査に関するQ&A

次の質問に対するQ&Aを、NPO法人GINA(ジーナ)のウェブサイトに掲載しています。ご参照ください。

Q1 どんな人が検査を受けるべきでしょうか。
Q2 検査はHIVだけでいいの?
Q3 ゲイであれば必ず検査を受けるべきですか
Q4 風俗嬢は必ず検査を受けるべきですか
Q5 感染してから3ヶ月経たないと検査できないって聞いたんですが・・・
Q6 即日検査はどこで受けられますか
Q7 彼氏(彼女)と一緒に行くべきですか
Q8 もしも自分が(あるいは相手が)HIV陽性だと言われたらどうすればいいですか

★HIV陽性が判ったとき
・精密検査およびエイズ拠点病院の紹介
スクリーニング検査で陽性となった場合、精密検査(WB法もしくはPCR/NAT)をおこないます。精密検査で陽性となれば「確定」と診断し、エイズ拠点病院に紹介します(一部の患者さんは当院で治療もおこなっています)。

抗HIV薬の処方をエイズ拠点病院で実施する場合も含めて、HIV陽性の方のプライマリ・ケアは当院で実施しています。