2024年10月24日 木曜日

2024年10月24日 ピロリ菌は酒さだけでなくざ瘡(ニキビ)の原因かも

 ヘリコバクター・ピロリ(以下「ピロリ菌」)は酒さの原因になっていることがあります(参考:医療ニュース2017年6月2日「ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善」)。すべての酒さに対していえることではないのですが、ときに治療に難渋していた酒さがピロリ菌を除菌することにより劇的に改善することがあります。興味深いことに、これまで谷口医院で酒さの原因がピロリ菌であった人のほぼ全員が胃の症状はまったくありませんでした。

 酒さが治りにくい場合、谷口医院ではピロリ菌の検査を実施しているのですが(患者さんが同意すれば、ですが)、これまでざ瘡(ニキビ)についてはピロリ菌との関連を疑ったことがなく検査を勧めたこともありませんでした。しかし、難治性のざ瘡では検査をする価値があるかもしれません。興味深い研究が発表されたからです。

 研究は医学誌「Archives of Dermatological Research」2024年9月14日号に掲載された論文「ヘリコバクター・ピロリ菌と尋常性ざ瘡:関係はあるか?(Helicobacter pylori and acne vulgaris: is there a relationship?)」で発表されました。

 研究の対象者はエジプトの「Ain Shams大学病院」https://www.asu.edu.eg/healthcareの皮膚科外来を2021年11月~2022年10月に受診したざ瘡の患者45人と年齢・性をマッチングさせた健康ボランティア45人です。ざ瘡の有無とピロリ菌の検査結果は次のようになりました。

           ピロリ菌抗原     ピロリ菌抗体       
ざ瘡患者       26人(57.8%)         9人(20%)
健常人        27人(60%)       14人(31.1%)

 この研究はまだ続きます。ざ瘡の重症例でピロリ菌抗原陽性率がどのように変化するかが調べられました。結果は驚くべきものです。

        ピロリ菌抗原陽性率
軽症        4人/16人(25%)  
中等症        10人/16人(62.5%)
重症         12人/13人(92.3%)

 ざ瘡の程度が重症であればあるほど、ピロリ菌陽性率が高いのは興味深いといえます。
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 過去に同様の研究がないかを調べてみたところ見つかりました。2014年に医学誌「Journal of Medical Sciences」に掲載された論文「重度の尋常性ざ瘡はヘリコバクター・ピロリ感染と関連している:初の文献報告(Severe Acne Vulgaris is Associated with Helicobacter pylori Infection: First Report in the Literature)」です。

 研究は2012年から2013年にイランのタブリーズで実施されました。対象者は75人のざ瘡の患者(軽症25人、中等症25人、重症25人)と25人の健常人です。ピロリ菌感染は次の通りです。

健常者   56%
軽症者   60%
中等症者  72%
重症者   88%

 統計学的な有意差は「重症者」と「健常者」でついています(p=0.01)。

 2つの研究のいずれもが「重症であればあるほどピロリ菌に感染している可能性が高い」という結果を示しています。これらの研究では除菌をすればざ瘡が改善するのかどうかが分かりませんが、既存の治療でよくならない場合は試してみる価値はあるでしょう。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2024年10月17日 木曜日

第254回(2024年10月) 認知症予防のまとめ

 前回のはやりの病気「『コレステロールは下げなくていい』なんて誰が言った?」に対して、質問や感想が大勢届いています。LDLコレステロール(以下、単に「コレステロール」)は多くの人たちに馴染みがあるキーワードのようで、「コレステロールが高いことが認知症の最大のリスクだなんてショックだ」という意見がある一方で、「コレステロールを下げるだけで認知症のリスクが減るならばありがたい」というポジティブな意見まで様々です。そこで今回は認知症のリスクについて再度まとめることを試み、前回に引き続きリスク軽減には何をすべきかについて興味深い研究を紹介したいと思います。

 まずリスクについて。前回のコラムでは「認知症のリスクのうち45%は生まれてから努力したり対策をとったりすることで軽減できる」と述べました。これは逆側からみると「55%はどうしようもない」ということでもあります。なんだ、努力でリスク軽減が図れるのは45%しかないのか……、と感じた人もいるようですが、ここは前向きに考えましょう。この「努力でなんとかなる」割合、2020年版では40%、2017年の論文ではわずか35%とされていたのです。つまり、ほんの7年ほど前までは「認知症になるかどうか3分の2は生まれたときから決まっている」と考えられていたところが、現在は「リスクの約半数は取り除ける」とされたわけですからこの違いはとても大きいと考えるべきです。

 しかしながら55%の”壁”は小さくありません。では55%を占める「変えられないリスク因子」とは何を指すのでしょうか。年齢(高齢であるほどリスクは上昇)、性別(生物学的性が女性であればリスクが高い)などもありますが、やはり最大の原因は「遺伝」、とりわけ本サイトでも何度も紹介しているApoE遺伝子が重要になります。ApoEにはε(イプシロンと読みます)2、ε3、ε4の3つがあり2つ一組で存在します。つまり、すべての人は、ε2・ε2、ε2・ε3、ε2・ε4、ε3・ε3、ε3・ε4、ε4・ε4の6つのうちのどれかを持っていて、この組み合わせは生涯変わりません。3種のεのうち、ε4がアルツハイマーのリスクとなります。

 ApoE遺伝子のε2,3,4は分子生物学的にどのような違いがあるのでしょうか。分子レベルでみれば遺伝子のアミノ酸の配置がわずかに違うだけです。科学誌「Science」2024年9月12日号の「遺伝子の重荷(The burden of a gene)」に掲載されたイラストを紹介しましょう。

 

 アミノ酸が並んでいる部位(コドン)の112番目がε2かε3ならシステイン(Cys)で、ε4はこの部分がアルギニン(Arg)に置き換わっています。もうひとつは158番目で、ε2ならシステインで、ε3と4はアルギニンです。たったこれだけの違いでその人の”運命”が大きく変わるのです。2007年に発表された認知症のリスクに関する論文によれば、ε3・ε3の人がアルツハイマーになるリスクを1とすると、ε3・ε4なら3.2倍、ε4・ε4のリスクはなんと11.6倍にもなります。上述の「Science」にも衝撃的なグラフが掲載されていますのでここに紹介しましょう。ε4を2つ持っていれば(ホモで所有していれば)75歳で8割が、80歳で9割以上が、85歳で95%以上がアルツハイマー病を発症するのです。ε3ε4の場合でも75歳で4割が、80歳で8割が発症します。

 

 遺伝子は変えられないわけですから、識者がメディアの取材に答えるときなどには必ず「遺伝的にリスクが高いからといって必ずしも発症するわけではない。ε4を2つ持っていても90歳を超えてしっかりしている高齢者もいる」といったコメントが採用されます。ですが、Scienceのこのグラフをみれば分かるようにε4が2つの人は90歳になればほとんど100%アルツハイマー病を発症しているわけですから、「しっかりしている高齢者」などは少なくとも数字の上では奇跡的な存在です。

 しかし、そうはいっても諦めるべきではありません。発症すれば仕方がありませんが、少しでも発症を遅らせる努力は必要でしょう。そのために役立つのが前回紹介したLANCETの論文であり、合計14個のリスク回避に務めるべきです。特に中年期以降の認知症のリスクのトップ3「コレステロール」「難聴」「社会的孤立」は最重要だと認識すべきです。若年期の「低教育」も5%を占めるハイリスクですから、もしもあなたが若年期に相当するなら今からでも勉強を始めるのがいいかもしれません。

 ではこれら14項目以外に気を付けるべきことはないのでしょうか。ここでは比較的新しい論文から認知症のリスク軽減に役立ちそうな情報を紹介しましょう。

 まずは手っ取り早い方法としてビタミンDの摂取を考えてみましょう。血中ビタミンD(25(OH)D)濃度が75nmol/L(=30ng/mL)未満の欠乏症になれば、欠乏症でない人に比べ認知症のリスクが2倍高いという研究があります。

 「ナッツを食べて認知症を防ごう!」とする研究もあります。対象は50,386人(平均年齢56.5歳、女性49.2%)の英国在住者で、平均7.1年の追跡調査の結果、ナッツをまったく食べない人と比べると、毎日ナッツを食べる人は、認知症発症リスクが12%低下したという結果が出ています。

 次は「歯」です。歯の数が19本以下になると認知症のリスクが上昇するという研究があります。20本以上の歯がある人と比較して、歯の数が10~19本の人は認知症のリスクが14%増加します。1~9本なら15%、0本の場合は13%の増加です。この結果が興味深いのは、「20本以上か19本以下か」という点が重要で、19本以下になってしまえば、0本でも19本でもリスクがほとんど変わっていないことです。つまり「認知症を防げたければ最低でも20本の歯を守れ」となるわけです。

 ビタミンDはサプリメントで、ナッツはアレルギーがなければ日々のおやつにすることで対策がとれそうです(ビタミンDの血中濃度の計測は自費診療になりますが)。また、歯についても早い段階で歯科医院を受診し、できるだけ「抜かない治療」を心がけることが大切です。この点は少し注意した方がいいかもしれません。どのようなときに抜歯するか、については歯科医院によって考え方が大きく異なるからです。谷口医院では、患者さんから相談されたときには「できるだけ抜かない治療」を実施してくれる歯科医院を推薦しています。

 ここからは認知症のリスクであることは分かっていても回避するのがときに困難な要素を紹介しましょう。研究はともに女性に限定されたもので、認知症のリスクはPTSDとストレスです。「PTSDが中年女性の認知機能を低下させるリスク因子である」ことを示した50~71歳の12,270人の女性を対象とした研究があります。参加者のなかでPTSDの症状があった女性は67%にのぼり、フラッシュバック、悪夢を見る、重度の不安に悩まされる、悲惨な出来事を繰り返し思い出す、気分が変調する、などの症状が多くあった女性は、まったく症状がなかった女性に比べて、認知機能の変化を示すスコアの変化率が著しく悪いことが分かりました。

 1968年に38歳~60歳だった1,415人の女性を35年間追跡調査して認知症のリスクを調べた研究では、中年期にストレスを繰り返し経験していた女性は、そうでない女性に比べて、認知症のリスクが65%高かったことが分かりました。特に強いストレスを経験していた女性は、認知症のリスクが2倍以上に上昇していました。

 PTSDもストレスも本人の努力ではどうにもならないケースが多いでしょうが、これらが認知症の大きなリスクになることは知っておくべきでしょう。

 「認知症を患わないようにする」だけが今後の人生の目標になってしまうのは行き過ぎですが、自身のリスクを把握した上で総合的な対策を立てることが大切です。ただし、ApoE遺伝子の検査については受ける前にじゅうぶんに検討を重ねてください。谷口医院ではこれから配偶者ができる可能性がある、あるいはこれから出産を考えている男女に対しては見合わせるように助言しています。他方、50代以降の男女で受ける人は年々増えています。

 

 

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2024年10月11日 金曜日

2024年10月11日 幼少期に「貧しい地域に住む」か「引っ越し」がうつ病のリスク

 なんともショッキングな研究が発表されました。幼少時に「貧しい地域に住む」あるいはただ単に「引っ越し」をするかの経験があれば成人してからうつ病を発症しやすくなるというのです。

 医学誌「JAMA Psychiatry」2024年7月17日号に掲載された「時間の経過とともに変化する近隣の所得不足、幼少期の転居、および成人期のうつ病リスク(Changing Neighborhood Income Deprivation Over Time, Moving in Childhood, and Adult Risk of Depression)」です。

 研究の対象者は、1982年1月1日から2003年12月31日までの期間にデンマークで生まれ、生後15年間を同国内で過ごした合計1,096,916人(男性563,864人=51.4%)です。統計分析は2022年6月から2024年1月まで実施されました。分析に使われたのは、「出生から15歳までの各年の居住地における近隣所得欠乏指数(neighborhood income deprivation index )」と、「幼少期全体の平均所得欠乏指数(mean income deprivation index)」で、居住地を移動したかどうかについては、「滞在者」の定義を「幼少期全体を通じて同じゾーンに住んでいた個人」、「移動者」は「そうでない個人」とされています。

 結果、追跡調査中に35,098人(女性23,728人=67.6%) がうつ病と診断されました。幼少期に貧困地域に住んでいた人は、うつ病のリスクが10%上昇しました。所得不足が増加するごとに、うつ病のリスクも上昇していることが分かりました。また、近隣の貧困状態とは無関係に、幼少期の引越しは成人期のうつ病発生率を増加させることが分かりました。2回以上の引っ越しでそのリスクは61%も上昇していました。

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 この研究が正しいとして、それが日本にもあてはまるのならば、親がいわゆる「転勤族」で(あるいはその他の理由で)15歳までに引っ越しを繰り返していた場合、うつ病になりやすいということになってしまいます。

 「子育て」に議論を呼びそうな研究です。しかし、すでに成人している人は今さら過去を変えられません。ただ、もしかすると「自分は転勤族の親の元で育ったからうつ病のリスクがあるんだ」と把握することは役に立つかもしれません。どのような疾患でも「自身のリスクを知る」は重要だからです。

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2024年10月3日 木曜日

2024年10月 コロナワクチンは感染後の認知機能低下を予防できるか

 最近は新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)以外の質問や相談が増えているのですが、今月よりコロナワクチンの第8回目の接種が開始されたこともあり、過去1~2週間は再びコロナの質問が増えていて、ほとんどがワクチンに関するものです。谷口医院は過去7回のコロナワクチン接種を見送っていましたが、ついにこの秋から院内で接種を開始することにしました。といっても、適応はかなり絞り込み、こちらから勧めることはほとんどありませんし、また希望されてもすぐに接種できるかどうかは分かりません。このワクチンには充分な問診が必要だと考えているからです。

 初めに「谷口医院ではこれまでやっていなかったのになんで今になってコロナワクチンを始めたのですか?」という質問に答えておきましょう。谷口医院が過去7回のワクチン接種に不参加だったのは、「mRNAワクチンは副作用が未知。アナフィラキシーショックなどが生じたときの対応が困難」と私自身が考えていたからです。薬についても同じことがいえて、谷口医院では発売された直後から処方を開始した薬は過去にもほとんどありません。登場してから「当初は想定していなかった副作用が……」という事態が日本の薬剤の歴史にはいくらでもあるのです。

 ただし、コロナワクチンが重要であることは認識していましたから私自身が集団会場に出掛けて接種していました。そして、実際アナフィラキシーを疑う事例に遭遇したこともあります。会場には止まった心臓を動かす薬やAED(自動体外式除細動器)が準備され、救急車がすぐ近くに待機していました。このような環境でなければ自院でのワクチン接種に手を出すべきではないと考えていたのです。

 そして現在。諸事情から移転を余儀なくされた谷口医院のすぐ近くには偶然にも新しい大きな病院が誕生しました。院内スタッフも緊急事態に対応できるような体制になってきました。今ならたとえ大きな副作用が起こったとしても対処できます。これが谷口医院が今秋からコロナワクチンを開始するようになった理由のひとつです。

 もうひとつの理由は「ワクチンの誤解を解きたい」という気持ちが私のなかで次第に高まってきたことです。繰り返し述べているように、私自身のコロナワクチンに対する見解は「うってもリスク、うたなくてもリスク」です。副作用がこれだけ多いワクチンですから、ワクチンをうつことにリスクがあるのは自明でしょう。

 しかし、コロナワクチンが登場した2021年の時点では、まだコロナは強毒性のウイルスであり、感染すれば日頃健康な人でも死に至る可能性があり、薬がじゅうぶんに揃っておらず、しかも病床逼迫とやらで、感染しても治療を受けることができないおそれすらありました。そんななかで颯爽と救世主のように登場したワクチンはいわば「唯一の武器」だったわけです。しかも国民の8割がうてば”集団免疫”とやらができて未接種者も救われるのだとか……(これを主張していた専門家には是非現時点の見解を述べてもらいたいものです)。

 一方、2024年の現時点では、ウイルスは弱毒化し、内服薬も出そろい(必ずしも効果が高くないという声もありますが、谷口医院での実績をみているとパキロビッドはもちろん、ゾコーバでもかなり効いている印象があります)、病床逼迫で入院できないということもありません。つまり、ワクチンは「唯一の武器」から「数多い対策のひとつ」に成り下がったのです。ならば重篤な副作用が生じるリスクを抱えてまで受ける必要性は大きく低下します。

 しかし、それはコロナを「死に至る病」とみたときの話です。「死ぬか生きるか」という視点で考えればすでにコロナだけに注目する必要はあまりありません。この議論になると必ず出てくる「重症化リスクのある人は……」という話も、「それを言うなら他の呼吸器感染症、インフルエンザやRSウイルスでも重症化するのでは?」となります。

 では後遺症はどうでしょうか。いっときに比べればコロナ後遺症で悩んでいるという声は随分と減りましたが、今もなくはありませんし、最近は「諦めている」人が増えています。どこに行っても治らない、どんな治療を受けても治らない、と考えている人が多いのです。実際には根気よく治療を続けていれば回復していくことが多いのですが、「治療を続ける」モチベーションが維持できず、さらに認知機能が衰えてくることがあり、こうなるとまともな思考ができなくなってしまいます。ここで論文を紹介しましょう。

 2022年4月に公開されたバングラデシュでコロナに感染した401人を対象とした研究によると、感染者の19.2%に記憶障害が認められました。興味深いのは、理由は不明ながら都心部よりも農村部の住民で記憶障害が顕著であったこと、もうひとつは年齢・性別・コロナの重症度と記憶障害の有無に関連がなかったことです。つまり、若年者でもコロナ感染時の症状が軽症であっても記憶障害が起こるときは起こるのです。

 2024年7月のTIMESの記事にも「30代や40代でも、軽度の認知症のような神経認知障害を発症する」とする意見が掲載されています。

 コロナ罹患後の記憶障害は高齢者で顕著だ、とする研究もあります。イタリヤのトリエステの医療機関の外来に通う平均年齢82歳の111人(男性32%)が対象者です。調査期間中31人がコロナに感染し、44人に認知機能低下がみられました。コロナ感染者では認知機能が低下した人が約3.5倍多いという結果がでました。

 これまでにコロナ感染と認知症の関連が調べられた研究を総合的に解析しなおした研究(メタアナリシス)もあります。過去に発表された質の高い11件の研究が解析されています。コロナ感染者が939,824人、対照者が6,765,117人です。コロナに感染すると認知症を新たに発症するリスクが58%増加することがわかりました。

 イギリスでは80万人の成人を対象にオンラインによる認知機能評価が実施され結果が発表されました。やはりコロナに感染するとその後認知障害を発症するリスクが上昇しています。この研究では、感染時に重症であったときに認知症のリスクが上昇しやすいという結果がでています。

 規模は小さいものの、若年者を対象とした非常に興味深い研究が最近発表されました。対象者は若くて健康な過去にコロナに感染していないボランティア34人で、この研究ではなんと人工的にコロナに感染させています。34人中、感染したのが18人(感染しなかったのが16人)で、1人は無症状、残り(17人)は軽症でした。34人は急性期及び、30、90、180、270、360日後に追跡され認知機能検査を受けました(調査期間は2021年3月から2022年7月)。結果、感染したボランティアは、急性期および追跡期間中のいずれの時点でも非感染ボランティアに比べ認知機能のスコアが低かったのです。ということは、コロナに感染すれば急性期には軽症であったとしても、少なくとも1年間は認知機能や記憶力が衰えることを意味します(下記のグラフは一目瞭然です)。

 もちろん、コロナに感染しても認知機能低下どころかまったく何の後遺症も残さない人の方が圧倒的に多いわけですが、上記の若年者の研究も自覚症状があるわけではないことに注意が必要です。認知機能検査が実施されたことで機能が低下していることが判ったのです。これを考えると、やはりコロナは侮ってはいけないと考えるべきでしょう。

 ではワクチンは認知機能低下を予防するのでしょうか。残念ながらそれを検証した報告は見当たりません。ですが、「ワクチンが後遺症を減らす」とした研究は数多くあり、オミクロン株登場以降は感染リスクや重症化リスクはデルタ株までに比べれば効果が低下していると言われていますが、オミクロン株以降も後遺症のリスクを下げるとした研究もあります。下記のグラフをみればそれはあきらかでしょう。

 さて、今秋以降コロナワクチンをうつべきか否か。たしかに登場して間もないレプリコンワクチンは未知数だらけで安全性が担保されているとは言い難いですが、ファイザー製(またはモデルナ製)であれば従来のmRNAワクチンと同様のリスクとみなしていいでしょう。それでも従来のワクチン(mRNAワクチンが登場するまでのワクチン)と比べれば副作用のリスクは桁違いに高いわけですが。また、mRNAワクチンのリスクが背負えないのであれば武田薬品製のワクチンを接種するという方法もあります。こちらは不活化ワクチンですからmRNAワクチンのリスクはありません(ただし、mRNAワクチンに比べて効果はやや劣るとする声もあります)。

 いずれにしても当分の間、ワクチンをうつべきか否かで悩むことになるでしょう。そういう意味でコロナは「まだ終わっていない」のかもしれません。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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