2020年8月30日 日曜日

2020年8月17日 小児のヘディングは禁止すべきか

 コロナ禍でもできること・すべきこととして、私はアウトドアのレジャーやスポーツを推奨しています(参照:「新型コロナ この夏にレジャーを楽しむ方法」)。ただし、スポーツにはリスクが伴うものもあります。それは他者と密接になる競技であり、具体的にはダンスと格闘技になります。

 ではコンタクトスポーツのひとつであるサッカー(football)はどうでしょうか。私はOKだと思います。もっともサッカーでは反則行為などから乱闘になることがあり、こうなると感染のリスクが出てくるわけですが……。そういったリスクを一応考えた上で、自粛を強いられる子どもたちに延び延びとサッカーを楽しんでもらえればと個人的には思います。

 ただし、新型コロナとは関係のない話ですが「ヘディング」は中止すべきかもしれません。

 少し古い情報ですが、BBCが2020年2月24日に報道した「(UKの)サッカー協会、子供にはヘディング禁止を通達」からポイントを紹介します。

 子どもがヘディングを繰り返すと、脳の発達に悪影響を与えるリスクがあるとして、イングランドサッカー協会(FA)が練習でのヘディング禁止を発表しました。スコットランド協会、北アイルランド協会も同様の見解を発表しています。ウエールズ協会だけは正式には発表していませんが、現在検討中とのことです。

 グラスゴー大学の調査によると、元サッカー選手は脳疾患で亡くなる可能性が3.5倍高く、パーキンソン病で死亡する可能性は5倍高いことが示されています。

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 CTE(慢性外傷性脳症)のリスクについてはこのサイトで繰り返し取り上げ、私自身は日ごろの外来で患者さんに伝えるようにしています。もはやCTEという疾患が存在するのは明白であり、目をつぶるわけにはいきません。今まで当たり前のようにできていたことができなくなるのはプレイする側も応援する側も辛いものですが、ここは科学的見解に従うべきです。

 残念ながら日本ではどの競技もCTEについて充分に議論されているとは言えません。CTEは発症してからでは取り返しのつかない疾患です。日本の各スポーツ協会で早く検討されることを願っています。

参考:
はやりの病気第137回(2015年1月)「脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~」
医療ニュース
2019年11月23日「やはりサッカーも認知症のリスク」
2017年8月30日「アメリカンフットボールの選手のほとんどがCTEに!」
2017年3月6日「ヘディングは脳振盪さらに認知症のリスク」
2016年12月26日「未成年の格闘技は禁止すべきか」
2016年10月14日 「コンタクトスポーツ経験者の3割以上が慢性外傷性脳症」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2020年8月24日 月曜日

第204回(2020年8月) ポストコロナ症候群とプレコロナ症候群

 新型コロナが「インフルエンザより少し重い程度」と言われていたのが遥か昔のようです。若くして、しかも基礎疾患(持病)がないのにもかかわらず、心筋炎を発症したり、脳梗塞を起こしたり、あるいは米国の40代の舞台俳優のように足を切断しなければならなくなったり、とインフルエンザとは比較にならないほど重症化するのが新型コロナの実態です。しかし、一方では今も「新型コロナはただの風邪」と考え、自粛やマスク着用に反対する人たちも(医療者のなかにも)いることが興味深いと言えます。

 ただの風邪やインフルエンザと新型コロナが決定的に異なる理由のひとつが「後遺症」です。新型コロナに感染した後、ウイルスは体内から消えているのにもかかわらず、倦怠感、咳、胸痛、動悸、頭痛などが数か月にわたり続くことがあります。私はこれを「ポストコロナ症候群」と勝手に命名しています。ただし、これらの症状が本当に新型コロナウイルスに罹患したことが原因なのかどうか、証拠があるわけではありません。また、日本では新型コロナの検査のハードルが高く保健所はなかなか検査を認めてくれませんから、「あのときの症状はおそらく新型コロナだろう」という推測の域を超えず、現在ポストコロナ症候群と思わしき症状がある人が本当に感染していたのかどうか分からないこともあります。

 ただ、私ひとりがこういった現象があるんだと主張しているわけではなく、世界中で同じような事例が報告されています。例えば、4月から5月にかけてイタリアで行われた研究によれば、新型コロナから回復した患者143人の87.4%が、約2カ月が経過した時点で何らかの症状を呈していました。まったく無症状は18人(12.6%)のみで、32%は1つか2つの症状、55%は3つ以上の症状が認められています。内訳は、倦怠感53.1%、呼吸苦43.4%、関節痛27.3%、胸痛21.7%です。こういった症例は世界中で報告されており、米国のメディア「Voice of America」は「Post-COVID Syndrome」と呼んでいます。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にも現在数名のポストコロナ症候群と思われる患者さんが通院されています。ただ、有効な治療法があるわけではありません。d-dimerという血栓の指標となる数値がしばらく高い人がいますが、この状態で抗血栓療法をおこなうことにはコンセンサスがありません。それに、d-dimerが正常化してからも症状がなくなるわけでもありません。微熱が持続する人もいますが、解熱剤を内服するのが賢明な治療とは言えません。

 今のところ、すべての医療者が「ポストコロナ症候群」の存在を認めているわけではありませんし、機序は不明です。どれくらい持続するのか、悪化してやがて社会生活ができなくなるような可能性はあるのか、といったことも分かっていません。今後の世界からの報告を待つことになります。

 さて、今回紹介したいのは「新型コロナに一度も感染していないんだけれど新型コロナのせいで健康を損ねている状態」で、これをポストコロナ症候群に対して「プレコロナ症候群」と呼んでみたいと思います(私は新しい言葉をつくるのが好きなわけではなく便宜上名前をつけているだけです)。

 感染していないのになぜ健康を損ねるのか。そしてどのような症状を呈するのか。私は3つに分類しています。

 1つは「新型コロナに感染したと思い込んで社会生活ができなくなる状態」です。単なる下痢や客観的にはごく軽度の倦怠感、軽度の喉の痛みなどが出現すると「新型コロナに感染したに違いない」と思い込み、いわば強迫神経症のような状態となり社会活動に支障をきたすのです。

 「なぜ、そういった症状がコロナでないと言えるのか」という疑問があると思います。たしかにごく軽度の症状があり、それが新型コロナによるものだったということはしばしばあります。ですが、すべての軽症例が新型コロナに起因しているわけではありません。彼(女)らのなかには他院で高額なPCR検査を受け結果が陰性だったのにもかかわらず「感度は高くないんでしょ」などと言い、自分は感染したに違いないと言う人もいます。ひどい場合は高額な検査を繰り返し受けようとする人もいます。検査がすべてでないという考えは正しいのですが、検査がすべてでないからこそ医師が総合的に判断するのです。いったん「コロナに違いない」と思い込むと、彼(女)らは自分の考えを修正することができなくなります。

 なかにはまったくの無症状の場合もあります。彼(女)らは、外出先で他人と接したときに「あのとき感染したかもしれない」と思い込み、いったんその思考に陥ると何も手に付かなくなってしまいます。このタイプは責任感の強い真面目なタイプが多く、「無症状の私が他人にうつしてしまったらどうしよう……」という自責の念に駆られます。

 プレコロナ症候群の2つ目は「コロナを恐れて外出を控えたことにより心身が不調となる状態」です。最も分かりやすいのが「コロナ肥満」でしょう。谷口医院の患者さんのなかにも、体重が増え、血圧が上がり、中性脂肪と肝機能が悪化して……、という人が何人かいます。体重や血液検査値という分かりやすいものばかりではありません。生活リズムが崩れ昼夜が逆転し、睡眠障害、さらに不安感、抑うつ感が強くなり、社会復帰が困難になるケースもあります。高齢者の場合は認知症のリスクが上昇します。それだけではありません。ストレスから家庭内の人間関係が悪化することもあり、すでに欧州(特にフランス)ではドメスティック・バイオレンスの報告が相次いでいます。

 プレコロナ症候群の3つ目は「皮膚のトラブル」で、原因はふたつあります。ひとつは「マスク」、もうひとつは「過剰な手洗い」です。

 せっかくアトピー性皮膚炎やニキビが上手くコントロールできていたのに、マスクのせいで悪化したという人はものすごく大勢います。また、それまで顔面の皮膚のトラブルなど経験したことがなかったのに、マスクを常時着用するようになってから湿疹やニキビができたという人も少なくありません。

 しかし、これには対処法があります。ひとつはまずしっかりと治すことです。谷口医院をマスクのトラブルで受診した患者さん(特に初診)のなかには、薬局の薬で余計に悪化させてから来た人もいます。まず短期間でしっかりと治療をおこない完全に治してしまうことが大切です。もうひとつの大切なことは「予防」です。いったん治っても、同じようにマスクを使用しているとかなりの確率で再発するからです。

 ではどうやって再発を防げばいいのか。有効なのは「マスクの使い分け」です。サージカルマスク(不織布のマスク)は、暑いなかで着用していると皮膚が丈夫な人でも痒くなってきます。汗で痒くなって掻いて余計に悪化させている人もいます。また、むれた環境は皮膚の細菌増殖を促し、これがニキビの原因となることもあります。ですから、サージカルマスクの着用時間をできるだけ少なくして、布マスクを使用すればいいのです。

 布マスクで感染予防の効果があるのか、という疑問があると思いますが、例えばCDCはウェブサイトでサージカルマスクが入手できないときは布マスクで代用することを推薦し、手製の布マスクの作り方をイラスト入りで紹介しています。私自身も、外出時は布マスクを使用しています。汗をかいて不快になったときのための予備の布マスク、複数枚のサージカルマスク、それにN-95と呼ばれる医療者用のマスクも携帯しそのときの環境に応じて使い分けています。これらを携帯用のアルコールジェルと共にひとつのポーチに入れて持ち歩いています。私はこのポーチを「コロナセット」と勝手に命名しています(やっぱり私は新しい言葉を作るのが好きなのかもしれません)。

 「過剰な手洗い」で手荒れを起こしている人も少なくありません。コロナウイルスが手から感染することはありませんが、手荒れのせいで皮膚の防御力が弱くなり、他の病原体が皮膚に感染する可能性がでてきます。それに、いくら手洗いをしっかりしても次に何かを触ればそれで”終わり”です。「何か」とは、他人も触れるファイルやパソコン、硬貨、カードなどです。一方、いくら手が汚くても大量にコロナウイルスが付着していたとしても、その手で顔(特に鼻の下)を触らなければ感染することはありえないわけです。ですから手洗いよりも「顔を触らない」に注意すべきなのです。当然のことですが「顔を触らない」を一生懸命に実践しても皮膚にトラブルは生じません。

 ただの風邪やインフルエンザには「ポスト」も「プレ」も(ほとんど)ありません。新型コロナは、感染する前も、感染しているときも、治癒してからもやっかいな感染症なのです。

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2020年8月6日 木曜日

2020年8月 ポストコロナで加速する医療崩壊

 2020年5月、愛知県の大村秀章知事は「医療崩壊が東京と大阪で起きた」と発言し、大阪府の吉村洋文知事は「大阪で医療崩壊は起きていません。何を根拠に言っているのか全く不明です。受け入れてくれた大阪の医療関係者に対しても失礼な話です」とツイッターで反論しました。

 吉村知事が「医療関係者に対しても失礼な話」と言ってくれたことには我々医師は喜ばなければなりませんが、実際には4月の時点で医療崩壊はすでに起こっていました。救急車を要請して救急車が来てくれても搬送先が見つからずに自宅に戻されるケースが増えだしたのです。呼吸苦と胸痛があり救急車を呼んだのに搬送先が見つからず、翌日当院を受診した患者さんは幸いなことに軽症でしたが、こういった症状は早く治療を開始しなければ命を失うこともあり得ます。これが医療崩壊でなくて何なのでしょう。

 そして、医療崩壊は7月になり急速に進行しています。

 当院の電話が鳴りやみません。谷口医院の過去14年間の歴史でこれまで最も電話問い合わせが多かったのが麻疹(はしか)の流行でワクチンが枯渇した2016年の秋でした。ウェブサイトには「ワクチンは谷口医院をかかりつけ医にしている人のみが対象」と目立つように書いたのですが、「なんとかなりませんか」と必死で訴えてくる当院未受診の人が大勢いました。

 7月中旬以降、そのときの状況をすでに上回り、今やパニックといってもいい状態です。私がクリニックに朝到着する6時45分頃の時点ですでに電話が鳴っています。5分から10分に一度くらいの割合でコールが響きます。ただし、電話受付は8時からとしているのでこの時点で私は電話をとりません。

 8時になると息つく暇もなくなります。電話を切れば数秒以内に次の電話が鳴ります。それを延々と繰り返すわけです。他のスタッフに変わってもらう10時半頃までずっと電話で話しているような状態です。

 電話が鳴りやまない原因はもちろん新型コロナです。といっても新型コロナに感染した人たちからの電話ばかりではありません。その内訳を紹介しましょう。

#1 新型コロナに感染しているかもしれないのに診てもらえない

 現在発熱や咳など風邪の症状があると、それだけで受診を拒否する医療機関が増えています。当院ではこういった行き場を失くした人たちをこれまではある程度積極的に診てきました。4月には、かかりつけ医を含めて10軒以上のクリニックから断られ、保健所に相談しても検査を拒否され、遠方からやって来られた患者さんが新型コロナ陽性だった、ということもありました。

 しかし、当院も発熱などの症状がある人を診られるのは1日2人までです。なぜなら一般の患者さん全員に帰ってもらってからでないと来てもらうわけにはいきませんから、午前と午後の診察終了後の1枠ずつしか「発熱外来」の時間がとれないのです。7月上旬頃までは、まだ少し余裕があったので当院未受診の人にも来てもらっていたのですが、風邪症状を訴える人が増えたため現在は当院の発熱外来の対象は谷口医院をかかりつけ医にしている人のみとしています。

 電話ではその旨を伝えるのですが、すんなりと理解してもらえることはあまりありません。なぜなら必死で訴えてくる人たちの多くは当院に電話するまでにすでに何軒からも断られているからです。保健所に相談しても「コロナの検査はその程度ではできないから近くの医療機関を受診するように」とすでに冷たくあしらわれています。なかには声を荒げたり泣き出したりする人もいます。熱があるのにどこも診てもらえない、保健所からは相手にされない……。医療崩壊が進行しています。

#2 無症状だが職場や取引先、学校、帰省先などからコロナの検査を求められている

 すでにいろんなところで指摘されているように新型コロナのPCR検査はキャパシティがあるために無症状の人は希望してもほとんど受けられません。谷口医院では当初はこういった検査を実施するつもりはありませんでしたが、6月上旬に「PCRを受けられないと夫と生き別れてしまうんです!」と主張するある女性からの訴えを聞いて考えを変えました。妙齢のこの女性、東南アジアのある国でご主人と生活していたのですが、2月に自身のみ一時帰国しその後再入国できなくなってしまいました。

 当院でPCRを実施していなかった最大の理由は、無症状者の検査は精度が必ずしも高くないからです(有症状者の場合は現在の大阪市ではクリニックでの検査が正式に認められていません)。しかし、診察室でそんな理屈を言っていても意味がありません。PCRを受けなければご主人と再会できないのですから。ただし、1日の検査枠には上限があります。そこで、検査会社と話をして、①当院をかかりつけ医にしている人、②入国先から求められている海外渡航者、の2つに限定することとしました。よって、職場や学校から求められているという理由での当院未受診の人のPCRは実施できません。

 では抗原検査はどうかというと、この検査も1日にできる検査数には限りがあります。こちらは当院未受診の人も受け付けていますが、すぐに予約が埋まってしまいます。

 検査希望者がすごく大勢いるのにもかかわらず、実施している医療機関はどうしてこんなに少ないのでしょうか。その最大の理由は「検査結果が必ずしも正確でない」と多くの医療者が考えているからです。ですが、当院の経験でいえば、そんなことは多くの患者さんも分かっているのです。それは分かっているけれど、職場や学校から求められているのだから仕方ないでしょ、というわけです。

 よくあるのが、「同じ職場で新型コロナの感染者が出たから自分も検査しなければならなくなった。保健所に相談すると濃厚接触には該当しないから検査できないと言われた」、というものです。このケース、私には「感度が高くなく……」などといった理論を並べるのではなく検査するしかないと思うのですが、どうも多くの医師はそれでも正論を述べるのが好きなようです。

#3 ポストコロナ症候群に苦しんでいる

 ポストコロナ症候群というのは私が勝手に命名した病名です。新型コロナにかかった後(あるいは本当はかかっていないけれどかかったと思い込んだ後)倦怠感、頭痛、動悸、めまい、咳などが続くことを言います。いわばコロナの後遺症です。この人たちは、すでに何軒かのクリニックを受診しています。しかし、「異常がない。気のせいだ」などと言われドクターショッピングを繰り返しているのです。最近はたいてい毎日このような電話がかかってきます。たしかに、積極的な治療法はなく、これを病気と呼べるのか、というケースが多いのですが、患者さんが困っているのは事実です。
 
 以上みてきたように、熱や咳といったコロナを疑う症状があるのにどこからも診てくれない、検査を受けないといけないのに受けられない、ポストコロナ症候群なのにどこからも相手にされない、という悲鳴に近いような訴えを延々と聞いているのが現況です。電話がつながらないので当院をかかりつけ医にしている人も予約が入れられずに困っています。

 医療崩壊はすでに加速しているのです。

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2020年8月6日 木曜日

2020年8月6日 胃薬PPIは新型コロナのリスクになる

 このサイトで繰り返し伝えているように、現在最もよく使われている胃薬であるPPI(プロトンポンプ阻害薬)は、認知症、脳梗塞、骨粗しょう症などのリスクになるという報告があります(詳しくは下記の「医療ニュース」参照)。今回お伝えしたいのは、そのPPIを服用していると新型コロナにかかりやすくなるという研究です。

 医学誌「The American Journal of Gastroenterology」(2020年7月7日オンライン版)に掲載された論文「PPI使用者の新型コロナウイルス感染リスク増加(Increased Risk of COVID-19 Among Users of Proton Pump Inhibitorses)」を紹介します。

 この研究の対象者は米国在住の18歳以上の男女53,130人、調査期間は2020年5月3日~6月24日です。対象者の中で新型コロナウイルスに感染したのが3,386人で全体の6.4%です。感染とPPI内服の相関関係を解析すると、1日1回PPIを飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて2.15倍感染のリスクが上昇し、1日2回飲んでいる人はそのリスクが3.67倍にも上昇することが分かりました。

 では、なぜPPIを服用することにより、新型コロナに感染しやすくなるのでしょうか。論文の著者らは、PPIで胃酸の分泌が減少することによりウイルスに対する抵抗力が弱まる可能性を指摘しています。

 尚、この研究では、PPIと同じように胃の治療に使われるH2ブロッカーとの関係も調べられています。解析の結果、H2ブロッカーは新型コロナ感染のリスクは認められていません。

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 PPIには5種あります。先発品の商品名(かっこ内は一般名)を挙げていくとオメプラールまたはオメプラゾン(オメプラゾール)、タケプロン(ランソプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)、タケキャブ(ボノプラザン)です。日本の保険診療上たいていは1日1回しか認められていませんが、重症例に限っては2回が認められているものもあります。

 この研究が(私にとって)興味深いのは、新型コロナウイルスが消化管から感染する可能性を示唆しているからです。新型コロナでは下痢などの消化器症状も出現しますたが、それは肺の細胞から侵入したウイルスが血流に乗って腸管に移動するからだと考えられています。ですが、この研究はダイレクトにウイルスが消化管に感染することを物語っています。

 過去にも述べたように、日々患者さんを診ているとあまりにも気軽にPPIを内服している人がかなりたくさんいます。といってもその患者さんが悪いわけではなく、前の医療機関で処方されているものを指示通りに飲んでいるだけなのですが。

 太融寺町谷口医院の経験でいえば、PPIに頼っていた人の約8割は多少の生活習慣の改善と組み合わせることでH2ブロッカーに切り替えることができています。現在PPIを内服している人はもう一度リスクを見直してみるのがいいでしょう。

参考:医療ニュース
2019年12月28日「やはり胃薬PPIは認知症のリスクを増やすのか」
2018年9月28日「胃薬PPIで認知症のリスクは増加しない?!」
2018年5月14日「PPI使用で脳梗塞のリスク認められず」
2017年4月28日「胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク」
2018年4月6日「胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに」
2017年1月23日「胃薬PPIは精子の数を減らす」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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