2019年1月31日 木曜日

2019年1月31日 ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない

 厚生労働省の発表では日本人は充分な量が摂れており、サプリメントでの有効性を否定する研究が複数あり(下記「医療ニュース」参照)、また摂り過ぎによる被害の報告も多いのにもかかわらず、なぜか患者さんから相談を受けることの多いのがビタミンDです。

 私が興味深いと思うのは、知的職業につきリテラシーが高く海外に精通しているような人たちが「ビタミンDはサプリメントで摂らないとダメなんですよね」と話すことです。βカロテンによる肺がんやビタミンEの心疾患のリスクなどを知っている人たちでさえビタミンDのサプリメントを「魔法のサプリ」のように思っていることがあり驚かされます。おそらくこの理由は、今から10年ほど前に世界中でビタミンDの有効性を指摘した研究がもてはやされていたからではないでしょうか(本サイトでもビタミンDが有用とする論文を何度か紹介したことがあります)。

 今回は有効性を否定した新たな研究を紹介したいと思います。私の母校の大阪市立大学がおこなったもので、一流の医学誌『JAMA』に掲載されました(これはすごいことです)。タイトルは「Effect of Oral Alfacalcidol on Clinical Outcomes in Patients Without Secondary Hyperparathyroidism Receiving Maintenance Hemodialysis(人工透析を受けていて二次性副甲状腺機能亢進症のない患者に対するアルファカルシドールの効果)」です。

 研究の対象は、日本全国の人工透析を受けている男女976人(中間年齢65歳)で、4年間の追跡調査がおこなわれ、このうち 964人分のデータが解析されています。ビタミンDを投与されたのが488人、されなかったのが476人とほぼ半々です。調査期間中に心筋梗塞や脳卒中などを発症したのは、ビタミンDが投与されていたグループで103人(21.1%)、されていなかったグループでは85人(17.9%)です。死亡率はそれぞれ18.2%、17.9%です。数字だけをみるとビタミンDを内服した方がむしろ発症しやすく死亡しやすいようにみえるかもしれませんが、統計学的に有意差はなくビタミンDが有害と言っているわけではありません。ビタミンDを投与しても心血管疾患の予防にはならないですよ、ということが言えるわけです。

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 実は、人工透析が導入されるとほとんど”無条件”にビタミンDの内服を勧められることが多く、これはビタミンDで心血管疾患が予防できるという「説」があるからです。今回の研究でこの「説」が否定されたことになります。

 ただし、人工透析を続けていると「副甲状腺機能亢進症」と呼ばれる骨が脆くなる疾患をおこすことがあります。こうなるとカルシウム濃度が一気に低下しますから、治療目的でビタミンDが必要になります。

 ところでビタミンDはキノコ類と魚介類(特に肝臓)に多く含まれています。また日光を浴びることにより合成されます。伝統的にこれらを食べ、北欧のような太陽に恵まれない地域でない日本でビタミンDが不足することは通常はありません。健康にいい食事という話題になると、最近は地中海料理がもてはやされ日本食は下火になっていますが、地中海料理と日本食には共通点がいくつもあり、そのひとつがビタミンDを豊富に摂れることだと私は考えています。

 紫外線にはトラブルも多いため、一部の皮膚疾患の患者さんには「紫外線には一生当たらないように」と助言することもありますが、それでも(成人の場合は)通常の食事だけで充分です(成長期には紫外線が必要)。

 例外はヴィーガンと呼ばれる極端なベジタリアンで、この人たちは牛乳や卵を含む一切の動物由来のものが食べられませんから、例外的にビタミンDの補給が必要となります。

参考:医療ニュース
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2019年1月31日 木曜日

2019年1月31日 慢性の痛みへのオピオイドの効果はわずか

 私が現在最も懸念している米国の医療問題は「麻薬」です。昨年(2018年)はカナダで嗜好用大麻が合法化されたこともあり大麻の報道が目立ちますが、(違法)薬物で世界が今最も考えなければならないのは大麻ではなく「麻薬」です。米国の「麻薬汚染」は極めて深刻な状態です。

 米国の平均寿命が3年連続で低下しているのは麻薬が原因と言われており、これは数字を見れば頷けます。具体的な数字をみていく前に言葉の確認をしておきましょう。文脈によってはコカインやLSDなども含めて、あるいは覚醒剤や大麻などすべての(違法)薬物を含めて”麻薬”というような呼び方をすることもありますが、ここで述べているのは本来の麻薬すなわちオピオイドです。ここからは言葉の混乱を避けるために「オピオイド」で通します。オピオイドとはケシの実から抽出された物質やそれに近い合成化合物で、具体的には、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、フェンタニルなどを指します。

 報道によると、2017年1年間で米国でオピオイドによる死亡者は72,000人で毎日200人が死亡していることになります。1999年には16,849人でしたから18年で4倍以上に増えています。2018年の時点でオピオイド依存症は200万人以上と言われています(参考:The Crisis Next Door)。2017年の米国の他の死因をみてみると、交通事故が40,100人、銃での殺人が15,549人、他殺が17,284人(このうちいくらかは銃によるものも含まれているとのこと)、自殺は約45,000人です。

 要するにオピオイドによる死亡は銃による被害や交通事故などよりもはるかに多いということです。

 なぜ、こんなにもオピオイドが消費されるのか。それは関節痛や神経痛といった慢性の痛みにもオピオイドが処方されだしたからです。従来オピオイドはがんの末期に起こる疼痛や手術直後の一次的な痛みに対して用いるものでした。それが、次第に日常的な慢性の痛みにも使われるようになり一気に広がったのです。この原因として製薬会社の責任が指摘されています(下記文献参照)。

 さて、神経痛などの痛みにオピオイドが効果があり、他に手立てがないのなら、注意しながらの使用は検討されるべきでしょう。しかしながら、「効果はあるにしてもそれは極めて小さい」という研究が発表されました。

 医学誌『JAMA』に掲載された論文「Opioids for Chronic Noncancer Pain (A Systematic Review and Meta-analysis)」によると、「オピオイドががん以外の痛みに効くのは事実だが、その効果は他の痛み止めとほとんど変わらない」ようです。

 この研究はこれまでに報告された合計96の研究を総合的に解析(メタ解析)しています。結果、NSAIDs(非ステロイド系鎮痛薬)、三環系抗うつ薬(日本でも痛み止めとして使われます)、抗けいれん薬(これも日本でも使われています)との差はわずかしかないという結果がでました。

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 日本でも過去10年ほどでオピオイドの使用が急激に増えています。米国と同様、がんの末期での使用のみならず、神経痛や関節痛といった慢性の痛みに処方されています。

 太融寺町谷口医院を初めて受診する人に「今飲んでいる薬は?」と尋ねると、オピオイドの名前(トラマール、ワントラム、トラムセットなど)を挙げる人が年々増えています。しかも「危険性を知っていますか」と尋ねて、副作用のリスクや依存性について答えられる人はほとんどいません。

 「日米社会20年遅延説」と呼ばれる説があります。米国で起こったことは20年後に日本で流行するというものです。オピオイドがこれに該当しなければいいのですが…。

参考:GINAと共に
第137回(2017年11月)「痛み止めから始まるHIV」
第151回(2019年1月)「本当に危険な麻薬(オピオイド)」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2019年1月19日 土曜日

第185回(2019年1月) 避けられない大気汚染

 四日市ぜんそくを代表とする大気汚染が社会問題となったのはもはや遠い昔の話で、今や日本は「世界で最も空気のきれいな国」と呼ばれることすらあります。私の知人の外国人は、口をそろえて「東京は空気がきれい」と語ります。東京に限らず日本国内では工場のせいで空気が汚染されていると感じることなどほぼ皆無です。

 一方、海外に行くと空気の汚さに辟易としてしまうことが多々あります。そして、「海外」とは中国や東南アジアだけではありません。欧米諸国であっても東京と比べると空気は汚れていて、それを裏付けるデータもあります。

 医学誌『The Lancet』2018年11月14日号(オンライン版)に「ロンドンの低排気ガス地域における空気の質と子供の呼吸の研究(Impact of London’s low emission zone on air quality and children’s respiratory health: a sequential annual cross-sectional study)」というタイトルの論文が掲載されました。

 この研究の対象はロンドン在住の小学生2,164人です。ロンドンでは2008年に一部の地域が「低排気ガス地域」(low emission zone)に指定されており、そこに住所がある小学生に対し、2009年から2014年に肺の機能と排気ガスの関係が調べられています。

 結果、5年間で肺活量が5%も低下していたことが分かりました。ここで言う肺活量は正確には「努力性肺活量(forced vital capacity)」 で、医療者がFVCと呼んでいるものです。喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)があり、息を吸ったり吐いたりする検査を受けたことがある人はこのFVCという単語を聞いたことがあるかもしれません。簡単にいうと、胸いっぱい空気を吸い込んだところから思いっきり一気に吐き出したときの空気の量のことです。これが5%も低下したというのはとても大きな問題です。老人が長年の喫煙のせいで低下したのなら仕方ありませんが、これは小学生の話です。スポーツで不利になるのは明らかですし、この時期にこれだけの低下があるということは将来、肺の病気のリスクが増加するに違いありません。

 そして、この研究は「低排気ガス地域」でのものです。この地域における微粒子の測定では5年間でわずかではありますが改善しています。つまり空気が少しはきれいになっているということです。にもかかわらず小学生の呼吸機能は低下しているのです。ということは、依然規制がないところではさらに悪化していることが予想されます。

 私はロンドンには90年代後半に一度行ったことがあるだけですが、そのときの記憶では、空気はきれいとは言えないにしても不快極まるとまでは感じませんでした。少なくとも、現在のバンコクやホーチミン、上海などよりははるかにましです。

 太融寺町谷口医院の患者さんは若い人が多いため、出張や観光などで海外に行く人が多数います。そして、喘息や慢性気管支炎がある患者さんのなかに「渡航すると必ず悪化する」という人が少なくありません。実際、世界で最も大気汚染がひどいと言われているインドと中国では、それぞれ年間161万人、158万人が大気汚染により死亡しているという報告もあります。

 IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)の報告によれば、世界では毎年550万人が大気汚染により死亡しています。

 そして、偶然にもこのコラムを書いているとき、WHOが「2019年の世界の10の脅威」(Ten threats to global health in 2019)を発表しました。その筆頭に挙げられているのが「大気汚染と温暖化」(Air pollution and climate change )です。ちなみに残りの9つは、非感染性疾患(Noncommunicable diseases)、インフルエンザの世界的流行(Global influenza pandemic)、脆弱で心許ない環境(Fragile and vulnerable settings)、 薬剤耐性(Antimicrobial resistance)、エボラウイルスなどの高致死率の感染症(Ebola and other high-threat pathogens)、脆弱な公衆衛生(Weak primary health care)、ワクチンへの抵抗(Vaccine hesitancy)、デング熱(Dengue)、HIVです。

 大気汚染と温暖化についてのWHOのコメントをまとめてみます。

・世界の10人に9人が汚染された空気を毎日吸っている

・大気汚染は2019年の最大の環境リスクである

・汚染された大気に含まれる微粒子は肺から吸収され全身に及び、肺疾患の他、心疾患、脳疾患を発症させる。がん、脳卒中などの原因にもなり年間700万人の命を奪っている

・死亡者の9割は低所得もしくは中所得の国に住む人たちである。こういった国の大気汚染は、工業、輸送、農業のみならず、家庭で用いる不衛生なコンロや燃料も原因となっている

・大気汚染は地球温暖化の主たる原因でもある。2030年から2050年の間に、毎年25万人が地球温暖化により生じる疾患、すなわち、低栄養、マラリア、下痢、熱中症などで死亡する

・パリ協定がすべて遵守されたとしても今世紀に3度の気温上昇が生じる

 これを読むと「パリ協定を離脱する」と宣言している”かの大国”に「もう一度考え直してください」と訴えたくなります。

 日本はどうでしょうか。今のところ、冒頭でも述べたように、日本は世界で最も優秀な国とみられています。ですが、毎年春になると黄砂とPM2.5が大陸からやってきます。残念ながら自然にやってくるものに対してはなす術がありません。PM2.5は中国の工業化が主な原因とされていますが、同国に厳しい規制を求めるのは政治マターですから簡単には進まないでしょう。黄砂については砂漠などから自然発生するものですから、政治的に解決できる問題ではありません。

 では我々日本人は大陸からやってくる黄砂やPM2.5に対してどのような対策をとればいいのでしょうか。できるかどうか別にして、リスクが高いのは北・東日本より西日本、太平洋側より日本海側ですから、これらを考慮して居住地を選ぶという考えもでてきます。実際、喘息の患者さんから「福岡に住んでいるときは辛かった」と聞いたことがあります。福岡県の病院を対象とした研究で、黄砂で脳梗塞のリスクが1.5倍にもなるというものもあり、これは過去の記事で紹介しました。

 私は以前から福岡県が好きなので、幾分ひいき目に見てしまうのかもしれませんが、福岡滞在時に大気汚染が気になったことはありません。しかしながら、私の経験で言えば、福岡同様に魅力的な鹿児島で、早朝ランニングをしているときに息苦しくなり、ハードコンタクトレンズをしている目に激痛が走ったことがあります。この原因は黄砂でもPM2.5でもなく「火山灰」です。

 となると、気になるのは鹿児島県での実際の健康被害の報告です。調べてみると、因果関係は分かりませんが、鹿児島県は人口あたりの喘息罹患率が全国2位、脳梗塞は全国7位とするものがあります。脳梗塞については、あの濃い味(でも美味しい!)が主要な原因かもしれませんが、火山灰が原因の微粒子(PM2.5)も関与している可能性があるのではないでしょうか。ただ、個人的には鹿児島はそういったことを差し引いても魅力のある土地だと思っています。ちなみに、どうでもいい話ですが、鹿児島ファンの私は「与論島慕情」を今もフルコーラスで歌えます…。

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2019年1月12日 土曜日

2019年1月 「妊婦加算」の是非

 この通達は”異例”と言っていいでしょう。

 2018年12月28日、厚生労働省は全国の関係者に対し「妊婦加算の取扱い」というタイトルの通達をおこない、2019年1月1日より「妊婦加算を算定してはいけない」ことを決めました。

 妊婦加算は2018年4月から開始となった新しい制度です。妊婦加算の是非を考える前に、まずはこの制度をおさらいしておきましょう。

 妊娠中は非妊娠時に比べ注意点の説明などに診察に時間がかかるからという理由で(おそらく)、2018年4月1日より妊婦加算が導入されました。初診なら220~230円(3割負担の場合)、再診時には110円(同上)の別料金が必要になります。

 導入時には医療機関からは特に反対意見は上がっていませんでした。また、患者側からも特に問題視する意見は聞かれませんでした。しかしそれは当然で、患者サイドとしてはこういった情報を知る術がないからです。

 医療機関から疑問の声が出なかったのはそれなりの理由があるからです。その理由とは「妊娠している患者さんの診察には時間がかかるから」です。もちろん、症例によってまちまちですが、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の例でいえば、妊娠に無関係の女性に比べて、妊娠時には2~3倍くらいの時間がかかることもあります。

 まず体調の変化やもともとの持病が悪化していないかといったことを聞かねばなりませんし、処方する薬が妊娠に影響するかどうか、するとすればどの程度かといったことを理解してもらわねばなりません。さらに、たいていは妊娠中の注意点についての質問を受けます。感染症対策を聞かれることもしばしばあり、特にインフルエンザワクチンの有用性、危険性については毎年何人もの妊娠している女性から質問を受けます。

 ここ数年間、妊娠中にかかってはいけない感染症として風疹がよく取り上げられ、たしかに妊娠前には風疹の説明をすることが多いのですが(ただし風疹だけが重要なのではない)、むしろ妊娠してからは、リンゴ病(伝染性紅斑)、サイトメガロウイルス感染症、トキソプラズマ感染症などについて尋ねられることが多いといえます。トキソプラズマについては「ネコに気を付ける」ことは把握されている場合が多いのですが、肉のタタキなどについてきちんと理解していない人が珍しくありません(参照:はやりの病気第174回(2018年2月)「トキソプラズマ・前編~猫と妊娠とエイズ~」)。

 妊娠中に初めて出現する疾患や症状もあります。蛋白尿や高血圧は産科での定期健診でもチェックされていますが(それでも谷口医院で診療することも多い)、皮疹(湿疹が多い)や便秘などは産科でなく、たいていはこれまでと同様谷口医院で相談されることになります。

 妊娠以外のことで受診されたときに「妊娠しているかもしれません」と言われることもあります。この場合、最終月経や性行為について質問し必要あれば妊娠反応を確認することになります。なぜなら、もしも妊娠していた場合には使えない薬が多数あるからです。そして、妊娠していた場合、診察にはそれなりに時間がかかります。特に、「3日前に風邪薬を飲んでしまった…」といった場合にはかなり時間をとって説明しなければなりません。

 また、患者さんは気づいていなくても妊娠していることがあります。便秘や腹部膨満感の原因が妊娠であった、ということがあり、その場合は妊娠していることを理解してもらい、これからどうするのか(こういう場合「望まない妊娠」であることが多い)について相当長い時間をとって話し合わねばなりません。

 このように妊娠している女性の診察には、場合によってはかなり時間がかかるのは事実です。ですから妊婦加算はそれなりに合理的なものではあります。

 一方、妊婦加算が「合理的でない」理由もあります。

 まず、妊娠している女性に時間がかかるのは上に述べた通りですが、実は「”妊娠前”の女性」の方がむしろ時間がかかることが多いのも事実です。

 「妊娠前の女性で時間がかかる場合」を3つにわけてみましょう。

 1つめは「(避妊をやめて)妊娠を検討している」です。この場合、先述したように、感染症の説明は必須です。ワクチンの説明と接種(風疹以外にも重要なものがいくつかあります)にはそれなりに時間がかかりますが、ワクチンで防げない感染症の説明にはもっと時間をとられます。食事にはどのような注意が必要か、サプリメント(特に葉酸と鉄)はどうすればいいのか、といったことも説明が必要になります。

 2つめは「妊娠を希望しているがなかなかできない」です。なかには40代半ばで相談されることもあります。こういうケースは「不妊治療を実施している医療機関を受診してください」が結論になるわけですが、「不妊治療にはどんなものがあるか」から始まり「危険性は?」「費用は?」「成功する確率は?」「補助制度は?」など、聞かれることも多く、「お勧めのクリニックを紹介してください」と言われることもあります。

 3つめは「望まない妊娠をしてしまったかもしれない」で、これもそれなりに時間がかかります。月経周期から考えてまず妊娠はまずないだろうと思われる場合も、「100%間違いないですか」と問われると、返答に迷うこともあります。「では産婦人科を紹介しましょうか」と言うと躊躇しだす女性も多く、たいていは「いつも診てもらっている医師に大丈夫と言ってもらいたい」というのがホンネのことがあります。

 もちろん、状況によってはすぐに緊急避妊が必要なことがあり、この場合は一刻も早い方がいいわけですから谷口医院で対応します。もっとも、緊急避妊が必要になるときは保険適用にならず診察代も自費になり、妊婦加算とは関係のない話ですが。

 緊急避妊を実施するにしてもしないにしても、薬を処方して終わり、というわけにはいきません。谷口医院の経験上、緊急避妊で受診する人は初回でない、つまり何度も繰り返していることが多いのです。この場合、(嫌がられず説得力のある方法を模索しながら)「同じことを避けるにはどうすればいいか」、という話をせねばなりませんが、それ以前に「緊急避妊に頼ってはいけない」ことから始めなければなりません。「キケンかもしれないことがあってもアフターピルがあれば安心!」と考えている女性が多いことに驚かされます。

 なかにはレイプの被害ということもあります。この場合「セカンドレイプ」にならないようにひとつひとつの言葉を慎重に選ばなければなりません。

 話を戻しましょう。妊婦の診察に時間がかかるのは事実であり「妊婦加算」にはある程度の合理性はあると思います。ですが、ときに”妊娠前”の方がはるかに時間のかかる場合もあります。もっと言えば、不定愁訴や精神疾患にもそれなりに時間がかかりますし、がんの告知をするときも短時間で終わらせるわけにはいきません。

 ならば「不定愁訴加算」「がん告知加算」なども設けるべきでは?という考えもでてきます。また、加算を算定するクリニックとしないクリニックがあれば患者さんは混乱するでしょうし不公平になります。これらを考えると、すべての医療機関で「~加算」をすべて廃止し「どんなことを相談しても診察代は同じ」がいいのではないか、というのが私の考えです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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