2016年3月29日 火曜日

2016年3月29日 帯状疱疹予防にワクチンを

 一般財団法人阪大微生物病研究会(通称「ビケン」)が製造する水痘(みずぼうそう)のワクチンが、2016年3月18日より50歳以上の帯状疱疹予防のために接種することができるようになりました。

 帯状疱疹は、治療開始が遅れた場合、あるいは早期に開始した場合でも、その後長年にわたり強烈な痛みに苦しめられる「帯状疱疹後神経痛」という疾患に悩まされることがあります。原因は水痘(みずぼうそう)のウイルスで、新たに感染するのではなく、子供のとき(成人の感染も珍しくはありません)に感染して体内に潜んでいるウイルスが活性化することによって起こります。

 ウイルスが活性化するのは免疫状態が低下するからです。ならばワクチンを接種してウイルスに対する抵抗力を上げるという考えは理にかなっており、米国などでは随分前から水痘ワクチンによる帯状疱疹の予防が普及しています。高齢になると免疫状態が低下しますから、厚労省が50歳以上に接種を認めたことは適切です。

 しかし、です。免疫力が低下するのは加齢だけではありません。疲労、睡眠不足などでも低下します。実際、太融寺町谷口医院の患者さんの例でいえば、帯状疱疹の患者さんは50歳以上よりもむしろ40代に多いですし、30代でも珍しくありません。なかには20代の患者さんもいます。

 ということは、50歳まで待たなくてももっと早い段階で接種すべきと考えられます(注1)。(実際、私も少し前に接種しました) ただ、50歳未満でワクチンを接種して何らかの副作用(副反応)がでた場合に補償されないという問題はあります(注2)。

 帯状疱疹を起こすような免疫力の低下として、「免疫力を低下させる疾患」があります。悪性腫瘍が多いのですが、谷口医院の例でいえば、若い患者さんの場合は膠原病とHIVが多いようです。したがって、膠原病やHIVがある人は年齢が若くても積極的にワクチンをうつべきです。(ただし、HIVのコントロールが不良な場合や膠原病でステロイドの内服を続けている場合は接種できません)(注3)

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注1:帯状疱疹の予防以前に、水痘にかかったことのない人は、早急にワクチン接種をすべきです。水痘は子供のときに罹患すれば、大多数は後遺症もなく治癒しますが、成人になってから感染すると、命にかかわるような状態にはならないものの、醜い皮膚症状が残り、なかには人目が気になり外出できなくなる人もいます。

注2:よく誤解されるのは、厚労省が承認すれば保険適用になる、というものです。「承認」というのは、保険適用になるわけではなく、ワクチンの被害がでたときに補償の対象になるということです。

注3:これら以外には、臓器移植後や重症のアトピー性皮膚炎などで免疫抑制剤を内服している場合も接種できません。

参考:
はやりの病気第71回(2009年7月)「帯状疱疹とヘルペスの混乱」

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2016年3月28日 月曜日

2016年3月28日 900万人以上もいる「隠れメタボ」に注目すべき

 肥満でないのに高血圧や高血糖などの異常を複数持つ「隠れメタボリックシンドローム」の患者が全国で914万人に上ることを厚生労働省研究班(代表=下方浩史・名古屋学芸大教授)がまとめた。

 これは、2016年3月7日の読売新聞(オンライン版)の報道です。隠れメタボがあると、ない人に比べて心臓病を発症するリスクが1.23倍になるそうです。(なぜか他の全国紙、朝日、毎日、日経、産経などでは報道されていません)

「隠れメタボ」とはどのようなものなのか。簡単にまとめておきます。通称「メタボ」、正式名称「メタボリック症候群」は、一言でいえば、「肥満の程度や健診の数値はたいしたことがないけれど、将来心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系疾患にかかりやすい状態」のことをいいます。

 具体的な診断基準として、まず「腹囲」をみます。男性は85cm以上、女性は90cm以上の腹囲があれば「メタボの可能性あり」とされます。そして、①血圧、②血糖値、③中性脂肪またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)のうち2つ以上で軽度でも異常(注1)があればメタボの確定診断となります。

 今回厚労省研究班が発表した「隠れメタボ」とは、腹囲の基準を満たしておらず、BMI(体重÷身長の2乗)(注2)が25未満であるものの、上記①②③の2つ以上が該当している状態のことを指します。研究班によれば隠れメタボは全国で914万人にも上るそうです。

 この報道、あまり盛り上がっていないようですが(読売新聞以外は報じていません)、私は非常に重要な「問題提起」だと考えています。

 メタボリック症候群という概念を普及させることの意味はたしかにあります。行政としては何らかの診断基準を示して国民に注意を促す必要があるからです。しかし現状は正確な情報が伝わっておらず誤解が蔓延しています。

 最も問題だと思われるのが腹囲の基準です。メタボの基準には「身長」が加味されません。身長を考えずに腹囲だけで判断するわけですから当然正確さは劣ります。次に筋肉量が考えられていないことが問題です。たとえば、同じ腹囲85cmだったとしても、おなかだけポッコリでている人と柔道選手ではまったく異なるわけです。身長も筋肉量も考慮しない「腹囲」にどれだけの意味があるのか、というのが日々生活習慣病の患者さんを診ている私の実感です。

 メタボリック症候群は元々「内臓脂肪症候群」と呼ばれていました。それほど見た目には肥満でなくても内臓脂肪が蓄積し、血圧や血糖などに軽度の異常が伴えば心血管疾患を起こしやすいことから命名された病名であり、重要なのは「内臓脂肪を減らすこと」です。

 内臓脂肪を的確に評価するには腹部CTが適しています。しかしCT撮影で大量の被爆をしてまで計るべきではありません。そこで代替として「腹囲」が採用されているのです。しかし腹囲を絶対視しすぎると内臓脂肪の正確な評価ができなくなります。

 さらに輪を掛けてここ数年私が問題だと考えているのは「ちょいメタボが長生きする」という誤解です。これについては過去のコラムで述べたように大変危険な考えです。少し太っている方が長生きというのは西洋人を対象としたものです。実際、ADA(米国糖尿病学会)は、糖尿病のスクリーニング検査を推奨するBMI値を従来は25としていましたが、「アジア系アメリカ人」の住民については23に設定しなおしています。これは、多くのアジア系米国人が一般的なアメリカ人に比べると、BMIが低くても糖尿病を発症していることを示すデータがあるからです。

 大切なことは「診断基準にとらわれない」ということです。行政はいつも国民全体に目を向けていますから最大公約数としての指針を示します。国民ひとりひとりのことを考えているわけではありません。あなたにとって大切なのは国が発表する基準ではなく、あなた自身とあなたの家族の健康です。腹囲にとらわれない、ちょいメタボが長生きするといったデマにだまされない、今回の発表にあったように隠れメタボが900万人以上もいる、といったことを理解して、気になることがあればかかりつけ医に相談するのが最善です。

注1:正確には、①血圧が収縮期130mmHg以上または拡張期85mmHg以上、②血糖値110mg/dL以上、③中性脂肪150mg/dL以上またはHDLコレステロール40mg/dL未満、です。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が含まれていないことに注意してください。LDLコレステロールは他の値がすべて正常であったとしても、つまり単独で高いだけでも心血管系疾患のリスクとなります。

注2:体重はkg(キログラム)、身長はm(メートル)で算出します。たとえば身長2メートル、体重88kgの人であれば、88÷2の2乗=88÷4=22となります。一般的には25以上を過体重としますが、本文で述べているように、日本人の場合はこれよりも少ない基準で考えるべきです。

参考:医療ニュース2015年1月31日「やはりアジア人は太るべきでない」

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2016年3月19日 土曜日

第151回(2016年3月) 認知症のリスクになると言われる3種の薬

 この薬を飲めば認知症のリスクが上がるかもしれませんよ・・・

 このように言われれば誰もが飲むのをためらうことでしょう。しかし実際には、医療機関で非常にたくさん処方されている薬や、一部は薬局で簡単に買える薬のなかにも、認知症の危険性が指摘されているものがあります。今回は渦中の3種の薬について述べたいと思います。

 まず1つめです。以前から何度も認知症のリスクを上げるのではないかと言われてきたのが「ベンゾジアゼピン」です。「マイナートランキライザー」と呼ばれることもあります。ベンゾジアゼピンは、薬局で買うことはできず、睡眠薬、抗不安薬、抗けいれん薬などとして医療機関で処方されます。精神科医のみに処方されるわけではなく、実際はどの科の医師も処方しています。日本でよく使われるものを商品名(先発品)で挙げると、デパス、リーゼ、ワイパックス、ソラナックス、メイラックス、レンドルミン、エリミン、ベンザリン、サイレース、ロヒプノールなどです。

 なぜ簡単に処方されるのかというと、ひとつには即効性があり、飲めばすぐに効果を実感できるのが最大の理由でしょう。費用も安く、「主観的にイヤな副作用」はあまりありません。つまり、嘔気とか下痢とか蕁麻疹(薬疹)とかいった、いかにも不快な副作用は起こりにくく、患者さんからすればとても便利な薬なのです。

 しかし欠点もあります。最も問題となるのは「依存性」です。飲めばすぐに効くものの、効果が切れれば再び不安・イライラ、不眠などが生じるわけですから、すぐに追加で飲みたくなります。こうして「飲まないと落ち着かない」状態になってしまい薬を手放せなくなります。つまり「薬物依存症」となってしまうのです。(睡眠薬としてのベンゾジアゼピンがいかに危険であるかについては過去のコラムでも指摘しています(注1))

 依存性以外の欠点(副作用)として、ベンゾジアゼピンは筋弛緩作用が強いためにふらつきや転倒のリスクがあることが挙げられます。このため高齢者には原則使ってはいけないことになっており、ガイドラインにもそう書かれています。しかし、実際には多用されているのが現実であり、日本の医師は高齢者にベンゾジアゼピンを使いすぎることがよく指摘されます。転倒で受診された患者さんを診察するとき、証明はできないものの、「その転倒はベンゾジアゼピンを飲んでなければ防げたのではないか」と感じることもあります。

 高齢者の場合は、若年者に比べると薬が効きすぎるという問題もあります。ですから翌日も薬の効果が残っていて、ぼーっとして意味不明なことを言うことがあります。「最近調子がおかしい。認知症でしょうか・・」と言って受診される患者さんのベンゾジアゼピンを減らせば再び元気になった、ということはしばしばあります。つまり、認知症ではなくベンゾジアゼピンが効き過ぎていたために意味不明な言動が起こっていた、ということです。

 医学誌『British Medical Journal』2016年2月2日号(オンライン版)に、「ベンゾジアゼピンは認知症のリスクを上げない」とする研究結果が発表されました(注2)。これまでは認知症のリスクになるとされていた見解を覆す研究ですから、これは注目すべきものです。研究の対象者は合計3,434人、平均追跡期間は7.3年ですから比較的大規模な研究で、信ぴょう性は高いと言えます。

 そして、この研究が興味深いのは「ベンゾジアゼピンを少量使用した人の認知症のリスクは少し上昇し、たくさん使った人にはリスクは認められなかった」としていることです。結論として「ベンゾジアゼピンの使用は認知症のリスクを上げない」とされています。

 なぜ、少量の使用で少しリスクが上がったのでしょうか。これはおそらく認知症の初期に出現する不安やイライラ、不眠といった症状にベンゾジアゼピンが使用されたからではないかと推測できます。また、認知症初期の不安定な時期には副作用のリスクを考慮して少量しか用いられていない可能性があります。そして、認知症初期には、まだ認知症の診断がついていないことが予想されます。つまり、少量のベンゾジアゼピンが認知症のリスクを上げたのではなく、認知症の初期段階ではまだ診断がついておらずこのときに少量のベンゾジアゼピンが使われている、ということです。

 この研究によって、認知症のリスクという「汚名」を着せられていたベンゾジアゼピンの名誉が回復したといっていいかもしれません(注3)。しかし、先に述べたようにベンゾジアゼピンにはやっかいな依存性という問題があり、高齢者の場合はふらつき、転倒のリスク、さらに翌日にも薬の作用が残るという欠点もあります。ガイドラインどおり高齢者にはできるだけ使わないという方針は守るべきですし、依存性を考えれば若年者も決して簡単に使用してはいけません。

 ベンゾジアゼピンについては疑いが晴れたわけですが、その逆に、突然認知症のリスクが指摘され、現在世界的に混乱を招いている薬があります。それは「プロトン・ポンプ・インヒビター(以下PPI)」と呼ばれる胃薬です。日本で名の通った製品名(先発品)は、オメプラゾン、タケプロン、パリエット、ネキシウム、タケキャブなどです。胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず逆流性食道炎にもよく効く薬で、保険適用のルールが厳しい割には比較的よく処方されている薬です。またヘリコバクター・ピロリ菌の除菌にも用いられます。

 医学誌『JAMA Neurology』2016年2月15日号(オンライン版)に掲載された論文(注4)によりますと、高齢者がPPIを使用すると、使用しなかった場合に比べて認知症のリスクが44%も上昇します。

 にわかには信じがたいデータですが、これは対象者の多い大規模研究です。ドイツで2004年~2011年に治療を受けた75歳以上の合計218,493人が研究の対象です。ここから、PPIを定期的には使用していない症例や2004年の段階で死亡したり認知症を発症したりした症例などを除外し、最終的に73,679人が解析の対象となっています。このなかでPPI定期使用者が2,950人、非使用者は70,729人です。追跡期間中に認知症を発症したのが全体で29,510人です。分析すると、PPI定期使用者の認知症のリスクは使用していない人に比べて44%上昇していることが分かりました。

 これはドイツの研究ですが、この結果を軽視できないと考えた「米国消化器学会(American Gastroenterological Association)」は、論文発表3日後の2016年2月18日、「How to Talk with Your Patients About PPIs and Dementia(PPIと認知症の関係について患者さんにどのように話すべきか)」というタイトルで、医師に対する注意勧告をおこないました(注5)。

 これは高齢者が長期間PPIを服用したときの研究であり、短期間の使用や若年者の使用は考慮されていません。ですから、たとえばピロリ菌の除菌が必要な若年者がこの研究を受けて治療を中止するというようなことは避けるべきです。しかし、ドイツのみならず日本も含めて世界各国でPPIの不適切使用は少なくないのではないか、とも言われており、漠然と長期間内服している人は見直してみるべきかもしれません。

 PPIのこの報告は世界中で話題になりましたが、実は以前からほぼ確実に認知症のリスクになるのではないかと言われている薬があります。それは「抗コリン薬」または「抗コリン作用の強い薬」です。

 医学誌『JAMA Internal Medicine』2015年3月号(オンライン版)(注6)に掲載された論文によりますと、抗コリン作用を有する薬を高齢者が使えば使うほど認知症のリスクが上昇し、高用量使用者では非使用者に比べて54%もリスクが上昇するとされています。この研究の対象者は65歳以上の米国人合計3,434人です。

 54%ものリスク上昇。しかも「抗コリン作用を有する薬」というのは、ベンゾジアゼピンやPPIのように医師が処方するものではなく、薬局で気軽に買えるものです。古いタイプの花粉症の薬やじんましんの薬、胃痛・腹痛で比較的よく使われる薬が代表です。睡眠改善薬として薬局で売られているものも該当します。

 もちろん今回紹介した薬のいずれもが、必要なときは使うべきであり、自己判断で中止してはいけません(注7)。「薬の使用はいつも最少量」という原則を守っていればそう心配する必要はないのです。しかし、自己判断で漠然と長期で使うのは危険であることは肝に銘じるべきでしょう。

注1:下記を参照ください。

はやりの病気第148回(2015年12月)「不眠治療の歴史が変わるか」
はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」

注2:この論文のタイトルは「Benzodiazepine use and risk of incident dementia or cognitive decline: prospective population based study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/352/bmj.i90

注3:ただし、ベンゾジアゼピンの認知症のリスクが完全に否定されたわけではありません。危険性を警告した最も有名な論文のひとつが医学誌『British Medical Journal』2014年9月9日号(オンライン版)に掲載されています。タイトルは「Benzodiazepine use and risk of Alzheimer’s disease: case-control study」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/349/bmj.g5205

注4:この論文のタイトルは「Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2487379

注5:下記URLを参照ください。

http://partner.gastro.org/how-to-talk-with-your-patients-about-ppis-and-dementia

注6:この論文のタイトルは「Cumulative Use of Strong Anticholinergics and Incident Dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2091745

注7:本文で紹介したもの以外に認知症のリスクを挙げるとされているものに、前立腺がんに対するアンドロゲン遮断療法があります。これについては下記コラムを参照ください。

メディカルエッセイ第158回(2016年3月)「「がん検診」の是非」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2016年3月19日 土曜日

第158回(2016年3月) 「がん検診」の是非

 がん検診を受けるべきか受けるべきでないか、というのはここ数年間よく話題になりますし、患者さんからもよく質問されることです。今回は、私なりに、この「がん検診は是か非か」についてここ10年ほどの「歴史」を振り返ってみて、ではどうすればいいのか、というところまで述べていきたいと思います。

 がん検診の是非については両極端な考えがあり、患者間のみならず医療者の間でも意見がまとまっていない、というのがひとつめのポイントです。

 両極端な考えの1つは近藤誠先生の「がんもどき理論」です。がんもどき理論とは、「本物のがんは検診では発見することができず発見されたときには助かる術がない。検診で見つかるのは治療不要な<がんもどき>だけ。だから検診は不要」、とするものです。

 近藤誠先生の「がんもどき理論」に全面的に賛成し、この理論を広めようとしている医師を私は知りません。しかし、この理論は世間一般にある程度受け入れられています。ここが近藤先生のすごいところで、同業者の医師にこれだけ批判されながら世間では受け入れられている点は注目に値します。

 がんもどき理論に対し私の見解を述べておくと、少なくとも甲状腺がんの大半についてはがんもどき理論で説明がつくと考えています。(これについては過去のコラムで述べたことがあります)。また、前立腺がんについてもその可能性があるのではないかと考えています(これについては後述します)。

 しかしがんもどき理論を受け入れられないがんもあります。代表は子宮頚がんです。子宮頚がんは定期検診でほぼ100%早期発見できて、早期発見できればほぼ100%助かります。早期発見ができて早期治療をした患者さんに対して「そのがんはがんもどきだから無駄な治療をしましたね」と近藤先生は言われるのかどうか、機会があれば聞いてみたいものです。(これについても過去のコラムで述べたことがあります)

 両極端な考えのもう一方は「腫瘍マーカー」に対する”信仰”です。総合診療(プライマリ・ケア)の現場では、「人間ドックでがんの値が少し高いと言われて心配になって来ました」という訴えが少なくありません。ここで患者さんが言っている「がんの値」というのが腫瘍マーカーです。腫瘍マーカーに対する誤解は過渡期に比べれば少しましになりましたが依然根強くあります。

 腫瘍マーカーとはがんを早期発見できるものではありません。腫瘍マーカーを測定する目的を一言でいえば「がんを発症して治療を受けた人の再発がないかを調べること、または治療できない状態まで進んだ人の重症度を調べること」です。しかも、これらもあくまでも「参考」であり、絶対的なものではありません。そして、がんの早期発見にはまったく無意味です。もしも検診で腫瘍マーカーが高く、その原因が本当にがんであるなら、治療できない状態まで進んでおり「早期発見」とは呼べないのです。

 それだけではありません。「弊害」も少なくないのです。そもそも人間ドックを受ける人というのは健康に対する関心が強く、さらに「もしもがんが見つかればどうしよう・・・」と不安を感じやすい人が多いのです。そして、腫瘍マーカーはあくまでも参考にすぎず、高い値が出てもがんになっているわけではなく(これを「偽陽性」と呼びます)、逆に正常値であったとしてもがんがないとは言えません(これを「偽陰性」と呼びます)。

 不安な人が腫瘍マーカーを調べて高い値がでたとき、それは偽陽性であり心配不要ですよ、ということをいくら説明しても納得してもらえないことがあります。強くなった不安感が冷静な判断を妨げているのです。ひどい場合は、この医療機関で見つからなかったけれど別のところを受診すれば見つかるかもしれない、と考えドクターショッピングを始める人もいます。人間ドックで何気なく受けた不適切な検査がその後の生活に大きな影響を与え、無駄なお金と時間を費やすことになるのです。

 ではすべての腫瘍マーカーががん検診で否定されるのかと言えば、ひとつだけ受けてもいいかもしれないものがあります。それは前立腺がんの「PSA」という腫瘍マーカーです。PSAは長い間、がんの早期発見につながる”唯一の”腫瘍マーカーと呼ばれてきました。しかし、現在ではこの見方も変わりつつあります。
 
 きっかけは2007年9月、厚生労働省の研究班が「PSA検査は集団検診として推奨しない」とするガイドライン案を発表したことです。研究班は、推奨しないとした理由を「PSA検査による死亡率の減少効果が不明であり、さらに精密検査による合併症の危険が高いこと」としています。これに対し泌尿器科学会は反対の声明文(注1)を発表しました。

 そして2012年5月、今度はUSPSTF(米国予防医療サービス対策委員会)が見解を発表しました。「PSA測定は不利益が利益を上回る」として前立腺がんの早期発見にPSA測定をおこなわないように勧告したのです。すると、日本と同じようにやはり米国泌尿器科学会がこの見解に対し反対の意見を公表しました。

 つまり、日本でも米国でも前立腺がんの早期発見にPSA測定が有効か否かというのは政府と泌尿器科学会で意見が正反対ということです。なぜこのようなことが起こるかというと、厚労省やUSPSTFは「国民全体」を見ているのに対し、泌尿器科医は「目の前の患者」を見ているからです。泌尿器科医からすれば、早期発見できれば助かったのに・・・、という症例を経験すると、多くの人にPSA検診をしてほしいと思います。一方、国民全体をみている厚労省やUSPSTFは、全体として死亡率が下がっていないどころか過剰診療につながり、手術の合併症や治療の副作用に苦しむこともあるため推薦できないと考えるのです。

 実際PSA検診が盛んにおこなわれた1990年代の米国では急激に前立腺がんの患者が増えています。以前から、前立腺がん以外の死因で亡くなった死体の解剖をおこなうと約半数に前立腺がんが見つかるということが指摘されています。これは、前立腺がんの多くは治療する必要がない、ということを示しています。前立腺がんは先に紹介した韓国の甲状腺がんの状況と似ていると言えます。

 さらに最近PSA検診の否定につながるかもしれない研究が発表されました。医学誌『Journal of Clinical Oncology』2015年12月7日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によりますと、前立腺がんに対するアンドロゲン遮断療法がアルツハイマー病の発症リスクになるというのです。治療する必要のなかった前立腺がんに治療をおこない、その結果アルツハイマー病を発症することになれば目もあてられません。そもそもPSAなど測定しなければこんなことにならなかったのに・・・、と考えたくなる人もでてくるでしょう。

 現在世界中で物議を醸している論文があります。医学誌『British Medical Journal』2016年1月6日号(オンライン版)に「がん検診はなぜ生存率を上げないのか」という内容の論文(注3)が掲載されました。この論文では、ほぼすべてのがん検診が結果として死亡率を減らせていないことを示しています。従来有効とされていた子宮頚がんや乳がん、胃がんでさえも検診が死亡率低下に寄与していないことをデータが示しているのです。

 ではどうすればいいのでしょうか。私個人の意見を言えば、現在厚労省が推薦している検診は受けるべきです。人間ドックのようにお金をかけるのではなく、市民健診や職場の健診のオプションを利用するのがおすすめです。厚労省が推薦しているのは、大腸がんの便潜血、胃がんのX線(バリウムの検査)及び内視鏡(胃カメラ)、肺がんのX線と喀痰検査、子宮頚がんの細胞診、40歳以降の乳がん(マンモグラフィー)です(注4)。

 ここで注意すべきなのは、先にも述べたように厚労省は「国民全体をみているのであってひとりひとりに注目しているわけではない」ということです。厚労省としては、全体としての費用対効果を最重視します。ごく少数のがん患者を早期発見できたとしても、莫大な費用がかかればその検査は推薦しないわけです。厚労省の推薦している検診以外に、我々ひとりひとりがどのような検査を受けるべきか、また受けるべきでないかという点については、かかりつけ医の意見を聞くのが賢明です。いきなり人間ドックに行って高額な費用を払うのではなく、日頃から目の前の患者さんの医療費を下げることを考えているかかりつけ医にまずは相談するのが一番いいというわけです(注5)。

注1:詳しくは、「「厚生労働省がん研究助成金による「がん検診の適切な方法と評価法の確立に関する研究」班(濱島班)の「有効性評価に基づく前立腺ガイドライン案(2007.9.10)」に対する声明文」を参照ください。

http://www.yokosukashi-med.or.jp/kenshin/psa.pdf

注2:この論文のタイトルは「Androgen Deprivation Therapy and Future Alzheimer’s Disease Risk」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://jco.ascopubs.org/content/34/6/566.abstract?sid=7102d39e-0583-443f-9854-937b6d10ed88

注3:この論文のタイトルは「Why cancer screening has never been shown to “save lives”–and what we can do about it」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/352/bmj.h6080

注4:詳しくは下記を参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000104585_3.pdf

注5:近い将来、がん検診が劇的に変わる可能性があります。現在注目されているのが、国立がん研究センターがすすめている「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」というプロジェクトです。これが実現するとわずか1滴の血液で13種のがんの早期発見が可能となり、2018年度末までに実用化すると言われています。また、ガン独特の臭いに注目した研究も期待されています。ひとつは東京医科歯科大学がおこなっている臭いを感知するセンサーを使って手のひらの臭いからガンの早期発見をおこなう方法、もうひとつは、九州大学理学部がおこなっている線虫に人の尿の臭いをかがせてがんの早期発見をおこなう方法です。これらが実現化すれば現在のがん検診は歴史的転換を迎えるかもしれません。

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2016年3月11日 金曜日

2016年3月 外国を嫌いにならない方法~中国人との思い出~

 私が中国人と初めて本格的にコミュニケーションをとったのは1991年、前回紹介した韓国人女性の話と同じで、やはり商社勤務時代の新入社員の頃です。韓国人のときのように若い女性ではなく、今度は50代の男性です。

 事前に上司から聞いていた情報では、「来日するのは経済省の役人。日本語はできないだろうが、国の任務で来日するのだから英語は堪能なはず」、とのことでした。その役人の任務というのは、私が勤務していた商社の取引先である工場の見学です。日本の技術を学ぶために国の任務として来日する、というわけです。当時の私は英語がダメですし、工場の説明など日本語であったとしてもできません。しかし、工場に行けば、英語のできるスタッフがいるので問題ないとのことでした。その工場には外国人がしばしば見学に来るそうです。

 ということは、私の任務としては、朝ホテルにその中国人を迎えに行き、一緒に電車に乗ってその工場を訪れることと、見学が終われば再び電車に乗ってホテルまで送っていくことだけです。昼食時にはいくらかの雑談も必要になるでしょうが、上司によれば、昼食は工場の応接室でいただくことになるので、英語のできるスタッフも一緒だとのこと。「昼食時くらいは下手くそな英語ででもお前がもてなせ」と上司には言われましたが、当時の私に昼食をとりながら気の利いた話を英語ですることなどできるわけがありません。工場に着いてから出るまではすべて工場のスタッフに任せよう、私はそのように考えました。

 その中国人(ここからはTさんとします)が泊まっていたのは大阪の繁華街の小さなホテルでした。国の役人なんだからもう少し高級なところに泊まればいいのに・・、とおせっかいなことを考えましたが、当時の日中の経済格差を考えれば妥当なのかもしれません。しかし、小さなホテルであったおかげで私はTさんをすぐに見つけることができました。ロビーというよりは歯医者の待合室くらいの空間にいたのはTさんだけだったからです。

 Tさんは私を見かけるとにっこりと微笑んでくれました。よく、中国人は無愛想でウェイトレスもにこりともしない、と言われますが、中国人全員がそういうわけでもなさそうです。初対面の挨拶が大切だ、と考えた私は満面の笑顔をつくり、「グッドモーニング」と言いました。

 ところが、です。Tさんは、笑顔はつくりうなずいてはくれるものの何の返答もありません。年下の者が先に自己紹介すべきだと考え、私は自分の会社名と名前を名乗り、今日は一日お供します、ということを下手くそながら暗記してきた通りに英語で話しました。しかし、依然としてTさんは一言も話してくれません・・・。

 ようやく私は気づきました。そうなのです。Tさんは英語がまったくできないのです。私は焦りました。聞いていた話と違う・・・。しかし、そんなこと言っても何も解決しません。おそらく身振り手振りで工場まで連れて行くことは可能でしょう。しかし、工場に着いてからはどうすべきなのでしょう。英語が堪能な工場のスタッフも中国語はできません。これは困ったと思いましたがとりあえず工場に行くしかありません。私はノートを取り出し「熱烈歓迎」と書いてみました。するとTさんはニッコリ微笑んで初めて何かを話してくれました。しかし中国語など私に分かるわけがありません。この先工場ではどうすればいいのでしょう・・・。

 その日の私は幸運でした。工場で担当者に事情を話すと「何とかなるかもしれない」とのこと。しばらくしてその担当者が連れてきたのはなんと中国人の研修生。今でこそ日本で働く中国人は珍しくありませんが1991年当時、このような中国人研修生は非常に珍しく、実際この工場でも受け入れたのはその研修生が初めてであり、しかも翌日には帰国する予定とのことです。これで私の肩の荷は一気におりました。その研修生は「国の偉い人を日本で案内することになるとは思わなかったが重要な任務を任せられて嬉しく思う」と日本語で話してくれました。工場を出るまで私の役割はまったくなく、タダで昼食をいただいたことを申し訳なく思ったことを覚えています。

 Tさんを無事にホテルまで送りとどけ、私が帰ろうとするとTさんは私の腕をとって引き留めます。どうやら「部屋に来い」とのことです。私は商社勤務時代にいろんな国の人をホテルまで迎えにいったり送ったりしていましたが、後にも先にも「部屋に来い」と言われたのはその一度限りです。

 そのまま帰るわけにはいかないような雰囲気になり、私はTさんと一緒にホテルの部屋に入りました。狭い部屋はベッドが占領し、立っているスペースもないほどです。Tさんは私にベッドに座れ、とジェスチャーで指示します。私より身体の大きい若い男性なら恐怖を覚えたかもしれませんが、Tさんは小柄な初老という感じです。

 大きなかばんの中から小さな箱を取り出したTさんはそれを私に手渡します。それがプレゼントだと気づいた私は、シェイシェイと言いながら箱を開けると、そこにはきれいなデザインでいかにも高級そうなネクタイが入っていました。私が嬉しそうな顔をするとTさんは本日一番の笑顔になりました。シェイシェイと何度も言い私はTさんの部屋を去りました。

 後日、私の発音ではシェイシェイが通じないと中国語に詳しい上司に教えてもらいましたが、このときは通じたのではないかと思っています。話す言葉のコミュニケーションがまるでなかったとはいえ、筆談で3割くらいは通じましたし、丸一日一緒に過ごしたおかげでそれなりの意思表示ができるようになっていたからです。ちなみに、それから25年たった今も私はそのネクタイを使っています。

 この出来事があって数ヶ月後、会社に香港人の若い女性が入職してきました。当時香港はイギリス領でしたから香港人と中国人はライフスタイルが大きく異なっていたはずです。実際、この女性(Cさんとします)もオーストラリアの大学を卒業してから来日しています。英語は堪能で発音は恐ろしいほどきれいです。おまけに日本語も上手とは言えないまでも、それなりに会話はできます。しかも日に日に上達していくのが分かります。英語と中国語を話す外国人が、日本語を、間違えながらも一生懸命に話そうとする姿は大変微笑ましいものです。これは日本語を外国人に教えた経験がある人ならよく分かると思います。
 
 英語が堪能なことをひけらかすこともなく、謙虚な態度で日本語を使って仕事を覚えようとするCさんに否定的な気持ちを持つ社員など誰もいません。それどころか社員全員がCさんをフォローしようという気持ちになっていました。結局Cさんはたしか1年ほどで香港に帰っていきましたがその間Cさんの悪口を言う者は皆無でした。

 筆談で会話をした役人のTさんとオーストラリアの大学を卒業している香港人のCさん。私が初めてコミュニケーションをとった中国人がこの二人だったおかげで、私は中国という国に対して好印象をもっています。もちろんすべての中国人と上手くやっていけるとはまったく思っていませんが。

 香港は私が最も好きな国(地域)のひとつですが、初めて訪れたとき、英語があまりにも通じないことに驚きました。Cさんのような海外の大学を出ている人はごくわずかで、大半の人は英語とは縁の無い生活をしています(注1)。タクシードライバーもほとんど英語ができず香港でタクシーに乗るのは一苦労です。

 私は中国本土に行ったことがないのですが、中国が好きで何度も訪れている人に聞いても、最近は少しましになったとはいえ、日本人との違いに辟易とすると言います。店員はどこも無愛想で、ゲストハウスは明らかに空室があるのに「メイヨー」(無い)と言われるし、列をつくらない中国人に紛れて駅で切符を買うのは本当に苦労する、といった話は何度も聞きました。

 太融寺町谷口医院にも中国人の患者さんは少なくありませんが、「値引きしろ」、とか、「保険証がないから知人の保険証で診てくれ」、などと平気で言う人がいます。なかには、「薬は不要です。安心してください」と伝えると「それなら今日は無料だネ」と言って診察代を払わない人や、(客観的には改善しているのに)「治るのに時間がかかりすぎるから今日はお金を払わない」と言ってクリニックを飛び出していくような人もいます。このような人ばかりをみていると、「中国人は~」と言いたくなることもあります・・・。しかし、もちろんこのような人たちばかりではありません。

 次回は、私が海外で被害に遭った「詐欺」について、そして外国人との話の「タブー」について話したいと思います。
 

注1:世界で最も信頼できるといわれている「英語能力指数(EF EPI 2015)」によりますと、英語を母国語としない国のなかで英語能力のランキングは、香港は33位で日本は30位です。やはり私の実感としてだけでなく香港人は英語があまりできないようです。ちなみに他のアジア諸国をみてみると、韓国27位、台湾31位、タイは62位です。


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2016年3月7日 月曜日

2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下

 このサイトでは過去10年以上にわたり、コーヒーがいかに健康に良いかということを繰り返し伝えています。これは私がコーヒー好きだからではなく(それもあるかもしれませんが)、一流の医学誌に掲載されたきちんとした研究を紹介している結果です。もちろん否定的な研究が報告されればそれも伝えていますが、おしなべて言えば、コーヒーは多くのがんや生活習慣病の予防に有効であることを、いくつもの大規模調査が示しています。今回紹介するのは「コーヒーが膀胱がんのリスクを低下させる」というものです。

 研究は日本の学者によりおこなわれています。宮城県の住民を対象とした2つの大規模調査のデータを解析しコーヒーが膀胱がんのリスクを低下させるという結論が導かれています。論文は医学誌『European journal of cancer prevention』2016年2月12日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 2つの大規模調査とは「宮城コホート研究」と「大崎コホート研究」で、それぞれの追跡期間は17.6年、13.3年です。対象者は合計73,346人、調査期間中に膀胱がんを発症したのは274人です。

 コーヒーを時々飲む人、1日1~2杯飲む人、1日3杯以上飲む人は、まったく飲まない人に比べて、膀胱がんの発症リスクが、1.22、0.88、0.56という結果です。これは、コーヒーを時々飲めば22%リスクが上昇するものの、毎日1~2杯飲めば12%低下し、3杯以上飲めば44%も低下するということを意味します。

 尚、膀胱がんの最大のリスクのひとつに「喫煙」がありますが、この調査は喫煙の有無を考慮して解析しても同様の結果となっているようです。

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 研究ではコーヒーをときどき飲めば逆にリスクが高くなっています。この理由は分かりませんが、3杯以上で44%もリスクが下がっていたというのは注目に値します。コーヒー好き(私も含めて)には嬉しい結果です。紅茶や日本茶との関係も気になるところであり、今後そういった研究も待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「The association between coffee consumption and bladder cancer incidence in a pooled analysis of the Miyagi Cohort Study and Ohsaki Cohort Study.」であり、下記URLで概要を読むことができます・

http://journals.lww.com/eurjcancerprev/pages/results.aspx?txtkeywords=The+association+between+coffee+consumption+and+bladder+cancer+incidence+in+a+pooled+analysis+of+the+Miyagi+Cohort+Study+and+Ohsaki+Cohort+Study.

参考:
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2015年8月28日「コーヒーが悪性黒色腫を予防」
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」

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2016年3月7日 月曜日

2016年3月7日 「睡眠12箇条」の指導手引きが公開

 不眠を訴えて受診される患者さんは少なくありません。そのなかの、全員とは言いませんが多くの方は、「不眠の対処法」について誤った考えを持っています。その代表は「眠くならなくても同じ時間にベッドに入るべき。眠れなくても横になっているだけで健康に良い」というもので、これは間違いです。

「健康日本21推進全国連絡協議会」という民間の団体をご存知でしょうか。この協議会は、2000年に国が開始した「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の趣旨に賛同した民間団体が集合した協議会です。この協議会が2016年2月2日、「健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~ に基づいた保健指導ハンドブック」というものをウェブ上で公開しました(注1)。

 このハンドブックは、2014年3月に厚労省が「健康づくりのための睡眠指針2014」というタイトルで公表していた睡眠の指針をイラストやグラフをふんだんに取り入れて分かりやすく解説したものです。序文に、「この手引きは、 保健師等、睡眠の保健指導に携わる方々が、健康相談や健康教育などの機会に活用することを想定して作成されている」と書かれていますが、かなり分かりやすく編集されているので、指導に携わる人でなく、指導を受ける人、つまり不眠に悩んでいる人が直接読んでも充分に役立つものです。

 手引きのメインは「睡眠12箇条」で、下記のとおりです。

第1条 良い睡眠で,からだも心も健康に
第2条 適度な運動,しっかり朝食,ねむりとめざめのメリハリを
第3条 良い睡眠は,生活習慣病予防につながります
第4条 睡眠による休養感は,こころの健康に重要です
第5条 年齢や季節に応じて,ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を
第6条 良い睡眠のためには,環境づくりも重要です
第7条 若年世代は夜更かしを避けて,体内時計のリズムを保つ
第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに,毎日十分な睡眠を
第9条 熟年世代を朝晩メリハリ,昼間に適度な運動で良い睡眠
第10条 眠たくなってからふとんに入り,起きる時刻は遅らせない
第11条 いつもと違う睡眠には,要注意
第12条 眠れない,その苦しみをかかえずに,専門家に相談を

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 12箇条は「当たり前じゃないの?」と言いたくなるような内容のものもありますが、最後の3つは重要です。特に第10条は注目に値します。冒頭で述べたように、眠れないのにベッドに入り不眠と戦っている人は少なくありません。眠れないときはベッドから起き上がり、好きなことをするべきです。そして眠くなってから眠り、睡眠時間がかなり短くなったとしても翌朝は同じ時間に起きるのが基本です。

 第11条も要注意です。以前にはみられなかった激しいいびきや呼吸停止、手足のぴくつき、足のむずむず感、また眠れているはずなのに日中に眠気や倦怠感が継続する場合は早めに受診した方がいいでしょう。

 最後に、睡眠薬の不適切な使い方をしている人が少なくない、ということを強調しておきたいと思います。多くの睡眠薬は「依存性」と「反跳性不眠」(睡眠薬を飲むことによって飲み始める前よりも不眠の程度が悪化すること)があります。

注1:このハンドブックは下記URLを参照ください。

http://www.kenkounippon21.gr.jp/kyogikai/4_info/pdf/suiminshishin_handbook.pdf

参考:
はやりの病気第148回(2015年12月)「不眠治療の歴史が変わるか」
トップページ 「不眠を治そう」

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2016年3月1日 火曜日

2016年2月29日 水道水には多数の「良い細菌」

 水道水には多数の細菌が存在している、と言われればどう感じるでしょうか。意外ですが、これはどうも事実のようです。

 水道水には1mLあたり8万もの細菌が存在している・・・

 このような衝撃的な知見が発表されました。スウェーデンの名門大学ルンド大学が2015年12月16日付けのプレスリリース(注1)で公表しました。

 従来、細菌の観察は顕微鏡を用いておこなう方法が主流でしたが、現在は「DNAシーケンシング」(DNA sequencing)といって遺伝子レベルで細菌を検出する方法や、フローサイトメトリー(flow cytometry)と呼ばれるレーザー光を流体に当てることにより生じる蛍光を検出する方法などが用いられるようになってきました。同大学では、これら最新の器機を用いて水道水及び水道管の内側にできる”膜”(「バイオフィルム」と呼ばれます)を分析しました。その結果、多数の「良い細菌(good bacteria)」が存在していることが判ったのです。

 この見解は、大学のプレスリリースだけでなく医学誌『Microbes and Environments』2015年2月21日号(オンライン版)(注2)に掲載され、研究の詳しい手順も紹介されています。

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 水道水は無菌とは言えないけれど飲めるくらいには菌の量が少ない、と従来は考えられていました。実際、厚労省の「水質基準項目と基準値」(注3)には、水道水は「1mlの検水で形成される集落数が100以下」にしなければならないと規定されています。ここでいう「集落数」とは「細菌の塊」で、顕微鏡で観察されるレベルのものです。

 ところで、この研究で見落としてはならないことは、これはスウェーデンの水道水を対象としているということです。世界で水道水を飲める国というのはごくわずかしかありません。この研究では「良い細菌」が水道水に多数存在していることが明らかになりましたが、同じ研究を世界の大半の国でおこなえば違った結果になるはずです。日本もスウェーデンと同様、水道水が飲める稀な国ですから、おそらく今回の研究と似たものになると予想されます。

「良い細菌」がいてくれるおかげで「悪い細菌」が存在しづらくなり水道水がきれいな状態を保てているのでしょう。似たようなことは我々の腸内細菌についても言えます。どうやら我々は「良い細菌」に感謝しなければならないようです。

注1:このニュースリリースのタイトルは「WATCH: Our water pipes crawl with millions of bacteria(注目:水道管には大量の細菌)」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.lunduniversity.lu.se/article/our-water-pipes-crawl-with-millions-of-bacteria

注2:この論文のタイトルは「Bacterial Community Analysis of Drinking Water Biofilms in Southern Sweden」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/30/1/30_ME14123/_article

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

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